説明

ナノゼオライト粒子からのゼオライト状膜

【課題】 ゼオライト状性質を持つシリケート系微細孔セラミックモレキュラーシーブ膜を提供する。
【解決手段】 この膜はゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックの順序付けられた積層を含む。本発明はまた、本発明の膜を製造するための方法に関する。この方法は水熱処理工程を含まず、従ってゼオライト結晶の形成を避ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持された微細孔セラミックモレキュラーシーブ膜及びこれらの製造方法に関する。これらの微細孔膜の合成は、ゼオライト骨格を持つ規則性ナノサイズシリケート系粒子の順序付けられた積層を含む。この膜合成法の特別な利点は、それがいかなる水熱処理も他のタイプのゼオライト結晶生長工程も含まないことである。この新しい膜は、分子分離、及び接触及び吸着工程で大きな利用可能性を持つ。
【背景技術】
【0002】
実用的ゼオライト膜の製造は長い間、分離科学の目標であった。ゼオライトは、結晶構造及び規定された細孔サイズを持ち、かつ親水性/親油性及び酸性に関して変性可能な表面性質を持つという主要な利点を持ち、それらはともに骨格の化学組成に関連する。ゼオライトのこの特別なトポロジー及びそれらのカチオン交換性は、それらを選択的吸着及び/またはサイズ排除による分離の用途のためにまたは接触反応のために有用にする。しかし、粉末化されたゼオライト上での分離はバッチ法である。対照的に、ゼオライト膜は連続工程により分子を分離する可能性を提供し、それは技術的及び経済的観点から特に有利でありうる。
【0003】
異なる支持体上にゼオライト膜を展開するための種々の方法が従来公知である。最初の特許US4699892(1987)から最近の特許出願(例えばUS2004058799)まで、かかる膜は、ゼオライトのフィルムを多孔性支持体上及び/または内でまたは非多孔性支持体上で結晶化することにより調製されている。ゼオライトの結晶化は一般に、ゼオライト相の前駆物質を含む混合物の一回または多数回の水熱処理により実行される。二つの方法が区別されることができる。つまり、支持体がゼオライト前駆物質溶液またはゲル内に浸漬され、全体がゼオライトを結晶化するために水熱条件に曝されるか(例えばJP−A−60/129119,US5100596,EP−A−0481660及びJP−A−06/321530)、または支持体がコロイド溶液と接触させられ、吸着された溶液からゼオライトを結晶化するため別個にそれらから分離されかつ水熱処理されるか(例えばWO−A−93/17781)のいずれかである。両方の方法は更に、種結晶が使用されるか否かに基づいて細分されることができる。
【0004】
ゼオライト膜を実用化するためには、それは希望の透過分子(単数または複数)のために高いフラックス及び高い選択性を持たなければならない。かかる膜を得ることは従来公知の水熱合成ルートに対して固有の欠陥及び粒子間空隙のため困難であった。実際に、粒子間空隙は、記載の合成ルート時に形成される小さなゼオライト微結晶の理想的でない混入のために必然的に作られる。これらの粒子間空隙は、ほとんどまたは全く選択性を示さず、従ってゼオライト膜の全体的な性能を低下するメソ孔非ゼオライト細孔である。これらの粒子間空隙を覆うために多層被膜を使用することは従来公知である。しかし、数段階でのこの合成方法は、Vroon,Keizer,Verweij,J.Membr.Sci 144 65−76(1998)に記載のように、比較的低いフラックスを持ち、かつ膜の熱処理時の割れに敏感な、厚いゼオライト層の製造に導く。
【0005】
Kirschhockらは、Angew.Chem.Int.40,2637−2640(2001)において、ゼオライト骨格を持つ規則性ナノサイズ粒子を開示し、それらはテトラエチルオルトシリケート(TEOS)と例えばテトラプロピルアンモニウム(TPA)、テトラブチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のような第四水酸化アンモニウムとの反応により溶液中で発生されることができる。前記ナノサイズ粒子はスラブ形状を持ち、TPA分子を吸蔵する。ナノスラブは実質的に均一なnm範囲のサイズを持つ。例えばTPAとTEOSの反応により得られたシリカライト−1骨格を持つナノサイズ粒子に対しては4×2×1.3nmまたはその倍数を持つ。
【0006】
シリカライト−1ナノスラブのサイズは5nm未満である。これはSurface Science and Catalysis 143,185−192(2002)の研究でS.P.B.Kremerらにより開示されたように、例えば動的光散乱測定により実験的に確認された。
【0007】
前記TPA含有粒子は、構築ブロックとして使用されることができ、かつS.P.B.Kremer,C.E.A.Kirschhock,M.Tielen,F.Collignon,P.J.Grobet,P.A.Jacobs,J.A.Martens,Studies in Surface Science and Catalysis 143,185−192(2002),S.P.B.Kremer,E.A.Kirschhock,M.Tielen,F.Collignon,P.J.Grobet,P.A.Jacobs,J.A.Martens,Advance Functional Materials,12,286−292,(2002)及びS.P.B.Kremer,C.E.A.Kirschhock,P.A.Jacobs,J.A.Martens,Comptes Rendus Chimie 8,379−390(2005)に記載されているように、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)または臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)のような適当な界面活性剤を多量に用いて、同心層状構造を持つマイクロメートルサイズの球状粒子中に系統的に作り上げられることができる。これに関して、ゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の溶液は例えばCTABの濃厚溶液と混合される。混合時に、界面活性剤分子はゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の層間に挿入される(図1a参照)。か焼による界面活性剤の除去はナノサイズ粒子の表面及び側面の融解を起こし、ナノサイズ粒子の幾つかの間に結果として側方空間を残す。これらの特別な粒子間空隙は一つのナノスラブの略高さに相当する約1.4nmの特徴的高さを持つ良く規定されたスリット形状の超微細孔を形成する(図1b参照)。CTABまたはDTAB及びTPA分子を除去するためのか焼後、N吸着は二重多孔性の存在を示す。ゼオライトタイプ微細孔は積層されたナノスラブ粒子の内側に存在し、一方1.4nmのオーダーの超微細孔は積層粒子間の空の空間により作られる(図2参照)。この二重多孔性を持つ材料はこのパラグラフに述べられた刊行物でゼオグリッド(zeogrid)という名称で造語された。ナノサイズ粒子の層状積層は、特にマイクロメートルサイズの球状粒子の小角XRDパターンにより立証され、約3nmのd−値での小角ピークを示し、かつ2θ>10°での大角ブラッグ型の回折ピークがないことを示す(図3参照)。小角ピークの位置はナノサイズ粒子(ナノサイズ粒子は二つの異なる側面と交互積層を持つ)の高さの2倍の層繰返しに相当する。上記刊行物には、前記作り上げられたマイクロメートルサイズの粉末物質がアルカン混合物の分離のために使用されることができることが説明されている。
【0008】
A.M.Doyle,G.Rupprechter,N.Pfaender,R.Schloegl,C.E.A.Kirschhock,J.A.Martens,H.−J.Freund,Chemical Physics Letters,382,404−409(2003)では、2〜15nm厚の薄いフィルムが、いかなる界面活性剤も用いることなしに、ゼオライト骨格を持つ上述のナノサイズ粒子の前駆物質の溶液を使用して結晶シリコンウェファー上にスピンコートされた。このフィルムは続いて構築粒子間にいかなる空隙も持たない超薄、稠密、均質ゼオライトフィルムを形成するために、水熱処理を受けさせた。フィルムのか焼は実施されず、得られたフィルムを非多孔性とした。AFM研究は得られたフィルムの総合品質と高い平滑性を示した。EDは、非晶質Si構造の特徴的リングを示し、これはこのフィルム中の前駆物質の積層がうまく順序付けられていないことを証明する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ゼオライトの性質を持つ新しい支持された微細孔セラミックモレキュラーシーブ膜及びかかる膜の製造方法を提供することを目的とする。この新しいシリケート系モレキュラーシーブ膜は従来技術の膜の欠点を克服しかつ従来技術のゼオライト膜の性質を越える高いフラックスと高い選択性を兼ね備える。新しい膜は分子分離及び/または接触及び吸着工程に大きな利用可能性を持つ。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、添付の特許請求の範囲に記載のように、ゼオライト状性質を持つシリケート系微細孔セラミックモレキュラーシーブ膜及びこれらの膜の製造方法に関する。本発明の膜は支持体上で合成される。支持体は多孔性または非多孔性であることができる。非多孔性支持体の場合、膜は、実際、支持体の性質に比べて異なる物質及び表面性質を持つ薄膜である。従って、本発明の本説明で使用される用語「膜」はまた、「フィルム」または「層」の意味を持つものとして理解されるべきである。
【0011】
本発明の一態様によれば、支持体と前記支持体の表面上に被覆された膜層とを含む膜が提供される。この膜層はゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックを含む。好ましくは、構築ブロックは前記表面上に順序付けられて配置される。スラブ形状構築ブロックの順序付けられた配置は本質的に、ゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックの種々の層を持つ層状積層の形をとる。これらの種々の層は好ましくは支持体の表面に本質的に平行に配向されている。構築ブロックのこの順序付けられた配置において、スラブ形状構築ブロックは支持体の表面の粗さに追従する。本発明の層状積層は、構築ブロックが従来技術のように球状粒子の形で一緒にグループ化されず、支持体上に連続層を形成するという意味で、支持体上に形成された均質フィルムである。
【0012】
好ましくは、膜層は二重多孔性により特徴付けられる。ゼオライト骨格を持つナノサイズ構築ブロックはゼオライト状微細孔を含み、一方で超微細孔が構築ブロック間の空の空間または空隙により作られる。ゼオライト状微細孔は約5.5オングストロームの直径を持つことができる。超微細孔のサイズは1.5nmのオーダーであることができる。IUPAC分類によれば、微細孔は2nmのサイズを越えない細孔として規定される。
【0013】
好ましくは、ゼオライト骨格を持つナノメートルサイズスラブ形状構築ブロックは10nm未満のサイズである。より好ましくは、前記構築ブロックは5nm未満のサイズである。
【0014】
好ましくは、膜層はいかなるゼオライト結晶も含まない。
【0015】
本発明の第二態様によれば、支持体上にシリケート系層を被覆する方法が提供され、この方法は次の工程を含む:ゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックの溶液と適当な界面活性剤を混合する;支持体を得られた混合物で被覆する、但し、混合物中の前記界面活性剤の濃度は0.01〜1重量%の範囲にある;被覆された支持体を乾燥してか焼する。被覆された支持体の乾燥は好ましくは1〜5日の期間で実行される。本発明の方法は水熱処理工程を含まない。
【0016】
好ましくは、本発明の方法は前記混合物を熟成する工程を更に含む。熟成工程は混合工程と被覆工程の間で実施される。好ましくは、熟成工程は1時間〜30日、続く。
【0017】
より好ましくは、本発明の方法は前記混合物を希釈する工程を更に含む。希釈工程は熟成工程後に実施される。
【0018】
好適実施態様では、本発明の方法は支持体に前処理を受けさせる工程を更に含む。支持体は多孔性または非多孔性であることができる。
【0019】
図面の簡略説明
図1aは、ゼオライト骨格を持つナノサイズ物品の層間への界面活性剤分子の挿入の概略図を示す。この図は従来技術に属する。
【0020】
図1bは、か焼後のゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の積層の概略図を示す。ナノスラブの側面融解は理想的でなく、幾つかのナノスラブ間に側方空間を残している。この図は従来技術に属する。
【0021】
図2は、界面活性剤CTAB及びDTABで作られたか焼されたゼオグリッド粉末のN−吸着等温線を示す。この図は従来技術に属する。
【0022】
図3は、界面活性剤CTAB及びDTABで作られたか焼されたゼオグリッド粉末の小角XRDパターンを示す。この図は従来技術に属する。
【0023】
図4は、ゼオライトの性質を持つナノサイズ構築ブロックの理想的な積層を持つ革新的ゼオライト状膜の概略図を示す。
【0024】
図5は、ゼオグリッド粉末の吸着等温線と比べた、本発明に従うシリコンウェファー上に調製されたゼオライト状フィルムのN−吸着等温線を示す(白三角)。
【0025】
図6は、本発明の方法に従うシリコンウェファー上に調製されたゼオライト状フィルムの小角XRDパターンを示す。この曲線は二層フィルム、一層フィルム及びブランコシリコンウェファーに対して測定されたバックグラウンド信号に対するパターンを示す。
【0026】
図7は、実施例1の平坦な多孔性支持体上の革新的ゼオライト状膜のSEM図を示す。図上の棒は1μmである。
【0027】
図8は、実施例2の管状多孔性支持体上の革新的ゼオライト状膜に対する保持率の曲線を示す。この曲線は小さなPEG分子の混合物によるナノろ過試験から導かれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
膜の合成の鍵となる工程は、界面活性剤と注意深いか焼によって支持体上にゼオライト骨格を持つ規則性ナノメートルサイズ粒子を順序付けられて積層することである。このゼオライト膜形成はいかなる水熱処理も含まないばかりか他の結晶生長工程も含まない。この方法は、例えばCTABまたはDTABのような適当な界面活性剤により媒介された前記ナノサイズ粒子の層状積層を利用する。マイクロメートルサイズの球状粒子を形成するための従来技術で記述された方法(Kremerら参照)とは異なり、ここでは、少量の界面活性剤のみがゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の溶液中に混合され、溶液中のいずれかのまたは大き過ぎる層状粒子の形成を防ぐ。少量の界面活性剤は、溶液が多孔性支持体と接触させられながら濃縮化されるときに構築ブロックの十分な順序付けられた層状化のみに導く。多孔性支持体との接触は、毛管力を通しての溶液からの溶媒の除去(これはゾルゲル法により多孔性セラミック膜を形成する技術で既知である手順である)のために溶液の濃縮に導く。順序付けられた層状化は、好ましくは支持体の表面に平行な使用された構築ブロックの理想的なまたは理想的に近い層状化に導き、界面活性剤の除去後に層状化粒子間に可能な粒子間空隙を持たせる(図4参照)。この好ましい場合において、界面活性剤及びTPA分子を除去するためのか焼後に、このように形成されたゼオライト状膜層に接近する全ての分子はナノサイズ構築ブロックの微細孔ゼオライト細孔により膜に侵入する。積層されたナノサイズ粒子間の空の空間により作られた超微細孔は、微細孔ゼオライト細孔を通過した後に到達されるのみであり、従って新しい膜の選択性を減少しない。
【0029】
ゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の層状積層の同じ寸法もまた、例えばシリコンウェファーのような非多孔性支持体に適用されることができる。これは、例えば(非多孔性)支持体の表面及び材料性質を変えるために及び吸着用途のために有用である。
【0030】
上述に続いて、新しい方法はゼオライト状性質を持つ膜を生じる。異なるゼオライトの骨格を持つ異なるナノサイズ構築ブロックを用いるとき、異なるゼオライト状性質を持つ膜が形成されることができる。更に、ゼオライトの、従ってゼオライト骨格を持つナノサイズ構築ブロックの、イオン交換能力を使用すると、触媒的に活性なゼオライト状膜がまた達成される。
【0031】
ゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子を用いてかかるゼオライト状膜を形成する方法は、次の工程を含む:
(a)ゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の溶液を例えばCTABのような適当な界面活性剤の溶液と混合する、
(b)前処理されたまたはされていない多孔性支持体を例えば浸漬被覆によりまたはスピン被覆により希釈された混合物と接触させる、
(c)被覆された支持体を好ましくは1〜5日間で入念に乾燥する、
(d)乾燥された被覆支持体をナノサイズ粒子から界面活性剤及びTPAを適切に除去するためにか焼する。
特別な実施態様によれば、工程(a)と(b)の間で、混合物を熟成工程、続いて希釈工程に供することができる。熟成工程は好ましくは1時間〜30日の期間で適用される。
【0032】
本発明による方法の工程(d)で使用される多孔性支持体は好ましくは無機物質からなる。アルミナ及び/またはジルコニア及び/またはチタニア系またはそれらの混合物を持つ多層セラミック支持体は好適な支持体である。次に示されるタイプの他の材料、またはそれらの組合せ/混合物もまた好適でありうる:炭素、シリカ、ゼオライト、粘土、ガラス及び金属(ステンレス鋼、銀)。全ての幾何学的形状が支持体のために好適であり、例えば、管状、平坦、円盤の形、シート、単一または多チャンネル管、繊維または中空繊維である。
【0033】
多孔性支持体のために、広範囲の細孔サイズが使用されることができる。未処理支持体を使用するために、<20nm、好ましくは<4nmの最小細孔を持つ支持体が選ばれることが好ましい。例えば、約3nmの細孔を持つ一つまたは二つの付加的チタニアまたはジルコニア層で被覆された50nmの上部層細孔を持つUF(限外ろ過)アルミナ/チタニア膜からなる多層多孔性支持体は、前処理なしで被覆するための好適な支持体である。前処理により、20nmよりかなり大きい最小細孔を持つ多孔性支持体は、例えば50〜200nmの上部層細孔を持つUFまたはMF(マイクロろ過)多層金属酸化物膜として使用されることができる。この場合、前処理として、水、ワックスまたはいずれかの他の細孔充填有機物での含浸を含むがそれらに限定されない、支持体の細孔構造の被覆溶液のナノサイズ粒子の吸引を防ぐための種々の方法を使用することができる。
【0034】
本発明による方法の工程(d)では、例えばシリコンウェファーのような非多孔性支持体が同様に使用されることができる。
【0035】
新しい方法は、ゼオライト膜のための古典的合成ルートに対して幾つかの利点を提供する。まず第一に、それは非常に簡単な合成手順であり古典的合成ルートの技術的に要求する水熱処理を避ける。第二に、構築ブロックの実際のナノサイズ(シリカライト−1膜の場合に対し1.3×2×4nmまたはその小さい倍数)のため、非常に高い物質移動、すなわち高フラックスを持つ非常に薄いゼオライト状膜が形成されることができる。更に、小さい厚さは、形成された膜の熱サイクルの場合の割れを作る危険を大きく減らす。これは、従来技術のゼオライト膜に比べて新しく開発された膜の別の明確な利点である。第三に、革新的な膜の構築ブロックは、いずれかの更なる結晶化または粒子生長なしに、膜合成時に系統的に順序付けられるだけである。従って、この新しい合成方法は、従来技術で既知のゼオライト膜の必然的な問題であるように、膜に入って来る分子により接近可能な選択性の少ないまたは非選択的な粒子間空隙の形成を避ける大きな可能性を持つ。これは、新しい膜に少なくとも等しいか、たぶん特別に高い選択性を与える。これらの三つの利点は、本発明が高フラックスと高選択性を兼ね備える膜に導く可能性を持つことを明らかに示す。
【0036】
本発明の方法の水熱工程の不存在によって、結晶化または粒子生長はナノサイズ構築ブロック中に起こらない。
【0037】
合成によって変わらない、使用されたナノサイズ粒子の系統的に順序付けられた積層である新しいゼオライト状膜は、いずれのゼオライト状大角ブラッグ型XRD回折パターンも示さない。これは、それらを従来技術のゼオライト膜から明らかに区別可能にする。
【0038】
シリカライト−1状膜に対しては、ゼオライト状細孔度は0.10〜0.20cm/gであり、典型的には約0.14cm/gであるが、超微細孔度は典型的には0.3〜0.6cm/gである。
【0039】
Kremerらにより開示されたゼオグリッド球状粒子はバッチ状ろ過工程で使用されることができる粉末材料であるけれども、本発明の膜は支持体上に被覆されていることに注目することは重要である。驚くべきことに、膜の合成に使用された少量の界面活性剤は被覆の厚さ及び均一性の良好な制御を達成させる。
【0040】
新しいゼオライト状膜は従来技術のゼオライト膜と同じ用途に使用されることができる。可能な用途はパーベーパレーション、気体分離及び/または接触反応を含むが、それらに限定されない。新しい方法は見たことのない高い性能を持つ膜に導く大きな可能性を持つ。
【0041】
新しい方法に従って細孔ゼオライト状フィルムがシリコンウェファー上に作られた。シリコン支持フィルム上へのN−吸着は上述のゼオグリッド粉末に対して見られたのと同じ二重細孔度を示した(図5参照)。ゼオライト状微細孔及び超微細孔はゼオグリッド粉末に対するのと同じである。シリコン支持フィルムの小角XRDパターンを示す図6は、3nm付近にピークを示し、先にゼオグリッド粉末に対して見たナノサイズ構築ブロックの層状積層を立証する。大角ブラッグ型XRD回折は存在しない。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
多孔性支持体上のゼオライト状膜を上述の方法の種々の工程に従って形成した:
(a)シリカライト−1骨格を持つナノサイズ粒子の溶液を、撹拌下の80.24gの水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液(40重量%濃度)中でテトラエチルオルトシリケート(91.43g)(Acrosから商業的に入手可能、98%純度)の加水分解を通して調製した。加水分解後に、78.33gの水が添加され、24時間撹拌を続けた。ナノサイズ粒子のサイズ(この実施例では1.3×2.0×4.0nmのサイズ)は合成条件により制御される。ナノサイズシリカライト−1粒子のこの溶液の5mlを15mlのエタノールで希釈する。続いて、エタノール中の界面活性剤臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB,Acrosから商業的に入手可能、99%純度)の10重量%溶液の2mlを、5分間の連続撹拌下で希釈されたナノスラブ溶液に添加する。これは、ナノスラブ溶液の容積当り、エタノールにおいて10重量%の界面活性剤溶液の0.4容積が使用され、希釈エタノールの3容積が使用されることを意味する。この混合物中の界面活性剤濃度はゼオグリッド粉末を製造するために使用される濃度よりかなり低い:従来技術によれば、ナノスラブ溶液の容積当り、エタノールにおいて12重量%の界面活性剤溶液の3容積、及び希釈エタノールの0から最大1容積を使用してゼオグリッドは製造される。
(b)混合物を8日間熟成する。
(c)混合物をエタノールで1:25の比まで希釈する。被覆混合物中の界面活性剤濃度は0.036重量%である。
(d)2.5cm直径及び2mm厚の円盤の形の多孔性支持体を、希釈された混合物中で浸漬被覆する。支持体は二つのメソ孔チタニア層で被覆された100nmの細孔を持つ自家製多孔性アルファアルミナのサブ構造からなる多層稠密UF膜である。上部層細孔は約3nmの大きさであった。支持体の分子量カットオフは約4000ダルトンであると確認された。多孔性支持体は前処理なしに使用された。
(e)被覆支持体を室温で2日間入念に乾燥した。
(f)乾燥された被覆支持体を、ナノサイズシリカライト−1粒子から界面活性剤とTPAを除去するために4時間425℃で(10℃/時間の温度増加)か焼する。
被覆されたゼオライト状膜層の品質は、多孔性支持体の高いバックグラウンド信号のため、上述のシリコンウェファー上のゼオライト状フィルムに対する場合のようにN吸着及び小角XRD測定により確認されることができなかったことが見出された。従って、代替品質試験として、膜は、200〜1500ダルトンの分子量を持つ小さなPEG分子のナノろ過性能に対して確認された。180ダルトンのグルコース分子が0.7nmの大きさであること(PhD thesis Bart Van der Bruggen,K.U.Leuven,2002)は知られている。従って、膜に入る分子に対して利用できる0.5nmのシリカライト−1細孔のみを持つ、新しい方法により調製された欠陥のないシリカライト−1状膜は、全ての使用されたPEG分子に対して100%保持率を示さなければならない。
実際に、1500ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/l、600ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/l及び200ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/lを持つRO水の溶液を含む小さなクロスフローろ過装置内に膜が取付けられた(PEG分子はAcrosから商業的に入手可能である)。トランスメンブラン圧は10バールに設定された。24時間後、透過側に一滴も集められず、これは0.5nmより大きい細孔の不存在を立証する。透過液が集められなかったので、異なるPEG分子の保持は誘導されなかった。この実施例の膜はまた、SEMにより分析された。図7は膜層の高品質を示し、可視欠陥のないことを示す。膜層の厚さは約100nmであると推測される。
【0043】
(実施例2)
多孔性支持体上の別のゼオライト状膜を上述の方法の種々の工程に従って形成した:
(a)シリカライト−1骨格を持つナノサイズ粒子の溶液を、実施例1に記載されたのと同じ方法で調製した。このナノスラブ溶液の5mlを15mlのエタノールで希釈する。続いて、エタノール中の界面活性剤臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB,Acrosから商業的に入手可能、99%純度)の10重量%溶液の3mlを5分間の連続撹拌下で希釈されたナノスラブ溶液に添加する。この実施例では、ナノスラブ溶液の容積当り、エタノールにおいて10重量%の界面活性剤溶液の0.6容積が使用され、希釈エタノールの3容積が使用される。界面活性剤濃度は再度、ゼオグリッド粉末を製造するために使用された濃度よりかなり低い(実施例1参照)。
(b)混合物を6日間熟成する。
(c)混合物をエタノールで1:20の比まで希釈する。被覆混合物中の界面活性剤濃度は0.063重量%である。
(d)1.0cmの外径と12cmの長さの単一チューブの形の多孔性支持体を、希釈された混合物中で浸漬被覆する。支持体は二つのメソ孔チタニア層で自家被覆された多孔性アルファアルミナのサブ構造と60nmの細孔を持つチタニア上部層を持つ商業的に入手可能な開放UF膜からなる多層稠密UF膜(Inocermic gmbhから商業的に入手可能)である。上部層細孔は約3nmの大きさであった。支持体の分子量カットオフは約4000ダルトンであると確認された。多孔性支持体は前処理なしに使用された。
(e)被覆支持体を室温で2日間入念に乾燥した。
(f)乾燥された被覆支持体を、ナノサイズシリカライト−1粒子から界面活性剤とTPAを除去するために4時間425℃で(10℃/時間の温度増加)か焼する。
被覆されたゼオライト状膜層の品質は再度、200〜1500ダルトンの分子量を持つ小さなPEG分子によるナノろ過により確認された。実施例1におけるように、1500ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/l、600ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/l及び200ダルトンの分子量を持つPEG分子の1g/lを持つRO水の溶液を含む小さなクロスフローろ過装置内に膜が取付けられた(PEG分子はAcrosから商業的に入手可能である)。トランスメンブラン圧は5バールに設定された。3l/hmbarの少量の透過フラックスが測定された。ろ過の透過及び保持がゲル透過クロマトグラフィーにより分析され、250ダルトンの分子量に対して90%保持率を示した。上述のように、これは膜層中に残る欠陥細孔が少量であることを立証する。保持率曲線を図8に示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1aはゼオライト骨格を持つナノサイズ物品の層間への界面活性剤分子の挿入の概略図を示す。図1bはか焼後のゼオライト骨格を持つナノサイズ粒子の積層の概略図を示す。
【図2】界面活性剤CTAB及びDTABで作られたか焼されたゼオグリッド粉末のN−吸着等温線を示す。
【図3】界面活性剤CTAB及びDTABで作られたか焼されたゼオグリッド粉末の小角XRDパターンを示す。
【図4】ゼオライトの性質を持つナノサイズ構築ブロックの理想的な積層を持つ革新的ゼオライト状膜の概略図を示す。
【図5】ゼオグリッド粉末の吸着等温線と比べた、本発明に従うシリコンウェファー上に調製されたゼオライト状フィルムのN−吸着等温線を示す(白三角)。
【図6】本発明の方法に従うシリコンウェファー上に調製されたゼオライト状フィルムの小角XRDパターンを示す。
【図7】実施例1の平坦な多孔性支持体上の革新的ゼオライト状膜のSEM図を示す。
【図8】実施例2の管状多孔性支持体上の革新的ゼオライト状膜に対する保持率の曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト状性質を持つシリケート系微細孔セラミックモレキュラーシーブ膜であって、その膜が支持体と前記支持体の表面上に被覆された膜層とを含み、前記膜層がゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックを含むことを特徴とする膜。
【請求項2】
前記構築ブロックが前記表面上に層状積層で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の膜。
【請求項3】
膜層が構築ブロック間に超微細孔を含み、かつ構築ブロックがゼオライト状微細孔を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の膜。
【請求項4】
構築ブロックが10ナノメートル未満のサイズを持つことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の膜。
【請求項5】
シリケート系層を支持体上に被覆する方法であって、その方法が次の工程:
(a)ゼオライト骨格を持つナノメートルサイズのスラブ形状構築ブロックを含む溶液と適当な界面活性剤を混合する、
(b)支持体をこの混合物で被覆する、但し、被覆時の前記混合物中の前記界面活性剤の濃度は0.01〜1重量%の範囲にある、
(c)被覆された支持体を乾燥しかつか焼する、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記混合物を熟成する工程を更に含み、前記熟成工程が工程(a)と工程(b)の間で実施されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記熟成工程が1時間〜30日間、続くことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
熟成工程が前記混合物を希釈する工程を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
支持体に前処理を受けさせる工程を更に含むことを特徴とする請求項5から8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記構築ブロックが10nm未満のサイズを持つことを特徴とする請求項5から9のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−511417(P2009−511417A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535853(P2008−535853)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/BE2006/000117
【国際公開番号】WO2007/045053
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(507263874)ヴラームス インステリング ヴール テクノロギシュ オンデルゾーク エヌ.ヴイ. (ヴイアイティーオー) (3)
【出願人】(508122334)
【Fターム(参考)】