説明

ナノバブルを含む癌の治療又は予防のための薬剤

【課題】 癌の予防や治療のための薬剤の提供を目的とする。
【解決手段】 ナノバブルを含むことを特徴とする癌の治療又は予防のための薬剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療又は予防におけるナノバブル技術の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素のナノバブルを多量に含んだ水(酸素ナノバブル水)が、魚介類の環境変化に対する適応性を向上させたり、衰弱した個体を急速に回復させたりするなど、生物に対する種々の生理活性作用を有していることが注目されている。ナノバブルとは、直径がナノサイズの超微小気泡であり、通常はマイクロバブル(直径が50μm以下の微小気泡)が縮小する過程において生成するが、表面張力の作用により自己加圧されているため急速に完全溶解してしまい、その寿命は一般的に短いとされていた。しかし、界面活性剤による殻を被った場合や、表面帯電による静電反発力を受けた場合には、ナノレベルの気泡であってもある程度の長時間、存在することが可能であることが報告されている。酸素やオゾンのナノバブルを長期間安定に維持できるナノバブル水の製造方法も近年確立されており、特に帯電効果により安定化したナノバブルは、気泡としての特性を保持しており、生物の細胞レベルへの直接的な働きかけなど、多方面に応用の可能性が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ナノバブル水の医療応用についても、これまでに組織保存への応用(非特許文献1、2)、動脈硬化への応用(非特許文献3、4)などにつき報告がなされてきた。
しかしながら、癌の予防や治療へのナノバブル水の応用については、これまでに報告例がない。
【0004】
【特許文献1】 特開2005−245817号公報
【非特許文献1】 長雄一郎、村松憲、佐藤健次「酸素ナノバブル水の組織保存性に関する組織学的検討(第1報)」第111回日本解剖学総会・学術集会
【非特許文献2】 平成17年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託調査研究 バイオ分野におけるナノバブル水の産業利用に関する調査 成果報告書 38−40「ナノバブル水を利用した生体組織の保存等に関する評価研究」
【非特許文献3】 Hojo Y,et al.“Anti−inflammatory Property of Oxygen Nano−bubbles” Circulation Journal vol.70, supplement I,p276(第70回 日本循環器学会総会・学術集会)
【非特許文献4】 平成17年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構委託調査研究 バイオ分野におけるナノバブル水の産業利用に関する調査 成果報告書 40−45「細胞の生理機能に対するナノバブル水の影響評価」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナノバブル水を利用した、癌の予防や治療のための薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、ナノサイズの気泡を含むナノバブル水が、癌に対して優れた治癒促進効果を奏することができるという知見を得た。これは、従来全く知られていない、本発明者らの見出した新たな知見である。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> ナノバブルを含むことを特徴とする癌の治療又は予防のための薬剤である。
<2> 前記<1>に記載の薬剤において、前記ナノバブルが酸素及び/又はオゾンを含むナノバブルであることを特徴とする薬剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、癌の予防や治療に好適な、ナノバブルを含む薬剤を提供することができる。本発明は、癌の転移の抑制や転移した癌の抑制にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(癌の予防又は治療のための薬剤)
本発明の癌の予防又は治療のための薬剤は、ナノバブルを含むことを特徴とする。
【0010】
<ナノバブル>
本発明において、「ナノバブル」とは、気泡径(直径)がナノサイズの気泡をいう。前記ナノバブルとしての気体に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸素、オゾン、水素、窒素、天然ガス(例えば、メタン)などが挙げられる。これらの中でも、オゾンや酸素が好ましく、特に癌の治癒能力という観点からはオゾンが特に好ましい。また、二種以上の気体を用いてナノバブルとすることができる。二種以上の気体を用いる場合としては、例えば、気体Aのみを含むナノバブルと気体Bのみを含むナノバブルとの混合物を用いる場合もあれば、気体Aと気体Bとの混合物を含むナノバブルを用いる場合もあるが、これらに限定されず、例えば、いくつかの気泡は気体Aのみを含み、いくつかの気泡は気体Bのみを含み、いくつかの気泡は気体Aと気体Bを含むようなナノバブルであってもよい。なお、本明細書中において、酸素を含むナノバブルを特に「酸素ナノバブル」といい、オゾンを含むナノバブルを特に「オゾンナノバブル」ということがある。
【0011】
前記ナノバブルの気泡径は、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、前記気泡径としては、200nm以下が好ましく、100nm以下が特に好ましい。一般的には、前記気泡径が100nm以下である方が、ナノバブルの安定性の観点から有利である。前記気泡径が小径であるほど、一般的に長期保存の安定性に優れると考えられる。
【0012】
前記ナノバブルの気泡径は、例えば、逆浸透膜などを利用して所望のサイズに調整することができ、また、前記ナノバブルの気泡径は、例えば、動的光散乱光学計を用いた測定やフリーラジカルの測定により評価することができる。但し、オゾンナノバブルの場合には、逆浸透膜を損壊させる可能性があるため、その利用は必ずしも適さない。逆浸透膜を透過させなくとも、例えば、気泡分布の95%以上が直径100nm以下のオゾンナノバブル水を製造することが可能である。
【0013】
本発明の薬剤は、その中に含まれる気泡の少なくとも一部が前記ナノバブルとして存在していればよく、前記ナノバブル以外に、より気泡径の大きい気泡(例えば、気泡径(直径)がマイクロサイズ(1μmを超え、かつ1mm以下)である気泡)を含んでいてもよい。なお、前記薬剤が溶液である場合における前記ナノバブルの濃度は、飽和濃度であることが特に好ましい。また、前記ナノバブルが、溶液中に安定して存在していることが特に好ましい。
【0014】
前記薬剤が溶液である場合、該溶液は、水溶液であることが好ましいが、特に制限はなく、目的に応じて、他の液体を適宜選択することができる。なお、本発明において、前記ナノバブルを含む水溶液を「ナノバブル水」ともいう。
【0015】
<その他の成分>
前記ナノバブル水は、前記ナノバブル以外にも、必要に応じて適宜その他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄、マンガン、塩分などが挙げられる。
【0016】
また、前記ナノバブル水の塩分濃度、pH、硬度等には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述するナノバブル水の製造過程において、また、一旦、ナノバブル水を製造した後に、各々所望の程度に調整することができる。
【0017】
<製造>
前記ナノバブル水の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開2005−245817号公報、特開2005−246294号公報、特開2005−246293号公報等に記載の製造方法に従って製造することができる。前記公報に記載の製造方法によれば、数ケ月以上の長期にわたってナノバブルが安定して存在し、水溶液中から消滅することがないナノバブル水を製造することができる点で、好ましい。
【0018】
また、前記ナノバブル水の製造過程においては、用いる水溶液に、鉄、マンガン、塩分などを添加することが好ましい。
【0019】
前記ナノバブル水の製造過程において、用いる水溶液の塩分濃度は、0.2〜3.0質量%が好ましく、0.8〜1.2質量%がより好ましい。一般的には、前記塩分濃度が、0.8〜1.2質量%の範囲内であると、ナノバブル(ガス核)を作製し易く、ナノバブル水の製造効率に優れるであろう。なお、前記塩分濃度は、例えば、公知の塩分濃度測定器を用いて測定することができる。
【0020】
前記ナノバブル水の製造過程において、用いる水溶液のpH、硬度等は、一般的にはナノバブルの作製効率に塩分濃度ほど大きな影響を与えないと考えられるが、通常、pHは、7〜8が好ましく、硬度は、20〜30が好ましい。前記pH、硬度等は、例えば、それぞれ公知のpH測定器、公知の硬度測定器等を用いて測定することができる。
【0021】
より具体的には、例えば、1.0質量%の塩分濃度の硬水(地下水)を原材料として、50μm以下のマイクロバブルを作製した上で、急速圧壊させることにより、前記ナノバブル水を作製することができる。なお、更に10Åの逆浸透膜を2回通すことにより、塩分濃度0質量%のナノバブル水を作製できる(塩分濃度0質量%の酸素ナノバブル水が、飲料水として厚労省が認可している「ナーガの雫」(株式会社NAGA)である)。一方、10Åの逆浸透膜を通していない段階のものを塩分濃度1.0質量%のナノバブル水として用いることができる。この両者のナノバブル水の混合比率を変えることで、塩分濃度0〜1.0質量%のナノバブル水を提供することができる。なお、オゾンナノバブルの場合には、逆浸透膜通過させると装置が融解破損するおそれがあるため逆浸透膜の利用は好ましくない。
【0022】
前記のようにして得られたナノバブル水は、例えばそのまま、前記薬剤として使用してもよいし、他の成分と組み合わせることにより、前記薬剤として使用してもよい。例えば、前記ナノバブル水に、癌の予防や治療に使用され得る既存の薬剤等を添加することにより、或いは、前記ナノバブル水を、癌の予防や治療に使用され得る既存の薬剤等の調製に用いることにより、癌の予防や治療の効果を更に向上できることも期待される。さらに、前記ナノバブル水を、癌の予防や治療に使用され得る既存の薬剤等と併用することもできる。したがって、このような前記ナノバブル水を一部に利用した癌の予防又は治療のための薬剤も、本発明の薬剤の範囲内に含まれる。
【0023】
前記薬剤の対象とする癌の種類としては、特に制限はないが、好ましい癌の対象としては、肺癌や肝臓癌が例示しうる。本発明の薬剤は、癌の転移や転移した癌に対しても、効果的であり得る。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0025】
(実施例1:ナノバブル水の癌治療効果の評価)
酸素ナノバブル水及びオゾンナノバブル水を、特開2005−246293号公報及び特開2005−246294号公報に記載の製造方法を参照し、作製した。具体的には、1.0質量%の塩分濃度の硬水(地下水)を原材料として、50μm以下のマイクロバブルを作製した上で、急速圧壊させることにより、1.0質量%塩分濃度のナノバブル水を作製した。酸素ナノバブル水においては、1.0質量%塩分濃度の酸素ナノバブル水を作製した後、10Åの逆浸透膜を2回通して塩分濃度0質量%の酸素ナノバブル水とし、使用するまでは冷蔵保存した。使用時には、未使用のプラスチック製又はガラス容器に子口分けして、実際に使用するまで原則的に冷蔵保存をした(一般的には室温保存でも使用効果に実質的な差が生じることは少ないであろう)。得られた酸素ナノバブル水及びオゾンナノバブル水を利用して、癌を患った患者を被検体とし、臨床的に検討を行った。
【0026】
本例は、66歳男性の右肺ガン(扁平上皮癌)患者で、主治医より腫瘍は大きく、脳転移すると危険であるため、抗ガン剤治療や手術は、無理であると判断された者である(図1)。
【0027】
2007年4月6日に入院し、4月15日より、ナノバブル水を飲用開始し、飲用4週でレントゲン上の癌陰影はこぶし大の大きさからの変化が著明となり、病院より劇的改善がみられたとの報告を受けた(図2)。同年5月15日に退院した。退院後に外来で抗ガン剤治療を開始し、7月には2クール目に入っているが、ナノバブル水の飲用を継続しており、食欲も旺盛である。
【0028】
本例は、入院時、既に末期ガンと診断され、抗ガン剤や手術等の主たる加療対象外とされた未治療患者であり、ナノバブル水のみが初期治療として利用され、その効果が認定できた。
【0029】
ナノバブル水は、4月から6月までは、オゾンナノバブル水140mlを食前分3/日で飲用した。その後、7月からは、酸素ナノバブル水とオゾンナノバブル水とを5対1の割合で混合したナノバブル水(ピンク・ナノ水;0.3質量%塩分濃度)を250〜300ml/日、食前分3で飲用継続している。
【0030】
以上の結果から、前記ナノバブル水の飲用により、癌が顕著に治癒されることが示された。ナノバブル水は、苦痛の無い、癌の治療又は予防剤として非常に有望であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の薬剤は、癌の治療又は予防に、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、ナノバブル水飲用前の患者のレントゲン写真である。
【図2】図2は、ナノバブル水飲用後の患者のレントゲン写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノバブルを含むことを特徴とする癌の治療又は予防のための薬剤。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤において、前記ナノバブルが酸素及び/又はオゾンを含むナノバブルであることを特徴とする薬剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−84258(P2009−84258A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279586(P2007−279586)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(503357735)株式会社REO研究所 (21)
【Fターム(参考)】