説明

ナノフォトニックデバイス用の出力端子

【課題】出力光の発光強度を増加させるとともに、発光寿命の遅延を防止することが可能なナノフォトニックデバイス用の出力端子を提供する。
【解決手段】複数の量子ドット12〜14間で光励起担体を送受することにより動作するナノフォトニックデバイス用の出力端子1であって、ナノフォトニックデバイス20を構成する量子ドットのうち、光励起担体を出力する出力用の量子ドット12〜14から50nm以下の近接場領域に配置される、直径100nm以下の1の金属微粒子から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの光通信ネットワーク、光計測等の分野に適用されるナノフォトニックデバイス用の出力端子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体微細加工技術の発展により、量子力学的効果が顕著に現れるサイズまでに微細な構造をもつ半導体素子が実現されている(例えば、非特許文献1参照。)。この量子力学的効果を利用した半導体素子として、例えばHBT(Hetero-junction Bipolar Transistor)や量子井戸レーザ等が実用化されている。また量子力学的効果を利用し、単一電子を制御することにより電子の粒子性を極限まで利用するナノスケールの量子ドットが注目されている。
【0003】
量子ドットは、上述した半導体微細加工技術を用いることにより、光励起担体に三次元的な量子閉じ込めを与えるほど微細なポテンシャルの箱を形成したものである。この光励起担体の閉じ込め系を利用し、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度がデルタ関数的に尖鋭化する。この量子ドットにおける尖鋭化した状態間における光の吸収を利用する単一電子メモリや、量子ドットを出入りする単一電子をON/OFF動作させる単一電子トランジスタが既に研究されており、単一電子のナノスケール操作が実現化されつつある。
【0004】
ところで、将来の大容量情報処理への要求に応えるべく、光の回折限界に支配されることなく演算処理、情報処理、遅延処理等を行うことができるナノスケールの演算回路、遅延回路等の実現が望まれている。
【0005】
しかしながら、かかるナノスケールの回路を電子デバイスで実現化しようとした場合、量子的なゆらぎが生じてしまうという問題点があり、また光デバイスで実現しようとした場合には、やはり光の回折限界により微小化が制限されてしまうという問題点がある。
【0006】
このため、特許文献1においては、ナノメートル領域に配置した量子ドット間に特有な光物理現象を見出し、光の回折限界に支配されることなく積演算を始めとした演算処理等を行うことができる演算回路が提案されている。
【特許文献1】特開2006−215484号公報
【非特許文献1】M.Ohtsu,K.Kobayashi,T.Kawazoe,S.Sangu,andT.Yatsui,IEEE J.Sel.Top.Quantum.Electron.,Vol.8,pp.839-862(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1において、量子ドットからの出力光の光強度は、実際にこれを精度よく検出する観点からは、未だ低いといわざるを得ない。量子ドット自体の体積が小さいことがその最大の理由である。また、量子ドットからの出力光の光強度が小さいことにより、振動子強度自体が小さくなり、ひいては発光寿命が遅くなってしまう。この発光寿命が遅延するということは、即ち、発光の周期が長くなることから発光の機会そのものが制限されることに相当する。発光の機会が制限されれば、これを使用したナノフォトニックデバイスの感度を向上させることができなくなってしまう。
【0008】
このため、従来から、この量子ドットの発光寿命を早くすることにより、単位時間当たりの発光回数を増加させることが懸案となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の量子ドット間で光励起担体を送受することにより動作するナノフォトニックデバイス用の出力端子において、特に出力光の発光強度を増加させるとともに、発光寿命の遅延を防止することが可能なナノフォトニックデバイス用の出力端子、並びにこれを利用したナノフォトニックデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を適用したナノフォトニックデバイス用の出力端子は、上述した課題を解決するために、複数の量子ドット間で光励起担体を送受することにより動作するナノフォトニックデバイス用の出力端子において、上記ナノフォトニックデバイスを構成する量子ドットのうち、上記光励起担体を出力する出力用の量子ドットから50nm以下の近接場領域に配置される、直径100nm以下の1の金属微粒子から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上述した構成からなる本発明において、出力用の量子ドットからの光励起担体を、金属のナノ構造体としての出力端子へと集積させる過程においてこれを発光することが可能となる。出力用の量子ドットと出力端子とが近接場光で結合することにより、発光の寿命の短縮が期待される。そして、この緩和時間の短縮化を図ることができれば、発光信号強度の増大をも図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
先ず、本発明を適用したナノフォトニックデバイス用の出力端子、並びにこれを利用したナノフォトニックデバイスの構成について図1を用いて説明をする。
【0014】
ナノフォトニックデバイス20は、複数の量子ドット間で光励起担体を送受することにより動作するデバイスであればいかなる構成を適用するようにしてもよいが、以下の説明においては特許文献1に示した積演算を始めとした演算処理を行う場合を例にとり説明する。
【0015】
図1に示すように、光信号がそれぞれ供給される第1の量子ドット12並びに第2の量子ドット13と、これらの近傍に形成された第3の量子ドット14と、第3の量子ドット14の近傍において配置された出力端子1とからなるナノフォトニックデバイス20を基板上に形成させたデバイスとして具体化されている。
【0016】
この量子ドット12〜14は、互いに周波数の異なる複数の光信号を多重化させた伝搬光が供給されるものであり、例えばNaCl、KCl又はCaF等の材料により構成される誘電性の基板11と、この基板11上に形成された量子ドット12,13,14からなるナノフォトニックデバイス20とを備えている。
【0017】
ナノフォトニックデバイス20を構成する各量子ドット12,13,14は、励起子を三次元的に閉じ込めることにより形成される離散的なエネルギー準位に基づき、単一電子(励起子)を制御する。この量子ドット12,13,14においては、励起子の閉じ込め系により、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度をデルタ関数的に尖鋭化させることができる。なお、この量子ドット12,13,14において扱う励起子は、電子、正孔等のいかなる光励起担体に代替することが可能となる。
【0018】
ナノフォトニックデバイス20を構成する各量子ドット12,13,14は、CuCl、GaN又はZnO等の材料系からなり、各量子ドット12,13,14を構成する材料系がCuClである場合に、これらは立方体として構成され、また各量子ドット12,13,14を構成する材料系がGaNやZnOである場合に、これらは球形或いは円盤形として構成される。この各量子ドット12,13,14の辺長や径は、それぞれ4nm〜10nm程度で構成することも可能となり、光の波長λと比較してより小さいサイズで基板11上に形成させることも可能となる。
【0019】
このナノフォトニックデバイス20は、基板11上において複数グループに亘り離散的に複製されてなる。このナノフォトニックデバイス20が形成された基板11上には、光ファイバ等で伝送可能な遠視野光としての伝搬光がそのまま供給されてくる。このため、かかる伝搬光に多重化された各光信号は、そのままナノフォトニックデバイス20を構成する各量子ドット12,13,14へと供給されることになる。
【0020】
出力端子1は、金属微粒子として構成される。出力端子1を構成する材料としては、Au(他の材料系があればご教示願います。)等で構成されている。この出力端子1は、上記量子ドット12〜14のうち、光励起担体を出力する量子ドット(以下の例でいうところの第3の量子ドット14)から30nm以下の近接場領域に配置される。この出力端子1は、直径50nm以下となるようにサイズが調整されている。
【0021】
ナノフォトニックデバイス20を構成する量子ドット12,13,14がそれぞれ立方体として構成されている場合において、第1の量子ドット12と、第2の量子ドット13と、第3の量子ドット14との辺長比は、上述の如く1:2:√2であるとき、仮に周波数ω1の光信号Aを供給することにより、図2に示す第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ光励起担体を励起させた場合には、かかる量子準位(1,1,1)と第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)との間で共鳴が生じる。その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する光励起担体が、第3の量子ドット14の量子準位(2,1,1)へ移動し、さらに第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ遷移する。この結果、見かけ上第1の量子ドット12から第3の量子ドット14へ光励起担体が移動することになる。また、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)と第2の量子ドット13における量子準位(2,2,2)との間で共鳴が生じる。その結果、見かけ上第1の量子ドット12から第2の量子ドット13へ光励起担体が移動することになる。
【0022】
これに対して、周波数ω2の光信号Bを供給した場合には、第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)のみに対して光励起担体が励起される。換言すれば、かかる光信号Bを受けたときには、第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)のみ光励起担体が埋められることになる。かかる場合には、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する光励起担体が、第2の量子ドット13の量子準位(2,2,2)に移動しても、第2の量子ドット13の量子準位(1,1,1)に移動することはできない。
【0023】
ここで周波数ω1の光信号Aと周波数ω2の光信号Bがともに伝搬光に多重化されている場合には、かかる周波数ω1からなる光信号Aを受けて第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ光励起担体が励起されるとともに、周波数ω2からなる光信号Bを受けて第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)へ光励起担体が励起される。
【0024】
その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起された光励起担体は、第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)へ移動し、さらにこの第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)に移動した後、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)と第2の量子ドット13の(2,1,1)の間の近接場−近接場相互作用により第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)に移動することは可能である。しかしながら、第2の量子ドット13では、光信号Bに基づいて励起された光励起担体が既に量子準位(1,1,1)において埋められているため、かかる第3の量子ドット14から第2の量子ドット13における量子準位(2,1,1)へ移動した光励起担体は、その下位準位としての量子準位(1,1,1)への緩和ができない。このため、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ移動してきた光励起担体は、第3の量子ドットの量子準位(1,1,1)より出力光として発光する確率がより高くなる。
【0025】
同様に、第1の量子ドット12から第2の量子ドット13の量子準位(2,2,2)へ移動した光励起担体は、かかる第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)へ緩和することになるが、さらに下位にある量子準位(1,1,1)は光信号Bに基づく光励起担体で既に埋められているため、当該量子準位へ緩和されることはない。しかしながら、第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)と第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)は共鳴準位であることから、第2の量子ドット(2,1,1)の光励起担体は、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)に移動し、かかる準位より出力光として発光することになる。
【0026】
即ち、この第3の量子ドット14からの出力光の光強度は、第3の量子ドット14における下位準位への光励起担体の放出量に応じたものであり、かかる光励起担体の放出量は第1の量子ドット12から伝送される光励起担体の量に支配される。即ち、第1の量子ドット12,第2の量子ドット13の双方に光信号A,Bがそれぞれ供給された場合には、第1の量子ドット12から第3の量子ドット14へ伝送される光励起担体の多くをこの第3の量子ドット14から放出させることができ、さらにこの第1の量子ドット12から第2の量子ドット13へ伝送される光励起担体の多くを第3の量子ドット14へ移動させて放出させることも可能となる。その結果、かかる第3の量子ドット14からの光励起担体の放出に基づく、出力光の光強度は大きくなる。
【0027】
なお、本発明では、この第3の量子ドット14から出力光を直接的に発光させるのではなく、図2に示すように第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)に移動した光励起担体によるエネルギーを更に出力端子1へ放出させ、当該放出に基づいて出力光を生成する。
【0028】
具体的には、図2に示すように、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)に移動した光励起担体は、出力端子1におけるエネルギーバンドへと移動することになる。この移動に伴い発光が生じる。この発光の理由としては、金属のナノ構造体としての出力端子1は、プラズモンとしての光励起担体との結合により電子系の励起状態を光に変換することができるためである。
【0029】
なお、この出力端子1が100nmを超えると、量子ドット14からの光励起担体をこの出力端子1としての金属微粒子自身が吸収してこれを熱に変換してしまい、出力光として放出されなくなる。このため、出力端子1の直径は、100nm以下とされていることが条件となり、より望ましくは50nm以下とされていれば、光励起担体の吸収より低いレベルで抑えることが可能となり、出力端子1により熱に変換されることなく、光として放出されることになる。
【0030】
このような構成からなる本発明では、量子ドット14と出力端子1とが近接場光で結合することにより、発光の寿命の短縮が期待される。そして、この緩和時間の短縮化を図ることができれば、発光信号強度の増大をも図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用したナノフォトニックデバイスの構成図である。
【図2】本発明を適用したナノフォトニックデバイスの動作例について説明するための図である。
【符号の説明】
【0032】
1 出力端子
11 基板
12,13,14 量子ドット
20 ナノフォトニックデバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の量子ドット間で光励起担体を送受することにより動作するナノフォトニックデバイス用の出力端子において、
上記ナノフォトニックデバイスを構成する量子ドットのうち、上記光励起担体を出力する出力用の量子ドットから50nm以下の近接場領域に配置される、直径100nm以下の1の金属微粒子から構成されること
を特徴とするナノフォトニックデバイス用の出力端子。
【請求項2】
上記金属微粒子は、直径100nm以下のAuからなること
を特徴とする請求項1記載のナノフォトニックデバイス用の出力端子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の出力端子が設けられたナノフォトニックデバイスにおいて、
互いに同一の共鳴エネルギー準位を有する制御用の量子ドット並びに出力用の量子ドットと、上記出力用の量子ドットから50nm以下の近接場領域に配置される上記出力端子とを備え、
上記制御用の量子ドットは、供給された光励起担体を上記共鳴エネルギー準位を介して上記出力用の量子ドットへ注入し、制御光が供給された場合には、これに基づいて上記共鳴エネルギー準位よりも下位準位へ光励起担体を励起させることにより、上記出力用の量子ドットへ注入すべき光励起担体の量を増加させ、
上記出力用の量子ドットは、上記制御用の量子ドットから注入された光励起担体を上記共鳴エネルギー準位から下位準位へ遷移させたエネルギーを更に上記金属微粒子へ放出させ、当該放出に基づいて出力光を生成すること
を特徴とする請求項1記載のナノフォトニックデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−75462(P2009−75462A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245939(P2007−245939)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173636)財団法人光産業技術振興協会 (19)
【Fターム(参考)】