説明

ドラムのラグ構造

【課題】ラグの位置を安定して精度良く保つことができ、ラグの取り付けや取り外しの作業性を向上することができるようにすること。
【解決手段】ドラム胴本体11には、ラグベース12が取り付けられ、このラグベース12には、締めボルト14を支持するラグ13が保持されている。ラグベース12とラグ13との間にはラグ移動抑制手段が設けられている。ラグ移動抑制手段は、ラグ12に設けられた円筒状の軸状部28と、ラグベース13に設けられた二つの平面部25,25とを備え、各平面部25,25は、軸状部28の軸線と略平行に延びて線接触可能に設けられる。ラグベース12及びラグ13にテーパ面部22,35をそれぞれ設け、これらテーパ面部22,35は、軸状部28と各平面部25,25とが離れたときに、相互に嵌合可能に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムのラグ構造に係り、更に詳しくは、ドラムヘッドに所定の張力を付与することができるドラムのラグ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々のドラムにおいて、リム等を介してドラム胴本体にドラムヘッドを張設するため、例えば、図7及び図8に示されるようなラグを用いたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図7において、ラグ50は、上部で締めボルト51を保持するとともに、ピン状のラグベース52を介してドラム胴本体53に取り付けられている。ラグベース52には、前記ピンの周方向に延びるV字状の係合溝52Aが形成されている一方、ラグ50には、山形の突起50Aが設けられ、これら係合溝52A及び突起50Aが係合することでラグベース52にラグ50が取り付けられる。
【0004】
図8において、ラグ60は、図示しないドラム胴本体に固定されている。このラグ60は、締めボルト61に螺合する円筒状のラグナット62を受容する受容溝63を備えた形状に設けられている。
【0005】
【特許文献1】特許第3707485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7の構造では、係合溝52A及び突起50Aが係合しても、ラグ50がラグベース52の周方向(同図中矢印R方向)に回転移動することを規制し難くなる。このため、ラグベース52にラグ50を取り付けた後、前記矢印R方向にラグ50が傾いた状態になり易くなる、という不都合を招来する。
また、図8の構造では、受容溝63が半円柱に沿う内面形状となるので、図8(B)に示されるように、円筒状のラグナット62と受容溝63との接触部分が側面視で一点Pとなり、同図中左右方向にラグナット62がずれ易くなる、という不都合がある。
【0007】
更に、締めボルト51,61の締め付けを解除した際、図7の構造では、係合溝52A及び突起50Aの係合が解除され、図8の構造では、受容溝63からラグナット63が下方に抜け出てフリーな状態となる。この結果、前記リムを取り付ける準備状態等において、図7のラグ50や図8のラグナット63が動き易くなるために手で持つことが必要になる等、作業性が低下するという不都合もある。
【0008】
ところで、ドラムにあっては、ラグ及びラグベースの総重量を変えることで、ドラムの音色を変化できることが知られており、当該音色を容易に調整できるようにする要望がある。
【0009】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、ラグベースに取り付けられるラグの位置精度を安定して高めることができるドラムのラグ構造を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ラグの取り付けや取り外しの作業性を向上することができるドラムのラグ構造を提供することにある。
更に、本発明の更に他の目的は、ドラムの音色調整を容易に行うことができるドラムのラグ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、ドラム胴本体にドラムヘッドを取り付けるためのラグ構造において、
前記ドラム胴本体に取り付けられたラグベースと、このラグベースに保持可能に設けられるとともに、締めボルトの一端側を支持するラグと、前記ラグベースとラグとの間に設けられたラグ移動抑制手段とを備え、
前記ラグ移動抑制手段は、前記ラグに設けられた軸状部と、前記ラグベースに設けられた二つの平面部とを備え、各平面部は、軸状部の軸線と略平行に延びて当該軸状部に当接可能に設けられる、という構成を採っている。
【0011】
本発明において、前記軸状部は、円筒状に形成されている一方、前記各平面部は、軸状部に線接触可能に設けられる、という構成を採ることが好ましい。
【0012】
また、前記ラグベースに第1の嵌合部を設ける一方、前記ラグに前記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部を設け、
前記軸状部と各平面部とが離れたときに、前記第1及び第2の嵌合部が相互に嵌合可能に設けられる、という構成を採用してもよい。
このとき、第1及び第2の嵌合部は、テーパ面部をそれぞれ備え、これらテーパ面部が相互に面接触可能に設けられるとよい。
【0013】
更に、前記ラグは、同一形状で、材質が亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムとなるものがそれぞれ用意され、これらラグの何れか一つが選択して取り付けられる、という構成も好ましくは採用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラグベースに二つの平面部を設けたので、ラグの軸状部におけるラグベースの接触部分を側面視で二箇所とすることができる。これにより、ラグの取り付け後に、当該ラグが回転するように傾いたり、横方向にずれたりすることを防止でき、ラグの位置を安定して精度良く保つことが可能となる。
【0015】
また、軸状部を円筒状に形成し、各平面部が軸状部の二箇所位置に線接触可能となるので、ラグの位置精度をより良く高めることができる。
【0016】
更に、軸状部と各平面部とが離れたときに、第1及び第2の嵌合部が相互に嵌合するので、締めボルトの締め付けを行う前後において、ラグベースを介してラグを一時的に保持することが可能となる。これにより、従来のようにラグの取り付けや交換作業時に、ラグを手で持ったり押さえたりする手間を省略でき、作業性を改善することができる。
【0017】
また、第1及び第2の嵌合部は、テーパ面部をそれぞれ備えているので、嵌合する直前で各テーパ面部をガイドして嵌合を行うことができ、ラグの取り付け作業の容易化を図ることができる。また、テーパ面部を面接触させて嵌合するので、簡単な構造によりラグの直交二方向への移動規制を簡易に行うことが可能となる。
【0018】
更に、ラグを構成する亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムは比重が異なるので、同一形状で重量の異なる複数のラグを用意することができる。これにより、ラグ及びラグベースの総重量を簡単に調整でき、ひいては、ドラムの音色の調整を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1には、実施形態に係るラグ構造が適用されたドラムの一部構造を断面視した側面図が示されている。この図において、バスドラム、スネアドラム、マーチングドラム等のドラム10は、ドラム胴本体11の同図中上部にリム等(図示省略)を介して張設されるドラムヘッド(図示省略)を備えている。ドラム胴本体11には、ラグベース12が取り付けられ、このラグベース12にラグ13が保持されている。ラグ13は、その上部で前記リムに連結される締めボルト14の同図中下端側を保持している。
【0021】
前記ラグベース12は、図1及び図2に示されるように、ドラム胴本体11の外周面に沿う取付部15と、この取付部15の上下方向中央部から突出する突出部16とを備えている。
【0022】
前記取付部15の図1中上部裏面側には、ドラム胴本体11の凹部11Aに挿入されるピン18が突設している。また、取付部15の同図中下部裏面側には、円筒状のめねじ形成部19が突設している。めねじ形成部19は、ドラム胴本体11の穴11Bに挿入されるとともに、ドラム胴本体11の内側からボルト20をねじ込み可能に設けられ、当該ボルト20のねじ込みによりラグベース12をドラム胴本体11に固定できるようになっている。
【0023】
前記突出部16は、図2(A)中左右両側に形成された第1の嵌合部としての一対のテーパ面部22,22と、同図中下方に形成されて上方に凹む形状を有する受容部23とを備えている。各テーパ面部22,22は、上方に向かって相互に次第に接近する方向に傾斜する面形状に設けられている。
【0024】
前記受容部23は、図3にも示されるように、側面視反転末広がり状をなす二つの平面部25,25と、これら平面部25,25の上端側を連結する連結面部26とを備えている。各平面部25,25及び連結面部26は、図3中紙面直交方向に延びるように形成されている。
【0025】
前記ラグ13は、図1及び図4に示されるように、前記受容部23内に部分的に受容される軸状部28と、この軸状部28の延出方向両側に連設された一対の側壁29,29と、これら側壁29,29の上端側に連設されて前記締めボルト14を貫通する頂壁30と、側壁29,29及び頂壁30の図1中右端側に連なる表面壁31とを備え、同図中左側を開放する形状に設けられている。軸状部28と表面壁31との間には、図1中左右に開通する開口32が形成されている。
【0026】
前記軸状部28は、円筒状に形成されているとともに、その軸線方向が締めボルト14と略直交する方向すなわち図1中紙面直交方向に向けられ、平面部25の面と略平行となっている。軸状部28の径寸法と前記受容部23の形状及びサイズとの相関関係は、軸状部28が二つの平面部25,25に同時に線接触し、且つ、連結面部26に非接触となるように設定されている。ここにおいて、前記軸状部28と、二つの平面部25,25とによりラグ移動抑制手段が構成される。
【0027】
前記各側壁29,29の上部相対面側には、図4(D)中左右に延びる溝29A,29Aがそれぞれ設けられ、これら溝29A,29A内に前記締めボルト14を保持する支持台34が嵌合可能となっている。また、各側壁29,29の相対面側における前記開口32の上方には、第2の嵌合部としてのテーパ面部35,35がそれぞれ形成されている。各テーパ面部35,35は、前述したラグベース12のテーパ面部22,22と同様に、上方に向かって相互に次第に接近する方向に傾斜する面形状に設けられ、当該テーパ面部22,22と相互に面接触して嵌合可能となっている。
【0028】
このような構成において、図示省略したドラムヘッドを張設すべく締めボルト14の締め付けを行うと、ラグ13に上昇する方向の力が作用する。このとき、図1及び図3に示されるように、ラグ13の軸状部28がラグベース12の受容部23内で嵌合し、ラグベース12にラグ13が保持される。具体的には、軸状部28が受容部23内に食い込むようになり、軸状部28における受容部23の接触領域を側面視で二点とするように、軸状部28が二つの平面部25,25に線接触する。これにより、ラグ13が同図中左右方向にずれたり、軸状部28の端部が上下する方向に傾いたりすることを規制可能となる。
【0029】
ここで、締めボルト14の締め付けを緩めた場合、ラグ13が図1の状態から図6に示されるように下方に移動し、軸状部28が各平面部25,25から離れる。このとき、図5(A)及び(B)に示されるように、ラグ13のテーパ面部35,35と、ラグベース12のテーパ面部22,22とにより、ラグ13が図中下方向に移動するようにガイドされる。そして、ラグ13のテーパ面部35,35が、ラグベース12のテーパ面部22,22を挟み込むようにして面接触すると、ラグ13の下方向及び左右方向への移動が規制され、ラグベース12によりラグ13が保持される。
【0030】
次に、ラグ13によるドラム10の音色の調整方法を説明する。
【0031】
前記ラグ13を複数用意し、各ラグ13を同一形状としつつ材質を変えることで各ラグ13の重量を変化させる。具体的には、亜鉛からなるラグ13、アルミニウムからなるラグ13、マグネシウムからなるラグ13を用意し、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムの比重の違いにより重量を変化させる。これにより、マグネシウムのラグ13の重量に対し、アルミニウムのラグ13が約1.5倍、亜鉛からなるラグ13が約3.6倍の重量となる。これらのラグ13の何れか一つを選択して取り付けることでラグ13とラグベース12との総重量を約30〜50gの範囲で調整可能となり、当該総重量の変化に対応してドラム10の音色を変化させることができる。
【0032】
従って、このような実施形態によれば、軸状部28が二つの平面部25,25に当接するので、ラグベース12にラグ13を保持させた後における当該ラグ13の位置を安定して保つことができる。また、締めボルト14の締め付けを解除した状態でも、軸状部28及び平面部25と異なる部分となる各テーパ面部22,35を介してラグ13を保持することができ、ラグ13の取り付け及び取り外し作業の容易化を図ることが可能となる。
【0033】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態、実施例に対し、形状、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0034】
例えば、前記軸状部28の形状は、二つの平面部25,25に当接可能とする限りにおいて、楕円柱状、角柱状にする等変更してもよいが、円筒状とした方がラグ13の位置を安定して保ち易くなる点で有利となる。
【0035】
また、前述の第1及び第2の嵌合部は、前記テーパ面部22,35と同様の作用、機能を発揮する限りにおいて、種々の変更が可能であり、例えば、各テーパ面部22,35をコーンに沿う形状として嵌合可能に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係るラグ構造が適用されたドラムの一部構造を断面視した側面図。
【図2】(A)は、ラグベースの正面図、(B)は、同右側面図。
【図3】図1の要部拡大図。
【図4】(A)は、ラグの正面図、(B)は、同右側面図、(C)は、同背面図、(D)は、(A)のA−A線に沿う断面図。
【図5】(A)は、図1のB−B線に沿う断面図、(B)は、図6のC−C線に沿う断面図。
【図6】締めボルトを緩めた状態とした図1と同様の側面図。
【図7】従来例に係るラグ構造の図1と同様の側面図。
【図8】他の従来例に係るラグ構造の概略斜視図。
【符号の説明】
【0037】
10・・・ドラム、11・・・ドラム胴本体、12・・・ラグベース、13・・・ラグ、14・・・締めボルト、22・・・テーパ面部(第1の嵌合部)、25・・・平面部(ラグ移動抑制手段)、28・・・軸状部(ラグ移動抑制手段)、35・・・テーパ面部(ラグ移動抑制手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム胴本体にドラムヘッドを取り付けるためのラグ構造において、
前記ドラム胴本体に取り付けられたラグベースと、このラグベースに保持可能に設けられるとともに、締めボルトの一端側を支持するラグと、前記ラグベースとラグとの間に設けられたラグ移動抑制手段とを備え、
前記ラグ移動抑制手段は、前記ラグに設けられた軸状部と、前記ラグベースに設けられた二つの平面部とを備え、各平面部は、軸状部の軸線と略平行に延びて当該軸状部に当接可能に設けられていることを特徴とするドラムのラグ構造。
【請求項2】
前記軸状部は、円筒状に形成されている一方、前記各平面部は、軸状部に線接触可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載のドラムのラグ構造。
【請求項3】
前記ラグベースに第1の嵌合部を設ける一方、前記ラグに前記第1の嵌合部に嵌合可能な第2の嵌合部を設け、
前記軸状部と各平面部とが離れたときに、前記第1及び第2の嵌合部が相互に嵌合可能に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のドラムのラグ構造。
【請求項4】
前記第1及び第2の嵌合部は、テーパ面部をそれぞれ備え、これらテーパ面部が相互に面接触可能に設けられていることを特徴とする請求項3記載のドラムのラグ構造。
【請求項5】
前記ラグは、同一形状で、材質が亜鉛、アルミニウム及びマグネシウムとなるものがそれぞれ用意され、これらラグの何れか一つが選択して取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のドラムのラグ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−163031(P2009−163031A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1084(P2008−1084)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)