説明

ナノファイバー不織布の製造方法及び装置

【課題】放電を生じさせることなく効率的に均一なナノファイバー不織布を製造できるナノファイバー不織布の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】送風機4及び排風機5を作動させ、ハウジング3内のノズル1と捕集材2との間に電圧を印加し、ノズル1からポリマー溶液を吐出させると、ノズル1からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。静電爆発が生じて爆発的に延伸され、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバーFが効率的に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーから成るナノファイバーを堆積したナノファイバー不織布の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーから成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電界紡糸法が知られている。この電界紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルにポリマー溶液を供給し、この針状のノズルからポリマー溶液を捕集部に向けて線状に吐出させる。この線状ポリマー溶液が帯電し、ポリマー溶液の溶媒蒸発に伴って線状ポリマー溶液の径が小さくなり、帯電電荷が集中し、線状ポリマー溶液に作用するクーロン力が大きくなる。このクーロン力が線状ポリマー溶液の表面張力よりも大きくなると、線状ポリマー溶液が爆発的に延伸される現象(静電爆発現象)が生じ、この静電爆発現象が繰り返されることにより、サブミクロン(例えば50〜1000nm)の直径のナノファイバーが生成する。
【0003】
このナノファイバーを捕集部上に堆積させることにより、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができる。また、ナノファイバーを厚く形成することにより、サブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができる。
【0004】
ナノファイバー不織布の製造方法として、ポリマー溶液をノズルから流出させて電界紡糸法にて生成させたナノファイバーを捕集部としての通風可能な移動シート上に堆積させると共に、このシートの下側を吸引する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された構成では、シートの下側から吸引するだけであるため、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散したり、捕集部上の堆積厚さのムラが大きくなったりするおそれがある。
【0007】
また、荷電性ポリマーもしくは導電性ポリマーは、電界紡糸する際にノズルと捕集部との間の印加電圧を非常に高くする必要があるが、このように印加電圧を高くすると放電する可能性が高い。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決し、放電を生じさせることなく、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができるナノファイバー不織布の製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(請求項1)のナノファイバー不織布の製造方法は、ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から吐出させ、吐出物を、該吐出部との間に電圧が印加された捕集部の一側に向けて飛翔させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、該吐出部の周囲又は吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの周囲に補助電極を設け、該補助電極が吐出部と反対の電位となるように電圧を印加することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1又は2において、前記補助電極と吐出部との間の電位差を前記吐出部と捕集部との間の電位差の30〜100%とすることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1又は2において、該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜100%とすることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性又は導電性ポリマーであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6のナノファイバー不織布の製造方法は、ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解した溶液を吐出する吐出部と、該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、該捕集部を通風可能な構成とし、該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段と該吐出部の周囲又は該吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの周囲に設けられた補助電極と、該補助電極に対し前記吐出部と反対の電位となるように電圧を印加する手段と、をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項7のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項6において、前記吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲する包囲体を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項8のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項6又は7において、原料ポリマーが荷電性又は導電性ポリマーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、捕集部を吐出部と反対側(他側)から吸引するだけでなく、吐出部から捕集部に向う方向に送風するので、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバー(電解紡糸繊維)が均一な分布状態を維持しつつ、捕集部からはみ出すことなく、捕集部上に確実に堆積するようになるので、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0018】
本発明では、捕集部だけでなく補助電極を設け、該補助電極に、吐出部と反対の電位となるように電圧を印加することにより、捕集部に印加する電圧を低減でき、放電の可能性が低くなる。
【0019】
荷電性ポリマーは、捕集部に電圧を印加することによりナノファイバー化し、捕集部に捕集される。しかしその際に、捕集部の電位によりナノファイバーが帯電し、反対の電位をもつ吐出部に向かって、毛羽立とうとする。補助電極を用いることにより、捕集部に印加する電圧を低減できるだけでなく、補助電極に吐出部と反対の電位となる電圧をかけることにより、吐出したナノファイバーが捕集部に捕集された後に、吐出部方向への毛羽立ちを抑えられる。送風、排風だけでなく補助電極を併用することにより、より毛羽立ちを抑えることができ均一な膜が作製可能である。
【0020】
なお、ナノファイバーの堆積物は、捕集部を通過する気体流によって捕集部に押し付けられるので、通常の場合、シート状となる。送風手段の風量を気体吸引手段の風量の30%以上とすることにより、捕集部に堆積したナノファイバーの毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集部上のナノファイバーの堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風手段の風量を多くし過ぎると、捕集部の吐出部側(一側)の風量が過剰となって該送風手段の周りで風が循環するようになり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が捕集部に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の100%以下とすることにより、捕集部の吐出部側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバーの飛散を防止することができる。
【0021】
捕集部にナノファイバーが捕集されると、徐々に捕集部が閉塞されるため、送風手段の風量と気体吸引手段の風量とが同等である場合には、この捕集部の閉塞に伴って送風手段の風量が過剰となり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散するおそれがあるが、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の例えば80%以下と少なくすることにより、捕集部へのナノファイバーの捕集が進んでも送風手段の風量が過剰となりにくく、ナノファイバーの飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0022】
吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で囲むことにより、一層均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0023】
また、吐出部から捕集部に向う気体流の湿度や温度を調節することにより、飛翔中のナノファイバーや捕集部上のナノファイバー不織布からの溶媒の蒸発速度を制御することができ、品質の良いナノファイバー不織布を製造できて好適である。
【0024】
吐出部や吐出部に供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態に係る不織布製造装置の断面図である。
【図2】図1の不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【図3】実施の形態に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【図4】実施の形態に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【図5】実施の形態に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【図6】実施の形態に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【図7】ナノファイバー不織布の顕微鏡写真である。
【図8】ナノファイバー不織布の顕微鏡写真である。
【図9】ナノファイバー不織布の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係るナノファイバー不織布の製造装置の断面図、第2図はこの不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【0027】
[第1,2図のナノファイバー不織布製造装置]
第1,2図では、ポリマー溶液を細線状に吐出するための吐出部としてのノズル1と、該ノズル1から吐出して生成したナノファイバーを捕集する捕集部としての捕集材2とが包囲体としてのハウジング3内に配置されている。この実施の形態では、ハウジング3は円筒形、角筒形等の筒状であり、一端側に送風手段としての送風機4が配置され、他端側に気体吸引手段としての排風機5が設けられている。
【0028】
排風機5は捕集材2を挟んでノズル1と反対側に配置されている。ノズル1に対しては配管6を介してポリマー溶液が供給される。
【0029】
ノズル1の周囲に補助電極7が設けられている。この実施の形態では、補助電極7はノズル1と同軸の短い円筒状である。ノズル1の先端と捕集材2との距離をaとし、ノズル1の先端と補助電極7との距離をbとした場合、b/aは0.3〜1.5特に0.5〜1.0程度が好適である。
【0030】
ノズル1と捕集材2及び補助電極7との間には電圧源8によって高電圧が印加される。第1,2図では、捕集材2及び補助電極7が正、ノズル1が負となるように高電圧が印加されている。なお、この極性を逆としてもよい。ノズル1と捕集材2との間の電圧Vは1kV〜100kV特に5kV〜100kV程度が好適であるが、これに限定されない。ノズル1と補助電極7との間の電圧Vは、V以下、例えばVの30〜100%特に50〜90%であることが好ましい。
【0031】
捕集材2は、多孔板、メッシュ、織布、不織布などの通風可能な材料よりなる。多孔板やメッシュのノズル1側の板面に織布や不織布を配置したものなどであってもよい。
【0032】
このように構成されたナノファイバー不織布製造装置において、送風機4及び排風機5を作動させ、ノズル1と捕集材2及び補助電極7との間に電圧を印加し、ノズル1からポリマー溶液を吐出させると、ノズル1からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。この線状体からポリマー溶液の溶媒が蒸発することで線状体の径が細くなり、それに伴って帯電されていた電荷が集中し、そのクーロン力が線状体のポリマー溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバーFが効率的に生成する。
【0033】
この実施の形態では、補助電極7を設けているので、ノズル1と捕集材2との間の電圧を、補助電極7が無い場合よりも低くしても、十分に品質の良いナノファイバーを製造することができる。
【0034】
本発明においては、不織布製造時には、送風機4の風量が排風機5の風量の30〜100%好ましくは30〜80%となるように、該送風機4及び排風機5を作動させる。
【0035】
このナノファイバーFが捕集材2上に捕集されて堆積し、不織布が生成する。所定量の不織布が生成した後、上記の製造操作を停止し、捕集材2から不織布を取り出す。
【0036】
不織布製造時に、送風機4の風量が排風機5の風量の30%以上となるように該送風機4及び排風機5を作動させることにより、捕集材2に堆積したナノファイバーFの毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集材2上のナノファイバーFの堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風機4の風量を多くし過ぎると、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となって該送風機4の周りで風が循環するようになり、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバーFの一部が捕集材2に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の100%以下とすることにより、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバーFの飛散を防止することができる。
【0037】
なお、捕集材2にナノファイバーFが捕集されると、徐々に捕集材2が閉塞されるため、送風機4の風量と排風機5の風量とが同等である場合には、この捕集材2の閉塞に伴って送風機4の風量が過剰となるおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の80%以下とすることにより、捕集材2へのナノファイバーFの捕集が進んでも送風機4の風量が過剰となりにくく、ナノファイバーFの飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0038】
この実施の形態では、ノズル1と捕集材2との間の吐出物飛翔ゾーンを取り囲むようにハウジング3が設けられ、送風機4がハウジング3の上流部に設けられ、排風機5が捕集材2の下流側に配置されているので、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバーFが周囲に飛散することなく、また均一に分布した状態で捕集材2に捕集される。従って、捕集材2上の不織布は、品質、特性及び厚みのムラが少ないものとなる。
【0039】
[第3図のナノファイバー不織布製造装置]
第3図では、第1,2図の製造装置において、補助電極7をノズル1と捕集材2との間の吐出物飛翔ゾーンに、該飛翔ゾーンを取り巻くように配置している。補助電極7の形状は第1,2図と同一であり、補助電極7はノズル1と同軸に配置されている。ノズル1の先端と補助電極7との距離bと、前記距離aとの比b/aは0.3〜1.5特に0.5〜1.0程度が好適である。
[第4図のナノファイバー製造装置]
第4図では、複数枚の平板状の補助電極10をノズル1の周囲にノズル1を取り囲むように配置している。この実施の形態では、4枚の補助電極10をノズル1の周方向に90°毎に配置している。各補助電極10の板面はノズル1の軸心方向と平行である。その他の構成は第1,2図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
[第5図のナノファイバー製造装置]
第5図では、ノズル1の周囲にノズル1と同軸状に多角筒状の補助電極11を設置している。補助電極11は六角筒状であるが、四角形以上であればよい。その他の構成は第1,2図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
[第6図のナノファイバー製造装置]
第6図では、リング状の補助電極12をノズル1と同軸状に設置している。補助電極12の板面はノズル1の軸心線と垂直方向となっている。その他の構成は第1,2図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0040】
なお、図示は省略するが送風機4で送風する空気を加湿するためのエアヒータや、この空気を加湿するための水蒸気供給器を設置してもよい。エアヒータで空気を加温し、飛翔中の細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発を促進したり、ハウジング3内の雰囲気中の湿度(水蒸気濃度)を調整し、細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発速度を制御したりすることが可能であり、これにより、ナノファイバーの長さや径を調節することが可能である。
【0041】
上記製造装置は、ナノファイバー不織布をバッチ式に製造するものであるが、捕集材を連続的に移動させ、この捕集材上にナノファイバーを堆積させて不織布を連続的にを製造するようにしてもよい。
【0042】
この場合、捕集材は、メッシュ、織布、不織布などの通風可能かつ屈曲可能な材料よりなる無端ベルト状のものであり、駆動ローラ間にエンドレスに架け渡され、上側走行部が水平に移動するよう構成される。
【0043】
[ナノファイバーの原料]
ナノファイバーの原料ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリエーテル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。ただし、荷電性や導電性のポリマーは電界紡糸により捕集部における毛羽立ちが起こり易いので本発明の効果が顕著であり好適である。なお、荷電性や導電性のポリマーにポリオレフィン、ポリエーテル等の他のポリマーを混合してもよい。
【0044】
導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリチオフェン類などが挙げられる。
【0045】
荷電性ポリマーとしては、パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(NAFION(登録商標)、Fumion(商品名))、骨格となる非荷電性ポリマーにスルホン基、カルボキシル基、1〜4級アミノ基が付与されたポリマーを挙げることができる。骨格となる非荷電性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどを挙げることができる。
【0046】
溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、フッ素系溶媒などが好適であるが、前記溶剤100体積部に対して水を10〜1000体積部混合した混合溶媒も好適である。
【0047】
このナノファイバーは、カチオン交換基、アニオン交換基及びキレート基の少なくとも1種が付与されてもよい。
【0048】
イオン交換基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボン酸基、水酸基、フェノール基、4級アンモニウム基、1〜3級アミン基、ピリジン基、アミド基などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Naなどの塩型であってもよい。
【0049】
官能基の導入方法は、特に限定されるものではなく、各種の方法を採用することができる。例えば、ポリスチレンの場合、硫酸溶液中にパラホルムアルデヒドを適量添加し、加熱架橋することで、スルホン酸基の導入が可能である。ポリビニルアルコールの場合は、水酸基に、トリアルコキシシラン基やトリクロロロシラン基、あるいはエポキシ基などを作用させることなどにより、官能基を導入することができる。材質によって直接官能基を導入できない場合は、まず、スチレンなどの反応性の高いモノマー(反応性モノマーと呼ぶ)を導入した上で、官能基を導入するといったような、2段階以上の導入操作を経て、目的とする官能基を導入しても良い。これらの反応性モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、スチレン、クロロメチルスチレン、アクロレイン、ビニルピリジン、アクリロニトリルなどがあるが、この限りではない。
【0050】
[その他の実施の形態]
本発明では、ノズルの加温用のヒータや、ノズルに供給されるポリマー溶液を30〜90℃特に30〜60℃程度に加温する加温器(ヒータや熱交換器など)を設けてもよい。このようにノズルやノズルに供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0051】
本発明では、排風機からの排風を送風機の吸込側に送ってもよい。
【実施例】
【0052】
<実施例1〜5及び比較例1>
[実施例1]
市販のNAFION10重量部と、ポリフッ化ビニリデン10重量部とをジメチルアセトアミド80重量部に溶解させてナノファイバー製造用ポリマー溶液を調製した。
【0053】
このポリマー溶液を第1,2図のノズル1に480分間にわたって供給し、平均繊維径300nmのナノファイバーを製造した。その他の条件は次の通りである。
【0054】
ノズル口径:320μm
ノズルからの噴出量:0.2mL/min
ノズル1の先端と捕集材2との距離a:135mm
ノズル1の先端と補助電極7との距離b:140mm
ハウジング断面積:1300cm
送風量:30000L/min
排気風量:50000L/min
湿度:50%
温度:室温
ノズル1と捕集材2との間の印加電圧V:30kV
ノズル1と補助電極7との間の印加電圧V:20kV
【0055】
これにより、第7図に示す不織布が製造された。この実施例1において、放電の有無、作製物の状態のSEM観察、作製中のナノファイバーの毛羽立ちと舞い上がり、作製した膜の膜厚、膜厚のばらつき、生成したナノファイバーの回収率を求めた。
【0056】
膜厚のばらつきは、作製した膜を1辺100mmの正方形に切り取り、等間隔に16点の膜厚を測定し、平均値と最も厚い値と最も薄い値を出して、平均値からの差を算出して求めた。また、ナノファイバーの回収率は、ナノファイバー膜生成量/溶液使用量から算出したナノファイバー生産見込み量×100で求めた。
【0057】
結果を表1に示す。表1の通り、この実施例1によると、放電することなく、安定して繊維を形成してムラなく十分な膜厚の不織布を製造することができた。
【0058】
[実施例2]
実施例1において捕集部印加電圧Vを40kV、補助電極印加電圧Vを25kVとした他は同一条件にて不織布を製造した。その結果を表1に示す。表1の通り、放電することなく、安定して繊維を形成してムラなく十分な膜厚の不織布を製造することができた。
【0059】
[比較例1]
実施例1において補助電極を撤去し、捕集部印加電圧Vを30kVにしたこと以外は同一の条件にて不織布を製造を試みたが、作製物をSEM観察したところ、表1及び第8図の通り、繊維と液滴の混在物であった。補助電極がなく、捕集部印加電圧が30kVと低いため十分に繊維が構成されなかったものと考えられる。
【0060】
[比較例2]
実施例1において補助電極を撤去し、捕集部印加電圧Vを50kVにしたこと以外は同一条件にて不織布の製造を試みたが、作製物をSEM観察したところ、表1の通り、繊維と液滴の混在物であった。放電もなく安定して繊維を形成することはできたが不織布の膜厚に対する膜厚のバラツキが±17μmと若干大きくなった。送風によってある程度の毛羽立ちがおさえられるが、補助電極がないため部分的には毛羽立ちが生じたためと考えられる。
【0061】
[比較例3]
実施例1において補助電極を撤去し、捕集部印加電圧Vを60kVにしたこと以外は同一の条件にて不織布の製造を試みた。表1の通り、紡糸は可能であったが、製造途中で放電してしまい、連続製造が困難であった。補助電極がなく、また、捕集部への印加電圧Vを60kVに高めたためと考えられる。
【0062】
[比較例4]
実施例1において排風、送風を止めたこと以外は同一の条件にて不織布を製造を試みたが、表1の通り、作製した膜が毛羽立って舞い上がり、製造困難であった。送風による押さえつけがなかったため毛羽立ちが起こり、また排風がなかったために繊維の舞い上がりが起きたと考えられる。
【0063】
[比較例5]
実施例1において送風量を50000L/minとし、排風を止めたこと以外は同一の条件にて不織布を製造を試みたが、表1の通り、作製した膜が舞い上がり、製造困難であった。送風による押さえつけにより毛羽立ちは起こらなかったが、排風がなかったために繊維の舞い上がりが起きたと考えられる。
【0064】
[比較例6]
実施例1において送風を停止し、排風量を50000L/minとしたこと以外は同一の条件にて不織布を製造を試みたが、表1の通り、作製した繊維が毛羽立ち、製造困難であった。送風による押さえつけがなかったため毛羽立ちが起こったが、排風をしたため舞い上がりを防止できたと考えられる。
【0065】
[比較例7(補助電極の印加電圧の変更)]
実施例1において補助電極印加電圧Vを0.5kV、捕集部印加電圧Vを30kVにしたこと以外は同一条件にて不織布の製造を試みたが、作製物をSEM観察したところ、第9図及び表1の通り、繊維と液滴の混在物であった。補助電極の印加電圧が著しく低かったため十分に繊維が形成されなかったと考えられる。
【0066】
[比較例8(補助電極の印加電圧の変更)]
実施例1において補助電極印加電圧Vを60kV、捕集部印加電圧Vを30kVにしたこと以外は同一条件にて不織布の製造を試みた。表1の通り、紡糸可能であったが、製造途中で放電してしまい、連続製造が困難であった。補助電極の印加電圧VがVよりも高かったため放電したと考えられる。
【0067】
[実施例3(送風吸気の比率の変更)]
実施例1において送風量を15000L/minとし、排風量を50000L/minとした他は同一条件にて不織布を製造した。結果を表1に示す。表1の通り、送風と排風の比がバランスしており舞い上がりと毛羽立ちを抑えられた。
【0068】
[実施例4(送風吸気の比率の変更)]
実施例1において送風量を50000L/minとし、排風量を50000L/minとした他は同一条件にて不織布を製造した。結果を表1に示す。表1の通り、送風と排風の比がバランスしており舞い上がりと毛羽立ちを抑えられた。
【0069】
[比較例9(送風吸気の比率の変更)]
実施例1において送風量を10000L/minとし、排風量を50000L/minとした他は同一条件にて不織布の製造を試みたが、表1の通り、作製した繊維が毛羽立ち、製造困難であった。排風量が低く、毛羽立ちを抑える効果が不十分であったためと考えられる。
【0070】
[比較例10(送風吸気の比率の変更)]
実施例1において送風量を60000L/minとし、排風量を50000L/minとした他は同一条件にて不織布の製造を試みたが、表1の通り、捕集部に作製した繊維が捕集されるにつれて徐々に舞い上がり、製造困難であった。送風量に対して排風量が少ないため、送風/排風のバランスが悪くなり、繊維の舞い上がりが起こったと考えられる。
【0071】
[実施例5(補助電極の位置の変更)]
実施例1において電極の位置を第3図の通り、飛翔ゾーン周囲としたこと以外は同一条件にて不織布を製造した。その結果、表1の通り、放電することなく、安定して繊維を形成してムラなく十分な膜厚の不織布を製造することができた。
【0072】
【表1】

【0073】
これらの実施例及び比較例から明らかなとおり、本発明によれば、送風・吸気に加えて補助電極を用いることにより、送風・吸気単独で行う場合に比べてより毛羽立ちや膜厚のバラつき(ムラ)の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ノズル
2 捕集材
3 ハウジング
4 送風機
5 排風機
6 ポリマー溶液供給用の配管
7 補助電極
8 電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から吐出させ、吐出物を、該吐出部との間に電圧が印加された捕集部の一側に向けて飛翔させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、
該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、
該吐出部の周囲又は吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの周囲に補助電極を設け、該補助電極が吐出部と反対の電位となるように電圧を印加することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項2】
請求項1又は2において、前記補助電極と吐出部との間の電位差を前記吐出部と捕集部との間の電位差の30〜100%とすることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜100%とすることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性又は導電性ポリマーであることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項6】
ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解した溶液を吐出する吐出部と、
該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、
該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、
を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、
該捕集部を通風可能な構成とし、
該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、
該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段と
該吐出部の周囲又は該吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの周囲に設けられた補助電極と、
該補助電極に対し前記吐出部と反対の電位となるように電圧を印加する手段と、
をさらに備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項7】
請求項6において、前記吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲する包囲体を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、原料ポリマーが荷電性又は導電性ポリマーであることを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−207351(P2012−207351A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75460(P2011−75460)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】