説明

ナノメートル成層化合物を含む熱可塑性材料

本発明は、熱可塑性マトリックスと、少なくとも100以下の縦横比を有するナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子とを含む材料に関するものである。上記材料は、例えば、フィルム、シート、パイプ、中空体若しくは中実体、ボトル又はタンクのようなプラスチック部品の製造のために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性マトリックスと、少なくとも、100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子とを含む材料に関する。これらの材料は、特に、例えば、フィルム、シート、パイプ、中空体若しくは中実体、ボトル、導管又はタンクのようなプラスチック部品の製造のために使用できる。
【背景技術】
【0002】
先行技術
先行技術から、特に、気体若しくは液体に対する障壁特性又は機械的性質のような、ある種の熱可塑性マトリックスの特性を改変させるために充填剤を使用することが知られている。
【0003】
透過性を減少させるために、特に、熱可塑性マトリックスに成層ナノ充填剤を添加することが可能である。このような透過性の減少は、該成層化合物によってもたらされる「ねじれ」の効果に起因する。これは、これらの気体又は液体が、連続する層内に配置されるこれらの障害物のため、非常に長い経路に従わなければならないからである。理論モデルは、この障害効果を縦横比、即ち、長さ/厚さ比が増大するときにより顕著になってくるものとみなしている。
【0004】
今日最も広く研究されている成層ナノ充填剤は、スメクタイト型、主としてモンモリロナイトのクレーである。その使用の困難さは、まず第一に、重合体中でこれらの個々の層が多かれ少なかれ広範囲にわたって分離、即ち剥離すること及び該重合体中のそれらの分布にある。この剥離を助成するために、それらの結晶を、該層の負電荷を補うであろう有機陽イオン、一般には第四アンモニウム陽イオンで膨張させることからなる「インターカレーション」技術が使用される。これらの結晶質アルミノ珪酸塩は、熱可塑性マトリックス中で剥離すると、個々の層状体の形態で存在し、そしてその縦横比はほぼ500以上の値に達する。
【0005】
従って、現在まで、先行技術においては、剥離された形態の成層ナノ充填剤を最終マトリックスに使用して該材料の障壁特性を向上させることが行われてきた。しかしながら、インターカレーション処理は高価であり、しかも得られる分散体は熱可塑性マトリックスに使用するのが困難である。
【0006】
従って、上記不利益を回避しつつ、熱可塑性マトリックスにとって効果的なレベルの不透過性を得ることを可能にする充填剤を開発することが望ましい。
【0007】
或いは、熱可塑性マトリックスの機械的性質を向上させるために、例えば、ガラス繊維又はタルクのような充填剤を添加することもできる。しかしながら、必要な機械的性質を得るためにかなりの割合でこのタイプの充填剤を添加すると、得られる材料の密度が増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、機械的性質に関して正確なレベルを保持しつつ少量でマトリックスに添加できる充填剤を実証する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、全く驚くべき方法で、非剥離ナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子を含む熱可塑性マトリックスを主体とする材料が、液体及び気体に対して良好な障壁特性及び/又は、例えば、良好なモジュラス/衝撃の妥協のような良好な機械的性質及び/又は高温での取り扱いと使用を可能にする温度安定性を示すことを実証した。
【0010】
本発明に従う粒子は、熱可塑性マトリックス中にナノメートル成層化合物の形態、即ち、いくつかの層の積層体の形態で存在する。
【0011】
熱可塑性マトリックスにおけるナノメートル成層化合物の使用は、該熱可塑性マトリックスのレオロジーを弱く改変させるという利点を示す。このようにして得られた熱可塑性組成物は、これらの重合体の転化のために産業界において要求される流動性及び機械的特性を有する。
【0012】
用語「気体及び液体に対する障壁特性を有する組成物」とは、流体に対して減少した透過性を示す組成物を意味するものとする。本発明によれば、この流体は、気体又は液体であることができる。特に、該組成物が低い透過性を示すガスの中では、酸素、二酸化炭素及び水蒸気が挙げられる。該組成物が不透過性である液体としては、無極性溶媒、特に、トルエン若しくはイソオクタンのような代表的なガソリン溶媒及び/又は水及びアルコールのような極性溶媒が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも1種の熱可塑性マトリックスと、燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子とを含む組成物であって、該組成物中で、該粒子の少なくとも50%(数)が100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態であるものに関する。
【0014】
用語「ナノメートル成層化合物」とは、およそ数ナノメートルの厚さを示すいくつかの層の積層体を意味するものとする。
【0015】
本発明に従うナノメートル成層化合物は、インターカレートされていなくてよく、又は膨張剤ともよばれるインターカレーション剤によってインターカレートされていてもよい。
【0016】
用語「縦横比」とは、ナノメートル成層化合物の最も大きな寸法(一般には長さ)対厚さの比を意味するものとする。好ましくは、ナノメートル成層化合物の粒子は、50以下、より好ましくは10以下、具体的には5以下の縦横比を示す。好ましくは、ナノメートル成層化合物の粒子は、1以上の縦横比を示す。
【0017】
用語「ナノメートル化合物」とは、本発明の意味するところでは、1μm以下の直径を有する化合物を意味するものとする。一般に、本発明のナノメートル成層化合物の粒子は、50〜900nm、好ましくは100〜600nmの長さ、100〜500nmの幅及び50〜200nmの厚さを示す(該長さは、最も長い寸法を表す。)。このナノメートル成層化合物の様々な寸法は、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査電子顕微鏡(SEM)によって測定できる。
【0018】
一般に、ナノメートル成層化合物の層間の間隔は、5〜15Å、好ましくは7〜10Åである。この層間の間隔は、例えば、X線回折のような結晶学的分析技術によって測定できる。
【0019】
本発明によれば、粒子の50%(数)が、100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態にある。その他の粒子は、特に、例えば、ナノメートル成層化合物の剥離によって得られる個々の層状体の形態にある。
【0020】
好ましくは、粒子の少なくとも80%(数)が100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態にある。より好ましくは、粒子のほぼ100%(数)が100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態にある。
【0021】
本発明に従う粒子は、随意として、熱可塑性マトリックス中で集合体及び/又は凝集体の形態で共に集合し得る。これらの集合体及び/又は凝集体は、特に、1ミクロン以上の寸法を示す。
【0022】
また、本発明のために、例えば、一水和又は二水和化合物のような燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする水和ナノメートル成層化合物を使用することもできる。
【0023】
好ましくは、本発明によれば、式Zr(HPOのαZrP又は式Zr(HPO(HPO)のγZrPのような燐酸ジルコニウムが使用される。
【0024】
また、本発明によれば、燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子を、熱可塑性マトリックスへの導入前に、有機化合物、特に、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシランのようなアミノシラン化合物又は、例えば、ペンチルアミンのようなアルキルアミン化合物で処理することも可能である。
【0025】
本発明に従う組成物は、該組成物の総重量に対して、本発明に従う粒子を0.01〜30重量%、好ましくは10重量%以下、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、具体的には0.3〜3重量%、さらに具体的には1〜3重量%含むことができる。
【0026】
本発明の組成物は、主成分として、少なくとも1種の熱可塑性重合体を含む熱可塑性マトリックスを含む。熱可塑性重合体は、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアルキレンオキシド及びこれらのブレンド並びにこれらの(共)重合体をベースとする共重合体よりなる群から選択される。
【0027】
本発明の好ましい重合体としては、半結晶質又は非晶質ポリアミド及びコポリアミド、例えば、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド及びより一般的には飽和脂肪族若しくは芳香族の二酸と飽和脂肪族若しくは芳香族第一ジアミンとの重縮合によって得られる線状ポリアミド、ラクタム若しくはアミノ酸の縮合によって得られるポリアミド又はこれらの様々な単量体の混合物の縮合によって得られる線状ポリアミドが挙げられる。より具体的には、これらのコポリアミドは、例えば、ポリヘキサメチレンアジパミド、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸から得られるポリフタルアミド或いはアジピン酸と、ヘキサメチレンジアミンと、カプロラクタムとから得られるコポリアミドであることができる。本発明の好ましい具体例によれば、熱可塑性マトリックスは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12及びポリ(m−キシリレンジアミン)(MXD6)並びにそれらのブレンド並びにこれらのポリアミドをベースとする共重合体よりなる群から選択されるポリアミドである。
【0028】
また、その他の重合体材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン又はポリメチルペンテンのようなポリオレフィン並びにそれらのブレンド及び/又は共重合体も挙げられる。特に、アタクチック、シンジオタクチック又はイソタクチック型であることができるポリプロピレンが挙げられる。このポリプロピレンは、特に、ポリプロピレン共重合体を得るように、プロピレンと随意としてエチレンとを重合させることによって得られ得る。好ましくは、イソタクチックポリプロピレン単独重合体が使用される。
【0029】
本発明に従う組成物は、さらに、随意として、個々の層状体を得るために層を互いに完全に分離させるように、粒子の層間に挿入されるインターカレーション剤及び/又は該粒子の層を剥離することができる剥離剤を含むナノメートル成層化合物の粒子を含むことができる。これらの粒子は、燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素或いは任意のその他のタイプの化合物、例えば、モンモリロナイト、ラポナイト、ルセンチル(lucentile)又はサポナイトのようなスメクタイト型の天然又は合成クレー、成層シリカ、成層水酸化物、針状燐酸塩、ヒドロタルサイト、アパタイト及びゼオライト重合体をベースとするナノメートル成層化合物であることができる。
【0030】
インターカレーション剤及び/又は剥離剤は、NaOH、KOH、LiOH、NH、n−ブチルアミンのようなモノアミン、ヘキサメチレンジアミン又は2−メチルペンタメチレンジアミンのようなジアミン、アミノカプロン酸及びアミノウンデカン酸のようなアミノ酸並びにトリエタノールアミンのようなアミノアルコールよりなる群から選択できる。
【0031】
また、本発明の組成物は、例えば、安定剤、核剤、可塑剤、難燃剤、例えばHALS型の安定剤、酸化防止剤、UV安定剤、着色剤、蛍光漂白剤、滑剤、ブロッキング防止剤、酸化チタンのような艶消し剤、加工助剤、エラストマー若しくはエラストマー組成物、例えば、随意としてグラフト(マレイン酸無水物、グリシジル)によって官能化されたエチレン−プロピレン共重合体、オレフィンとアクリル酸との共重合体若しくはメタクリレートとブタジエンとスチレンとの共重合体、付着促進剤、例えば、ポリアミドへの付着を可能にするマレイン酸無水物がグラフトされたポリオレフィン、分散剤、掃去剤若しくは活性酸素吸収剤及び/又は触媒のような、熱可塑性マトリックスを主体とする組成物に一般的に使用されるその他の添加剤を含むこともできる。
【0032】
本発明の組成物は、無機補強添加剤、例えば、アルミノ珪酸塩クレー(インターカレートされたもの若しくはインターカレートされていないもの又は剥離されたもの若しくは剥離されていないもの)、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、フルオロマイカ、燐酸カルシウム及びその誘導体又はガラス繊維、アラミド繊維及び炭素繊維のような繊維補強剤を含むこともできる。
【0033】
熱可塑性組成物への化合物の分散体を得ることを可能にする当業者に知られている任意の方法を使用して本発明に従う組成物を製造することができる。
【0034】
第1の方法は、少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子と、熱可塑性マトリックスの単量体及び/又はオリゴマーとを、重合工程の前又はその間に混合させ、そしてその後重合させることからなる。この具体例において使用される重合方法は、通常の方法である。重合は、中程度の進行度で中断でき及び/又は既知の縮合後技術によって固体状態にまで続行できる。
【0035】
別の方法は、少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子と、特に溶融状の熱可塑性マトリックスとを混合させ、そして随意として、良好な分散体を生じさせるために、該混合物を、例えば押出装置内で剪断に付すことからなる。これを行うために、ZSK30型の二軸押出器を使用し、これに溶融状態の重合体と、例えば粉末状の本発明に従うナノメートル成層化合物とを導入する。該粉末は、本発明に従う粒子の集合体及び/又は凝集体を含むことが可能である。
【0036】
別の方法は、特に溶融状の熱可塑性マトリックスと、例えば、少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子並びに熱可塑性マトリックスを含む濃縮混合物のような少なくとも1種の組成物とを混合させることからなるが、ここで、該組成物は、上記の方法のうちの一つに従って製造できる。
【0037】
ナノメートル成層化合物が熱可塑性重合体の合成用媒体に導入できる又は溶融熱可塑性重合体に導入できる態様に制限はない。ポリアミドベースの障壁材料に関して、有利な具体例は、該重合用媒体に、該ナノメートル成層化合物の水分散体を導入することからなる。ポリプロピレンベースの材料に関して、有利な具体例は、好ましくは溶融状態のポリプロピレンマトリックスと、ナノメートル成層化合物から形成された粉末とを混合させることからなる。
【0038】
本発明に従う方法で使用されるナノメートル成層化合物は、ナノインターカレート及び/又はインターカレートされ得る。全ての場合において、インターカレーション剤及び/又は剥離剤のナノメートル成層化合物への添加は、上に定義されるような本発明に従う組成物を得るように、該ナノメートル成層化合物の完全な剥離を生じさせてはならない。
【0039】
また、本発明は、本発明の組成物を任意の熱可塑性転化技術、例えば、押出(例えばシート及びフィルムの押出若しくは押出吹込成形)によって、成形(例えば、圧縮成形、熱成形若しくは回転成形)によって、又は射出(例えば、射出成形若しくは射出吹込成形)によって成形することにより得られる物品に関するものでもある。
【0040】
本発明の好ましい物品は、特に、部品、フィルム、シート、パイプ、中空体若しくは中実体、ボトル、導管及び/又はタンクである。これらの物品は、例えば、燃料用導管又はタンク、噴射セット、ガソリンと接触するようになる部品、例えばポンプ部品のような自動車産業、容器、包装、例えば固形物又は液体食品用の包装、化粧品用の包装、ボトル及びフィルムのような様々な分野で使用できる。また、これらの物品は、出発原料、例えば、充填剤としてガラス繊維を含むポリエステルベースの熱硬化性複合材の包装、ビチューメンシート又は転化操作中の保護用若しくは分離用フィルムの成形、例えば真空成形のためにも使用できる。
【0041】
本発明に従う組成物は、複合物品の製造のために、熱可塑性材料のような別の基材と付着又は結合できる。この付着又は結合は、同時押出、圧延、被覆、オーバー成形、同時射出成形及び多層射出吹込成形のための既知の方法によって実施できる。多層構造は、本発明に従う材料の1つ以上の層から形成できる。これらの層は、同時押出タイ層を介して、1種以上の熱可塑性重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル又はポリエチレンテレフタレートの1種以上の他の層と結合できる。
【0042】
このようにして得られたフィルム又はシートは、熱可塑性材料の転化のための既知の技術に従って一軸又は二軸で押し出され得る。このシート又はパネルは、これらに所望の形状を与えるために切断、熱成形及び/又はプレスできる。
【0043】
用語「及び/又は」には、「及び」、「又は」という意味と、この用語に関わる要素のその他の見込まれる全ての組み合わせが含まれる。
【0044】
本発明のその他の詳細又は利点は、単なる例示として与えられる以下の実施例に照らせば、より明らかになるであろう。
【実施例】
【0045】
実験の部
例1:結晶質燐酸ジルコニウムをベースとする化合物の製造
次の反応体を使用する:
・塩酸(36%、d=1.19)
・燐酸(85%、d=1.695)
・脱イオン水
・ZrOとして32.8%のオキシ塩化ジルコニウム(粉末状)。
工程(a):沈殿
ZrOとして2.1モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液を予め製造しておく。
次のものを撹拌1L反応器に室温で添加する:
・塩酸 50mL
・燐酸 50mL
・脱イオン水 150mL。
この混合物を撹拌した後に、2.1モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液の140mLを5.7mL/分の流速で連続的に添加する。
オキシ塩化ジルコニウム溶液の添加の終了後1時間にわたって撹拌を維持する。
この水性母液を除去した後に、沈殿物を1200mLの20g/LのHPO、次いで脱イオン水で4500回転/分での遠心分離によって、6.5mSの上澄み液の伝導率が達成されるまで洗浄する。燐酸ジルコニウムをベースとするケークが得られる。
工程(b):結晶化
このケークを1リットルの10M燐酸水溶液に分散させ、そしてこのようにして得られた分散体を2リットル反応器に移し、次いで115℃に加熱する。この温度を5時間維持する。得られた分散体を脱イオン水で遠心分離によって1mS以下の上澄み液の伝導率が達成されるまで洗浄する。結晶質燐酸ジルコニウムをベースとするケークが得られる。最後の遠心分離から得られたケークを、20%の範囲内の固形分を与える溶液を得るように、水に再分散させる。この分散液のpHは1〜2である。
燐酸ジルコニウムをベースとする結晶化合物の分散体が得られる。その特性は次の通りである:
・これらの粒子の寸法及び形態:走査電子顕微鏡(TEM)を使用した分析から、成層構造であってその層が100〜200nmの寸法を示すものの生成が実証された。これらの粒子は、実質的に平行な層の積層体から構成され、該層に対して垂直な方向に沿う積層体の厚さは、50〜200nmである。
・XRD分析から、結晶相Zr(HPO・1HO(αZrP)の生成が実証された。
・固形分:18.9重量%、
・pH:1.8、
・伝導率:8mS。
【0046】
例2:有機塩基がインターカレートしたαZrPの製造方法(工程(c))
例1から得られた生成物をヘキサメチレンジアミン(HMD)の添加によって中和する:70%のHMD水溶液を5のpHが得られるまで分散体に添加する。このようにして得られた分散体をUltraturraxを使用して均質化する。最終固形分を脱イオン水の添加によって調節する(固形分:15重量%)。得られた生成物をZrPi(HMD)と呼ぶ。
【0047】
例3:ポリアミドベースの材料
200mL/gの粘度数(蟻酸中で測定される(基準法ISO EN307))を有するナイロン6を慣用法に従ってカプロラクタムから合成する。このナイロン6を材料Aと呼ぶ。得られた顆粒を顆粒Aと呼ぶ。
また、200mL/gの粘度数(蟻酸中で測定される(基準法ISO EN307))を有するナイロン6を慣用法に従って重合媒体に例2のZrPi(HMD)又は例1のZrPのいずれかを含む水性分散体を導入しつつカプロラクタムから合成する。しかして、該ポリアミドの総重量に対して1重量%又は2重量%のZrP又はZrPi(HMD)を導入する。
重合後に、これらの様々な重合体を顆粒に形成する。顆粒Bは例1のZrPを含む。顆粒Cは例2のZrPi(HMD)を含む。これらの顆粒を洗浄して残留カプロラクタムを除去する。この目的のために、これらの顆粒を沸騰水に2回にわたって8時間浸漬し、次いで110℃で16時間にわたって弱い減圧下(<0.5mbar)で乾燥させる。
顆粒Bの走査電子顕微鏡による分析から、ポリアミドの重合中に導入されたZrPがポリアミドマトリックス中でナノメートル成層化合物(層板)の形態を保持していることが示された。従って、重合中のZrPの剥離は生じなかった。該ナノメートル成層化合物の厚さ及び長さの測定から算出される縦横比は3である。
顆粒Cの走査電子顕微鏡による分析から、ポリアミドの重合中に導入されたZrPi(HMD)がポリアミドマトリックス中で個々のZrP層板の形態でZrPの完全な剥離を生じさせることが示された。該層板の厚さ及び長さの測定値から算出される縦横比は250である。
試料を顆粒A、B又はCから製造する。これらの試料は、10mmの幅、80mmの長さ及び4mmの厚さを有する。これらの試料を28℃及び0%相対湿度で状態調整する。
これらの試料について以下に示す測定方法に従って様々な試験を実施して材料の機械的性質を決定する:
・基準法ISO75に従って、1.81N/mmの負荷の下で測定される加熱撓み温度(HDT)、
・60mmの支持体間間隔、824gのハンマー重量(2ジュールのエネルギー)及び160°の出発角度の衝撃振り子を使用して測定されるモジュラス。
実施された測定を以下の表に与える。
【0048】
【表1】

【0049】
重合体を一晩110℃で0.267mbar下で乾燥させた後に、基準法ISO133に従ってメルトフローインデックスを測定する。使用した粘度計は2mmのダイを有するGottfert MPSEである。このMFIはg/10分で表される。測定を275℃で2160gの負荷を使用して実施する。
【0050】
【表2】

【0051】
例4:プラスチックパイプの製造
例3から得られた顆粒A、B又はCを商標Mac.Giが付されたTR35/24GM型の装置での押出によって成形する。製造されたパイプは、1mmの厚さ(8mmの外径、6mmの内径)を有する(これらのパイプの直径及び厚さは、透過性試験を実施する前に測定される)。
製造されたパイプは、3つの同一の層(内部層、外部層及び中間層)からなる。
この処理加工の特性は次の通りである(これらの値は、それぞれ、内部層、外部層及び中央層について与える):
・押出器の温度:230/230/230℃、
・スクリュー速度:8/9/3rpm、
・モータートルク:4.7/3.8/4.6アンペア、
・押出器の出口圧力:2000/1900/2200psi(ポンド/平方インチ)、
・真空:−0.2mbar。
その後、これらのパイプを23℃及び0%RH(相対湿度)で48時間にわたって保管する。
引張強さをInstron4500(100kNのロードセル)で、引張速度:50mm/分、ジョーの初期分離:40mmで測定する。これらの測定値を5個の試料の平均について該パイプの円の面積で割った負荷を基準にして算出する。
機械測定値を次の表に挙げる。
【0052】
【表3】

【0053】
例5:M15ガソリン及び無鉛ガソリンに対する透過性
様々な材料のM15ガソリンに対する透過性を、重量の損失を時間の関数として測定することによって評価した。例4の様々なパイプを真空下のオーブン内で12時間にわたって70℃で乾燥させる。これらの様々なパイプをM15ガソリン又は無鉛ガソリンで満たし、そしてこれらのパイプを栓で塞ぐ。このようにして充填されたパイプを精密天秤で秤量する。その後、これらのパイプを40℃のオーブン内に45日間置く。これらのパイプを定期的な時間間隔で秤量し、そして重量の損失を記録する。このようにして透過性を静置条件下で測定する。
M15ガソリンは、15容量%のメタノール、42.5容量%のトルエン及び42.5容量%のイソオクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)から構成される。
時間の関数としての重量損失の曲線は、2段階に分類される:第1誘導期(パイプの壁部を介した該流体の拡散に相当する)及び次いでパイプの重量の減少の第2期(パイプの壁部を介した1以上の流体の通過に相当する)。g.mm/m/日で測定される透過性は、第2期の傾きから算出される。
M15ガソリンについて、時間経過と共に、これらのパイプは、まずメタノールに対して透過性になり(まずこのメタノールが該パイプの壁部を通過する)、そしてその後にトルエン+イソオクタン混合物に対して透過性になる(その後に該混合物が該パイプの壁部を通過する)。
【0054】
【表4】

【0055】
例6:燐酸ジルコニウムを含む障壁フィルム
例3から得られた重合体顆粒を商標CMP付き装置で押出によって成形する。
処理加工の特性は次の通りである:
・押出器の温度:260〜290℃、
・スクリュー速度:36rpm、
・モータートルク:8〜10アンペア、
・可変延伸速度(50〜70μmのフィルム厚さ)。
50〜70μmの厚さを有するいくつかのフィルムが得られた。
これらのフィルムを23℃で48時間にわたって0%〜90%の範囲のRH(相対湿度)で状態調整してから、以下に説明する手順に従って酸素、二酸化炭素及び水に対するそれらの透過性の決定に付す。
【0056】
酸素に対する透過性:
酸素透過率は、次の特定の条件下で基準法ASTM D3985に従って測定する。
測定条件:
・温度:23℃
・湿度:0%、50%又は90%RH、
・0.5dmの3種の試料について100%酸素で測定、
・安定化時間:24時間、
・測定装置:Oxtran2/20。
【0057】
二酸化炭素に対する透過性:
文献ISO DIS 15105−2付属書B(クロマトグラフィーによる検出方法)による二酸化炭素透過率の測定。
測定条件:
・温度23℃、
・湿度:0%RH、
・0.5dmの3種の試料について測定
・安定化時間:48時間、
・測定装置:Oxtran2/20。
クロマトグラフィー条件:
・オーブン:40℃、
・カラム:Porapak Q
・水素炎イオン化検出器(該検出器は、メタン化オーブンの次にくる)。
既知の二酸化炭素濃度を有する標準ガスで該クロマトグラフィーを補正する。
【0058】
水蒸気に対する透過性:
基準法NF H 00044(Lyssy装置)による水蒸気透過率の決定。
測定条件:
・温度:38℃、
・湿度:90%RH、
・0.5dmの3種の試料について測定。
26.5、14及び2.1g/m.24時間の段階透過性を有する基準フィルムを使用して補正する。
【0059】
【表5】

【0060】
例7:αZrP粉末の製造方法
αZrPを例1に記載されるように製造するが、ただし、工程(b)の結晶化工程中に、ケークを1Lの12.6M燐酸水溶液に分散させ、このようにして得られた分散体を2リットル反応器に移し、次いで125℃に加熱する。この方法のその他の工程はそのまま維持する。
このようにして例1と類似するαZrPが得られるが、ただし、層が300〜500nmの寸法を示す成層構造が得られる。
その後、この分散体を90℃のオーブン内で15時間にわたって乾燥させる。しかして、該乾燥生成物をZrPと呼ぶ。
【0061】
例8:アミノシランで処理されたαZrPから形成される粉末の製造方法
例7の乾燥前の分散体を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(アミノシラン)の添加によって処理する:該アミノシランを該分散体にそのプロトンが完全に中和されるまで(N/P=1)添加する。このようにして得られた分散体を洗浄して残留アルコールを除去し、次いで90℃のオーブン内で15時間にわたって乾燥させる。このようにして得られた生成物をZrP/アミノシランと呼ぶ。
【0062】
例9:ポリプロピレン単独重合体樹脂をベースとする材料
ポリプロピレン(PP)及び例7又は8のZrPをベースとするナノ複合材料を次の条件下で製造する:2.16kgの負荷下で230℃で3g/10分のメルトフローインデックス(基準法ISO1133に従う)を有する顆粒としての96.8%のイソタクチックポリプロピレンと、90℃のオーブン内で16時間にわたって乾燥させた3%の無機充填剤と、0.2%のIrganox B225酸化防止剤とを含む混合物を、125rpmのローター回転速度を有するW50ローター、0.7の充填率及び150℃の通し温度を備えたBrabenderミキサー内で5分間にわたって調製する。このようにして得られた混合物を200℃のプレスで200barの圧力下で10分間にわたって熱成形し、次いで15℃で4分間にわたって200barで冷却させて100mm×100mm×4mmのプラックを形成させる。その後、80mm×10mm×4mmの寸法を有する試料を切り出す。
【0063】
これらの試料の透過電子顕微鏡による分析から、ポリプロピレンに導入されたZrP及びZrP/アミノシランが100以下の縦横比を有するナノメートル成層化合物(層状体)の形態を保持することが示された。
【0064】
これらの試料を、基準法ISO178に従う3点曲げ及び基準法ISO179に従うノッチ付きシャルピー衝撃試験によって特徴付ける。
【0065】
使用した試験条件は次の通りである:
・3点曲げ:ISO寸法を有する5個の試料を基準法ISO178によって作成された条件下で23℃で試験する。
・ノッチ付きシャルピー衝撃:ISO寸法を有する5個の試料であって45°のブレードカットを使用して切れ目を入れられ且つ0.25mmの湾曲半径を有するものを基準法ISO179によって作成された条件下で23℃で試験する。
・密度:様々な部材の密度から算出される。
【0066】
この例では、ポリプロピレン原樹脂を処理加工し、そして充填剤を含む樹脂と同一の条件下で評価する。実施された測定を以下の表に与える。
【0067】
【表6】

【0068】
このように、機械的性質、特に曲げ弾性率及び/又は衝撃強さの向上が観察されると共に、本発明の充填剤としてのZrPを含むポリプロピレンは、充填剤を含まないポリプロピレンと同様の密度を示す。さらに、本発明の充填剤としてZrPを含むポリプロピレンは、同一の条件下で処理加工され且つ評価されたポリプロピレン原樹脂に対して、向上した耐引き掻き性及び張力下での耐歪み性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性マトリックスと、燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子とを含む組成物において、該粒子の少なくとも50%(数)が、100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態であることを特徴とする前記組成物。
【請求項2】
ナノメートル成層化合物の粒子が50以下の縦横比を示すことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ナノメートル成層化合物の粒子が10以下の縦横比を示すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
粒子の少なくとも80%(数)が、100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
粒子の100%(数)が、100以下の縦横比を示すナノメートル成層化合物の形態であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の総重量に対して0.01〜30重量%の粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の総重量に対して0.1〜5重量%の粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
ナノメートル成層化合物が燐酸ジルコニウムをベースとすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
インターカレーション剤及び/又は剥離剤を含むナノメートル成層化合物状粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
熱可塑性マトリックスが、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン及びポリアリーレンオキシド及びこれらのブレンド並びにこれらの(共)重合体をベースとする共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性重合体からなることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
熱可塑性マトリックスが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ポリ(m−キシリレンジアミン)及びこれらのブレンド並びにこれらのポリアミドをベースとする共重合体よりなる群から選択されるポリアミドであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
熱可塑性マトリックスが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン及びポリメチルペンテン並びにそれらのブレンド及び/又は共重合体よりなる群から選択されるポリオレフィンであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
次の工程:
・少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子と、熱可塑性マトリックスの単量体及び/又はオリゴマーとを、重合工程の前又はその間に混合させ、及び
・該熱可塑性マトリックスを重合させること
からなる、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項14】
少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子と熱可塑性マトリックスとを混合させることからなる、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項15】
少なくとも1種の熱可塑性マトリックスと、少なくともナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子及び熱可塑性マトリックスを含む少なくとも1種の組成物とを混合させることからなる、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
ナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子が100以下の縦横比を示すことを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ナノメートル成層化合物の形態の燐酸ジルコニウム、燐酸チタン、燐酸セリウム及び/又は燐酸珪素をベースとする粒子がインターカレートされている及び/又はインターカレートされていないことを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれかに記載の得られた組成物を押出装置、成形装置又は射出成形装置で成形することからなる、物品の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれかに記載の組成物を成形することによって得られた物品。
【請求項20】
フィルム、シート、パイプ、中空体又は中実体、ボトル、導管及びタンクよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の物品。

【公表番号】特表2006−524732(P2006−524732A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505815(P2006−505815)
【出願日】平成16年4月27日(2004.4.27)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001013
【国際公開番号】WO2004/096903
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(500013980)ロディア エンジニアリング プラスティックス ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテー (3)
【Fターム(参考)】