説明

ドラフト装置及び紡績機

【課題】クレードルを任意の離間位置で停止させることのできるドラフト装置、及び紡績機を提供する。
【解決手段】複数のトップローラを回転可能に支持するクレードル31と、クレードル31を、複数のトップローラと複数のボトムローラが接触する接触位置と、複数のトップローラのうち少なくともいずれかがボトムローラから離間される離間位置と、に回動自在とする回動軸33と、クレードル31を回動動作において任意の離間位置で停止したときに、クレードル31の停止に伴ってクレードル31の離間位置での保持を行なう保持部TLと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフト装置及びドラフト装置を備えた紡績機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドラフト装置で繊維束をドラフト(牽伸)するとともに、ドラフトされた繊維束を撚ることで紡績糸を製造する紡績ユニットや紡績機が知られている。
【0003】
ドラフト装置は、繊維束のドラフト方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対、ミドルローラ対、フロントローラ対等の複数のローラ対を備えている。各ローラ対は、駆動ローラであるボトムローラと、ボトムローラに接触して従動回転するトップローラとで構成される。各トップローラはドラフトクレードル(以下、単にクレードルという)に一体的に保持されている。各ボトムローラは、装置フレームに一体的に保持されている。
【0004】
クレードルは回動軸を中心として装置フレームに対して回動自在である。このため、クレードルを回動させることで、各トップローラは、各ボトムローラに対して接離する。クレードルを閉じて各トップローラが各ボトムローラと接触している位置を接触位置とし、メンテナンス等のためクレードルを開いて各トップローラが各ボトムローラと離間している位置を離間位置とする。
【0005】
クレードルには、クレードルを離間位置で停止できるように、回動軸に保持部が設けられている。複数の開き角度の離間位置でクレードルを停止できるよう、保持部としてラッチ機構を用いた技術も公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、上記従来のクレードルでは、ラッチ機構は所定の開き角度の離間位置でしか作動しないため、クレードルを任意の開き角度の離間位置で停止させることはできない。このため、メンテナンス等の作業内容に適した開き角度の離間位置では停止できない場合があり、作業性が低い。
【0007】
また、クレードルを離間位置で停止するには、ラッチ機構が作動する所定の開き角度までクレードルを回動させなければならない。ところがオペレータがクレードルを開き方向に回動させて、ラッチ機構が作動したと思っても実際には所定の開き角度まで達しておらず、ラッチ機構が作動していない場合がある。ここでオペレータがクレードルから手を離すとクレードルが閉じてしまう。このため、オペレータはラッチ機構が作動したかどうかを確認しながらクレードルの回動動作を行わなくてはならない。
【0008】
一方、メンテナンス等が終了してクレードルを離間位置から接触位置に戻す場合には、ラッチ機構を解除する必要がある。ラッチ機構を解除するには、一旦クレードルを開く方向に回動させなければならない。この動作は、クレードルを閉じるための動作であるにも関わらず、反対方向の開く方向に回動させる動作であるため、オペレータにとって不自然な動作である。
【0009】
更に、ラッチ機構は、一旦ラッチ機構を解除するとクレードルを接触位置まで戻さなければラッチ機構が作動しない。このためクレードルを開き角度の大きい離間位置から、開き角度の小さい離間位置に変更させたい場合に、直接クレードルを閉じる方向に回動させただけではラッチ機構は作動せず、クレードルを離間位置で停止させることはできない。このような場合には、開き角度の大きい離間位置から一旦クレードルを接触位置まで戻し、再度開き角度の小さい離間位置までクレードルを開放する回動動作を行わなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−45222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものである。本発明の第1の目的は、クレードルを任意の離間位置で停止させることのできるドラフト装置、及び紡績機を提供することである。本発明の第2の目的は、ラッチ機構の場合のように、保持部が作動したかどうかを確認する必要のないドラフト装置、及び紡績機を提供することである。本発明の第3の目的は、オペレータにとって自然な動作でクレードルの開閉を行うことができるドラフト装置、及び紡績機を提供することである。本発明の第4の目的は、クレードルを開き角度の大きい離間位置から、開き角度の小さい離間位置に変更させたい場合に、開き角度の大きい離間位置から開き角度の小さい離間位置に直接クレードルを移動させることのできるドラフト装置、及び紡績機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、第1の発明のドラフト装置は、繊維束をドラフトするトップローラとボトムローラとからなるローラ対を複数備え、クレードルと、回動軸と、保持部と、を備える。クレードルは、複数のトップローラを回転可能に支持する。回動軸は、クレードルを、複数のトップローラと複数のボトムローラが接触する接触位置と、複数のトップローラのうち少なくともいずれかがボトムローラから離間される離間位置と、に回動自在とする。保持部は、クレードルを回動動作において任意の離間位置で停止したときに、クレードルの停止に伴ってクレードルの離間位置での保持を行なう。
【0014】
第2の発明のドラフト装置は、第1の発明のドラフト装置であって、保持部は、クレードルが自重で接触位置に移動する力よりも大きい力に対してクレードルが移動可能になるように構成されている。
【0015】
第3の発明のドラフト装置は、第1又は第2の発明のドラフト装置であって、保持部は、トルクリミッタである。
【0016】
第4の発明は、第3の発明のドラフト装置であって、トルクリミッタは、スリーブと、カラーと、内側バネと、外側バネと、を備える。スリーブは、回動軸の外周に固定される。カラーは、スリーブの外周に配置される。内側バネは、カラーとスリーブの間に配置される。外側バネは、カラーの外側に配置され、クレードルに接続される。トルクリミッタは、クレードルが接触位置又は任意の離間位置から接触位置から離れる方向に移動する場合には、外側バネが緩み、カラーは移動しないように構成されている。また、トルクリミッタは、クレードルが任意の離間位置から接触位置に近付く方向に移動する場合には、外側バネが絞まり、カラーに力が掛かることにより内側バネがスリーブに対して緩み、内側バネとカラーとが動くように構成されている。
【0017】
第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明のドラフト装置であって、クレードルは、独立して繊維束をドラフト可能な2列のローラ対のトップローラを支持するように構成されている。
【0018】
第6の発明の紡績機は、第1から第5のいずれかの発明のドラフト装置と、空気紡績装置と、を備える。空気紡績装置は、ドラフト装置でドラフトされた繊維束を旋回気流にて紡績して紡績糸を生成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0020】
第1の発明によれば、ドラフト装置は、クレードルを回動動作において任意の離間位置で停止したときに、クレードルの停止に伴ってクレードルの離間位置での保持を行なう保持部を備える。このため、クレードルを任意の離間位置で停止させることができ、作業性が良い。また、オペレータがどの位置でクレードルから手を離しても保持部が作動してクレードルが停止するため、ラッチ機構の場合のように、保持部が作動したかどうかを確認する必要がない。クレードルを離間位置から接触位置に戻す場合には、クレードルを閉じる方向に回動させるだけでよいため、オペレータにとって自然な動作でクレードルの開閉を行うことができる。
【0021】
第2の発明によれば、保持部は、クレードルが自重で接触位置に移動する力よりも大きい力に対してクレードルが移動可能になるように構成されている。このため、クレードルの開き角度が大きくなる方向にクレードルの離間位置を変更する場合には、クレードルを開放する方向に回動させ、任意の離間位置で停止させれば、その任意の離間位置でクレードルを停止させることができる。また、クレードルの開き角度が小さくなる方向にクレードルの離間位置を変更する場合であっても、クレードルを閉じる方向に回動させ、任意の離間位置で停止させれば、その任意の離間位置でクレードルを停止させることができる。
【0022】
第3の発明によれば、保持部は、トルクリミッタである。このため、簡単な構成により、クレードルを任意の離間位置で停止させることができる。
【0023】
第4の発明によれば、トルクリミッタは、スリーブと、カラーと、内側バネと、外側バネとから構成される。トルクリミッタは、クレードルが接触位置又は任意の離間位置から接触位置から離れる方向に移動する場合には、外側バネが緩み、カラーは移動しないように構成されている。クレードルが任意の離間位置から接触位置に近付く方向に移動する場合には、外側バネが絞まり、カラーに力が掛かることにより内側バネがスリーブに対して緩み内側バネとカラーとが動くように構成されている。このため、簡単な構成のトルクリミッタにより、クレードルを任意の離間位置で確実に停止させることができる。
【0024】
第5の発明によれば、クレードルは、独立して繊維束をドラフト可能な2列のローラ対のトップローラを支持するように構成されている。このため、2列の繊維束をドラフトする構成において、トップローラを同時に接触位置と離間位置との間の任意の位置で停止させることができる。
【0025】
第6の発明によれば、紡績機は、ドラフト装置と空気紡績装置とを備える。空気紡績装置を備えた紡績機では、一般的にドラフト速度は速く、メンテナンス等のためにクレードルを開閉する頻度が比較的高い。このため、任意の離間位置で確実に停止させることができるクレードルを備えることにより、メンテナンス等の作業性が向上し、紡績機の運転効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る紡績機Mの正面図。
【図2】紡績ユニットUの側面簡略図。
【図3】本発明の実施形態に係る、接触位置にあるドラフト装置Dの側面図。
【図4】ドラフト装置Dの一部を破断した平面簡略図。
【図5】トルクリミッタTLの分解図。
【図6】トルクリミッタTLの動作状態を説明する断面図。
【図7】図4のA―A線における断面図であって、(A)クレードル31が接触位置にある状態を示す図(B)クレードル31が離間位置にある状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例1に係るドラフト装置D及び紡績機Mについて、図1から図7を用いて説明する。
【0029】
まず紡績機Mの概略について説明する。尚、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績ユニットUにおける繊維束F、紡績糸Yの走行方向における上流及び下流を意味するものとする。
【0030】
図1及び図2に示すように、紡績機Mは、複数並設された紡績ユニットU、糸継台車3、ブロアボックス4、原動機ボックス5を備えている。各紡績ユニットUは主として、ドラフト装置D、紡績装置11、ヤーンクリアラ12、糸弛み取り装置13、巻取装置21を備えている。
【0031】
図2に示すように、ドラフト装置Dは、紡績ユニットUの後部に配置されるケンス(図示せず)からトランペットTを介して供給される繊維束(スライバ)Fをドラフトするものである。本実施形態のドラフト装置Dは、繊維束Fの上流から下流に向けて段々送り速度が速くなる複数のローラ対Rを備えている。ローラ対Rは、それぞれトップローラRB1、RT1、RM1、RF1とボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2(図3参照。)とからなる。ドラフト装置Dについては後に詳細に説明する。
【0032】
紡績装置11は、旋回気流を利用して繊維束Fに撚りを与え、紡績糸Yを生成する。紡績装置11は、詳細な説明や図示は省略するが、繊維案内部と、旋回流発生ノズルと、中空ガイド軸体と、を備えている。繊維案内部は、ドラフト装置Dから送られた繊維束Fを紡績装置11の内部に形成される紡績室に案内する。旋回流発生ノズルは、繊維束Fの経路の周囲に配置され、紡績室内に旋回流を発生させる。この旋回流によって、紡績室内の繊維束Fの繊維端が反転され旋回する。中空ガイド軸体は、紡績された紡績糸Yを紡績室から紡績装置11の外部へと案内する。この紡績装置の駆動及び停止は不図示のユニットコントローラによって制御されている。紡績装置11は、針状部材を備えずに繊維案内部の下流側端部によって針状部材の機能を実現している空気紡績装置や、互いに反対方向に撚りを掛ける一対のエアジェットノズル方式の空気紡績装置でもよい。
【0033】
ヤーンクリアラ12は、紡績装置11から送り出される紡績糸Yの太さを監視している。ヤーンクリアラ12は、紡績糸Yの糸欠点を検出した場合には、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信する。尚、ヤーンクリアラ12は、糸欠点として紡績糸Yに含まれる異物の有無を検出するように構成されていてもよい。
【0034】
糸弛み取り装置13は、紡績糸Yに所定の張力を与えることで紡績装置11から紡績糸Yを引き出している。また、巻取装置21側の張力の変動が紡績装置11側に伝わらないように張力を調節する。糸継台車3による作業時には、糸弛み取り装置13は紡績装置11から送出される紡績糸Yを滞留させて紡績糸Yの弛みを防止する。
【0035】
巻取装置21は、紡績装置11から送り出される紡績糸Yを巻き取り、パッケージPを形成する。巻取装置21は、クレードルアーム22、巻取ドラム23と、トラバース装置24を備えている。クレードルアーム22は、パッケージP(ボビン)を回転可能に支持する。巻取ドラム23は、パッケージP(ボビン)の外周面に接触してパッケージP(ボビン)を回転させる。トラバース装置24は、紡績糸Yを綾振りする。巻取装置21は、トラバース装置24で紡績糸Yを綾振りさせながら巻取ドラム23を回転することで、パッケージP(ボビン)を回転させ、紡績糸Yを巻き取る。尚、図1では、巻取装置21は、チーズ形状のパッケージPを巻き取るように図示されているが、コーン形状のパッケージPを巻き取るように構成されていてもよい。
【0036】
ユニットコントローラは、ヤーンクリアラ12から糸欠点検出信号を受信すると、直ちにカッタ14で紡績糸Yを切断し、更にドラフト装置Dや紡績装置11等を停止させる。ユニットコントローラは、糸継台車3には制御信号を送り、当該紡績ユニットUの前まで走行させる。その後、ユニットコントローラは、紡績装置11等を再び駆動し、糸継台車3に糸継ぎを行わせて巻取りを再開させる。尚、紡績ユニットUは、カッタ14を備えずに、紡績装置11への空気の供給を停止することにより、紡績糸Yの生成を停止して、紡績糸Yを切断してもよい。
【0037】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、台車部25と、台車部25に積載されるスプライサ26と、サクションパイプ27と、サクションマウス28を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニットUで糸切れや糸切断が発生すると、当該紡績ユニットUまで走行する。サクションパイプ27は、紡績装置11から送り出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ26へ案内する。サクションマウス28は、パッケージPから糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ26へ案内する。スプライサ26は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0038】
ブロアボックス4は、内部にブロア(吸引源)が配置される。ブロアボックス4には、各紡績ユニットUに共通の吸引搬送管である主配管(図示せず)が接続される。主配管は各紡績ユニットUの後部(ドラフト方向の上流側)に配置される。ブロアボックス4は、主配管を通じて各紡績ユニットUで発生する繊維屑等を吸引、搬送して回収する。
【0039】
原動機ボックス5には、紡績機Mの原動機であるモータや、紡績機Mの各部に動力を伝達するための減速機等が内部に配置される。
【0040】
次に、ドラフト装置Dについて詳細に説明する。図3と図4に示すように、ドラフト装置Dは、複数のローラ対R、クレードル31、装置フレーム32を備えている。
【0041】
図3に示すように、複数のローラ対Rとして、本実施形態では、バックローラ対RB、サードローラ対RT、ミドルローラ対RM、フロントローラ対RFを備えている。これらのローラ対RB、RT、RM、RFは、繊維束Fの上流から下流に向けて所定の間隔をおいて配置される。各ローラ対RB、RT、RM、RFは上側のトップローラRB1、RT1、RM1、RF1と下側のボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2で構成されている。ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2は駆動ローラであり、トップローラRB1、RT1、RM1、RF1はボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2に接触して従動回転する従動ローラである。各ローラ対RB、RT、RM、RFの回転速度は、上流側から下流側に向かって段々増加する。フロントローラ対RFの下流側には、紡績装置11が配置される。
【0042】
バックトップローラRB1、サードトップローラRT1、ミドルトップローラRM1、フロントトップローラRF1は、クレードル31に一体的、かつ回動自在に装着されている。図4に示すように、クレードル31には、隣接する紡績ユニットUの2錘分の各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1が装着されている。つまり、クレードル31は、独立して繊維束Fをドラフト可能な2列のローラ対の各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1を支持するように構成されている。バックボトムローラRB2、サードボトムローラRT2、ミドルボトムローラRM2、フロントボトムローラRF2は、それぞれクレードル31の各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1に対応して、装置フレーム32に装着されている。装置フレーム32にも、隣接する紡績ユニットUの2錘分の各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2が装着されている。
【0043】
ミドルトップローラRM1とフロントトップローラRF1との間には、テンサーバーTB1が配置されている。テンサーバーTB1は、ミドルトップローラRM1との間に巻回されるエプロンベルトE1の張りと位置とを規制するものである。テンサーバーTB1は、クレードル31側に装着されている。
【0044】
ミドルボトムローラRM2とフロントボトムローラRF2との間には、テンサーバーTB2が配置されている。テンサーバーTB2は、ミドルボトムローラRM2との間に巻回されるエプロンベルトE2の張りと位置とを規制するものである。テンサーバーTB2は、装置フレーム32側に装着されている。
【0045】
クレードル31は、上流側に設けられた回動軸33を中心として装置フレーム32に対して回動自在である。このため、クレードル31を回動させることで、各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1は、各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2に対して接離する。クレードル31を閉じて各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1が各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2と接触している位置が接触位置である。メンテナンス等のためクレードル31を開いて各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1が各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2と離間している位置が離間位置である。
【0046】
回動軸33には、保持部としてのトルクリミッタTLが装着されている。トルクリミッタTLは、クレードル31を任意の離間位置で停止させるためのものである。トルクリミッタTL及び回動軸33の周辺の開閉機構については後に詳しく説明する。
【0047】
クレードル31の回動操作は、オペレータがハンドル34を操作することにより行う。クレードル31を閉じて接触位置とした場合には、ハンドル34の先端(反操作側)のフック部35が装置フレーム32側の固定ローラ36に係合され、各トップローラRB1、RT1、RM1、RF1と各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2の圧接状態が保持される。
【0048】
各ローラ対RB、RT、RM、RF間の距離は、ドラフトする繊維束(スライバ)Fの繊維長によって決定されるため、原料である繊維束(スライバ)Fの種類を替える毎に見直される。そのために、各ボトムローラRB2、RT2、RM2、RF2のうち、ミドルボトムローラRM2とフロントボトムローラRF2は装置フレーム32に固定しているが、バックボトムローラRB2とサードボトムローラRT2は、それぞれ装置フレーム32に対して上流側、下流側に位置を変更できるよう構成されている。
【0049】
続いて、本発明の特徴部分である、トルクリミッタTLと、トルクリミッタTLが設けられる回動軸33の周辺の開閉機構について説明する。
【0050】
まず、回動軸33の周辺の開閉機構について説明する。図3と図4に示すように、装置フレーム32には、回動軸33を支持及び固定する第1支持部37が設けられている。クレードル31には、第2支持部38が設けられている。第2支持部38は回動軸33に対して回動自在となるように装着されている。第1支持部37、第2支持部38、及び回動軸33により、クレードル31は装置フレーム32に対して回動自在に支持されている。
【0051】
回動軸33にはトルクリミッタTLが装着されている。クレードル31側の第2支持部38には、支持軸39が固定されている。詳細は後に説明するが、トルクリミッタTLは、第2支持部38の支持軸39に係合している。これにより、トルクリミッタTLは、クレードル31の自重による回動トルクに抗して、クレードル31を任意の離間位置で停止させる。また、トルクリミッタTLは、クレードル31の自重による回動トルクより大きい回動トルクが加わった場合には、クレードル31が回動トルクが加わった方向へ回動することを許容する。
【0052】
次に、トルクリミッタTLの構成について詳細に説明する。図5と図6に示すように、トルクリミッタTLは、主としてスリーブ41と、カラー51と、内側バネ61と、外側バネ71から構成されている。
【0053】
スリーブ41は、回動軸33の外周に装着されて固定されるものである。スリーブ41は、主として筒部42と、フランジ部43から構成されている。筒部42の内側には回動軸33に装着するための軸孔44が形成されている。軸孔44の内径は回動軸33の外径と略同径である。フランジ部43は筒部42の一方の端部に形成されている。フランジ部43にも回動軸33が挿通するための軸孔44が形成されている。フランジ部43には径方向にネジ孔45が形成されている。スリーブ41を回動軸33に装着した状態でネジ孔45にネジ46を螺入することで、スリーブ41が回動軸33に固定される。スリーブ41が回動軸33に固定される位置は、回動軸33の略中央部である(図4参照。)。筒部42の他方の端部の外周には、内側止め輪82を係止するための溝47が形成される。
【0054】
カラー51は、スリーブ41の外周に配置されるものである。カラー51は、主として筒部52と、底部53から構成されている。筒部52の内側にはスリーブ41の外径よりも径の大きい軸孔54が形成されている。軸孔54とスリーブ41の間の空間は、内側バネ61が収容される内側バネ室56となる。底部53は、筒部52の一方の端部に形成されている。底部53には回動軸33が挿通するための軸孔55が形成されている。筒部52の他方の端部には切欠部58が形成されている。切欠部58は筒部52の軸方向に長い略U字形である。切欠部58は、後に説明する内側バネ61の突出部62が係合する部分である。筒部52の両端部の外周には、外側止め輪81を係止するための溝57が形成される。図5に示すように、カラー51は、スリーブ41に内側バネ61を装着した後、スリーブ41の外周に装着される。
【0055】
内側バネ61は、カラー51とスリーブ41の間に形成される内側バネ室56に配置されるものである。内側バネ61はコイルバネである。内側バネ61の内径は、内側バネ61をスリーブ41の筒部42の外周に装着できる径である。内側バネ61の一方の端部は径方向外側に突出する突出部62が形成される。内側バネ61の巻方向は、図6において、突出部62に閉じ方向の力が加わると拡径し、突出部62に開き方向の力が加わると縮径する方向である。図6に示すように、スリーブ41に内側バネ61を装着した後、スリーブ41及び内側バネ61の外周にカラー51を装着する。内側バネ61の突出部62は、カラー51の切欠部58に係合させる。カラー51を装着した後、スリーブ41の溝47に内側止め輪82を装着して、スリーブ41からカラー51が脱落することを防止する。
【0056】
外側バネ71は、カラー51の外周に配置されるものである。外側バネ71はコイルバネである。外側バネ71の内径は、外側バネ71をカラー51の筒部52の外周に装着できる径である。外側バネ71の一方の端部には、環状に屈曲させた係合部72が形成される。図6に示すように、係合部72はクレードル31側の支持軸39に係合する部分である。外側バネ71の巻方向は、内側バネ61の巻方向とは逆方向であり、図6において、係合部72に閉じ方向の力が加わると縮径し、係合部72に開き方向の力が加わると拡径する方向である。図6に示すように、外側バネ71をカラー51の外周に装着した後、カラー51の両端の溝57に外側止め輪81を装着して、カラー51から外側バネ71が脱落することを防止する。
【0057】
次に、クレードル31を装置フレーム32に対して回動させた場合のトルクリミッタTLの動作について図6及び図7を用いて説明する。
【0058】
まず、オペレータがクレードル31のハンドル34を回動操作して、クレードル31が接触位置にある状態(図7A)から、クレードル31を離間位置に移動させる(図7B)場合について説明する。この場合、図6に示すように、クレードル31側の支持軸39に係合する外側バネ71の係合部72は、オペレータの操作力により、開き方向の力を受けることとなる。外側バネ71は、前述のように係合部72に開き方向の力が加わると拡径する。外側バネ71が拡径するとカラー51との摩擦力が減少して、外側バネ71とカラー51との間に滑りが発生し、クレードル31は開く方向に移動可能となる。
【0059】
以上より、オペレータがクレードル31を開く方向に操作すると、外側バネ71がカラー51と内側バネ61とスリーブ41に対して滑ることで、クレードル31を装置フレーム32に対して開く方向に回動させることができる。
【0060】
次に、オペレータがクレードル31の回動操作を任意の離間位置で止め(図7B)、手をハンドル34から離したとする。クレードル31は自重により閉じる方向に回動しようとする。この場合、図6に示すように、クレードル31側の支持軸39に係合する外側バネ71の係合部72は、クレードル31の自重により、閉じ方向の力を受けることとなる。外側バネ71は、前述のように係合部72に閉じ方向の力が加わると縮径する。外側バネ71が縮径するとカラー51との摩擦力が増大し、外側バネ71とカラー51は一体化した状態となる。
【0061】
一方、カラー51には、内側バネ61の突出部62が係合している。内側バネ61はカラー51から閉じ方向の力を受ける。内側バネ61は、前述のようの突出部62に閉じ方向の力が加わると拡径する。内側バネ61が拡径するとスリーブ41との摩擦力が減少する。しかしながら、内側バネ61は、クレードル31の自重による閉じ方向の力ではスリーブ41との間に滑りが発生しない。このため、内側バネ61とスリーブ41は一体化した状態のままとなる。
【0062】
以上より、オペレータがクレードル31の回動を任意の離間位置で止め、手をハンドル34から離しても、外側バネ71とカラー51と内側バネ61とスリーブ41はそれぞれに対して滑らない状態となり、クレードル31を任意の離間位置で停止させることができる。
【0063】
オペレータがクレードル31のハンドル34を回動操作して、クレードル31が離間位置にある状態(図7B)から、クレードル31を接触位置(図7A)に移動させる場合について説明する。この場合、図6に示すように、クレードル31側の支持軸39に係合する外側バネ71の係合部72は、クレードル31の自重に加え、オペレータの操作力により、閉じ方向の力を受けることとなる。
【0064】
外側バネ71は、前述のように係合部72に閉じ方向の力が加わると縮径する。外側バネ71が縮径してカラー51を絞めると、外側バネ71とカラー51との摩擦力が増大するため、外側バネ71とカラー51は、一体となって閉じ方向に回動しようとする。
【0065】
一方、カラー51には、内側バネ61の突出部62が係合している。内側バネ61はカラー51から閉じ方向の力を受ける。内側バネ61は、前述のように突出部62に閉じ方向の力が加わると拡径する。内側バネ61が拡径してスリーブ41に対して緩むとスリーブ41との摩擦力が減少し、内側バネ61の内径がスリーブ41と同径になったときに内側バネ61がスリーブ41に対して滑る状態となる。
【0066】
以上より、オペレータがクレードル31を閉じる方向に回動操作すると、外側バネ71とカラー51と内側バネ61は、スリーブ41に対して回動し、クレードル31を装置フレーム32に対して閉じる方向に回動させることができる。
【0067】
尚、クレードル31がある開き角度の離間位置で停止している状態から、クレードル31を別の開き角度の離間位置に移動させた場合も、上記と同様に、オペレータがハンドル34から手を離せば、クレードル31をその任意の離間位置で停止させることができる。
【0068】
以上説明した本実施形態に係るドラフト装置D及び紡績機Mによれば、次のような効果を有する。
【0069】
ドラフト装置Dは、クレードル31を回動動作において任意の離間位置で停止したときに、クレードル31の停止に伴ってクレードル31の離間位置での保持を行なう保持部としてのトルクリミッタTLを備える。このため、簡単な構成で、クレードル31を任意の離間位置で停止させることができ、作業性が良い。また、オペレータがどの位置でクレードル31から手を離してもトルクリミッタTLが作動してクレードル31が停止するため、ラッチ機構の場合のように、保持部が作動したかどうかを確認する必要がない。クレードル31を離間位置から接触位置に戻す場合には、クレードル31を閉じる方向に回動させるだけでよいため、オペレータにとって自然な動作でクレードル31の開閉を行うことができる。
【0070】
トルクリミッタTLは、クレードル31が自重で接触位置に移動する力よりも大きい力に対して滑るように構成されている。このため、クレードル31の開き角度が大きくなる方向にクレードル31の離間位置を変更する場合には、クレードル31を開放する方向に回動させ、任意の離間位置で停止させれば、その任意の離間位置でクレードル31を停止させることができる。また、クレードル31の開き角度が小さくなる方向にクレードル31の離間位置を変更する場合であっても、クレードル31を閉じる方向に回動させ、任意の離間位置で停止させれば、その任意の離間位置でクレードル31を停止させることができる。
【0071】
トルクリミッタTLは、スリーブ41と、カラー51と、内側バネ61と、外側バネ71とから構成される。トルクリミッタTLは、クレードル31が接触位置又は任意の離間位置から接触位置から離れる方向に移動する場合には、外側バネ71が緩み、カラー51は移動しないように構成されている。クレードル31が任意の離間位置から接触位置に近付く方向に移動する場合には、外側バネ71が絞まり、カラー51に力が掛かることにより内側バネ61がスリーブ41に対して緩み、内側バネ61とカラー51とが動くように構成されている。このため、簡単な構成のトルクリミッタTLにより、クレードル31を任意の離間位置で確実に停止させることができる。
【0072】
クレードル31は、独立して繊維束Fをドラフト可能な2列のローラ対のトップローラRB1、RT1、RM1、RF1を支持するように構成されている。このため、2列の繊維束Fをドラフトする構成において、トップローラRB1、RT1、RM1、RF1を同時に接触位置と離間位置との間の任意の位置で停止させることができる。
【0073】
紡績機Mは、ドラフト装置Dと空気紡績装置11とを備える。空気紡績装置11を備えた紡績機Mでは、一般的にドラフト速度は速く、メンテナンス等のためにクレードル31を開閉する頻度が比較的高い。このため、任意の離間位置で確実に停止させることができるクレードル31を備えることにより、メンテナンス等の作業性が向上し、紡績機Mの運転効率が向上する。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では、紡績機Mの紡績ユニットUは、紡績装置11から糸弛み取り装置13により紡績糸Yを引き出す構成としたが、この構成に限定されない。紡績装置11と糸弛み取り装置13の間にデリベリローラとニップローラを設けて、これらのローラで紡績糸Yを引き出す構成としてもよい。
【0075】
本実施形態では紡績機Mとして説明したが、紡績機に限らず、ドラフト装置Dを備えるものであれば、リング紡績機、粗紡機、練条機等であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
M 紡績機
U 紡績ユニット
3 糸継台車
4 ブロアボックス
5 原動機ボックス
T トランペット
D ドラフト装置
11 紡績装置
12 ヤーンクリアラ
13 糸弛み取り装置
14 カッタ
21 巻取装置
22 クレードルアーム
23 巻取ドラム
24 トラバース装置
25 台車部
26 スプライサ
27 サクションパイプ
28 サクションマウス
31 クレードル
32 装置フレーム
33 回動軸
34 ハンドル
35 フック部
36 固定ローラ
37 第1支持部
38 第2支持部
39 支持軸
TL トルクリミッタ
41 スリーブ
42 筒部
43 フランジ部
44 軸孔
45 ネジ孔
46 ネジ
47 溝
51 カラー
52 筒部
53 底部
54 軸孔
55 軸孔
56 内側バネ室
57 溝
58 切欠部
61 内側バネ
62 突出部
71 外側バネ
72 係合部
81 外側止め輪
82 内側止め輪
F 繊維束
Y 紡績糸
P パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束をドラフトするトップローラとボトムローラとからなるローラ対を複数備えるドラフト装置であって、
前記複数のトップローラを回転可能に支持するクレードルと、
前記クレードルを、前記複数のトップローラと前記複数のボトムローラが接触する接触位置と、前記複数のトップローラのうち少なくともいずれかが前記ボトムローラから離間される離間位置と、に回動自在とする回動軸と、
前記クレードルを回動動作において任意の離間位置で停止したときに、前記クレードルの停止に伴って前記クレードルの離間位置での保持を行なう保持部と、を備えたことを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラフト装置であって、
前記保持部は、前記クレードルが自重で前記接触位置に移動する力よりも大きい力に対して前記クレードルが移動可能になるように構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のドラフト装置であって、
前記保持部は、トルクリミッタであることを特徴とするドラフト装置。
【請求項4】
請求項3に記載のドラフト装置であって、
前記トルクリミッタは、
前記回動軸の外周に固定されるスリーブと、
前記スリーブの外周に配置されるカラーと、
前記カラーと前記スリーブの間に配置される内側バネと、
前記カラーの外側に配置され、前記クレードルに接続される外側バネと、を備え、
前記トルクリミッタは、前記クレードルが接触位置又は任意の離間位置から接触位置から離れる方向に移動する場合には、前記外側バネが緩み、前記カラーは移動しないように構成されており、
前記クレードルが任意の離間位置から接触位置に近付く方向に移動する場合には、前記外側バネが絞まり、前記カラーに力が掛かることにより前記内側バネが前記スリーブに対して緩み、前記内側バネと前記カラーとが動くように構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のドラフト装置であって、
前記クレードルは、独立して繊維束をドラフト可能な2列のローラ対のトップローラを支持するように構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のドラフト装置と、
前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束を旋回気流にて紡績して紡績糸を生成する空気紡績装置と、を備えたことを特徴とする紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−67894(P2013−67894A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206511(P2011−206511)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】