説明

ドデカヒドロドデカボレート塩類の製造方法

【課題】ドデカヒドロドデカボレートB1212(2−)の塩の合成に関して費用効果の高い、かつ実質的にジボランを含まない方法を提供する。
【解決手段】金属水素化物をルイス塩基存在下でアルキルボレートと反応させてルイス塩基−ボラン錯体を生じさせ、そして前記ルイス塩基−ボラン錯体を少なくとも1種の金属塩と反応させてドデカヒドロドデカボレート(−2)の塩を生成させる一方、反応副生物からアルキルボレートを回収して再循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラン組成物、ボラン類製造方法、及びLi21212(及び関連化合物)製造のためにボラン類を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定のボラン化合物を製造する方法は当業界に公知である。ドデカヒドロドデカボレートを合成する以前の方法は、ジボランと金属テトラヒドロボレートとの反応を必要とし、又はボラン錯体の熱分解を必要とする。
【0003】
米国特許第3265737号、第3169045号及び第3328134号各明細書には、圧力容器内でジボランをテトラヒドロボレートと縮合させることによるB12122-の調製が開示されており、すなわち、「アルカリ金属及びアルカリ土類金属ドデカヒドロドデカボレートを調製する方法であって、
a)ジボラン、
b)アルカリ金属テトラヒドロボレート及びアルカリ土類テトラヒドロボレートからなるクラスから選択されるテトラヒドロボレート、及び
c)RO(CH2CH2O)R’、R’SR’、RR’R”N及びRR’R”Pからなる式のものから選択される化合物を、
……実質的に酸素と水の不存在下及び約1気圧の圧力で少なくとも120℃の温度で反応させることを含む方法」が開示されている。
【0004】
他の群の方法は、種々のボランとL・BH3錯体との反応を含む。例えば、米国特許第3961017号明細書には、ジボラン付加物、ジメチルスルフィドボランを利用したNa21212の合成方法、すなわち、「……アルカリ金属水素化物とジメチルスルフィドボランとの反応を含むアルカリ金属ドデカヒドロドデカボレートの調製方法」が記載されている。チェコスロバキア国特許第238254号明細書には、金属テトラヒドロボレートの存在下でのボラン−トリエチルアミン錯体の熱分解に基づく方法、すなわち、「……220〜250℃でのアルカリ金属水素化物とトリエチルアミンボランとの反応を含むアルカリ金属ドデカヒドロドデカボレートの調製方法」が提示されている。
【0005】
他の方法が、Miller, H.C.; Muetterties, E.L.の米国特許第3555261号明細書、Ashby, E.C.の米国特許第3257455号明細書、Sivaev, I.B.; Bregadze, V.I.; Sjoberg, S., Collect. Czech. Chem. Commun., 2002, 679、 Miller, H.C.; Miller, N.E.; Muetterties, E.L., Inorganic Chemistry, 1964, 1456、Kyllonen, D.M.の米国特許第2969274号明細書(1961)に開示されている。
【0006】
上に挙げた参照文献全ての開示は参照によりここに組み入れられる。そのように組み入れることは、これらの参照文献が特許請求の範囲の請求項に対する従来技術であるということを承認するものではない。
【0007】
【特許文献1】米国特許第3265737号明細書
【特許文献2】米国特許第3169045号明細書
【特許文献3】米国特許第3328134号明細書
【特許文献4】米国特許第3961017号明細書
【特許文献5】チェコスロバキア国特許第238254号明細書
【特許文献6】米国特許第3555261号明細書
【特許文献7】米国特許第3257455号明細書
【特許文献8】米国特許第2969274号明細書
【非特許文献1】Sivaev, I.B.; Bregadze, V.I.; Sjoberg, S., Collect. Czech. Chem. Commun., 2002, 679
【非特許文献2】Miller, H.C.; Miller, N.E.; Muetterties, E.L., Inorganic Chemistry, 1964, 1456
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、B1212(2−)の塩を製造する費用効果の高い方法を提供することにより、従来法に関連する問題を解決する。本発明はまた、実質的にジボランのない方法を利用することにより、従来法に関連する問題を解決する。ジボランが「実質的にない」とは、反応物、単離された中間体及び生成物が、約5モル%未満のジボラン(気相中で測定した場合)を、通常は約1モル%未満のジボランを含むことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属水素化物(例えば、水素化ナトリウム)及びアルキルボレート(例えばトリメチルボレート)などの市販の物質からドデカヒドロドデカボレート塩類を製造する方法を提供する。
【0010】
本発明の方法は、限定なしにLi212x12-xを含めて、(B12x12-x-2(式中のYは、水素、塩素、他のハロゲン、及びOR基を含むがこれらに限定されない原子又は官能基の任意の組み合わせであることができる)、その任意の塩又は前駆体、及びLBF含有組成物を含む組み合わせ(まとめて「LBF」と呼ばれる)を製造するのに使用できるボラン含有組成物を製造することができる。例えば、B12122-)塩は、Li212Cl12及びLi21212-xxを製造するのに使用できる。LBFはリチウム電池のリチウム源として利用できる。本発明のボラン組成物を利用してLBFを製造する方法の例は、米国特許出願公開第20050053841号明細書及び米国特許出願公開第20050064288号明細書に開示されており、参照によりここに組み入れられる。
【0011】
本発明は、ドデカヒドロドデカボレートB12122-)の塩を製造する方法に関する。本発明は、金属水素化物(例えば水素化ナトリウム)及びアルキルボレート(例えばトリメチルボレート)などの市販の物質からドデカヒドロドデカボレート塩(2-)を製造する方法を提供する。
【0012】
本発明の一つの態様では、少なくとも1種の金属水素化物を、少なくとも1種のルイス塩基の存在下で少なくとも1種のアルキルボレートB(OR)3と反応させて、ルイス塩基−ボラン錯体L・BH3及び反応副生物、すなわち少なくとも1種のアルキルボレートを含む金属塩、を生成する。ルイス塩基−ボラン錯体を反応副生物から分離し、金属塩MXとともに加熱(例えば、約120〜約250℃の温度で)して、ドデカヒドロドデカボレートを生成させる。通常、アルキルボレートは副生物から回収され、再利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、少なくとも1種の金属水素化物を、少なくとも1種のルイス塩基の存在下で少なくとも1種のアルキルボレートB(OR)3と反応させて少なくとも1種のルイス塩基−ボラン錯体L・BH3を生成する、ドデカヒドロドデカボレート塩を製造する方法に関する。テトラアルキルボレートの金属塩M+B(OR)4-又はそれと金属アルコキシドM(OR)x(xは1、2、3)との混合物を含む反応副生物も生成されることがある。ルイス塩基−ボラン錯体は、ろ過、蒸留、デカンテーション、遠心分離、又は液体と固体の分離のため当該技術分野で公知の他のいずれかの方法により、反応副生物から分離でき、そして約120〜約250℃の温度で、そのままあるいは炭化水素溶媒又はエーテルタイプの溶媒などの不活性溶媒中で、少なくとも1種の金属塩MX(この式のMは金属カチオンであり、Xはアニオンである)とともに加熱されて、金属ドデカヒドロドデカボレート塩を生成する。アルキルボレートは副生物から回収して再利用できる。
【0014】
金属水素化物がアルカリ金属水素化物MHを含む場合、1.33当量のアルキルボレートが1当量の金属水素化物と反応する。しかし、反応収率を上げるために、他のプロセスパラメータの中でも温度、溶媒、攪拌などの反応条件に応じて、アルキルボレート対金属水素化物の比を1から100まで変えてもよい。金属水素化物とルイス塩基の比は0.1と3の間であり、通常は1と3の間である。金属水素化物がアルカリ金属水素化物MHを含む場合、加えた金属水素化物の1当量当たり1当量の反応副生物MB(OR)4が生成される。金属水素化物が、例えば水素化アルミニウムナトリウムなどの混合金属水素化物を含む場合、およそ1当量のトリアルコキシアルミナートAl(OR)3及び1当量のNaB(OMe)4が生成される。L・BH3と塩MXとの比は、出発混合物における及び所望の生成物であるドデカヒドロボレートの金属塩M+(B1212-n(この式のnは金属原子価であって、nは1、2、3である)における金属とホウ素の比に相当するように維持される。
【0015】
本発明で説明される方法により製造されるアミン−ボランは、ドデカヒドロドデカボレートの塩の合成に利用でき、あるいは還元性アミノ化反応、アルケン及びアルキンのヒドロホウ素化、金属の無電解メッキ及び他の用途などのような、他の用途向けに利用できる。ドデカヒドロデカボレートの塩は、先に参照により組み入れた米国特許出願公開第20050053841号及び米国特許出願公開第20050064288号各明細書に記載されたようなLBFの製造に利用できる。
【0016】
どのような好適なアルキルボレートも回収できるとは言え、アルキルボレートB(OR)3の典型例は、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリイソプロピルボレート、トリフェニルボレート及びこれらの組み合わせからなる群からの少なくとも一つを含む。望ましいアルキルボレートは、トリメチルボレートB(OMe)3(この式のMeはメチルCH3である)を含む。
【0017】
どのような好適な金属水素化物も本発明の方法に使用できるが、本発明に使用される金属水素化物の典型例は、水素化ナトリウムNaH、水素化カリウムKH、水素化マグネシウムMgH2、水素化カルシウムCaH2、水素化アルミニウムナトリウムNaAlH4及び水素化アルミニウムリチウムLiAlH4、並びにこれらの混合物からなる群からの少なくとも1種を含む。水素化ナトリウムが、低価格であり商業的に入手可能であるため、本発明に使用するのに望ましい金属水素化物である。
【0018】
本発明に使用されるルイス塩基の典型例は、一般式R’R”R”’Nを有するアミン、一般式R’SR”のアルキルスルフィド、及び一般式RR’R”Pのホスフィンを含む。ルイス塩基は、ボランと比較的安定な錯体を形成し、反応条件下で反応副生物と有意に反応せず、反応副生物から分離でき、且つ熱処理を受けてドデカヒドロドデカボレートの塩に変えることができるものから選択される。好適なルイス塩基はどのようなものでも使用できるが、そのような塩基は脂肪族アミン及び芳香族アミンなどのアミンを含む。
【0019】
どのような好適な金属塩も使用できるが、ルイス塩基−ボラン錯体の熱縮合に使用される金属塩MXの典型例は、Xが水素H-を含む金属水素化物、XがテトラヒドロボレートアニオンBH4-を含む金属テトラヒドロボレート、XがアルコキシドOR-を含む金属アルコキシド、及びXがテトラアルキルボレートアニオンB(OR)4-を含む金属テトラアルキルボレートを含み、あるいはこれらのテトラヒドロボレートとテトラアルキルボレートの混合物が望ましいMX組成物である。記載された組成物で使用される金属カチオンMの典型例は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアルミニウムを含む。アルカリ金属が望ましく、ナトリウムカチオンが有用である。
【0020】
本発明の特定の態様を、水素化ナトリウムNaH、トリメチルボレートB(OCH33(TMB)及びトリエチルアミンN(C253(TEA)の反応によりドデカヒドロボレートアニオンの塩を製造する方法のブロックダイアグラムである図1により説明する。図1を参照すると、以下の反応を利用する方法が示される。
【0021】
【化1】

【0022】
工程1の反応副生物は、以下のプロセスの1つにより再循環される。
【0023】
【化2】

【0024】
ボラントリエチルアミンボランは、以下の反応の1つによりNa21212に変えることができる。
【0025】
【化3】

【0026】
説明した方法の全体的な反応は以下のとおりであり、
【0027】
【化4】

【0028】
あるいは硫酸を利用してトリメチルボレートを再循環する場合は、次のとおりである。
【0029】
【化5】

【0030】
図1に示す方法の第1工程は、水素化ナトリウムとトリメチルボレートからボラン−アミン錯体を生じさせることを含む。トリメチルボレートと金属水素化物の比は、1と100の間、通常は1と10の間、標準的には1と5の間である。反応混合物中の水素化ナトリウムの濃度は、0.1と10wt%の間、通常は1と5wt%の間である。水素化ナトリウムは、商業的に入手できる油中60wt%分散液として使用し、あるいはそれは上記の溶媒の1つに分散した1〜60%分散液として使用できる。この反応の温度範囲は約−20〜約100℃である。反応は、TEA又はTMBなどの液体化学物質の1つを過剰にして、又は炭化水素溶媒などの少なくとも1種の不活性溶媒中で、又はエーテルタイプの溶媒中で、実施することができる。炭化水素溶媒中あるいは過剰なTEA又はTMB中で反応を実施する場合、NaBH(OMe)3などの反応中間体の一部と、反応副生物NaB(OMe)4は不溶性であり、水素化ナトリウムの表面に析出することがある。ジエチルエーテル、グリム及びテトラヒドロフランなどのエーテル溶媒を使用する場合、反応副生物及び/又は反応中間体は可溶性であり、反応は比較的速く進行し、約25℃で有効な収率が得られる。一般的には、この反応の温度範囲は約−20〜約50℃である。テトラヒドロフランが有用な溶媒であり、と言うのは全ての反応生成物がこの溶媒に少なくとも部分的に可溶性であるからである。
【0031】
NaH、TMB及びTEA間の反応を炭化水素溶媒中で実施する場合、NaHの濃度は0.1と10wt%の間でよく、TMBの濃度は1と90wt%の間であり、TEAの濃度は1と90wt%の間である。この場合、反応副生物は一般に不溶性であり、ろ過、遠心分離又はデカンテーションにより分離される。TEA、TMB及びアミン−ボランは蒸留により分離される。一般的には、TEA及びTMBは100℃未満で蒸留される(TEAの沸点は88.8℃であり、TMBの沸点は68℃である)。アミンボランは、反応副生物NaB(OMe)4との反応を防ぐため100℃未満で0.01〜500torrの減圧下で蒸留して除くことができる。TEAとTMBは再循環され、その一方アミン−ボランはドデカヒドロドデカボレートの製造に利用できる。
【0032】
NaH、TMB及びTEA間の反応をテトラヒドロフラン中で実施する場合、均一な溶液が形成される。この反応溶液中の反応副生物NaB(OMe)4の濃度は、通常50wt%未満に維持する。一般的には、NaHとTMBのモル比は1と5の間であり、水素化ナトリウムとトリエチルアミンのモル比は0.3と2の間である。テトラヒドロフラン、TMB、TEA及びアミン−ボランは、アミン−ボランと反応副生物NaB(OMe)4との反応を防ぐため、約100℃未満で減圧下で蒸留される。固体の副生物は乾燥し、溶媒で洗浄し、そしてTMBを以下に記載する手順により回収する。
【0033】
図1に示す方法の第2工程において、TMBを反応副生物NaB(OMe)4から再生利用する。複合水素化物を使用してルイス塩基ボラン錯体を生成させる場合、副生物は金属アルコキシドの混合物を含むこともある。例えば、金属水素化物が水素化アルミニウムナトリウムを含む場合、反応の副生物は、ナトリウムテトラアルキルボレートNaB(OR)4、アルミニウムアルコキシドAl(OR)3及びナトリウムアルミニウムアルコキシドNaAl(OR)4の混合物を含むことがある。
【0034】
第2工程の1つの態様では、以下の反応により濃硫酸で処理することによりNaB(OMe)4からTMBを回収する。
【0035】
【化6】

【0036】
この態様では、固体のNaB(OMe)4を不活性分散剤と混合し又は溶媒に溶解し、混合物を約−20〜約80℃の範囲の温度で濃硫酸で処理する。この場合、硫酸水素ナトリウムを含む固体生成物が形成されることがあり、その一方で生じたTMBは液体画分中にとどまり、硫酸水素ナトリウムから蒸留又はデカンテーションで除かれる。炭化水素溶媒、TMB又はTMB/メタノール混合物も、NaB(OMe)4の分散に使用できる。溶媒中のNaB(OMe)4の濃度は、一般に5と50wt%の間である。TMB又はTMB/メタノール混合物は溶媒として有用である。
【0037】
第2工程のもう一つの態様においては、以下の反応により、約150〜約350℃の温度でNaB(OMe)4を熱処理してTMBをNaB(OMe)4から回収する。
【0038】
【化7】

【0039】
第2工程の更なる態様においては、TMBを使用して以下の反応によりNaB(OMe)4をNaBH4に転化する。
【0040】
【化8】

【0041】
この方法により製造されるホウ水素化ナトリウムは、ドデカヒドロボレートの塩(及び所望の場合LBF)の合成のために、又は他の用途のために使用できる。
【0042】
図1に示す第3工程では、ドデカヒドロボレートの塩を、ルイス塩基ボラン錯体の熱縮合により製造する。第3工程の1つの態様においては、ルイス塩基ボラン錯体を、金属水素化物、金属アルコキシド、金属テトラヒドロボレート及び金属テトラアルキルボレートなどの、少なくとも1種の金属塩の存在下で加熱する。ルイス塩基ボラン錯体と金属塩との比は、所望されるドデカヒドロドデカボレートアニオンの量に応じて様々であることができる。収率を高めるためには、L・BH3と塩との比を、出発混合物における及び所望される生成物のドデカヒドロボレートの金属塩M+n(B1212-)(この式においてnは2/金属の原子価である)における金属とホウ素との比に対応するように維持する。例えば、金属塩が水素化ナトリウムを含む場合、ルイス塩基ボラン錯体と水素化ナトリウムとの有効な比は、以下の反応に照らして12対2である。
【0043】
【化9】

【0044】
もう一つの例において、金属塩がナトリウムテトラヒドロボレートを含む場合、ルイス塩基とナトリウムテトラヒドロボレートの望ましい比は、以下の反応に照らして10対2である。
【0045】
【化10】

【0046】
アミンは、本発明におけるルイス塩基として有用である。好適なアミンはどのようなものでも使用できるが、そのようなアミンの例は、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N−エチルモルホリン、ジエチルアニリン及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。ルイス塩基ボラン錯体と金属塩との縮合反応は、炭化水素溶媒又はグリムなどの不活性溶媒中で実施することができ、あるいは希釈していないルイス塩基ボラン錯体中で実施することができる。希釈していない液体のルイス塩基ボラン錯体を使用する場合、希釈していないルイス塩基ボラン錯体中の金属塩の初期濃度は、一般的に1wt%と25wt%の間である。不活性溶媒を使用する場合、溶媒中のルイス塩基ボランの濃度は、通常1wt%と99wt%の間である。反応は、標準的には、1気圧以上の圧力下において、約150〜約250℃の温度範囲(例えば約180〜約220℃)で実施する。
【0047】
所望される場合、ルイス塩基ボラン錯体を熱縮合してドデカヒドロボレートアニオンの塩を形成する間に発生する少なくとも1種のルイス塩基を、ルイス塩基ボラン錯体を生じさせるプロセスに再循環させることができる。
【実施例】
【0048】
以下の例は本発明の特定の態様を説明するために提示するものであり、いずれの請求項の範囲も限定するものではない。
【0049】
〔例1〕
この例は、ヘキサドデカン中での水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからのアミンボラン錯体の合成と、反応副生物のナトリウムテトラメトキシボレートのろ過による分離の方法を説明する。
【0050】
トリエチルアミン(4.5ml)及びトリメチルボレート(7.5ml)のヘキサドデカン(8ml)溶液を、50mlフラスコ中の窒素雰囲気下で、1.05gの水素化ナトリウム(鉱油中の60%分散液)により65℃で2時間処理した。生じた固形物を、フリットディスク分液ロートでのろ過により液体から分離した。液体画分の11B NMRで−12.5ppmに新たな四重線が示され、これは1Hデカップリングにより一重線に変えられて、ボラントリエチルアミンEt3NBH3であると同定された。液体画分を50mlフラスコ中で100℃に加熱し、過剰のトリエチルアミンとトリメチルボレートを蒸留して除いた。ボラントリエチルアミンを70℃で0.01torr真空下において蒸留し、IR分光法により同じく同定した(ν(B−H)は2279、2327及び2383cm-1である)。
【0051】
〔例2〕
この例は、トリグリム中での水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからのアミンボラン錯体の合成と、反応副生物のナトリウムテトラメトキシボレートの遠心分離による分離の方法を説明する。
【0052】
固形物添加ロートを利用して、窒素雰囲気下25℃の50mlフラスコ中のトリエチルアミン(5.0ml)及びトリメチルボレート(7.5ml)のトリグリム(7.5ml)溶液に、水素化ナトリウム(60wt%油中懸濁液0.77g)を加えた。添加の間に、発熱反応を示す反応温度の上昇を観察し、多量の固形物が生成された。混合物を20mlのトルエンで希釈し、遠心分離により除いた。液体部分をデカンテーションし、11B及び1H NMRにより分析した。分析により、未反応のトリメチルボレート(11B NMR、18.77ppm、Int.=1)及び反応生成物のボラン−トリエチルアミン(11B NMR、−12.5ppm、Int.=0.32、NaH基準で転化率64%)及びナトリウムテトラメトキシボレートNaB(OMe)4を含む混合物を検出した。固形物を0.01torrの真空下で乾燥し、4.3gの固体NaB(OMe)4を集めた(NaHを基準として収率86%)。
【0053】
〔例3〕
この例は、トリエチルアミン中で水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからアミンボラン錯体を生成させる方法を説明する。
【0054】
固形物添加ロートにより、窒素雰囲気下25℃の50ml三口フラスコ中のトリエチルアミン(15.0ml)とトリメチルボレート(7.5ml)の溶液に、水素化ナトリウム(60wt%鉱油中分散液1.4g)を加えた。反応混合物を25℃で24時間撹拌した。反応の間に、比較的多量の固形物が生成された。混合物の試料をトリエチルアミンで希釈し、11B NMRで分析した。未反応トリメチルボレート(11B NMR、18.77ppm、Int.=1)と反応生成物のボラン−トリエチルアミン(11B NMR、−12.5ppm、Int.=0.1)の11B NMRシグナルの積分を基にして、トリメチルボレートのボラン−トリエチルアミンへの転化率はおよそ30モル%であった。ボラン−トリエチルアミン、トリメチルボレート及びトリエチルアミンは蒸留により分離した。
【0055】
〔例4〕
この例は、テトラヒドロフラン中で水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからアミンボラン錯体を生成させる方法を説明する。この方法は、全ての反応生成物が可溶であり反応が約25℃で効果的であるという利点を提供する。
【0056】
窒素雰囲気下の50mlフラスコ中で、トリメチルボレート(6.5g)及びトリエチルアミン(2.8g)のテトラヒドロフラン(8.7g)溶液を、テトラヒドロフラン(9.3g)中のNaH(60%油中分散液1.74g)の懸濁液を用い1.5時間かけて25〜40℃で処理した。反応は非常に発熱性であり、NaHを小分けにして加えた。反応温度の上昇が見られ、NaHはほぼ2〜3分以内に完全に溶解した。反応溶液の11B NMRによると、トリメチルボレートは、ナトリウムテトラメチルボレートNaB(OMe)411B NMR、2.57ppm、Int.=1)及びボラン−トリエチルアミン(11B NMR、−12.5ppm、Int.=0.26)の混合物に、87%を超える収率で転化した。反応溶液を窒素雰囲気下で加熱し、THF、トリエチルアミン及び残留トリメチルボレートのほとんどを蒸留により除いた。混合物を真空下に置き、凝固点がおよそ0℃である液体を真空下で蒸留により除き、11B NMRによりボラン−トリエチルアミンとジメトキシボラン−トリエチルアミンの混合物であると同定した。固形残留物は、NaB(OMe)4(89モル%)、ボラン−トリエチルアミン(6モル%)及びホウ水素化ナトリウム(5モル%)の混合物であると分析された。
【0057】
〔例5〕
この例は、トリメチルボレートの回収を伴う、テトラヒドロフラン中での水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからのアミンボラン錯体の生成方法を説明する。
【0058】
窒素雰囲気下の50mlフラスコ中で、トリメチルボレート(6.5g)及びトリエチルアミン(2.8g)のテトラヒドロフラン(8.7g)溶液を、テトラヒドロフラン(9.3g)中のNaH(60%油中分散液1.74g)の懸濁液を用い1.5時間かけて25〜40℃で処理した。反応は非常に発熱性であり、NaHを小分けにして加えた。反応温度の上昇が見られ、NaHはほぼ2〜3分以内で完全に溶解した。反応溶液の11B NMRによると、トリメチルボレートは、ナトリウムテトラメチルボレートNaB(OMe)4及びボラン−トリエチルアミンの混合物に87%を超える収率で転化した。透明な溶液を二酸化炭素でパージし、多量の固形物が生成された。固形物をろ過し乾燥して、2.2gの固形物を集めた。溶液中のテトラメチルボレートの量は、二酸化炭素処理前の量に比べて減少した。
【0059】
〔例6〕
この例は、テトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンからアミンボラン錯体を生成させる方法を説明する。
【0060】
窒素雰囲気下の50mlフラスコ中で、トリメチルボレート(2.4g)及びトリエチルアミン(1.4g)のテトラヒドロフラン(7ml)溶液を、テトラヒドロフラン(5ml)中のNaAlH4(0.5g)の懸濁液を用い25℃で0.5時間処理した。11B NMRによると、Et3NBH3、NaAl(OMe)4及びNaB(OMe)4を含有する懸濁液が形成された。
【0061】
【化11】

【0062】
B(OMe)3が大過剰の場合、NaB(OMe)4の生成の可能性もある。
【0063】
【化12】

【0064】
〔例7〕
この例は、反応副生物のナトリウムテトラメチルボレートNaB(OMe)4からトリメチルボレートを回収する方法を説明する。
【0065】
ヘキサドデカン中でのトリメチルボレート、水素化ナトリウム及びトリエチルアミンの反応から、ろ過により、3.6gの粗ナトリウムテトラアルキルボレートNaB(OMe)4を分離した。窒素雰囲気下の25mlフラスコ中で、この固形物を7mlのトリメチルボレートに懸濁させ、1.0gのメタノールで処理した。この溶液に濃硫酸(2.0g)をシリンジにより0℃で加えた。固形物と液体の混合物が形成された。混合物の液体部分をデカンテーションし、11B及び1H NMRによりトリメチルボレートと鉱油の混合物であると同定した。1H NMRのスペクトルによると、メタノールは液相に存在していなかった。このトリメチルボレート溶液は、更なる精製なしに、水素化ナトリウムとトリメチルボレートからアミンボラン錯体を生成させるために再循環することができる。固形物を真空下で乾燥し、1.6gの乾燥粉末を集めて、これはNaHSO4・0.5H2SO4・0.3MeOHであると同定された。
【0066】
〔例8〕
この例は、トリグリム中でジエチルアニリンボラン及びホウ水素化ナトリウムからナトリウムドデカヒドロドデカボレートNa21212を合成する方法を説明する。
【0067】
1mlのジエチルアニリンボランを5mlのトリグリムに溶解した溶液を、0.06gのホウ水素化ナトリウムにより25℃で処理した。この溶液を窒素雰囲気下160℃で1時間加熱した。白色固形物の形成を観察した。混合物を25℃に冷却し、ろ過し、そして固形物を水に再溶解させて、ナトリウムドデカヒドロドデカボレートNa2121211B NMR、−15.9ppm)の溶液を得た。
【0068】
〔例9〕
この例は、トリエチルアミンボラン及びホウ水素化ナトリウムからドデカヒドロドデカボレートのトリエチルアンモニウム塩[Et3NH]21212を合成する方法を説明する。
【0069】
熱電対、冷却器及び窒素パージチューブを備えた250mlフラスコ中で、ボラントリエチルアミン(75ml、58.7g、511.5ミリモル)をNaBH4(2.2g、58.2ミリモル、粉末)に窒素雰囲気下25℃で加えた。反応混合物の温度を、約30〜40分以内に190℃まで上げた。この時点で、水素の発生及び冷却器でのトリエチルアミンの凝縮を観察した。1.5時間後、35.3gのEt3Nを留出液から集めた(349.5ミリモル、Et3NBH3を基準にして収率68.3%)。反応を50℃まで冷却し、残留ボラントリエチルアミンを真空下で除去した。固形物を0.01torrの真空下100℃で1時間乾燥し、12.4gのEt3NBH3を凝縮液から集めた(108.0ミリモル、21モル%)。生成物(乾燥固形物)を50mlの1%NaOHで処理して、2層の混合物を形成させた。混合物を遠心分離し、分液ロートで分離して、上層からEt3NBH3(3.4g、29.6ミリモル、5.7モル%)を回収した。水性部分を100mlビーカーに移し、1MのHClでpH=5まで中和し、Et3NHClの40%水溶液(8.0g)で処理した。沈殿物(純度およそ95%)を、フリットディスクロートを利用してろ過により集め、真空下で乾燥して、7.8gの[Et3NH]21212が得られた(NaBH4を基準にした収率77.5%、反応したEt3NBH3を基準にした収率およそ65%)。
【0070】
〔例10〕
この例は、トリエチルアミンボランEt3NBH3及びナトリウムテトラアルキルボレートNaB(OMe)4からドデカヒドロドデカボレートのナトリウム塩Na21212を合成する方法を説明する。
【0071】
水素化ナトリウム、トリメチルボレート及びトリエチルアミンの反応(本発明の方法の工程1)から分離した、2.4gの粗ナトリウムテトラアルキルボレートを、50mlフラスコ中で10mlのボラントリエチルアミンと混合し、混合物を220℃(油浴温度)で2.5時間加熱して、ペースト状の固形物を生成させた。混合物を25℃に冷却し、固形物を10mlの5%水酸化ナトリウム中へ抽出した。溶液の11B NMRによると、Na2121211B NMR、−15.9ppm)がおよそ80%の収率で得られた。
【0072】
〔例11〕
この例は、N−エチルモルホリン−ボラン及びナトリウムテトラヒドロボレートからドデカヒドロドデカボレートのナトリウム塩Na21212を合成する方法を説明する。
【0073】
窒素雰囲気下の25ml試験管中で、0.23gのナトリウムテトラヒドロボレートを4.0gのN−エチルモルホリンボランに懸濁させた。混合物を230℃(油浴温度)で10分間加熱し、0.9gの液体を蒸留により除いた。混合物を25℃に冷却し、固形物を10mlの5%NaOH中に抽出した。Na21212(64モル%)とNa21010(36モル%)の混合物が得られた。
【0074】
本発明の特定の態様を、所定の実施形態に関して説明し記載してはいるが、特許請求の範囲をここに示した内容に限定することを意図するものではない。より正確に言えば、これらの内容には当業者により種々の変更が可能であると予期され、それらの変更はやはり、特許請求の範囲の請求項に記載された事項の精神及び範囲内にあり得るのであって、これらの請求項はそれに応じて解釈されるものとする。
【0075】
本願は、2005年6月16日に出願された米国仮出願第60/691221号の利益を主張するものである。この仮出願の開示は参照によりここに組み込まれる。
【0076】
本願の内容は、参照によりここに組み込まれる「ドデカヒドロドデカボレートの製造方法」という発明の名称の、本願と同じ日に出願された、同時係属中で同じ出願人に譲渡された米国特許出願第 号にも関連する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一つの態様による方法のブロックダイアグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドデカヒドロドデカボレート(−2)の塩を製造する方法であって、少なくとも1種のルイス塩基の存在下で少なくとも1種の金属水素化物を少なくとも1種のアルキルボレートと反応させてルイス塩基−ボラン錯体を生成させること、そして前記ルイス塩基−ボラン錯体を少なくとも1種の金属塩と反応させてドデカヒドロドデカボレート(−2)の塩を生成させること、及び反応副生物からアルキルボレートを再循環させることを含む、ドデカヒドロドデカボレート(−2)塩の製造方法。
【請求項2】
金属水素化物を、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、水素化アルミニウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルイス塩基がアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ルイス塩基がトリエチルアミンを含む、1に記載の方法。
【請求項5】
水素化ナトリウム及びトリメチルボレートを、少なくとも1種の不活性液体分散剤の存在下で反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記不活性液体分散剤が、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン及びジグリムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
ルイス塩基−ボラン錯体を蒸留によりナトリウムテトラメトキシボレートから分離する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応副生物がナトリウムテトラメトキシボレートを含み、ろ過により分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ナトリウムテトラメトキシボレート及びルイス塩基−ボラン錯体の少なくとも一方を含む反応生成物の混合物を二酸化炭素により処理して、トリメチルボレートを再循環させる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
ナトリウムテトラメトキシボレートを少なくとも1種の不活性液体分散剤と混合し、少なくとも1種の酸で処理してトリメチルボレートを生じさせ、それを前記酸のナトリウム塩から分離して再循環させる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
液体分散剤がトリメチルボレートB(OMe)3を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
液体分散剤がメタノールとトリメチルボレートB(OMe)3の組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸が濃硫酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ナトリウムテトラメトキシボレートを約150〜約300℃に加熱してナトリウムメトキシド及びトリメチルボレートを生じさせ、それを再循環させる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ナトリウムテトラメトキシボレートを少なくとも1種の不活性分散剤の存在下で加熱する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
不活性分散剤が少なくとも1種の脂肪族炭化水素を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ナトリウムテトラメトキシボレートを不活性分散剤中でNaHにより約100〜約300℃で処理してナトリウムテトラヒドロボレートNaBH4を生成させる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−347875(P2006−347875A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−167552(P2006−167552)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA