説明

ナイロン中空繊維およびその製造方法

【課題】耐擦過性を損なうことなく布帛のソフト性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維を提供する。
【解決手段】相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、ジアミド化合物を0.01〜2重量%含有し、単糸繊度が0.8〜2dtex、繊維糸条の長さ方向の太さ斑がウスター1/2イナートで2%以下であることを特徴とするナイロン中空繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空を有するナイロン繊維の改良に関するものである。さらに詳しくは、耐潰れ性、耐擦過性を損なうことなく布帛のソフト性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン繊維は、機械的性質、化学的性質、肌触り、光沢性等において優れた特性を有することから一般衣料製品等の用途で広く使用されている。ナイロン繊維製衣料製品においては風合いの良さや機能付与に対するニーズが強く、なかでも軽量感、保温性に対する要望が強い。そこで、軽量・保温性等という観点から衣料用のナイロン製中空繊維が検討されているが、紡糸口金によって中空繊維を製造する方法では、ポリエステル繊維では特許文献1で提案されているもののナイロンの場合、ポリエステルと異なり高い中空率を安定して得ることが難しかった。また、ナイロンでの中空繊維を安定して製造すべく、特許文献2のような技術が提案されているが、これらのような技術では満足できる中空率を得るためには単糸繊度を太くする必要があり、布帛としたときの粗硬感があった。また、逆に単糸繊度を細くしようとした場合には糸ムラが発生したり、布帛にしたときに耐擦過性が低いといった問題があった。
【0003】
一方、細繊度の衣料用ナイロン繊維では、芯鞘型の複合繊維を製糸した後に芯部を溶出除去することによって高中空率の中空ナイロン繊維を製造する方法が特許文献3で提案されている。しかしながら、この芯部溶出除去の方法では、芯部溶出という時間のかかる工程が必要であり、また、その溶出処理に使う溶剤の処分の問題もあるので、工業的実施の点からすると望ましいものではなく、紡糸口金により直接に中空繊維を製造する方法での実施が要求されている。
【特許文献1】特開平7−268727号公報
【特許文献2】特開平9−217225号公報
【特許文献3】特開平3−249266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空繊維の場合、中空部壁が破れやすいなど通常糸に比べて耐摩耗性、耐擦過性がシビアであり、スポーツウェアやインナーウェアなどにおいてはポリエステルよりも強度、耐擦過性に優れたナイロン中空繊維の製造が求められている。ところが、ナイロン中空繊維は前述したとおり、充分な中空率を得るためには単糸繊度を太くしなければならず、結果として布帛の粗硬感を招いていた。または単糸繊度を細くすることにより糸ムラの悪化や耐久性の低下が問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、耐潰れ性、耐擦過性を損なうことなく布帛のソフト性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のナイロン中空繊維およびその製造方法は主として次の構成を有する。すなわち、
(1)相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、下記一般式(1)または(2)で示されるジアミド化合物を0.01〜2重量%含有し、単糸繊度が0.8〜2dtex、繊維糸条の長さ方向の太さ斑がウスター1/2イナートで2%以下であることを特徴とするナイロン中空繊維。
【0007】
【化1】

【0008】
(ただし、R1、R4は炭素原子数10〜20のアルキル基、R2,R3は水素原子、メチル基、またはエチル基、nは1〜10の整数を示す。)
【0009】
(2)ナイロン中にマグネシウム化合物を0.01〜1重量%含有することを特徴とする前記記載のナイロン中空繊維。
【0010】
(3)中空部が変形度1.2〜1.6の三角形状であることを特徴とする前記記載のナイロン中空繊維。
【0011】
(4)ナイロンを複数のスリットからなる吐出孔から吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、エチレンビスアミド化合物を0.01〜2重量%含有し、単糸繊度が0.8〜2dtex、繊維糸条の長さ方向の太さ斑がウスター1/2イナートで2%以下であるナイロン中空繊維を製造することを特徴とするナイロン中空繊維の製造方法。
【0012】
(5)吐出させた糸条を冷却、給油、交絡後、1000m/分以上の速度で引き取り、一旦巻き取ることなく1.2〜3.0倍で延伸、熱固定した後に3000m/分以上の速度で巻き取ることを特徴とする前記記載のナイロン中空繊維の製造方法
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、強度や耐擦過性が高く、耐潰れ性や軽量・保温性等にも優れ、かつソフト性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を得ることができる。しかも、そのナイロン中空繊維を製糸性良く製造することもできる。
【0014】
従って、本発明のナイロン中空繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア、カバン地用として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のナイロン中空繊維は、所望の中空形状、中空率及び高強力を保持するために、相対粘度が2.9以上のナイロンポリマで形成されていることが必要である。相対粘度が2.9未満では、中空率10%以上のナイロン中空繊維とすることが難しい。また、中空率は10〜30%が必要であるが、繊維横断面形状の潰れ易さという点や高い軽量・保温性を得るという点を総合的に考慮すると、好ましい中空率は20〜25%であり、この中空率を得るためには相対粘度は3.1以上とすることが好ましい。また、相対粘度が4.0を超えると溶融時のポリマ粘性が過度に高くなり製糸性が悪化するので、好ましくは3.7以下である。ここで、ナイロンは、ナイロン6、ナイロン66で代表され、それらを主体とする共重合体や混合物であってもよい。
【0016】
本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面における中空部の占める面積、即ち中空率は、10〜30%の範囲内であることを要する。中空率が10%未満では製品とした時の軽量・保温性の効果が不十分である。中空率が高いほど、軽量・保温性が高まるので好ましいが、あまりにも高過ぎると高次加工工程において繊維横断面の潰れが発生し易くなるので、得られる繊維製品において所望の中空率を保持することができない。しかも、高過ぎる中空率では繊維製品を使用中においても繊維横断面の潰れが発生し易く、所望の特性を維持することが難しい。これらの点から、中空率は30%以下であることが必要であり、特に20〜25%の中空率が好ましい。
【0017】
本発明のナイロン中空繊維は、下記一般式(1)または(2)で示されるジアミド化合物を0.01〜2重量%含有していることが必要である。ここで、発明者らは鋭意検討の結果、ジアミド化合物を微量添加することによりいつくかの効果を発現することを見いだしたのである。
【0018】
【化2】

【0019】
(ただし、R1、R4は炭素原子数10〜20のアルキル基、R2,R3は水素原子、メチル基、またはエチル基、nは1〜10の整数を示す。)
【0020】
まず一つ目の効果として耐摩耗性、耐擦過性の向上が挙げられる。例えば、単糸繊度2デニールの繊維で比較すると、通常の丸断面糸であれば単糸直径が約15ミクロンであるのに対し、中空率20%の繊維では、中空部までの肉厚(即ち、中空部壁の厚み)が約8ミクロンと薄くなっているので、一般的に中空繊維は通常の丸断面糸などと比較して耐摩耗性、耐擦過性が低くなり、この傾向は単糸繊度が細くなるほど顕著となっていく。しかしながら、ナイロン中にジアミド化合物を微量添加することにより、繊維の摩擦抵抗が減少するため、布帛での耐摩耗性、耐擦過性が飛躍的に向上することを見いだしたのである。これにより従来では不可能であったレベルの細単糸繊度が可能となり、結果としてソフト性に優れた布帛を得ることができるのである。
【0021】
2つ目の効果としては中空率の向上が挙げられる。従来、中空率を上げるためには、ポリマの重合度を増大させて溶融粘度を上昇させたり、口金の形状を工夫するといった手法が採られてきた。しかしながら、前者の手法では溶融粘度の上昇に伴い製糸性が悪くなるといった問題が発生し、また後者の手法では断面の形成自体が困難になるとともに、単糸繊度を細くすることにより吐出線速度が低くなり糸ムラが発生するといった問題があり、いずれも中空率の向上には限界があった。これに対し、本発明ではナイロン中にジアミド化合物を微量添加することにより、ポリマ重合度や口金形状の工夫などによらず中空率を向上させることができるものである。ジアミド化合物の作用機構についてはこれを完全に解明しているものではないが、吐出時におけるポリマの表面張力上昇に寄与し、中空形成性が向上するものと推定される。
【0022】
本発明で用いられるジアミド化合物は、ジカルボン酸とアルキルモノアミンとの反応により、あるいはアルキレンジアミンとモノカルボン酸との反応により調整される。代表的ジアミンとしては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミンがあり、炭素数1〜10までのアルキレンジアミンが含まれる。また、代表的ジカルボン酸はコハク酸、アジピン酸、セバシン酸であり、炭素数2〜12までのジカルボン酸が含まれる。
【0023】
アルキルモノアミンには、オクタデシルアミン、メチルオクタデシルアミン、エチルオクタデシルアミン等のように炭素数10〜20のアルキル基で置換された1級アミン、およびそれらが更にメチル基、エチル基で置換された2級アミンが含まれる。
【0024】
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸等、11〜21個の炭素原子を持つアルキルモノカルボン酸が含まれる。
【0025】
ジアミド化合物の添加量は0.01重量%未満であると耐摩耗性向上効果や中空率向上効果が充分でない。また、2重量%を超えると製糸性が悪化するとともに製造コストがかかるため良くない。好ましくは0.05〜1.5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
【0026】
ジアミド化合物を含有せしめる方法としては、ナイロンチップへジアミド化合物をブレンドし溶融する方法、ナイロンチップへ高濃度のジアミド化合物を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のナイロンへジアミド化合物を添加し混練する方法、ナイロンの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へジアミド化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0027】
本発明のナイロン中空繊維は単糸繊度が0.8〜2dtexである必要がある。単糸繊度が0.8dtex未満であると、糸ムラが発生するとともに製糸性が悪化し生産に耐えられない。また、布帛としたときにも擦過による布帛表面の毛羽立ちが発生し実用的でない。また、単糸繊度が2.0dtexを超えると布帛の粗硬感が解消できず本発明の本来の目的が達成できない。中空繊維は通常より高粘度のポリマを使用し、かつ断面形状の関係上曲げ剛性が高いためソフトな触感を得るためには単糸繊度が2.0dtex以下である必要がある。単糸繊度は好ましくは1.0〜1.8dtexである。
【0028】
本発明のナイロン中空繊維の長さ方向の太さ斑はウスター1/2イナートで2%以下である必要がある。中空繊維は口金吐出孔形状が複雑であり吐出線速度が低くなる関係上、ウスターが高くなる傾向にあり、単糸繊度が細くなればなるほどその傾向は顕著となる。ウスターが1/2イナートで2%を超えると布帛としたときのタテスジ、ヨコムラなどが目立つようになり品位が悪化する。このましくは1.5%以下である。
【0029】
本発明のナイロン中空繊維は、マグネシウム化合物を0.01〜1%含有することが好ましい。マグネシウム化合物は溶融紡糸により繊維を製造するときに発生するモノマー、オリゴマーの生成を抑制し、口金孔周辺の汚染を防ぐ効果がある。マグネシウム化合物の含有量が0.01%未満の場合、モノマー、オリゴマーの生成を抑制する効果が不十分である。1%を超える場合、効果は同程度であるが、ポリマ中の不溶解異物として残存したマグネシウム化合物が紡糸フィルターで詰まり、濾過圧力上昇速度が速くなるので、さらに好ましい含有量は0.02〜0.08%である。
【0030】
本発明のナイロン中空繊維に含有されるマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなど、およびこれらの混合物が挙げられるが、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。これらマグネシウム化合物の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。平均粒子径が10μmを超えると、例えば、ポリアミド繊維を製造する時、異物除去のため設置したフィルターでの濾過圧力上昇、ポリアミド繊維の物性低下などの問題を引き起こすので、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
またマグネシウム成分を含有せしめる方法としては、ポリアミドペレットへマグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリアミドペレットへ高濃度のマグネシウムを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへマグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリアミドの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へマグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0032】
本発明のナイロン中空繊維は、中空部を有していればその形状はいかなるものでもよい。例を挙げると円形中空部や多角中空部、さらには複数の中空部を持つ田型中空部などが挙げられるが中でも中空部の形状が三角形状であることが好ましい。中空部が三角形状であることによって、延伸時および高次加工工程での中空部の潰れ、即ち中空率の低下が少なくなる。一般的に中空繊維の製造およびその高次加工工程において、中空繊維はローラ類との接糸圧やガイド類での摩擦力あるいは他の外力によって、繊維に横方向からの圧力が加わり繊維断面が楕円形や偏平形に潰れ中空率が低下する。この現象は中空率が高い中空繊維ほど起こり易い。三角形状とは、全体として三角形状であり好ましくは正三角形であるが、外側に膨らんだ曲面から形成される三角形状(所謂おむすび型)であってもよい。そのときの中空部の三角形状としては、中空部の重心から中空部の外周までの最短距離と最長距離との比で表される変形度が、1.2〜1.6の範囲内であることが好ましい。また、本発明のナイロン中空繊維の外周形状は、円状であることが好ましいが、三角形状でもよく、他の多角形状でもよい。
【0033】
本発明のナイロン中空繊維にはポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、架橋ポリエチレンオキサイド系ポリマーなどの吸湿・吸水物質や他のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の汎用熱可塑性樹脂が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていても良い。また、酸化チタンなどの艶消し剤やカーボンブラック等の顔料の他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤等が本発明の目的を阻害しない範囲で含有されていても良い。
【0034】
本発明のナイロン中空繊維は、高粘度ナイロンを、複数のスリットからなる吐出孔より吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより製造することができる。溶融紡糸における溶融温度は、紡糸可能であれば特に限定されず、通常のナイロンの溶融紡糸温度と同程度でもよい。
【0035】
溶融紡糸された糸条は、冷却、給油の後、1000m/分以下の速度で一旦未延伸糸を巻き取り、巻き取った未延伸糸を延伸機に仕掛けて1.5〜4倍程度延伸して目的の繊維を得てもよいし、冷却、給油、交絡の後、1000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく引き続いて1.2〜3.0倍に延伸し、130℃以上の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻取る高速直接熱延伸法で製造してもよい。また、冷却、給油、交絡の後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で紡糸引取る高速法によって、POYを製糸し、その後、必要に応じて仮撚加工などを施すことも可能である。
【0036】
図1および図2はそれぞれ本発明の繊維断面形状と吐出孔形状を模式的に示したものであるが、図2a、図2bの吐出孔形状は、それぞれ、図1a、図1bの中空繊維を得るために使用できるものであり、このスリットよりポリマを吐出する際の吐出線速度は3〜10cm/secとすることが、所望の中空率を有する中空繊維を糸ムラ無く、紡糸性良く製造するために好ましい。
【0037】
このように製糸して得られたナイロン中空繊維は、通常のナイロン繊維と同様に後加工することができる。特に、タスラン加工と称される流体処理加工によって嵩高性を付与することが、軽量・保温性の効果をさらに高めるために有効である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。評価方法は、以下の通りである。
【0039】
A.相対粘度
試料を秤量した後、濃硫酸(98.0%)に溶解する。その0.5重量%溶液をオストワルド粘度計にて25℃で測定する。測定は2回おこない、その平均値を求める。
【0040】
B.中空率
繊維の横断面写真から、切り抜き重量法より中空部の断面積と、繊維外周内の断面積とを求め、次式により算出する。
中空率(%)=(中空部の断面積/繊維外周内の断面積)×100
単糸3本について上記方法により中空率を測定し、その平均値を求める。
【0041】
C.中空部の変形度
繊維の横断面写真から、中空部の重心から中空部の外周までの最長距離(L1)と最短距離(L2 )とを求め、次式により算出する。中空部の変形度=L1 /L2
単糸3本について上記方法により変形度を測定し、その平均値を求める。
【0042】
D.ウスター斑(1/2イナート)
ツェルベガーウスター(株)社製USUTER TESTER MONITOR Cで測定した。測定条件は50m/分、ツイスト:S1.5、糸張力1.5、測定時間2.5分、測定モードは1/2イナートで平均偏差率(U%)を測定する。測定は3回おこない、その平均値を求める。
【0043】
E.軽量性
試料糸からの長さ1mの筒編地の重量を測定し、下記の基準により判定する。
◎:12g未満
○:12以上15未満
×:不良:15g以上
【0044】
F.編地品位
試料糸からの筒編地を目視によって下記の基準で判定する。
○:編地面にスジやムラが殆ど認められない。
×:編地面にスジやムラが明らかに認められない。
【0045】
G.ソフト性
検査者(30人)の触感によって筒編地のソフト性を次の基準で相対評価した。
◎:ソフト感が非常によい。
○:ソフト感がややよい。
△:ソフト感があまりない。
×:ソフト感がない。
【0046】
H.耐擦過性
試料糸からの筒編地を平板上に載置させ、その上を、水で濡らしたナイロンタフタを載せその上に1kgの荷重を載せて1万回の強制擦過試験を行なう。擦過試験後の編地の状態を目視判定し、下記の基準で表記する。
◎:外観変化なし。
○:光沢の変化が僅かあるが白化はない。
△:部分的に白く変色している。
×:全体的に白く変色している。
【0047】
I.紡糸時の糸切れ頻度
紡糸工程において発生する糸切れの回数を数え、1tの繊維を製糸する間の糸切れ回数を次の基準で評価した。
◎:2回/t未満
○:3回/t未満
△:3〜5回/t未満
×:5回/t以上。
【0048】
[実施例1]
相対粘度(ηr)が3.4、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットにエチレンビスステアリン酸アミド(EBA)粉末を0.75重量%、および酸化マグネシウム粉末(平均粒子径:3μm)を0.05重量%ドライブレンドし、これらを紡糸温度280℃で図2aに示すような3ヶのスリットよりなる口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット内径0.8mm)を36個有する紡糸口金から溶融吐出させた。溶融吐出させた後、通常の方法で冷却し、給油、交絡した後に2500m/分のゴデローラーで引き取り、続いて1.4倍に延伸した後に155℃で熱固定し、巻取速度3500m/分で56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。次に得られたナイロン中空繊維を筒編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編み地を作成した。
【0049】
[実施例2]
相対粘度(ηr)が2.9のナイロン6ペレットを用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0050】
[実施例3]
相対粘度(ηr)が3.8のナイロン6ペレットを用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0051】
[実施例4]
スリット巾が0.06mm、スリット内径が0.7mmである3スリット型中空吐出孔を68個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス68フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0052】
[実施例5]
スリット巾が0.08mm、スリット内径が0.8mmである3スリット型中空吐出孔を30個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス30フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0053】
[実施例6]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)粉末の添加量を0.02%とする以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0054】
[実施例7]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)粉末の添加量を1.80%とする以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0055】
[実施例8]
酸化マグネシウムを添加しない以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0056】
[実施例9]
図2bに示すような8ヶのスリットよりなる口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット内径0.8mm)を36個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0057】
[実施例10]
スリット巾が0.09mm、スリット内径が1.1mmである3スリット型中空吐出孔を36個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0058】
[実施例11]
スリット巾が0.06mm、スリット内径が0.65mmである3スリット型中空吐出孔を36個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0059】
[実施例12]
相対粘度(ηr)が3.2、酸化チタンを実質的に含まないナイロン66ペレットを用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0060】
[比較例1]
相対粘度(ηr)が2.7のナイロン6ペレットを用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0061】
[比較例2]
相対粘度(ηr)が4.1のナイロン6ペレットを用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0062】
[比較例3]
スリット巾が0.06mm、スリット内径が0.7mmである3スリット型中空吐出孔を80個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス80フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0063】
[比較例4]
スリット巾が0.08mm、スリット内径が0.8mmである3スリット型中空吐出孔を24個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0064】
[比較例5]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)を添加しない以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0065】
[比較例6]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)粉末の添加量を2.20%とする以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0066】
[比較例7]
スリット巾が0.09mm、スリット内径が1.3mmである3スリット型中空吐出孔を36個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0067】
[実施例11]
スリット巾が0.06mm、スリット内径が0.5mmである3スリット型中空吐出孔を36個有する紡糸口金を用いる以外は実施例1と同様に紡糸をおこない56デシテックス36フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0068】
実施例1〜12および比較例1〜8でナイロン中空繊維を製造した際の中空率、中空変形度、ウスター斑(1/2イナート)、および筒編み地の軽量性、品位、ソフト性、耐擦過性、さらには紡糸糸切れについて評価した結果を表1、2に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表1、表2の結果から明らかなように、本発明によると、耐擦過性が高く、軽量・保温性等にも優れ、かつソフト性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を得ることができる。しかも、そのナイロン中空繊維を製糸性良く製造することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のナイロン中空繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア、カバン地用として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図である。
【図2】図1のナイロン中空繊維を製造する際の吐出孔の形状を模式的に例示する吐出孔平面図である。
【符号の説明】
【0074】
1:繊維部、 2:中空部、 3:スリット、 a:スリット巾、 b:スリット内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、下記一般式(1)または(2)で示されるジアミド化合物を0.01〜2重量%含有し、単糸繊度が0.8〜2dtex、繊維糸条の長さ方向の太さ斑がウスター1/2イナートで2%以下であることを特徴とするナイロン中空繊維。
【化1】

(ただし、R1、R4は炭素原子数10〜20のアルキル基、R2,R3は水素原子、メチル基、またはエチル基、nは1〜10の整数を示す。)
【請求項2】
ナイロン中にマグネシウム化合物を0.01〜1重量%含有することを特徴とする請求項1記載のナイロン中空繊維。
【請求項3】
中空部が変形度1.2〜1.6の三角形状であることを特徴とする請求項1または2記載のナイロン中空繊維。
【請求項4】
ナイロンを複数のスリットからなる吐出孔から吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより請求項1記載のナイロン中空繊維を製造することを特徴とするナイロン中空繊維の製造方法。
【請求項5】
吐出させた糸条を冷却、給油、交絡後、1000m/分以上の速度で引き取り、一旦巻き取ることなく1.2〜3.0倍で延伸、熱固定した後に3000m/分以上の速度で巻き取ることを特徴とする請求項4記載のナイロン中空繊維の製造方法

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−9178(P2006−9178A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185852(P2004−185852)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】