説明

ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法

【課題】本発明は、生体認識標識蛍光材料として利用可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】デンドリマーDENとナノ粒子NPとからなるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体であって、デンドリマーDENが、2つのアミノ基を有する中心分子Mと、中心分子Mの前記アミノ基に結合する4つのデンドロン分子Rとからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子であり、デンドリマーDENに設けられた空洞部Cにナノ粒子NPを包接して、前記デンドリマーDENが光励起により発光可能とされているナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENを用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デンドリマーとは、コア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成され、前記中心分子から外側に向けて、デンドロンが規則的に分岐した構造を持つ樹状高分子である。デンドロン部分の分岐回数を世代(ジェネレーション、generation)と言う。なお、金属又は合金のナノ粒子を包接したデンドリマーの前記ナノ粒子をメタルコアという場合がある。
ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体とは、内部にナノ粒子を包接するデンドリマーであり、光励起により蛍光を発する材料をいう。
【0003】
ナノ粒子とデンドリマーとからなる複合体に関する発明にはいくつか報告がある。
例えば、特許文献1は、金属含有デンドリマーに関するものであり、核の一部に金属カチオンを有する有機金属デンドリマーを含有する発光装置が開示されており、前記デンドリマーが発光層である構成が記載されている。
また、特許文献2は、デンドリマー系ナノ構造スポンジと金属の複合体に関するものであり、共重合デンドリマーを有する架橋物において、前記共重合デンドリマーの親水性内部がポリアミドアミン等からなり、金属カチオン等を有する構成が記載されている。
また、特許文献3は、蛍光体ナノ粒子複合体及びそれを用いた多色蛍光検出方法に関するものであり、可視光で発光する蛍光体ナノ粒子を含む構成が記載されている。
【0004】
ところで、緑色蛍光プロテインは、生体適合性があるので、生体の蛍光標識として、診断手段の一つとして利用されている(非特許文献5〜7)。緑色蛍光プロテインは、免疫原性のために、使用が制限される場合がある。
【0005】
デンドロンがポリアミドアミン(poly(amideamine):以下、PAMAMという)のPAMAMデンドリマーは、非免疫原性で、生体適合性を有し、水溶性である。また、PAMAMデンドリマー表面は、OH基、NH基、COOH基など、多彩な官能基を有するため、生体認識分子で表面を修飾することにより(非特許文献1)、標的癌細胞の選択的イメージング等するための標識材料に利用できる可能性がある(非特許文献2〜4)。
しかし、PAMAMデンドリマー自体の青色蛍光は弱いので(非特許文献8〜10)、標識材料としての利用が行われた例はない。
【0006】
第2世代で、外側の末端基がOH基であるG2−OH−PAMAMデンドリマーは、ナノドットのような蛍光体がなくても、過硫酸で酸性溶液としたとき、青色蛍光を発すること、及び、このフィルムもまた、電気化学的に酸性化されたとき、青色蛍光を発する(非特許文献11)。
しかし、PAMAMデンドリマーの蛍光強度を向上させるために、毒性のある酸性溶液を用いたり、電気化学的に酸化する特別な取り扱いを必要とするので、取り扱いが容易ではない。
【0007】
第8世代で、外側の末端基がNH基であるG8−NH−PAMAMデンドリマーは、CdSナノドットを包接し、それが強い青色蛍光を発する(非特許文献12)。しかし、ナノドットの原料であるCdSは高い毒性を有するため、この材料を生体標識材料として利用することはできない。
また、第4世代で、外側の末端基がOH基であるG4−OH−PAMAMデンドリマーは、金ナノドットを包接し、それが強い青色蛍光を発し、その発光量子効率が、これまで合成された金ナノドットや金クラスターよりも100倍程度高い(非特許文献13〜15)。
しかし、この材料の蛍光は、包接されたナノドットのバンド間遷移によるものであり、PAMAMデンドリマーはナノドットを分散させる界面活性剤の役割であり、発光に寄与しない。
【0008】
PAMAMデンドリマーの多くがAu、Ag、Pt、Pd、Cuのような様々な純金属および/またはAgAu、AuCu、PdPt、PdCu、PdAuのような二元金属のナノ粒子を包接できる(非特許文献15、16)。
しかし、それ自身蛍光性を有しないナノ粒子を包摂したPAMAMデンドリマーで、30%以上の量子効率の青色発光を示すものはなかった(非特許文献15、16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−141358号公報
【特許文献2】特開平11−263837号公報
【特許文献3】特開2009−256530号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.K.J.Patri,U.J.Majoros,J.Baker,J.Curr Opin Chem Biol.2002,6,466.
【非特許文献2】J.F.Kukowska−Latallo,K.A.Candido,Z.Cao,S.S.Nigavekar,I.J.Majoros,T.P. Thomas,L.P.Balogh,M.K.Khan,J.R.Baker,Cancer Res.2005,65,5317.
【非特許文献3】I.J.Majoros,A.Myc,T.Thomas,C. B.Mehta,J.R.Baker,Biomacromolecules 2006,7,572.
【非特許文献4】E.C.Wiener,S.Konda,A.Shadron, M.Brechbiel,O.Gansow,Invest.Radiol.1997, 32,748.
【非特許文献5】S.J.Remington,Curr.Opin.Struct.Biol.2006,16,714.
【非特許文献6】N.C.Shaner,M.Z.Lin,M.R.McKeown,P.A.Steinbach,K.L.Hazelwood,M.W.Davidson,R.Y.Tsien,Nat.Methods 2008,5,545.
【非特許文献7】K.F.Sullivan,in Fluorescent Proteins,Book Series: Methods in Cell Biology,Vol.85,2nd ed,Academic Press,Amsterdam 2008.
【非特許文献8】G.Pistolis,A.Malliaris,C.M.Paleos,D.Tsiourvas,Langmuir 1997,13,5870.
【非特許文献9】O.Varnavski,R.G.Ispasoiu,L.Balogh,D.Tomalia,T.Goodson III,J.Chem. Phys.2001,114,1962.
【非特許文献10】C.L.Larson,S.A.Tucker,Appl.Spectrosc.2001,55,679.
【非特許文献11】W.I.Lee,Y.Bae,A.J.Bard,J.Am.Chem.Soc.2004,126,8358.
【非特許文献12】X.C.Wu,A.M.Bittner,K.Kern,J. Phys.Chem.B2005,109,230.
【非特許文献13】J.Zheng,J.T.Petty,R.M.Dickson,J.Am.Chem.Soc.2003,125,7780.
【非特許文献14】S.Link,A.Beeby,S.FitzGerald, M.A.El−Sayed,T.G.Schaaff,R.L.Whetten,J.Phys.Chem.B2002 106,3410.
【非特許文献15】M.Zhao,R.M.Crooks,Angew.Chem.Int.Ed.1999,38,364.
【非特許文献16】H.Abe,F.Matsumoto,L.R.Alden,S.C.Warren,D.H.Abruna,J.DiSalvo,J.Am.Chem.Soc.2008,130,5452.
【非特許文献17】G.Saravanan,H.Abe,Y.Xu,N.Sekido,H.Hirata,S−I.Matsumoto,H.Yoshikawa,Y.Yamaba−Mitarai Langmuir,2010,26,11446.
【非特許文献18】O.Ozturk,T.J.Black,K.Perrine, K.Pizzolato,C.T.Williams,F.W.Parsons,J.S.Ratliff,J.Gao,C.J.Murphy,H.Xie,H.J.Ploehn,D.A.Chen,Langmuir,2005,21,3998.
【非特許文献19】D.Liu,J.Gao,C.J.Murphy,C.T.Williams,J.Phys.Chem.B2004,108,12911.
【非特許文献20】S.M.Barlow,S.Haq,R.Ravel,Langmuir 2001,17,3292.
【非特許文献21】A.Manna,T.Imae,K.Aoi,M.Odada, T.Yogo,Chem.Mater.2001,13,1674.
【非特許文献22】G.Socrates,in Infrared and Raman Characteristic Group Frequencies:Tables and Charts,3rd ed,Wiley,Chichester, 2001.
【非特許文献23】R.M.Crooks.,M.Zhao,L.Sun.,V.Chechik.,L.K.Yeung,Accounts of Chemical Research,2001,34,181.
【非特許文献24】J.P.Fackler,in Inorganic Synthesis,Vol.XXI,Wiley and Sons,New York,1982,p135.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、生体標識蛍光材料として利用可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、これまでに合成されたデンドリマーと金属粒子の複合体では、金属粒子がデンドリマー内部のN原子と結合するため、デンドリマーの蛍光中心に対する金属粒子からの電荷の供与が行われず、十分な蛍光強度が得られないのではないかと推察した。
いくつかのペプチド分子は、酸素と金属表面との親和性が高い金属表面に吸着する際、N原子ではなく、アミド基の酸素原子(アミド酸素と呼ぶ)を介して供与結合を形成することが知られている(非特許文献17:トリペプチド(Tri−L−alanineとTri−L−leucine)のCuの{110}面への吸着)。
そこで、本発明者らは、高度な熱・化学安定性を備えた白金族元素と、酸素に対して親和性が高い早期遷移元素金属とを組み合わせた金属間化合物ナノ粒子を合成し、これをデンドリマーに包摂させることができれば、アミド酸素とナノ粒子との間の相互作用を介して金属間化合物ナノ粒子からデンドリマーの蛍光中心に電荷が供与される結果、デンドリマーの蛍光強度を向上させることができると推察して、本発明に至った。
本発明は、以下の構成を有する。
【0013】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は、デンドリマーとナノ粒子とからなるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体であって、前記デンドリマーが、2つのアミノ基を有する中心分子と、前記中心分子のアミノ基に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子であり、前記デンドリマーに設けられた空洞部に前記ナノ粒子を包接して、前記デンドリマーが光励起により発光可能とされていることを特徴とする。
【0014】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は、前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されていることが好ましい。
【0015】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を、2つのアミノ基を有する中心分子と前記アミノ基で前記中心分子に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示されるデンドリマーを分散させた水溶液に混合して、混合溶液を調整する工程と、前記混合溶液を攪拌して、前記デンドリマーに設けられた前記空洞部に前記ナノ粒子を包接させて、光励起により発光可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を製造する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は、デンドリマーとナノ粒子とからなるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体であって、前記デンドリマーが、2つのアミノ基を有する中心分子と、前記中心分子のアミノ基に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子であり、前記デンドリマーに設けられた空洞部に前記ナノ粒子を包接して、前記デンドリマーが光励起により発光可能とされている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を製造することができる。また、デンドロン分子の末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
【0018】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は、前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を製造することができる。また、デンドロン分子の末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
【0019】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を、2つのアミノ基を有する中心分子と前記アミノ基で前記中心分子に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示されるデンドリマーを分散させた水溶液に混合して、混合溶液を調整する工程と、前記混合溶液を攪拌して、前記デンドリマーに設けられた前記空洞部に前記ナノ粒子を包接させて、光励起により発光可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を製造する工程と、を有する構成なので、可視光で高効率に発光する蛍光体を容易に製造することができる。また、デンドロン分子の末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることが可能な蛍光体を容易に製造することができる。
【0020】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されている構成なので、可視光で高効率に発光する蛍光体を容易に製造することができる。また、デンドロン分子の末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることが可能な蛍光体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の一例を示す概略図である。
【図2】本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図3】本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図4】本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の合成のスキームの一例を示す概略図である。
【図5】UHV−STEM像(はめ込み写真)と、前記UHV−STEM像中の矢印で示した位置のPtTiのナノ粒子のEPMAプロファイルである。
【図6】PtTiのナノ粒子のpXRDプロファイル及び「PtTi」相において乱雑化シミュレーションを行った結果得られたpXRDのピーク値である。
【図7】PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びG5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液のUV−可視吸収スペクトルである。
【図8】PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びG5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液の発光スペクトル及び励起スペクトルである。
【図9】PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体のHAADF−TEMの測定結果を示す図である。
【図10】PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体とG5−OH−PAMAMデンドリマーのFTIRの測定結果を示すグラフである。
【図11】PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体とG5−OH−PAMAMデンドリマーのHX−PESスペクトルである。
【図12】カーボンブラック、G5−OH−PAMAMデンドリマーに混合したカーボンブラック及びPtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体に混合したカーボンブラックの282〜287eVの範囲のHX−PESスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法を説明する。
【0023】
<ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体>
まず、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体について説明する。
図1は、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の一例を示す概略図である。
図1に示すように、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドリマーDENと、デンドリマーDENの空洞部Cに包接されたナノ粒子NPとから構成されている。
デンドリマーDENとしてはG3−OH−PAMAMデンドリマーが用いられており、ナノ粒子NPとしてはPtTiのナノ粒子が用いられている。
【0024】
デンドリマーDENは、2つのアミノ基を有する中心分子Mと、中心分子Mのアミノ基に結合する4つのデンドロン分子Rとからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子である。
【0025】
デンドロン分子Rは、アミノ基を有する単位分子Rと、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子Rとからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子である。
【0026】
4つのデンドロン分子Rは、それぞれ単位分子Rのアミノ基に別の単位分子Rが分岐結合されている。そして、最外殻側で末端分子Rが分岐結合されている。これにより、4つのデンドロン分子Rは、それぞれ、中心分子MからデンドリマーDENの外側に向けて、規則的に、かつ、樹枝状に伸長されている。
【0027】
分岐結合の回数が1以上10以下であることが好ましい。これにより、デンドロン分子R間並びにその内部に空洞部Cを少なくとも1以上設けることができる。
【0028】
中心分子Mは、エチレンジアミン、1、4−ジアミノブタン、1、6−ジアミノヘキサン、1、12−ジアミノドデカン又はシスタミンの群から選ばれる一の分子であることが好ましい。これにより、所望の大きさのデンドリマーDENとすることができる。
【0029】
デンドロン分子Rは、アミド酸素を有していることが好ましい。これにより、アミド酸素で取り囲まれた空洞部Cを形成することができる。また、空洞部Cにナノ粒子NPを取り込んだ時に、アミド酸素でナノ粒子NPを配位結合して、ナノ粒子Cを安定して包接させることができるとともに、アミド基を発光部位に利用するデンドリマーDENの発光を安定化できる。特に、6つのアミド酸素で取り囲まれてなる空間である空洞部Cを形成することにより、ナノ粒子NPをより安定して包接させることができる。
【0030】
デンドロン分子Rは、ポリ(アミドアミン)又はポリ(プロピレンイミン)のいずれかの分子であることが好ましい。
ポリ(アミドアミン)又はポリ(プロピレンイミン)は、アミド酸素を有しているので、ナノ粒子を包接した時に、配位結合により安定してナノ粒子を保持することができる。これにより、ナノ粒子NPを安定して包接でき、アミド基を発光部位に利用するデンドリマーDENの蛍光発光を強めることができる。
【0031】
中心分子M及び単位分子Rはアミノ基を有することが好ましい。アミノ基の水素を別の単位分子R又は末端分子Rで置換して、ターシャリーアミノ基で分岐結合する構成とすることにより、中心側から最外殻側に向けて樹枝状に分岐結合されたデンドリマーDENを容易に形成することができる。
【0032】
デンドリマーDENの大きさは、2nm以上10nm以下であることが好ましい。これにより、デンドロン分子R間並びにその内部に、1.1nm以上1.8nm以下のナノ粒子を包接可能な大きさの空洞部Cを少なくとも1以上設けることができる。デンドリマーDENの大きさは、単位分子Rの数を調整することによって、容易に制御することができる。
また、デンドリマーDENをこの大きさとすることにより、生体標識材料としての取り扱いを容易にすることができる。
【0033】
図1に示すように、末端分子Rの末端基はOH基とされている。しかし、これに限られるものではなく、末端分子RはOH基、NH基又はCOOH基のいずれかの置換基であればよい。
これらの基は容易に任意の置換基に容易に変更可能なので、用途に合わせて他の置換基に変更することにより、その用途の為の、DDS、または、生体認識のための蛍光標識として用いることができる。このように、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は、様々な生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
【0034】
末端分子Rとしては、例えば、アミドエタノール、アミドエチルエタノールアミン、アミノヘキシルアミド、ヘキシルアミド等を挙げることができる。
【0035】
デンドリマーDENとしては、より具体的には、例えば、G2−OH−PAMAMデンドリマー、G3−OH−PAMAMデンドリマー、G4−OH−PAMAMデンドリマー、G5−OH−PAMAMデンドリマー、G6−OH−PAMAMデンドリマー、G2−NH−PAMAMデンドリマー、G3−NH−PAMAMデンドリマー、G4−NH−PAMAMデンドリマー、G5−NH−PAMAMデンドリマー、G6−NH−PAMAMデンドリマー、G2−COOH−PAMAMデンドリマー、G3−COOH−PAMAMデンドリマー、G4−COOH−PAMAMデンドリマー、G5−COOH−PAMAMデンドリマー、G6−COOH−PAMAMデンドリマー等を挙げることができる。
例えば、G3−OH−PAMAMデンドリマーの大きさは、3.6nmであり、図1に示すように、6つのアミド酸素に取り囲まれた空間からなる空洞部Cが設けられている。
【0036】
ナノ粒子NPは、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子であることが好ましい。
これらの元素は酸素により安定して包接されることが可能であるので、デンドリマーDENの空洞部Cにナノ粒子NPを安定して包接させることができ、デンドロン分子Rを蛍光発光させることができる。
特に、IV族の金属は、酸素により安定して包接され易く、VIII族の金属は安定性が高いので、これらの金属を含む合金は、粒子径を小さくしても安定性の高い合金からなるナノ粒子を形成でき、かつ、このナノ粒子をアミド酸素と配位結合させて、アミド基を発光部位に利用するデンドリマーDENの蛍光発光を強めることができる。
【0037】
ナノ粒子NPの粒径が1.1nm以上1.8nm以下であることが好ましい。
これにより、空洞部Cにナノ粒子を安定して包接することができ、デンドロン分子Rを蛍光発光させることができる。
【0038】
空洞部Cの径は、1.1nm以上1.8nm以下のナノ粒子NPを包接可能な大きさであることが好ましい。これにより、1.8nm以下のナノ粒子NPを空洞部C内に安定して保持することができる。
なお、空洞部Cとは、デンドロン分子間又はデンドロン分子内に形成される空間であって、少なくとも6つのアミド酸素に取り囲まれた空間である。デンドロン分子は様々な外力等に応じて変形するので、デンドロン分子間又は分子内に形成される空洞部Cも変形する。空洞部Cの径は、その空間の最大径を意味する。
【0039】
空洞部C内で、アミド酸素にナノ粒子NPが配位結合されていることが好ましい。
これにより、ナノ粒子NPを安定して包接でき、デンドロン分子の安定性が高めて、アミド基を含む部位を発光部位として利用するデンドリマーDENの蛍光発光を強めることができる。
また、PtTiのナノ粒子(PtTi NP)を空洞部に包接したとき、発光に寄与する部位が、他のデンドロン分子Rにより取り囲まれる構成なので、濃度消光等の影響を無くして、発光効率を高くすることができる。
次に、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法について説明する。
【0040】
<ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法>
図2及び図3に示すように、本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、ナノ粒子合成工程S1と、混合溶液調整工程S2と、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体製造工程S3とを有する。
【0041】
{ナノ粒子合成工程S1}
ナノ粒子合成工程S1は、2種以上の有機金属ハロゲン化物を有機溶媒に分散して前駆体溶液を調製してから、前記前駆体溶液をテトラヒドロフラン溶液に混合・攪拌して、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を合成する工程である。
【0042】
まず、2種以上の有機金属ハロゲン化物を有機溶媒に分散させて、前駆体溶液を調整する。前記有機金属ハロゲン化物としては、例えば、Pt(1,5−シクロオクタジエン)Cl(Pt(COD)Clと略す)及びTiCl(テトラヒドロフラン)(TiCl(THF)と略す)を挙げることができる。
なお、TiCl(THF)は、TiClから合成できる。
【0043】
次に、THFを蒸留して、THF中の酸素と水分を除去してから、ナトリウムとナフタレドをTHFに分散させて、ナトリウムナフタレドのTHF溶液を調製してから、図2(a)に示すように、ナトリウムナフタレドのTHF溶液を2−ネックフラスコに注入する。
また、図2(a)に示すように、ネックをシール又はライン接続して、化学材料及び溶媒は常に乾燥アルゴン雰囲気の下で取り扱う。
【0044】
次に、図2(b)に示すように、前記ナトリウムナフタレドのTHF溶液にシリンジ中の前記前駆体溶液を注入して、混合溶液を調製する。
次に、前記混合溶液を一定時間室温でスピンバー等を用いて攪拌する。前記一定時間としては、例えば24時間とする。これにより、図2(c)に示すように、PtTiのナノ粒子からなる沈殿物(PtTiNps)が得られる。
【0045】
次に、図2(d)に示すように、前記混合溶液に溶媒を注入する。
次に、図2(e)に示すように、超音波を印加する。
次に、図2(f)に示すように、前記混合溶液を2−ネックフラスコから遠心分離管に排出する。
次に、図2(g)に示すように、前記混合溶液を遠心分離する。
次に、図2(h)に示すように、シリンジで溶液を取り除く。これにより、遠心分離管の内部にナノ粒子の沈殿物が得られる。
この方法では、通常、径が1.0nm以上4.0nm以下である金属又は合金からなるナノ粒子が合成される。
【0046】
なお、ナノ粒子の合成方法はこれに限られるものではなく、径が1.1nm以上1.8nm以下である金属、合金又は金属間化合物からなるナノ粒子を製造する方法であれば、他の方法を用いて合成してもよい。径が1.1nm以上1.8nm以下であって、純金属、合金または金属間化合物からなるナノ粒子があれば、それらを空洞部Cのアミド酸素に安定して包接させて、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を製造することができるためである。
【0047】
{混合溶液調整工程S2}
まず、ガラスバイアル中に、デンドリマーの水溶液を調整する。
デンドリマーとしては、2つのアミノ基を有する中心分子Mと、前記アミノ基で中心分子Mに結合する4つのデンドロン分子Rとからなり、一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示されるデンドリマーを挙げることができる。
【0048】
デンドロン分子Rが、アミノ基を有する単位分子Rと、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子Rとからなる分子であって、単位分子Rのアミノ基に別の単位分子R又は末端分子Rが分岐結合されて、樹枝状に伸長された一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であることが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態では、水溶液を用いたが、デンドリマーを高度に分散させるものであれば特に限定されず、例えば、メタノールなどが混合されていてもよい。メタノールは、乾燥アルゴン(Ar)でバブリングをして脱気することが好ましい。
【0050】
次に、図3(a)に示すように、デンドリマーDENの水溶液に、前工程で製造したナノ粒子NPを分散させて混合溶液を調製する。
図3(b)は図3(a)の拡大模式図であり、混合溶液中に、デンドリマーと、前工程で製造したナノ粒子とが分散されている。
【0051】
{ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体製造工程S3}
次に、前記混合溶液を一定時間攪拌する。これにより、図3(b)から図3(c)に示すように、デンドリマーにナノ粒子が取り込まれ、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体が製造される。
前記一定時間とは、例えば、8日間であり、攪拌処理は、特に限定されるものではなく、例えば、スピンバーで攪拌する処理などを挙げることができる。
【0052】
なお、攪拌処理の際、混合溶液の温度は10℃以上30℃以下とすることが好ましい。混合溶液の温度を10℃以上30℃以下とすることにより、デンドリマーの空洞部へのナノ粒子の物理的な取り込み確率を高めることができる。
【0053】
次に、前記攪拌処理後、図3(d)に示すように、前記混合溶液を遠心分離する。これにより、図3(e)に示すように、ナノ粒子を集積体にして沈殿させることができる。
攪拌処理により、デンドリマーの空洞部にナノ粒子が取り込まれ、その後、アミド酸素の配位結合により安定性高く包接されて、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体が製造される。これにより、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体は光励起により発光可能となる。
次に、図3(f)に示すように、シリンジにより、上澄み液を採取する。これにより、前記上澄み液中にナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を集めることができる。
【0054】
図4は、前記攪拌処理におけるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の合成のスキームの一例を示す概略図である。デンドリマーとして「G5−OH−PAMAM」を用い、ナノ粒子として「PTTi NP」を用い、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体として「PTTi DENs」が製造された例を示している。
【0055】
以上の工程により、発光効率が高く、光励起により可視光発光する、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENを容易に製造することができる。
この、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、より生体選択性を有する蛍光体にでき、蛍光標識等に用いることが可能である。
【0056】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドリマーDENとナノ粒子NPとからなるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENであって、デンドリマーDENが、2つのアミノ基を有する中心分子Mと、中心分子Mのアミノ基に結合するデンドロン分子Rとからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子であり、デンドリマーDENに設けられた空洞部Cにナノ粒子NPを包接して、デンドリマーDENが光励起により発光可能とされている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を、生体診断・治療に適した水溶液の形態で提供できる。また、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
また、空洞部Cにナノ粒子NPを保持する構成なので、蛍光中心を単位分子Rにより外界から立体化学的に保護することができる。このため、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、外部条件の変化によらず、長期間、安定な蛍光特性を保つことができる。特に、デンドロン分子Rが、ターシャリーアミノ基で分岐結合された2以上の同一の分子構造の単位分子Rにより形成され、上記効果を高めることができる。
【0057】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドロン分子Rが、アミノ基を有する単位分子Rと、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子Rとからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、単位分子Rのアミノ基に別の単位分子R又は末端分子Rが分岐結合されて、樹枝状に伸長されている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を、生体診断・治療に適した水溶液の形態で提供できる。また、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
【0058】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、前記分岐結合の回数(世代)が1以上10以下である構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を、生体診断・治療に適した水溶液の形態で提供できる。また、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることができる。
【0059】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、中心分子Mが、エチレンジアミン、1、4−ジアミノブタン、1、6−ジアミノヘキサン、1、12−ジアミノドデカン又はシスタミンの群から選ばれる一の分子である構成を取る。長鎖分子を中心分子Mとして選べば、ナノ粒子NPを取り込む空洞部Cの大きさを5nm程度まで拡張することができるため、ナノ粒子と共に薬剤分子を空洞に取り込ませることにより、蛍光診断と治療とを同時に実現できる。
【0060】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドロン分子Rがアミド酸素を有している構成なので、単位分子R及び末端分子Rが、強固なアミド結合によって構築され、外部条件の変化によらず、長期間、構造安定性を保つことができる。
【0061】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、前記デンドロン分子Rが、化学的・熱的安定性に優れたポリ(アミドアミン)又はポリ(プロピレンイミン)のいずれかの分子である構成なので、発光効率が高く、外部条件の変化によらず、長期間、構造安定性を保つことができる。
【0062】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、デンドリマーDENの大きさが2nm以上10nm以下である構成なので、ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DEN表面の生体認識分子の分布を変化させ、標的細胞の細胞壁の受容体分布に適合させることにより、標的細胞への吸着特性を向上させることができる。
【0063】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、ナノ粒子NPがIV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子である構成なので、標的細胞の性質や使用条件に即した多様な金属コアを選択することができる。
【0064】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、ナノ粒子NPの粒径が1.1nm以上1.8nm以下である構成なので、ナノ粒子NPを金属が化学的に安定な相として存在することのできる最小のサイズにでき、外部条件の変化によらず、長期間、安定な蛍光特性を保つことができる。
【0065】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、空洞部Cの径が1.1nm以上1.8nm以下のナノ粒子を包接可能な大きさである構成なので、粒径が1.1nm以上1.8nm以下のナノ粒子を安定性高く包接することができる。
【0066】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENは、空洞部C内で、アミド酸素にナノ粒子NPが配位結合されている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を製造することができる。
【0067】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子NPを、2つのアミノ基を有する中心分子Mと前記アミノ基で中心分子Mに結合するデンドロン分子Rとからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示されるデンドリマーDENを分散させた水溶液に混合して、混合溶液を調整する工程と、前記混合溶液を攪拌して、前記デンドリマーDENに設けられた空洞部Cにナノ粒子NPを包接させて、光励起により発光可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENを製造する工程と、を有する構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を容易に製造することができる。また、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることが可能な蛍光体を容易に製造することができる。
【0068】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、デンドロン分子Rが、アミノ基を有する単位分子Rと、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子Rとからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、単位分子Rのアミノ基に別の単位分子R又は末端分子Rが分岐結合されて、樹枝状に伸長されている構成なので、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を容易に製造することができる。また、デンドロン分子Rの末端基を修飾することにより、生体選択性を有する蛍光体とすることが可能であり、蛍光標識等に用いることが可能な蛍光体を容易に製造することができる。
【0069】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、混合溶液の攪拌処理の際、混合溶液の温度を10℃以上30℃以下とする構成なので、デンドリマーDENに効率よくナノ粒子NPを包接させることができ、発光効率が高く、可視光で発光する蛍光体を容易に製造することができる。
【0070】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、混合溶液の攪拌処理後、混合溶液を遠心分離し、混合溶液中からナノ粒子NPの集積体を物理的に分離する構成なので、発光効率が高く、可視光で発光するナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENを、沈澱剤などの汚染を受けることなく、高純度で抽出することができる。
【0071】
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法は、2種以上の有機金属ハロゲン化物を有機溶媒に分散して前駆体溶液を調製してから、前記前駆体溶液をテトラヒドロフラン溶液に混合・攪拌して、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を合成する構成なので、前記前駆体溶液を、水素よりも2.0V以上低い還元電位を持つアルカリ金属のラジカル体であるテトラヒドロフラン溶液によって化学還元することにより、水素よりも低い還元電位を備えた金属元素を構成元素に持つ規則型金属間化合物あるいは合金ナノ粒子を合成することができる。これとデンドリマーを組み合わせることによって、発光効率が高く、可視光で発光するナノ粒子包接デンドリマー蛍光体NP−DENを製造することができる。
本発明の実施形態であるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
{材料の準備}
まず、溶媒として、テトラヒドロフラン(THF、99.5%、Kishida Chemicals製)、ヘキサン(96%、Kishida Chemicals製)及びメタノール(99.8%、Kishida Chemicals製)を準備した。なお、テトラヒドロフランとヘキサンは、酸素と水分を除去するため、蒸留した。また、メタノールは、30分以上乾燥アルゴン(Ar)でバブリングをして脱気した。
以下、材料及び溶媒は常に乾燥アルゴン雰囲気の下で取り扱った。
【0073】
次に、G5−OH−PAMAMデンドリマー(5wt.%)のメタノール溶液(Aldrich製)を準備した。
次に、Pt前駆体として、Pt(1,5−シクロオクタジエン)Cl(99%、STREM Chemicals製:以下、Pt(COD)Cl)を準備した。また、TiCl(99%,Kishida Chemicals製)から、Ti前駆体として、TiCl(テトラヒドロフラン)(以下、TiCl(THF))を合成した。
次に、ナトリウム金属(Aldrich製)とナフタレン(Kishida Chemicals製)を準備した。
【0074】
{PtTiのナノ粒子の合成}
次に、以下のようにして、PtTiのナノ粒子の合成を行った。
まず、THF溶液50ml中に、1.5mmolナトリウム金属と192.3mgのナフタレンを溶解させて、ナトリウムナフタレニドのTHF溶液を2−ネック−フラスコ中に調製した。
【0075】
次に、乾燥アルゴン雰囲気下、乾燥テトラヒドロフラン10ml中に、Pt(COD)Cl(0.04mmol、15.6mg)と、TiCl(THF)(0.16mmol、55.7mg)とを溶解して、前駆体溶液を調整した。
【0076】
次に、前駆体溶液を空気にさらすことなく、シリンジを用いて、ナトリウムナフタレニドのTHF溶液に注いで、混合溶液を調製した。前駆体溶液を加えると直ちに、ナトリウムナフタレニドの水溶液の暗い緑色は、暗いブラウン色へ変わった。
【0077】
この混合溶液を、一晩、攪拌した後、減圧下蒸留を行って溶媒を除去した。これにより、暗いブラウンの沈殿物(PtTiNps)を得た。
次に、この沈殿物を濾過してから、これをヘキサンとメタノールで順に洗浄した後、真空中で乾燥を行った。これにより、黒色で、空気中で安定な、かつ、粒子サイズが1.0〜4.0nmの金属間化合物のPtTiのナノ粒子が生成物として得られた。
【0078】
<PtTiのナノ粒子の分析>
{EPMA}
まず、PtTiのナノ粒子を水に入れ、攪拌した液を、透過電子顕微鏡用の試料グリッド(TEMグリッド)に滴下し、乾燥させ、単一粒子電子プローブ微視分析(EPMA)用試料を作製した。
次に、超高真空−走査型透過顕微鏡(UHV−STEM、Tecnai G)を用いて、PtTiのナノ粒子のUHV−STEM像の測定を行った。また、同時に、前記顕微鏡に備えられた単一粒子電子プローブ(EP)で単一粒子電子プローブ微視分析(EPMA)を行った。
【0079】
図5はその測定結果を示す図であり、図5のはめ込み写真は、UHV−STEM像であり、図5のプロファイルは、前記UHV−STEM像中の矢印で示した位置のPtTiのナノ粒子のEPMAプロファイル、つまり、前記UHV−STEM像中の矢印で示した位置のPtTiのナノ粒子の組成である。
【0080】
図5において、8keVはTEMグリッド材料であるCuと同定されるピークである。また、2.1keV、9.4keV、11.1keVはPtと同定されるピークであり、4.5keVはTiと同定されるピークである。これらのスペクトルの面積比から、前記矢印の位置でのPtとTiのモル比は、74±4と23±4と算出された。100μm以上の大面積の場合を考慮すると、この値は実験誤差の範囲内(Pt:Ti=73±4:27±6)であった。
【0081】
{pXRD}
次に、pXRD測定機器(RIGAKU RINT2000)を用いて、カウント時間10sで0.02degずつ増加させて、「Cu Kα」放射(λ=0.15418nm)の測定を12時間以上行い、粒子X−ray散乱(pXRD)を行った。
【0082】
図6は、PtTiのナノ粒子のpXRDプロファイル及びPtTi相の乱雑化シミュレーションで得られたpXRDのピーク値を示すグラフである。
図6に示すように、PtTiのナノ粒子のpXRDプロファイルでは、2θ=40°、68°、82°をピークとする幅広いピークがそれぞれ見られた。また、2θ=46°の位置に肩が見られた。
【0083】
これらのピークは、PtTi相のFCC(面心立方格子)型構造(Fm3m、a=0.39nm)の乱雑化シミュレーションで得られたpXRDの(111)、(200)、(220)、(311)のピーク値にそれぞれ一致するものであった。
【0084】
{PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の合成}
次に、PtTiのナノ粒子を5mg量り取り、0.2mMのG5−OH−PAMAMデンドリマーの水溶液5mlに混合して、これを室温・大気雰囲気下で8日間以上攪拌した。
その後、この水溶液を6000rpmで20分以上遠心分離して、沈殿生成物を除去した。透明なブラウンの溶液の上澄み溶液中に、空洞部にPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー(PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体)が得られた。
【0085】
<PtTiのナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の分析>
{蛍光スペクトル}
蛍光スペクトルは、F−7000スペクトロフォトメーター(Hitachi社製)で測定した。キセノンランプ(Xenon lamp、150W)を励起光として用いた。
【0086】
図7は、G5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液の励起スペクトル(点線)・蛍光スペクトル(破線)及びPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー(PtTi DENs)の0.2mM水溶液の励起スペクトル(一点鎖線)・蛍光スペクトル(実線)である。
図7に示すように、G5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液は、360nmに弱い励起ピークを有し、445nmに弱い発光ピークを有した。一方、「PtTi DENs」の0.2mM水溶液は、382nmに強い励起ピークと、452nmに強い発光ピークを有した。
【0087】
「PtTi DENs」の0.2mM水溶液は、360nmの波長のUV光を照射することにより、強く、青い蛍光を発した。この蛍光量子効率は、硫酸キニーネをリファレンスとして32.5±5%と計算された。PtTiのナノ粒子を包接することにより、G5−OH−PAMAMデンドリマー特有の蛍光強度が非常に高められた。
【0088】
{UV−可視吸収スペクトル}
UV−可視吸収スペクトルは、U−2900スペクトロフォトメーター(Hitachi社製)で測定した。キセノンランプ(Xenon lamp、150W)を励起光として用いた。
【0089】
図8は、G5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液のUV−可視吸収スペクトル及び「PtTi DENs」の0.2mM水溶液のUV−可視吸収スペクトルである。ここで、288nmに大きいピークを持つ曲線が「PtTi DENs」のスペクトルであり、それとは別の曲線が、G5−OH−PAMAMデンドリマー(G5−OH PAMAM)のスペクトルである。はめ込み図は、G5−OH−PAMAMデンドリマー(G5−OH PAMAM)の260〜320nmの範囲の拡大図である。
【0090】
G5−OH−PAMAMデンドリマーの0.2mM水溶液は280nm付近に弱い吸収があり、吸収肩を形成している。一方、「PtTi DENs」の0.2mM水溶液は、288nmで強い吸収ピークを示した。
前記吸収肩と「PtTi DENs」の吸収ピークは両方とも、デンドリマーのn−π転移に起因すると考えられる(非特許文献10)。
G5−OH−PAMAMデンドリマーがPtTiのナノ粒子を包接すると、UV領域におけるデンドリマーのn−π転移の感受性の顕著に高めた。また、スペクトルからは不明確だが、ピーク波長がわずかにブルーシフトした。
また、325nm以上の波長領域では、「PtTi DENs」の吸収スペクトルは平坦なテイルとなった。これは、PtTiのナノ粒子のバンド間転移に起因するものと推察した(非特許文献13〜15)。
【0091】
{HAADF−TEM}
次に、コロジオンコートされた銅のTEMグリッド(200メッシュ、Nisshin EM社製)上に、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーを含む水溶液を数滴たらして、HAADF−TEM用試料を調製した。
次に、高角度散乱暗視野−透過電子顕微鏡(HAADF−TEM、JEM−2010F(JEOL製))の内部にHAADF−TEM用試料を配置し、加速電圧を200Kvとして、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの観察を行った。
【0092】
図9は、HAADF−TEMの測定結果を示す図であり、図9(a)は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーのHAADF−TEM像であり、図9(b)はナノ粒子包接デンドリマー蛍光体に包接されたPtTiのナノ粒子、つまり、メタルコアの粒子サイズを示すヒストグラムである。
【0093】
図9(a)に示すように、平面視円形状のメタルコアが明るいスポットとして観測されている。HAADF−TEM像からメタルコアのサイズを見積もり、その結果を図9(b)にまとめた。図9(b)に示すように、メタルコアは1.1以上1.8nm未満のサイズであり、1.6nm以上1.7nm未満の割合が最も多くなる非対称分布を示した。
図9(b)の結果は、1.8nm未満の粒子のみが包接されたことを示している。
【0094】
{EDS測定}
PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーのメタルコアの化学組成は、HAADF−TEMに取り付けられたシリコンドリフト検出器(Bruker XFlash 5030)のEDS機器を用いて決定された。
【0095】
単一粒子X線エネルギー分散分光法(Single−particle X−ray energy dispersive spectroscopy(EDS)測定)により、どんなメタルコアもPt:Tiが=77:23のモル比の化学組成を有することを明らかにした。このモル比は、PtTiのナノ粒子のモル比であるPt:Ti=77:23とほぼ一致した。つまり、PtTiのナノ粒子は、その化学量論を変えることなしに、G5−OH−PAMAMデンドリマーに取り込まれた。
【0096】
{FTIR吸収スペクトル}
次に、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーを含む試料溶液200μlをCaF結晶の表面上に滴下してから、これを真空乾燥して、第1のFTIR用試料を調製した。同様に、G5−OH−PAMAMデンドリマーを含む試料溶液200μlをCaF結晶の表面上に滴下してから、これを真空乾燥して、第2のFTIR用試料を調製した。
次に、MIRTGS検出器を備えたFTIR吸収スペクトル分光器(Perkin−Elmer FTIR、Spectrum GX−R)システムを用いて、4cm−1の分解能の単一ビーム吸収モードで、第1及び第2のFTIR用試料のFTIR吸収スペクトルを順に測定した。
【0097】
図10は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー(PtTi DEN)及びG5−OH−PAMAMデンドリマー(G5−OH PAMAM)のFTIR吸収スペクトルである。
図10(a)は、2600〜4000cm−1の範囲のFTIR吸収スペクトルである。
図10(a)に示すように、G5−OH−PAMAMデンドリマーの薄膜は、2800〜3600cm−1の間の領域に吸収を示し、3290cm−1に強い吸収ピーク、2829cm−1と2937cm−1に弱いピーク、また、3100cm−1に別の弱いピークを示した。
3290cm−1に強い吸収ピークは末端のOH基のν(O−H)の伸縮モードによるものであり(非特許文献19)、2829cm−1と2937cm−1の弱いピークは、それぞれ、νa(CH)とνs(CH)のモードによるものと同定された。
【0098】
図10(a)に示すように、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの薄膜は、2800〜3600cm−1の間の領域に吸収を示し、3290cm−1に強い吸収ピーク、2829cm−1付近と2937cm−1付近に弱いピーク、また、3100cm−1に別の弱いピークを示した。
3290cm−1に強い吸収ピークは、同様に、末端のOH基のν(O−H)の伸縮モードによるものであった。(非特許文献19)。PtTiのナノ粒子がG5−OH−PAMAMデンドリマーに包接されても、G5−OH−PAMAMデンドリマーの外表面のOH基の振動モードに影響しないので、G5−OH−PAMAMデンドリマーの外表面のOH基は、PtTiのナノ粒子の包接には何の関係もないことが分かった。
【0099】
図10(b)は、1400〜1800cm−1の範囲のFTIR吸収スペクトルである。そして、この範囲のFTIR吸収スペクトルは、デンドリマーの内部の機能基の振動モードに対応する。
図10(b)に示すように、G5−OH−PAMAMデンドリマーの薄膜は、1450〜1700cm−1の間の領域に吸収を示し、1639cm−1及び1554cm−1に強い吸収ピーク、1430cm−1と1460cm−1に一対の弱いピークを示した。
1639cm−1の強い吸収ピークは、アミド(Amide I)のカルボニル基のν(C=O)の伸縮モードに対応すると同定された(非特許文献20、21)。
また、1554cm−1の強い吸収ピークは、アミド/アミン(Amide II)のν(C−N)の伸縮モード及びν(N−H)の曲がりモードに対応すると同定された(参考:非特許文献19、20)。
また、1430cm−1と1460cm−1の一対の弱いピークはν(CH)の挟みモードに対応すると同定された(非特許文献22、23)。
【0100】
図10(b)に示すように、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの薄膜は、1450〜1700cm−1の間の領域に吸収を示し、1654cm−1及び1554cm−1に強い吸収ピーク、1430cm−1と1460cm−1に一対の極弱いピークを示した。
1654cm−1の強い吸収ピークは、アミド(Amide I)のカルボニル基のν(C=O)の伸縮モードに対応すると同定された(非特許文献20、21)。
このように、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーのν(C=O)の伸縮モードは、G5−OH−PAMAMデンドリマーのν(C=O)の伸縮モードに比べて15cm−1だけブルーシフトした。一方、ν(N−H)の曲がりモードやν(C−N)伸縮モードのピークシフトは観測されなかった。
それ故、PtTiのナノ粒子は、アミド基またはアミン基のN原子ではなく、アミド基のカルボニル(C=O)に配位したと考えた。
【0101】
{HX−PES測定}
次に、HX−PES測定での帯電効果を避けるため、カーボンブラック(Vulcan XC−72、Cabot社製)を一緒に混合して、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー及びG5−OH−PAMAMデンドリマーの試料溶液をそれぞれ調整してから、100μlの試料溶液をカーボン基板上に滴下し、真空乾燥して、HX−PES測定用試料を調整した。
【0102】
次に、HX−PESスペクトルの測定を、SPring−8のアンジュレータ放射のビームラインBL15XUの下、5.95keVのフォトンエネルギーを有するX−rayを用いて行った(非特許文献18)。電子エネルギー分析器(VG SCIENTA R4000)により、室温で、UHV中、試料のコアレベルの状態を調べた。なお、エネルギーの分解能は、220meVにセットされた。また、結合エネルギーは、Au薄膜試料のFermiレベルをレファレンスとした。
なお、HX−PES測定では、20nm以上の深さの探索を行い、G5−OH−PAMAMデンドリマーとPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの「C 1s」、「N 1s」、及び「O 1s」の酸化状態を調べた。
図11は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー(PtTi DENs)及びG5−OH−PAMAMデンドリマー(G5−OH PAMAM)のHX−PESスペクトルである。
【0103】
図11(a)は、「PtTi DENs」のHX−PESスペクトルであって、530〜536cmの範囲のものである。この範囲は、「O 1s」の結合エネルギーに該当する。よって、得られた測定スペクトルは、フォークト関数のフィッティングを用いて、OH基のヒドロキシ酸素のスペクトルピーク値533.0±0.05eVとC=O基のアミド酸素のスペクトルピーク値532.2±0.05に分割できた(非特許文献19)。
【0104】
図11(b)は、G5−OH−PAMAMデンドリマーのHX−PESスペクトルであって、530〜536cmの範囲のものである。図11(a)と同様に、得られた測定スペクトルは、OH基のスペクトルとC=O基のスペクトルに分割できた。
【0105】
図11(a)と図11(b)を比較することにより、G5−OH−PAMAMデンドリマーよりも「PtTi DENs」の方が、OH基とC=O基のピークが小さくなることが分かった。これは、G5−OH−PAMAMデンドリマーがナノ粒子を包接した結果を示すデータであると考えた。
【0106】
図11(c)は、「PtTi DENs」及びG5−OH−PAMAMデンドリマーのHX−PESスペクトルであって、398〜404cmの範囲のものである。この範囲は、「N 1s」の結合エネルギーに該当する。ほとんど同一のスペクトルであることから、ナノ粒子の包接に対して、Nはほとんど影響しないことが分かった。
表1は、図11の結果をまとめたものである。
【0107】
【表1】

【0108】
表1に示すように、G5−OH−PAMAMデンドリマーとPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマー(PtTi DENs)の「O 1s」コアレベルのヒドロキシ基のエネルギー及び「N 1s」コアレベルのエネルギーレベルは全く同一の結合エネルギー533.0±0.05eVであった。これは、FTIRのデータに一致した。
【0109】
しかし、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの「O 1s」コアレベルのカルボニル酸素(C=O)の結合エネルギーピークは、G5−OH−PAMAMデンドリマーのカルボニル酸素(C=O)の結合エネルギーピークに対して、0.3eVだけ長波長側にシフトした。
【0110】
なお、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの「O 1s」コアレベルのHX−PESプロファイルは、アミド酸素(532.5±0.05eV)とヒドロキシ酸素(533.0±0.05eV)の2つの成分を有した。
【0111】
PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーのアミド酸素は、包接したPtTi のナノ粒子と相互作用して、G5−OH−PAMAMデンドリマーのアミド酸素よりも高い酸化数を有する。
【0112】
G5−OH−PAMAMデンドリマーとPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーの「N 1s」コアレベルピークは、全く同一の結合エネルギー400.6±0.05eVであった。この結果は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーのN原子は実質上PtTiのナノ粒子と相互作用しないことを意味する。
【0113】
図12は、カーボンブラック、G5−OH−PAMAMデンドリマーに混合したカーボンブラック及びPtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーに混合したカーボンブラックの282〜287eVの範囲のHX−PESスペクトルである。
【0114】
図12(a)は、カーボンブラックの前記範囲のHX−PESスペクトルであり、図12(b)は、G5−OH−PAMAMデンドリマーに混合したカーボンブラックの前記範囲のHX−PESスペクトルであり、図12(c)は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーに混合したカーボンブラックの前記範囲のHX−PESスペクトルである。
【0115】
282〜287eVの範囲は、「C 1s」に該当する。そのため、図12(a)は、カーボンブラックのみの場合であり、図12(b)は、G5−OH−PAMAMデンドリマーに混合した場合であり、図12(c)は、PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーに混合した場合のカーボンブラックの「C 1s」のHX−PESスペクトルである。
これらは同一の結合エネルギーピーク、284.5±0.05eVを示したので、これら3つの試料は、帯電効果を有さなかった。
【0116】
以上のように、新規で、発光強度の高い青色発光のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を開発した。
PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーは、水溶性であり、容易にこれを分散した水溶液を調整できた。
PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーは、PtTiのナノ粒子とG5−OH−PAMAMデンドリマーを水中で混合することにより容易に合成できた。
FTIRとHX−PESにより、PtTiのナノ粒子は、デンドリマーの表面層のヒドロキシ基ではなく、デンドリマーのターシャリーアミン基でもなく、デンドリマーの空洞部のアミド酸素によって、配位されていることを証明した。
【0117】
PtTiのナノ粒子を包接したG5−OH−PAMAMデンドリマーは、強い蛍光強度を有し、水溶性であり、生体適合性なので、生物医学診断のための蛍光標識として応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体及びその製造方法は、量子効率が高く、青色で発光する蛍光体であり、外側の末端基がOH基、NH基またはCOOH基を有するので、これらの基を適宜変更することにより、生態選択性を高め、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に用いることができる蛍光標識材料に利用できるので、蛍光材料、蛍光標識材料、生体標識蛍光材料及びDDS産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0119】
DEN…デンドリマー、NP…ナノ粒子、NP−DEN…ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体、M…中心分子、R…デンドロン、R…単位分子、R…末端分子、C…空洞部、S1…ナノ粒子合成工程、S2…混合溶液調整工程、S3…ナノ粒子包接デンドリマー蛍光体製造工程。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンドリマーとナノ粒子とからなるナノ粒子包接デンドリマー蛍光体であって、前記デンドリマーが、2つのアミノ基を有する中心分子と、前記中心分子のアミノ基に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示される分子であり、前記デンドリマーに設けられた空洞部に前記ナノ粒子を包接して、前記デンドリマーが光励起により発光可能とされていることを特徴とするナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項2】
前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されていることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項3】
前記分岐結合の回数が1以上10以下であることを特徴とする請求項2に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項4】
前記中心分子が、エチレンジアミン、1、4−ジアミノブタン、1、6−ジアミノヘキサン、1、12−ジアミノドデカン又はシスタミンの群から選ばれる一の分子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項5】
前記デンドロン分子がアミド酸素を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項6】
前記デンドロン分子が、ポリ(アミドアミン)又はポリ(プロピレンイミン)のいずれかの分子であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項7】
前記デンドリマーの大きさが2nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項8】
前記ナノ粒子がIV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項9】
前記ナノ粒子の粒径が1.1nm以上1.8nm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項10】
前記空洞部の径が1.1nm以上1.8nm以下のナノ粒子を包接可能な大きさであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項11】
前記空洞部内で、前記アミド酸素に前記ナノ粒子が配位結合されていることを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体。
【請求項12】
粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を、2つのアミノ基を有する中心分子と前記アミノ基で前記中心分子に結合するデンドロン分子とからなる一般式M[R(前記一般式で、Mは中心分子であり、Rはデンドロン分子である)で示されるデンドリマーを分散させた水溶液に混合して、混合溶液を調整する工程と、
前記混合溶液を攪拌して、前記デンドリマーに設けられた前記空洞部に前記ナノ粒子を包接させて、光励起により発光可能なナノ粒子包接デンドリマー蛍光体を製造する工程と、を有することを特徴とするナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記デンドロン分子が、アミノ基を有する単位分子と、OH基、NH基又はCOOH基のいずれかの末端基を有する末端分子とからなる一般式[R[R(前記一般式で、Rは単位分子であり、Rは末端分子であり、x=2−1であり、y=2であり、nは1以上の整数である)で示される分子であり、前記単位分子のアミノ基に別の単位分子又は前記末端分子が分岐結合されて、樹枝状に伸長されていることを特徴とする請求項12に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記混合溶液の攪拌処理の際、前記混合溶液の温度を10℃以上30℃以下とすることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記混合溶液の攪拌処理後、前記混合溶液を遠心分離することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法。
【請求項16】
2種以上の有機金属ハロゲン化物を有機溶媒に分散して前駆体溶液を調製してから、前記前駆体溶液をテトラヒドロフラン溶液に混合・攪拌して、粒径が1.1nm以上1.8nm以下であって、IV族とVIII族の金属をそれぞれ1種類以上含有する合金又は金属間化合物のナノ粒子を合成することを特徴とする請求項12〜15のいずれか1項に記載のナノ粒子包接デンドリマー蛍光体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−41460(P2012−41460A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184698(P2010−184698)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】