説明

ナノ粒子の表面修飾剤、金属ナノ粒子及びナノ粒子の表面修飾剤の製造方法

【課題】ナノ粒子が凝集することを防止するとともに、機能性を付与するナノ粒子の表面修飾剤、金ナノ粒子及びナノ粒子の表面修飾剤の製造方法を提供する。
【解決手段】第1のヒドロキシ脂肪酸をシステアミドとアミド結合させてチオール化し、前記チオール化された化合物と、前記第1のヒドロキシ脂肪酸または前記第1のヒドロキシ脂肪酸とは異なる第2のヒドロキシ脂肪酸とを用いてエステル結合させ、親水性の高い水酸基で密に覆われた表面と、疎水性の高いアルキル鎖がまばらに並んだ構造とを有する樹状分子を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性が付与されたナノ粒子の表面修飾剤、金属ナノ粒子及びナノ粒子の表面修飾剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属やポリマーなど様々な原料からナノ粒子を合成することができるようになり、実用的なナノマテリアルの開発が盛んに行われている。例えば、金属ナノ粒子上にDNA分子や糖鎖を結合させた生体内で利用が可能な微小センサーや、ナノ粒子を用いてインフルエンザウイルスを超高感度で検出する方法などが開発されており、化粧品、医薬品、印刷用トナーなどにも応用されている。また、伝導性ナノ粒子として金ナノワイヤーをスズの微粒子ではんだ付けを行う技術も開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一般に、ナノスケールの粒子は容易に凝集してしまうため、ナノ粒子を合成したり保存したりする際には、分散安定化剤を添加する。例えば、金属ナノ粒子の場合、合成の際に分散安定化剤としてセチルトリメチル臭化アンモニウム(CTAB)の界面活性剤を添加してナノ粒子の表面を覆う方法がよく用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−68447号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Peng,Y.;Cullis,T.;Inkson,B.;Bottom-up Nanoconstruction by the Welding of Individual Metallic Nanoobjects Using Nanoscale Solder. Nano Lett. 2009, 9(1), 91-96.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したCTABは主にアルキル鎖から構成されており、構造が単純であるため、他の化合物と反応させて機能性を付与することが難しく、機能性を付与したとしても、ナノ粒子の物性制御が難しい。また、疎水性の高いアルキル鎖による相互作用でナノ粒子と結合しており、外れやすい構造となっている。さらに、CTABは細胞毒性を有しており、バイオマテリアルとして利用することが難しい。
【0007】
したがって、この方法を用いてナノ粒子の表面を覆った場合、生成したナノ粒子を機能性物質として応用する際に、界面活性剤を除去してから金属表面の再修飾を行わなければならない。このため、ナノ粒子を応用する際に効率がよくないという問題点がある。
【0008】
本発明は前述の問題点に鑑み、ナノ粒子が凝集することを防止するとともに、機能性を付与するナノ粒子の表面修飾剤、金属ナノ粒子及びナノ粒子の表面修飾剤の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のナノ粒子の表面修飾剤は、化1に表される構造を有することを特徴とする。
【0010】
【化1】

(式中、x,z≧2、かつy,w≧1であり、x+y≧3、z+w≧3)
【0011】
また、本発明のナノ粒子の表面修飾剤の他の特徴とするところは、化2に表される構造を有することを特徴とする。
【0012】
【化2】

(式中、x,z,u≧2、かつy,w,v≧1であり、x+y≧3、z+w≧3、u+v≧3)
【0013】
本発明の金属ナノ粒子は、前記の何れかに記載のナノ粒子の表面修飾剤のチオール基と、金または銀とが吸着されていることを特徴とする。
また、本発明の金属ナノ粒子の他の特徴とするところは、前記の何れかに記載のナノ粒子の表面修飾剤のチオール基と、金とが吸着されており、さらに、前記ナノ粒子の表面修飾剤と前記金との間にピレンが内包されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のナノ粒子の表面修飾剤の製造方法は、第1のジヒドロキシ脂肪酸をシステアミドとアミド結合させてチオール化する工程と、前記チオール化された化合物と、前記第1のジヒドロキシ脂肪酸または前記第1のジヒドロキシ脂肪酸とは異なる第2のジヒドロキシ脂肪酸とを用いてエステル結合させ、樹状の化合物を生成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金などのナノ粒子に表面修飾剤を吸着させることにより、親水性の高い水酸基で密に覆われた表面と、疎水性の高い大きなアルキル鎖がまばらに並んだ内部とを有するため、様々な機能性を付与する表面修飾剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】修飾された金ナノ粒子の表面部分の構造例を示す図である。
【図2】樹状分子によって形成された疎水空間にピレンが可溶化している状態を示す図である。
【図3】本発明の実施例における金ナノ粒子のFTIRによるスペクトルの分析結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例における吸収分光光度計による金ナノロッドの吸収ピークの一例を示す図である。
【図5】本発明の実施例で作製した、濃度が1.0×10-5mol/lの金ナノロッドを示すSEM写真である。
【図6】本発明の実施例における銀ナノ粒子のFTIRによるスペクトルの分析結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例における金ナノ粒子溶液の濃度とピレンの蛍光強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、鋭意検討した結果、ジヒドロキシ脂肪酸に由来する樹状分子のカルボン酸末端側にチオール基を導入した表面修飾剤が分散安定化剤として、ナノ粒子を合成もしくは保存するために有効であることを見いだした。この表面修飾剤を添加することにより、ナノ粒子の表面に安定的な根としてチオール基が固定され、外部には多数の水酸基があることから親水性が高く、ナノ粒子同士で凝集することを防止することができる。さらに、この表面修飾剤がナノ粒子に固定されると、樹状分子の内部側には大きな空隙ができ、そこにはアルキル基などの疎水性部位が存在するため、生成したナノ粒子を例えばドラッグデリバリーシステムなどの機能性物質として応用することができる。
【0018】
ここで、ナノ粒子半径は最小で10nm、最大のもので300nm程度の粒径を有している。粒子半径は、調製する際の温度・濃度・反応時間などの実験条件に依存するが、数10nmサイズの粒径を有するナノ粒子は比較的容易に作成することができるという利点がある。
【0019】
本発明に用いるジヒドロキシ脂肪酸は、Cn2n-1(OH)2COOHという分子式をもつ飽和脂肪酸である。このジヒドロキシ脂肪酸は、通常は直鎖状の構造をしているが、水溶液に溶かすと、水酸基を境目にカルボキシル基側とアルキル基側とにU字型に折れ曲がった構造となる。これは、親水性の高い水酸基は水分子との水素結合により外側に向くようになり、疎水性の高いアルキル鎖の部分は水分子との相互作用を避けて内側に折れこむからである。このようにU字型の構造のジヒドロキシ脂肪酸を用いて樹状分子を合成すると、前述のように、親水性部位と疎水性部位とを併せ持つ構造となる。
【0020】
ここで、ジヒドロキシ脂肪酸の例として、nが5以上であれば何でもよい。なお、nが4以下の場合は、カルボニル基のβ位に水酸基が位置することから、比較的不安定な化合物となり、安定して表面修飾剤が得られないため、n≧5である必要がある。但し、nが24以上の場合は、脂肪酸が一般的に入手困難であり、さらには、2つの水酸基が付加されたジヒドロキシ脂肪酸を合成するために多くの手間及びコストがかかる。このため、5≦n≦23であることが好ましい。なお、本発明において用いるジヒドロキシ脂肪酸は、以下の化3に表される構造を有している。
【0021】
【化3】

(式中、x+y=n−2)
【0022】
このように、ジヒドロキシ脂肪酸の水酸基の位置によって、式中のx及びyが異なる。前述したように、カルボニル基のβ位に水酸基が位置すると、不安定な化合物となってしまう。一方、2つの水酸基が隣り合う第二級水酸基であると、親水基である水酸基が並んで外側へ位置するようになり、安定した構造となる。以上のことを踏まえ、水溶液中にU字型の構造を形成するようにするためには、x≧2、y≧1であり、かつ2つの水酸基が隣り合わせになることが必要である。
【0023】
なお、2つの水酸基が並んだ脂肪酸を合成する場合に、一価の不飽和脂肪酸を酸化して合成するため、本発明で用いるジヒドロキシ脂肪酸としては、合成及び入手が容易であるものがさらに好ましい。すなわち、原料として入手が容易な不飽和脂肪酸は、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、及びネルボ酸であることから、本発明で用いるジヒドロキシ脂肪酸としては、9,10−ジヒドロキシテトラデカン酸、9,10−ジヒドロキシヘキサデカン酸、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸、11,12−ジヒドロキシオクタデカン酸、9,10−ジヒドロキシイコサン酸、11,12−ジヒドロキシイコサン酸、13,14−ジヒドロキシドコサン酸、または15,16−ジヒドロキシテトラコサン酸であることがさらに好ましい。また、これらの列挙したジヒドロキシ脂肪酸は、いずれも脂肪酸の代謝過程において人間の体内で生じているものであるため、強い毒性を示すものではない。
【0024】
本発明のナノ粒子の表面修飾剤は、例えば、以下のような手順により作製することができる。
【0025】
まず、化3に表されるジヒドロキシ脂肪酸をシステアミンとアミド結合させてチオール基に変換し、以下の化4に表される第一世代型ジヒドロキシ脂肪酸安定化剤を生成する。
【0026】
【化4】

【0027】
次に、化4に表される化合物に、化3に表される化合物2分子分を用いてエステル結合させ、以下の化5に表される第二世代型樹状分子安定化剤を生成する。このとき、2分子分のジヒドロキシ脂肪酸を直接エステル結合させるのではなく、2分子分のジヒドロキシ脂肪酸の水酸基をt−ブチルジメチルシリル基(TBS基)に変換させた後にエステル結合する。
【0028】
【化5】

(式中、RはTBS基)
【0029】
そして、化5に表される化合物にメタノール等を加え、枝の先端部分(TBS基の部分)を水酸基にすることにより、以下の化6に表される樹状分子を生成する。
【0030】
【化6】

【0031】
以上のような手順により、樹状分子の表面修飾剤を生成することができるが、さらに親水性を有する水酸基や疎水性を有するアルキル基をより多くするために、同様の手順により以下の化7に表されるような第三世代型樹状分子安定化剤を生成することもできる。
【0032】
【化7】

【0033】
ここで、第二世代型や第三世代型樹状分子安定化剤を生成する場合に、必ずしも同一のジヒドロキシ脂肪酸を用いてエステル結合させる必要はない。例えば、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸を用いてチオール化した後に、11,12−ジヒドロキシイコサン酸を用いて第二世代型樹状分子安定化剤を生成してもよく、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸を用いて第二世代型樹状分子安定化剤を生成した後に、11,12−ジヒドロキシイコサン酸を用いて第三世代型樹状分子安定化剤を生成してもよい。但し、各世代では、異なるジヒドロキシ脂肪酸を用いると樹状分子の構造のバランスが失われるため、同一のジヒドロキシ脂肪酸を用いる必要がある。
【0034】
図1は、修飾された金ナノ粒子の表面部分の構造例を示す図である。
化6または化7に表される樹状分子に酢酸を加え、さらに、金(III)塩及び還元剤を加えると、樹状分子の末端であるチオール基と、金属ナノ粒子の表面とが反応し、図1に示すように、金ナノ粒子1の表面に樹状分子2の末端が結合され、樹状分子により修飾された金ナノ粒子を生成する。また、予め調整した樹状分子が修飾された金ナノ粒子溶液に金コロイド溶液を追加して金ナノ粒子を成長させると、金ナノロッドを得る。この修飾された金ナノ粒子は、図1に示すように、親水性の高い水酸基で密に覆われた表面と、疎水性の高いアルキル基がまばらに並んだ内部とで大きく異なる構造を有している。また、金の代わりに銀を用いると、樹状分子が修飾された銀ナノ粒子を生成する。
【0035】
図2は、樹状分子によって形成された疎水空間にピレンが可溶化している状態を示す図である。
図2に示すように、ピレンは疎水性の芳香族炭化水素であるため、修飾された金ナノ粒子にピレンを加えると、隣り合う樹状分子により形成されるアルキル基が並ぶ空間にピレンが内包し、会合体を形成する。
【0036】
また、樹状分子の材料として用いられるジヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の代謝物の一つであるため、毒性が低い。また、ナノ粒子として用いられる金も反応性の低い金属であり、重金属のような毒性を有していない。そこで、この特性を活かし、水に溶けにくい医薬品を疎水性の空間に取り込んだ医薬品の可溶化剤や、ドラッグデリバリー用の機能性材料として利用することが期待できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
(第1の実施例)
まず、以下の化8に表される9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸10gをジクロロメタン64mlに溶かし、この溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)7.8gとシステアミン3.0gとを混合し、室温で6時間放置した。そして、生じた沈殿をろ過したのち、得られたろ液に水100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化9に表される化合物を得た。このとき、収率は90%であった。
【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
次に、化8に表される9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸10gをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)64mlに溶かし、この溶液に炭酸カリウム5gと臭化ベンジル6.5gとを混合し、室温で12時間放置した。その後、反応容器に5%リン酸水溶液100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化10に表される化合物を得た。このとき、収率は86%であった。
【0041】
【化10】

(式中、Bnはベンジル基)
【0042】
さらに、得られた化10に表される化合物10gに、イミダゾール4g、塩化t−ブチルジメチルシリル8g、およびDMF50mlを混合し、50℃に保ちつつ24時間放置した。その後、反応容器に5%リン酸水溶液100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。次に、得られた生成物にメタノール240mlとパラジウム炭素(PD/C)500mgとを添加し、水素雰囲気において室温で12時間放置した。そして、反応溶液をセライトろ過してパラジウム炭素を取り除いたのち、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化11に表される化合物を得た。このとき、収率は85%であった。
【0043】
【化11】

(式中、RはTBS基)
【0044】
次に、化11に表される化合物12gをジクロロメタン220mlに溶かした溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)5gを加えて撹拌し、懸だく液とした。さらに、化9に表わされる化合物3.8gと、触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)1gとを混合し、室温で12時間放置した。そして、生じた沈殿をろ過したのち、得られたろ液に水100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。そして、すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化12に表される化合物を得た。このとき、収率は80%であった。
【0045】
【化12】

(式中、RはTBS基)
【0046】
さらに、化12に表される化合物11gに酢酸100mlを混合し、50℃に保ちつつ24時間放置した。その後、酢酸を減圧溜去し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化13に表される第二世代型樹状分子安定化剤を得た。このとき、収率は73%であった。
【0047】
【化13】

【0048】
次に、濃度が1.0×10-2mol/lの化6に表される樹状分子の水溶液5.0mlと、濃度が5.0×10-4mol/lのテトラクロロ金(III)酸水溶液5.0mlと、還元剤として1.0×10-2mol/lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.6mlとを混合し、5℃に冷却して1時間放置した。そして、パーキンエルマー社製のフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて吸収ピークを測定した。
【0049】
図3は、本実施例における金ナノ粒子のFTIRによるスペクトルの分析結果を示す図である。
図3に示すように、化13に表される樹状分子の末端に位置するチオール基のピークν(SH)が見られなかった。このことから、樹状分子のチオール基が金ナノ粒子の表面と化学吸着を起こし、樹状分子が安定化剤として機能していることがわかる。
【0050】
次に、1.0×10-2mol/lの化13に表す樹状分子の水溶液5.0mlと、5.0×10-4mol/lのテトラクロロ金(III)酸水溶液5.0mlと、4.0×10-3mol/lの硝酸銀水溶液0.2mlと、7.9×10-2mol/lのアスコルビン酸70μlとを混合し、前述の手順により作製された、濃度の異なる5種類の修飾安定剤が吸着した金ナノ粒子溶液12μlにそれぞれ添加した。そして、日立製の吸収分光光度計を用いて金ナノロッドの吸収ピークを測定した。
【0051】
図4は、本実施例における吸収分光光度計による金ナノロッドの吸収ピークの一例を示す図である。図4において、最も濃度が高いナノ粒子溶液の濃度を100とした場合に、金ナノ粒子溶液に添加しなかった場合の吸収ピーク11、濃度の割合が20である金ナノ粒子溶液の吸収ピーク12、濃度の割合が60である金ナノ粒子溶液の吸収ピーク13、濃度の割合が80である金ナノ粒子溶液の吸収ピーク14、及び最も濃度が高い金ナノ粒子溶液の吸収ピーク15、の5種類の試料について測定した。
【0052】
図4に示すように、樹状分子の濃度が増加するに従って、吸収ピークが長波長側にシフトしていることから、濃度が増加するとアスペクト比がより大きな金ナノロッドが得られている。
【0053】
図5は、本実施例で作製した、濃度が1.0×10-5mol/lの金ナノロッドを示すSEM写真である。
図5に示すように、本実施例で作製した金ナノロッドは、長軸方向a及び短軸方向bの長さが異なるという特徴があった。図4の吸収スペクトルに観測される520nm〜530nm付近の吸収バンドは、金ナノロッドの短軸成分に対応しており、示している金ナノロッドの場合10nmであった。一方、780nm〜800nm領域に観測される吸収バンドは長軸成分に対応しており、示しているナノロッドの長さは40nm〜50nmであった。なお、アスペクト比(a/b)が大きくなるにつれて長軸がより長くなり、吸収スペクトルの吸収ピークがより長波長域にシフトし、最大1300nm付近までシフトすることが知られている。
【0054】
前述の例では、ナノ粒子として金を用いた例について説明したが、同様に銀のナノ粒子についても実験を行った。1.0×10-2mol/lの化13に表される化合物(第一世代型ジヒドロキシ脂肪酸安定化剤)の水溶液5.0mlと、5.0×10-4mol/lの銀水溶液5.0mlと、還元剤として1.0×10-2mol/lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.6mlとを混合し、5℃に冷却して1時間放置した。そして、同様に、パーキンエルマー社製のFTIRを用いて吸収ピークを測定した。
【0055】
図6は、本実施例における銀ナノ粒子のFTIRによるスペクトルの分析結果を示す図である。
図6に示すように、測定の結果、2550cm-1付近のチオール基の吸収帯が消失していることから、樹状分子が銀ナノ粒子表面に結合していることがわかる。このように、これらの銀ナノ粒子においても、表面修飾剤として銀ナノ粒子の表面に吸着していることが確認できた。
【0056】
次に、前述の手順で作製した、表面修飾剤が吸着した金ナノ粒子溶液5mlを異なる濃度で複数種類作製してそれぞれにピレン1.0×10-3gを混合し、パーキンエルマー社製の蛍光分光光度計を用いてピレンの蛍光強度を測定した。
【0057】
図7は、本実施例における金ナノ粒子溶液の濃度とピレンの蛍光強度との関係を示す図である。
図7に示すように、樹状分子が吸着した金ナノ粒子の濃度が大きくなるに従い、ピレンの蛍光強度が増大した。これは、図2に示すように、樹状分子が増加するに従ってアルキル基が並ぶ疎水性領域が増え、その分ピレンが可溶化して会合体を形成していることを示している。すなわち、表面修飾剤に疎水性領域が存在していることを示している。
【0058】
(第2の実施例)
化11に表される化合物12gをジクロロメタン220mlに溶かした溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)5gを加えて撹拌し、懸だく液とした。さらに、化10に表される化合物4.1gと、触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)1gとを混合し、室温で12時間放置した。そして、生じた沈殿をろ過したのち、得られたろ液に水100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化14に表される化合物を得た。このとき、収率は78%であった。
【0059】
【化14】

(式中、RはTBS基であり、Bnはベンジル基)
【0060】
次に、化14に表される化合物11gにメタノール750mlとパラジウム炭素(Pd/C)750mgを添加し、水素雰囲気において室温で12時間放置した。そして、反応溶液をセライトろ過してパラジウム炭素を取り除いたのち、ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化15に表される化合物を得た。このとき、収率は85%であった。
【0061】
【化15】

(式中、RはTBS基)
【0062】
次に、化15に表される化合物8.2gをジクロロメタン60mlに溶かした溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)1.4gを加えて撹拌し、懸だく液とした。さらに、化9に表わされる化合物1.1gと、触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)1gとを混合し、室温で12時間放置した。そして、生じた沈殿をろ過したのち、得られたろ液に水100mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化16に表される化合物を得た。このとき、収率は66%であった。
【0063】
【化16】

(式中、RはTBS基)
【0064】
次に、化16に表される化合物6.1gにフッ化テトラブチルアンモニウムの1.0 mol/Lテトラヒドロフラン(THF)溶液20mlを加え、50℃に保ちつつ24時間放置した。そして、反応溶液に水50mlを加え、ジクロロメタン100mlで3回抽出した。すべての有機層を混合し、硫酸マグネシウム約10gで乾燥させたのちに濃縮し、得られた生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、以下の化17に表される第三世代樹状分子安定化剤を得た。このとき、収率は73%であった。
【0065】
【化17】

【0066】
次に、濃度が1.0×10-2 mol/lの化17に表わす第三世代型樹状分子安定化剤の水溶液5.0mlと、濃度が5.0×10-4 mol/lのテトラクロロ金(III)酸水溶液5.0mlと、還元剤として1.0×10-2mol/lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.6mlとを混合し、5℃に冷却して1時間放置した。そして、日立製の吸収分光光度計を用いて金ナノ粒子の吸収ピークを測定した。測定の結果、実施例1と同様に、化17に表される第三世代型の樹状分子の末端に位置するチオール基のピークν(SH)が見られず、第三世代型の場合も樹状分子のチオール基が金ナノ粒子の表面と化学吸着を起こし、樹状分子が安定化剤として機能している。
【0067】
以上のように本実施例によれば、金または銀のナノ粒子に表面修飾剤を吸着させることにより、親水性の高い水酸基で密に覆われた表面と、疎水性の高いアルキル鎖がまばらに並んだ内部とを有するため、様々な機能性を付与する表面修飾剤を提供することができるといえる。
【符号の説明】
【0068】
1 金ナノ粒子
2 樹状分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1に表される構造を有することを特徴とするナノ粒子の表面修飾剤。
【化1】

(式中、x,z≧2、かつy,w≧1であり、x+y≧3、z+w≧3)
【請求項2】
前記xとzとが同じ値であるとともに、前記yとwとが同じ値であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の表面修飾剤。
【請求項3】
化2に表される構造を有することを特徴とするナノ粒子の表面修飾剤。
【化2】

(式中、x,z,u≧2、かつy,w,v≧1であり、x+y≧3、z+w≧3、u+v≧3)
【請求項4】
前記xとzとuとが同じ値であるとともに、前記yとwとvとが同じ値であることを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子の表面修飾剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のナノ粒子の表面修飾剤のチオール基が、金または銀に吸着されていることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載のナノ粒子の表面修飾剤のチオール基が、金に吸着されており、さらに、前記ナノ粒子の表面修飾剤と前記金との間にピレンが内包されていることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項7】
第1のジヒドロキシ脂肪酸をシステアミドとアミド結合させてチオール化する工程と、
前記チオール化された化合物と、前記第1のジヒドロキシ脂肪酸または前記第1のジヒドロキシ脂肪酸とは異なる第2のジヒドロキシ脂肪酸とを用いてエステル結合させ、樹状の化合物を生成する工程とを有することを特徴とするナノ粒子の表面修飾剤の製造方法。
【請求項8】
前記第1のジヒドロキシ脂肪酸及び第2のジヒドロキシ脂肪酸はそれぞれ、9,10−ジヒドロキシテトラデカン酸、9,10−ジヒドロキシヘキサデカン酸、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸、11,12−ジヒドロキシオクタデカン酸、9,10−ジヒドロキシイコサン酸、11,12−ジヒドロキシイコサン酸、13,14−ジヒドロキシドコサン酸、または15,16−ジヒドロキシテトラコサン酸であることを特徴とする請求項7に記載のナノ粒子の表面修飾剤の製造方法。
【請求項9】
前記樹状の化合物を生成する工程においては、さらに、前記第1のジヒドロキシ脂肪酸、または前記第2のジヒドロキシ脂肪酸、もしくは前記第1のジヒドロキシ脂肪酸及び第2のヒドロキシ脂肪酸とは異なる第3のジヒドロキシ脂肪酸を用いてエステル結合させることを特徴とする請求項7又は8に記載のナノ粒子の表面修飾剤の製造方法。
【請求項10】
前記第3のジヒドロキシ脂肪酸は、9,10−ジヒドロキシテトラデカン酸、9,10−ジヒドロキシヘキサデカン酸、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸、11,12−ジヒドロキシオクタデカン酸、9,10−ジヒドロキシイコサン酸、11,12−ジヒドロキシイコサン酸、13,14−ジヒドロキシドコサン酸、または15,16−ジヒドロキシテトラコサン酸であることを特徴とする請求項9に記載のナノ粒子の表面修飾剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−93013(P2011−93013A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246933(P2009−246933)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(509298171)サンメーケミカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】