説明

トーションレース機

【課題】タイミングの狂いによる隣接したロータメタルの衝突や、オペレーターの作業服の絡み付きや、切れた糸がスピンドルへ絡み付いてスピンドルに回転障害が生じたときにおいて、トーションレース機の停止、ロータメタルの損傷防止、ロータメタルに回転を伝達している各種部品のダメージの軽減、柄崩れの防止などの処置が即座に取れるようにしたトーションレース機を提供する。
【解決手段】本発明に係るトーションレース機は、基台1に所定間隔をもって環状に配された立軸2に水平方向に回転可能に嵌合したロータメタル3を駆動するための横軸4に、原動部からの動力を伝達する伝達ギア6を設け、該伝達ギアの軸芯部を、横軸伝達側と原動部伝達側とに分割し、その分割面に横軸側からの負荷には原動部側がバネ圧に抗して上動し、原動部側からの負荷には一体化するカムを形成するとともに、前記伝達ギアの上動を監視するセンサーを設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルランナーを移動させるロータメタルの回転障害を生じさせる各種の原因に対応し、ロータメタルに回転を伝達している各種部品のダメージの軽減、柄崩れなどが未然防止できるようにしたトーションレース機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にトーションレース機は、特開平8−284051号の如く、ロータメタルを同一円上に配し、該ロータメタルの円弧凹部の間にスピンドルランナーを介在させ、各ロータメタルがその左右に隣接するロータメタルの向かい合う円弧凹部内で180°回転させてスピンドルランナーを入替的に1ステップ移動させるようになっている。
【0003】
上記スピンドルランナーを数ステップ連続して移動させる場合、図5の如く、aの位置にある一つのスピンドルランナーSは、ロータメタルAが矢印の如く右方向へ180°回転することによって破線矢印A′の軌跡(内回り)を通って1ステップ移動してbの位置になる。この場合、元々、bの位置にあったスピンドルランナーS′はaの位置に入れ替わるように移動する。次いで、ロータメタルBが、矢印の如く左方向へ180°回転すると、前記スピンドルランナーS′は、bの位置から破線矢印B′の軌跡(外回り)を通って1ステップ移動して、cの位置になる。続いて、ロータメタルCが矢印の如く右方向へ180°回転すると、cの位置から破線矢印C′の軌跡(内回り)を通って1ステップ移動して、dの位置になる如く順次繰り返される。
【0004】
上記トーションレース機では、一つのロータメタルは、その左右に隣接するロータメタルが円弧凹部を向かい合わせて停止させている間に、180°回転させてスピンドルランナーを、入替的作動を繰り返しているものであるが、常に、一つのロータメタルと、これに隣接するロータメタルの停止角度とが、タイミング良く連繋して行われることが重要であり、このことは、特に、ロータメタルの回転方向を任意に選べるトーションレース機では重要である。このタイミングの狂いはロータメタルの衝突による回転障害を生じさせることとなる。また、スピンドルランナーに搭載した多数のボビンから引き出され、レース形成部に集められた糸の糸切れが発生し、これを修復するオペレーターの作業服の一部がスピンドルなどに巻き込まれて起こる回転障害や、或いは、切れた糸がボビンスピンドルに蜘蛛の巣のように絡み付いて起こる回転障害等もあった。
【特許文献1】特開平8−284051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ロータメタルの衝突により起こる回転障害や切れた糸の修復中に起こる回転障害、或いは、切れた糸がボビンスピンドルに絡み付いて起こる回転障害等において、ロータメタルの回転が強制的に停止させられた場合、ロータメタルに回転を伝達している各種部品に大きな障害(ダメージ)を与えることとなる。したがって、上記ダメージなどを可及的に軽減させることが必要であったが、現状では、その有効な軽減処置がなかった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、タイミングの狂いによる隣接したロータメタルの衝突により起こる回転障害や、オペレーターの作業服の一部がスピンドルなどに巻き込まれて起こる回転障害や、切れた糸がスピンドルへ絡み付いて起こる回転障害などに即時に対応してロータメタルに回転を伝達している各種部品のダメージの軽減、柄崩れなどの未然防止処置が取れるようにしたトーションレース機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るトーションレース機は、基台に所定間隔をもって環状に配された立軸に、水平方向に回転可能に嵌合したロータメタルを駆動するための横軸に、原動部からの動力を伝達する伝達ギアを設け、該伝達ギアの軸芯部に、横軸連繋側と原動部連繋側との分割面を設け、該分割面に、横軸側からの負荷には原動部連繋側がバネ圧に抗して上動させ、原動部連繋側からの負荷には一体化するカムを形成するとともに、前記原動部連繋側の上動を監視するセンサーを設けたことを特徴とし、原動部側の付加には正常に伝達を継続させ、ロータメタル側のトラブルに対しては、伝達ギアの軸芯部のカム作用により伝達を中止してロータメタルに回転を伝達している部品に大きなダメージなどを与えないように構成した。
【0008】
また、請求項2に記載の発明に係るトーションレース機は、前記カムが、スロープと段部を形成したものであることを特徴とし、ロータメタル側からの負荷にはスロープ同士が滑って乗り上げさせてカム作用を中止し、原動部側からの負荷には伝達状態にそのまま維持できるように構成した。
【0009】
さらに、請求項3に記載の発明に係るトーションレース機は、前記センサーが、原動部に停止信号を出力するものであることを特徴とし、ロータメタルの衝突や切れた糸の修復中に起こる回転障害などが生じたときは即時に機械を停止できるように構成した。
【0010】
さらにまた、請求項4に記載の発明に係るトーションレース機は、前記バネが、前記伝達ギアの軸芯部に嵌められたスラストベアリングと、前記軸芯部の頂面から立ち上げた延長軸の上端鍔との間に介装されていることを特徴とし、軸芯部の分割面に形成したカムのカム作用が常に維持できるように構成した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原動部側からの付加に対してロータメタルに正常な回転を伝達できる一方、ロータメタル側のトラブルのときは、伝達ギアの軸芯部に形成したカムが外れて伝達を中止し、ロータメタルの回転を伝達している各種部品に大きなダメージを与えないようにした。したがって、一つのロータメタルと、その左右に隣接するロータメタルとの衝突により起こる障害や、オペレーターの作業服の一部がスピンドルなどに巻き込まれて起こる回転障害や、切れた糸がスピンドルへ絡み付いて起こる回転障害などがあっても、ロータメタルを駆動するための横軸に伝えていた大きな力が瞬間的に軽減でき、しかも、伝達ギアの軸芯部のカムが外れてカム作用が中止されたことの監視が可能となるなど、各種の優れた効果を奏するものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、ロータメタル側からの負荷にはスロープを滑って乗り上げ、原動部側からの負荷には伝達状態を継続して保持するため、ロータメタルの衝突や、オペレーターの作業服のスピンドルへの絡み付きや切れた糸のスピンドルへの絡み付きなどにおいて起こるスピンドルの回転障害に、迅速かつスムーズに対応できるという優れた効果を奏するものである。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、ロータメタルの衝突や切れた糸の修復中に起こる回転障害などが生じたときは、即時に機械を停止でき、柄崩れなどを生じさせる虞がないという優れた効果を奏するものである。
【0014】
さらにまた、請求項4に記載の発明によれば、伝達ギアの軸の分割面に形成したカムが互いに噛み合う方向に力が掛かっているため、ロータメタル側のトラブルに対する反応が極めて速いという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態を説明する。図1はロータメタルの駆動部を示す側面断面図、図2はロータメタルを駆動する横軸に原動部の動力を伝達する機構を示す拡大断面図、図3はカムの説明図、図4はセンサー感知時の拡大断面図、図5はロータメタルの作用とスピンドルランナーの移動状態を示す説明図である。
【0016】
トーションレース機Tの基台1の外周部1′に沿って所定間隔を隔てて環状に配された立軸2に、水平方向に回転可能にロータメタル3を嵌合し、ピン2′により固定されている。該立軸2にはベベルギア12が固定され、横軸4のベベルギア13、14に噛合し、横軸4からの正・逆回転を受けられるようになっている。前記横軸4は、原動部(図示せず)から駆動を受ける原動ギア(大型の平歯車)5に噛合した伝達ギア6を構成する平歯車6aに繋がっている。前記原動ギア5は、横軸4の複数本(例えば8本)だけを負担し、全体的には複数個の原動ギアにより分散されている。
【0017】
前記伝達ギア6は、前記原動ギア5に噛合した平歯車6aと、その下面に連繋回転可能に設けたベベルギア6bと、これらの共通の軸芯部6cとから構成されている。該軸芯部6cは、基台1に固定手段1aにより固定された軸受手段1bに軸支されている。前記ベベルギア6bは、軸芯部6cにベアリング6b′介して取付けられており、前記横軸4の端部に設けたベベルギア7に噛合している。換言すれば、前記原動ギア5に連繋している平歯車6aは、ベベルギア6b、7を介して横軸4に伝わり、ベベルギア14、12を経て立軸2とともにロータメタル3を駆動するようになっている。
【0018】
前記伝達ギア6を構成する平歯車6aとベベルギア6bの共通した軸である軸芯部6cは、原動部連繋側(平歯車6a)の下方で、横軸連繋側(ベベルギア6b)の上方において水平方向に分割され、分割面8を構成している(図2参照)。この分割面8は、図3の如く、上側がスローブ9aと段部9bとを有する凸部になり、下側がスローブ9a′と段部9b′とを有する凹部になって噛み合っている。なお、スローブ9a、9a′と、段部9b、9b′は、前記軸芯部6cの分割面8の周囲に、対向的に2個設けられている。勿論、2個に限らない。
【0019】
しかして、前記横軸4側にトラブル(たとえば、ロータメタルの衝突や、オペレーターの作業服のスピンドルへの絡み付きや、切れた糸のスピンドルへの絡み付きなど)が生じてロータメタルが回転しなくなった結果、ベベルギア6bに負荷がかかることとなる。かかる場合には、上側のスローブ9aが、下側のスローブ9a′を滑って乗り上げ、カム作用を中止するから、原動部連繋側に繋がっている平歯車6aは、後記するバネ(コイルスプリング)10のバネ圧に抗して上動する。一方、原動部連繋側からの負荷には、上側の段部9bと、下側の段部9b′が一体化してそのまま伝動を継続する。
【0020】
前記バネ(コイルスプリング)10は、前記伝達ギア6を構成する平歯車6aの上面で、軸芯部6cに沿って形成した凹溝6a′内に嵌められたスラストベアリング10aと、該軸芯部6cの頂面から立ち上げた延長軸10bの上端鍔10cとの間に圧縮された状態で介装されている。したがって、前記スラストベアリング10aは、前記平歯車6aをその上面から下方に向け、前記カム9のスローブ9a、9a′同士及び段部9b、9b′同士が係合するように押圧している。なお、前記上端鍔10cは、図2では、延長軸10bにビス止めした円柱体10dの上端鍔を利用している。円柱体10dはバネ10の内周が密接し、暴れさせないために有効である。
【0021】
前記横軸4側が、トラブルによる負荷を生じ、上側のスローブ9aが、下側のスローブ9a′を滑って乗り上げ、原動側に繋がっている平歯車6aが、バネ10のバネ圧に抗して上動するが、その上動による変化を監視するためにセンサー11が設置されている。該センサー11は、前記基台1に設置した支持部材11′に取付けられ、平歯車6aに対面している。すなわち、該センサー11は、図4の如く、スローブ9aと9a′の乗り上げ時に生ずる上動分hだけ平歯車6aが近接することにより作動するようになっている。しかして、該センサー11の感知は、原動部(図示せず)に停止信号を出力して即時に機械を停止し、柄崩れなどを生じさせないようにしている。
【0022】
次に、本願トーションレース機の作用を説明する。まず、原動部から連繋した原動ギア5が回転すると、これに噛合した伝達ギア6を構成する平歯車6aが、軸芯部6cを中心に回転すると、前記軸芯部6cの分割面8に形成したカム9の段部9b及び9b′が噛み合った状態で一体回転し、ベベルギア6bが、ベベルギア7を介して横軸4を回転させるからロータメタル3を正常に回転させる。このロータメタルの回転は、スピンドルランナー15を移動させ、これに搭載したボビン16が移動し、該ボビン16から引き出された糸17がレース形成部(図示せず)において絡み合ってレース編地を編成する。
【0023】
次いで、レース編成中、スピンドルランナーを移動させるロータメタルの回転タイミングが狂い、これにより隣接したロータメタルとの衝突にて起こるロータメタルの回転障害や、オペレーターの作業服の一部がスピンドルなどに巻き込まれて起こるスピンドルの回転障害、或いは、切れた糸がボビンスピンドルに蜘蛛の巣のように絡み付いて起こるスピンドルの回転障害などが生じたときは、前記軸芯部6cの分割面8に形成したカム9の上側のスローブ9aが、下側のスローブ9a′を滑って乗り上げ、原動側に繋がっている平歯車6aをバネ(コイルスプリング)10に抗して上動させ、該上動を感知したセンサー11が、原動部に停止信号を出力し、トーションレース機を停止し、ロータメタルの損傷、ロータメタルに回転を伝達している各種部品に与えるダメージの軽減、レースの柄崩れなどを未然に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本願トーションレース機は、スピンドルランナーを移動させるロータメタルの回転の障害があったときの、トーションレース機の停止、ロータメタルの損傷防止、ロータメタルに回転を伝達している各種部品のダメージの軽減、柄崩れなどを未然に防止し、産業上の利用可能性を高めているものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ロータメタルの駆動部の要部を示す側面断面図である。
【図2】ロータメタルを駆動する横軸に原動部の動力を伝達する機構を示す拡大断面図である。
【図3】カムの説明図である。
【図4】センサー感知時の拡大断面図である。
【図5】ロータメタルの作用とスピンドルランナーの移動状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 基台
1a 固定手段
1b 軸受手段
2 立軸
3 ロータメタル
4 横軸
5 原動ギア(大型平歯車)
6 伝達ギア
6a 平歯車
6b ベベルギア
6b′ ベアリング
6c 軸芯部
7 ベベルギア
8 分割面
9 カム
9a、9a′ スロープ
9b、9b′ 段部
10 バネ(コイルスプリング)
10a スラストベアリング
10b 延長軸
10c 上端鍔
10d 円柱体
11 センサー
11′ 支持部材
12 ベベルギア
13、14 ベベルギア
15 スピンドルランナー
16 ボビン
17 引き出された糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に所定間隔をもって環状に配された立軸に、水平方向に回転可能に嵌合したロータメタルを駆動するための横軸に、原動部からの動力を伝達する伝達ギアを設け、該伝達ギアの軸芯部に、横軸連繋側と原動部連繋側との分割面を設け、該分割面に、横軸側からの負荷には原動部連繋側がバネ圧に抗して上動させ、原動部連繋側からの負荷には一体化するカムを形成するとともに、前記原動部連繋側の上動を監視するセンサーを設けたことを特徴とするトーションレース機。
【請求項2】
前記カムが、スロープと段部を形成したものであることを特徴とする請求項1に記載のトーションレース機。
【請求項3】
前記センサーが、原動部に停止信号を出力するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のトーションレース機。
【請求項4】
前記バネが、前記伝達ギアの軸芯部に嵌められたスラストベアリングと、前記軸芯部の頂面から立ち上げた延長軸の上端鍔との間に介装されていることを特徴とする請求項1〜3のうちの1に記載のトーションレース機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132128(P2012−132128A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286776(P2010−286776)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(391005293)株式会社市川鉄工 (12)
【Fターム(参考)】