説明

ドラム

【課題】 打音のバランスが良く、かつ、打音をより長く響かせることができるドラムを、部品点数が少ない構成によって実現する。
【解決手段】 トップ・ヘッドのタイトな張りを保持するためのトップ・リムと、ボトム・ヘッドのタイトな張りを保持するためのボトム・リムとを連結するラグ20に、空気を逃がすためのベンド・ホールを有しないシェル51を貫通するとともにラグ20を支持するための支持具60を挿通する、空気孔12を有して円筒状に形成された六角ボルト11が螺合するねじ孔と、このねじ孔に連通してシェル51内部の空気を外部に逃がすための孔部21を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は打楽器であるドラムに関する。具体的には、打音のバランスが良く、かつ、打音をより長く響かせることができるドラムを、部品点数が少ない構成によって実現せんとするものである。
【背景技術】
【0002】
従来より用いられているドラムの構成を、図4に示し説明する。ここで、図4は、この従来例の構成を示す側面図である。
【0003】
図4において、51は、円筒状に形成されたシェルであり、その素材には、例えばメープル(楓)の合板が用いられ、その肉厚は例えば7mmである。このシェル51の上端および下端には、図示されてはいない所定の厚さのプラスチック製の鼓面が張られている。また、シェル51の上端部および下端部それぞれの外周面には、平面形状がリング状で断面が段差状に形成された金属製の枠体であるトップ・リム52およびボトム・リム53が嵌合されている。
【0004】
このトップ・リム52およびボトム・リム53は、トップ・ヘッド(上方の鼓面)およびボトム・ヘッド(下方の鼓面)のタイトな張りを保持するためのものであり、その保持状態は、支持具60により支持された角柱状の複数のラグ54a〜fを介して、トップ・リム52およびボトム・リム53を相互に引っ張り合うようにして連結することにより維持される。両者の連結は、トップ・リム52およびボトム・リム53に設けられた孔部をねじ山部が通る各ねじ55−1,55−2を、ラグ54a〜fの上下両端部に螺合させることにより行う。
【0005】
ラグ54a〜fを支持する支持具60は、図5(断面図)に示すように、一方の端部にフランジを有する円筒状に形成され、シェル51を貫通する丸頭ボルト62が、支持具60の中空部内を挿通し、ラグ54aに螺合する。これにより、ラグ54aが支持される。なお、支持具60とシェル51との間には、ゴム板61が介装され、丸頭ボルト62の頭部とシェル51との間には座金63が介装されている。
【0006】
図4において、シェル51には、2つのラグ54c,54dの中間の部位に、上下両鼓面が張られて密閉したシェル51内部の空気を外部に逃がすためのベンド・ホール70が設けられている。このベンド・ホール70は、図6(断面図)に示すように、中空部を有し円筒状に形成された六角ボルト71が、シェル51を貫通し、これに丸ナット72が螺合してシェル51に固定されることにより設けられている(丸ナット72とシェル51との間には、座金73が介装される。)。
【0007】
ここにおけるベンド・ホール70の径は、例えば12mmであり、その中心のドラムの高さ方向における位置は、ラグ54a〜fを支持する支持具60の軸心位置と同一である。
【0008】
以上のように構成されたドラム50を使用して、上方の鼓面であるトップ・ヘッドをスティックで叩打すると、シェル51内部の空気は、ベンド・ホール70を介して外部に逃げ、これにより、打音の発生に必要な上下両鼓面の振動が確保されることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】黒沢隆朝著「図解世界楽器大事典」雄山閣出版 1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図4に示した従来例によると、ドラム50のトップ・ヘッドをスティックで叩打したときに、シェル51内部の空気を外部に逃がすために、シェル51にベンド・ホール70を設けている。
【0011】
しかし、シェル51にベンド・ホール70という孔部を設けると、シェル51の振動伝達能力が低下し、ドラム50の打音のバランスが悪くなるなどの悪影響を及ぼすという解決すべき課題が、図4に示した従来例にはあった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、上記課題を解決するために、本発明はなされたものである。そのために、本発明では、つぎのような手段を用いるようにした。すなわち、トップ・ヘッドのタイトな張りを保持するためのトップ・リムと、ボトム・ヘッドのタイトな張りを保持するためのボトム・リムとを連結するラグに、空気を逃がすためのベンド・ホールを有しないシェルを貫通するとともにラグを支持するための支持具を挿通する、空気孔を有して円筒状に形成されたボルトが螺合するねじ孔と、このねじ孔に連通してシェル内部の空気を外部に逃がすための孔部とを設けるようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるならば、シェルに、シェル内部の空気を外部に逃がすためのベンド・ホールを設けないことから、シェルの振動伝達能力が高まる。そのため、ドラムの打音の良好なバランスを確保することができるとともに、打音をより長く響かせることができる。
【0014】
また、シェルにベンド・ホールを設けない結果、ベンド・ホールを形成するための工程および部品が不必要となる。すなわち、工数および部品点数を少なくすることができ、製造コストの低廉化が図れるという利点もある。したがって、本発明によりもたらされる効果は、極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例の要部の構成を示す部分断面図である。
【図2】本発明によるドラムと従来例のそれぞれの打音のパワー・スペクトラム図である。
【図3】本発明によるドラムと従来例のそれぞれの打音の時間軸を加えたパワー・スペクトラム図である。
【図4】従来例の構成を示す側面図である。
【図5】図4に示したラグを支持するための構成を示す部分断面図である。
【図6】図4に示したベンド・ホールを形成するための構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるドラムでは、トップ・ヘッドのタイトな張りを保持するためのトップ・リムと、ボトム・ヘッドのタイトな張りを保持するためのボトム・リムとを連結するラグに、空気を逃がすためのベンド・ホールを有しないシェルを貫通するとともにラグを支持するための支持具を挿通する、中空部を有して円筒状に形成されたボルトが螺合するねじ孔と、このねじ孔に連通してシェル内部の空気を外部に逃がすための孔部とを設ける。以下、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明によるドラムの特徴は、図4に示した従来例が、シェル51内部の空気を逃がすためのベンド・ホール70をシェル51に設けているのとは異なり、シェルにベンド・ホール70を設けていないことである。
【0018】
そこで、本発明の一実施例の構成を、図1に示し説明する。ここで、図1は、本発明によるドラムの要部の構成を示す部分側面図であり、ドラムの上下両鼓面のタイトな張りを保持するためのトップ・リムおよびボトム・リムを連結するラグを支持するための構成を示している。
【0019】
図1において、図5に示した従来例におけるラグを支持するための構成と異なるところを説明する(図5における構成要素と同一の構成要素については、同じ符号を付している。)。本発明では、シェル51を貫通し支持具60の中空部内を挿通してラグ20に螺合するボルトとして、中空部である空気孔12を有する円筒状の六角ボルト11を用いるとともに、六角ボルト11が螺合するねじ孔に連通する、テーパ状に開口する孔部21をラグ20に設けている。六角ボルト11の空気孔12の径は、本実施例では、2.8mmである。
【0020】
すなわち、本発明では、シェルにベンド・ホール70(図4)を設けない代わりに、ラグ20を支持するための六角ボルト12に設けられた空気孔12、およびラグ20に設けられた孔部21を介して、シェル51内部の空気を外部に逃がすようにしている。その他の構成は、図4に示した従来例と同じである。
【0021】
図2は、以上のように構成された本発明によるドラムの打音と、図4に示した従来例の打音との比較実験の結果を示しており、図2(a)は、本発明によるドラムの打音のパワー・スペクトラムを表し、図2(b)は、従来例の打音のパワー・スペクトラムを表している。各図中、垂直軸は、音圧レベルすなわち打音の大きさを示しており、水平軸は、打音の周波数を対数軸で表現している。
【0022】
ここで、実験では、本発明によるドラムも従来例もともに、最も標準的なサイズである鼓面の直径が14インチでシェル51の深さが5インチのものを使用している。シェル51の素材は、ともにメープルの合板(肉厚は7mm)である。また、叩打面である上方の鼓面と、下方の鼓面のそれぞれの張りを、衝撃に対する反発力が同一となるように調整したうえで、叩打装置により同一の叩打力を上方の鼓面にそれぞれ1打加えている。
【0023】
図2(a)に示す本発明によるドラムの打音の波形は、図2(b)に示す従来例の打音の波形と比較して、低音域から高音域にわたる全音域において滑らかであり、打音のバランスが良いことを示している。
【0024】
図3は、図2に示した音圧レベルおよび周波数に加えて、傾斜軸で時間を示しており、図3(a)は、本発明によるドラムの打音のパワー・スペクトラムを表し、図3(b)は、従来例の打音のパワー・スペクトラムを表している。ここから明らかなように、本発明によるドラムでは、低音域から高音域にわたる全音域において、打音が響く時間が、図4に示した従来例よりは長くなっている。
【0025】
このように、本発明では、ドラムのシェル51に、従来例におけるようなベンド・ホール70をシェル51に設けていないことから、ドラムの打音のバランスを良好なものとし、打音をより長く響かせることが可能となる。
【0026】
以上においては、空気孔12を有するボルトとして、六角ボルト11を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。その他にも、例えば、頭部が四角の四角ボルトに空気孔を設ける場合についても、本発明は適用され得るものである。
【0027】
また、すべてのラグ20に、六角ボルト11が螺合するねじ孔に連通する孔部21を設けて、すべてのラグ20を空気孔12を有する六角ボルト11で支持する場合だけに、本発明は限られるものではない。少なくとも1つのラグ20に孔部21を設け、このラグ20を空気孔12を有する六角ボルト11で支持する場合について、本発明は適用し得るものである。
【符号の説明】
【0028】
11 六角ボルト
12 空気孔
20 ラグ
21 孔部
50 ドラム
51 シェル
52 トップ・リム
53 ボトム・リム
54a〜54f ラグ
55−1,55−2 ねじ
60 支持具
61 ゴム板
62 丸頭ボルト
63 座金
70 ベンド・ホール
71 六角ボルト
72 丸ナット
73 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップ・ヘッドのタイトな張りを保持するためのトップ・リム(52)とボトム・ヘッド(57)のタイトな張りを保持するためのボトム・リム(53)とを連結する複数のラグのうちの少なくとも1つのラグ(20)に、空気を逃がすためのベンド・ホールを有しないシェル(51)を貫通するとともに前記少なくとも1つのラグを支持するための支持具(60)を挿通する、空気孔(12)を有して円筒状に形成されたボルト(11)が螺合するねじ孔と、前記ねじ孔に連通して前記シェル内部の前記空気を外部に逃がすための孔部(21)とを設けたドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−53239(P2011−53239A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199213(P2009−199213)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504100709)