説明

ドラム用胴およびこれを用いたドラム

【課題】胴の振動を妨げず音響特性の良好なドラム用胴およびドラムを提供する。
【解決手段】密度が異なる11プライの単板10a〜10kからなる積層合板10によって胴2を形成する。中心部の単板10fは、高比重板材で構成され、その両側の単板10b〜10e、10g〜10jはそれぞれ中比重板材で構成され、さらにその両側の単板10a、10kはそれぞれ低比重板材で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスドラム、スネアドラム、マーチングドラム等のドラム用胴およびこれを用いたドラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムのドラムヘッドが張設される胴としては、通常木材、アルミニウム合金等の金属、FRP(繊維強化合成樹脂)などの種々の素材によって製作されるが(例えば、特許文献1〜3参照)、中でも音質的に暖かみのある音が得られることから木材によって製作されたものが主流を占めている。
【0003】
木材としては、適度な硬さと音響特性に優れた材質からなる木材、例えばメイプル、カバ、ブナ、竹等が用いられる。
【0004】
特許文献1に記載されている太鼓は、胴の使用材料として木質系材料または非木質系材料を用いて多角形の胴を形成している。木質系材料としては、パーティクルボード、ファイアボード、集成材、積層材、合板その他の材料を使用し、非木質系材料としては、合成樹脂材料、ガラス繊維入り樹脂材料、炭素繊維入り樹脂材料、ボロン繊維入り樹脂材料およびこれらの材料のうち幾つかを選択使用する複合材料やその他の材料を用いている。
【0005】
特許文献2に記載されているドラムは、細長い平板状の竹素材を表裏反転させて交互に幅方向に複数個接ぎ合わせて接ぎ合わせ板材を形成し、この接ぎ合わせ板材を複数枚積層して合板を形成し、この合板を幅方向に接合することにより胴を形成している。
【0006】
特許文献3に記載されているドラムは、長細状単板を円筒状に接合して胴を形成している。
【0007】
【特許文献1】特開平11−45087号公報
【特許文献2】特許第3324577号公報
【特許文献3】実公昭53−47939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合板製のドラムの場合、従来は基本的に低比重の単板を高比重の単板で挟み込んで胴を形成していた。低比重の単板を高比重の合板で挟み込んだ胴としては、例えばメイプル(比重:0.7)+ポプラ(比重:0.45)+メイプル(比重:0.7)、マホガニー(比重:0.65)+ポプラ(比重:0.45)+マホガニー(比重:0.65)、バーチ(比重:0.71)+メランティ(比重:0.55)+バーチ(比重:0.71)等が知られている。
【0009】
外側を高比重の単板で構成する理由は、気温や気候の変化に対する影響を少なくするとともに、外表面の強度を高め、損傷、摩耗等の発生を低減し外観を維持するためである。
【0010】
しかしながら、低比重の単板を高比重の合板で挟み込んだ胴は、外側が高比重の単板で押さえ込まれているため、振動エネルギの内部摩擦により損失が多く、そのためドラムとしては減衰が早く、音量が相対的に小さくなるという問題があった。
【0011】
上記した特許文献1〜3に記載されているドラムは、いずれも一長一短があり改良の余地があった。すなわち、特許文献1に記載されている太鼓は、ドラムヘッドの張設構造が特殊な構造となり、一般のヘッド枠を使用することができない。特許文献2に記載されているドラムは、竹製合板の製造工程数が多く、製造コストが高くなる。特許文献3に記載されているドラムは、長細状単板を用いて胴を製作すると、単板の乾燥、経年変化による歪み等が生じ易く、単板相互間に隙間が生じる。
【0012】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、胴の振動を妨げず音響特性の良好なドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、密度が異なる複数枚の単板からなる積層合板によって形成されてなり、前記複数枚の単板は、中心部において密度が最も高く、表面および裏面に向かって徐々に密度が低くなるように接合されているものである。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記積層合板が、高比重板材と、この高比重板材の両面にそれぞれ接合された左右一対の中比重板材および前記各中比重板材の外側にそれぞれ接合された左右一対の低比重板材とで構成されているものである。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、前記高比重板材の比重が0.9〜1.3、中比重板材の比重が0.7〜0.9未満、低比重板材の比重が0.5〜0.7未満とされているものである。
【0016】
さらに、本発明に係るドラムは、上記のドラム用胴を備えているものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、中心部を高比重(高剛性)の単板とし、外側に向かう単板ほど低比重(低剛性)の単板としたので、低比重材が高比重材の振動を妨げにくく、振動の余韻、音量を確保することができる。また、高比重、高剛性の胴では得られない音の大きさ、鳴り易さ、太さ(音域幅)を確保することができ、音響特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明をスネアドラムに適用した一実施の形態を示す外観斜視図、図2は胴の外観斜視図、図3は胴の断面図、図4は胴を構成する合板の分解斜視図である。これらの図において、全体を参照符号1で示すスネアドラムは、両端が開放する円筒状に形成された胴2と、この胴2の両開口端面をそれぞれ覆うように張設された2枚のドラムヘッド3と、これらのドラムヘッド3をそれぞれ支持、緊張するヘッド支持緊張手段4と、裏面側のドラムヘッド3に張設されたドラム用響線5と、このドラム用響線5を裏面側のドラムヘッド3に対して選択的に接触離間させるバッケン機構6等を備えている。
【0019】
前記胴2は、密度が異なる複数枚、例えば11プライの単板10a〜10kからなる積層合板10によって形成されている。また、この積層合板10は、単板10a〜10kを胴2を構成する積層合板10の厚み方向の中心部における単板10fの密度が最も高く、胴2の表面および裏面に向かって徐々に密度が低くなるように積層して一体的に接合することにより形成されている。このため、積層合板10は、厚み方向における中心部を構成する高比重板材Aと、この高比重板材Aの両面にそれぞれ接合された左右一対の中比重板材Bおよび前記各中比重板材Bの外側にそれぞれ接合された左右一対の低比重板材Cとで構成されている。
【0020】
高比重板材Aとしては、1プライの単板10fで構成されている。単板10fとしては、比重が0.9〜1.3の単板、例えば中南米産のジャトバ(比重:0.9)やブビンガ、ローズウッド、コクタン等が用いられる。
【0021】
中比重板材Bとしては、4プライの単板10b〜10e、10g〜10jからなる積層合板で構成されている。単板10b〜10e、10g〜10jとしては、比重が0.7〜0.9未満の単板、例えば比重が高めのメイプル(比重:07)やバーチ(比重:0.71)、他にクレイン、アピトン、カポール等が用いられる。
【0022】
低比重板材Cとしては、1プライの単板10a、10kで構成されている。単板10a、10kとしては、比重が0.0.5〜0.7未満の単板、例えばポプラ(比重:045)、メランディ(比重:0.55)、マホガニー(比重:0.65)、比重が低めのメプルやバーチ、ニレ、タモ等が用いられる。
【0023】
胴2を製作するに当たっては、単板10a〜10kに接着剤を塗布して順次積層し、乾燥させて接着剤を固化させることにより、胴形成用の積層合板10を製作する。次に、この胴形成用積層合板10を所定の直径の円筒状に丸めて両端を互いに接合する。さらに、筒体の両端面を図3に示すように内側に向かって所要角度傾斜した斜面に切削加工するとともに、ラグ取付用穴を形成する。そして、外表面に保護塗装を施すことにより胴2を製作する。
【0024】
このような構造からなる胴2を備えたドラム1においては、高比重の単板を低比重の単板で挟み込んだ胴を備えた従来のドラムに比べて、振動の対数減衰率が低く、振動が持続する非制振構造のドラムを得ることができる。また、音の大きさ、鳴りやすさ、音の太さ(音域幅)も良好で、従来に見られない音響特性の優れたドラムを提供することができる。これらは、高比重板材Aが内側に位置するため、その振動が中比重板材Bおよび低比重板材Cにより抑制されにくいことによるものと思われる。
【0025】
低比重板材C(ヒバ)を中心に配置し、高比重板材Aを外側に配置したときと、高比重板材A(ジャトバ)を中心に配置し、低比重板材Cを外側に配置したときの音の対数減衰率を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、中心に高比重板材Aを配置し、外側に低比重板材Cを配置した胴によれば、中心に低比重板材Cを配置し、外側に高比重板材Aを配置した胴に比べて、振動の対数減衰率を低くすることができる。
【0028】
図5は本発明の他の実施の形態を示す合板の分解斜視図である。
この実施の形態は、図3に示した中比重板材Bを構成する4枚の単板10c、10d、10h、10iを除き、7プライの単板10a〜10b、10e〜10g、10j〜10kによって積層合板21を形成した点が上記した実施の形態の積層合板10と異なるだけで、その他の構成は全く同一である。このため、同一構成部材については同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0029】
このような構造からなる胴21においても、積層合板21の厚み方向の中心に高比重板材Aを配置し、その両側に中比重板材Bをそれぞれ配置し、さらにその両側に低比重板材Cをそれぞれ配置しているので、上記した実施の形態と同様な効果が得られる。
【0030】
なお、上記した実施の形態においては、いずれも高比重板材Aと、低比重板材Cをそれぞれ1プライの単板10f、10a、10kで構成した例を示したが、本発明はこれに何ら特定されるものではなく、3プライ以上の単板からなる積層合板で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明をスネアドラムに適用した一実施の形態を示す外観斜視図である。
【図2】胴の外観斜視図である。
【図3】胴の断面図である。
【図4】胴を構成する合板の分解斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を示す胴を構成する合板の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…スネアドラム、2…胴、3…ドラムヘッド、4…ヘッド支持緊張機構、10…積層合板、10a〜10k…単板、21…積層合板、A…高比重板材、B…中比重板材、C…低比重板材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が異なる複数枚の単板からなる積層合板によって形成されてなり、
前記複数枚の単板は、中心部において密度が最も高く、表面および裏面に向かって徐々に密度が低くなるように接合されていることを特徴とするドラム用胴。
【請求項2】
請求項1記載のドラム用胴において、
前記積層合板は、高比重板材と、この高比重板材の両面にそれぞれ接合された左右一対の中比重板材および前記各中比重板材の外側にそれぞれ接合された左右一対の低比重板材からなることを特徴とするドラム用胴。
【請求項3】
請求項2記載のドラム用胴において、
前記高比重板材の比重が0.9〜1.3、中比重板材の比重が0.7〜0.9未満、低比重板材の比重が0.5〜0.7未満であることを特徴とするドラム用胴。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のドラム用胴を備えたことを特徴とするドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−163112(P2009−163112A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2220(P2008−2220)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)