説明

ナノ秒パルス電界を用いたアポトーシス誘導方法

【課題】ナノ秒パルス電界の繰り返し周波数を制御することでアポトーシスなどの細胞死を引き起こすことを可能とする。
【解決の手段】組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、繰り返し周波数は0.01pps超過0.5pps未満であることを特徴とするナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法、繰り返し周波数は50pps以上であることを特徴とするナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法、前記ナノ秒パルス電界複数回を1回としたクラスターとして印加して、クラスターの繰り返し周波数が0.01回/秒超過0.5回/秒未満であることを特徴とするナノ秒パルス電界印加シークエンスを用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞に効果的に高電界を印加し、アポトーシスを誘発させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞治療の一環として、交流波パルスやマイクロ秒からミリ秒のパルスを用いるものが多かった。
【0003】
近年ナノ秒パルス高電界を用いて、例えばメラノーマ(がん細胞)にアポトーシスを引き起こす技術が研究されてきた(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特許2009-532077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、持続時間約10〜300ナノ秒、電界強度10~350KV/cm、繰り返し周波数0.5Hz(pps)のナノ秒パルス電界を複数回印加することで細胞死や組織中の血流阻害を引き起こすことを開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1によれば、繰り返し周波数が0.5pps(pulse per second)のみのデータで開示されているため、細胞によっては最適な繰り返し周波数ではなく、電界強度に頼った治療になるため目的の治療部位以外の周囲の正常な細胞を死なせたり、なんらかの異常を誘因したりなど好ましくない影響がでる虞がある。
【0007】
そこで上述の課題に鑑み、本発明の目的はナノ秒パルス電界の繰り返し周波数を変化させ用いることにより、目的臓器および細胞、例えば、がん細胞を含有する臓器などを標的とし、高効率にアポトーシスを誘導する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、繰り返し周波数は0.01pps超過0.5pps未満であることを特徴とするナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、繰り返し周波数は50pps以上であることを特徴とするナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法を用いることを特徴とする。
【0010】
組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、前記ナノ秒パルス電界複数回を1回としたクラスターとして印加して、クラスターの繰り返し周波数が0.01回/秒超過0.5回/秒未満であることを特徴とするナノ秒パルス電界印加シークエンスを用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、繰り返し周波数は0.01pps超過0.5pps未満である構成であるから、2~100秒間隔の低繰り返し周波数を用いることによって、ナノ秒パルス電界による細胞膜上のイオンチャンネルの乱れを常に起きている状態を作り出し、電界にあまり依存せず、目的以外の周囲の細胞への影響をできるだけ抑制した細胞のメカニズムを用いた柔和な条件で高効率にアポトーシスなどの細胞死誘導する方法を提供する。
【0012】
請求項2の発明によれば、組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、繰り返し周波数は50pps以上である構成であるから、0.2秒間隔以下の連続したパルスによりパルスによって標的細胞に蓄積される熱が積極的に上昇していくことから、電界と温熱効果を併用してアポトーシスなどの細胞死を誘導することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、前記ナノ秒パルス電界複数回を1回としたクラスターとして印加して、クラスターの繰り返し周波数が0.01回/秒超過0.5回/秒未満であるである構成であるから、
例えば250ppsのナノ秒パルスの40ms分、すなわち、10発分を1クラスターとし、前記クラスター
を0.01回/秒 超過0.5回/秒未満で繰り返すシークエンスを用いることにより、標的細胞の温度をほとんど上昇させることなくアポトーシスなどの細胞死を誘導させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図を用いて説明する。本実施形態のナノ秒パルス電界(nanosecond Pulsed Electric Fields以下「nsPEF」という)を用いたnsPEF印加システム12について図1を用いて説明する。本実施形態のnsPEF印加システム12は、nsPEF発生装置1・充電器2・制御装置3・外部繰り返し周波数制御装置4とパルス発生機より作製されたnsPEFを目的の組織もしくは細胞に印加するための電極5により構成される。
【0015】
nsPEF発生装置1は1〜300nsのパルス幅で0.5~250KV/cmの電界強度の単極パルスを出力できる装置である。また、充電器2は0.1〜5Jの充電が可能な装置である。さらに制御装置3は、電界強度と0.1〜2000ppsの連続印加型繰り返し周波数を制御する装置である。これらnsPEF発生装置1・充電器2・制御装置3は、例えば、磁気パルス圧縮回路方式(Magnetic Pulse Compression Circuit: MPC)を使用している末松電子社製の公知の機器類を使用することができる。これらの機器は性能的に同じならば他社製品でも良いものとする。
【0016】
外部繰り返し周波数制御装置4は、例えば公知のファンクションジェネレーターを用いることができる。外部繰り返し周波数制御装置4は、自己のトリガーパルスを有し、任意の繰り返し周波数を選択でき、さらに印加回数も設定できる。また、外部繰り返し周波数制御装置4により、例えば、図2に示すように250ppsの繰り返し周波数のnsPEF10回印加を1つのクラスター10として設定し、そのクラスターパルスを制御することができる。電界強度は制御装置3により制御される。
【0017】
電極5は、細胞実験用のキュベットタイプ以外に上皮系組織に刺すニードルタイプ・組織を挟むパットタイプ外部から組織内部に電界を送り込めるアンテナタイプなど用途に適合したものを用いることができる。そして、電極5は、パルス発生装置1のパルス電界発生部6と接地電位7に接続される。
【0018】
(実施例1): nsPEFによるHeLa S3細胞アポトーシス誘導
材料および方法
ヒト子宮頸ガン由来のHeLa S3細胞をATCC(Manassas,VA)から入手し、培養を行い細胞を増殖させた後、上記本実施形態のnsPEF印加システム12を用いて実験を行った。本実施例1では、前記電極5はキュベットタイプ電極を用いた。0.5〜1×106cells/mlの濃度に調節した細胞含有培地を4mmキュベット電極に約800μl入れ、電極支持部8にキュベット電極を差し込み。nsPEFを印加した。オシロスコープ9などで電界値の観察を行い、実施例1では12.5〜25KV/cmの電界強度を使用した。
【0019】
繰り返し周波数の影響測定
実施例1において、電界値を12.5KV/cm、印加回数を100回に固定し、繰り返し周波数を250pps,
10pps, 0.5ppsの条件で細胞死への影響を調べた(図3)。細胞死判定にはヨウ化プロピジウム(PI)染色法を行い、フローサイトメトリー法で解析した。その結果、2時間後、0.5ppsがもっとも細胞死を誘導することがわかった。さらに、低繰り返し周波数を詳細に調べるために電界強度25KV/cm,印加回数25回の条件で、0.01~250pps繰り返し周波数を用いて実験を行い、細胞死判定を行ったところ、0.33〜0.05ppsを中心に細胞死が強く誘導された(図4)。なお、図4では、同様な実験を3回繰り返し、標準誤差を付け加えている。しかし、0.01ppsではあまり細胞死が誘導されなかった。そこで、我々は0.01超過0.5pps未満で細胞死が強く誘導される可能性が示唆された。加えて、0.025ppsや0.01ppsの条件では印加実験中に適度にタッピングを行い、常に細胞が混和した状態を維持している。また、17度以下の条件では細胞死にむらができるので、実験中の室温は22度以上25度以下で行っている。
【0020】
xCelligence測定
細胞増殖活性を継時測定可能なxCelligenceシステム(Roche)を用いて、15分置きに3日間測定した。電界条件12.5KV/cm、印加回数100回で、繰り返し周波数を250pps, 10pps, 1pps, 0.5pps, 0.2pps, 0.1ppsの条件で細胞増殖活性を測定したところ、250pps,10ppsは無処理の細胞と同じ増殖を示したが、1pps, 0.5pps, は数時間後に一時的に細胞増殖が止まり、0.2pps,
0.1ppsでは48時間は細胞増殖が停止していることが示唆された。
【0021】
(実施例2)50pps以上の繰り返しnsPEFによるHeLa S3細胞アポトーシス誘導
ヒト子宮頸ガン由来のHeLa
S3細胞をATCC(Manassas,VA)から入手し、培養を行い細胞を増殖させた後、上記本実施形態のnsPEF印加システム12を用いて実験を行った。本実施例2では、前記電極5はキュベットタイプ電極を用いた。0.5〜1×106cells/mlの濃度に調節した細胞含有培地を4mmキュベット電極に約800μl入れ、電極支持部8にキュベット電極を差し込み。nsPEFを印加した。実施例2では12.5KV/cmの電界強度を使用した。
【0022】
印加回数の影響測定
HeLa S3細胞などの培養液は抵抗が約10Ωと導電性が高いため、50pps以上の繰り返し周波数で積算的に加熱されることが、レーザー干渉法から割り出された。そこで、繰り返し周波数250ppsで印加回数を変えて調べたところ、2時間後に200〜300回の印加条件領域で死亡率が高くなり始め、その後、印加回数に伴い細胞死率は上昇する(図5)。このときの温度上昇率は印加回数300回でおよそ27ケルビンで、実際の細胞の温度は一時的に約50度前後となる。このときの温度上昇に使用された時間は約1秒で、その後、外気によってすばやく冷却される。このことから、温熱単体だけではなく、温熱と電界の併用効果により細胞死が誘導されると考えられる。この結果より、細胞死を短時間の処理で引き起こせることがわかった、しかし、熱や印加回数が必要となり、総エネルギー投入率の割合が多くなるため、目標領域(患部)周辺の細胞にも損傷を引き起こす虞がある。この方法で細胞死を引き起こす部分は再生力の高い臓器や死亡率を優先したいときなど限定して使用する方が良いと考えられる。
【0023】
(実施例3)シークエンスnsPEFと繰り返し周波数を組み合わせたアポトーシスなど細胞死誘導方法
ヒト子宮頸ガン由来のHeLa
S3細胞をATCC(Manassas,VA)から入手し、培養を行い細胞を増殖させた後、上記本実施形態のnsPEF印加システム12を用いて実験を行った。本実施例3では、前記電極5はキュベットタイプ電極を用いた。0.5〜1×106cells/mlの濃度に調節した細胞含有培地を4mmキュベット電極に約800μl入れ、電極支持部8にキュベット電極を差し込み。nsPEFを印加した。実施例3では12.5KV/cmと25KV/cmの電界強度を使用した。
【0024】
例えば、約100ナノ秒のパルス幅とパルス間隔約4ミリ秒の10回計40ミリ秒のパルス集団を1つのクラスター10とし、このときクラスター10をクラスター(250:10)と表記する(図2)。このクラスター(250:10)の印加繰り返し周波数を調べたところ、クラスター(250:10)の印加数10回で、12.5KV/cmのクラスターパルスの繰り返し周波数が0.025回/秒~0.2回/秒の範囲で細胞死誘導効果が強く現れた(図6)。
【0025】
加えて、パルス幅約60nsの25KV/cmのクラスターパルス(250:5)を5回印加したところ、0.025回/秒をピークとする細胞死誘導効果が得られた(図7)。
【0026】
この結果、実施例1の単発パルスと同様のメカニズムで0.01回/秒超過0.5回/秒未満のときに細胞死が強く誘導されると考えられた。また、総エネルギー量から鑑みると、クラスターパルスを適切な繰り返し周波数で用いる方が効率的にもよく、また、総印加時間的にも単発パルス印加時よりも早く処理が終わる。このような前記クラスター10を複数回印加するシークエンスを用いることで、単発パルスよりも有効にアポトーシスなどの細胞死を誘導できる。
【0027】
クラスターは約2〜100発の0.5pps以上の繰り返し周波数のパルスで形成され、クラスター自体の繰り返し周波数でクラスター間隔11の時間を調整し、温熱効果を含むか、非加熱にするかを決められるので、細胞や臓器の特性に対して適応した処理が可能となり、有効なアポトーシス誘導効果を得ることができると推測される。
【0028】
(細胞死分類)
実施例1〜3の実験に関して、電界印加後のHeLa
S3細胞の細胞死がアポトーシスかネクローシスか、もしくは異なる細胞死かを調べた。その結果、12.5KV/cm, 0.5pps, 100回印加した細胞では、24時間培養後、核の断片化を調べることができるフローサイトメトリー用TUNEL染色(TACS)により、核の断片化が示唆された。図8で示すように灰色・黒実線部分は非処理群(TUNEL染色)13を示し、右側に移動している白色・黒実線部分はnsPEF処理群(TUNEL染色)14を示す。また、Y軸のEventは細胞数を示し、X軸のFL-1Pは蛍光強度を示す。蛍光強度は発現量や染色度合いを示す。図8の場合はTUNEL染色の強さを示し、nsPEF処理群(TUNEL染色)14が染色が強いこと、つまり核の断片化が多いことを示す。加えて、この核の断片化は追試により2時間では始まらず、6時間で開始することがわかった。
【0029】
(Caspase3測定)
アポトーシス時に活性が高くなる活性型Caspase3をActive-Caspase抗体(Abcam)を用いてフローサイトメトリー法で測定した。電界強度12.5KV/cm, 印加回数100回で、0.5ppsで行ったところ、(図9)に示すように、nsPEF印加2時間後では、非処理群(活性型Caspase3)15よりnsPEF処理群(活性型Caspase3)16が活性型Caspase3の発現が多いことが確認された。この結果、nsPEFで誘導される細胞死はアポトーシスのような細胞死である推測できる。このことより、DNA断片化は2時間から24時間のあたりで行われていると予想される。
【0030】
(細胞死誘導メカニズム)
図10で示すように、nsPEF印加後、HeLa S3細胞は正常細胞17とは異なり、nsPEF印加処理細胞18は5〜10分で細胞膜上に小胞(Bleb)19を形成し始める。この小胞の中や傷ついた細胞膜上でCeramide20という成分が産生されることがわかった。図11で示すように、Ceramide20は印加5分後の段階ですでに発現が上昇している。図11では、灰色・実線部分が非処理群(Ceramide発現)21、白色・実線部分が12.5KV/cm,0.5pps,100回のnsPEF処理群(Ceramide発現)21を示し、nsPEF処理群(Ceramide発現)21の方がCeramide20の発現をnsPEF印加5分後に多く発現していることを示唆している。他の研究でUV・過酸化水素・放射線・熱の刺激により細胞のCeramide20の量が上がることが示唆されている(Subham B et al., 1998, Oncogene, 17, 3277 -3285)。また、このCeramide20が小胞体由来のSAPK/JNK経路を刺激しアポトーシスを誘導することが知られている(Verheij M et al.,
1996, Nature, 380, 75-79)。
【0031】
同様に、上記と同じ12.5KV/cm,0.5pps,100回の条件でnsPEFを印加したものでは、JNK下流シグナルにあたるc-JunのmRNAの発現量が図12で示すように印加後30分で上昇し、さらに図13で示すようにタンパク質c-Junのリン酸化は2時間後に非処理群(リン酸化c-Jun発現)23に比べ、nsPEF処理群(リン酸化c-Jun発現)24が多くリン酸化していることが示唆された。加えて、図12は3回の実験を行い、標準誤差を加えている。c-Junはアポトーシスを引き起こす因子として知られており、c-Junによるアポトーシス誘導がp53正常細胞に比べ、p53変異性のガン細胞に対し、有意であることが示唆されている。(Shile H et al.,
2003, Molecular Cell, 11, 1491-1501)。p53変異性のがんはヒトのがんで50%以上を占めるため、nsPEFによるアポトーシス誘導方法はがん治療に有効であると推察される。
【0032】
実際にp53変異がん組織にnsPEFを印加した際、図14に示すように組織内で十分に印加された細胞からCeramide20が産生され、がん組織内にCeramide20が浸潤し、パラクリン作用によりさらに長時間周囲の境界部残存がん細胞25をアポトーシスに誘導することが予想される。また、Ceramide20は血管新生阻害作用もあり(Madhavi C et al., 2009, J. Agric. Food Chem.,
57, 5201-5210)、血管新生因子を産生するガン細胞を兵糧攻めすることができる。そのため、nsPEF誘導性Ceramide20により血管新生抑制による長期的兵糧攻め型がん治療も効果があると期待できる。先の特許文献1中でもnsPEFによる血管新生阻害が示唆されており、我々の発見したCeramide20による働きが大きいと考えられる。
【0033】
加えて、nsPEF印加時に細胞膜上にナノポア(ナノサイズの孔)の形成と同時に2価のカルシウムイオンなどのion 流入が起きる。図15に示すようにion 流入をEDTA・EGTA・カルシウムマグネシウムイオンフリーリン酸緩衝液(PBS(−))で遮断すると、12.5KV/cm条件下で引き起きる細胞死が抑制されることがわかった。加えて、小胞19の形成やCeramide20の産生を抑制した。図15に示す実験は3回繰り返し行った。図15には標準誤差を付加している。この結果、主にカルシウムイオンの流入により細胞死が引き起こされることが推察できた。
【0034】
上記の現象を利用すれば、カルシウムイオンを多く含む緩衝液を細胞死を起こしたい患部に充填し、その後、nsPEFを印加することにより、患部のみを効率的に細胞死誘導を引き起こさせることが可能になると考えられる。もしくは印加しながらカルシウムイオン緩衝液を患部に充填する方法がよい。そのためにインジェクション針と電極が併用できる治療器具などがあれば効率的である。例えば、陽極をインジェクション針とする電極を用いることで、陰極の方へとカルシウムイオンを展開させやすいので、中心部にインジェクション針電極部(陽極)、周囲に陰極電極部を配置した構造のインジェクション可能電極を用いれば効果的だと考えられる。
【0035】
図16は、細胞死誘導メカニズムを時間軸でまとめたものを示す。
【0036】
(実施例4)nsPEFによる成熟脂肪細胞脂肪球減少
マウス3T3L-1細胞をヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手し、分化誘導剤(DEX, IBMX, Insullin)で分化誘導し、分化開始から10日目の成熟脂肪細胞を材料として使用した。100回印加条件で、電界強度、繰り返し周波数を変えて実験を行った結果、繰り返し周波数にはあまり依存せず、電界強度に依存し、脂肪球の減少が確認された。このようなアポトーシス以外の現象のいくつかには,250pps以上の高繰り返し周波数かつ高電界の使用が最適なものが存在すると考えられる。皮、筋肉、脂肪などでそれぞれに最適な印加パラメーターを使い分けることが望ましい。
【0037】
以上のように、繰り返し周波数に対して反応する細胞活動の場合、ppsを0.01pps超過〜0.5pps未満の範囲の低繰り返し周波数の方が細胞死誘導効果が高く、ppsに対して反応しない細胞活動の場合は50pps以上の早いppsを使用して300発程度印加することが細胞死誘導に対して効率的である。また、電界強度を高くすると、細胞が焼け、皮膚などに行うとネクローシスやケロイドなどの痕ができるため、2時間後のPI染色率最高50%程度の電界強度でアポトーシス誘導を何日かに分けて複数回行うことが望ましいと考えられる。さらに、50〜500ppsを2〜30回を1つのクラスターとし、低繰り返し周波数の間欠暴露も細胞死誘導効果がある。
【0038】
さらに図17のように1つのクラスター10の中に電界強度やパルス幅が異なるnsPEFを複数入れることで、より強力な細胞死の誘導を可能にすると予測される。もしくは、ドラッグデリバリーや細胞分化制御などへの応用も期待できる。
【0039】
アンテナ型電極などでは、使用時に繰り返し周波数を低くすることで目的の細胞や臓器に効果的な影響を与える。また、アンテナ型電極で広範囲にアポトーシスを誘導する際には、繰り返し周波数が高い状態で印加する場所を移動させながら、印加起点と印加終点までを10秒ほどの時間をかけて複数回印加することで、同じ部位に対し0.1ppsの低繰り返しシークエンスを印加したときと同じ条件になり、効果的にアポトーシスを誘導できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明を使用して、ガンやメタボリックシンドロームなどの医療機器に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施例のである繰り返し周波数ナノ秒パルス電界を用いた治療方法を示した説明平面図である。
【図2】クラスターパルスの例の説明図である。
【図3】nsPEF(12.5KV/cm 100回印加)繰り返し周波数と細胞死との関係を示すグラフである。
【図4】nsPEF(25KV/cm 25回印加)繰り返し周波数と細胞死との関係を示すグラフである。
【図5】250ppsの繰り返し周波数と細胞死との関係を示すグラフである。
【図6】クラスターパルス(12.5KV/cm)の繰り返し周波数と細胞死との関係を示すグラフである。
【図7】クラスターパルス(25KV/cm)の繰り返し周波数と細胞死との関係を示すグラフである。
【図8】TUNEL染色法によりDNAの断片化を示す説明図である。
【図9】活性型Caspase3の発現を示す説明図である。
【図10】細胞膜外の小胞形成とCeramideの発現部位を示す説明図である。
【図11】Ceramideの発現を示す説明図である。
【図12】c-jun mRNAの発現を示すグラフである。
【図13】c-Junのリン酸化を示す説明図である。
【図14】がん組織内部のCeramide浸潤型アポトーシス誘導を示す説明図である。
【図15】カルシウムイオン阻害実験の結果を示したグラフである。
【図16】nsPEF誘導型アポトーシス機構の説明概要図である。
【図17】変形クラスターパルスシークエンスの他の例の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1・・・nsPEF発生装置
2・・・充電器
3・・・制御装置
4・・・外部繰り返し周波数制御装置
5・・・電極
6・・・パルス電界発生部
7・・・接地電位
8・・・電極支持部
9・・・オシロスコープ
10・・・クラスター
11・・・クラスター間隔
12・・・nsPEF印加システム
13・・・非処理群(TUNEL染色)
14・・・nsPEF処理群(TUNEL染色)
15・・・非処理群(活性型Caspase3)
16・・・nsPEF処理群(活性型Caspase3)
17・・・正常細胞
18・・・nsPEF印加処理細胞
19・・・小胞
20・・・Ceramide
21・・・非処理群(Ceramide発現)
22・・・nsPEF処理群(Ceramide発現)
23・・・非処理群(リン酸化c-Jun)
24・・・nsPEF処理群(リン酸化c-Jun)
25・・・境界部残存がん細胞




【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、
アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、
前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、
繰り返し周波数は0.01pps超過0.5pps未満であることを特徴とする
ナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法。

【請求項2】
組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、
アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、
前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、
繰り返し周波数は50pps以上であることを特徴とする
ナノ秒パルス電界を用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法。

【請求項3】
組織中の標的細胞に対して、ナノ秒パルス電界を印加して、
アポトーシスなどの細胞死を誘導する方法であって、
前記ナノ秒パルス電界は、0.5~250KV/cmで、1~300nsのパルス幅で、
前記ナノ秒パルス電界複数回を1回としたクラスターとして印加して、
クラスターの繰り返し周波数が0.01回/秒超過0.5回/秒未満であることを特徴とする
ナノ秒パルス電界印加シークエンスを用いたアポトーシスなど細胞死誘導方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−240115(P2011−240115A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47162(P2011−47162)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人電気学会 刊行物名 電気学会研究会資料 該当頁 第21頁〜第25頁 発行日 平成21年10月23日
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】