説明

ドライクリーニング排水処理方法ならびに処理装置

【構成】 テトラクロロエチレン含有排水を封入もしくは通過させる容器内に、織布に担持した光触媒を配置すると共に該光触媒に光を照射するための光源を備えたドライクリーニング排水処理装置を用いて、テトラクロロエチレンを使用するドライクリーニング機から排出される排水中のテトラクロロエチレンを、前記織布に担持した光触媒により分解して排水を浄化する。
【効果】 織布に担持した光触媒によりテトラクロロエチレンを分解して排水を浄化する方法であるため、高効率でかつ繰り返し処理しても性能が低下しないといった効果を有する。また、織布を構成する繊維一本一本に均一にかつ強固なTi−O−Si結合で光触媒の酸化チタンを接合した場合、光触媒の剥離や脱落がなく、長期にわたり高効率を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光触媒を用い、光を照射することにより排水中に存在するテトラクロロエチレンを高効率で分解し、排水を浄化する、ドライクリーニング排水処理方法と、それを利用した処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】テトラクロロエチレンを使用する、いわゆるパーク系ドライクリーニング機において、使用済みのテトラクロロエチレンは水分との混合ガスとして発生する。これをコンデンサ冷却等で液化し、比重分離でテトラクロロエチレン層と水層に分離し、テトラクロロエチレンのみを回収し再生する。一方、水層は排水として排出されるが、この排水中にはテトラクロロエチレンが約100mg/l〜500mg/lの高濃度で溶解あるいは乳化分散している。従来、このようなドライクリーニング事業所から排出される排水を処理する方法としては、活性炭吸着法や曝気処理法あるいはこれらを併用した方法が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記活性炭吸着法では、テトラクロロエチレンの濃度は数mg/l程度までしか低下せず、水質汚濁防止法による排出基準値0.1mg/lをクリアできず地下水汚染問題が解決しない。また、活性炭の吸着能が飽和に達すると交換や洗浄をしなければならないといった欠点を有する。さらに、活性炭の劣化時期の把握が困難であり吸着後の廃活性炭の処理の問題や、装置が大がかりになるといった問題を有していた。また、曝気処理法では、0.1mg/l以下の低濃度を実現することが可能であるが、大気中にテトラクロロエチレンが放出されるため、人体への発ガン性や難分解性のため環境へ蓄積されること等の影響を無視できないといった欠点があった。また、活性炭吸着法および曝気処理法の問題点を解決するものとして、半導体を触媒として用いた光分解法、具体的には酸化チタン粉体を液中に分散させてこれに有害物質を含む溶液を流し込み光を照射して分解処理を行う方法があるが、この方法では粉体と液体を分離するために下流側にろ過膜を設ける必要があり圧力損失が高くなるといった欠点を有するため、実用化には至っていない。本発明は、これら従来技術の欠点を解消し、テトラクロロエチレンを分解して排水を浄化する、ドライクリーニング排水処理方法と、これを利用した処理装置を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討の結果、織布に担持した光触媒を用いた酸化反応を利用することにより、テトラクロロエチレンを高効率で分解できることを見いだし、本発明を完成させた。即ち、本発明のドライクリーニング排水処理方法は、テトラクロロエチレンを使用するドライクリーニング機から排出される排水中のテトラクロロエチレンを、織布に担持した光触媒により分解して該排水を浄化することを特徴とする。また、本発明のドライクリーニング排水処理装置は、テトラクロロエチレン含有排水を封入もしくは通過させる容器内に、織布に担持した光触媒を配置すると共に該光触媒に光を照射するための光源を備えたことを特徴とする。
【0005】前記光触媒としては、酸化チタンや酸化亜鉛など数多くのものが提案されているが、分解効率や安全性、安定性の点から酸化チタンが好ましい。該酸化チタンはルチル形、アナターゼ形、あるいはこれらの共存形のいずれでもかまわないが、低エネルギの光に反応させるにはルチル形が適しており、また反応の活性を高めるためにはアナターゼ形が適している。この光触媒の担持方法としては、取扱い性や分解効率の点から、織布を構成する繊維表面に膜状に担持するのが好ましい。
【0006】また、前記光触媒に、白金、パラジウム、ロジウム、金、銀、銅等の貴金属あるいはそれらの貴金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を担持させてもよい。この貴金属の担持方法としては、光析出法、詳しくは金属イオン水を吹き付けるか、金属イオン水にディップした後光を照射する方法、あるいは金属イオン水にディップした状態で光を照射する方法によって光還元メッキにより固定化する方法を用いれば容易である。
【0007】前記光触媒の担持体として織布を選んだのは、取扱い性や通水性、強度等の点から選択したもので、織布の中でも前記酸化チタンと強固な結合(Ti−O−Si結合)を形成することができ、かつ耐薬品性、耐光性に優れた酸化珪素を含む無機質繊維で構成された織布が好ましい。ここでいう酸化珪素を含む無機質繊維とは、例えば石英ガラス、高石英ガラス、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Aガラス等、光を透すならばどのような組成でもかまわないが、経済性からEガラス繊維が好ましい。また、織布の目付け(g/m2 )は、いくらのものでもかまわないが、取扱い性や分解効率の関係から、通常100〜900g/m2 のものを用いる。また、構成する無機質繊維の平均繊維径は特に限定されるものではないが、製造可能でしかも被処理排水との接触面積を確保して効率を得るため5〜20ミクロンが好ましい。さらに、織布の打込み密度、厚さ、引張強度は特に限定されるものではないが、被処理排水に対する強度の観点から、各々タテ、ヨコ共に10〜80本/25mm、0.01〜2.0mm、5kgf/20mm巾以上が好ましい。
【0008】前記Ti−O−Si結合は、加熱により酸化チタンとなる酸化チタンの前駆体と有機物樹脂との溶液を出発原料として用いることで得られる。かかる酸化チタンの前駆体としては、チタンアルコキシド、チタン塩化物、チタン硫化物、チタン酢酸塩等が使用できるが、有機物樹脂との相溶性の関係から、アルコール類を相溶性溶媒として用いる場合はチタンアルコキシド、水を相溶性溶媒として用いる場合はチタン塩化物、チタン硫化物、チタン酢酸塩を選択することが好ましい。しかし、前記前駆体と有機物樹脂とが相溶する場合はどの組み合わせを選択してもかまわない。
【0009】また、有機物樹脂としては、アクリル系、オレフィン系等が一般的であるが、製造工程中の焼成工程で酸化分解することが必要であるため、分解温度が200℃以上かつ焼成温度以下の樹脂であって、さらに該酸化チタンの前駆体との相溶性があればよく、モノマーの種類や分子量によって限定されるものではない。上記したように、選定された前駆体と有機物樹脂とを相溶性のある溶媒に溶解してなる溶液を酸化チタン光触媒製造用の出発原料とする。即ち、この出発原料から光触媒を得るためには、担持体となるガラス繊維等の酸化珪素を含む無機質繊維で構成される織布をこの原料液にディップするか、あるいは、この原料液を織布に塗布、スプレーする等して、乾燥した後、焼成すればよい。この乾燥は、150℃以下で30分以上行うことが好ましい。また、液担持後乾燥まで及び乾燥後焼成までの昇温速度は10℃/分以下が好ましい。また、最終焼成工程は織布の耐熱性を考慮して行う必要があるが、550℃以下の温度で焼成することが好ましい。
【0010】また、光源は、低圧水銀灯や殺菌灯あるいはブラックライト蛍光灯等を用いるとよいが、反応速度を考慮しなければ一般蛍光灯でもかまわない。
【0011】排水処理装置に用いる反応容器は、排水をバッチ式で処理する封入型でも、あるいは循環式で処理する流通型でもかまわないが、前者の封入型の場合には排水を攪拌する装置を、また循環式の場合には循環ポンプ等を具備した方が望ましい。
【0012】さらに、前記排水処理装置の構造としては、例えば反応容器をプラスチック類、ホウ珪酸塩ガラスあるいは石英ガラス等による透明容器として内部に光触媒を配置し該反応容器の外側に設置した光源から光を照射するいわゆる外部照射型にしてもよく、また、該反応容器を特に透明容器にすることなく該反応容器内に光源と光触媒を配置するいわゆる内部照射型にしてもよい。
【0013】
【作用】例えば、酸化チタン系の光触媒は400nm以下の波長の光により容易に励起される。ここで、励起された光触媒は水を分解し、ヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。このヒドロキシラジカルは高い酸化力を有し、式1に示すように有害なテトラクロロエチレン(C2C14)を無害なCO2とHClとに分解する。
2C14+4[・OH]→2CO2+4HCl・・・(式1)
【0014】また、本発明のうちTi−O−Si結合を形成した光触媒担持織布は、強固な結合で酸化チタンと無機質繊維とを接合してあるため、光触媒が脱落することなく長寿命で担持することができる。
【0015】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明のドライクリーニング排水処理装置の一実施例を示すもので、封入型外部照射型の一例である。図中1は透明石英ガラスからなる反応容器を示し、該反応容器1内には光触媒を担持した織布2が配置され、該容器容器1内にテトラクロロエチレン含有排水を封入して攪拌羽根3により攪拌するようにした。さらに、該反応容器1の近傍に設けた光源4から光を照射してテトラクロロエチレンを分解し排水を浄化するように構成されている。
【0016】図2は流通型内部照射型のドライクリーニング排水処理装置の一例である。図中5は不透明ステンレスからなる反応容器を示し、該反応容器5内には光触媒を担持した織布2と光源4とが配置され、該反応容器5内に供給路6を介して排水貯蔵タンク7よりテトラクロロエチレン含有排水が供給され、排水路8を介して排水貯蔵タンク7に戻され、循環通過するように構成されている。なお、図中9は循環用のポンプを示す。
【0017】次に、前記図1に示す装置の使用例に即し、具体的な実施例を比較例と共に説明する。
(実施例1)反応容器1内にアナターゼ形酸化チタンからなる光触媒を3重量%担持したEガラス繊維製織布2(繊維径7μm,目付け490g/m2 ,打込み密度タテ31本/25mm,ヨコ24本/25mm,厚さ0.63mm,模紗織り)を30g配置し、さらに、テトラクロロエチレン含有排水450mlを封入した。このときのテトラクロロエチレン濃度をJIS K0125「用水・排水中の低分子量ハロゲン化炭化水素試験方法」の溶媒抽出・ガスクロマトグラフ法により測定したところ、500mg/lであった。なお、光源4としては松下電器産業(株)製20W殺菌灯GL−20を8本配置した。次いで、マグネチックスターラにより攪拌しながら約2時間光照射を行ったところ、排水中のテトラクロロエチレン濃度は0.1mg/l以下と低濃度になった。また、排水を随時入れ替えてこの操作を10回繰り返し行っても分解効率が低下することなく、同様の結果となった。
【0018】(比較例1)前記実施例で用いた光触媒を3重量%担持したEガラス繊維製織布2の代わりに活性炭30gを入れた以外は前記実施例1と同様の方法で試験を行ったところ、約2時間後のテトラクロロエチレン濃度は8mg/lとなった。また排水を随時入れ替えてこの操作を10回繰り返し行ったところ、回数を重ねる毎に効率は低下し10回目ではテトラクロロエチレンをほとんど除去できなかった。
【0019】上記、実施例1と比較例1の試験結果を表1にまとめた。なお、表中の数字は試験後の排水中のテトラクロロエチレン濃度をmg/lで示したものである。
【0020】
【表1】


【0021】
【発明の効果】このように、本発明によるドライクリーニング排水処理方法ならびに処理装置は、従来法と異なり織布に担持した光触媒によりテトラクロロエチレンを分解して排水を浄化する方法であるため、高効率でかつ繰り返し処理しても性能が低下しないといった効果を有する。また、織布を構成する繊維一本一本に均一にかつ強固なTi−O−Si結合で光触媒の酸化チタンを接合した場合、光触媒の剥離や脱落がなく、長期にわたり高効率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のドライクリーニング排水処理装置の一例の封入型外部照射型のモデル図である。
【図2】本発明のドライクリーニング排水処理装置の一例の流通型内部照射型のモデル図である。
【符号の説明】
1 透明石英ガラス反応容器
2 織布
3 攪拌羽根
4 光源
5 不透明ステンレス反応容器
6 供給路
7 排水貯蔵タンク
8 排出路
9 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 テトラクロロエチレンを使用するドライクリーニング機から排出される排水中のテトラクロロエチレンを、織布に担持した光触媒により分解して該排水を浄化することを特徴とするドライクリーニング排水処理方法。
【請求項2】 前記光触媒は酸化チタンであることを特徴とする請求項1記載のドライクリーニング排水処理方法。
【請求項3】 前記光触媒をTi−O−Si結合層を介して酸化珪素を含む無機質繊維からなる織布に担持させたものであることを特徴とする請求項2記載のドライクリーニング排水処理方法。
【請求項4】 テトラクロロエチレン含有排水を封入もしくは通過させる容器内に、織布に担持した光触媒を配置すると共に該光触媒に光を照射するための光源を備えたことを特徴とするドライクリーニング排水処理装置。
【請求項5】 前記光触媒は酸化チタンであることを特徴とする請求項4記載のドライクリーニング排水処理装置。
【請求項6】 前記光触媒をTi−O−Si結合層を介して酸化珪素を含む無機質繊維からなる織布に担持させたものであることを特徴とする請求項5記載のドライクリーニング排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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