ナノポーラスシリカとその製造方法
【課題】細孔径が1μm以下、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上の略ハニカム形状を有するナノポーラスシリカとその製法を提供する。
【解決手段】シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填されたチューブ(容器)を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とする。
【解決手段】シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填されたチューブ(容器)を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒反応器やクロマトグラフィ等に多孔質材料として用いられるナノポーラスシリカに係り、特に、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が大きなナノポーラスシリカとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、微細構造(細孔構造および表面構造)に起因する非常に大きな表面積を有することを特徴とした材料で、粒子形状やチューブ形状等の単純な形状に形成され、クロマトグラフィのカラムや空気清浄機のフィルタ等として利用されている。表面積は、微細構造によって大きく変化するため、微細構造の制御に関する技術が開発されている。
【0003】
ところで、ナノテクノロジの分野では、極低濃度サンプルの分析や蛋白質・遺伝子分析等を行うためにマイクロチップ上に反応器や分析器を設けたマイクロプラントが開発されている。そして、従来の充填型触媒反応器における表面積対体積比は、1×106〜5×108m2/m3となっている。マイクロプラントの反応器において、充填型触媒反応器と同程度の活性サイト数で反応速度を大きくするには、チャネル径を小さくしてチャネル数を増加させる必要がある。しかし、チャネル径を小さくすると圧力損失が大きくなるので、実際に使用可能なチャネル径としては10〜500μm程度が妥当といわれているが、それは細孔がつながっていないからである。もしも、各細孔が1つの孔として直線的につながっている場合は、圧力損は小さくなると考えられる。
【0004】
このような多孔質材料の作製技術としては、押し出し成型法、一方向凍結法、電解法、水熱合成法等がある。押し出し成型法は、自動車のマフラー等に使用されているハニカム担体を作製する方法で、粘土質の原料(一般的な材質としてはコージェライトが挙げられる)を押し出し成型し、焼成することでハニカム担体を作製する。この方法で作ることができる最小の細孔径(サイズ)は200μm程度である。また、上記一方向凍結法で合成できる多孔体の細孔サイズはおよそ4〜200μmであり、一体の構造体として得られることが最大の特徴となっている。更に、上記電解法では、一次元状細孔が膜面に対し垂直に整然と配列した細孔構造が得られる。細孔サイズは大体15〜200nmであるが、この方法では薄膜状のものしか作ることはできず、最大でも膜厚は100μm程度である。代表的なものとして、アルミニウム陽極酸化皮膜がある。また、上記水熱合成法で得られるゼオライトやメソポーラスシリカは直線状細孔を有しており、細孔サイズは大体0.3〜10nmとなっている。
【0005】
本発明者等は、これまでにゾルや湿潤ゲルを凍結した際に成長するミクロンオーダーの氷晶を鋳型とする一方向凍結法について検討を行ってきた。そして、凍結条件や凍結前の試料の状態を変化させることにより、繊維状、微粒子状、層状に加えてハニカム状のシリカゲルを作製できることが分かってきた(特許文献1、非特許文献1参照)。ここで、上記一方向凍結法は、材料合成の分野で鋳型法に分類される。この鋳型法とは、鋳型となる物質を型どるように固体成分を析出あるいは凝固させ、その後鋳型を除去することで鋳型が存在していた部分が空孔となった構造体を形成する手法である。そして、一方向凍結法では氷晶を鋳型として利用する。また、一方向凍結法では、通常、シリカ湿潤ゲルを前駆体として用いていた。
【0006】
しかし、前駆体であるシリカ湿潤ゲルをケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していたため、再現性の確保が困難であった。また、調製したゲルは調製後数時間で変質してしまうため、ゲル調製後から一方向凍結までの時間が少し変化しただけで得られる試料の構造は大きく変化してしまい、シリカゲルの構造を精密に制御することは現実的に困難であった。更に、前駆体であるシリカ湿潤ゲルの固体成分濃度を高くすることができないため、細孔径が4μm以上と大きく、ナノテクノロジの分野で求められるサブミクロンオーダー、100nm級の細孔径を合成することはできていなかった。
【特許文献1】特開2004−307294号公報
【非特許文献1】向井紳、西原洋知、田門肇、化学工学会第67年会要旨集、C217(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、略貫通し、かつ、細孔長/細孔径(以下、アスペクト比と記す場合がある)が10000近くあるいはそれ以上であり、細孔径が1μm以下であるチャネルが確保された略ハニカム形状のシリカゲル(ナノポーラスシリカ)およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していた前駆体としてのシリカ湿潤ゲルに代えて、原料固体成分の濃度を高くすることができるコロイダルシリカ水溶液を用い、かつ、冷却速度を適正化させることで、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上であり、略平行に貫通した細孔を有するナノポーラスシリカが製造できることを見出すに至った。更に、前駆体としてのコロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを適正量添加することで、コロイダルシリカ水溶液中における水分子の運動が抑制され、細孔径を100nm級まで小さくすることができるだけでなく、貫通孔に沿った長さとして数cm以上が可能となり、これによりアスペクト比が10000以上のナノポーラスシリカが製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、
ナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記冷媒への容器の挿入速度が150cm/h以上であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
冷却直前に上記容器を50℃以上に加熱された加温設備内を通過させ、その直後に上記容器を冷媒に挿入し急冷させることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
シリカ粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
細孔径が500nm〜1μmであることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加することを特徴とし、
請求項7係る発明は、
請求項6に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記親水性ポリマーの平均分子量が1000以上で、かつ、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項6または7に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記親水性ポリマーが、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項6〜8のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
細孔径が180nm〜500nmであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項10に係る発明は、
ナノポーラスシリカを前提とし、
請求項1〜9のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法により得られたことを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項10に記載の発明に係るナノポーラスシリカを前提とし、
細孔長/細孔径が10000以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載のナノポーラスシリカの製造方法によれば、
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去しているため、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上である略平行に貫通した細孔を有するナノポーラスシリカを製造できる効果を有している。
【0014】
更に、請求項6に記載のナノポーラスシリカの製造方法によれば、
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加していることから、添加された親水性ポリマーの作用によりコロイダルシリカ水溶液中における水分子の運動が抑制されて柱状氷晶の半径方向の成長が阻害されるため、細孔径を100nm級まで小さくすることができると共に、細孔長/細孔径が10000以上のナノポーラスシリカを製造できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明のナノポーラスシリカの製造方法は、上述したようにシリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴としている。
【0017】
上記製造方法において、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去する方法は、凍結ゲル化法と呼ばれる方法で、凍結濃縮効果を利用したゲル化法である。ゾルを凍結すると分相が生じ、水が凝固した氷の相と、コロイド粒子(本発明ではコロイダルシリカである)が濃縮された相、の2相に分かれる。この濃縮によるゲル化促進効果は非常に大きく、低温においても氷の間隙に集合したコロイド粒子同士は結合してゲル化する。このとき、氷がテンプレートの役割を果たし、解凍・乾燥後には凍結時の形状を維持した試料が得られるのである。
【0018】
凍結ゲル化法では氷がテンプレートとなるため、氷の成長を制御することで、本発明であれば、シリカゲルの形状や細孔構造および表面構造を制御できると考えられる。
【0019】
氷の成長を制御する方法としては、上述した一方向凍結法がある。これは、シリカゲルに方向性を持たせて凍結することで、氷を一方向に柱状に成長させて複数の氷柱を形成し、氷柱の間隙にシリカ粒子を集合させる方法である。具体的には、シリカゲルをチューブ(容器)に入れ、チューブを一定速度で冷媒に挿入する。冷媒に挿入された部分の氷が、挿入方向にそって柱状に成長する。その後、凍結乾燥をして氷晶の部分をとばすことにより、シリカからなる骨組みだけが残る。そして、その構造は、細孔がチューブに沿い、それぞれ略平行で、略ハニカム状に自己整列した状態で、チューブに平行に、サブミクロンからミクロン程度の内径を有する各細孔が5cm以上の長さをもつ構造をなしている。長さ/細孔径の比、つまりアスペクト比は10,000以上が得られる。
【0020】
1)コロイダルシリカ
本発明においては、ケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していた前駆体としてのシリカ湿潤ゲルに代えて、容易に入手可能な市販のコロイダルシリカを利用する。
【0021】
一方向凍結のステップでは、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液に対して1方向凍結を行う。シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液を1方向凝固すると、氷晶とシリカ成分の2相が生成し、これらがロッド状やラメラ状の組織を形成する。これは、2種類の金属の混合融液を1方向凝固した場合に類似の現象である。1方向凍結における組織形成に関しては、金属融液の1方向凝固における理論を一部適用できる。例えば、金属融液の1方向凝固で片方がロッドになる場合、ロッドの中心間距離は、凝固速度(V)と凝固面の温度勾配(R)の積(V・R)の逆数に比例することになっている。従って、ロッドのサイズもV・Rの逆数にほぼ比例する。
【0022】
上記コロイダルシリカ水溶液について、種々の凍結速度で試料を合成したところ、細孔サイズは凍結速度にほぼ比例することが分かった。すなわち、1方向凍結により形成される氷晶サイズは金属融液の理論を用いて予想可能であることが分かった。
【0023】
上記のことから、本発明のナノポーラスシリカの製造方法では、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液の冷媒への挿入速度を150cm/h以上とすることが好ましい。挿入速度が150cm/h未満であると、細孔径がナノサイズ(1μm以下)とはならなくなる場合があり好ましくない。挿入速度が250〜320cm/hである場合、ナノポーラスシリカを安定して製造することができより好ましい。
【0024】
また、使用するシリカ粒子のサイズにより、ナノポーラスシリカの細孔径が影響を受けるので、できるだけ粒径の小さいシリカ粒子を用いることが好ましい。具体的には、シリカ粒子の平均粒径を30nm以下にすることが好ましい。更に好ましくは、シリカ粒子の平均粒径を10nm以下にすることがよい。シリカ粒子の平均粒径が30nmよりも大きくなると、ポーラスシリカの細孔径が1μmよりも大きくなる場合がある。
【0025】
ここで、シリカ粒子の平均粒径を30nm以下にするとシリカ粒子が凝集しやすくなるためコロイダルシリカ水溶液中のシリカ粒子濃度を小さくしなければならなくなるが、より小さい細孔を得るためには、粒径の小さいシリカ粒子を高濃度で使用することが好ましい。シリカ粒子としては、例えば、リシン等のアミノ酸をシリカ粒子表面に吸着させ、そのゼータ電位を高め、凝集を生じにくくしたものを利用することが好ましい。
【0026】
2)凍結速度
本発明のナノポーラスシリカの製造方法は、上述したようにシリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造している。
【0027】
このとき、凍結速度を適正化することで、細孔径をより小さくできることが確認されている。図1に示すような従来の実験系で、シリカ湿潤ゲルが充填された容器を冷媒の中に急速に挿入することで凍結速度を制御し、それによる細孔径依存性を調べると、図2に示すように、温度差を大きくすること、挿入速度を速くすることで、細孔径を小さくできるという知見を得た。しかし、図1に示す従来の実験系で得られた試料の細孔径は小ものでも5〜10μm程度であり、従来よりも細孔径を小さくすることはこのままでは難しいことがわかった。そこで、十分な冷却速度が得られるように、コロイダルシリカ水溶液を冷媒中に挿入するためのチューブ(容器)の径を小さくすることが好ましい。例えば、図3に示す本発明の実験系では、シリカ粒子の平均粒径が20〜30nm、シリカ濃度が40重量%としたコロイダルシリカ水溶液を、内径1.5mmのポリエチレンチューブに充填しているが、これは好ましい実験系となっている。更に、冷媒である液体窒素の約1cm離れた上部に配置された90℃のオイルバスの中を上記ポリエチレンチューブが通るようにして、液体窒素との温度差を大きくとるように配置することも好ましい。
【0028】
このように、冷媒容積に対して、細いチューブ(容器)を使用すること、オイルバス等の加温設備内を冷却直前に通過する等の方策で冷媒からの拡散伝熱による冷却が十分高速で行われることが、得られるポーラスシリカの細孔径を小さくするためには好ましい。
【0029】
十分な量の冷媒中に挿入されるコロイダルシリカ水溶液の冷却速度、つまり挿入速度を10〜500cm/hの範囲で変化させた場合、最も高速な500cm/hとしたときに細孔径はおよそ500nm径まで小さくすることができることを確認している(図4のグラフ図と図5の写真図参照)。すなわち、ポーラスシリカの細孔径を500nm〜1μm程度とすることができるのである。尚、凍結速度のこれ以上の高速化は難しく、また、図4のグラフ図から、これ以上高速化しても細孔径を劇的に小さくするのは難しいことが分かる。一方、挿入速度が150cm/hよりも遅くなると、細孔径は大きくなり微細化の効果が十分でない場合がある。
【0030】
3)親水性ポリマーの添加効果
親水性ポリマーを用いることで水分子の運動を抑制することができ、柱状氷晶の半径方向の成長を阻害して細孔径を小さくすることができる。つまり、細孔径を小さくするために、原料のコロイダルシリカに親水性ポリマーを添加することで、水分子が長い距離を移動できにくいようにすれば、更に細い氷晶ができると考えられる。但し、加える親水性ポリマーは、凝固点降下を引き起こさない程度に分子量の大きいポリマーであることが好ましい。凝固点降下を生じさせる物質が共存すると、氷晶は不安定になりデンドライト(樹脂状)になってしまう場合があるからである。また、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことが好ましい。このような親水性ポリマーとしては、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることが好ましい。
【0031】
そして、上記親水性ポリマーとして、ポリエチレングリコール(PEG:平均分子量200)、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF:平均分子量3400)、デキストラン(平均分子量17500)を用いて試作した。
【0032】
上記親水性(水溶性)ポリマーを5重量%添加したコロイダルシリカ水溶液を、500cm/hの挿入速度で冷媒に挿入し、急冷させて細孔の形成を行ったところ、図6の写真図に示すような結果が得られた。この試験では、デキストランを用いた場合に細孔径が200nmとなり、良好であった。分子量が最も大きいデキストランを用いた場合により小さい細孔径が得られ、他の試験で分子量1296g/molのγ-シクロデキストリンを用いた場合に平均細孔径が340nm程度のナノポーラスシリカが得られていることから、添加する親水性ポリマーの分子量としては1000以上が好ましいことが分かる。
【0033】
上記親水性ポリマーがコロイダルシリカ水溶液に添加されたとき、シリカ粒子の粒径変化を調べてみると、デキストランを添加したときは、何も添加しないときと全く同じ粒径分布を示したが、他の親水性ポリマーの場合、平均粒径が大きくなり、細孔径も大きくなるという傾向を示していることが分かる(図7のグラフ図参照)。デキストラン以外の親水性ポリマーが適用された場合、シリカ粒子とシリカ粒子の間に親水性ポリマーが入り込み、2次粒子を形成して粒径が大きくなっていると推定される(図8の写真図参照)。そして、2次粒子間に形成された細孔のため細孔径が大きくなっていると思われる。以上の結果から、細孔径の小さなポーラスシリカを製造する場合、原料としてはできるだけ平均粒径が小さいだけでなく、水溶液中で2次粒子が形成されたとしてもこの2次粒子粒径も小さいことが、ポーラスシリカの細孔径を小さくするために好ましい。
【0034】
上記条件を調整して、細孔径が180nm〜500nmであるナノポーラスシリカが得られる。好ましい例としては、図7に示したデキストランを使用した例が挙げられ、この場合、1次粒径は10〜20nm程度であることが確認され、2次粒子粒径も小さいことから略100nmの細孔径を有するナノポーラスシリカが得られていることが分かる。
【0035】
4)ナノポーラスシリカ
上述した本発明の製造方法を用いることにより、細孔径が180nm〜500nmであるナノポーラスシリカを得ることができる。
【0036】
また、本発明のナノポーラスシリカは、細孔長/細孔径が10000以上とアスペクト比が大きいことも特徴としている。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0038】
粒径20〜30nmのコロイダルシリカ(日産化学工業製 商品名「スノーテックO-40」)を原料に用いてシリカ濃度40重量%の水溶液を作った。
【0039】
このコロイダルシリカ水溶液に5重量%のデキストランを混合した後、図3に示した実験系で、チューブ内径1.5mm、チューブ長110mmのポリエチレン製のチューブ(容器)に上記コロイダルシリカ水溶液を充填した。尚、上記チューブ(容器)に関し、図3の実験系で、液体窒素の液面1cm上に配置されかつ温度90℃に保たれたオイルジャケット内を通過させることにより大きな温度勾配を作ることを意図した。
【0040】
そして、500cm/hの速度で液体窒素の中に上記チューブを挿入して氷晶柱入りシリカを作った後、凍結乾燥して水成分をとばした。
【0041】
その後、空気雰囲気中で焼成(600℃で2時間)し、デキストランをとばしたところ、図9の電子顕微鏡写真図に示すように焼成前後でナノポーラスシリカの細孔構造は保たれており、細孔の長さは約5cm長であった。
【実施例2】
【0042】
実施例1と同様な実験系を利用した。
【0043】
そして、コロイダルシリカ水溶液内にデキストランを添加して、その濃度が0重量%(無添加)と、その濃度が0.1重量%、1重量%、5重量%、10重量%の4種類を準備し、ナノポーラスシリカにおける細孔径のデキストラン濃度依存性を調べた。
【0044】
その結果、デキストラン濃度が10重量%のとき、細孔径は最も小さく、190nm径を示した(図10のグラフ図参照)。
【実施例3】
【0045】
実施例1と同様な実験系を利用した。
【0046】
そして、デキストラン濃度が5重量%のコロイダルシリカ水溶液を充填したチューブ(容器)と、デキストランが無添加のコロイダルシリカ水溶液を充填したチューブを用いてナノポーラスシリカにおける細孔径の挿入速度依存性を調べた。
【0047】
その結果、図11のグラフ図に示すように、チューブの挿入速度(すなわち、凍結速度)が500nm/hのときに最も小さな細孔径であることが分かった。
【0048】
このとき、チューブすなわち容器の中心軸に平行な貫通細孔を有するシリカ(ナノポーラスシリカ)の長さは5cm長であったが、この長さは、冷媒である液体窒素へ上記チューブをどの程度挿入するかで決まるため、より深く侵入させればより長い柱は容易に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により得られるナノポーラスシリカは、細孔径が1μm以下、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上の略ハニカム形状を有しているため、触媒反応器やクロマトグラフィ等に多孔質材料として適用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来技術に係るナノポーラスシリカの製造方法の原理を示す説明図。
【図2】従来技術に係る製造方法の凍結移動速度並びに温度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図3】本発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を示す概略説明図。
【図4】本発明に係る製造方法の挿入速度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図5】本発明に係る製造方法で得られたナノポーラスシリカの細孔を電子顕微鏡により写した写真図。
【図6】原料であるコロイダルシリカ水溶液に添加された親水性(水溶性)ポリマーの影響を示す電子顕微鏡写真図。
【図7】親水性(水溶性)ポリマーをコロイダルシリカ水溶液(コロイド溶液)に添加したときの粒径分布を示すグラフ図。
【図8】原料であるコロイダルシリカ水溶液に親水性(水溶性)ポリマーが添加された場合のコロイド粒子を示したTEM観察図。
【図9】親水性(水溶性)ポリマーを除去するための焼成前後でナノポーラスシリカの細孔構造が保たれていることを示す電子顕微鏡写真図。
【図10】原料であるコロイダルシリカ水溶液に添加された親水性(水溶性)ポリマーとしてのデキストラン濃度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図11】親水性(水溶性)ポリマーとしてのデキストランが添加されたコロイダルシリカ水溶液の凍結速度(挿入速度)と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒反応器やクロマトグラフィ等に多孔質材料として用いられるナノポーラスシリカに係り、特に、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が大きなナノポーラスシリカとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、微細構造(細孔構造および表面構造)に起因する非常に大きな表面積を有することを特徴とした材料で、粒子形状やチューブ形状等の単純な形状に形成され、クロマトグラフィのカラムや空気清浄機のフィルタ等として利用されている。表面積は、微細構造によって大きく変化するため、微細構造の制御に関する技術が開発されている。
【0003】
ところで、ナノテクノロジの分野では、極低濃度サンプルの分析や蛋白質・遺伝子分析等を行うためにマイクロチップ上に反応器や分析器を設けたマイクロプラントが開発されている。そして、従来の充填型触媒反応器における表面積対体積比は、1×106〜5×108m2/m3となっている。マイクロプラントの反応器において、充填型触媒反応器と同程度の活性サイト数で反応速度を大きくするには、チャネル径を小さくしてチャネル数を増加させる必要がある。しかし、チャネル径を小さくすると圧力損失が大きくなるので、実際に使用可能なチャネル径としては10〜500μm程度が妥当といわれているが、それは細孔がつながっていないからである。もしも、各細孔が1つの孔として直線的につながっている場合は、圧力損は小さくなると考えられる。
【0004】
このような多孔質材料の作製技術としては、押し出し成型法、一方向凍結法、電解法、水熱合成法等がある。押し出し成型法は、自動車のマフラー等に使用されているハニカム担体を作製する方法で、粘土質の原料(一般的な材質としてはコージェライトが挙げられる)を押し出し成型し、焼成することでハニカム担体を作製する。この方法で作ることができる最小の細孔径(サイズ)は200μm程度である。また、上記一方向凍結法で合成できる多孔体の細孔サイズはおよそ4〜200μmであり、一体の構造体として得られることが最大の特徴となっている。更に、上記電解法では、一次元状細孔が膜面に対し垂直に整然と配列した細孔構造が得られる。細孔サイズは大体15〜200nmであるが、この方法では薄膜状のものしか作ることはできず、最大でも膜厚は100μm程度である。代表的なものとして、アルミニウム陽極酸化皮膜がある。また、上記水熱合成法で得られるゼオライトやメソポーラスシリカは直線状細孔を有しており、細孔サイズは大体0.3〜10nmとなっている。
【0005】
本発明者等は、これまでにゾルや湿潤ゲルを凍結した際に成長するミクロンオーダーの氷晶を鋳型とする一方向凍結法について検討を行ってきた。そして、凍結条件や凍結前の試料の状態を変化させることにより、繊維状、微粒子状、層状に加えてハニカム状のシリカゲルを作製できることが分かってきた(特許文献1、非特許文献1参照)。ここで、上記一方向凍結法は、材料合成の分野で鋳型法に分類される。この鋳型法とは、鋳型となる物質を型どるように固体成分を析出あるいは凝固させ、その後鋳型を除去することで鋳型が存在していた部分が空孔となった構造体を形成する手法である。そして、一方向凍結法では氷晶を鋳型として利用する。また、一方向凍結法では、通常、シリカ湿潤ゲルを前駆体として用いていた。
【0006】
しかし、前駆体であるシリカ湿潤ゲルをケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していたため、再現性の確保が困難であった。また、調製したゲルは調製後数時間で変質してしまうため、ゲル調製後から一方向凍結までの時間が少し変化しただけで得られる試料の構造は大きく変化してしまい、シリカゲルの構造を精密に制御することは現実的に困難であった。更に、前駆体であるシリカ湿潤ゲルの固体成分濃度を高くすることができないため、細孔径が4μm以上と大きく、ナノテクノロジの分野で求められるサブミクロンオーダー、100nm級の細孔径を合成することはできていなかった。
【特許文献1】特開2004−307294号公報
【非特許文献1】向井紳、西原洋知、田門肇、化学工学会第67年会要旨集、C217(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、略貫通し、かつ、細孔長/細孔径(以下、アスペクト比と記す場合がある)が10000近くあるいはそれ以上であり、細孔径が1μm以下であるチャネルが確保された略ハニカム形状のシリカゲル(ナノポーラスシリカ)およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していた前駆体としてのシリカ湿潤ゲルに代えて、原料固体成分の濃度を高くすることができるコロイダルシリカ水溶液を用い、かつ、冷却速度を適正化させることで、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上であり、略平行に貫通した細孔を有するナノポーラスシリカが製造できることを見出すに至った。更に、前駆体としてのコロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを適正量添加することで、コロイダルシリカ水溶液中における水分子の運動が抑制され、細孔径を100nm級まで小さくすることができるだけでなく、貫通孔に沿った長さとして数cm以上が可能となり、これによりアスペクト比が10000以上のナノポーラスシリカが製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、
ナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記冷媒への容器の挿入速度が150cm/h以上であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
冷却直前に上記容器を50℃以上に加熱された加温設備内を通過させ、その直後に上記容器を冷媒に挿入し急冷させることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
シリカ粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
細孔径が500nm〜1μmであることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加することを特徴とし、
請求項7係る発明は、
請求項6に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記親水性ポリマーの平均分子量が1000以上で、かつ、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項6または7に記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
上記親水性ポリマーが、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項6〜8のいずれかに記載の発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を前提とし、
細孔径が180nm〜500nmであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項10に係る発明は、
ナノポーラスシリカを前提とし、
請求項1〜9のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法により得られたことを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項10に記載の発明に係るナノポーラスシリカを前提とし、
細孔長/細孔径が10000以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載のナノポーラスシリカの製造方法によれば、
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去しているため、細孔径が小さく、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上である略平行に貫通した細孔を有するナノポーラスシリカを製造できる効果を有している。
【0014】
更に、請求項6に記載のナノポーラスシリカの製造方法によれば、
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加していることから、添加された親水性ポリマーの作用によりコロイダルシリカ水溶液中における水分子の運動が抑制されて柱状氷晶の半径方向の成長が阻害されるため、細孔径を100nm級まで小さくすることができると共に、細孔長/細孔径が10000以上のナノポーラスシリカを製造できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明のナノポーラスシリカの製造方法は、上述したようにシリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴としている。
【0017】
上記製造方法において、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去する方法は、凍結ゲル化法と呼ばれる方法で、凍結濃縮効果を利用したゲル化法である。ゾルを凍結すると分相が生じ、水が凝固した氷の相と、コロイド粒子(本発明ではコロイダルシリカである)が濃縮された相、の2相に分かれる。この濃縮によるゲル化促進効果は非常に大きく、低温においても氷の間隙に集合したコロイド粒子同士は結合してゲル化する。このとき、氷がテンプレートの役割を果たし、解凍・乾燥後には凍結時の形状を維持した試料が得られるのである。
【0018】
凍結ゲル化法では氷がテンプレートとなるため、氷の成長を制御することで、本発明であれば、シリカゲルの形状や細孔構造および表面構造を制御できると考えられる。
【0019】
氷の成長を制御する方法としては、上述した一方向凍結法がある。これは、シリカゲルに方向性を持たせて凍結することで、氷を一方向に柱状に成長させて複数の氷柱を形成し、氷柱の間隙にシリカ粒子を集合させる方法である。具体的には、シリカゲルをチューブ(容器)に入れ、チューブを一定速度で冷媒に挿入する。冷媒に挿入された部分の氷が、挿入方向にそって柱状に成長する。その後、凍結乾燥をして氷晶の部分をとばすことにより、シリカからなる骨組みだけが残る。そして、その構造は、細孔がチューブに沿い、それぞれ略平行で、略ハニカム状に自己整列した状態で、チューブに平行に、サブミクロンからミクロン程度の内径を有する各細孔が5cm以上の長さをもつ構造をなしている。長さ/細孔径の比、つまりアスペクト比は10,000以上が得られる。
【0020】
1)コロイダルシリカ
本発明においては、ケイ酸ナトリウムのイオン交換によって調製していた前駆体としてのシリカ湿潤ゲルに代えて、容易に入手可能な市販のコロイダルシリカを利用する。
【0021】
一方向凍結のステップでは、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液に対して1方向凍結を行う。シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液を1方向凝固すると、氷晶とシリカ成分の2相が生成し、これらがロッド状やラメラ状の組織を形成する。これは、2種類の金属の混合融液を1方向凝固した場合に類似の現象である。1方向凍結における組織形成に関しては、金属融液の1方向凝固における理論を一部適用できる。例えば、金属融液の1方向凝固で片方がロッドになる場合、ロッドの中心間距離は、凝固速度(V)と凝固面の温度勾配(R)の積(V・R)の逆数に比例することになっている。従って、ロッドのサイズもV・Rの逆数にほぼ比例する。
【0022】
上記コロイダルシリカ水溶液について、種々の凍結速度で試料を合成したところ、細孔サイズは凍結速度にほぼ比例することが分かった。すなわち、1方向凍結により形成される氷晶サイズは金属融液の理論を用いて予想可能であることが分かった。
【0023】
上記のことから、本発明のナノポーラスシリカの製造方法では、シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液の冷媒への挿入速度を150cm/h以上とすることが好ましい。挿入速度が150cm/h未満であると、細孔径がナノサイズ(1μm以下)とはならなくなる場合があり好ましくない。挿入速度が250〜320cm/hである場合、ナノポーラスシリカを安定して製造することができより好ましい。
【0024】
また、使用するシリカ粒子のサイズにより、ナノポーラスシリカの細孔径が影響を受けるので、できるだけ粒径の小さいシリカ粒子を用いることが好ましい。具体的には、シリカ粒子の平均粒径を30nm以下にすることが好ましい。更に好ましくは、シリカ粒子の平均粒径を10nm以下にすることがよい。シリカ粒子の平均粒径が30nmよりも大きくなると、ポーラスシリカの細孔径が1μmよりも大きくなる場合がある。
【0025】
ここで、シリカ粒子の平均粒径を30nm以下にするとシリカ粒子が凝集しやすくなるためコロイダルシリカ水溶液中のシリカ粒子濃度を小さくしなければならなくなるが、より小さい細孔を得るためには、粒径の小さいシリカ粒子を高濃度で使用することが好ましい。シリカ粒子としては、例えば、リシン等のアミノ酸をシリカ粒子表面に吸着させ、そのゼータ電位を高め、凝集を生じにくくしたものを利用することが好ましい。
【0026】
2)凍結速度
本発明のナノポーラスシリカの製造方法は、上述したようにシリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後、水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造している。
【0027】
このとき、凍結速度を適正化することで、細孔径をより小さくできることが確認されている。図1に示すような従来の実験系で、シリカ湿潤ゲルが充填された容器を冷媒の中に急速に挿入することで凍結速度を制御し、それによる細孔径依存性を調べると、図2に示すように、温度差を大きくすること、挿入速度を速くすることで、細孔径を小さくできるという知見を得た。しかし、図1に示す従来の実験系で得られた試料の細孔径は小ものでも5〜10μm程度であり、従来よりも細孔径を小さくすることはこのままでは難しいことがわかった。そこで、十分な冷却速度が得られるように、コロイダルシリカ水溶液を冷媒中に挿入するためのチューブ(容器)の径を小さくすることが好ましい。例えば、図3に示す本発明の実験系では、シリカ粒子の平均粒径が20〜30nm、シリカ濃度が40重量%としたコロイダルシリカ水溶液を、内径1.5mmのポリエチレンチューブに充填しているが、これは好ましい実験系となっている。更に、冷媒である液体窒素の約1cm離れた上部に配置された90℃のオイルバスの中を上記ポリエチレンチューブが通るようにして、液体窒素との温度差を大きくとるように配置することも好ましい。
【0028】
このように、冷媒容積に対して、細いチューブ(容器)を使用すること、オイルバス等の加温設備内を冷却直前に通過する等の方策で冷媒からの拡散伝熱による冷却が十分高速で行われることが、得られるポーラスシリカの細孔径を小さくするためには好ましい。
【0029】
十分な量の冷媒中に挿入されるコロイダルシリカ水溶液の冷却速度、つまり挿入速度を10〜500cm/hの範囲で変化させた場合、最も高速な500cm/hとしたときに細孔径はおよそ500nm径まで小さくすることができることを確認している(図4のグラフ図と図5の写真図参照)。すなわち、ポーラスシリカの細孔径を500nm〜1μm程度とすることができるのである。尚、凍結速度のこれ以上の高速化は難しく、また、図4のグラフ図から、これ以上高速化しても細孔径を劇的に小さくするのは難しいことが分かる。一方、挿入速度が150cm/hよりも遅くなると、細孔径は大きくなり微細化の効果が十分でない場合がある。
【0030】
3)親水性ポリマーの添加効果
親水性ポリマーを用いることで水分子の運動を抑制することができ、柱状氷晶の半径方向の成長を阻害して細孔径を小さくすることができる。つまり、細孔径を小さくするために、原料のコロイダルシリカに親水性ポリマーを添加することで、水分子が長い距離を移動できにくいようにすれば、更に細い氷晶ができると考えられる。但し、加える親水性ポリマーは、凝固点降下を引き起こさない程度に分子量の大きいポリマーであることが好ましい。凝固点降下を生じさせる物質が共存すると、氷晶は不安定になりデンドライト(樹脂状)になってしまう場合があるからである。また、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことが好ましい。このような親水性ポリマーとしては、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることが好ましい。
【0031】
そして、上記親水性ポリマーとして、ポリエチレングリコール(PEG:平均分子量200)、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF:平均分子量3400)、デキストラン(平均分子量17500)を用いて試作した。
【0032】
上記親水性(水溶性)ポリマーを5重量%添加したコロイダルシリカ水溶液を、500cm/hの挿入速度で冷媒に挿入し、急冷させて細孔の形成を行ったところ、図6の写真図に示すような結果が得られた。この試験では、デキストランを用いた場合に細孔径が200nmとなり、良好であった。分子量が最も大きいデキストランを用いた場合により小さい細孔径が得られ、他の試験で分子量1296g/molのγ-シクロデキストリンを用いた場合に平均細孔径が340nm程度のナノポーラスシリカが得られていることから、添加する親水性ポリマーの分子量としては1000以上が好ましいことが分かる。
【0033】
上記親水性ポリマーがコロイダルシリカ水溶液に添加されたとき、シリカ粒子の粒径変化を調べてみると、デキストランを添加したときは、何も添加しないときと全く同じ粒径分布を示したが、他の親水性ポリマーの場合、平均粒径が大きくなり、細孔径も大きくなるという傾向を示していることが分かる(図7のグラフ図参照)。デキストラン以外の親水性ポリマーが適用された場合、シリカ粒子とシリカ粒子の間に親水性ポリマーが入り込み、2次粒子を形成して粒径が大きくなっていると推定される(図8の写真図参照)。そして、2次粒子間に形成された細孔のため細孔径が大きくなっていると思われる。以上の結果から、細孔径の小さなポーラスシリカを製造する場合、原料としてはできるだけ平均粒径が小さいだけでなく、水溶液中で2次粒子が形成されたとしてもこの2次粒子粒径も小さいことが、ポーラスシリカの細孔径を小さくするために好ましい。
【0034】
上記条件を調整して、細孔径が180nm〜500nmであるナノポーラスシリカが得られる。好ましい例としては、図7に示したデキストランを使用した例が挙げられ、この場合、1次粒径は10〜20nm程度であることが確認され、2次粒子粒径も小さいことから略100nmの細孔径を有するナノポーラスシリカが得られていることが分かる。
【0035】
4)ナノポーラスシリカ
上述した本発明の製造方法を用いることにより、細孔径が180nm〜500nmであるナノポーラスシリカを得ることができる。
【0036】
また、本発明のナノポーラスシリカは、細孔長/細孔径が10000以上とアスペクト比が大きいことも特徴としている。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0038】
粒径20〜30nmのコロイダルシリカ(日産化学工業製 商品名「スノーテックO-40」)を原料に用いてシリカ濃度40重量%の水溶液を作った。
【0039】
このコロイダルシリカ水溶液に5重量%のデキストランを混合した後、図3に示した実験系で、チューブ内径1.5mm、チューブ長110mmのポリエチレン製のチューブ(容器)に上記コロイダルシリカ水溶液を充填した。尚、上記チューブ(容器)に関し、図3の実験系で、液体窒素の液面1cm上に配置されかつ温度90℃に保たれたオイルジャケット内を通過させることにより大きな温度勾配を作ることを意図した。
【0040】
そして、500cm/hの速度で液体窒素の中に上記チューブを挿入して氷晶柱入りシリカを作った後、凍結乾燥して水成分をとばした。
【0041】
その後、空気雰囲気中で焼成(600℃で2時間)し、デキストランをとばしたところ、図9の電子顕微鏡写真図に示すように焼成前後でナノポーラスシリカの細孔構造は保たれており、細孔の長さは約5cm長であった。
【実施例2】
【0042】
実施例1と同様な実験系を利用した。
【0043】
そして、コロイダルシリカ水溶液内にデキストランを添加して、その濃度が0重量%(無添加)と、その濃度が0.1重量%、1重量%、5重量%、10重量%の4種類を準備し、ナノポーラスシリカにおける細孔径のデキストラン濃度依存性を調べた。
【0044】
その結果、デキストラン濃度が10重量%のとき、細孔径は最も小さく、190nm径を示した(図10のグラフ図参照)。
【実施例3】
【0045】
実施例1と同様な実験系を利用した。
【0046】
そして、デキストラン濃度が5重量%のコロイダルシリカ水溶液を充填したチューブ(容器)と、デキストランが無添加のコロイダルシリカ水溶液を充填したチューブを用いてナノポーラスシリカにおける細孔径の挿入速度依存性を調べた。
【0047】
その結果、図11のグラフ図に示すように、チューブの挿入速度(すなわち、凍結速度)が500nm/hのときに最も小さな細孔径であることが分かった。
【0048】
このとき、チューブすなわち容器の中心軸に平行な貫通細孔を有するシリカ(ナノポーラスシリカ)の長さは5cm長であったが、この長さは、冷媒である液体窒素へ上記チューブをどの程度挿入するかで決まるため、より深く侵入させればより長い柱は容易に得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により得られるナノポーラスシリカは、細孔径が1μm以下、細孔長/細孔径が10000近くあるいはそれ以上の略ハニカム形状を有しているため、触媒反応器やクロマトグラフィ等に多孔質材料として適用される産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来技術に係るナノポーラスシリカの製造方法の原理を示す説明図。
【図2】従来技術に係る製造方法の凍結移動速度並びに温度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図3】本発明に係るナノポーラスシリカの製造方法を示す概略説明図。
【図4】本発明に係る製造方法の挿入速度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図5】本発明に係る製造方法で得られたナノポーラスシリカの細孔を電子顕微鏡により写した写真図。
【図6】原料であるコロイダルシリカ水溶液に添加された親水性(水溶性)ポリマーの影響を示す電子顕微鏡写真図。
【図7】親水性(水溶性)ポリマーをコロイダルシリカ水溶液(コロイド溶液)に添加したときの粒径分布を示すグラフ図。
【図8】原料であるコロイダルシリカ水溶液に親水性(水溶性)ポリマーが添加された場合のコロイド粒子を示したTEM観察図。
【図9】親水性(水溶性)ポリマーを除去するための焼成前後でナノポーラスシリカの細孔構造が保たれていることを示す電子顕微鏡写真図。
【図10】原料であるコロイダルシリカ水溶液に添加された親水性(水溶性)ポリマーとしてのデキストラン濃度と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【図11】親水性(水溶性)ポリマーとしてのデキストランが添加されたコロイダルシリカ水溶液の凍結速度(挿入速度)と、得られるナノポーラスシリカの細孔径との関係を示すグラフ図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とするナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項2】
上記冷媒への容器の挿入速度が、150cm/h以上であることを特徴とする請求項1に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項3】
冷却直前に上記容器を50℃以上に加熱された加温設備内を通過させ、その直後に上記容器を冷媒に挿入し急冷させることを特徴とする請求項1または2に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項4】
シリカ粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項5】
細孔径が500nm〜1μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項6】
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項7】
上記親水性ポリマーの平均分子量が1000以上で、かつ、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことを特徴とする請求項6に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項8】
上記親水性ポリマーが、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることを特徴とする請求項6または7に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項9】
細孔径が180nm〜500nmであることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法により得られたことを特徴とするナノポーラスシリカ。
【請求項11】
細孔長/細孔径が10000以上であることを特徴とする請求項10に記載のナノポーラスシリカ。
【請求項1】
シリカ粒子を含むコロイダルシリカ水溶液が充填された容器を冷媒に挿入し、急冷させて上記コロイダルシリカ水溶液中の水分を1方向へ細く柱状に凍結成長させ、その後水分を乾燥除去して、シリカ成分から成りかつ互いに略平行に略貫通した細孔を有する略ハニカム構造のナノポーラスシリカを製造することを特徴とするナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項2】
上記冷媒への容器の挿入速度が、150cm/h以上であることを特徴とする請求項1に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項3】
冷却直前に上記容器を50℃以上に加熱された加温設備内を通過させ、その直後に上記容器を冷媒に挿入し急冷させることを特徴とする請求項1または2に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項4】
シリカ粒子の平均粒径が30nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項5】
細孔径が500nm〜1μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項6】
上記コロイダルシリカ水溶液中に親水性ポリマーを添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項7】
上記親水性ポリマーの平均分子量が1000以上で、かつ、上記親水性ポリマーはコロイダルシリカを凝集させないことを特徴とする請求項6に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項8】
上記親水性ポリマーが、γ−シクロデキストリン、デキストラン、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合体アンモニウム塩(NSF)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれた1種であることを特徴とする請求項6または7に記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項9】
細孔径が180nm〜500nmであることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノポーラスシリカの製造方法により得られたことを特徴とするナノポーラスシリカ。
【請求項11】
細孔長/細孔径が10000以上であることを特徴とする請求項10に記載のナノポーラスシリカ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−46341(P2009−46341A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212778(P2007−212778)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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