説明

ドラムの支持構造

【課題】ドラムの放射音の低音感を増大させることができ、またサスティンを容易に調整し得るようにしたドラムの支持構造を提供する。
【解決手段】ドラムの胴3にドラム用支持部材20を連結部材21によって取付ける。ドラム用支持部材21は、木製の基台22と、この基台22の表面に固定されたクランプ部材23とで構成されており、クランプ部材23が楽器用スタンドの支持ロッドによって支持される。連結部材21は、取付ボルト31と振動吸収部材32と、ナット33とで構成され、サスティン調整手段を兼用している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バスドラム、スネアドラム、タムタム等のドラムを楽器用スタンド等のドラム支持体で支持させているドラムの支持構造としては、例えば特許文献1に記載されているドラムの支持構造が知られている。
【0003】
前記特許文献1に記載されているドラムの支持構造は、ドラムのフープの少なくとも3箇所に取付孔からなるフープ側取付部を設け、これらの取付部に対応してドラム保持部(ドラム支持体)のクランプ部に設けたタムホルダーベースに支持部材を取付けている。この支持部材は、前記タムホルダーベースに支持されるブラケット部と、ドラムのフープの外周側に位置するように配設されたアーム部と、前記各フープ側取付部に対応して前記アーム部に取付けられた支持部材側取付部と、この支持部材側取付部と前記フープ側取付部とを連結する取付ボルトと、この取付ボルトとフープ側取付部との間に介在された振動吸収部材とを備えている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−210154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のドラムの支持構造は、ドラムの胴から伝わる振動エネルギーが支持部材に伝わると、支持部材を構成するブラケット、アーム部および支持部材側取付部も振動するが、これら構成部品はいずれも金属製であるため高音域で共振し、ドラムの放射音として低音域を強調することができないという問題があった。
また、金属製の上記構成部品は、振動の伝達効率が良すぎるため、支持部材を介してクランプ部やドラム保持部に振動エネルギーが伝達されてしまし、ドラムのもつ振動エネルギーの損失となるため、所望の音量やサスティン(音の伸び)を得ることができないという問題もあった。
【0006】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされもので、その目的とするところは、ドラムの放射音の低音感を増大させることができ、またサスティンを容易に調整し得るようにしたドラムの支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、ドラム支持体のドラム保持部に取付けられたドラム用支持部材と、ドラムの胴を支持し前記ドラム支持部材に連結する連結部材とを備え、前記ドラム用支持部材の前記連結部材が取付けられる基台を木材製の基台で構成したものである。
【0008】
また、本発明は、上記発明において、前記連結部材が振動吸収部材と取付ボルトとで構成され、サスティン調整手段を兼用するものである。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記サスティン調整手段が胴の重量に応じて所要個数取付けられるものである。
【0010】
さらに、本発明は、上記発明において、前記サスティン調整手段が選択的に所要個数取付けられ、サスティンを調整するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ドラム用支持部材の基台を木材製の基台にしたので、基台が低周波域で共振し、ドラムの放射音の低音感を増加させる。したがって、聴感的に太くて大きな音を得ることができる。
【0012】
また、連結部材がサスティン調整手段を兼用する発明においては、振動吸収部材がドラムの振動エネルギーを吸収するため、サスティンを調整することができる。
【0013】
また、胴の重量に応じてサスティン調整手段の数を変えるようにした発明においては、サスティンを調整することができる。すなわち、重量の重い胴は、本来的に音が伸びすぎるので、サスティン調整手段の数を増加して振動エネルギーの損失を多くすることにより、サスティンを短くすることができる。反対に、軽量な胴の場合は、本来的に音の伸びが短いので、サスティン調整手段の数を少なくして振動エネルギーの損失を少なくすることにより、サスティンを長くすることができる。これにより、胴の重量に関係なくサスティンを一様に調整することができる。
【0014】
また、サスティン調整手段を選択的に所要個数取付けるようにした発明においては、胴の重量に関係なく奏者の好みや演奏曲目に応じてサスティンを自由に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るドラムの支持構造を示す外観斜視図、図2はドラム用支持部材の正面図、図3はドラム用支持部材の側断面図、図4はドラム用支持部材の平面図、図5は小型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図、図6は中型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図、図7は大型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図である。なお、図2〜図4は小型の胴に取付けられるドラム用支持部材を示している。これらの図において、本実施の形態は、ドラム1をドラム支持体である楽器用スタンド10によって支持させたドラムの支持構造について説明する。
【0016】
前記ドラム1は、両端が開放する円筒状に形成された胴3と、この胴3の各開口面をそれぞれ覆うように張設された2枚のドラムヘッド4と、これらのドラムヘッド4をそれぞれ支持、緊張するヘッド支持緊張手段5とを備えている。
【0017】
前記胴3は、木材製で、図5〜図7に示すように口径が異なる大中小の3種類のサイズをもつ胴3A、3B、3Cが用いられる。小型の胴3Aは、口径が例えば10インチ(25.4cm)と12インチ(30.48cm)の2種類であり、中型の胴3Bは口径が例えば13インチ(33.02mm)または14インチ(35.56mm)であり、大型の胴3Cは口径が例えば15インチ(38.20mm)または16インチ(40.64mm)である。このような胴3(3A〜3C)の外周面には、後述するドラム用支持部材20(20A〜20C)が取付けられている。
【0018】
前記ヘッド支持緊張手段5は、各ドラムヘッド4の外周をそれぞれ保持し胴3の外周に嵌装された一対のヘッド枠(図示せず)と、これらのヘッド枠をそれぞれ押さえ込む一対のフープ6と、これらのフープ6を連結する複数個のラグボルト7と、胴3の外周面にそれぞれ固定され前記ラグボルト7が取付けられた複数個のラグ8等で構成されている。
【0019】
前記楽器用スタンド10は、従来公知のものであって、筒状の支柱本体12と、この支柱本体12に開閉自在に取付けられた三脚13と、支柱本体12に伸縮自在に嵌挿されたスライド支柱14と、このスライド支柱14の上端に取付けられたクランプ部15と、このクランプ部15に設けられ前記ドラム用支持部材20を支持する支持ロッド16等で構成されている。
【0020】
前記ドラム1を楽器用スタンド10によって支持する支持構造としては、前記ドラム用支持部材20と、このドラム用支持部材20とドラムの胴3を連結する複数個の連結部材21とで構成されている。
【0021】
前記ドラム用支持部材20は、適度な板厚と硬度を有する長方形の板状に形成された木材製の基台22と、この基台22の表面中央に4個の止めねじ24およびナット25によって固定されたクランプ部材23と、このクランプ部材23に螺合された蝶ねじ26等で構成されている。前記基台22は、図5〜図7に示すように各サイズの胴3A、3B、3Cに応じた大きさに形成することにより、大中小の3種類の基台22A、22B、22Cが用意される。基台22の材質としては、合板、ムク材(例えば、メイプル、バーチ、ビーチ、オーク、マホガニー、カポール、ローズウッド)等が用いられる。
【0022】
また、各基台22A、22B、22Cには、複数個の連結部材21が取付けられているが、その数はサスティンを調整するためにドラム1の胴3の重量(胴のサイズ、深さ)によって異なり、重量が軽い小型の胴3Aに取付けられる基台22Aに対しては図5に示すように3個の連結部材21が取付けられ、重量が中程度の中型の胴3Bに取付けられる基台22Bに対しては図6に示すように4個の連結部材21が取付けられ、重量が重い大型の胴3Cに取付けられる基台22Cに対しては図7に示すように5個の連結部材21がそれぞれ取付けられている。すなわち、連結部材21はサスティン調整手段を兼用するもので、重量の重い大型のドラムの場合は、音が伸び過ぎるため、連結部材21の使用個数を多くすることにより、連結部材21による振動エネルギーの損失を多くし、サスティンを短くする。逆に重量の軽い小型のドラムの場合は音が伸び難いため、連結部材21の使用個数を少なくすることにより、連結部材21による振動エネルギーの損失を極力少なくし、サスティンを長くする。
【0023】
このため、小型の基台22Aには、3つの連結部材21がそれぞれ取付けられる3つの取付孔28(図4)が形成され、中型の基台22Bには、4つの連結部材21がそれぞれ取付けられる4つの取付孔28が形成され、大型の基台22Cには、5つの連結部材21がそれぞれ取付けられる5つの取付孔28が形成されている。この場合、取付孔28は、小型の基台22Aについては、長手方向の一端側に2個、他端側に1個形成され、中型の基台22Bについては、長手方向両端部にそれぞれ2個ずつ形成され、大型の基台22Cについては長手方向両端部にそれぞれ2個、中央部に1個形成されている。また、各サイズの胴3A、3B、3Cにも、前記各の基台22A、22B、22Cの取付孔28と同数個のボルト用挿通孔29(図3)が形成されている。
【0024】
前記連結部材21は、取付ボルト31と、この取付ボルト31に取付けられたゴム、シリコンゴム等の振動吸収部材32と、ナット33とで構成されている。取付ボルト31は、基台22の各取付孔28および胴3のボルト用挿通孔29に挿通され、ナット33が胴3の内側から螺合されることにより基台22を胴3の外周面に固定する。振動吸収部材32は、取付ボルト31に嵌着されて、胴3と基台22との間に位置し、ナット33の締付けにより基台22により胴3の外周面に押し付けられている。
【0025】
前記クランプ部材23は、亜鉛やアルミニウム合金等の金属によって台形状に形成されており、先端面中央には前記楽器用スタンド10の支持ロッド16が差し込まれる六角形のロッド用穴40が形成されている。クランプ部材23は、各基台22A、22B、22Cのサイズに関係なく同一の大きさに形成されている。前記支持ロッド16は、ロッド用穴40に適合する六角形のロッドからなり、ロッド用穴40に挿抜自在に挿入されており、前記蝶ねじ26によって固定されている。
【0026】
このように本発明においては、ドラム用支持部材20の基台22を木材製としたので、ドラム1の演奏時に胴3の振動エネルギーが連結部材21を介して基台22に伝達されると、基台22は低周波域で共振するため、ドラムの放射音の低音を増大させることができ、聴感的に太くて重量感のある音色を得ることができる。すなわち、低音域を強調したドラムを提供することができる。
【0027】
また、連結部材21を取付ボルト31と振動吸収部材32とで構成し、振動吸収部材32によってドラムの振動エネルギーが楽器用スタンド10に伝わらないようにしているので、楽器用スタンド10による振動エネルギーの損失を少なくすることができる。この場合、振動吸収部材32によっては楽器用スタンド10への振動エネルギーの伝達を完全には防止することはできないが、振動吸収部材32と楽器用スタンド10との間にはさらに木材製の基台22が介在しているので、振動エネルギーの楽器用スタンド10への伝達が少なく、ドラム全体を効果的に振動させることができ、大きな音量を得ることができる。
【0028】
図8は基台を木材と金属で製作した場合の周波数域を示す図である。同図において、Aは基台を木材で製作した場合の周波数域、Bは基台を金属で製作した場合の周波数域である。この図から明らかなように、木材製の基台によれば、金属製の基台に比べて耳障りな6000Hz以上の高周波域の振動(スタンドの共振と考えられる)を抑えることができる。
【0029】
また、重量が異なる各サイズ(口径、深さ)の胴3A、3B、3Cに対して基台22A、22B、22Cを胴3A、3B、3Cにそれぞれ固定する連結部材21の使用個数を異ならせる。すなわち、重量の軽い小型の胴3Aについては、使用個数を少なくし、重量が重い胴3ほど使用個数を多くしているので、胴3A、3B、3Cの重量に関係なくサスティンを略一様にすることができる。換言すれば、重量の重い大型の胴3Cは、本来的に音が伸びすぎるので、連結部材21を多くして振動吸収部材32による振動エネルギーの損失を多くすることにより、サスティンを短くすることができる。反対に、重量が軽い小型の胴3Aの場合は、本来的に音の伸びが短いので、連結部材21の数を少なくして振動吸収部材32による振動エネルギーの損失を少なくすることにより、サスティンが相対的に長くなり、重量の重い胴3Bまたは胴3Cのサスティンに近づけることができる。
【0030】
図9は4個の連結部材を用いた場合のサスティンを示す図、図10は5個の連結部材を用いた場合のサスティンを示す図である。
これらの図から明らかなように、連結部材21を4個用いた場合に比べて5個用いた方が音の減衰が早いことが分かる。
【0031】
サスティンの調整については、上記した胴3A、3B、3Cの重量に拠らず奏者の好みや演奏曲目によって変えるようにすることもできる。すなわち、サスティンを通常よりも伸ばしたい場合は、連結部材21を通常よりも適宜個数、例えば小型の胴3Aの場合は連結部材21を1個減らし、中型の胴3Bの場合は同じく通常よりも連結部材21を1個または2個減らし、大型の胴3Cの場合は同様に通常よりも連結部材21を1個、2個または3個減らせばよい。一方、サスティンを通常よりも短くしたい場合は、例えば図12に示すように、ゴム、シリコンゴム、発泡スチロール等によって形成した楔形の振動吸収部材50をサスティン調整手段として胴と基台22の間に適宜個数介在させるか、あるいは予め基台22にサスティン調整用のねじ穴を形成しておき、このねじ穴に連結部材21と同様なボルトと振動吸収部材とからなるサスティン調整手段を取付け、ボルトの先端を胴本体の外周面に接触させればよい。
このようなサスティン調整手段を用いれば、胴3自体には何ら加工を施す必要がなく、サスティンを自由に調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るドラムの支持構造を示す外観斜視図である。
【図2】ドラム用支持部材の正面図である。
【図3】ドラム用支持部材の側断面図である。
【図4】ドラム用支持部材の平面図である。
【図5】小型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図である。
【図6】中型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図である。
【図7】大型の胴にドラム用支持部材を取付けた状態を示す斜視図である。
【図8】基台を木材と金属で製作した場合の周波数域を示す図である。
【図9】4個の連結部材を用いた場合のサスティンを示す図である。
【図10】5個の連結部材を用いた場合のサスティンを示す図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示す基台の斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1…ドラム、2…楽器用スタンド、3、3A、3B、3C…胴、16…支持ロッド、20、20A、20B、20C…ドラム用支持部材、21…連結部材(サスティン調整手段)、22、22A、22B、22C…基台、31…取付ボルト、32…振動吸収部材、50…サスティン調整手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム支持体のドラム保持部に取付けられたドラム用支持部材と、ドラムの胴を支持し前記ドラム支持部材に連結する連結部材とを備え、前記ドラム用支持部材の前記連結部材が取付けられる基台を木材製の基台で構成したことを特徴とするドラムの支持構造。
【請求項2】
請求項1記載のドラムの支持構造において、
前記連結部材は、振動吸収部材と取付ボルトとで構成され、サスティン調整手段を兼用することを特徴とするドラムの支持構造。
【請求項3】
請求項2記載のドラムの支持構造において、
前記サスティン調整手段は、胴の重量に応じて所要個数取付けられることを特徴とするドラムの支持構造。
【請求項4】
請求項2記載のドラムの支持構造において、
前記サスティン調整手段は、選択的に所要個数取付けられ、サスティンを調整することを特徴とするドラムの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−163111(P2009−163111A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2217(P2008−2217)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)