説明

ナノ粒子組成物

薬理学的に活性な物質を含むポリ(エチレンカーボネート)(PEC)ナノ粒子、それらの製造方法、および適用後の薬理学的に活性な薬剤の持続性放出のためのそれらの使用が説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的に活性な薬剤を含むポリ(エチレンカーボネート)(PEC)ナノ粒子、それらの製造、およびそれらの医薬組成物としての、とりわけナノ粒子懸濁液としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーナノ粒子は、それらが薬物送達システムとして前途有望な利点を提供するので、医薬および医療分野における微粒子状担体として広く研究されている。ナノ粒子は、一般に、生分解性であってもなくてもよい、サブミクロンの大きさの固形の薬物担体と定義される。用語「ナノ粒子」は、ナノ球体およびナノカプセルの双方に対する集合的名称である。ナノ球体は、マトリックス型の構造を有する。薬物を、球表面に吸着させるか、あるいは粒子内に封入することができる。ナノカプセルは、管装置であり、薬物はポリマー膜で囲まれた内部液状コアからなる空洞に閉じ込められる。この場合、活性物質は、内部コア中に溶解されるのが通常であるが、カプセルの表面に吸着されることもできる。ナノ粒子は、治療用薬物の送達に関してかなり注目されている。
【0003】
とりわけ、注射可能なナノ担体は、それらの空間的および時間的に制御された薬物送達機構のため、疾患治療に大変革を起こす能力を有すると考えられる。例えば、毒性薬物およびその他の強力な薬物の放出を特定の治療部位のみに空間的に集中すると、総合的な全身投与量、および別の方法であればこれらの薬物が引き起こすであろう危害を低減することができる。薬物の放出を時間的に制御すると、別の方法であれば身体中の化学物質濃度の自然日周性変動によって発生する可能性のある望ましくない副作用を低減するのを助けることができる。疾患治療におけるこれらの改善の総合的利益は、患者の応諾性および生活の質の増大である。ポリマーナノ粒子を製造するのに使用されてきた典型的なポリマーは、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(シアノアクリル酸エチル)、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリ(乳酸)、ポリスチレン、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、またはポリ(ε−カプロラクトン)である。
【0004】
薬物送達デバイスが上記の利益を達成するためには、該デバイスが、その治療の作用部位に到達し、またはその部位を認識するのに十分な長さで血流中に存在しなければならない。しかし、細網内皮系(RES)としても知られる単核食細胞系(MPS)によるナノ粒子状薬物担体のオプソニン化および身体からの除去が、これらの目標を実現する上での大きな障害である。MPSのマクロファージは、血流から無防備のナノ粒子を静脈内投与から数秒以内に除去し、それらを部位特異的薬物送達デバイスとして無効にする能力を有する。典型的にはクッパー細胞または肝臓のマクロファージであるこれらのマクロファージは、ナノ粒子それ自体を直接的に識別できないが、粒子の表面に結合された特定のオプソニンタンパク質をかなり認識する。
【0005】
ナノ粒子を製造するのに現在使用されるポリマーは、それらが、急速に認識され、かつ結果的にマクロファージ系によって除去されるという、あるいはそれらが加水分解に対して安定でないという欠点を有する。ナノ粒子のオプソニン化(および、結果的にマクロファージによる排除)を減速するのに広く使用される1つの方法が、オプソニンが粒子表面に結合するのを助ける静電および疎水性相互作用を遮断できる、表面に吸着またはグラフトされた遮蔽基の使用である。これらの基は、長い親水性ポリマー鎖および非イオン性界面活性剤である傾向がある。オプソニン化および結果的にマクロファージの排除を減速するための遮蔽基として試みられてきたポリマー系の一部の例には、多糖、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、PEG、およびPEG含有コポリマーが含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、医薬組成物として適する改善された安定性特性を有するナノ粒子、およびとりわけナノ粒子懸濁液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、本出願は、薬理学的に活性な薬剤を含むポリ(エチレンカーボネート)(PEC)ナノ粒子を含む医薬組成物に関する。これらのPECナノ粒子は、従来のポリマーナノ粒子に比較して、物理的および化学的安定性のみならず、さらに、食作用に対する生物学的安定性も示す。このより遅い食作用速度のため、PECナノ粒子は、マクロファージ系によってそれほど急速には排除されない。これらの重要な特性により、本出願のPECナノ粒子は、薬理学的に活性な薬剤を送達するための医薬組成物として使用するのに適したものになる。その独特な特性により、PECは、含められた、好ましくは封入された薬理学的に活性な薬剤の制御性または持続性放出に適したナノ粒子担体になる。とりわけ、食作用に対する改善された安定性は、封入された薬理学的に活性な薬剤をPECナノ粒子の生分解により放出し、それによって前記の薬理学的に活性な薬剤をより長い放出期間にわたって全身性で利用可能にするための非経口デポ剤としての、本発明によるPECナノ粒子の使用を可能にする。したがって、薬理学的に活性な薬剤のための担体としてのPECナノ粒子の使用は、先行技術中で知られているポリマーナノ粒子に優るかなりの利点を有する。
【0008】
さらなる態様によれば、本出願は、好ましくは薬理学的に活性な薬剤を組み込んだポリ(エチレンカーボネート)ナノ粒子の懸濁液に関する。それぞれのPECナノ粒子懸濁液は、物理的に安定であり、かつ皮下局所送達に適している。さらなる態様によれば、本出願は、医薬組成物を調製するための、PECナノ粒子懸濁液の使用に関する。
【0009】
さらなる態様において、本出願は、とりわけ溶媒置換法によってPECナノ粒子懸濁液を調製することによる、薬理学的に活性な薬剤を含むポリ(エチレンカーボネート)ナノ粒子を含む医薬組成物の製造法に関する。
【0010】
当業者にとって、本出願のその他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。しかし、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および特定の実施例は、本出願の好ましい実施形態を示すとはいえ、単に例示のために提供されることを理解されたい。当業者にとって、開示された本発明の精神および範囲内での種々の変化および修正は、以下に目を通すことによって容易に明らかになるであろう。
【0011】
本発明は、非限定的実施例によってさらに概説されるが、それらの実施例は本発明の好ましい実施形態を構成する。さらに、本出願中で引用される参考文献は、参照により全体で組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1a】ポリマー濃度の変化による未装填ナノ粒子の粒径調節を示す図である(図1aはPEC95の場合)。図は、異なるポリマー濃度を使用する3つの異なるバッチに関してPCSによって得られた粒径をナノメートルで示す(実施例4参照)。三つ組みの平均PDIを、仕込み名称(charge name)の後の丸括弧内に示す。粒径の標準偏差は棒線で示される。
【図1b】ポリマー濃度の変化による未装填ナノ粒子の粒径調節を示す図である(図1bはPEC99の場合)。図は、異なるポリマー濃度を使用する3つの異なるバッチに関してPCSによって得られた粒径をナノメートルで示す(実施例4参照)。三つ組みの平均PDIを、仕込み名称の後の丸括弧内に示す。粒径の標準偏差は棒線で示される。
【図2】ポリマー濃度の変化による被装填ナノ粒子の粒径調節を示す図である。図は、異なるポリマー濃度を使用する3つの異なるバッチに関してPCSによって得られた粒径をナノメートルで示す。粒径の標準偏差は棒線で示される。
【図3】異なる温度でのPEC95ナノ粒子の粒径変化を示す図である。横に引かれた線は、4℃で調製された三つ組みの平均粒径に相当し、それは、気候環境試験機のすべての温度変化を経験(run)する(実施例5.2参照)。
【図4】異なる温度でのPEC99ナノ粒子の粒径変化を示す図である。横に引かれた線は、4℃で調製された三つ組みの平均粒径に相当し、それは、気候環境試験機のすべての温度変化を経験する(実施例5.2参照)。
【図5】PEC99(A)またはPEC95(B)から構成されたナノ粒子のPCSで分析された膨潤試験の結果を示す図である(実施例5.3参照)。粒径変化は、蒸発処理中に示される。ナノ粒子は、PEC99またはPEC95を使用して調製される。PVA溶液中へ注入した後(T=0)、アリコートを、示した3つの時点で採取し、PCSを使用して粒径について分析する。最初の24時間(t=0、30分、60分、90分、120分、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間および24時間)のデータのみを示す。エラーバーは、三つ組みの標準偏差を示す。
【図6a】図6aは、原子間力顕微鏡法(AFM)を使用するPEC95粒子(0.1mg/5ml)の分析を示す図である。
【図6b】図6bは、原子間力顕微鏡法(AFM)を使用するPEC95粒子(3mg/5ml)の分析を示す図である。
【図7】原子間力顕微鏡法(AFM)を使用するPEC99粒子(0.1mg/5ml)の分析を示す図である。
【図8】粒子を調製する際の蒸発処理の最初の30分内でのPEC95(3mg/ml)の膨潤特性を示す図である(実施例5.3参照)。
【図9】被装填PEC95およびPEC99ナノ粒子懸濁液に関して37℃でFACSによって測定した場合の蛍光を示す図である(実施例8参照)。
【図10】種々のナノ粒子+NaNに関して4℃および37℃でFACSによって測定した場合の蛍光を示す図である(実施例8参照)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本出願の一態様によれば、医薬組成物は、薬理学的に活性な薬剤を含むポリ(エチレンカーボネート)ナノ粒子を含めて提供される。
【0014】
ポリマーナノ粒子用マトリックス材料としてのポリ(エチレンカーボネート)(PEC)の使用は、PLGAまたはポリ(ε−カプロラクトン)などの一般的な生分解性および加水分解で分解可能なポリマーの使用に優る利点がある。PECナノ粒子は、大きな装填能力を有し、かつPECは、水性溶液中で化学的に安定であり、in vivoでのみ分解する。PECは、in vivoおよびin vitroで、とりわけスーパーオキシドラジカルアニオンO−1によって生分解性であり、前記アニオンは、in vivoで炎症細胞によって主に産生される。O−1を産生する細胞によるこの非加水分解性の生分解は、生分解性ポリマーの中でどちらかと言えば独特である。さらに、PECのそれら生分解産物は、極めて低い毒性を有するに過ぎないか、毒性を有さない。
【0015】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、PECナノ粒子は、先行技術中で知られている例えばポリスチレンナノ粒子などのその他のポリマーナノ粒子に比べて、マクロファージによって貧食され結果的に除去/排出されることがより少ないことを見出した。この重要な特性のため、本発明のPECナノ粒子は、該ナノ粒子がマクロファージによって攻撃され結果的に排出されることがより少なく、したがって、含まれている薬物を、従来のポリマーナノ粒子に比べてより長期間にわたって放出するという意味で、生物学的により安定である。
【0016】
これらの重要な態様、PECナノ粒子の物理的安定性、PECナノ粒子の化学的安定性、およびそれらの食作用に対する生物学的安定性は、本発明のPECナノ粒子を、薬理学的に活性な薬剤を送達するための医薬組成物として使用するのに適するものにする。その独特の特性は、PECを、含められたまたは好ましくは封入された薬理学的に活性な薬剤の制御性または持続性放出のための適切なナノ粒子担体にする。本明細書中で使用する場合、用語「持続性放出」または「制御性放出」は、使用されるPECナノ粒子が、ヒトまたは動物の身体内へデバイスを埋め込んで3〜10日以内、例えば7日目に、その中に溶解または分散された薬理学的に活性な薬剤の10、20、30、40または50重量%以下から60、70、80または90重量%までを放出することを意味する。
【0017】
とりわけ、食作用に対する改善された安定性は、本発明によるPECナノ粒子の、封入された薬理学的に活性な薬剤を該PECナノ粒子の生分解により放出し、それによって、前記の薬理学的に活性な薬剤をより長い放出期間にわたって全身性で利用可能にするための非経口デポ剤としての使用を可能にする。したがって、薬理学的に活性な薬剤のための担体としてのPECナノ粒子の使用は、先行技術で知られているポリマーナノ粒子に優るかなりの利点を有する。
【0018】
本発明において、医薬組成物は、PECナノ粒子内に含められ、かつ、例えばその中に封入、溶解または分散されることのできる、少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤を含む。本発明のナノ粒子は、薬理学的に活性な薬剤の患者への制御性または持続性放出のために使用できる。用語「持続性放出」または「制御性放出」は、本明細書中で使用する場合、前に定義したように使用されるものとする。
【0019】
本発明のPECナノ粒子は、1〜1000nmの範囲の直径を有する。ナノ粒子の直径は、好ましくは狭い粒度分布の、800、750、700、650、600、550、500nm未満、および/または450nm未満でよい。ナノ粒子懸濁液が使用される、すなわち注射されると想定される場合において、より小さな直径のナノ粒子は、より小さなサイズの注射針の使用を可能にする。
【0020】
本明細書中で使用する場合、用語「薬学的に活性な薬剤」は、生きている生物体に投与された場合に生理学的反応をもたらすことのできる任意の物質を包含する。このような物質は、通常、治療有効量で投与される。本明細書中で使用する場合、用語「治療有効量」は、一般に、哺乳動物を襲う疾患または状態の症状または発症を低減する、排除する、治療する、予防する、または制御するのに有効である量または濃度を指す。制御することは、哺乳動物を襲う疾患または状態の進行または発症を減速する、中断する、阻止するまたは停止することであってよいすべての過程を指すと解釈される。しかし「制御する」は、すべての疾患および状態の症状の全体的排除を必ずしも指さず、かつ予防治療を含むと解釈される。適切な治療有効量は、当業者に周知であり、その量は、使用されている治療用化合物および取り組まれている適応症と共に変化する。本明細書中で使用する場合、用語「医薬活性薬剤」、「活性成分」、「薬理学的に活性な化合物」、「活性物質」、または「薬物物質」は、同義と解される。
【0021】
多くの異なる薬理学的に活性な薬剤は、本発明によるPECナノ粒子を用いて送達/製剤化することができる。薬物の治療部類(therapeutic class)の例には、限定はされないが、血圧降下剤、抗不安剤、抗凝血剤、抗痙攣剤、血中グルコース低下剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、抗悪性腫瘍薬、β−遮断剤、抗炎症剤、抗精神剤、認知強化剤、抗アテローム硬化剤、コレステロール低下剤、抗肥満剤、自己免疫障害剤、抗インポテンス剤、抗菌および抗真菌剤、免疫抑制剤、催眠剤、抗欝剤、抗ウイルス剤、抗生物質、化学療法剤、避妊剤、鎮静剤、ステロイド、ビタミン、酵素、抗原、およびこれらの組合せが含まれる。
【0022】
PECナノ粒子は、少量で薬理学的に活性があり、かつ長期間途切れることのない血中レベルを有する必要のある薬理学的に活性な薬剤、例えば、ホルモン、ペプチドおよびタンパク質、生物学的標的に高い親和性を有する化学的存在物(例えば、ソマトスタチン、ビスホスホネート、インターフェロン、およびインターロイキン)などにとりわけ適している。本発明によるPECナノ粒子懸濁液は、不安定であり、経口での使用後に、または消化管系中で崩壊し、そのため好ましくは非経口で投与される薬理学的に活性な薬剤の送達にとりわけ適している。
【0023】
PECポリマーの長所は、タンパク質を、それらを変性することなしに封入することである。PECがin vivoで分解しても、酸性の微視的環境(PLGAポリマーの場合に典型的に観察される)は生じず、このことは、酸性で不安定なタンパク質をPECデポ剤中で利用することもできるので、もう1つの利点である。
【0024】
本発明中で使用される薬理学的に活性な薬剤は、化合物、生物学的に活性な薬剤、核酸、ペプチド、およびタンパク質からなる群から選択できる。用語「生物学的に活性な薬剤」は、本明細書中で使用する場合、生物学的成分と反応する潜在能力を有する薬剤を指す。より詳細には、本明細書中で利用される生物学的に活性な薬剤は、生存細胞に付随する本来的過程を変えるように設計される。本明細書の目的に関して、細胞の本来的過程は、生物学的に活性な薬剤を送達する前の細胞に付随する過程である。生物学的に活性な薬剤の例には、限定はされないが、医薬、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、酵素阻害剤、ホルモン、サイトカイン、抗原、ウイルス、オリゴヌクレオチド、酵素が含まれ、ポリヌクレオチドは、生物学的に活性な薬剤の例である。
【0025】
用語「タンパク質」は、本明細書中で使用する場合、ポリペプチド(すなわち、ペプチド結合で互いに連結された少なくとも2つのアミノ酸からなる紐)を指す。タンパク質は、アミノ酸以外の部分を含むことができ(例えば、糖タンパク質、プロテオグリカンなどでよい)、かつ/または別の方法で処理または修飾されていてもよい。当業者は、「タンパク質」が、細胞によって産生されるような完全なポリペプチド鎖であることができ(シグナル配列を伴うまたは伴わない)、あるいはその特徴的な部分であることができることを認識するであろう。当業者は、タンパク質が、時には、例えば1つまたは複数のジスルフィド結合によって連結された、またはその他の手段によって会合された二以上のポリペプチド鎖を含むことができることを認識するであろう。有用な修飾には、例えば、末端アセチル化、アミド化などが含まれる。一部の実施形態において、タンパク質は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸、およびこれらの組合せを含むことができる。用語「ペプチド」は、一般に、約100個未満のアミノ酸の長さを有するポリペプチドを指すのに使用される。タンパク質およびペプチドの例には、限定はされないが、サイトカイン、例えばインターロイキン、G−CSF、M−CSF、GM−CSFもしくはLIF、インターフェロン、エリスロポエチン、シクロスポリンもしくはホルモン、またはそれらの類似体が含まれる。
【0026】
PECナノ粒子は、2500Da未満の小さな分子量(MW)を有する薬理学的に活性な薬剤のための担体としてとりわけ適している。さらに、好ましい実施形態によれば、薬理学的に活性な薬剤は、親油性の性質を有するか、あるいは親油性基を含む。それぞれの薬剤は、PECマトリックスによって効率的に封入されて本発明のPECナノ粒子を形成する。
【0027】
薬理学的に活性な薬剤は、ソマトスタチン類似体、例えば、パシレオチド、ランレオチド、オクトレオチド、バプレオチドおよびその塩;ビスホスホネート、例えば、ゾレドロン酸およびその塩;脂質低下薬(lipid altering drug)の部類からなる群から選択できる。ソマトスタチン類似体は、ソマトスタチン様活性を有する化合物である。哺乳動物の下垂体からの成長ホルモン放出を阻害するソマトスタチン様活性を有するいくつかの生物活性オリゴペプチドが知られている。これらの生物学的に活性なオリゴペプチドは、その双方が参照により本明細書に組み込まれる、例えば、Weckbeckerら(2003年)、Nature Reviews、2巻、999〜1016頁、およびMurrayら(2004年)、J Clin Invest、114巻、349〜356頁で開示されているその活性機構と一緒に当技術分野で周知である。ソマトスタチンそれ自体に加えて、これらの生物学的に活性なオリゴペプチドには、限定はされないが、オクトレオチド、ランレオチド、バプレオチドおよびパシレオチドがその薬学的に許容される塩、好ましくは酢酸塩と一緒に含まれる。
【0028】
本発明の目的に関して、用語「ビスホスホネート」は、2つのリン酸基を含む薬物を指す。ビスホスホネートは、パミドロネート、ネリドロネート、アレンドロネート、イバンドロネートまたはリセドロネートのようなN含有ビスホスホネート、およびエチドロネート、クロドロネートおよびチルドロネートのようなN非含有ビスホスホネートに分類される。例えば、ゾレドロン酸は、本発明の薬物送達系のために使用できる、ビスホスホネートであるゾレドロン酸は、化学的には(1−ヒドロキシ−2−イミダゾール−1−イル−ホスホノエチル)ホスホン酸一水和物と呼ばれ、その構造は式Aとして示される:
【0029】
【化1】

【0030】
代わりに、脂質低下薬も、本発明のナノ粒子中に装填することができる。本発明の目的に関して、表現「脂質低下薬」は、例えば、コレステロール、トリグリセリド、超低密度リポタンパク質(VLDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、中間密度リポタンパク質(IDL)、高密度リポタンパク質(HDL)、超高密度リポタンパク質(VHDL)、リポポタンパク質A(lipopoprotein a)およびキロミクロンのような脂質またはリポタンパク質の血中濃度を変える任意の薬物を指す。これらの薬物には、限定はされないが、コレステロール吸収阻害剤、ナイアシン、フィブラート類、またはスタチン類が含まれる。脂質低下薬の非限定的例が、レスコル、ナイアシン受容体活性化剤および甲状腺ホルモン受容体βの活性化剤である。
【0031】
代わりに、免疫抑制剤も、本発明のナノ粒子中に装填することができる。免疫抑制剤の非限定例が、コルチゾール、デキサメタゾン、アルキル化剤、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、アザチオプリン、ラパマイシン、シクロスポリン、FK506、およびメトトレキセートである。
【0032】
薬理学的に活性な薬剤は、組成物の約70重量%までの、組成物の約0.5重量%〜約60重量%、組成物の約10重量%〜約40重量%、または組成物の約1.0重量%〜約10重量%の量で存在することができる。しかし、薬理学的に活性な薬剤の特定レベルの選択は、薬理学的に活性な薬剤の使用されるPECへの溶解度、投与方式、ならびに対象の大きさおよび状態を含む、薬学技術で周知の因子に従ってなされる。
【0033】
薬物の治療部類の例には、限定はされないが、血圧降下剤、抗不安剤、抗凝血剤、抗痙攣剤、血中グルコース低下剤、鬱血除去剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、抗悪性腫瘍薬、β−遮断剤、抗炎症剤、抗精神剤、認知強化剤、抗アテローム硬化剤、コレステロール低下剤、抗肥満剤、自己免疫障害剤、抗インポテンス剤、抗菌および抗真菌剤、催眠剤、抗生物質、抗欝剤、抗ウイルス剤、およびこれらの組合せが含まれる。
【0034】
本発明によるPECナノ粒子の調製で使用されるPECポリマーは、式A:
−(−C(O)−O−CH−CH−O−)− (式A)
のエチレンカーボネート単位を含むことができ、次の特性の少なくとも1つを有する:
・70〜100モル%のエチレンカーボネート含有量を有する、および/または
・クロロホルム中、20℃で測定した場合に、0.4〜4.0dl/gの固有粘度を有する、および/または
・5〜50℃のガラス転移温度を有する。
【0035】
使用されるPECポリマーは、70〜100モル%のエチレンカーボネート含有量を有する。好ましくは、PECポリマーのエチレン含有量は、80〜100%、好ましくは90〜99.9%である。
【0036】
使用されるPECポリマーは、クロロホルム中、20℃で測定して0.4〜4.0dl/gの固有粘度を有する。好ましくは、PECポリマーは、20℃で、かつクロロホルム中1g/dlの濃度で測定して、0.4〜3.0dl/gの固有粘度を有する。
【0037】
使用されるPECポリマーは、5℃〜50℃、好ましくは15℃〜25℃のガラス転移温度を有する。
【0038】
使用されるPECポリマーは、約2000kDより小さい分子量を有する。好ましくは、分子量は、例えば、溶離液として塩化メチレンを、参照としてポリスチロールを用いるゲル浸透クロマトグラフィーによって測定できるような、500kD未満である。
【0039】
さらなる実施形態において、PECポリマーは、例えばco−単位として式B:
−(−CH−CH−O−)− (式B)
のエチレンオキシド単位を含む(co)−ポリマーの形態で存在することができる。PECポリマーは、エチレンオキシド単位を有するなら、要約式A−B
−(C(O)−O−CH−CH−O−)−−(−CH−CH−O−)− (式C)
(ここで、m/(n+m)×100=70〜100)により、エチレンカーボネート単位とエチレンオキシド単位とのランダムな分布を有する。しかし、本発明のPECポリマー中のほとんどのエチレンオキシド単位は、エチレンオキシド単位のモル比が小さい場合には特に、隣接したエチレンカーボネート単位を統計的に有する。それは、これらの場合に、生じるエーテル官能基のほとんどがポリマー鎖に沿ってカーボネート官能基の間にランダムに分布されることを意味する。当業者は、本発明の生成物のDCCl中でのH−NMRスペクトルが、この仮定を確証することを理解するであろう。
【0040】
本発明のPECポリマーは、熱水(90〜100℃)中で分子量はあまり低下せず数時間安定である。沸騰している2回蒸留水に数時間の間暴露した後、ガラス転移温度のかなりの(例えば、18℃を超える、例えば28℃までの)上昇が観察される。
【0041】
PECポリマーは、組成物の約99重量%までの、組成物の約0.5重量%〜約80重量%、組成物の約10重量%〜約30重量%、または約1重量%〜約10重量%の量で存在することができる。
【0042】
一実施形態によれば、医薬組成物は、ナノ粒子懸濁液の形態を取る。ナノ粒子懸濁液は、ミクロ粒子懸濁液と対照的に、沈降せず、物理的に安定な懸濁液を形成するので、生分解性PECナノ粒子懸濁液の使用は、PECミクロ粒子の使用に優る利点がある。
【0043】
ナノ懸濁液の注射の後に、いくつかの薬物動態学的プロフィールが生じることができる。皮下、筋内または皮内経路を経由するデポ剤送達は、小さな注射容積中により多くの薬物量を安全に装填する能力のため、長期の薬物放出を提供する。PECナノ粒子懸濁液の大きな装填能力は、本発明のナノ粒子懸濁液の重要で有利な特徴である。
【0044】
したがって、本発明のPECナノ粒子は、懸濁液の形態で、とりわけ非経口製剤の形態で有利に使用することができる。本明細書中で使用する場合、用語「非経口製剤」は、シリンジおよびニードルまたはカテーテルを使用して消化管以外の経路で与えられる組成物を意味する。これには、静脈内、動脈内、筋内、心臓内、皮下、骨内、皮内、髄腔内、腹膜内、膀胱内、経皮、経粘膜、硬膜外、および硝子体内適用が含まれる。PECナノ粒子懸濁液は、皮下局所送達にとりわけ適している。
【0045】
それらの有益な安定性プロフィールのため、本発明のPECナノ粒子は、例えば皮下で注射することができる即用型非経口デポ剤の形態で使用できる。この目的に関して、PECナノ粒子の大きさが小さいので、極めて小さいサイズのニードル(例えば、27G以下)も使用することができる。これらの特性により、それぞれのデポ製剤の家庭内使用および自己投与も可能になる。
【0046】
いくつかの非経口適用形態およびそれぞれの薬物製剤は、当業者にとって周知であり、注射、点滴、濃縮製剤、埋込み製剤を包含する。PECナノ粒子を含む医薬組成物は、それらを適切なガレヌス添加剤と共に仕上げること、および任意選択でそれらを適切なディスペンサー中に詰めることによって作製することができる。
【0047】
PECナノ粒子懸濁液の安定性を高めるために、製剤は、例えば、ナノ粒子の凝集または沈殿を防止する界面活性剤などの安定剤をさらに含むことができる、例えば、イオン性または非イオン性界面活性剤を使用できる。界面活性剤の例には、限定はされないが、脂肪酸;アルキルスルホン酸塩;ポリオキシエチレン脂肪酸;ソルビタン誘導体;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;レシチン;リン脂質;モノ、ジおよびトリグリセリド;ならびにこれらの混合物が含まれる。医薬組成物中での界面活性剤の使用は、当業者に周知である。便宜的には、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、2000年が参照される。
【0048】
本出願のさらなる態様において、PECポリマーおよび薬理学的に活性な薬剤を含む医薬組成物は、薬学的に許容される添加剤、例えば、イオン性または非イオン性界面活性剤、結合剤もしくは接着剤、抗酸化剤、滑沢剤、および/またはpH調節剤をさらに含むことができる。このようなさらなる成分は当技術分野で周知であることが認識されるであろう。それゆえ、PECナノ粒子は、さらなるポリマーおよび/または添加物を含むことができる。例には、ナノ粒子中またはその表面上の、例えばメナジオンおよび/またはビタミンCなどのラジカル捕捉剤が含まれる。それぞれの添加物は、(コ)ポリマー中に包埋されることができ、例えば、ポリ(エチレンカーボネート)の分解速度を減速し、それによって、薬物放出、および結果としてナノ粒子製剤のデポ剤としての活性のさらなる延長を可能にすることができる。
【0049】
このような界面活性剤の例には、限定はされないが、BASF社(Mt.Olive、ニュージャージー州)からのCREMOPHORシリーズなどの、天然または水素化されたヒマシ油とエチレンオキシドとの反応生成物;Uniqema社(New Castle、デラウェア州)からのMYRJシリーズなどの、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルを包含するポリオキシエチレン脂肪酸エステル;Uniqema社(New Castle、デラウェア州)からのTWEENシリーズなどのソルビタン誘導体;Uniqema社からのSYNPERONIC PE/F87/108/127L44およびBASF社からのPLURONIC(Lutrol F127)などの、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのコポリマーおよびブロックコポリマーまたはポロキサマー;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;Eastman Chemical社(Kingsport、テネシー州)から購入できる融点が約36℃の水溶性トコフェリルPEGコハク酸エステル;例えば5〜35、例えば20〜30の[CH−CH−O]単位を有するPEGステロールエーテル、例えば、Chemron社(Paso Robles、カリフォルニア州)からのSOLULAN C24(Choleth−24およびCetheth−24);日光ケミカルズ(株)(東京、日本)からのDECAGLYN、HEXAGLYNおよびTETRADLYNなどのポリグリセロール脂肪酸エステル;ならびにアルキレンポリオールのエーテルまたはエステル化合物が含まれる。
【0050】
結合剤もしくは接着剤の例には、限定はされないが、個別的にまたは組合せのどちらかで、アラビアゴム;トラガカントゴム;蔗糖;ゼラチン;ブドウ糖;限定はされないがα化デンプンなどのデンプン;アルギン酸およびアルギン酸塩;ケイ酸マグネシウムアルミニウム;PEG;グアーゴム;多糖酸;ベントナイト;ポビドン、例えばポビドンK−15、K−30およびK−29/32;ポリメタクリレート;HPMC;ヒドロキシプロピルセルロース;およびエチルセルロースが含まれる。
【0051】
抗酸化剤の例には、限定はされないが、アスコルビン酸およびその誘導体、トコフェロールおよびその誘導体、ブチルヒドロキシルアニソールおよびブチルヒドロキシルトルエンが含まれる。α−トコフェロールのようなビタミンEがとりわけ有用である。
【0052】
滑沢剤の例には、限定はされないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、蔗糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、およびステアリン酸が含まれる。
【0053】
pH調節剤の例には、限定はされないが、NaOH、LiOH、KOH、NaCO、NaHCO、KCO、KHCO、NaHPO、NaHPO、NaPO、KHPO、KHPO、KPO、メグルミン、Ca(OH)、Mg(OH)、Zn(OH)、Al(OH)、ピリドキシン、トリエタノールアミン、水酸化アンモニウム、シトシン、ジエチルアミン、メグルミン、オルニチン、グリシン、リシン、アルギニン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アラニン、アルパラギン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、トレオニン、水酸化コリン、プロカイン、ジエチルエタノールアミン、グルコサミン、グアニン、ニコチンアミド、ピペラジン、グアニジン、オラミン、ピペリジン、トリエチルアミン、トロメタミン、ベンザチン、アデニン、これらの混合物などが含まれる。
【0054】
本出願のさらなる態様において、ポリ(エチレンカーボネート)ナノ粒子は、懸濁液の形態で存在する。懸濁液中のPECナノ粒子の特性については、既に前に説明しており、本発明者らは、前記開示を参照する。
【0055】
一実施形態によれば、PECナノ粒子懸濁液は、少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤を含み、かつ次の付加的特性の少なくとも1つを有する:
a)PECポリマーは、少なくとも1つの次の特性を有する:
・70〜100モル%のエチレンカーボネート含有量を有する、
・クロロホルム中、20℃で測定すると0.4〜4.0dl/gの固有粘度を有する、
・5〜50℃のガラス転移温度を有する;
b)PECナノ粒子懸濁液は、非経口製剤である;
c)PECナノ粒子懸濁液は、持続性放出特性を有する;
d)PECナノ粒子懸濁液は、非経口デポ製剤である;
e)懸濁液中のナノ粒子の直径は、1000nm未満、800nm、750nm、700nm、650nm、600nm、550nm、500nmおよび/または450nm未満である;および/または
f)使用されるPECポリマーは、2000kDa未満の分子量を有する。
【0056】
懸濁液のPECナノ粒子は、薬理学的に活性な薬剤、とりわけ前に記載のような薬理学的に活性な薬剤を含む。懸濁液中のPECナノ粒子は、任意選択で、薬学的に許容される付加的添加剤、例えば、イオン性または非イオン性界面活性剤、接着剤、安定剤、抗酸化剤、滑沢剤および/またはpH調節剤、ならびに/あるいは添加物、例えば、ナノ粒子の中または表面上にマナジオンおよび/またはビタミンCなどのラジカル捕捉剤を含むことができる。本発明者らは、ここでも適用される前記の詳細な開示を参照する。
【0057】
本発明は、また、医薬組成物を調製するためのそれぞれのPECナノ粒子懸濁液の使用に関する。
【0058】
本発明は、また、薬理学的に活性な薬剤を含むポリ(エチレンカーボネート)ナノ粒子の懸濁液を調製することによる、前記のような医薬組成物の製造方法を提供する。
【0059】
ナノ粒子懸濁液は、種々の技術によって得ることができる。ナノ粒子懸濁液を調製するのに適切な方法は、参照により全体で本明細書に組み込まれ、本明細書に記載のPECナノ粒子懸濁液を調製するのにも利用できる、例えば、Riceら、Nanomedicine:Nanotechnology,Biology,and Medicine、2巻(2006年)8〜21頁に詳細に記載されている。とりわけ、溶媒蒸発法、塩析および溶媒置換法が、最も有利である。溶媒置換法は、それが均一な分布の大きさのナノ粒子を与えるので、結果として使用された。
【0060】
溶媒置換法を使用する場合には、ポリマーを、まず、水と混和性である有機溶媒(例えば、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはN−2−ピロリドン)中に定められた濃度で溶解する。この混合物を、次いで、シリンジまたは注入ポンプを介して安定剤を含んでいてもよい水性溶液(例えば、PBS緩衝液(pH7.4、0.1M))中に注入する。直ちに、水性相中での有機層の急速な拡散が起こり、それによって、コロイド状のチンダル現象を呈した系の創生に至る。この溶液を、有機溶媒が完全に蒸発するまで、常圧または減圧下に磁気撹拌器を用いて混合する。溶媒置換法によって製造できるナノ粒子の大きさは、種々の因子を変更することによって変えることができる。大きさに影響を及ぼす重要な因子は、ポリマー濃度、水性溶液中の任意選択の安定剤の濃度、および有機相の水性相に対する比率、注入用毛細管の直径、ポリマー/溶媒混合物の注入速度、さらには温度である。とりわけ、ポリマー濃度が決定的に重要である。溶媒置換法は、とりわけ親油性化合物に対して高い封入効率を示し、結果として、実施例中でモデル物質としての親油性蛍光マーカーであるクマリン−6によって示されるように、親油性薬物化合物を封入するのに極めて適している。
【0061】
有機溶媒の例には、限定はされないが、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはN−2−ピロリドン;好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)またはN−1−メチル−2−ピロリドン(NMP)が含まれる。
【0062】
ナノ粒子に少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤を装填するために、薬理学的に活性な薬剤を水と混和性である有機溶媒(例えば、アセトンまたはアセトニトリル)中に定められた濃度で溶解することによって、薬理学的に活性な薬剤の第1原液を調製する。第1原液中での薬理学的に活性な薬剤の濃度は、有機溶媒1mLにつき1〜500μg、好ましくは有機溶媒1mLにつき5〜100μg、最も好ましくは有機溶媒1mLにつき25〜7μgの範囲でよい。PECポリマーを水と混和性である有機溶媒(例えば、アセトンまたはアセトニトリル)中に溶解することによって、第2原液を調製する。第2原液中でのPECポリマーの濃度は、有機溶媒1mLにつき0.1〜100mg、好ましくは1mLにつき0.5〜50mg、最も好ましくは1mLにつき1〜25mgの範囲でよい。第1原液および第2原液の必要量を、ピペットを用いてエッペンドルフカップ中に移送し、有機溶媒で1.5mlにする。渦撹拌し、そしてPVA溶液中に注入して、所望の最終濃度が得られる。所望の最終濃度を得るための原液の妥当な濃度および量を決定する方法は、当業者に周知である。
【0063】
薬理学的に活性な薬剤の物理的および化学的特性に応じて、薬物装填量は、0.1〜70重量%の間で変えることができる。薬理学的に活性な薬剤を含むPECナノ粒子を調製する場合、PECポリマーの量は、薬理学的に活性な薬剤と対比して、1〜90重量%の間で変えることができ、好ましくはほぼ30重量%である。
【0064】
一実施形態によれば、アセトニトリルが水と混和性であり、かつPECポリマーを溶解するので、PECポリマーは、アセトニトリルに溶解される。
【0065】
PECポリマーを溶解するのに使用される溶媒は、好ましくは乳化剤を含む第2溶媒で置換される。詳細は、実施例の部にも記載される。乳化剤としては、ポリビニルアルコール、好ましくはMowiol 18/88を使用できる。
【0066】
一実施形態によれば、粒子の大きさは、ポリマー濃度で調節される。実験によって、0.1mg/5ml PVAであるPECポリマー濃度は、200nm未満の大きさを有するナノ粒子を得るのに適していることが示された。3mg/5ml PVAの濃度は、僅かに200nmを超える大きさを有し、結果としてやはり極めて適切な範囲にあるナノ粒子を与えた。
【0067】
本発明を、非限定的実施例によってさらに概略的に説明するが、それらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を構成する。さらに、本出願中で引用されるすべての参考文献、参照により全体で組み込まれる。
【実施例1】
【0068】
(ポリエチレン)カーボネートを合成するための実験手順
PECは、COとエチレンオキシドとの反応、およびそれに続く重合から得ることができる(参照により本明細書に組み込まれる、例えば、Acemogluら、「Poly(ethylene carbonate)s part I:Syntheses and structural effects on biodegradation」、Journal of controlled release、1997年、49巻(2,3号):263〜275頁;およびVogdanisら「Carbon dioxide as a monomer.The polymerization of ethylene carbonate」Makromol.Chem.1986年、Rapid Commun.7巻、543〜547頁を参照されたい)。
【0069】
続いてナノ粒子の調製に使用されるPECポリマーであるPEC95およびPEC99は、表1に示す物理的特性を呈示する。PEC95は、97%のエチレンカーボネート含有量(モル%)を有する。
【0070】
【表1】

【実施例2】
【0071】
溶媒置換法を使用することによるPECナノ粒子の調製
PECナノ粒子懸濁液を、改変された次の溶媒置換法により調製した。
【0072】
最初に、PEC99およびPEC95からポリマー/アセトニトリルの原液を創製した。アセトニトリルは水に混和性であり、かつPECがそれに溶解するので、アセトニトリルを使用する。100mgのPECを、紫色キャップ中に秤量し、ほぼ24時間以内に10mlのアセトニトリルに溶解する。原液は、10mgポリマー/mlの濃度を有する。
【0073】
安定化溶液の調製には、100mgのMowiol 18/88を200mlの超純水を添加して使用する(最終濃度:0.05%PVA)。PVAを完全に溶解するために、溶液を磁気撹拌器上で、ほぼ90℃で3時間加熱する。溶液を、放冷した後、0.2μmの酢酸セルロースフィルターを通して濾過し、冷蔵庫中に貯蔵する。
【0074】
ナノ懸濁液を調製するために、5mlのPVA溶液(室温)を、圧搾空気で清浄にしたガラス製バイアル瓶中に添加し、溶液の高さおよび仕込み量を外側に記入する。
【0075】
意図した最終濃度のために、PEC/アセトニトリル−溶液からピペットを用いて所望量のポリマーを採取し、1.5mlのエッペンドルフカップに添加する。その後、最終容積を1.5mlにするためにアセトニトリルを添加する。カップを閉じ、渦撹拌器を用いてホモジナイズする。得られた溶液を、23Gaucheカニューレを備えた2mlシリンジ(B Braun)中に吸引し、注入中の乱流を最小化するため空気を押し出す。その後、カニューレをPVA溶液の中心部に浸し、ピストンを迅速かつ途切れずに押し下げる。
【0076】
その後、バイアル瓶を、換気フード下で磁気撹拌子を使用しないで一夜にわたって蒸発作用に付す。磁気撹拌子を除外すると、PECの凝集が防止される。蒸発後、アセトニトリルが残留していないことをチェックし、記入した位置まで蒸発水を添加する。
【実施例3】
【0077】
被装填PECナノ粒子の調製
細胞アッセイのため、モデル薬物として使用される蛍光マーカーであるクマリン−6(Sigma Aldrich社)を装填したナノ粒子懸濁液を製造する。クマリン−6(C−6)の構造は次の通りである:
【0078】
【化2】

【0079】
クマリン−6は、潜在的な食作用過程の光学的検出を可能にし、さらに親油性薬剤の適切なモデルであるので、クマリン−6を使用する(吸光:485nm、発光505〜525nm)。その親油性特性および低水溶性のため、クマリン−6を、高い封入率を達成するように溶媒置換法によって好適に処理できる。封入効率は極めて高く、100%に近い。被装填ナノ粒子の調製は、また、実施例2に記載のような改変された溶媒置換法を使用して実施される。クマリン−6は、50μg/mlアセトニトリルの原液で使用され(原液は、冷蔵庫中に貯蔵され、例えばアルミニウム箔によって光から保護される)、PEC95および99ポリマーは、10mg/mlアセトニトリルの原液として使用される。すべてのサンプルは三つ組みで準備される。ナノ粒子に装填するために、必要量のPEC原液およびクマリン−6原液を、混合し、アセトニトリルで1.5mlとし、渦撹拌する(表2参照)。この溶液を、次いで、通常のスキームによりPVA溶液中に注入する(前記参照)。
【0080】
本実験において、クマリン−6の濃度は、0.2%(PECの質量に対して)が選択される。3mg/5mlの濃度において、PEC95のナノ粒子は、PEC99のナノ粒子に比べてより小さいので、三つ組みのPEC95(3mg/5ml)(0.2%クマリン−6)に対しては、0.05%PVA溶液に代わって1%PVA溶液が作られる。
【0081】
【表2】

【0082】
大きさの測定は、Malvern instruments社のゼータサイザー(zetasizer)を用いる光子相関分光法によって実施される。
【0083】
TEM分析は、クマリン−6がナノ粒子中に組み込まれていることを示す。被装填ナノ粒子は、表面が滑らかな丸い形状を有する。凝集は見出されない。
【実施例4】
【0084】
ポリマー溶液の濃度によるナノ粒子の大きさの調節
ナノ粒子懸濁液の調製は、3種の異なるPEC95またはPEC99濃度(表3参照)を利用し、実施例2に記載のような改変された溶媒置換法を使用して実施される。必要量の原液を、ピペットを用いてエッペンドルフカップに移送し、アセトニトリルで1.5mlとする。渦撹拌し、PVA溶液に注入して、所望の最終濃度が得られる。その他すべての反応条件(反応容積、温度、注入条件、蒸発の時間および温度)は一定のままである。反応は、三つ組みで準備され、すべての実験を少なくとも1回繰り返す。
【0085】
【表3】

【0086】
得られたナノ粒子の粒径は、「Zetasizer Nano ZS」(Malvern Instruments社)を使用する光子相関分光法(PCS)によって測定される。
【0087】
図1に示すようなPCSの結果は、ポリマー濃度の増加と共に粒径が増加することを立証している。したがって、ナノ粒子の大きさを、ポリマー濃度によって調節することができる。PEC95の場合(図1a参照)、PEC99(図1b参照)に比べてより一様な粒度分布が得られる。最良の結果は、多分散性指数がむしろ狭いので、3mg/5mlのポリマー濃度で得られる。0.1mg/5mlのポリマー濃度は、200nm未満の直径を有するナノ粒子を製造するのに極めて適している。3mg/5mlの濃度は、より大きな直径、例えば200nmを超えるナノ粒子をもたらすのが通常である。
【実施例5】
【0088】
PECナノ粒子の特性付け
1.クマリン−6を装填したPEC粒子の粒径測定
PEC95およびPEC99の被装填ナノ粒子懸濁液を、0.1mg/5mlおよび3mg/5mlのポリマー濃度で前記のように調製する。装填は、0.2%(w/w)のクマリン−6を用いて実施される。未装填PEC99の懸濁液を調製すると、300nmおよびより大きな粒径を有する粒子が得られ、一方、PEC95は、より一様な粒径を与える。300nmを超える粒径を有するナノ粒子は細胞実験にとってより興味深いので、濃度が3mg/5mlのPVA溶液の代わりに1%PVA溶液を用いて、PEC95ナノ粒子の粒径を大きくすることができる。PEC95(0.1mg/5ml)およびPEC99(3mg/5ml)のナノ粒子は前記のように調製される。粒径を、PVAが0.05%のPVA溶液中で、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instrumentts社)を使用する光子相関分光法(PCS)によって測定する。1%PVA溶液中で調製されるPEC95(3mg)ナノ粒子のサンプルを、超純水を使用して0.05%PVAまで希釈する。
【0089】
PCSの結果を図2に示す。要するに、粒子の大きさは、その大きさがほんの僅かに拡大されるので、未装填粒子の大きさにほぼ等しい。1%PVAの使用は、大きさの増加をもたらすが、PCSで測定されるように300nmを超えない。
【0090】
2.異なる温度でのPEC95およびPEC99ナノ粒子に関する安定性分析
気候環境実験のために、PEC95およびPEC99のナノ粒子懸濁液の三つ組みを、種々の温度で、3mg/5mlの濃度で調製する。
【0091】
ナノ粒子懸濁液を4℃で調製する。したがって、PVA溶液で満たしたガラス製バイアル瓶を、周囲温度に順応させるために気候環境試験機中に2時間配置する。その後、PEC/アセトニトリル溶液の注入を実施する(0日目)。48時間(低温のため)の蒸発処理の後、サンプルを抜き取り、ゼータサイザーで粒径およびゼータ電位を測定し、バイアル瓶を再び閉じる。バイアル瓶を閉じたまま4℃で貯蔵し、注入の3日後にさらなる測定を実施する。三つ組みのナノ粒子を、同時に冷蔵庫中に保存し、温度変化にさらす。それぞれ新たなサンプルをより高い温度で調製し、分析する。最後の測定の24時間後(4日目)に、気候環境試験機の温度を14℃まで上昇させ、双方のPECポリマーの2つの新たな三つ組みを、気候環境試験機中で、したがって14℃で、同一濃度で調製する。24時間後、新たなサンプルのアセトニトリルを蒸発させ、該サンプルをゼータサイザーで測定する(5日目)。気候環境試験機の温度を24℃まで上昇させ、この温度に到達した後(6日目)、PEC95および99のさらなる三つ組みを調製する。24℃でのナノ粒子の調製の24時間後(7日目)に、新たなおよびより古いナノ粒子懸濁液のさらなる分析を実施し、気候環境試験機の温度を31℃まで高める。この温度に到達した後、2つの新たな三つ組みを調製し、24時間後(10日目)に、4℃および31℃で調製された三つ組みを分析/測定した。
【0092】
PEC95およびPEC99ナノ粒子に関する結果を、それぞれ図3および4に示す。4℃で調製されたナノ粒子は、粒径の明らかな変化を示さず、少なくとも10日間にわたって安定なままである。14℃、24℃および31℃で調製されたナノ粒子の場合、31℃の反応温度の場合にのみ、粒径が有意に増加したことがわかる。
【0093】
PEC95ポリマーから調製されたナノ粒子懸濁液は、温度が、粒子の粒径およびゼータ電位にほとんど影響を及ぼさないことを示す。4℃で調製された三つ組みは、全温度範囲にわたって(したがって、ガラス転移温度を超えても)基本的には同じ粒径およびゼータ電位を示す。ガラス転移温度よりも高い温度で調製される三つ組みの場合、粒径のわずかな増加が検出された。したがって、温度は、粒子の調製中に、あったとしてもほんのわずかな影響を及ぼすが、貯蔵中の未装填懸濁液には影響を及ぼさない。
【0094】
3.未装填ナノ粒子に関する粒径および膨潤性の分析
PEC95およびPEC99ナノ粒子の反応混合物から、ポリマー溶液をPVA溶液中へ注入した直後(T=0)、蒸発中のt=30分、60分、90分、120分、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間および24時間の時点でアリコートを採取する。その後、蒸発処理を完結し、バイアル瓶を蓋で密閉する。最終密閉ナノ粒子容器から、T0後の、t=48時間、4日および9日の時点でさらなる測定を実施する。
【0095】
アリコートを、粒径について前記のようにPCSで分析する。最初の24時間のPEC95およびPEC99ナノ粒子に関する結果を図5に示す。双方のポリマーに関して、最初の30分間中での粒径の増加を観察できた。t=30分後の粒径は、残りの実験期間中、一定のままであった。
【0096】
【表4】

【0097】
このデータに基づいて、ナノ粒子は、30分以内に基本的に成熟し、蒸発期間および9日目までの貯蔵中にさらなる大きな変化を受けないと結論付けることができる。原子間力顕微鏡法によるナノ粒子の並行分析は、最初の30分間中の粒径増加は、実のところ単一粒子の膨潤によって引き起こされ、合着によるものではないことを示す。
【0098】
粒径の増加が粒子の膨潤によるのか、粒子の合着および凝集によるのかを明らかにするため、AFMを使用するさらなる実験を実施する。この目的のため、ナノ粒子を、「JEM3010」(Jeol GmbH)を使用する原子間力顕微鏡法(AFM)によって分析する。実験は、粒径、粒度分布(particle distribution)、および表面特性を測定するために、および膨潤特性を分析するために実施される。
【0099】
PEC(PEC95およびPEC99)濃度が0.1mg/5mlおよび3mg/5mlのナノ粒子を調製し、翌日にPCSで測定する。その後、表面特性および粒度分布を測定するための最初の部分の分析に関して、粒度分布および表面特性の分析を、AFM(後記参照)を使用して実施する。
【0100】
膨潤の分析に関して、ナノ粒子の成長および膨潤特性を、AFMで前記のように測定する。AFM分析のための最初のサンプル抜き取りをT0の時点で、したがってアセトニトリル/PEC溶液を0.05%PVA溶液中に注入した直後に実施する。
【0101】
AFMでは、数滴のナノ粒子懸濁液をガラススライド上に載せる。ナノ粒子を表面に吸着させた後、余分な液体をタッピングで除去し、ガラススライドを乾燥する。乾燥後、ガラススライドをAFMに差し込む。粒子を保護するために、顕微鏡分析は、160kHzのタッピング方式でSiチップを用いて実施される。分析は、「JPK」−ソフトウェアを使用して実施し、それに続いて「ImageJ」ソフトウェアを使用して粒径を測定する。
【0102】
典型的な結果を図6a、6bおよび7に示す。
【0103】
PEC95(0.1mg/5ml)
PCS測定は、0.295のPDI(多分散指数)を有する200.5nmの粒径を示す。AFMの結果を図6aに示す。大きな粒はナノ粒子に対応する。AFM測定は、表面が平滑な丸い形状を有する粒子を示す。AFM写真はより小さな粒径を示すので、明らかに、PCSで測定された直径は真の大きさに対応しない。粒子は、AFM測定によれば、100nm(標準偏差28nm)の平均粒径を有する。しかし、それから演繹できる重要な事実は、平滑で丸い形状、および粒子は凝集体としてではなく単一粒子として存在するという事実の確認である。
【0104】
PEC95(3mg/5ml)
PEC95(3mg/5ml)ナノ粒子の場合、分析は、PCSで観察される235.9nm(0.03のPDI)より小さい202nmの平均直径を示す。しかし、PCSで測定される粒径は、PCSがその溶媒層を含む粒子を検出するので、より大きいと思われる。写真は、合着の徴候のない個々の粒子としてほとんどすべて沈積されている表面が平滑な丸い粒子を示した。結果を図6bに示す。
【0105】
PEC99(0.1mg/5ml)
粒子は、外観において類似していた。直径は、PCSで測定された139.8nm(0.216のPDI)と比較すると106nmと判定された。PEC99ナノ粒子(3mg/5ml)は、凝集体を形成し、かつより大きい顕著な傾向を有した。
【0106】
結果は、AFMでの測定がナノ粒子の粒径を判定するのにより正確であることを示す。
【0107】
それぞれの未装填PECナノ粒子を用いる膨潤実験の結果を図8に示す(PEC95(3mg/5ml)の場合)。結果は、蒸発処理の最初の30分以内でのPEC95ナノ粒子の粒径の増加を示す。グラフで示されているように、粒子の大部分は、合着しないが、膨潤処理のためそれらの粒径を増す。PEC99のナノ粒子は、蒸発処理の最初の30分以内でPEC95粒子に比べて粒径のより大きな増加を示し、かつより合着しやすかった。
【0108】
【表5】

【実施例6】
【0109】
クマリン−6のin vitroで培養されたマクロファージ中への取込み
クマリン−6を装填したナノ粒子の取込みを分析するために、マウスのマクロファージ細胞系J744A.1(DSMZ Braunschweig)を37℃、8.5%CO、相対湿度95%で培養する。細胞に、DMEM(PAA即用培地)、グルコース、グルタミンおよび10%ウシ胎児血清(FCS Cytogen社)を2日毎に与えた。臨界細胞数に到達した後、培養物を分割する(通常、1週に2〜3回)。CSLM(共焦点レーザー走査顕微鏡法)下での分析のため、細胞核をDAPI:
【0110】
【化3】

で染色する。
【0111】
非貧食性の蛍光を発するナノ粒子の蛍光を消光するため、培地に非蛍光性染料トリパンブルー:
【0112】
【化4】

を添加する。
【0113】
この染料は、生存細胞によって受け入れられないので、細胞外の蛍光のみが消光される。
【0114】
被装填ナノ粒子が細胞によってどのように処理されるかを分析するために、細胞をCLSMによって分析した。共焦点顕微鏡法は、Axiovert 100Mおよび510走査装置(Zeiss社)を使用して実施され、LSM Image Browserソフトウェアを使用して解析される。CSLM分析は、定性分析を可能にするだけである。
【0115】
Z軸に沿った光学的切断面を作製することによって、クマリン−6の蛍光が細胞の内部で発生するか、外部で発生するかを判定することができる。対照として、一部のマクロファージを4℃でインキュベートする。この温度で、細胞のエネルギー過程は抑制され、結果として食作用過程も抑制される。
【0116】
ここで使用されるPBS緩衝液は次の濃度を有する(0.2gのKCl、8.0gのNaCl、0.2gのKHPO、1.51gのNaHPOを蒸留水(aqua dest.)で1000mlに希釈)。細胞実験のため、10倍濃度のPBS緩衝液が必要である。この目的には、緩衝剤を、蒸留水で1000mlの代わりに100mlまで希釈する。緩衝液を、pH7に調整し、0.2μmのフィルターを使用して滅菌濾過する。
【0117】
この実験の最初の部分に関して、5mlにつき0.1mgおよび3mgのポリマー濃度で0.2%のクマリン−6を含む種々の負荷量のPEC99ナノ粒子を、既知のスキーム(前記参照)を使用して調製する。実験には、0.1mg/5mlの負荷量で126nmの、3mg/5ml負荷量で297nmの大きさの粒子が選択される。
【0118】
実験には、J774細胞を、取込み実験の48時間前に、400μlの作業容積で2つのチャンバースライド中に0.5×10/ウェルの密度で播種する。存在する培地を吸引し、320μlのPEC99(0.1mg)ナノ粒子懸濁液、40μlの10倍濃度のPBS緩衝液、および40μlのマウス血清を添加する(PECの最終濃度:16μg/ml)。6つのさらなるチャンバー中に、やはり40μlのマウス血清および10倍濃度のPBS緩衝液の添加のもとに320μlのPEC99(3mg)ナノ粒子懸濁液を添加した(PECの最終濃度:480μg/ml)。スライドの4つのチャンバーは、未処理細胞の比較プローブを保持するために、培地はそのままでナノ粒子を添加しないままにする。細胞を37℃で1時間インキュベートする。その後、培地を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄し、DAPIを使用して染色する。染色は、ナノ粒子と共にインキュベートされたすべての細胞、および比較細胞の2つのチャンバーについて実施される。2つのチャンバーの細胞は、DAPIがクマリン−6の領域で蛍光を発光するかどうかを分析するために、固定するだけで染色しない。チャンバーを、実験の最後にスライドから取り出し、数滴のFluorsave(Clabiochem社)を使用してカバースライドで覆う。サンプルを、光から保護して貯蔵し、その後直ぐにCLSMで分析する。
【0119】
実験の第2の部分は、種々の濃度のナノ粒子懸濁液の37℃および4℃での取込みを分析する。この実験のために、0.2%のクマリン−6を含む新たな負荷量のPEC99(3mg)を調製する(直径:ほぼ300nm)。
【0120】
実験開始の48時間前に、マクロファージを、3つのチャンバースライドに0.5×10/ウェルの密度で播種する。4℃で細胞をインキュベートするために、チャンバースライドを冷蔵庫中に貯蔵する。濃度依存性を分析するために、480μg/ml、320μg/ml、120μg/ml(スライドのチャンバー内での最終濃度を指す)であるPEC懸濁液の濃度を選択する。したがって、4つのチャンバー(比較サンプル)を除くすべてで培地を吸引し、10%マウス血清およびPBS緩衝液を添加し、そして所望の最終濃度に応じてナノ粒子懸濁液を添加する(120μg/mlには80μl、240μg/mlには160μl、または480μg/mlには320μl)。4つのチャンバーは、種々の濃度のPECナノ粒子と共に37℃で1時間インキュベートされる。480μg/mlおよび240μg/mlのPECナノ粒子を含む4つのチャンバー中の予冷されたスライド中で、4℃で1時間を超えるインキュベーションが実施される。陰性対照として、37℃で貯蔵された4つのチャンバーの細胞は、ナノ粒子と共にインキュベートされない。
【0121】
1時間インキュベートした後、液体を吸引し、細胞を、PBSで2回洗浄し、固定し、DAPIで染色する(実施例7参照)。その後、チャンバーを、スライドから取り出し、数滴のFluorsave(Clabiochem社)を使用してカバースライドで覆う。サンプルを光から保護して貯蔵し、その後直ぐにCLSMで分析する。
【0122】
結果は、分析の最初の部分について(定性分析)、PECナノ粒子(126nmおよび297nm)と一緒のインキュベーションが、細胞内での蛍光をもたらすことを示す。取込みが、活性な食作用を介して起こったのかどうかを分析するために、実験の第2の部分は、異なる温度で実施される。PECナノ粒子が活性な食作用の過程によって処理されるなら、4℃でインキュベートされた細胞は、蛍光を示さないか、相当に低下した蛍光を示すはずである。CSLMの結果は、ナノ粒子濃度の増加に対応する蛍光の増加を示した。しかし、480μg/mlおよび240μg/mlのナノ粒子と共に4℃でインキュベートされた細胞も、蛍光を示した。このことは、PECナノ粒子が、マクロファージによる活性な食作用を低下させることを示している。
【実施例7】
【0123】
DAPI染色(15mlの作業容積の場合)
培地と共に2mlの固定化溶液(一部のPBSおよび一部の4%パラホルムアルデヒド)を細胞に添加し、その後、全部の液体を吸引した。その後、細胞に5mlの固定化溶液を2回添加し、5分間インキュベートし、吸引する。その後、細胞を、空気で15分間乾燥し、DAPI溶液(1ml PBS+20μl DAPI)と共に暗所で30分間インキュベートする。染色処理の終末にDAPIを吸引し、PBSで3回洗浄する。
【実施例8】
【0124】
37℃および4℃でのFACSによる標準として蛍光性ポリスチレンラテックスビーズを用い、NaNの添加による、PEC99およびPEC95ナノ粒子の食作用の比較
蛍光活性化セルソーター(FACS)は、多数の細胞を、それらの大きさ、密集度、および短時間内での蛍光に関して分析し、かつ特徴付ける可能性を提供する。
【0125】
この実験の目的は、種々の大きさのPECナノ粒子が、468nmで賦活され508nmで蛍光を発光する蛍光標識化ポリスチロール標準(PSS)に比べて、マクロファージによってより多く、あるいはより少なく取込まれ/処理されるかどうかをFACSによって判定することである。1つの対照実験は、食作用の阻害剤としてNaNを添加することによって実施される。細胞処理およびその結果として食作用はその温度で抑制/減速されるので、他の対照実験は、4℃のインキュベーション温度で実施される。
【0126】
【表6】

【0127】
最初の実験では、J774細胞を、開始24時間前に、24ウェルプレート中に6×10/ウェルの密度(作業容積1ml)で播種する。マクロファージによる食作用速度を測定するため、5mlにつき0.1mgおよび3mgの濃度のPEC95およびPEC99および0.2%のクマリン−6からなるナノ粒子懸濁液を作製する。加えて、PEC95型のより大きなナノ粒子を、安定剤として1%PVAを使用して調製する。陰性対照として、プレート中の6ウェルを、マクロファージで処理しないで残す。ナノ粒子懸濁液とのインキュベーションのために、残りのウェルの培地を吸引し、PEC95−NP 0.1mg(137nm)および3mg(239nm)、ならびにPEC99−NP 0.1mg(133nm)および3mg(283nm)を、10%マウス血清およびPBSの添加のもとに三つ組みで添加する。ウェル中の最終濃度は、0.1mgおよび3mgのPEC−NPの各三つ組みについては16μg/ml、および付加的に3mgのPEC−NPを用いる1つの三つ組みについては480μg/mlである。インキュベーションは、インキュベーター中、37℃で1時間実施される。インキュベーション期間が終わった後に、対照細胞の場合の懸濁液および培地を吸引し、PBSで2回洗浄する。細胞の表面の蛍光性ナノ粒子を消光するために、細胞を0.4%トリパンブルーと共に5分間インキュベートし、PBSで2回洗浄する。その後、100μlのトリプシンを添加し、ウェルプレートからマクロファージを除去するためにウェルプレートを揺すった。細胞にパラホルムアルデヒド:FACS Flow(1:1)を200μl添加し、サンプルを、ガラスパイプに移し、FACSによって分析する。
【0128】
この最初の実験の目的は、同一濃度の被装填PEC99およびPEC95ナノ粒子の食作用に関して差異が存在するかどうかを分析することである。結果を図9に示す。示した蛍光値は、目隠しプローブ、すなわち未処理細胞の蛍光を差し引いた後の蛍光測定の算術平均値に相当する。結果は、細胞内の蛍光が主として使用されたナノ粒子濃度に依存することを示す。
【0129】
次の実験の目的は、PEC99およびPEC95のインキュベーション後のマクロファージの蛍光を、標準ポリマーナノ粒子である蛍光性ポリスチロールナノ粒子の添加後の蛍光と比較してFACSごとに分析することである。実験は4℃および37℃で実施される。活性な食作用過程を抑制するためのさらなる可能性を利用するために、37℃での実験の一部の細胞を、食作用抑制剤であるNaNと共にインキュベートする。したがって、60mMのNaN溶液を、例えば、39mgのNaNを10mlの超純水に溶解することによって調製する。
【0130】
実験開始の24時間前に、細胞を6×10/ウェルの密度で2つの24ウェルプレート中に播種する。その後、0.2%のクマリン−6と共に5mlにつき0.1mgおよび3mgの濃度で装填されたPEC95およびPEC99のナノ粒子懸濁液を調製する。
【0131】
実験を開始する1時間前に、一方のウェルを4℃の冷蔵庫に入れる。実験を開始する3時間前に、37℃で貯蔵されるもう一方のプレートの細胞の半分は、培地を吸引した後に、500μlのNaNおよび500μlの培地で補足される(NaNの最終濃度:30ミリモル/l)。NaN溶液中で3時間インキュベートし、それぞれ4℃で1時間貯蔵した後、細胞実験を開始する。したがって、ウェル中の培地を吸引する(目隠しサンプルを除いて)。4℃で冷却されるプレートの各ウェルに、PEC−NP 0.1mg(108nm)、PEC−95 3mg(285nm)、PEC−99 0.1mg(110nm)およびPEC−99 3mg(297nm)の懸濁液を添加する。10%マウス血清およびPBS緩衝液を添加した後の、ウェル中のPECナノ粒子の最終濃度は、すべてのサンプルに関して16μg/mlに達する。さらに、大きさが100nmおよび500nmの蛍光性ポリスチロール標準が、10%マウス血清およびPBSの添加のもとにウェルを分離するために添加される。ウェル中の標準の最終濃度は、20μg/mlである。
【0132】
37℃で貯蔵される細胞を、それぞれNaNで処理される側(半分)およびNaNで処理されない側(半分)に粒子と共に同様に準備する。
【0133】
粒子を添加した後、細胞を4℃または37℃で1時間インキュベートし、その後、懸濁液を吸引し、PBSで2回洗浄し、0.4%トリパンブルーを添加した後5分間インキュベートする。その後、細胞を、再びPBSで洗浄し、トリプシン処理し、FACS Flow:パラホルムアルデヒド(前記参照)を用いてガラスチューブに移送する。
【0134】
FACS分析の結果を図10に示す。示した蛍光値は、目隠しプローブ、すなわち未処理細胞の蛍光を差し引いた後の蛍光測定の算術平均値に相当する。蛍光の強度は、ナノ粒子の食作用の程度に関する尺度である。ポリスチロール標準は、食作用が起こる条件(37℃、阻害剤なし)下で予想される高レベルの蛍光を、食作用が抑制/減速される場合(4℃、またはNaNの添加)に低い蛍光を示す。したがって、ポリスチレンナノ粒子は、効率的に貧食され、そのことが、それらの粒子を生物学的に不安定にする。なぜなら、それらの粒子は身体中でマクロファージによって急速に排除されるからである。本発明のPECナノ粒子に関する結果は、著しく異なるプロフィールを示し、食作用が抑制/減速される場合でも有意な差異が存在しない(4℃およびNaNを用いた結果を参照されたい)。
【0135】
「PEC95 16μg/ml 108nm 37℃」および「PEC99 16μg/ml 110nm 37℃」の低い蛍光値(=低レベルの食作用)と「ポリスチロール 20μg/ml 100nm 37℃」の場合の高い蛍光値(=高レベルの食作用)とを比較した場合に演繹できるように、特により小さなナノ粒子の場合に、ポリスチレン−NPとPEC−NPとの間の食作用の差異が大きい。したがって、本発明によるPECナノ粒子は、マクロファージによって攻撃されることがより少なく、それによって、封入された薬理学的に活性な薬剤を生分解によって放出し、かつ薬理学的に活性な薬剤をすべてのそれぞれより長い放出期間にわたって全身性で利用可能にする非経口デポ剤としてPECナノ粒子を使用することを可能にする。さらに、結果は、より小さなPECナノ粒子が、より大きなPECナノ粒子に比べて貧食されるのがさらにより少ないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤、少なくとも1種のポリ(エチレンカーボネート)ポリマー、および任意選択の薬学的に許容される添加剤を含むナノ粒子を含む医薬組成物。
【請求項2】
ナノ粒子懸濁液の形態の、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
非経口製剤である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ナノ粒子が、1000nm未満の大きさを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ナノ粒子が500nm未満の大きさを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
PECポリマーの分子量が、2000kDa未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
PECポリマーの分子量が、500kDa未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
薬理学的に活性な薬剤が、化合物、生物学的に活性な薬剤、核酸、ペプチド、およびタンパク質からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ソマトスタチン類似体阻害剤、ビスホスホネート、脂質低下薬、および免疫抑制剤の部類からなる群からさらに選択される薬理学的に活性な薬剤を含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤および少なくとも1種のポリ(エチレンカーボネート)ポリマーを含むナノ粒子を含む懸濁液。
【請求項11】
ポリ(エチレンカーボネート)が次の特性:
(a)70〜100モル%のエチレンカーボネート含有量、
(b)クロロホルム中、20℃で測定した場合に0.4〜4.0dl/gの固有粘度、および/または
(c)5〜50℃のガラス転移温度
の少なくとも1つを有する、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項12】
PECナノ粒子懸濁液が非経口製剤である、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項13】
PECナノ粒子懸濁液が、持続性放出特性を有する、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項14】
PECナノ粒子懸濁液が、非経口デポ製剤である、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項15】
懸濁液のナノ粒子の直径が1000nm未満である、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項16】
PECポリマーの分子量が2000kDa未満である、請求項9に記載の懸濁液。
【請求項17】
使用されるポリ(エチレンカーボネート)が、500kDa未満の分子量を有する、請求項9に記載の懸濁液。
【請求項18】
ナノ粒子懸濁液が、薬学的に許容される添加剤または添加物をさらに含む、請求項10に記載の懸濁液。
【請求項19】
医薬組成物を調製するための、請求項10から18の少なくとも一項に記載の懸濁液の使用。
【請求項20】
少なくとも1種の薬理学的に活性な薬剤および少なくとも1種のポリ(エチレンカーボネート)ポリマーを含むナノ粒子の懸濁液を調製することによる、請求項1から9の少なくとも一項に記載の医薬組成物を製造する方法。
【請求項21】
ナノ粒子懸濁液が、溶媒置換法、溶媒蒸発法、または塩析法を使用して調製される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
粒径が、ポリマー濃度を変えることによって調節される、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
溶媒置換法、溶媒蒸発法、または塩析法を使用することによって、請求項10から18の少なくとも一項に記載の懸濁液を調製する方法。


【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−512148(P2012−512148A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540138(P2011−540138)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067122
【国際公開番号】WO2010/079052
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】