ドライバービット
【課題】耐久性に優れたドライバービットを提供する。
【解決手段】ドライバービット10は、両端側に設けられた一対の刃先部12と、回転工具のソケット部に嵌り込んで回転工具からの回転力を受ける胴部14と、この胴部14の両端側に設けられた回転工具のソケット部における係止部材が嵌り込む一対の係止溝部16とを備える。刃先部12は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を有し、この傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面12Aと、第1の傾斜面12Aに連続した、刃の後端側の第2の傾斜面12Bとを含んで構成される。第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。
【解決手段】ドライバービット10は、両端側に設けられた一対の刃先部12と、回転工具のソケット部に嵌り込んで回転工具からの回転力を受ける胴部14と、この胴部14の両端側に設けられた回転工具のソケット部における係止部材が嵌り込む一対の係止溝部16とを備える。刃先部12は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を有し、この傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面12Aと、第1の傾斜面12Aに連続した、刃の後端側の第2の傾斜面12Bとを含んで構成される。第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具およびエアー工具等の回転工具に着脱自在に取り付けられ、回転トルクを伝達させてねじを締めたり弛めたりするために用いられるドライバービットに関し、特に、耐久性に優れたドライバービットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、十字溝がねじ頭に形成されたねじを回転させるためのドライバービットには、フィリップス型と呼ばれるものがある。このドライバービットの先端部には、平面視十字形状の刃(プラス型の刃)が設けられ、この刃は、その先端から後端にかけて徐々に太くなるように形成されている。
このようなドライバービットにおいて、ビット先端部に形成されるプラス型の刃は、規格(たとえば、JIS規格1番、2番、3番・・・)通りに形成されたねじなどのビット嵌入溝に合致するように設計されているため、一本のドライバーでは合致するビット嵌入溝を備えたねじなどしか良好に回動することができず不都合があった。
【0003】
特開2001−9744号公報(特許文献1)は、このような問題点を解決するプラスドライバーのビット構造を開示する。このビット構造は、先端形状が4枚の刃の夫々に段部が三段形成された形状に設定され、各刃の寸法(刃の高さおよび刃の巾)は一般的に使用頻度の高い3種類のねじなどのビット嵌入部に合致する寸法に設定される。第一刃はJIS規格でいう通称1番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)、第二刃はJIS規格でいう通称2番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)、第三刃はJIS規格でいう通称3番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)に設定されている。このように、大きさの異なる第一刃、第二刃および第三刃を設けたために、ねじなどのビット嵌入溝への嵌入深さを可変させるだけで、4枚の刃は種々のサイズのビットのビット嵌入溝に確実に合致させることができる。従って、一本のドライバーで、番手の異なるねじなどを、ビット嵌入溝を潰すことなく良好に回動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−9744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した公報に開示されたドライバービットは、以下の問題点がある。すなわち、このドライバービットの4枚の刃を側方から見た際の外縁軌跡は、傾斜直線ではなく、JIS規格でいう通称1番から通称3番の寸法に合致する3本の傾斜直線と、ビット軸芯線に対して直交する3本の直線とが交互に連設される外縁軌跡に設定されている。このため、傾斜直線と直線との交錯点において応力集中が発生し、通常のドライバービットよりも耐久性が低下する可能性がある。
【0006】
なお、このドライバービットで通称3番の寸法を有するねじを回動させる場合には、ビット嵌入溝の左右の壁面に第三刃のみが当接して、第一刃および第二刃は壁面に当接しない(図2参照)。このため、十分なトルクをねじに付与できないために、ねじが回動しないことが想定される。このように、一本のドライバーで(ビット嵌入溝を潰すことを回避できたとしても)、番手の異なるねじなどを回動させることは困難であることが想定される。さらに、このようなビット先端部の形状は、JIS規格に合致していないことが問題となる場合も想定される。このため、本願発明者は、一本のドライバーで、番手の異なるねじなどを回動させるという観点に着目するのではなく、耐久性の向上を目指して鋭意開発を進めてきた。
【0007】
本発明は、このように耐久性の向上を目指して開発されたもので、その目的とするところは、耐久性に優れたドライバービットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係るドライバービットは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する平面視十字形状の刃を有する。この刃は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を備える。この傾斜面は、少なくとも2つの傾斜面で構成されている。
【0009】
この構成によると、たとえば、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する刃の先端側の傾斜面よりも、刃の後端側の傾斜面を、垂直面における刃の断面積が大きいように構成すると、刃の断面積を従来よりも大きくできる。このため、ドライバービットの刃の強度を向上させて、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
ここで、傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面と、第1の傾斜面に連続した、刃の後端側の第2の傾斜面とを含むように構成することができる。この場合において、第2の傾斜面の方が第1の傾斜面よりも、垂直面における刃の断面積が大きいように構成することができる。
【0010】
この構成によると、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する刃の先端側の傾斜面よりも、刃の後端側の傾斜面を、垂直面における刃の断面積が大きいように構成すると、刃の断面積を従来よりも大きくできる。また、傾斜面が連続しているので応力集中の発生を回避できる。このため、ドライバービットの刃の強度を向上させて、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
【0011】
さらに、第1の傾斜面は、十字溝に嵌合する部分の傾斜面であるように、第2の傾斜面は、十字溝に嵌合しない部分の傾斜面であるように構成することができる。
この構成によると、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、ドライバービットの基本的な機能である、十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能を発現させつつ、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。なお、このように構成することにより、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、JIS規格に合致することになる。
【0012】
さらに、刃は、平面視で、第1の傾斜面を表す線の延長線と、第2の傾斜面を表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足するように構成することができる。
この構成によると、第2の傾斜面が極端に広がらないので、通常の製造方法でドライバービットを製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐久性に優れたドライバービットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るドライバービットの斜視図である。
【図2】図1のドライバービットの側面図(a)および正面図(b)である。
【図3】図2の状態からビット軸心方向で45°回転させたドライバービットの側面図(a)および正面図(b)である。
【図4】比較品のドライバービットの斜視図である。
【図5】図2のドライバービットの先端部の拡大図である。
【図6】図4のドライバービットの先端部の拡大図である。
【図7】図5に示すX−X断面図(a)、Y−Y断面図(b)、Z−Z断面図(c)である。
【図8】図6に示すU−U断面図(a)、V−V断面図(b)、W−W断面図(c)である。
【図9】トルク試験機を用いた繰り返し試験の結果を示す図である。
【図10】打ち込み試験機を用いた打ち込み試験の結果を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット(その1)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット(その2)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット(その1)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット(その2)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図15】本発明の第4の実施の形態に係るドライバービットの斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図16】本発明の第5の実施の形態に係るドライバービットの斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るドライバービットを、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下の説明では、異なる実施の形態であっても同一の部品(部分)には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
<第1の実施の形態>
[構造]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るドライバービット10の斜視図であって、図2(a)は、このドライバービット10の側面図であって、図2(b)はこのドライバービット10の正面図である。図3は、図2の状態からこのドライバービット10をビット軸心方向で45°回転させた状態を示す。これらの図に示すように、このドライバービット10は、本体の両端側に一対の刃先部12が形成されている両頭タイプのビットであって、この刃先部12は平面視で十字形状の刃を備える。なお、側面図が、平面視に対応している。
【0016】
また、本体の中間部分には、回転工具のソケット部に嵌り込んで回転工具からの回転力を受ける胴部14を有し、この胴部14の両端側には回転工具のソケット部における係止部材が嵌り込む一対の係止溝部16を備えている。
詳しくは、胴部14は断面六角形状であって、断面視で6つのR面取り形状の角部と、各角部間に形成された6つの辺面とを有している。この胴部14は、回転工具のソケット部における六角形状の装着孔に挿入可能となっている。
【0017】
胴部14の両端部には、断面凹形で円弧状の係止溝部16が本体の周方向に形成されている。この係止溝部16には、ソケット部の球状の係止部材が径内方向に突出して嵌り込むようになっている。
また、係止溝部16の断面直径は、胴部14の断面直径より小さいものとなっている。これにより、係止溝部16はねじり剛性の小さいトーション部として作用し、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができ、ドライバービット10の耐久性を向上させることができる。
【0018】
このドライバービット10の刃先部12は、一般的に広く用いられるフィリップス型と呼ばれ、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面(言い換えれば、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状)を備える。このような一般的なドライバービットの構造に加えて、本実施の形態に係るドライバービットは、以下のような特徴的な構造を備える。
【0019】
図1〜図3に示すように、このドライバービット10の傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面12Aと、第1の傾斜面12Aに連続した、刃の後端側の第2の傾斜面12Bとを含んで構成される。そして、第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。なお、傾斜面は3つ以上であっても構わない。
【0020】
さらに、第1の傾斜面12Aは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分に対応する傾斜面であって、第2の傾斜面12Bは、この十字溝に嵌合しない部分に対応する傾斜面である。
従来のドライバービットは、一定の傾斜角で、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状を備えることに対して、本実施の形態に係るドライバービット10は、傾斜角の異なる少なくとも2つの傾斜面を備え、それらが連続することが大きな特徴である。なお、上述した特許文献1の刃先においては、3つの傾斜面を備えているとしても、傾斜面は連続しないで、傾斜直線とビット軸芯線に対して直交する直線とが交互に連設されている点で(すなわち後述するθが90°程度にまで広がっている)、構造が大きく異なることを確認的に記載する。
【0021】
さらに、この構造上の特徴を、比較品と対比して、より詳しく説明する。比較品であるドライバービット100の斜視図を図4に示す。図5は、本実施の形態に係るドライバービット10の先端部の拡大図であって、図6は、図5に対応する図であって、比較品であるドライバービット100の先端部の拡大図である。
比較品であるドライバービット100も、本実施の形態に係るドライバービット10と刃先部以外は同じ構造を備え、胴部14に対応する胴部114、係止溝部16に対応する係止溝部116を備える。ドライバービット10はその先端に刃先部12を備えるのに対して、ドライバービット100はその先端に刃先部112を備える。
【0022】
これらの図に示すように、比較品であるドライバービット100の刃先部112は、一定の傾斜角で、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状を備えることに対して、本実施の形態に係るドライバービット10の刃先部12は、傾斜角の小さな(ビット先端側の)第1の傾斜面12Aと、傾斜角がより広がっている(刃先部12の後端側またはビット中央部側の)第2の傾斜面12Bとを備え、それらが連続している。このように傾斜角が設定されているので、第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。
【0023】
刃先部の断面図を参照して、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積について説明する。図7(a)は、図5に示すX−X断面図を、図7(b)は、同じくY−Y断面図、図7(c)は、同じくZ−Z断面図であって、図8(a)は、図6に示すU−U断面図を、図8(b)は、同じくV−V断面図、図8(c)は、同じくW−W断面図である。なお、Y−Y線およびV−V線は、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分とねじ頭に形成された十字溝に嵌合しない部分との境界線近傍になる。
【0024】
図7(a)に示すX−X断面と図8(a)に示すU−U断面とは同じであって、図7(b)に示すY−Y断面と図8(b)に示すV−V断面とは同じである。すなわち、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、ドライバービットの基本的な機能である、十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能、を満足させる構造を備えた断面となっている。一方、図7(c)に示すZ−Z断面と図8(c)に示すW−W断面とでは、その断面積が異なり、ドライバービット10の方がドライバービット100よりも断面積が大きくなっている。参考として、図7(c)にドライバービット100の刃先部112の断面外形線を点線で示す。
【0025】
ここで、第2の傾斜面12Bの広がりについて説明する。図5(a)の側面図に示すように、刃先部12は、平面視で(刃が十字形状に見える方向から見て)、第1の傾斜面12Aを表す線の延長線と、第2の傾斜面12Bを表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足する。なお、θ=46°となると、第2の傾斜面12Bを表す線が、刃先部12の溝と平行になる。θ>46°とすると、第2の傾斜面12Bを刃先部12の溝とともに加工することが困難になる点で好ましくない。
【0026】
[耐久性評価]
以上のような刃先部12の構造を備える本実施の形態に係るドライバービット10の耐久性を評価したので、以下に説明する。
図9は、繰り返し試験の結果を示す図であって、図10は、打ち込み試験の結果を示す図である。繰り返し試験は、トルク試験機を用いて、試験棒にドライバービット10の刃先部12を押し当てて、ドライバービット10に所定のトルクを付与する。所定のトルクを付与して、刃先部12が破壊するまでの繰り返し回数を計測した。打ち込み試験は、打ち込み試験機を用いて、所定の試験材に所定のドリルビスを打ち込み(所定のストロークかつ所定の時間間隔)、刃先部12が破壊するまでの打ち込み本数を計測した。なお、両方の試験とも、本実施の形態に係るドライバービット10(本製品)と比較品であるドライバービット100とについて計測した。N数は両試験とも5本(本製品も比較品も)ずつである。
【0027】
図9に示すように、繰り返し試験の結果、5本平均で、本製品が197.8回で、比較品が88.8回であった。このように、本製品は比較品の2.2倍以上の繰り返し回数となった。図10に示すように、打ち込み試験の結果、5本平均で、本製品が84.6回で、比較品が36.0回であった。このように、本製品は比較品の2.4倍以上の打ち込み回数となった。このように、いずれの試験でも2倍以上の計測結果が得られた。
【0028】
[作用効果]
上述の試験結果のように、比較品であるドライバービット100に対して、本実施の形態に係るドライバービット10は、その強度が向上している。これは、図7(c)に示すように、刃の後端側の第2の傾斜面12Bにおいて、比較品よりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きいことが主たる要因であると推察される。
【0029】
すなわち、ドライバービット10においては、刃の後端側の第2の傾斜面12Bにおける刃の断面積が大きいので、比較品よりも強度が向上したと考えられる。さらに、特許文献1に開示のドライバービットは、傾斜直線とビット軸芯線に対して直交する直線とが略90゜で交錯しているのに対して、ドライバービット10は、傾斜角の異なる2つの傾斜面が連続しているので(最大でも46°で曲がって連続しているので)、交錯点での応力集中も発生しないものと考えられる。
【0030】
なお、この第2の傾斜面12Bは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合しない部分であるので、ドライバービットの基本的な機能である、第1の傾斜面12Aが十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能を満足させることはいうまでもない。
以上のようにして、本実施の形態に係るドライバービット10によると、刃先部12の強度が向上するので、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
【0031】
<第2の実施の形態>
以下に、本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット20およびドライバービット30について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。
図11(a)は本実施の形態における1つの形態に係るドライバービット20の斜視図であって、図11(b)はその側面図であって、図11(c)はその正面図であって、図12(a)は本実施の形態における別の形態に係るドライバービット30の斜視図であって、図12(b)はその側面図であって、図12(c)は、その正面図である。
【0032】
これらの図に示すように、このドライバービット20はドライバービット10の胴部14の部分にトーション部28を備え、このドライバービット30は胴部34とは別にこの胴部34の両端側にトーション部38を備えている。
これらのトーション部28およびトーション部38の断面直径は、胴部の断面直径より小さいものとなっているためにねじり剛性が小さく、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができ、ドライバービット20およびドライバービット30の耐久性を向上させることができる。
【0033】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット20およびドライバービット30においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第3の実施の形態>
以下に、本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット40およびドライバービット50について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット40は、上述したドライバービット20のトーション部に樹脂ばねを設けたものであって、ドライバービット50は、上述したドライバービット30のトーション部に樹脂ばねを設けたものである。
【0034】
図13(a)は本実施の形態における1つの形態に係るドライバービット40の斜視図であって、図13(b)はその側面図であって、図13(c)はその正面図であって、図14(a)は本実施の形態における別の形態に係るドライバービット50の斜視図であって、図14(b)はその側面図であって、図14(c)は、その正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット40は、ドライバービット20のトーション部28に対応するトーション部48を備え、そのトーション部48に樹脂ばね42が巻着され、このドライバービット50は、ドライバービット30のトーション部38に対応するトーション部58を備え、そのトーション部58に樹脂ばね52が巻着されている。
【0035】
これらのトーション部48およびトーション部58の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。
トーション部48に巻着された樹脂ばね42およびトーション部58に巻着された樹脂ばね52は、それぞれのドライバービット40またはドライバービット50とインサート成型される。この樹脂ばね42および樹脂ばね52は、回転工具へのドライバービット40またはドライバービット50の取り付けの際に、および/または、回転工具からのドライバービット40またはドライバービット50の取り外しの際に、樹脂ばねの弾性力が作用するために、容易になるという作用効果を発現する。
【0036】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット40およびドライバービット50においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第4の実施の形態>
以下に、本発明の第4の実施の形態に係るドライバービット60について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット60は、上述したドライバービット40とは、樹脂ばねの取り付け方法(ドライバービットの製造方法)が異なるものである。なお、本実施の形態において、上述したドライバービット50に対応する形態を説明しないが、ドライバービット50に対応する形態としても構わない。
【0037】
図15(a)は本実施の形態に係るドライバービット60の斜視図であって、図15(b)はその側面図であって、図15(c)はその正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット60は、ドライバービット40のトーション部48に対応するトーション部68を備え、そのトーション部68に樹脂ばね62が巻着されている。
【0038】
これらのトーション部68の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。なお、樹脂ばねの形状(特に内径)が同じである場合には、トーション部68の断面直径はトーション部48の断面直径よりも小さいものとなる。
トーション部68に巻着された樹脂ばね62は、ドライバービット60とはインサート成型されないで、別体で製作される。このため、インサート成型される第3の実施の形態に係るドライバービット40のトーション部48の断面直径と異なる断面直径を備える。ドライバービット60とは別体に製造された樹脂ばね62は、広げられて刃先部12からトーション部68へ嵌め込まれる。このようにインサート成型ではないため、トーション部68と樹脂ばね62との間には、第3の実施の形態に係るドライバービットよりも大きな間隙が生じることになる。なお、このように間隙の相違はあるが、この樹脂ばね62も、回転工具へのドライバービット60の取り付けおよび/または取り外しが容易になるという作用効果を発現する点は、上述した実施の形態と同じである。
【0039】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット60においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第5の実施の形態>
以下に、本発明の第5の実施の形態に係るドライバービット70について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット70は、上述したドライバービット40の片頭タイプのものである。なお、本実施の形態において、上述したドライバービット50およびドライバービット60に対応する形態を説明しないが、ドライバービット50に対応する形態(ドライバービット50の片頭タイプ)としても構わないし、ドライバービット60(ドライバービット60の片頭タイプ)に対応する形態としても構わない。
【0040】
図16(a)は本実施の形態に係るドライバービット70の斜視図であって、図16(b)はその側面図であって、図16(c)はその正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット70は、ドライバービット40の片頭タイプである。トーション部48に対応するトーション部78を備え、そのトーション部78に樹脂ばね72が巻着されている。
【0041】
これらのトーション部78の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。
トーション部78に巻着された樹脂ばね72は、ドライバービット70とインサート成型されるものである。この樹脂ばね72も、回転工具へのドライバービット70の取り付けおよび/または取り外しが容易になるという作用効果を発現する点は、上述した実施の形態と同じである。
【0042】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット70においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<その他の実施の形態>
本実施の形態に係るドライバービットの特徴的な構造は、刃先部12の形状(第1の傾斜面12Aおよび第2の傾斜面12B)である。このため、上述した形態に留まらず、この刃先部12を備えれば、片頭タイプであってトーション部を有さないドライバービットであっても構わないし、インチビット(短いビット)であっても構わない。
【0043】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、回転工具用のドライバービットに好適に適用することができるが、十字溝がねじ頭に形成されたねじなど回動させる工具全般に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 ドライバービット(第1の実施の形態)
12 刃先部
12A 第1の傾斜面
12B 第2の傾斜面
14 胴部
16 係止溝部
20 ドライバービット(第2の実施の形態)
30 ドライバービット(第2の実施の形態)
40 ドライバービット(第3の実施の形態)
50 ドライバービット(第3の実施の形態)
60 ドライバービット(第4の実施の形態)
70 ドライバービット(第5の実施の形態)
100 ドライバービット(比較品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具およびエアー工具等の回転工具に着脱自在に取り付けられ、回転トルクを伝達させてねじを締めたり弛めたりするために用いられるドライバービットに関し、特に、耐久性に優れたドライバービットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、十字溝がねじ頭に形成されたねじを回転させるためのドライバービットには、フィリップス型と呼ばれるものがある。このドライバービットの先端部には、平面視十字形状の刃(プラス型の刃)が設けられ、この刃は、その先端から後端にかけて徐々に太くなるように形成されている。
このようなドライバービットにおいて、ビット先端部に形成されるプラス型の刃は、規格(たとえば、JIS規格1番、2番、3番・・・)通りに形成されたねじなどのビット嵌入溝に合致するように設計されているため、一本のドライバーでは合致するビット嵌入溝を備えたねじなどしか良好に回動することができず不都合があった。
【0003】
特開2001−9744号公報(特許文献1)は、このような問題点を解決するプラスドライバーのビット構造を開示する。このビット構造は、先端形状が4枚の刃の夫々に段部が三段形成された形状に設定され、各刃の寸法(刃の高さおよび刃の巾)は一般的に使用頻度の高い3種類のねじなどのビット嵌入部に合致する寸法に設定される。第一刃はJIS規格でいう通称1番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)、第二刃はJIS規格でいう通称2番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)、第三刃はJIS規格でいう通称3番の寸法(刃の高さ及び刃の巾)に設定されている。このように、大きさの異なる第一刃、第二刃および第三刃を設けたために、ねじなどのビット嵌入溝への嵌入深さを可変させるだけで、4枚の刃は種々のサイズのビットのビット嵌入溝に確実に合致させることができる。従って、一本のドライバーで、番手の異なるねじなどを、ビット嵌入溝を潰すことなく良好に回動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−9744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した公報に開示されたドライバービットは、以下の問題点がある。すなわち、このドライバービットの4枚の刃を側方から見た際の外縁軌跡は、傾斜直線ではなく、JIS規格でいう通称1番から通称3番の寸法に合致する3本の傾斜直線と、ビット軸芯線に対して直交する3本の直線とが交互に連設される外縁軌跡に設定されている。このため、傾斜直線と直線との交錯点において応力集中が発生し、通常のドライバービットよりも耐久性が低下する可能性がある。
【0006】
なお、このドライバービットで通称3番の寸法を有するねじを回動させる場合には、ビット嵌入溝の左右の壁面に第三刃のみが当接して、第一刃および第二刃は壁面に当接しない(図2参照)。このため、十分なトルクをねじに付与できないために、ねじが回動しないことが想定される。このように、一本のドライバーで(ビット嵌入溝を潰すことを回避できたとしても)、番手の異なるねじなどを回動させることは困難であることが想定される。さらに、このようなビット先端部の形状は、JIS規格に合致していないことが問題となる場合も想定される。このため、本願発明者は、一本のドライバーで、番手の異なるねじなどを回動させるという観点に着目するのではなく、耐久性の向上を目指して鋭意開発を進めてきた。
【0007】
本発明は、このように耐久性の向上を目指して開発されたもので、その目的とするところは、耐久性に優れたドライバービットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係るドライバービットは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する平面視十字形状の刃を有する。この刃は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を備える。この傾斜面は、少なくとも2つの傾斜面で構成されている。
【0009】
この構成によると、たとえば、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する刃の先端側の傾斜面よりも、刃の後端側の傾斜面を、垂直面における刃の断面積が大きいように構成すると、刃の断面積を従来よりも大きくできる。このため、ドライバービットの刃の強度を向上させて、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
ここで、傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面と、第1の傾斜面に連続した、刃の後端側の第2の傾斜面とを含むように構成することができる。この場合において、第2の傾斜面の方が第1の傾斜面よりも、垂直面における刃の断面積が大きいように構成することができる。
【0010】
この構成によると、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する刃の先端側の傾斜面よりも、刃の後端側の傾斜面を、垂直面における刃の断面積が大きいように構成すると、刃の断面積を従来よりも大きくできる。また、傾斜面が連続しているので応力集中の発生を回避できる。このため、ドライバービットの刃の強度を向上させて、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
【0011】
さらに、第1の傾斜面は、十字溝に嵌合する部分の傾斜面であるように、第2の傾斜面は、十字溝に嵌合しない部分の傾斜面であるように構成することができる。
この構成によると、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、ドライバービットの基本的な機能である、十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能を発現させつつ、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。なお、このように構成することにより、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、JIS規格に合致することになる。
【0012】
さらに、刃は、平面視で、第1の傾斜面を表す線の延長線と、第2の傾斜面を表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足するように構成することができる。
この構成によると、第2の傾斜面が極端に広がらないので、通常の製造方法でドライバービットを製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐久性に優れたドライバービットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るドライバービットの斜視図である。
【図2】図1のドライバービットの側面図(a)および正面図(b)である。
【図3】図2の状態からビット軸心方向で45°回転させたドライバービットの側面図(a)および正面図(b)である。
【図4】比較品のドライバービットの斜視図である。
【図5】図2のドライバービットの先端部の拡大図である。
【図6】図4のドライバービットの先端部の拡大図である。
【図7】図5に示すX−X断面図(a)、Y−Y断面図(b)、Z−Z断面図(c)である。
【図8】図6に示すU−U断面図(a)、V−V断面図(b)、W−W断面図(c)である。
【図9】トルク試験機を用いた繰り返し試験の結果を示す図である。
【図10】打ち込み試験機を用いた打ち込み試験の結果を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット(その1)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット(その2)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図13】本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット(その1)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット(その2)の斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図15】本発明の第4の実施の形態に係るドライバービットの斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【図16】本発明の第5の実施の形態に係るドライバービットの斜視図(a)、側面図(b)および正面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るドライバービットを、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下の説明では、異なる実施の形態であっても同一の部品(部分)には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
<第1の実施の形態>
[構造]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るドライバービット10の斜視図であって、図2(a)は、このドライバービット10の側面図であって、図2(b)はこのドライバービット10の正面図である。図3は、図2の状態からこのドライバービット10をビット軸心方向で45°回転させた状態を示す。これらの図に示すように、このドライバービット10は、本体の両端側に一対の刃先部12が形成されている両頭タイプのビットであって、この刃先部12は平面視で十字形状の刃を備える。なお、側面図が、平面視に対応している。
【0016】
また、本体の中間部分には、回転工具のソケット部に嵌り込んで回転工具からの回転力を受ける胴部14を有し、この胴部14の両端側には回転工具のソケット部における係止部材が嵌り込む一対の係止溝部16を備えている。
詳しくは、胴部14は断面六角形状であって、断面視で6つのR面取り形状の角部と、各角部間に形成された6つの辺面とを有している。この胴部14は、回転工具のソケット部における六角形状の装着孔に挿入可能となっている。
【0017】
胴部14の両端部には、断面凹形で円弧状の係止溝部16が本体の周方向に形成されている。この係止溝部16には、ソケット部の球状の係止部材が径内方向に突出して嵌り込むようになっている。
また、係止溝部16の断面直径は、胴部14の断面直径より小さいものとなっている。これにより、係止溝部16はねじり剛性の小さいトーション部として作用し、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができ、ドライバービット10の耐久性を向上させることができる。
【0018】
このドライバービット10の刃先部12は、一般的に広く用いられるフィリップス型と呼ばれ、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面(言い換えれば、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状)を備える。このような一般的なドライバービットの構造に加えて、本実施の形態に係るドライバービットは、以下のような特徴的な構造を備える。
【0019】
図1〜図3に示すように、このドライバービット10の傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面12Aと、第1の傾斜面12Aに連続した、刃の後端側の第2の傾斜面12Bとを含んで構成される。そして、第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。なお、傾斜面は3つ以上であっても構わない。
【0020】
さらに、第1の傾斜面12Aは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分に対応する傾斜面であって、第2の傾斜面12Bは、この十字溝に嵌合しない部分に対応する傾斜面である。
従来のドライバービットは、一定の傾斜角で、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状を備えることに対して、本実施の形態に係るドライバービット10は、傾斜角の異なる少なくとも2つの傾斜面を備え、それらが連続することが大きな特徴である。なお、上述した特許文献1の刃先においては、3つの傾斜面を備えているとしても、傾斜面は連続しないで、傾斜直線とビット軸芯線に対して直交する直線とが交互に連設されている点で(すなわち後述するθが90°程度にまで広がっている)、構造が大きく異なることを確認的に記載する。
【0021】
さらに、この構造上の特徴を、比較品と対比して、より詳しく説明する。比較品であるドライバービット100の斜視図を図4に示す。図5は、本実施の形態に係るドライバービット10の先端部の拡大図であって、図6は、図5に対応する図であって、比較品であるドライバービット100の先端部の拡大図である。
比較品であるドライバービット100も、本実施の形態に係るドライバービット10と刃先部以外は同じ構造を備え、胴部14に対応する胴部114、係止溝部16に対応する係止溝部116を備える。ドライバービット10はその先端に刃先部12を備えるのに対して、ドライバービット100はその先端に刃先部112を備える。
【0022】
これらの図に示すように、比較品であるドライバービット100の刃先部112は、一定の傾斜角で、刃の先端から後端にかけて徐々に太くなる形状を備えることに対して、本実施の形態に係るドライバービット10の刃先部12は、傾斜角の小さな(ビット先端側の)第1の傾斜面12Aと、傾斜角がより広がっている(刃先部12の後端側またはビット中央部側の)第2の傾斜面12Bとを備え、それらが連続している。このように傾斜角が設定されているので、第2の傾斜面12Bの方が第1の傾斜面12Aよりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きい。
【0023】
刃先部の断面図を参照して、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積について説明する。図7(a)は、図5に示すX−X断面図を、図7(b)は、同じくY−Y断面図、図7(c)は、同じくZ−Z断面図であって、図8(a)は、図6に示すU−U断面図を、図8(b)は、同じくV−V断面図、図8(c)は、同じくW−W断面図である。なお、Y−Y線およびV−V線は、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分とねじ頭に形成された十字溝に嵌合しない部分との境界線近傍になる。
【0024】
図7(a)に示すX−X断面と図8(a)に示すU−U断面とは同じであって、図7(b)に示すY−Y断面と図8(b)に示すV−V断面とは同じである。すなわち、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する部分については、ドライバービットの基本的な機能である、十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能、を満足させる構造を備えた断面となっている。一方、図7(c)に示すZ−Z断面と図8(c)に示すW−W断面とでは、その断面積が異なり、ドライバービット10の方がドライバービット100よりも断面積が大きくなっている。参考として、図7(c)にドライバービット100の刃先部112の断面外形線を点線で示す。
【0025】
ここで、第2の傾斜面12Bの広がりについて説明する。図5(a)の側面図に示すように、刃先部12は、平面視で(刃が十字形状に見える方向から見て)、第1の傾斜面12Aを表す線の延長線と、第2の傾斜面12Bを表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足する。なお、θ=46°となると、第2の傾斜面12Bを表す線が、刃先部12の溝と平行になる。θ>46°とすると、第2の傾斜面12Bを刃先部12の溝とともに加工することが困難になる点で好ましくない。
【0026】
[耐久性評価]
以上のような刃先部12の構造を備える本実施の形態に係るドライバービット10の耐久性を評価したので、以下に説明する。
図9は、繰り返し試験の結果を示す図であって、図10は、打ち込み試験の結果を示す図である。繰り返し試験は、トルク試験機を用いて、試験棒にドライバービット10の刃先部12を押し当てて、ドライバービット10に所定のトルクを付与する。所定のトルクを付与して、刃先部12が破壊するまでの繰り返し回数を計測した。打ち込み試験は、打ち込み試験機を用いて、所定の試験材に所定のドリルビスを打ち込み(所定のストロークかつ所定の時間間隔)、刃先部12が破壊するまでの打ち込み本数を計測した。なお、両方の試験とも、本実施の形態に係るドライバービット10(本製品)と比較品であるドライバービット100とについて計測した。N数は両試験とも5本(本製品も比較品も)ずつである。
【0027】
図9に示すように、繰り返し試験の結果、5本平均で、本製品が197.8回で、比較品が88.8回であった。このように、本製品は比較品の2.2倍以上の繰り返し回数となった。図10に示すように、打ち込み試験の結果、5本平均で、本製品が84.6回で、比較品が36.0回であった。このように、本製品は比較品の2.4倍以上の打ち込み回数となった。このように、いずれの試験でも2倍以上の計測結果が得られた。
【0028】
[作用効果]
上述の試験結果のように、比較品であるドライバービット100に対して、本実施の形態に係るドライバービット10は、その強度が向上している。これは、図7(c)に示すように、刃の後端側の第2の傾斜面12Bにおいて、比較品よりも、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が大きいことが主たる要因であると推察される。
【0029】
すなわち、ドライバービット10においては、刃の後端側の第2の傾斜面12Bにおける刃の断面積が大きいので、比較品よりも強度が向上したと考えられる。さらに、特許文献1に開示のドライバービットは、傾斜直線とビット軸芯線に対して直交する直線とが略90゜で交錯しているのに対して、ドライバービット10は、傾斜角の異なる2つの傾斜面が連続しているので(最大でも46°で曲がって連続しているので)、交錯点での応力集中も発生しないものと考えられる。
【0030】
なお、この第2の傾斜面12Bは、ねじ頭に形成された十字溝に嵌合しない部分であるので、ドライバービットの基本的な機能である、第1の傾斜面12Aが十字溝に嵌合してねじに回転トルクを十分に伝達する機能を満足させることはいうまでもない。
以上のようにして、本実施の形態に係るドライバービット10によると、刃先部12の強度が向上するので、ドライバービットの耐久性を向上させることができる。
【0031】
<第2の実施の形態>
以下に、本発明の第2の実施の形態に係るドライバービット20およびドライバービット30について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。
図11(a)は本実施の形態における1つの形態に係るドライバービット20の斜視図であって、図11(b)はその側面図であって、図11(c)はその正面図であって、図12(a)は本実施の形態における別の形態に係るドライバービット30の斜視図であって、図12(b)はその側面図であって、図12(c)は、その正面図である。
【0032】
これらの図に示すように、このドライバービット20はドライバービット10の胴部14の部分にトーション部28を備え、このドライバービット30は胴部34とは別にこの胴部34の両端側にトーション部38を備えている。
これらのトーション部28およびトーション部38の断面直径は、胴部の断面直径より小さいものとなっているためにねじり剛性が小さく、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができ、ドライバービット20およびドライバービット30の耐久性を向上させることができる。
【0033】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット20およびドライバービット30においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第3の実施の形態>
以下に、本発明の第3の実施の形態に係るドライバービット40およびドライバービット50について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット40は、上述したドライバービット20のトーション部に樹脂ばねを設けたものであって、ドライバービット50は、上述したドライバービット30のトーション部に樹脂ばねを設けたものである。
【0034】
図13(a)は本実施の形態における1つの形態に係るドライバービット40の斜視図であって、図13(b)はその側面図であって、図13(c)はその正面図であって、図14(a)は本実施の形態における別の形態に係るドライバービット50の斜視図であって、図14(b)はその側面図であって、図14(c)は、その正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット40は、ドライバービット20のトーション部28に対応するトーション部48を備え、そのトーション部48に樹脂ばね42が巻着され、このドライバービット50は、ドライバービット30のトーション部38に対応するトーション部58を備え、そのトーション部58に樹脂ばね52が巻着されている。
【0035】
これらのトーション部48およびトーション部58の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。
トーション部48に巻着された樹脂ばね42およびトーション部58に巻着された樹脂ばね52は、それぞれのドライバービット40またはドライバービット50とインサート成型される。この樹脂ばね42および樹脂ばね52は、回転工具へのドライバービット40またはドライバービット50の取り付けの際に、および/または、回転工具からのドライバービット40またはドライバービット50の取り外しの際に、樹脂ばねの弾性力が作用するために、容易になるという作用効果を発現する。
【0036】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット40およびドライバービット50においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第4の実施の形態>
以下に、本発明の第4の実施の形態に係るドライバービット60について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット60は、上述したドライバービット40とは、樹脂ばねの取り付け方法(ドライバービットの製造方法)が異なるものである。なお、本実施の形態において、上述したドライバービット50に対応する形態を説明しないが、ドライバービット50に対応する形態としても構わない。
【0037】
図15(a)は本実施の形態に係るドライバービット60の斜視図であって、図15(b)はその側面図であって、図15(c)はその正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット60は、ドライバービット40のトーション部48に対応するトーション部68を備え、そのトーション部68に樹脂ばね62が巻着されている。
【0038】
これらのトーション部68の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。なお、樹脂ばねの形状(特に内径)が同じである場合には、トーション部68の断面直径はトーション部48の断面直径よりも小さいものとなる。
トーション部68に巻着された樹脂ばね62は、ドライバービット60とはインサート成型されないで、別体で製作される。このため、インサート成型される第3の実施の形態に係るドライバービット40のトーション部48の断面直径と異なる断面直径を備える。ドライバービット60とは別体に製造された樹脂ばね62は、広げられて刃先部12からトーション部68へ嵌め込まれる。このようにインサート成型ではないため、トーション部68と樹脂ばね62との間には、第3の実施の形態に係るドライバービットよりも大きな間隙が生じることになる。なお、このように間隙の相違はあるが、この樹脂ばね62も、回転工具へのドライバービット60の取り付けおよび/または取り外しが容易になるという作用効果を発現する点は、上述した実施の形態と同じである。
【0039】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット60においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<第5の実施の形態>
以下に、本発明の第5の実施の形態に係るドライバービット70について説明する。ドライバービットの構造において、上述の説明と重複する部分については同じ符号を付してあるので、ここでは繰り返さない。大略的には、本実施の形態に係るドライバービット70は、上述したドライバービット40の片頭タイプのものである。なお、本実施の形態において、上述したドライバービット50およびドライバービット60に対応する形態を説明しないが、ドライバービット50に対応する形態(ドライバービット50の片頭タイプ)としても構わないし、ドライバービット60(ドライバービット60の片頭タイプ)に対応する形態としても構わない。
【0040】
図16(a)は本実施の形態に係るドライバービット70の斜視図であって、図16(b)はその側面図であって、図16(c)はその正面図である。
これらの図に示すように、このドライバービット70は、ドライバービット40の片頭タイプである。トーション部48に対応するトーション部78を備え、そのトーション部78に樹脂ばね72が巻着されている。
【0041】
これらのトーション部78の断面直径も、胴部の断面直径より小さいものとなっていて、刃先部12に加わる過剰な負荷をねじりに変えて吸収することができる点は、上述した実施の形態と同じである。
トーション部78に巻着された樹脂ばね72は、ドライバービット70とインサート成型されるものである。この樹脂ばね72も、回転工具へのドライバービット70の取り付けおよび/または取り外しが容易になるという作用効果を発現する点は、上述した実施の形態と同じである。
【0042】
その他の構造、特に刃先部12の構造は、上述した実施の形態と同じである。このため、本実施の形態に係るドライバービット70においても、刃先部12の強度が向上するので、耐久性を向上させることができる。
<その他の実施の形態>
本実施の形態に係るドライバービットの特徴的な構造は、刃先部12の形状(第1の傾斜面12Aおよび第2の傾斜面12B)である。このため、上述した形態に留まらず、この刃先部12を備えれば、片頭タイプであってトーション部を有さないドライバービットであっても構わないし、インチビット(短いビット)であっても構わない。
【0043】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、回転工具用のドライバービットに好適に適用することができるが、十字溝がねじ頭に形成されたねじなど回動させる工具全般に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 ドライバービット(第1の実施の形態)
12 刃先部
12A 第1の傾斜面
12B 第2の傾斜面
14 胴部
16 係止溝部
20 ドライバービット(第2の実施の形態)
30 ドライバービット(第2の実施の形態)
40 ドライバービット(第3の実施の形態)
50 ドライバービット(第3の実施の形態)
60 ドライバービット(第4の実施の形態)
70 ドライバービット(第5の実施の形態)
100 ドライバービット(比較品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する平面視十字形状の刃を有するドライバービットであって、
前記刃は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を備え、
前記傾斜面は、少なくとも2つの傾斜面で構成されていることを特徴とする、ドライバービット。
【請求項2】
前記傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面と、前記第1の傾斜面に連続した、刃の後端側の第2の傾斜面とを含み、
前記第2の傾斜面の方が前記第1の傾斜面よりも、前記垂直面における刃の断面積が大きいことを特徴とする、請求項1に記載のドライバービット。
【請求項3】
前記第1の傾斜面は、前記十字溝に嵌合する部分の傾斜面であって、
前記第2の傾斜面は、前記十字溝に嵌合しない部分の傾斜面であることを特徴とする、請求項2に記載のドライバービット。
【請求項4】
前記刃は、平面視で、前記第1の傾斜面を表す線の延長線と、前記第2の傾斜面を表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のドライバービット。
【請求項1】
ねじ頭に形成された十字溝に嵌合する平面視十字形状の刃を有するドライバービットであって、
前記刃は、ビット軸芯線に対する垂直面における刃の断面積が先端に行くに従い先細りとなる傾斜面を備え、
前記傾斜面は、少なくとも2つの傾斜面で構成されていることを特徴とする、ドライバービット。
【請求項2】
前記傾斜面は、ビット先端側の第1の傾斜面と、前記第1の傾斜面に連続した、刃の後端側の第2の傾斜面とを含み、
前記第2の傾斜面の方が前記第1の傾斜面よりも、前記垂直面における刃の断面積が大きいことを特徴とする、請求項1に記載のドライバービット。
【請求項3】
前記第1の傾斜面は、前記十字溝に嵌合する部分の傾斜面であって、
前記第2の傾斜面は、前記十字溝に嵌合しない部分の傾斜面であることを特徴とする、請求項2に記載のドライバービット。
【請求項4】
前記刃は、平面視で、前記第1の傾斜面を表す線の延長線と、前記第2の傾斜面を表す線とが交錯する鋭角θが、0<θ≦46°を満足することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のドライバービット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−49100(P2013−49100A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187250(P2011−187250)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000232597)株式会社ベッセル工業 (27)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000232597)株式会社ベッセル工業 (27)
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