説明

ドリル

【課題】切削油を吐出する際の吐出性能をより向上させたドリルを提供する。
【解決手段】軸線方向に延びる螺旋状の切刃が形成された、少なくとも一条の刃部2と、刃部2間に形成された凹部である螺旋状の切削溝8と、後端部から切削油を導入する導入口4と、先端部から切削油を吐出する吐出口5a,5b,5cと、軸線上に沿って延びるとともに、導入口4と吐出口5a,5b,5cとに連通する第一流路6と、を備えるドリル100であって、第一流路6の内周面には、切削溝3とは逆巻きの螺旋状の溝部6i,6j,6kが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを切削加工するためのドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルを用いてワーク(加工対象物)を切削加工する際には、摩擦を抑制し、ワークを冷却するために、切削油が用いられる。
ドリルを回転させてワークを切削するにつれて、ドリルとワークとの間で生じる摩擦力により、ワークにおいてドリルと接触している箇所の温度が上昇する。したがって、先端部分の吐出口から切削油を吐出しながらワークを冷却しつつ切削できるようにするために、前記吐出口と連通する流路をドリル内に形成し、当該流路を介して切削油を供給する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、軸線方向に沿って先端から後端まで貫通した油路(流路)が設けられ、前記油路が先端面の2つの開口(吐出口)に連通しているドリルについて記載されている。すなわち、前記油路は、先端よりに設けられた分岐点で1本から2本に分岐し、2つの前記開口に連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−18382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように、ドリルを回転させてワークを切削すると、ワークにおいてドリルと接触している箇所の温度が上昇する。しかし、ワークの温度を下げるために液体の切削油を用いると、ワークが過度に冷却されて硬度が上昇し、かえって切削しにくくなる場合がある。
そこで、ドリルとワークとの摩擦を抑制するとともに、ワークを適度な温度とするために、ミスト状(霧状)の切削油をワークに吐出する技術が知られている。
【0006】
特許文献1に記載のドリルでは、後端から分岐点までは一本の断面円形の油路が形成されている。このような油路を介してミスト状の切削油を吐出した場合、ドリルの回転に伴う遠心力によって切削油が径方向外向きの力を受ける。そうすると、ミスト状の切削油が油路の内周面に付着して液状化を起こす可能性がある。
【0007】
この場合、切削油をドリルの後端側から先端側に向けて圧送する力が小さくなるため、所定電力でドリルを駆動させた場合でも、所望の吐出量及び吐出圧力が得られない(つまり、吐出性能が低下する)可能性がある。
また、ミスト状の切削油が通流する流路が狭くなってしまい、流路抵抗が増大する。なお、ドリルの回転速度が高くなるにつれて切削油が受ける遠心力は大きくなるため、前記の傾向がより顕著になる。
したがって、特許文献1に記載の技術では、所定流量の切削油を吐出する場合に必要な消費電力の増大を招くという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、切削油を吐出する際の吐出性能をより向上させたドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るドリルは、軸線方向に延びる螺旋状の切刃が形成された、少なくとも一条の刃部と、前記刃部間に形成された凹部である螺旋状の切削溝と、後端部から切削油を導入する導入口と、先端部から切削油を吐出する吐出口と、軸線上に沿って延びるとともに、前記導入口と前記吐出口とに連通する第一流路と、を備えるドリルであって、前記第一流路の内周面には、前記切削溝とは逆巻きの螺旋状の溝部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、ドリルを所定の向きに回転させると、軸線方向に延びる螺旋状の切刃が形成された刃部によって、ワークを切削することができる。そして、ワークが切削されることにより生じた切削屑は、螺旋状の切削溝に沿ってドリルの先端側から後端側に送られる。
【0011】
また、本発明に係るドリルは、軸線上に沿って延びるとともに、導入口と吐出口とに連通する第一流路を備えている。したがって、当該第一流路を介して、導入口から吐出口に向けて切削油を供給することができる。さらに第一流路は軸線に沿って形成された直線状の流路であるため、切削油が通流する際の流路抵抗を小さくすることができる。
【0012】
また、前記第一流路の内周面には、前記切削溝とは逆巻きの螺旋状の溝部が形成されている。したがって、所定の向き(つまり、ワークの切削屑が切削溝に沿ってドリルの先端側から後端側に送られる向き)にドリルを回転させると、切削油は切削屑が送られる向きとは反対向き(つまり、ドリルの後端側から先端側に送られる向き)の力を受けることとなる。したがって、ドリルを回転させた場合に切削油は、ドリルの導入口に導入される際の圧力に加えて、第一流路の内周面に形成された螺旋状の溝部から、ドリルの先端側に向かう力を受ける。すなわち、ドリルの回転速度に伴い、切削油がより大きな力で先端側に向って圧送されることとなる。
よって、本発明に係るドリルによれば、切削油の吐出性能を向上させたドリルを提供することができる。
【0013】
また、前記ドリルにおいて、複数の前記吐出口と、前記第一流路の先端と、それぞれの前記吐出口とを連通させる複数の第二流路と、を備え、前記複数の第二流路は、前記吐出口に向かうにつれて軸線との距離が大きくなることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、第一流路を通流する切削油は複数の第二流路に分岐する。また、複数の第二流路は、それぞれに連通する吐出口に向かうにしたがって、軸線との距離が大きくなる。これによって、ドリルの回転に伴って生じる遠心力(径方向外向きの力)が、第二流路の切削油を吐出口に向けて押し出す力として作用することとなる。
したがって、ドリルを回転させた場合に切削油は、ドリルの導入口に導入される際の圧力に加えて、前記第一流路を通流する際に螺旋状の溝部から先端側に向う力を受けるとともに、第二流路を通流する際にドリルの回転に伴う遠心力によって、先端側に向かう力を受ける。すなわち、ドリルの回転速度に伴い、切削油がより大きな力でドリルの先端側に向って圧送されることとなる。
よって、本発明に係るドリルによれば、切削油の吐出性能をより向上させたドリルを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、切削油を吐出する際の吐出性能をより向上させたドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るドリルの外観斜視図である。
【図2】ドリルの側面図である。
【図3】ドリルの後端部分を拡大した一部省略側面図である。
【図4】(a)は、ドリルの先端部分を拡大した一部省略側面図であり、(b)は、ドリルの刃部及び第一流路の溝部のねじれ角を示す説明図である。
【図5】(a)は、ドリルの正面図であり、(b)は、図4のA−A断面図である。
【図6】ドリルの刃部及び切削溝を拡大した一部省略側面図であり、切削溝に沿って切削屑が送られる様子を示す図である。
【図7】ドリルの刃部及び切削溝を拡大した一部省略側面図であり、(a)は、第一流路を通流する切削油に作用する力を示す図であり、(b)は、第二流路を通流する切削油に作用する力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
<ドリルの構成>
図1は、本実施形態に係るドリルの外観斜視図である。ドリル100は、切削対象物(ワーク)を切削加工する際に用いられるものである。ちなみに、ドリル100は、ワークに鋳抜き穴(鋳造により形成された穴)が形成されている場合の穴あけ加工のほか、鋳抜き穴が形成されていない場合の穴あけ加工にも用いることができる。
また、ドリル100は、図1に示す軸線を中心軸として、後端側から先端側を見た場合の右回りに回転するものとする。
【0019】
ドリル100は、シャンク部1と、三条の刃部2a,2b,2cと、を備える。
シャンク部1は、ドリル100を回転させる駆動源(図示せず)に設けられたチャック(図示せず)などに把持される部分である。また、シャンク部1は、略円筒形状を呈しており(図2参照)、刃部2a,2b,2cと一体に形成されている。
なお、以下の記載において、刃部2a,2b,2cを総称する場合には、単に「刃部2」と記載することがあるものとする。また、後記する切削溝3(3a,3b,3c)、吐出口5(5a,5b,5c)、第二流路7(7a,7b,7c)などについても前記と同様とする。
【0020】
刃部2a,2b,2cはそれぞれ、切刃21a,21b,21cを備え、ドリル100
の回転に伴って回転(図1では、ドリル100の後端側から先端側を見た場合の右回りの回転。)することによりワークを切削するものである。なお、刃部2の前記回転はシャンク部1を把持する駆動源(図示せず)が回転することによって生じる。
刃部2a,2b,2cはそれぞれ、軸線方向に螺旋状に延びており、軸線方向で見た場合に隣り合う刃部2同士が略等間隔となるように一体で形成されている。
【0021】
それぞれの刃部2a,2b,2cが備える切刃21a,21b,21cは、軸線方向に螺旋状に延びている。切刃21a,21b,21cはそれぞれ、刃部2a,2b,2cのうち、ドリル100が回転した場合にワークと接触する側(ドリル100の回転方向で前方側:図5参照)に設けられている。そして、ドリル100が図1に示す向きに回転すると切刃21a,21b,21cも回転し、ワークを切削するようになっている。
【0022】
また、ドリル100には、切削溝3(3a,3b,3c)と、導入口4(図2参照)と、吐出口5a,5b,5cと、第一流路6(図2参照)と、第二流路7(7a,7b,7c:図2参照)と、が設けられている。
【0023】
切削溝3は、刃部2の間に形成された螺旋状の凹部である。すなわち、切削溝3aは、リル100の回転方向において刃部2aの前面である切刃21a(図5(a)参照)と、ドリル100の回転方向において刃部2bの後面である壁面10b(図5(a)参照)と、により形成される螺旋状の凹部である。また、切削溝3は、後端側から先端側を見た場合で右巻きの螺旋状となっている。
同様に、切削溝3bは、刃部2bの前面である切刃21b(図5(a)参照)と、刃部2cの後面である壁面10c(図5(a)参照)と、により形成される螺旋状の凹部である。また、切削溝3cは、刃部2cの前面である切刃21c(図5(a)参照)と、刃部2aの後面である壁面10a(図5(a)参照)と、により形成される螺旋状の凹部である。
なお、切削溝3b,3cの巻き方向は、切削溝3aと同様に、後端側から先端側を見た場合で右巻きである。
【0024】
ドリル100を回転させてワークを切削すると、例えば、刃部2aによって切削されたワークの切削屑は、隣り合う前方の刃部2bとの間に形成された切削溝3aに導かれる。
さらに、切削屑は、ドリル100によって削られたワークの穴の内壁面と、切削溝3aの周面との間にできる螺旋状の通路に沿って、ドリル100の先端側から後端側に向けて送り出される。
【0025】
図2は、ドリルの側面図であり、破線部分はドリルの内部の形状を表している。
導入口4は、外部から切削油が導入される開口部である。導入口4には、シャンク部1を把持する駆動源(図示せず)を介して外部から切削油が導入される。
【0026】
なお、導入口4に導入される切削油は、ミスト状であることが好ましい。前記したように、ミスト状の切削油をワークに吐出することによって、ワークを適温に保ちつつ加工でき、加工の効率を向上させることができるからである。ちなみに、ミスト状の切削油は、例えば、外部のミスト給油機(図示せず)で生成される。
また、導入口4に導入される切削油はミスト状である場合に限られず、液体であってもよい。
【0027】
吐出口5a,5b,5cは、導入口4から導入され、後記する第一流路6及び第二流路7a,7b,7cを通流してきた切削油が吐出される開口部である。ちなみに、吐出口5a,5b,5cは、第一流路6から3つの流路に分岐する第二流路7a,7b,7cと連通している。
【0028】
第一流路6はシャンク部1及び刃部2に亘って軸線上に沿って延びており、導入口4から導入された切削油が、吐出口5a,5b,5cに向かって通流する流路である。すなわち、第一流路6は、導入口4と吐出口5a,5b,5cとに連通している。より具体的には、第一流路6の後端が導入口4となっており、第一流路6の先端(分岐位置K)は、後記する第二流路7a,7b,7cを介して吐出口5a,5b,5cに連通している。
ちなみに、第一流路6の先端(分岐位置K)は、刃部2のうちドリル100の先端寄りに位置することが好ましい。
【0029】
また、詳細については後記するが、第一流路6の内周面には、その後端(導入口4)から先端(分岐位置K)まで、切削溝3とは逆巻きの螺旋状の溝部6i,6j,6kが形成されている(図3参照)。つまり、溝部6i,6j,6kはそれぞれ、ドリル100の後端側から先端側を見た場合の左巻きの螺旋状となっている。これは、ドリル100を回転させた場合に、第一流路6を通流する切削油に、後端側から先端側に向かう力を溝部6i,6j,6kから与えることによって流路抵抗を低減するためである。
【0030】
第二流路7a,7b,7cは、図2に示す第一流路6の先端(分岐位置K)と、それぞれの吐出口5a,5b,5cとを連通させている直線状の流路である。また、第二流路7aは、第一流路6の先端から吐出口5aに向かうにつれて軸線との距離が大きくなっている(図4参照)。同様に、第二流路7b,7cはそれぞれ、第一流路6の先端から吐出口5b,5cに向かうにつれて、軸線との距離が大きくなっている。
これは、ドリル100を回転させた場合に、第二流路7a,7b,7cを通流する切削油それぞれに作用する遠心力のうち、図2に示す分岐位置Kから吐出口5a,5b,5cに向かう分力によって流路抵抗を低減するためである。
【0031】
次に、第一流路6について詳細に説明する。図3は、ドリルの後端部分を拡大した一部省略側面図である。
前記したように、第一流路6は、軸線上に沿って延びるとともに、導入口4及び吐出口5a,5b,5cに連通している(図2参照)。また、図3に示すように、螺旋状の溝部6i,6j,6kが、軸線を中心軸として第一流路6の後端(導入口4)から先端(分岐位置K)まで設けられている。これら3つの溝部6i,6j,6kは、軸線方向で見た場合に隣り合う溝部同士が略等間隔となるように形成されている。
【0032】
また、溝部6i,6j,6kは、ドリル100の後端側から先端側に向かうにつれて、後端側から見た場合の左巻きの螺旋状に形成されている。
つまり、溝部6i,6j,6kが、後端側から先端側に向かうにつれて、ドリル100の回転(後端側から見た場合の右回り)とは逆である左巻きの螺旋状に形成されている。これによって、ドリル100が回転した場合に、第一流路6の内周面側を通流する切削油が溝部6i,6j,6kから受ける抗力のうち、軸線方向先端向き成分の力によって、ドリル100の後端側から先端側に向けて押し出す力を受けることとなる。
【0033】
なお、一般に、軸線方向に延びる螺旋形状は、その一端から見た場合の巻き方向(右巻き又は左巻き)と、他端から見た場合の巻き方向とが同じになる。つまり、溝部6i,6j,6kは、ドリル100の後端側から見た場合でも、先端側から見た場合でも左巻きとなっている。
一方、切削溝3a,3b,3cは、ドリル100の先端側から見た場合でも、後端側から見た場合でも右巻きとなっている(図1参照)。
したがって、溝部6i,6j,6kはそれぞれ、切削溝3a,3b,3cとは逆巻きの螺旋状に形成されている。
【0034】
図4(a)は、ドリルの先端部分を拡大した一部省略側面図であり、図4(b)は、ドリルの刃部及び第一流路の溝部のねじれ角を示す説明図である。
図4(a)及び図4(b)に示すように、刃部2は、右巻きの螺旋状となっており、軸線を基準とした刃部2のねじれ角は、角度θ1となっている。なお、刃部2のピッチやねじれ角は、ドリル100の剛性や切削屑の排出性などを考慮して、適宜設定することができる。
【0035】
また、第一流路6の溝部6i,6j,6k(図3参照)は左巻きの螺旋状となっており、軸線を基準とした溝部6i,6j,6kのねじれ角は、角度θ2となっている。なお、溝部6i,6j,6kのピッチやねじれ角は、第一流路6の内径や切削油の状態(液状、ミスト状など)などを考慮して、適宜設定することができる。
ちなみに、図4(b)では、左巻きの螺旋のねじれ角を正とし、右巻きの螺旋のねじれ角を負としている。
【0036】
また、第二流路7a,7b,7cはそれぞれ、分岐位置Kから吐出口5a、5b、5cに亘って直線状に形成され、軸線に対して角度θ3を有する断面円形の流路である。ただし、第二流路7a,7b,7cは直線状の流路であるから、ねじれ角はゼロとしている(図4(b)参照)。
【0037】
また、図4に示すように、ドリル100の先端はチゼルポイントZを頂点とする錐体状(先端角は、例えば、140°)に形成され、傾斜面8a,8b,8cと逃げ面9a,9b,9cと、を有している。また、傾斜面8a,8b,8cと逃げ面9a,9b,9cとは、周方向において交互に配置されている。
傾斜面8aは、刃部2aの先端面うち、ドリル100の回転方向で前方側(ワークを削り取る側)に設けられている側面視で扇形状の平面である。また、傾斜面8aのうち、回転方向で前方側は切刃21aに連なり(図5(a)参照)、回転方向で後方側は、逃げ面9aとで稜線を形成している。なお、当該稜線は先端側切刃12aとなっている(図5(a)参照)。同様に、傾斜面8b,8cはそれぞれ、刃部2b,2cの先端面のうちドリル100の回転方向で前方側に設けられ、逃げ面9a,9bとの稜線が先端側切刃12b,12cとなっている(図5(a)参照)。
【0038】
また、傾斜面8aと逃げ面9aとがなす角度は、例えば、160°であり、傾斜面8aとともに側面視で稜線を形成している。同様に、傾斜面8b,8cはそれぞれ、逃げ面9b,9cと所定角度を有しており、傾斜面8b,8cとともに側面視で稜線を形成している。
また、逃げ面9a,9b,9cにはそれぞれ、切削油を吐出する吐出口5a,5b,5cが開口している。
【0039】
図5(a)はドリルの正面図であり、図5(b)は図4に示すA−A断面図である。
図5(a)に示すように、ドリル100には、正面視した場合に軸線を中心とした所定半径の円弧上にマージン11a,11b,11cが形成されている。また、マージン11a,11b,11cはそれぞれ、刃部2a,2b,2c(図1参照)のうちドリル100の回転方向で前方側に設けられ、軸線を中心軸として螺旋状に延びている。
なお、マージン11a,11b,11cは、ドリル100とワークとの接触面積を減らすことによって抵抗を少なくするとともに、ドリル100の回転によって形成される穴の径を軸線方向で一定とするために設けられている。
【0040】
ドリル100が後端側から先端側を見た場合の右回りに回転すると、傾斜面8及び逃げ面9が前記のように稜線を形成しているため、図5(a)において網目で示す傾斜面8a,8b,8cがワークと接触し、逃げ面9a,9b,9cとワークの間に隙間ができる。
そして、吐出口5a,5b,5cから吐出される切削油が前記隙間に吐出されることとなる。これによって、ドリル100とワークとの接触部においてワークを適温にするとともに、切削屑の排出性を良くすることができる。
【0041】
また、切刃21aと壁面10bとにより切削溝3aが形成され、切刃21bと壁面10cとにより切削溝3bが形成され、切刃21cと壁面10aとにより切削溝3cが形成されている。そして、ドリル100によってワークを切削することで生じた切削屑は、切削溝3a,3b,3cと、ワークの穴の内壁面との間の螺旋状の通路に沿って、ドリル100の先端側から後端側に向けて送り出される。
【0042】
また、図5(b)に示すように、第一流路6はドリル100の断面の中心に形成され、溝部6i,6j,6kが軸線を中心として、周方向において等間隔となるように形成されている。
なお、前記したように、第一流路6は第二流路7a,7b,7cを介して吐出口5a,5b,5cに連通している。
【0043】
ちなみに、ドリル100の断面(軸線と垂直な平面で切断した場合の断面)に着目した場合に、それぞれの溝部6iとマージン11a,溝部6jとマージン11b,溝部6kとマージン11cの位置が対応している必要はない。すなわち、螺旋状の溝部6i,6j,6kのピッチと、螺旋状のマージン11a,11b,11cのピッチと、を略同一とする必要はない。
【0044】
<作用・効果>
図6は、ドリルの刃部及び切削溝を拡大した一部省略側面図であり、切削溝に沿って切削屑が送られる様子を示す図である。
ドリル100が回転すると、先端側切刃12a,12b,12c(図5(a)参照)、及び、側面の螺旋状の切刃21によって削られたワークの穴の内壁面と、切削溝3との間にできる螺旋状の通路に沿って、ドリル100の先端側から後端側に向けて、切削屑Pが送り出される。
これは、後端側から見た切削溝3の螺旋の巻き方向(右巻き)と、ドリル100の回転方向(右回り)とが同じになっているためである。
【0045】
図7(a)は、第一流路を通流する切削油に作用する力を示す図である。
ドリル100が回転すると、第一流路6を通流する切削油は、ドリル100の回転に伴って溝部6i,6j,6kから、当該溝部の曲面に接する平面と垂直な方向で、軸線側に向かう力F1を受ける。
また、力F1のうち軸線方向と垂直な成分の力(径方向内向きの力)F11は、作用・反作用によって、ドリル100の回転によって切削油が受ける径方向外向きの遠心力F2と打ち消し合う。
【0046】
一方、前記力F1のうち軸線方向と平行な成分の力(後端側から先端側に向かう力)F12は、遠心力による径方向外向きの力によって打ち消されずに切削油に作用することとなる。つまり、第一流路6を通流する切削油は、外部の切削油供給手段(図示せず)から受ける圧力に加えて、ドリル100の回転に伴って後端側から先端側に向けて溝部6i,6j,6kから力を受ける。
これは、後端側から見た溝部6i,6j,6kの螺旋の巻き方向(左巻き)と、ドリル100の回転方向(右回り)とが逆になっているためである。
【0047】
したがって、ドリル100を回転させた場合に切削油は、ドリル100の導入口4に導入される際の圧力に加えて、第一流路6の内周面に形成された螺旋状の溝部6i,6j,6kから、ドリル100の先端側に向かう力を受ける。すなわち、ドリル100の回転速度に伴い、切削油がより大きな力で先端側に向って圧送されることとなる。
さらに、ドリル100の第一流路6は、軸線上に沿って延びる直線状の流路となっている。このように第一流路6を一本の直線状の流路とすることで、螺旋状の刃部2のねじれ形状を形成する際の制約を小さくすることができる。すなわち、刃部2のねじれ角(図4の角度θ1)を設定する際の自由度を大きくすることができる。
【0048】
また、例えば、(直線状ではなく)螺旋状の流路をドリル内部に形成する場合と比較して、流路径の大きな流路を形成することができる。したがって、第一流路6を通流する切削油の流路抵抗を小さくすることができ、所定流量の切削油を吐出する際の消費電力を低減することができる。
【0049】
図7(b)は、第二流路を通流する切削油に作用する力を示す図である。
ドリル100が回転すると、例えば、第二流路7aを通流する切削油は、遠心力によって軸線に対し径方向外向きの力F3を受ける。ここで、力F3は、軸線からθ3(図3参照)だけ傾斜している第二流路7aの中心軸と垂直で、当該中心軸を基準として径方向外向きに向かう力F31と、中心軸と平行で、第二流路7aの後端側から先端側に向かう力F32と、に分解することができる。
【0050】
ここで、力F31は作用・反作用によって、第二流路7aの内周面からの径方向内向きの抗力F4によって打ち消されるが、力F32は打ち消されずに切削油に作用する。つまり、第二流路7aを通流する切削油は、外部の切削油供給手段(図示せず)から受ける圧力に加えて、ドリル100の回転に伴う遠心力によって、後端側から先端側に向かう力F32を受ける。
【0051】
これは、第二流路7aが、吐出口5aに向かうにつれて軸線との距離が大きくなるように形成されているためである。なお、第二流路7b,7cについても前記と同様のことがいえる。
したがって、ドリル100を回転させた場合に切削油は、第二流路7a,7b,7cを通流する際にドリル100の回転に伴う遠心力によって、先端側に向かう力を受ける。すなわち、ドリルの回転速度に伴い、切削油がより大きな力でドリル100の先端側に向って圧送されることとなる。よって、本実施形態に係るドリル100によれば、切削油を吐出する際の吐出性能をより向上させることができる。
また、第二流路7を通流する切削油の流路抵抗を小さくすることができ、所定流量の切削油を吐出する際の消費電力を低減することができる。
【0052】
仮に、螺旋状の流路をドリル内部に形成し、ミスト状の切削油を前記流路に通流させた場合には、ドリルの回転に伴う遠心力によって切削油は径方向外向きの力を受けるため、螺旋状の流路の内周面に押し付けられて液状化してしまう可能性がある。この場合、液状化した切削油が前記流路を塞いでしまい、流路抵抗が大きくなる。また、吐出口から吐出されるミスト状の切削油の流量が少なくなってしまう。
【0053】
これに対して本実施形態に係るドリル100は、内周面に切削溝3とは逆巻きの螺旋状の溝部6i,6j,6kが形成された第一流路6、及び、吐出口5a,5b,5cに向かうにつれて軸線との距離が大きくなる第二流路7a,7b,7cを備えるため、流路抵抗を小さくして切削油をスムーズに通流させ、切削油の吐出量を多くすることができる。また、所定流量の切削油を吐出するのに必要な消費電力を低減することができる。
【0054】
≪変形例≫
以上、本発明に係るドリル100について前記実施形態により説明したが、本発明の実施態様はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更などを行うことができる。
例えば、前記実施形態では、後端側から見てドリル100を右回りに回転させる場合であり、切削溝3を右巻きの螺旋状とし、第一流路6の溝部6i,6j,6kを左巻きの螺旋状としていたが、これに限らない。
すなわち、後端側から見てドリル100を左回りに回転させる場合には、切削溝3を左巻きの螺旋状とし、第一流路6の溝部6i,6j,6kを右巻きの螺旋状とすればよい。
【0055】
また、前記実施形態では、刃部2及び切削溝3はそれぞれ三条としていたが、これに限らない。すなわち、刃部2及び切削溝3を三条以外(例えば、二条)としてもよい。なお、対称性などの観点から、吐出口5はそれぞれの刃部2に対応して設けることが好ましい。
また、前記実施形態では、第一流路6の溝部6i,6j,6kを三条としていたが、これに限らない。すなわち、第一流路6の溝部を三条以外(例えば、二条)としてもよい。
【0056】
また、刃部2及び切削溝3の数(前記実施形態では、三条)と、第一流路6の溝部の数(前記実施形態では、三条)とを同じにする必要はなく、異なっていてもよい。
また、刃部2及び切削溝3a,3b,3cのピッチと第一流路6の溝部6i,6j,6kのピッチとを略同じ値とする必要はなく、ドリル100の用途や使用する切削油などに応じてそれぞれ適宜設定することができる。
【0057】
また、前記実施形態では、第一流路6の溝部6i,6j,6kを、第一流路6の後端(導入口4)から先端(分岐位置K:図3参照)まで設ける場合を示したが、これに限らない。
すなわち、溝部6i,6j,6kを第一流路6の後端(導入口4)から、分岐位置K(図2参照)よりも後端寄りの所定位置まで設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 ドリル
1 シャンク部
2,2a,2b,2c 刃部
21,21a,21b,21c 切刃
3,3a,3b,3c 切削溝
4 導入口
5,5a,5b,5c 吐出口
6 第一流路
6i,6j,6k 溝部
7,7a,7b,7c 第二流路
8,8a,8b,8c 傾斜面
9,9a,9b,9c 逃げ面
10,10a,10b,10c 壁面
11,11a,11b,11c マージン
12,12a,12b,12c 先端側切刃
K 分岐位置
Z チゼルポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる螺旋状の切刃が形成された、少なくとも一条の刃部と、
前記刃部間に形成された凹部である螺旋状の切削溝と、
後端部から切削油を導入する導入口と、
先端部から切削油を吐出する吐出口と、
軸線上に沿って延びるとともに、前記導入口と前記吐出口とに連通する第一流路と、を備えるドリルであって、
前記第一流路の内周面には、前記切削溝とは逆巻きの螺旋状の溝部が形成されていること
を特徴とするドリル。
【請求項2】
複数の前記吐出口と、
前記第一流路の先端と、それぞれの前記吐出口とを連通させる複数の第二流路と、を備え、
前記複数の第二流路は、前記吐出口に向かうにつれて軸線との距離が大きくなること
を特徴とする請求項1に記載のドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107181(P2013−107181A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255655(P2011−255655)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】