説明

ナノ構造体およびナノ構造体の製造方法

【課題】ナノ構造体を構成する材質を工夫することで、触媒を利用せずともナノメートルサイズの構造を形成する。これにより、新規の機能材料を提供する。
【解決手段】ナノ構造体100は、基板110と、基板の表面に、グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールが、垂直方向に延伸するように複数形成されたCNW層120と、複数のカーボンナノウォールの間に形成される空隙120aに充填された充填材130と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体およびナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートル(nm)サイズの微細形状を有するナノ構造体は、従来の材料が有する特性を飛躍的に向上させた特性を備えていたり、従来の材料にはない特性を備えている。このため、ナノ構造体は、電磁波吸収材料、電池の電極材料、触媒材料、半導体材料、電子放出素子材料、光学材料、強度補強材料等の次世代の機能材料として期待されている。
【0003】
上述したようなナノ構造体を製造する技術として、例えば、ブロックコポリマー(ブロック共重合体)の自己組織化機能を利用して、ナノメートルサイズの多孔を有するポリマーを製作し、このナノメートルサイズの多孔を有するポリマーをマスクとして利用してリソグラフィを遂行することで、ナノ構造体を製造する技術が開示されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
しかし、非特許文献1のようなリソグラフィを利用した技術では、基板上にマスクを設置し、マスクを設置した状態で基板を溶解等して処理し、その後マスクを除去するといったように多数の工程を経る必要がある。また、リソグラフィを利用した技術では、マスクを作成するためや、リソグラフィを遂行するための装置に、膨大なコストがかかってしまっていた。
【0005】
そこで、基板の表面に触媒を担持させておき、触媒を熱処理した後に、凸部および凹部からなる3次元構造パターンを形成して、凸部のみ選択的に触媒を残存させ、残存させた触媒上にカーボンナノチューブを成長させることで、基板上にカーボンナノチューブで構成されたナノ構造体を形成する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−192367号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Arora et al:"Block Copolymer Self-Assembly-Directed Single-Crystal Homo- and Heteroepitaxial Nanostructures", Science, VOL330, 8 Oct 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように特許文献1の技術では、基板に触媒を担持させ、この触媒上にカーボンナノチューブを成長させてナノ構造体を形成する。この際に利用される触媒は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等である。しかし、このようなFe、Ni、Co等は強磁性であるため、カーボンナノチューブで構成されたナノ構造体は、半導体材料として利用することができない。
【0009】
また、カーボンナノチューブを基板上に成長させるためには、750〜800℃といった高温に基板を加熱する必要がある。したがって、高い耐熱性を有する基板にしか、カーボンナノチューブを成膜することができない。すなわち、液晶等のガラス基板として利用されるアルカリガラスやソーダガラスといった、ガラス転移点が700℃以下のガラス基板にカーボンナノチューブを成膜することはできない。
【0010】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、触媒を利用せずともナノメートルサイズの構造を形成することが可能なナノ構造体およびナノ構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のナノ構造体は、基板と、基板の表面に、グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールが、垂直方向に延伸するように複数形成されたCNW層と、複数のカーボンナノウォールの間に形成される空隙に充填された充填材と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の他のナノ構造体は、基板と、基板を構成する物質が基板の表面に所定の間隔を維持しながら延出したナノ網層と、を備え、延出した基板を構成する物質の基板と平行な方向の厚み、および、所定の間隔は、ナノメートルサイズであることを特徴とする。
【0013】
上記基板は、炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されてもよい。
【0014】
上記基板は、Siを含んで構成されていてもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のナノ構造体の製造方法は、グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールを、垂直方向に延伸するように第1基板の表面に複数成膜するCNW成膜工程と、複数のカーボンナノウォールの間に形成される空隙に充填材を充填する充填工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
上記充填工程は、複数のカーボンナノウォールの延伸方向の端部側から充填材を埋設してもよい。
【0017】
上記充填工程は、第1基板から第1基板を構成する物質を延出させることによって、第1基板を構成する物質を充填材として空隙に充填してもよい。
【0018】
上記充填工程は、カーボンナノウォールが成膜された第1基板を加熱して当該第1基板を溶融する加熱工程を施すことで、充填材として当該第1基板を構成する物質を延出させて空隙に充填してもよい。
【0019】
上記空隙に充填材を充填する充填工程に続いて、ドライエッチング処理を施すことで、第1基板から複数のカーボンナノウォールを除去する除去工程をさらに有してもよい。
【0020】
上記除去工程は、ドライエッチング処理として、第1基板に対して水素プラズマ処理を施してカーボンナノウォールを除去してもよい。
【0021】
上記グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールを、垂直方向に延伸するように第1基板の表面に複数成膜するCNW成膜工程を遂行する前に、第1基板の下部に、第1基板とは異なる物質で構成された第2基板を積層する基板生成工程を含み、第2基板の融点またはガラス転移点は、700℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ナノ構造体を構成する材質を工夫することで、触媒を利用せずともナノメートルサイズの構造を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかるナノ構造体の概略的な構造を説明するための説明図である。
【図2】CNW層の概略的な構造を説明するための説明図である。
【図3】第1の実施形態にかかるナノ構造体の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】第1の実施形態にかかるナノ構造体の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。
【図5】所定の元素や所定の化合物におけるキュリー温度を説明するための説明図である。
【図6】第1基板とCNW層との界面を説明するための説明図である。
【図7】シートプラズマCVD装置でCNW層を成膜した基板の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】ナノ構造体の表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】ナノ構造体の表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】ナノ構造体のラマン分光分析結果を示す図である。
【図11】ナノ構造体を概略的に説明するための説明図である。
【図12】第2の実施形態にかかるナノ構造体の概略的な構造を説明するための説明図である。
【図13】第2の実施形態にかかるナノ構造体の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図14】第1の実施形態にかかるナノ構造体の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
(第1の実施形態:ナノ構造体100)
図1は、第1の実施形態にかかるナノ構造体100の概略的な構造を説明するための説明図である。図1に示すように、ナノ構造体100は、第1基板110aと、第2基板110bと、CNW層120と、充填材130とを含んで構成される。なお第1基板110aと第2基板110bは、あわせて基板110を構成する。
【0026】
第1基板110aは、例えばシリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)等の炭化物を形成しやすい元素を含んで構成される。ここでは、半導体材料として広く利用されているSiで構成された第1基板110aを例に挙げて説明する。
【0027】
第2基板110bは、第1基板110aの下部に積層され、融点またはガラス転移点が700℃以下の物質(例えば、アルカリガラスやソーダガラス)で構成される。
【0028】
CNW層120は、第1基板110aの上部表面に、グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォール(カーボンナノフレーク、カーボンナノフラワーと呼ぶ場合もある)が、垂直方向に延伸するように複数形成された層である。CNW層120の高さは、例えば、0.01μm〜100μm程度である。
【0029】
図2は、CNW層120の概略的な構造を説明するための説明図である。カーボンナノウォールは、図2(a)に示すようなグラフェンシート(図2(a)中、炭素原子(C)を白丸で示す)が、図2(b)に示すように、第1基板110aの表面上に垂直状に成長したものである。CNW層120が成膜される際には、第1基板110aとCNW層120との界面には、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層が形成される。ここで、上述したように第1基板110aは、炭化物を形成しやすい元素(ここでは、Si)を含んで構成されるため、第1基板110aとグラファイト層の界面において、グラファイト層が第1基板110aの表面を構成するSi中に溶出する事象、および、グラファイト層に第1基板110aを構成するSiが熱拡散する事象、のいずれかの事象、または両方の事象が生じる。そして、カーボンナノウォールは、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層を介して、第1基板110aの表面に垂直方向に延伸するように複数形成される。ここで、カーボンナノウォールの基板110と平行な方向(図1および図2(b)中X軸方向)の厚みは、数nmから数十nm程度であり、カーボンナノウォール間の図1および図2(b)中X軸方向の距離も、数nmから数十nm程度である。
【0030】
なお、カーボンナノウォールは自己組織化機能を有しているため、ナノメートルサイズの構造を組織化するための何らの処理を施さずとも、第1基板110aの表面上に容易にCNW層120を成長させることができる。またカーボンナノウォールの成長過程において、何らの処理を施さずとも、複数のカーボンナノウォールの間に、ナノメートルサイズ(ナノメートルオーダー)の空隙120a(図1参照)が形成される。ここで、ナノメートルサイズとは数nmから数十nm程度のことを示す。
【0031】
図1に戻って説明すると、充填材130は、空隙120aに充填されるものである。充填材130については、後に詳述する。
【0032】
続いて、上述したようなナノ構造体100の製造方法について説明する。
【0033】
(ナノ構造体100の製造方法)
図3は、第1の実施形態にかかるナノ構造体100の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートであり、図4は、第1の実施形態にかかるナノ構造体100の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。図3に示すように、ナノ構造体100の製造方法は、基板生成工程S200と、CNW成膜工程S202と、充填工程S204とを含む。以下、基板生成工程S200と、CNW成膜工程S202と充填工程S204について詳述する。
【0034】
(基板生成工程S200)
基板生成工程S200は、図4(a)に示すように、第1基板110aとは異なる物質で構成された第2基板110bを積層する工程である。ここで、第2基板110bの融点またはガラス転移点は、700℃以下である。
【0035】
(CNW成膜工程S202)
CNW成膜工程S202は、図4(b)に示すように、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置等を利用して、下部に第2基板110bが積層された第1基板110aの上部表面に、垂直方向に延伸するように複数カーボンナノウォールを成膜する工程、すなわちCNW層120を成膜する工程である。
【0036】
上述したようにカーボンナノウォールは、自己組織化機能を有しているため、プラズマCVD装置で基板110にカーボンナノウォールを成膜するだけで、複数のカーボンナノウォールの間にナノメートルサイズの空隙120aを形成しながら、カーボンナノウォールが基板110の表面に対して垂直方向(図4中X軸方向)に延伸するように成長する。
【0037】
また、カーボンナノウォールは、600℃以下でも成長することができるため、第1基板110aおよび第2基板110bが、融点またはガラス転移点が700℃以下の物質で構成されたとしても、第2基板110bを破壊することなく基板110上にCNW層120を成膜することが可能となる。
【0038】
(充填工程S204)
充填工程S204は、図4(c)に示すように、複数のカーボンナノウォールの間に形成される空隙120aに充填材を充填する工程である。例えば、充填工程S204は、第1基板110aから第1基板110aを構成する物質を延出させることによって、第1基板110aを構成する物質を充填材として空隙120aに充填する工程である。具体的に説明すると、CNW成膜工程S202においてCNW層120(カーボンナノウォール)が成膜された第1基板110aを加熱して第1基板110aを溶融する加熱工程を施すことで、充填材として第1基板110aを構成する物質を延出させて空隙120aに充填する。加熱工程を施すと、第1基板110aが溶融し、毛細管現象で空隙120aに延出することになる。
【0039】
ここで、上述したように第1基板110aが炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されることで、充填工程S204において第1基板110aの表面に、第1基板110aを構成する元素の炭化物(ここでは、SiC)が形成される。第1基板110aを構成する元素の炭化物(SiC)と第1基板110a(ここでは、Si)とは、第1基板110a(Si)と炭素(C)との濡れ性と比較して、濡れ性がよいため、第1基板110aを容易に空隙120aに延出させる(空隙120aを上昇させる)ことが可能となる。
【0040】
なお、上述した加熱工程は、第1基板110aを溶融させて空隙120aに延出できれば、どのような方法でもよいが、好ましくは、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aにCW(Continuous Wave)レーザを照射する方法(レーザアニール)であり、より好ましくは、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aにパルスレーザを照射する方法(レーザアニール)である。ここで、レーザの波長は、193〜2200nm(紫外線波長から近赤外線波長)が好ましい。また、レーザは、YAGレーザ、YLFレーザ、エキシマレーザ等様々なレーザを採用することができ、雰囲気は大気雰囲気である。
【0041】
ここで、加熱工程として、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aにパルスレーザを照射する方法を採用する場合、パルスレーザを繰り返し、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aに照射することで、第1基板110aの溶融程度を制御することができ、充填材130の延出高さ等を制御することが可能となる。
【0042】
また、パルスレーザを照射する方法を採用すると、700℃以下で第1基板110aを溶融させることができる。したがって第2基板110bが、融点またはガラス転移点が700℃以下の物質で構成されたとしても、第2基板110bを破壊することなく、空隙120aに充填材130を充填することができる。
【0043】
以上説明したように、ナノ構造体100の製造方法によれば、基板110にCNW層120を成膜するだけで、カーボンナノウォールの自己組織化機能を利用して、何らの処理を施さずとも、ナノメートルサイズの構造を形成することができる。また、カーボンナノウォールは、どのような材質の基板110であっても、触媒を要さずに、成長することができるので、不純物となりうる触媒を含有しないナノ構造体100を製造することが可能となる。
【0044】
また、CNW層120における空隙120aに充填材130を充填することで、炭素(カーボンナノウォール)と充填材130の複合材料的な物性を有することになるため、新規の機能材料を製造することができる。
【0045】
例えば、太陽電池に利用される従来のSi基板を、ナノ構造体100に変更することで、従来のSi基板と比較して、より短い波長の光を吸収することができるようになる。また、ナノ構造体100における充填材130(すなわち空隙120a)がナノメートルサイズであるため、太陽電池にナノ構造体100を利用することで、充填材130において近接場が発生する。したがって、ナノ構造体100を利用することで、太陽電池の光電力効果を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0046】
また、例えば、ナノ構造体100の製造方法を利用することで、キュリー温度の高い半導体を製造することもできる。図5は、所定の元素や所定の化合物におけるキュリー温度を説明するための説明図である。図5に示す所定の元素や所定の化合物には、予めマンガン(Mn)が2.5%/atom含まれている。図5に示すように、半導体材料として広く利用されているSiは、キュリー温度が160K程度と低いが、炭素は500K弱と高い。ここで、第1基板110aを、2.5%程度の強磁性元素(例えば、Mn、Fe)を含むSiで構成すれば、ナノ構造体100は、カーボンナノウォール間の空隙120aに、充填材130として、強磁性元素を含むSiが充填された構造となる。したがって、このようなナノ構造体100は、Siおよび炭素の複合体であるため、キュリー温度が室温(300K程度)を超える、新規の磁性体の半導体材料を製造することが可能となる。
【0047】
なお、この場合、第1基板110aを製造する際に予めSiに強磁性元素をドーピングしておいてもよいし、第1基板110aをSiのみで構成し、CNW層120を成膜した後にイオン注入で強磁性元素をSiに注入してもよい。ただし、イオン注入でCNW層120の成膜後に強磁性元素をSiに注入する場合、結晶欠陥が生じる可能性があるため、再度レーザアニール処理を施して結晶性を向上させるとよい。
【0048】
また、充填工程S204は、複数のカーボンナノウォールの上方から充填材130を埋設してもよい。こうすることでも、炭素(カーボンナノウォール)と充填材130の複合材料的な物性を有することになるため、新規の機能材料を製造することができる。
【0049】
例えば、充填材130として、p型の有機半導体(ポリマ系半導体材料)をカーボンナノウォールの上方から埋設することで、積層型の有機薄膜太陽電池デバイスを製造することができる。従来の積層型の有機薄膜太陽電池デバイスは、n型の電極材料としてフラーレンを採用していたが、ナノ構造体100の充填材130をp型の有機半導体とすることで、カーボンナノウォールをn型の電極材料とすることができる。
【0050】
また、例えば、充填材130として、光触媒(例えば、酸化チタン(TiO))をカーボンナノウォールの上方から埋設することで、光触媒の触媒能を飛躍的に向上させることができる。具体的には、上述したように、ナノ構造体100における充填材130(すなわち空隙120a)がナノメートルサイズであるため、ナノ構造体100に光が照射されると、充填材130において近接場が発生する。したがって、充填材130として埋設された光触媒において近接場が発生するため、光触媒の触媒能を飛躍的に向上させることが可能となる。これにより、二酸化炭素(CO)の分解効率を著しく上昇させることができる光触媒を製造することが可能となる。
【0051】
なお、充填工程S204において、複数のカーボンナノウォールの延伸方向の端部側から充填材130を埋設する場合、第1基板110aとCNW層120との結合が弱いため、CNW層120および充填材130を、第1基板110aから容易に剥離することができる。
【0052】
図6は、第1基板110aとCNW層120との界面を説明するための説明図である。図6に示すように、CNW成膜工程S202において、第1基板110aにカーボンナノウォールが成膜される際に、まず、第1基板110aの表面にグラファイトの層が第1基板110aの表面と平行に形成される。そして、グラファイトの層からカーボンナノウォールが成長することになる。ここで、第1基板110aとグラファイトとは、付着力が弱い。したがって、上方からCNW層120および充填材130をテープ等で貼付することで、CNW層120および充填材130を、第1基板110aから容易に剥離することができる。これによりテープ状のナノ構造体を得ることができ、他の基板に転写することが可能となる。
【0053】
(実施例)
基板110(実施例では、基板110は、第1基板110aのみで構成した)としてSiを用い、シートプラズマCVD装置でCNW層120を成膜した。そして、波長527nmのYLFレーザを用いて、エネルギー密度を1300mJcm−2とし、大気雰囲気で、CNW層120が成膜された基板110にパルスレーザ照射(レーザアニール)を行い、ナノ構造体100を得た。
【0054】
図7は、シートプラズマCVD装置でCNW層120を成膜した基板110の電子顕微鏡写真を示す図である。図7を参照すると、基板110の表面に、カーボンナノウォールが垂直方向に延伸するように複数形成されたことが分かる。
【0055】
図8、図9は、ナノ構造体100の表面の電子顕微鏡写真を示す図であり、図10は、ナノ構造体100のラマン分光分析結果を示す図であり、図11は、ナノ構造体100を概略的に説明するための説明図である。なお、図8(b)は図8(a)の拡大写真を示し、図9(a)は、図8(a)におけるAで示す部分の拡大写真を、図9(b)は、図8におけるBで示す部分の拡大写真をそれぞれ示す。また、図10(a)は、図8におけるAの部分のラマン分光分析結果を、図10(b)は、図8におけるBの部分のラマン分光分析結果をそれぞれ示す。
【0056】
図10(a)を参照すると、部分Aは、Siのピークが検出されておらず、炭素のピークのみが検出されていることが分かる。したがって、図8(a)、図9(a)に示す部分Aは、レーザの照射が足りなかったと考えられ、基板110が十分に溶融せず、表面にCNW層120が存在すると考察される。
【0057】
一方、図10(b)を参照すると、部分Bは、Siのピークと、炭素のピークとが検出されていることが分かる。したがって、図8(a)、(b)、図9(b)、に示す部分Bは、レーザの照射が適切であったと考えられ、基板110が溶融して、毛細管現象で空隙120aに延出し、表面にCNW層120および充填材130(基板110)が存在すると考察される。なお、図8を参照すると、部分Cは、レーザの照射が過剰であったと考えられ、基板110が溶融して、毛細管現象で空隙120aに延出してCNW層120を越流し、表面に充填材130(基板110)のみが存在すると考察される。
【0058】
そうすると、実施例で得られたナノ構造体100は、図11に示すように、レーザがあまり照射されず基板110が溶融しない部分Aと、レーザが適切に照射され空隙120aに充填材130が延出した部分Bと、レーザが照射されすぎCNW層120から充填材130が越流して表面が充填材130で覆われた部分Cとが存在すると考えられる。
【0059】
このように、レーザの照射程度(例えば、基板の搬送速度、すなわちレーザの照射時間)を制御することで、基板110の溶融程度を制御することができ、充填材130の延出高さを制御できることが分かった。
【0060】
(第2の実施形態:ナノ構造体300)
図12は、第2の実施形態にかかるナノ構造体300の概略的な構造を説明するための説明図である。図12に示すように、ナノ構造体300は、第1基板110aと、第2基板110bと、ナノ網層330とを含んで構成される。なお第1基板110aと第2基板110bは、あわせて基板110を構成する。なお、上述した第1の実施形態と実質的に機能が等しい構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
ナノ網層330は、第1基板110aを構成する物質が基板110の表面に所定の間隔を維持しながら延出したものであり、延出した第1基板110aを構成する物質の基板110と平行な方向(図12中X軸方向)の厚みL、および、所定の間隔Mは、ナノメートルサイズである。
【0062】
ナノ構造体300においても、ナノ網層330を構成する、第1基板110aを構成する物質が延出したものは、ナノメートルサイズであるため、ナノ網層330において近接場は発生する。したがって、太陽電池デバイスとしてナノ構造体300を利用すれば、光電力効果を飛躍的に向上させることができる。
【0063】
続いて、上述したようなナノ構造体300の製造方法について説明する。
【0064】
(ナノ構造体300の製造方法)
図13は、第2の実施形態にかかるナノ構造体300の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートであり、図14は、第2の実施形態にかかるナノ構造体300の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。図13に示すように、ナノ構造体300の製造方法は、基板生成工程S200と、CNW成膜工程S202と、充填工程S204と、除去工程S406とを含む。基板生成工程S200、CNW成膜工程S202、および、充填工程S204は、上述した第1の実施形態と実質的に等しいので、説明を省略し、本実施形態の特徴である除去工程S406について詳述する。
【0065】
(除去工程S406)
除去工程S406は、図14(a)および(b)に示すように、ドライエッチング処理を施すことで、充填工程S204で製造されたナノ構造体100の第1基板110aから複数のカーボンナノウォールを除去する工程である。例えば、ドライエッチング処理として、第1基板110aに対して水素プラズマ処理を施してカーボンナノウォールを除去する。そうすると、図13および図14(b)に示すように充填工程S204で第1基板110aから延出した充填材130のみが第1基板110a上に残存することになる。この残存した充填材130がナノ網層330である。
【0066】
なおCNW成膜工程S202において、CNW層120を成膜することで、カーボンナノウォール間の空隙120aはナノメートルサイズになるため、空隙120aに充填される充填材130の、基板110と平行な方向の厚みLもナノメートルサイズである。また、カーボンナノウォール自体の基板110と平行な方向の厚みもナノメートルサイズであるため、除去工程S406において、カーボンナノウォールが除去されると、充填材130間の長さMもナノメートルサイズである。
【0067】
したがって、除去工程S406を経ることにより、ナノ網層330を備えるナノ構造体300を製造することが可能となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態にかかるナノ構造体300の製造方法によれば、基板110に成膜したCNW層120を除去することで、基板110を構成する物質のみでナノメートルサイズの構造を形成することができる。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
例えば、上述した実施形態では、基板110にCNW層120を成膜した後に充填材130を充填しているナノ構造体100、300を例に挙げて説明したが、基板110にCNW層120を成膜しただけでも、CNW層120において近接場が発生するため、新規の機能材料として利用することができる。例えば、太陽電池の光電力効果を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0071】
また、基板110にCNW層120を成膜したものに電力を供給することで、CNW層120の先端から電子線を放出させることができる。具体的に説明すると、CNW層120の先端部分はナノメートルサイズの構造体であるため、CNW層120に電力を供給すると、電界強度が著しく向上する。これにより、CNW層120の先端から電子線を放出させることができる。したがって、CNW層120に二酸化炭素を取り込ませて、電力を供給すると、放出される電子線によって二酸化炭素を分解することができる。また、空隙120aもナノメートルサイズであるため、表面積を著しく広くすることができ、二酸化炭素の取り込み量(吸着量)を大幅に増加させることが可能となる。
【0072】
さらに、上述した実施形態では、第1基板110aを構成する物質として、炭化物を生成しやすい物質を例に挙げて説明したが、これに限定されず、どのような物質であっても適切にCNW層120を成膜することができる。また、上述した実施形態では、基板110が2層(第1基板110aと、第2基板110b)で構成される場合を例に挙げて説明したが、1層であっても、3層以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、ナノ構造体およびナノ構造体の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
S200 …基板生成工程
S202 …CNW成膜工程
S204 …充填工程
S406 …除去工程
100、300 …ナノ構造体
110 …基板
110a …第1基板
110b …第2基板
120 …CNW層
120a …空隙
130 …充填材
330 …ナノ網層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に、グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールが、垂直方向に延伸するように複数形成されたCNW層と、
複数の前記カーボンナノウォールの間に形成される空隙に充填された充填材と、
を備えたことを特徴とするナノ構造体。
【請求項2】
基板と、
前記基板を構成する物質が該基板の表面に所定の間隔を維持しながら延出したナノ網層と、
を備え、
延出した前記基板を構成する物質の該基板と平行な方向の厚み、および、前記所定の間隔は、ナノメートルサイズであることを特徴とするナノ構造体。
【請求項3】
前記基板は、炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ構造体。
【請求項4】
前記基板は、Siを含んで構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のナノ構造体。
【請求項5】
グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールを、垂直方向に延伸するように第1基板の表面に複数成膜するCNW成膜工程と、
複数の前記カーボンナノウォールの間に形成される空隙に充填材を充填する充填工程と、
を含むことを特徴とするナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記充填工程は、
前記複数のカーボンナノウォールの延伸方向の端部側から充填材を埋設することを特徴とする請求項5に記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記充填工程は、
前記第1基板から該第1基板を構成する物質を延出させることによって、前記第1基板を構成する物質を充填材として前記空隙に充填することを特徴とする請求項5に記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項8】
前記充填工程は、
前記カーボンナノウォールが成膜された第1基板を加熱して当該第1基板を溶融する加熱工程を施すことで、前記充填材として当該第1基板を構成する物質を延出させて前記空隙に充填することを特徴とする請求項7に記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
前記空隙に充填材を充填する充填工程に続いて、
ドライエッチング処理を施すことで、前記第1基板から前記複数のカーボンナノウォールを除去する除去工程をさらに有することを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程は、ドライエッチング処理として、前記第1基板に対して水素プラズマ処理を施して前記カーボンナノウォールを除去することを特徴とする請求項9に記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項11】
グラフェンシートの単層体または多層体であるカーボンナノウォールを、垂直方向に延伸するように第1基板の表面に複数成膜するCNW成膜工程を遂行する前に、
前記第1基板の下部に、該第1基板とは異なる物質で構成された第2基板を積層する基板生成工程を含み、
前記第2基板の融点またはガラス転移点は、700℃以下であることを特徴とする請求項5から10のいずれか1項に記載のナノ構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−250872(P2012−250872A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123927(P2011−123927)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】