説明

ドアの耐震取付構造

【課題】 地震時の建物の層間変異による壁の破損やドア枠の変形を防止又は軽減し得るドアの耐震取付構造を提供する。
【解決手段】 鋼製のドア枠の上、下枠を躯体に取付け、ドア枠の縦枠と壁との間にクリアランスを設け、そのクリアランスに弾性塞ぎ材を詰めて、縦枠と壁との間を密封して、ドアの耐震取付構造を構成した。すなわち、建具を壁から自立して躯体に取り付け、ドア枠の縦枠が壁の挙動に干渉しない取付構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物のドアの耐震取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、玄関ドアを耐震性能をもって建物の駆体に取り付ける場合は、鋼製の枠材を矩形に接続してなるドア枠を躯体の開口に取り付け、そのドア枠の中に鋼製のドアを一方の縦辺を中心に回転開閉自在に吊持するのが、一般的である。
【0003】
この場合、従来は、ドア枠の上、下枠を梁と基礎、又は上下の梁に固定し、左右の縦枠を壁又は柱に直接接続して、施工されている。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、従来のドア枠の取付構造においては、地震などにより躯体に層間変位が生じると、建具(ドア枠とドア。以下、同じ。)と壁の地震時の挙動が異なるため、壁が破壊され、ドア枠が躯体や壁の変形に対応できなかった。そのため、地震発生時にドア枠の歪みが過度になり、住人の脱出が不可能になる状態が生じる虞があった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、解決しようとする課題は、地震時の建物の層間変異による壁の破損やドア枠の変形を防止又は軽減し得るドアの耐震取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、鋼製のドア枠の上、下枠を躯体に取付け、前記ドア枠の縦枠と壁との間にクリアランスを設け、そのクリアランスに耐火目地材等の弾性塞ぎ材を詰めて、前記縦枠と前記壁との間を密封して、ドアの耐震取付構造を構成した。すなわち、建具を壁から自立して躯体に取り付け、ドア枠の縦枠が壁の挙動に干渉しない取付構造とした。
【0007】
本発明による上記ドアの耐震取付構造は、前記クリアランスの寸法を、当該ドア枠が取り付けられる建物の層間変位量と等しいか又はそれよりも大きくしたことを特徴としている。
【0008】
本発明による上記ドアの耐震取付構造は、ドア枠の縦枠を、中空材又は裏面に開口を有する縦枠に前記開口を塞ぐ遮蔽板を溶接もしくは固着して実質的に中空材としたものにより構成したことを特徴としている。すなわち、縦枠の裏面を耐火目地材等の塞ぎ材を納め易い形状とし、かつ、縦枠に方立と同等の強度を備えた。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、鋼製のドア枠の上、下枠を躯体に取付け、ドア枠の縦枠と壁との間にクリアランスを設け、そのクリアランスに耐火目地材等の弾性塞ぎ材を詰めて、縦枠と壁との間を密封した構造であるので、建物の層間変位に対する追従性が得られ、ドアの耐震性能が向上する。すなわち、壁の層間変位をクリアランスで吸収するので、壁の破損を防止し、かつ、ドア枠の歪みやねじれを防止できる。
【0010】
請求項2の発明によれば、クリアランスの寸法を、当該ドア枠が取り付けられる建物の層間変位量と等しいか又はそれよりも大きくしたので、本発明の効果が一層確実に奏される。
【0011】
請求項3の発明によれば、ドア枠の縦枠を、中空材又は裏面に開口を有する縦枠に前記開口を塞ぐ遮蔽板を溶接もしくは固着して実質的に中空材としたものにより構成したので、ドア枠の縦枠が方立と同等の強度を備えるため、耐震性能が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等のマンションやアパート等の集合住宅のドア、特に玄関ドアの取付に適用するのに好適である。以下には、本発明を鉄筋コンクリート造の集合住宅の玄関ドアに適用した場合の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明を玄関ドアの取付に適用した場合の玄関ドア及びその周辺の正面図、図2は図1のA−A線に対応するドア枠の躯体に対する固定方法の一例を示す縦断面図、図3はドア枠を構成する植え枠の端面図、図4は図1のA−A線に対応するドア枠の躯体に対する固定方法の他例を示す縦断面図、図5は図1のB−B線断面図、図6は縦枠の他の例を示す横断面図、図7は地震前と地震により層間変異が生じた状態を対照的に示す概念図である。
【0014】
図において、1は基礎(又は梁。以下、同じ)、2は梁、3は柱、4はドア枠、5はドア、6は壁、7は耐火目地材などの弾性塞ぎ材である。
【0015】
図1において、躯体イを構成する基礎1及び梁2並びに柱3は、鉄筋コンクリート造であり、それらの間に開口部8を形成しており、その開口部8に、ドア枠4とドア5からなる建具及び壁6が後述する方法により取り付けられており、ドア枠4の各縦枠と壁6の間及び壁6と各柱3の間に形成された後述されるクリアランスに弾性塞ぎ材7が詰められて、それらの間を密封してある。
【0016】
ドア枠4は、いずれも鋼製である上枠4aと、下枠4bと、左右の縦枠4c,4dとを矩形の枠体に接続(溶接又は固着)してなっている。そして、ドア枠4を開口部8に嵌合し、上枠4aと下枠4bとをそれぞれ上梁2及び基礎1に固定して、ドア枠4が躯体イに取り付けられている。上枠4aと下枠4bとを上梁2及び基礎1に固定する方法は、鉄筋コンクリートに対する既知の固定方法である乾式工法と湿式工法のいずれを採用しても良いが、図2は、乾式工法の一例を採用した場合の縦断面図である。図4は、乾式工法の他例を採用した場合の縦断面図である。
【0017】
図示の実施の形態においては、ドア枠4を構成する上枠4a、下枠4b、左右の縦枠4c,4dに、マンション以外の住宅用玄関に取り付けられるドア枠を構成する上枠、下枠、左右の縦枠とそれぞれ同一の断面形状を有するものが用いられている。すなわち、各枠4a、4b、4c,4dは、ドア枠4が開口部8に取り付けられた状態においてその開口部の中央に対して裏面側に開口する非中空材で形成されている。上枠4aと下枠4bは、同一断面形状を有するものを上下対称形に配置され、左右の縦枠4c,4dは、別の同一断面形状を有するものを左右対称形に配置されている。
【0018】
上、下枠の代表として上枠4aの形状をさらに詳述すると、上枠4aは、図3に示すように、室内側裏面横壁41、室内側縦壁42、室内側表面横壁43、中間段壁44、室外側表面横壁45、室外側縦壁46、室外側裏面横壁47、室外側裏面縦壁48を一体に有し、室内側裏面横壁41と室外側裏面縦壁48との間に開口49を有している。室内側裏面横壁41と室外側裏面横壁47は、共通の水平面上に存在する。
【0019】
上記形状の上枠4aを乾式工法により躯体イに取り付けるため、図2に示すように、水平壁9aと、その水平壁の両端部から同一方向に若干の差をもって延出する室内側縦壁9bと室外側縦壁9cとを有する長尺の上部アタッチメント9を、水平壁9aの中央に形成してある孔(図示せず)に上梁2の下面の室外側付近に突設されている植込みボルト10を挿通し、その上部アタッチメント9の下方側からそのボルト10にナット11を締め付けることにより、アタッチメント9を上梁2に固定してある。
【0020】
また、上記形状の下枠4bを乾式工法により躯体イに取り付けるため、図2に示すように、上部アタッチメント9と同一形状の下部アタッチメント9’を上部アタッチメント9と上下対称形に配置して、水平壁9aの中央に形成してある孔(図示せず)に基礎1の上面に植込みボルト10と共通の垂直線に沿って突設された植え込みボルト10’を挿通し、その下部アタッチメント9’の上方側からそのボルト10’にナット11’を締め付けることにより、下部アタッチメント9’を基礎1に固定してある。
【0021】
そして、矩形のドア枠4を屋外側から躯体イの開口部8に嵌合し、そのドア枠の上枠4aは、その室内側縦壁42の上端部を上部アタッチメント9の室内側縦壁9bの室外面に当接するとともに、室外側裏面縦壁48を上部アタッチメント9の室外側縦壁9cの室外面に当接して、それらの当接部分に室内側及び室外側からそれぞれネジ12をねじ込んで、ドア枠の上枠4aを上部アタッチメント9を介して上梁2に固定している。ドア枠4の下枠4bも、上枠の場合と同じ要領で、下部アタッチメント9’を介して基礎1に固定している。
【0022】
上枠4a及び下枠4bを躯体イに取り付けるには、図4に示すように、従来工法と同様に、ドア枠4を躯体イの開口部8に嵌合するとともに、上枠4aの開口49には上梁2の下面に突設した差し筋13の下端部を挿入し、かつ、下枠4bの開口49には基礎1の上面に突設した差し筋13’の上端部を挿入した後、予め上枠4a及び下枠4bの溝部に装着しておいたアンカー14,14’の幅方向両側部分を上、下枠4a,4bの室内側裏面横壁41及び室外側裏面横壁47の内面に当接した状態で、各アンカー14,14’を差し筋13,13’に溶接することにより、上、下枠4a,4bを躯体イに固定してもよい。
【0023】
ドア枠4の上枠4a及び下枠4bが上述のように躯体イに取り付けられるのに対して、ドア枠4の左右の縦枠4c,4dは、図5に示すように、躯体イに直接固定されずに、壁6又は柱3から縁を切って取り付けられる。すなわち、壁6又は柱3との間にクリアランス15を設け、そのクリアランスに弾性塞ぎ材16を詰めて、縦枠4c,4dと壁6又は柱3との間を密封することにより取り付けられている。クリアランス15の幅Cは、地震による建物の層間変異量dと等しいか、それよりも大きく設定されている。
弾性塞ぎ材16は、既知の耐火目地材、その他の同等の耐火性・防水性を有し、外力吸収能を有するものなどを使用することができる。
【0024】
そして、本発明によるドア枠は、壁6又は柱3と縁を切って取り付けられ、縦枠4c,4dと壁6又は柱3の間に弾性塞ぎ材16を納めるので、縦枠4c,4dはその弾性塞ぎ材16を納め易い形状とすることが望ましい。また、本発明によるドア枠は、壁6又は柱3と縁を切って取り付けられるので、縦枠4c,4dは、層間変位による外力に耐え得る強度を有する構造を備えることが望ましい。
そのため、縦枠4c,4dは、図5に示すように、従来の非中空材である縦枠4c´,4d´の裏面Iに、開口を塞ぐように遮蔽材17を溶接又は固着して、実質的な中空材を形成し、その中空材を縦枠4c,4dとして用いている。このように従来の非中空材を利用することにより、本発明の実施のために中空材を新規に製造する場合に比し、コスト削減効果が得られる。そして、遮蔽材を付加した実質的な中空材を用いるので、縦枠4c,4dと壁6との間に弾性塞ぎ材を納め易くなるとともに、縦枠4c,4dは地震発生時の層間変位による荷重に十分耐え得る強度を有するため、ドア枠の変形の防止又は軽減が可能である。
【0025】
従来の非中空材である縦枠の開口を遮蔽する遮蔽材は、図5に示すものに限られず、図6(a)に符号17´で示すように、開口を外側から遮蔽する形状のものとしてもよい。
さらに、ドア枠の縦枠4c,4dには、従来の非中空材を用いることに代えて、図6(b)に示すように、新規に製造される中空材を用いても良い。ドア枠の上、下枠4a,4bについても同様である。このように、ドア枠全体が中空材で構成される場合は、最大の強度を備えることができ、耐震性能に最も優れるドアの耐震取付構造を提供することができる。
【0026】
なお、壁6は、プレキャストコンクリート(PC)板又は鉄筋コンクリート(RC)板で形成され、周知の工法により梁2と基礎1に固定されている。その場合、ドア枠4及び柱3との間には所要のクリアランス16が設けられることは既述の通りである。また、かく壁6の下端と基礎1との間にも所要のクリアランスを設け、そのクリアランスに弾性塞ぎ材を詰めることが望ましい。
【0027】
図2,4,5において、18は外装材、19はドア枠の外周と外装材18又は基礎1との間に充填されたシール材、20は玄関の額縁、21は玄関の土間材である。
【0028】
上記のドア取付構造により、正常状態では、すなわち地震前は、図7(a)に示すようにドア枠4、ドア5、壁6及び塞ぎ材16がいずれも鉛直状態の姿勢を保持している。そして、地震により層間変位が生じた場合は、図7(b)に示すように、その層間変位はクリアランス15に設けてある弾性塞ぎ材16により吸収されるため、壁6が破損することが防止され、その壁6とドア枠4が物理的に絶縁されているため、壁6からドア枠4に荷重が加わらないので、層間変位によるドア枠4の変形量が最小限に止められる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を玄関ドアの取付に適用した場合の玄関ドア及びその周辺の正面図。
【図2】図1のA−A線に対応するドア枠の躯体に対する固定方法の一例を示す縦断面図。
【図3】ドア枠を構成する植え枠の端面図。
【図4】図1のA−A線に対応するドア枠の躯体に対する固定方法の他例を示す縦断面図。
【図5】図1のB−B線断面図。
【図6】縦枠の他の例を示す横断面図。
【図7】地震前と地震により層間変異が生じた状態を対照的に示す概念図。
【符号の説明】
【0030】
1 基礎(梁)
2 梁
3 柱
4 ドア枠
4a 上枠
4b 下枠
4c,4d 縦枠
5 ドア
6 壁
7 塞ぎ材
8 開口部
9 アタッチメント
15 クリアランス
16 塞ぎ材
17 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製のドア枠の上、下枠を躯体に取付け、前記ドア枠の縦枠と壁との間にクリアランスを設け、そのクリアランスに耐火目地材等の弾性塞ぎ材を詰めて、前記縦枠と前記壁との間を密封してなるドアの耐震取付構造。
【請求項2】
クリアランスの寸法は、当該ドア枠が取り付けられる建物の層間変位量と等しいか又はそれよりも大きいことを特徴とする請求項1記載のドアの耐震取付構造。
【請求項3】
ドア枠の縦枠は、中空材又は裏面に開口部を有する縦枠に前記開口部を塞ぐ遮蔽板を溶接もしくは固着して実質的に中空材としたものからなることを特徴とする請求項1又は2記載のドアの耐震取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144404(P2010−144404A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322276(P2008−322276)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000191065)新日軽株式会社 (545)