説明

ナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法

【課題】エッチング処理を行わず、ナイロン系樹脂成形体に高い密着性を有するめっき膜を簡易な方法で形成可能な無電解めっき法を提供する。
【解決手段】ナイロン系樹脂成形体をパラジウム錯体を含有するアルコール溶液に浸漬して、ナイロン系樹脂成形体にパラジウム錯体を導入し、前記パラジウム錯体が導入されたナイロン系樹脂成形体を還元液に浸漬して、パラジウム錯体を金属パラジウムに還元し、前記金属パラジウムが付与されたナイロン系樹脂成形体をアルコールを含有するめっき液に浸漬して、ナイロン系樹脂成形体に無電解めっきを行うことにより、高い密着力を有するめっき膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体へのめっきのニーズは極めて多岐の分野に渡る。例えば、自動車部品においては、軽量化や美観向上のためにめっきを施した樹脂成形体が使用されている。このような樹脂成形体にめっき処理を施す方法としては、安価に下地めっき層を形成できることから無電解めっき法、とりわけ無電解ニッケル法が主として用いられており、樹脂成形体としては、成形体の製造の容易性と、めっき膜の樹脂成形体に対する密着性とからABS系樹脂成形体が汎用されている。
【0003】
上記のような無電解めっき法は金属イオンを触媒的な化学反応を利用して還元することにより、被めっき物上に金属膜を析出させる手法であるため、被めっき物それ自体が還元剤の還元作用に対して触媒活性を示す場合を除いて、触媒活性がある核物質を被めっき物の表面に安定かつ均一に付着させておくことが、最終的に得られるめっき膜の安定性、均一性を確保するために必要となる。このため、被めっき物が樹脂成形体などの不導体である場合、表面の清浄処理(脱脂等)、エッチング処理、触媒核吸着処理、無電解めっき処理などの処理工程が無電解めっき法には採用されている。
【0004】
無電解めっき法を利用したABS系樹脂成形体におけるめっき膜と樹脂成形体との間の密着力は、上記のエッチング処理によってABS系樹脂成形体の表面に形成される凹凸が生む物理的なアンカリング効果に起因する。すなわち、ABS系樹脂成形体をエッチング処理することにより、ABS系樹脂のブタジエンゴム成分を選択的に浸食して樹脂成形体の表面に凹凸を形成し、該凹凸が形成されたABS系樹脂成形体に触媒核を吸着させ、これにめっき処理を施すことにより金属粒子が凹凸に入り込み、それによってめっき膜の密着力を得ている。
【0005】
しかしながら、エッチング処理にはクロム酸及び硫酸を含む混酸が用いられているため、著しい環境負荷の問題や有害な六価クロムを無害化するための処理設備による高コスト化が問題となっている。
【0006】
また、ABS系樹脂成形体は耐熱性や機械的強度に劣るため、より高機能な樹脂成形体を用いためっき製品が求められている。例えば、ABS系樹脂成形体よりも耐熱性や機械的強度に優れる樹脂成形体としてナイロン系樹脂形成体が知られている。従って、このような高機能な樹脂成形体に密着力の高いめっき膜を形成することができれば、新たな需要が期待できる。しかしながら、上記のようにめっき膜とABS系樹脂成形体との密着力はエッチング処理によりABS系樹脂のブタジエンゴム成分が選択的に浸食されることによるものであり、ナイロン系樹脂形成体はこのような選択的に浸食される成分を有していないことから、樹脂成形体の表面に凹凸が形成され難く、高い密着力を有するめっき膜が得られていないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、クロム酸等を用いたエッチング処理を行わず、ナイロン系樹脂成形体に高い密着力を有するめっき膜を簡易な方法で形成可能な無電解めっき法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ナイロン系樹脂成形体をパラジウム錯体を含有するアルコール溶液に浸漬して、前記ナイロン系樹脂成形体に前記パラジウム錯体を導入し、
前記パラジウム錯体が導入されたナイロン系樹脂成形体を還元液に浸漬して、前記パラジウム錯体を金属パラジウムに還元し、
前記金属パラジウムが付与されたナイロン系樹脂成形体をアルコールを含有するめっき液に浸漬して、前記ナイロン系樹脂成形体にめっきを行う、ナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法である。
【0009】
上記無電解めっき法によれば、パラジウム錯体を含有するアルコール溶液にナイロン系樹脂成形体が浸漬されることで、アルコールの持つナイロン系樹脂への浸透力によりパラジウム錯体をナイロン系樹脂成形体の表面内部に導入することができる。そして、この導入されたパラジウム錯体を還元することにより触媒核となる金属パラジウムをナイロン系樹脂成形体の表面内部に付与することができる。さらに、上記金属パラジウムが付与されたナイロン系樹脂成形体をアルコールを含有するめっき液に浸漬することにより、ナイロン系樹脂成形体を被めっき物として用いる場合でも、めっき膜のアンカー部は樹脂成形体内部から成長するため、アンカー部における金属粒子とナイロン系樹脂成形体の接触面積を増大することができ、高い密着力を有するめっき膜を形成することができる。
【0010】
上記アルコール溶液は、パラジウム・アセチルアセトナト錯体を含有することが好ましい。上記パラジウム・アセチルアセトナト錯体は室温下で安定で、アルコール溶液の管理が容易であり、また還元液により容易に金属パラジウムに還元することができる。
【0011】
また、上記アルコール溶液は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールを含有することが好ましい。上記アルコールを含有するアルコール溶液はナイロン系樹脂成形体への浸透性に優れている。
【0012】
さらに、上記還元液は、次亜燐酸化合物を含むことが好ましい。上記還元液を用いることにより、ナイロン系樹脂成形体に導入されたパラジウム錯体を還元して、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に高密度で金属パラジウムを付与することができる。
【0013】
また、上記還元液は、アルコールを含有することが好ましい。アルコールを含有する還元液を使用することにより、ナイロン系樹脂成形体に還元液を迅速に浸透させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境負荷の大きなクロム酸等を用いたエッチング処理を行うことなく、ナイロン系樹脂成形体に高い密着力を有するめっき膜を無電解めっき法により形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
無電解めっき法においては、無電解めっきに必要な触媒核を樹脂成形体の表面内部に導入する必要がある。このため、本実施の形態においては、パラジウム錯体を含有するアルコール溶液にナイロン系樹脂成形体を浸漬し、該樹脂成形体にパラジウム錯体を導入する浸漬工程が行われる。
【0016】
既述したように、ナイロン系樹脂成形体はABS系樹脂成形体と異なり、エッチング処理液により浸食される成分を有さないことから、エッチング処理により樹脂成形体の表面に凹凸が形成され難い。このため、エッチング処理後に無電解めっきを行っても、めっき膜のナイロン系樹脂成形体に対する密着力が不十分となる。従って、エッチング処理による樹脂成形体表面の粗化以外の方法でめっき膜の密着性を得る必要がある。
【0017】
一方、ナイロン系樹脂成形体はナイロン系繊維と異なり、成形体内部の自由体積が拡大し難いため液体の浸透性に劣るが、ナイロン系樹脂は比較的吸水性の高い樹脂であるため、水系溶剤の浸透性に優れている。従って、触媒核となる金属パラジウムなどの金属物質を分散させた水系溶液をナイロン系樹脂成形体に含浸させれば、該金属物質をナイロン系樹脂成形体に導入できると考えられる。しかしながら、金属パラジウムは水系溶剤中で均一に分散せず、沈殿・凝集するため、目的とするナイロン系樹脂成形体への浸透に寄与しない。
【0018】
また、水系溶剤に溶解して溶液状態となるパラジウム錯体があれば、これをナイロン系樹脂成形体に浸透させ、さらに導入されたパラジウム錯体をナイロン系樹脂成形体内で還元して金属パラジウムとすれば、無電解めっき時の触媒核をナイロン樹脂成形体の表面内部に付与できることが期待される。しかしながら、パラジウム錯体はその分子構造からテフロン以上に極めて撥水性であるため、水系溶剤に不溶である。このため浸漬という簡易な方法でパラジウム付与を行う場合、水系溶剤ではナイロン系樹脂成形体の表面内部へのパラジウム錯体の導入は殆ど不可能である。そこで種々の溶剤を検討した結果、ナイロン系樹脂には吸水性とともに、アルコールが比較的浸透し易い特性があり、またアルコールは表面張力が低く、パラジウム錯体が均一に溶解した溶液を調製できることを見出した。
【0019】
上記検討に基づき、本実施の形態の無電解めっき法では、パラジウム錯体をアルコールに溶解させたアルコール溶液を調製し、このアルコール溶液にナイロン系樹脂成形体を浸漬する。すなわち、パラジウム錯体はアルコールに可溶であり、アルコールの持つナイロン系樹脂との親和性によりパラジウム錯体を伴ってナイロン系樹脂成形体に浸透し、その後の還元処理により触媒核として機能するに十分な量のパラジウム錯体をナイロン系樹脂成形体の表面内部に導入できる。そして、導入されたパラジウム錯体を還元して得られる金属パラジウムを触媒核としてめっき金属の微粒子が樹脂成形体の表面内部から成長し、それらが樹脂成形体の表面に露頭し、さらに連結してめっき膜を形成する。これにより、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に微細な根のようなアンカーを有するめっき膜を形成することができ、それによって高い密着力を有するめっき膜を形成することができる。ナイロン系樹脂成形体への無電解めっきにおいて、触媒核となる金属パラジウムを付与すために上記のようなパラジウム錯体を含有するアルコール溶液を用いて常圧でナイロン系樹脂成形体へのパラジウム錯体の導入を検討した例はこれまで見当たらない。
【0020】
本実施の形態において、パラジウム錯体としては、具体的には、例えば、パラジウム・アセチルアセトナト錯体、パラジウム・ヘキサフルオロアセチルアセトナト錯体、パラジウム・トリフルオロアセチルアセトナト錯体などが挙げられる。ここで溶剤として用いるアルコールには還元作用があり、この特性は例えば金や白金のような貴金属微粒子の合成において、それらの金属を含有する前駆体の還元剤として幅広く利用されている。このアルコールの還元作用は、本実施の形態に係るパラジウム錯体のアルコール溶液の安定性に大きく影響する。すなわち、使用条件下や保管条件下でアルコールの還元作用が発現すると、パラジウム錯体は溶液中で金属パラジウムに還元され、微粒子として沈殿・分離してしまい、目的とする樹脂成形体への導入には寄与できなくなる。従って、パラジウム錯体のアルコール溶液は、その使用条件下ではアルコール還元を起こさない安定な溶液である必要がある。上記観点からパラジウム・アセチルアセトナト錯体のアルコール溶液は室温下で極めて安定で、アルコール溶液の管理が容易であり、また該錯体は、より強い還元条件下では容易に金属パラジウムに還元されるため、好ましい。なお、パラジウム・ヘキサフルオロアセチルアセトナト錯体、パラジウム・トリフルオロアセチルアセトナト錯体などのふっ化物錯体はアルコールに対して高い溶解性を有する点からは好ましいが、これらのふっ化物錯体は室温下でアルコールによる錯体の分解、金属化が進行するため、アルコール溶液中で金属パラジウムの沈殿・凝集が発生してナイロン系樹脂成形体へのパラジウム錯体の導入量が低下する傾向がある。
【0021】
本実施の形態において、上記のアルコールとしては、パラジウム錯体の溶解度が大きく、かつ低表面張力を有するものが好ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘプタノール、エチレングリコールなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。これらの中でも、ナイロン系樹脂成形体への浸透性に優れている、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールが好ましい。
【0022】
本実施の形態において、アルコール溶液中のパラジウム錯体の濃度は、無電解めっき処理工程において触媒核として機能する金属パラジウムの量を確保するため、10mg/L以上が好ましく、1,000mg/L以上がより好ましく、飽和濃度が最も好ましい。
【0023】
本実施の形態において、ナイロン系樹脂成形体としては、具体的には、例えば、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン116、ナイロン4、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ポリフタルアミド、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド、ポリアミドエラストマーなどのナイロン系樹脂からなる成形体が挙げられる。ナイロン系樹脂成形体は、これらの樹脂単独からなるものであってもよく、2種以上の樹脂の混合物からなるものであってもよい。さらに上記ナイロン系樹脂と他の樹脂とをアロイ化したナイロン系樹脂成形体や、機械的強度向上などの機能性を付与する目的でガラス繊維やその他のフィラーを含有するナイロン系樹脂成形体を用いてもよい。なお、ナイロン系樹脂成形体は、浸漬処理前に被めっき面の清浄処理を行うことが好ましい。
【0024】
ナイロン系樹脂成形体のアルコール溶液への浸漬温度は、アルコール溶液中のパラジウム錯体の還元を抑えるために、40℃以下が好ましい。浸漬時間は、用いるナイロン系樹脂成形体のアルコール浸透性や処理温度に依存するため、樹脂ごとに適宜定められる。例えばガラス繊維やフィラーを含有しないナイロン6の樹脂成形体の場合には6〜24時間の浸漬時間が好ましく、ガラス繊維で強化されたナイロン6の樹脂成形体の場合には24〜48時間の浸漬時間が好ましい。また、ポリフタルアミド系の樹脂成形体の場合にはアルコールの浸透性が低下するため、48時間以上の浸漬時間が好ましい。
【0025】
次に、パラジウム錯体が導入されたナイロン系樹脂成形体を還元液に浸漬して、パラジウム錯体を金属パラジウムに還元する還元工程が行われる。アルコールとともにナイロン系樹脂成形体の表面内部に導入されたパラジウム錯体は樹脂成形体を加熱処理することにより、パラジウム錯体周囲のアルコールの還元作用を受けて、パラジウム錯体の一部は金属パラジウムに還元される。しかしこの加熱操作による還元処理だけではナイロン系樹脂成形体の表面内部に無電解めっきに十分な密度の金属パラジウムを付与することが難しい。そのため、加熱処理による還元だけでは樹脂成形体の内部で成長する金属粒子の密度が低く、その結果粒子が粗大化し、めっき膜の密着力が低下する。従って、めっき膜とナイロン系樹脂成形体との密着力を高くするため、ナイロン系樹脂成形体の表面内部における金属パラジウムの密度を高くする必要がある。
【0026】
上記観点から、本実施の形態では金属パラジウムまで還元されていないパラジウム錯体を、還元剤により還元してナイロン系樹脂成形体の表面内部の金属パラジウムの密度を高めるため還元処理を行う。還元液としては、還元作用を有する従来公知の還元剤を含有するものを使用できるが、これらの中でも次亜燐酸化合物を含有する還元液が好ましい。次亜燐酸化合物は後の無電解めっき処理工程のめっき液における還元剤としても用いられるものであるため好適である。また、還元液は濡れ性や浸透性を向上させる目的で、少量のアルコールや界面活性剤をさらに含有してもよい。特にアルコールを3〜5vol%含有する還元液を用いれば、ナイロン系樹脂成形体の内部に還元液を迅速に浸透させることができる。このようなアルコールとしては、上記のパラジウム錯体の導入に用いられるアルコールと同様のアルコールを用いることができる。なお、パラジウム錯体の金属パラジウムへの還元時には水素ガスが発生するため、還元処理中のガス発生を観察することにより還元反応を追跡することができる。
【0027】
還元剤として次亜燐酸を用いる場合の濃度は、特に限定されるものではないが、通常3〜20vol%が好ましい。
【0028】
還元温度は、温度が高いほど反応が迅速に進行するので、生産性を考慮し処理時間を短縮するためには70〜90℃程度であってもよい。また、還元時間は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すれば1時間程度である。
【0029】
上記のようにして、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に金属パラジウムを付与した後、これをめっき液に浸漬する無電解めっき処理工程が行われる。これにより、例えばニッケルめっき液を用いた場合、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に付与された金属パラジウムを触媒核としてめっき金属であるニッケルイオンが還元され、金属パラジウムの触媒核の周辺からニッケル−リン合金粒子の析出が始まり、樹脂成形体内で成長した合金粒子が樹脂成形体の表面へ露頭し、これらが表面で連結してめっき膜となり、さらに厚み方向へ成長する。
【0030】
本実施の形態において、上記めっき液は、溶剤としてアルコール及び水を含有する。アルコールを含有するめっき液を用いることにより、めっき液をナイロン系樹脂成形体の内部に迅速に浸透させることができる。めっき液がアルコールを含有しない場合、アンカー部におけるニッケル−リン粒子の成長が不十分となりやすく、十分な密着力が得られない。
【0031】
めっき液に添加されるアルコールとしては、上記のパラジウム錯体の導入に用いられるアルコールと同様のアルコールを用いることができる。また、アルコールの添加量は、特に限定されるものではないが、アルコールと水との体積比(アルコール/水)で0.5前後が好ましい。上記体積比であれば、めっき液がナイロン系樹脂成形体にさらに浸透しやすくなり、めっき膜のアンカー部における金属粒子の成長を促進することができる。
【0032】
めっき液としては、従来公知のめっき液である、例えばニッケルめっき液を用いることができ、処理条件は常法を用いることができる。なお浴温度は使用するアルコールの沸点等を考慮して、常法より温度を下げる等の変更を行っても良い。
【0033】
本実施の形態においては、上記無電解めっき処理を行った後、必要に応じてさらに電解めっき処理を行ってもよい。
【0034】
図1は、本実施の形態の無電解めっき法によりニッケルめっき膜を形成したナイロン系樹脂成形体(ガラス繊維入りナイロン6)をヘキサフルオロイソプロパノールに浸漬し、樹脂部分を溶解した後のめっき膜の樹脂成形体側の状態を走査型電子顕微鏡により観察した写真であり、図2はその拡大写真である。図に示すように、樹脂成形体側のめっき膜には非常に微細な突起(凹凸高さ:約0.1μm)が観察されることから、パラジウム錯体を含有するアルコール溶液にナイロン系樹脂成形体を常圧下で浸漬することにより、パラジウム錯体がナイロン系樹脂成形体に導入され、これを還元することにより得られる金属パラジウムを触媒核としてニッケルめっき膜が成長したと考えられる。そして、アンカー部となるめっき膜の凹凸は非常に小さいことから、ナイロン系樹脂成形体の表面内部では極めて微小粒径の金属粒子が成長していることがわかる。樹脂の種類にもよるが、ABS系樹脂成形体をエッチング処理して形成されるめっき膜のアンカー部における凹凸高さは約1μmであることから、本実施の形態の無電解めっき法によれば、極めて凹凸の小さいアンカー部が形成されることが分かる。また、本実施の形態の無電解めっき法により形成されためっき膜の密着力は上記凹凸高さを有するABS系樹脂成形体に形成されためっき膜のそれと略同等であることが確認されている。めっき膜の密着力がアンカー部分の樹脂の破壊に必要な力であると考えると、上記の密着力は、機械的強度が低いABS系樹脂成形体と比べ、それが高いガラス繊維入りのナイロン6素材の樹脂成形体であるためと、アンカー部の微細な無数の金属粒子と樹脂成形体との接触面積が極めて大きいためと推測される。
【0035】
以上のように、本実施の形態の無電解めっき法によれば、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に導入されたパラジウム錯体を還元することによって得られるパラジウム金属を触媒核としてめっき膜が成長するので、ナイロン系樹脂成形体の表面内部に微細な金属粒子が食い込み、金属粒子と樹脂成形体の接触面積が大きな状態でめっき膜が成長する。それゆえ、本実施の形態の無電解めっき法では、ABS系樹脂成形体の無電解めっき法のように樹脂成形体の表面をエッチング処理で粗化する必要がなく、しかも常圧で容易に密着性に優れためっき膜を形成することができる。これにより、クロム酸などを含有するエッチング処理液を使用する必要がないため、環境負荷やコスト面の問題も解決することができる。また、本実施の形態の無電解めっき法では、常圧で樹脂成形体を溶液へ浸漬するだけでめっき膜を形成できるため、複雑な形状を有する樹脂成形体へもめっき膜を容易に形成することができる。そして、パラジウム錯体のアルコール溶液は保存安定性に優れるため、溶液の管理も容易であり、高価なパラジウムの消費量も最小限に抑えることができる。
【0036】
なお、本実施の形態では、ナイロン系樹脂成形体へパラジウム錯体を導入するのにやや長い時間を必要とするが、操作は溶液中に成形体を浸漬するだけであり、浸漬のための槽の材質や大きさは任意に選択できるため、コストや生産性を考慮した設備設計が可能である。
【0037】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
ナイロン系樹脂成形体としてガラス繊維入りナイロン6素材の板状成形体(長さ100mm×幅15mm×厚さ2.5mm)を準備した。この板状成形体をエタノール中で5分間超音波洗浄した後、80℃で1時間乾燥させたものをパラジウム・アセチルアセトナト錯体をエタノールに溶解させたアルコール溶液(錯体濃度:1,000mg/L)に、35℃で24時間浸漬した。なお、上記浸漬処理にあたっては、後の電解ニッケルめっきにより密着力を測定するための剥離用把持部が形成されるよう、一部を残して板状成形体をアルコール溶液に浸漬した。浸漬処理後、板状成形体を水洗し、表面に付着しているパラジウム錯体のアルコール溶液を洗浄除去した。
【0039】
次に、パラジウム錯体を還元するため、次亜燐酸を含有する還元水溶液(次亜燐酸濃度:6vol%,エタノール:3vol%)に、板状成形体を80℃で浸漬した。このとき、板状成形体の表面から著しい発泡が観察されたことから、板状成形体に導入されたパラジウム錯体の金属パラジウムへの還元が進行していることが確認された。なお、パラジウム錯体の還元反応に伴う発泡は継続していたが、浸漬開始から1時間で板状成形体を引き上げ、これを水洗した。
【0040】
次に、板状成形体を、エタノールを添加したニッケルめっき浴にて70℃で15分間無電解めっき処理を行った。ニッケルめっき浴(100ml)には、奥野製薬工業(株)製のICPニコロンDK−1を5ml、同ニコロンDK−Mを10ml、エタノールを45ml、及び水を40mlを混合調製した浴を用いた。板状成形体をめっき浴に投入後、めっき反応に伴う発泡が始まり、成形体表面でのめっき膜の成長が確認された。
【0041】
上記の無電解めっき処理後、ニッケルめっき液から板状成形体を取り出し、水洗後、さらに電解ニッケルめっき浴で約50μmの厚さのニッケルめっき膜を積層して、測定試料を作製した。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、パラジウム錯体のアルコール溶液をエタノールから1−プロパノールに変更した以外は、実施例1と同様にして測定試料を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、パラジウム錯体のアルコール溶液をエタノールからイソプロパノールに変更した以外は、実施例1と同様にして測定試料を作製した。
【0044】
(実施例4)
実施例1において、パラジウム錯体のアルコール溶液をエタノールから1−ブタノールに変更した以外は、実施例1と同様にして測定試料を作製した。
【0045】
(実施例5)
実施例1において、ガラス繊維入りナイロン6素材の板状成形体に代えてポリフタルアミド(PPA)素材の板状成形体(長さ100mm×幅15mm×厚さ2mm)を用い、パラジウム錯体のアルコール溶液への浸漬時間を48時間とした以外は、実施例1と同様にして測定試料を作製した。
上記のようにして作製した各測定試料を用いて以下の評価を行った。
【0046】
〔密着力〕
測定試料のめっき膜に1cm幅の切込みを入れた試験片を作製した。この試験片の剥離用把持部をJIS H 8630に準拠して引っ張り試験機(島津製作所社製,AGS−100N)を用いて角度90°、速度25mm/分の条件で45mmの距離の間について、めっき膜を成形体から引き剥がすときの力を測定した。
表1はこの結果を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示されるように、実施例1〜4のガラス繊維入りナイロン6素材の板状成形体に形成したニッケルめっき膜はいずれも高い密着力を有していることが分かる。また、めっきが困難と考えられているポリフタルアミド素材の板状成形体においても、5N/cmを超える密着力を有するニッケルめっき膜を形成できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本実施の形態に係る無電解めっき法を用いて形成したニッケルめっき膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図1の拡大写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン系樹脂成形体をパラジウム錯体を含有するアルコール溶液に浸漬して、前記ナイロン系樹脂成形体に前記パラジウム錯体を導入し、
前記パラジウム錯体が導入されたナイロン系樹脂成形体を還元液に浸漬して、前記パラジウム錯体を金属パラジウムに還元し、
前記金属パラジウムが付与されたナイロン系樹脂成形体をアルコールを含有するめっき液に浸漬して、前記ナイロン系樹脂成形体にめっきを行う、ナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法。
【請求項2】
前記アルコール溶液は、パラジウム・アセチルアセトナト錯体を含有する請求項1に記載のナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法。
【請求項3】
前記アルコール溶液は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールを含有する請求項1または2に記載のナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法。
【請求項4】
前記還元液は、次亜燐酸化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法。
【請求項5】
前記還元液は、アルコールを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のナイロン系樹脂成形体の無電解めっき法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150627(P2010−150627A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332015(P2008−332015)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】