説明

ナノ結晶のナノエマルション

本発明は、連続水相および少なくとも1つの分散油相を含むナノエマルション形態のナノ結晶製剤であって、油相は、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質を含み、水相は共界面活性剤を含む、ナノ結晶製剤に関する。本発明は、前記製剤の製造方法ならびに医用画像処理、温熱療法または光線療法の分野での使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学および医学分野での用途のためのナノエマルション形態のナノ結晶製剤に関する。本発明は、特に医療用画像処理のためのこのような製剤の調製方法ならびにその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
量子粒子もしくは量子ドットとしても知られている発光半導体ナノ結晶のようなナノ結晶は、良好な安定性と組み合わせられる顕著な光化学的および光物理的特性を有し、これは、その使用が生物学および医学分野で非常に有益であることを意味する。
【0003】
従って、特に以下のような多くの用途において、通常使用される有機化合物をナノ結晶で置き換えることの利点が提案されている:
−酸化鉄ナノ結晶を用いる磁気共鳴画像(MRI)(Wagner, V., et al., The emerging nanomedicine landscape(尖端ナノ医療の展望), Nat Biotechnol., 2006, 24(10): p. 1211-12171)、
−発光半導体ナノ結晶を用いる蛍光画像処理および光線療法(Azzazy, H.M.E., M.M.H. Mansour, and S.C. Kazmierczak, From diagnostics to therapy: prospects of quantum dots(診断法から治療法まで:量子ドットの展望), Clinical Biochemistry, 2007, 40: p. 917-927)、
−金ナノ結晶を用いる、温熱療法および/または光学画像処理(Loo, C., et al., Immunotargeted nanoshells for integrated cancer imaging and therapy(統合的癌画像化および治療法のための免疫標的ナノシェル). Nano Lett., 2005, 5(4): p. 709-711)またはX線(Kim, D., et al., Antibiofouling polymer-coated gold nanoparticles as a contrast agent for in vivo X-ray computed tomography imaging(インビボでのX線CT画像処理用の造影剤としての抗生物付着性(antibiofouling)高分子で被覆された金ナノ粒子), J. Am. Chem. Soc., 2007, 129: p. 7661-7665)。
【0004】
これらの用途では一般に、例えば注射によって患者にナノ結晶を投与する。従って、安定でありかつ注射に適した、特に生体適合性のナノ結晶製剤を提供する必要がある。
合成後、ナノ結晶は一般に、それらの成長の制御を可能にする有機配位子で安定化された形態で得られる。当該ナノ結晶は、配位子を、一端がナノ結晶の表面との親和性を有し、他端が水性媒体との親和性を有する二官能性配位子で置き換えることによって、生体適合性水性媒体に可溶化することができる。
【0005】
しかし、得られた水性製剤はなお不安定である。実際、配位子が媒体に存在する他の分子と競合したり、pHの任意の修正、温度、さらに酸素の存在によって溶液が不安定になったり、ナノ結晶を凝集させたりする場合がある。このようなナノ結晶の場合、タンパク質またはDNAの望ましくない非特異的吸着も観察される。最後に、ナノ結晶の固有の特性は、この種の製剤において悪化し、それにより、例えば、発光半導体ナノ結晶の量子収率に影響を及ぼす場合がある。
【0006】
より十分にナノ結晶を安定化させ、かつその特性を保持するために、ナノ結晶を異なる系、例えば、両親媒性配位子の層、無機シェル、さらに、より大きなナノ系に封入することが提案されている。
【0007】
例えば、発光半導体ナノ結晶の脂質ミセルへの封入については、Schroeder et al., Folate mediated tumor cell uptake of quantum dots entrapped in lipid nanoparticles(脂質ナノ粒子に封入された量子ドットの葉酸媒介による腫瘍細胞への取り込み), J. Control. Release, 2007, 124:p.28-34.に記載されている。リポドット(lipodot)と呼ばれるナノ粒子は、その成分をクロロホルム中で混合し、溶媒を蒸発させ、かつ水に再懸濁させた後に、遠心分離して得られる。この場合、ナノ粒子粒度分布は非常に広く、60〜200nmに及ぶ。実際、発光半導体ナノ結晶は、ミセルに封入された後により大きな凝集体を形成すると考えられており、このことは観察される蛍光の顕著な阻害(−98.5%)の説明となる。
【0008】
さらに、S.K.Mandalら(Langmuir 2005, 21, 4175-4179)は、酸化鉄ナノ結晶および蛍光半導体ナノ結晶をオクタンナノエマルションに同時封入することについて記載している。しかし、この種のエマルションは、オクタンの存在のために生体に適合しない。
【発明の概要】
【0009】
[課題]
従って、生物学および医学分野、特に医用画像処理の分野における特定の必要性に適したナノ結晶製剤を提供する必要がある。
【0010】
より具体的には、生体適合性があり、安定しており、かつナノ結晶の固有の特性を保持する製剤が求められている。
最後に、生体内分布を撮像または処置される領域に向けることができる製剤を提供することが有益である。
【0011】
[発明の概要]
本発明によれば、特定の安定な配合を有し、かつヒトへの注射用に認可されている成分だけを用いて調製されているナノエマルションの油性分散相にナノ結晶を封入することが提案されている。
【0012】
第1の側面によれば、本発明は、連続水相および少なくとも1つの分散油相を含むナノエマルション形態のナノ結晶製剤であって、該油相は、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質を含み、該水相が共界面活性剤を含むナノ結晶製剤に関する。
【0013】
該ナノ結晶は、特に、金属または酸化物から形成されていてもよく、導体または半導体であってもよい。本発明は、特に、発光ナノ結晶に関する。
両親媒性脂質は好ましくはリン脂質である。可溶化脂質は、有利には、少なくとも1種の脂肪酸グリセリド、好ましくは12〜18個の炭素原子を含む少なくとも1種の飽和脂肪酸グリセリドを含む。さらに、ナノ結晶製剤の油相は、少なくとも1種の油を含んでいてもよい。
【0014】
共界面活性剤は、好ましくは、エチレンオキシド単位、またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位から形成された少なくとも1つの鎖を含む。該共界面活性剤は、有利には、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG/PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、ならびにエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体から選択される。
【0015】
一態様によれば、ナノ結晶製剤は、例えば、両親媒性脂質または共界面活性剤に生物学的配位子をグラフト結合することによって官能化されている分散相を含む。
第2の側面によれば、本発明は、少なくとも1つの連続水相および少なくとも1つの分散油相を含むナノ結晶製剤を調製する方法であって、
(i)少なくとも1種の可溶化脂質、両親媒性脂質および好適な量のナノ結晶を含む油相を調製する工程と、
(ii)共界面活性剤を含有する水相を調製する工程と、
(iii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で油相を水相に分散させる工程と、
(iv)そのように形成されたナノエマルションを回収する工程と、
を含む方法に関する。
【0016】
剪断力の影響は、好ましくは超音波処理によって生成する。該油相は、有利には、その成分の全てまたは一部を適当な溶媒の溶液に入れ、その後に該溶媒を蒸発させることによって調製される。
【0017】
最後の側面によれば、本発明は、医用画像処理、温熱療法または光線療法のための本発明に係るナノ結晶製剤の使用に関する。
特に、ナノエマルションは、有利には、貯蔵中の優れたコロイド安定性(3ヶ月超)、ナノ結晶を封入する良好な能力ならびに分散相における濃度の上昇を示す。投与中、生体への該ナノ粒子の静脈内注射後に、長い血漿内寿命も観察された(ステルス性(stealthy character))。
【0018】
一般に、本発明に係るナノエマルションは、ヒトへの注射用に認可された成分を用いて調製することができるため、生物学および医学分野での使用、特に注射による生物学および医学分野での使用に適している。
【0019】
この用途では、ナノエマルションは、ベクターとして機能するナノエマルションの体内分布を制御することによってナノ結晶の体内分布を管理することができる。血液循環において得られた寿命の低下と共に、免疫系によるナノ結晶の迅速な認識は、そのようにして回避される。
【0020】
分散相によって形成されたナノ粒子は、静脈内注射後に長い血漿内寿命を有する。これは、ナノエマルションの低いゼータ電位によって生じるのかも知れない。ゼータ電位はナノエマルションの体内分布に影響を与えるパラメータであり、従って、細胞に接触すると陽ゼータ電位によってエンドサイトーシスが促進される。
【0021】
ナノエマルションの分散相は、ナノ結晶の輸送を撮像または処置される組織にさらに向けるように、生物学的配位子によって表面で容易に官能化されてもよい。
連続水相中の共界面活性剤濃度が上昇するため、ナノエマルションは非常に小さな直径を有する分散相も示す。従って、3〜12nmの平均径を有するナノ結晶を封入しているナノエマルションは、典型的に50nmより小さく、好ましくは30〜40nmの平均径を有する。
【0022】
ナノエマルションは、有利には、濃度が上昇した分散相、例えば、該ナノエマルションの重量に対して10%を超える濃度の分散相、特に20〜40重量%の濃度の分散相を有する。
【0023】
最後に、この提案されるナノエマルションは、安価で単純な製造方法によって得ることができ、すぐに実施可能であり、かつ使用される製剤の変形に対する感受性が低いために堅牢である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、PBSで10回希釈されたナノエマルションP1、P2およびP3の蛍光スペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例2に記載されているように、ナノ結晶のナノエマルション(P3)を注射した健康なヌードマウスの経時的な蛍光反射画像を示す。
【図3】図3は、実施例2に従って処置を受け、かつ24時間後に屠殺されたマウスの器官の蛍光反射画像(心臓(A)、肺(B)、脳(C)、皮膚(D)、筋肉(E)、腎臓(F)、副腎(G)、膀胱(H)、腸(I)、脾臓(J)、膵臓(K)、脂肪(L)、胃(M)および子宮−卵巣(N))を示す。
【図4】図4は、実施例2に従って処置を受け、かつ24時間後に屠殺されたマウスの前記器官における蛍光についての棒グラフを示す。
【図5】図5は、温度T=10℃およびT=60℃についての、製造後のナノエマルションの2種類のH−NMRスペクトルを示す(実施例3)。
【図6】図6は、Universal V3.8B TA機器を用いて(a)製造後、および(b)室温で4ヶ月の貯蔵後のナノエマルションの示差走査熱量測定(DSC)によって得られたサーモグラム(温度(単位:℃)の関数としての熱流(W/g))を示す(実施例3)。
【図7】図7は、3種のナノエマルションに関する、40℃における時間(単位:日数)の関数としてのナノエマルションの液滴の大きさ(単位:nm)の発達を示す。菱形は可溶化脂質を含有せずかつ油を含むナノエマルションを表し、三角形は可溶化脂質と油の50:50混合物を含むナノエマルションを表し、かつ、丸は油を含有せずかつ可溶化脂質を含有するナノエマルションを表す(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[定義]
本明細書における意味範囲内で、「ナノエマルション」という用語は、少なくとも2つの相、一般に油相および水相を有する組成物であって、分散相の平均的大きさが、1ミクロン未満、好ましくは10〜500nm、特に20〜100nm、最も好ましくは20〜70nmである組成物を意味する(論文C. Solans, P. Izquierdo, J. Nolla, N. Azemar and M. J. Garcia-Celma, Curr Opin Colloid In, 2005, 10, 102-110を参照)。
【0026】
本明細書における意味範囲内で、「脂質」という用語は、すべての油脂、または動物脂肪および植物油に存在する脂肪酸を含有する物質を意味する。脂質は、主に炭素、水素および酸素から形成され、かつ水の密度より低い密度を有する疎水もしくは両親媒性分子である。脂質は、ワックスのように室温(25℃)で固体状態であっても、油のように液体であってもよい。
【0027】
「リン脂質」という用語は、リン酸基を有する脂質、特にホスホグリセリド類を指す。最も多くの場合、リン脂質は、置換されていてもよいリン酸基によって形成された親水性末端および脂肪酸鎖によって形成された2つの疎水性末端を含む。特定のリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンが挙げられる。
【0028】
「レシチン」という用語は、ホスファチジルコリン(すなわち、コリン、リン酸、グリセリンおよび2つの脂肪酸から形成された脂質)を指す。より広くは、リン脂質が主にホスファチジルコリンからなる限り、レシチンとしては、生物源から抽出されたリン脂質、すなわち、植物または動物由来のリン脂質が挙げられる。このようなレシチンは一般に、異なる脂肪酸を有するレシチンの混合物からなる。
【0029】
「脂肪酸」という用語は、少なくとも4個の炭素原子からなる炭素鎖を有する脂肪族カルボン酸を指す。天然の脂肪酸は、4〜28個(一般に偶数)の炭素原子からなる炭素鎖を有する。長鎖脂肪酸は、14〜22個の炭素原子長さの脂肪酸であり、非常に長い長鎖脂肪酸は、22個超の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0030】
「界面活性剤」という用語は、水中油型および油中水型界面との特定の親和性を化合物に与え、それにより、これらの界面の自由エネルギーを減少させ、かつ分散系を安定化させることができる両親媒性構造を有する化合物を意味する。
【0031】
「共界面活性剤」という用語は、界面のエネルギーをさらに減少させるように別の界面活性剤と共に作用する界面活性剤を意味する。
「生物学的配位子」という用語は、特定の方法で一般に細胞の表面に配置された受容体を認識する任意の分子を意味する。
【0032】
「ナノ結晶」のという用語は、少なくとも1辺の寸法が100nm未満である単結晶を意味する。現在入手可能なナノ結晶は通常無機物であるが、有機ナノ結晶が使用されてもよい。ナノ結晶は、純物質または化合物によって形成されていてもよい。特に、ナノ結晶は、金属または金属酸化物であってもよい。ナノ結晶は、導体または半導体であってもよい。半導体材料の場合、量子粒子(または量子ドット、さらにQドット)と呼ばれる場合が多い。その大きさが小さいために、ナノ結晶は、電子のドブロイ波長に対応する(すなわち、半導体では数ナノメートルの)大きさの三次元領域に電子を閉じ込めるポテンシャル井戸のように振る舞う。この閉じ込めにより、ナノ結晶の電子は、ナノ結晶の大きさおよび形状を変えることによって制御可能な量子化されている離散エネルギー準位を有する。
【0033】
[エマルション]
第1の側面によれば、本発明は、ナノエマルション形態のナノ結晶からなる特定の製剤に関する。
【0034】
当該エマルションは、水中油型エマルションである。このエマルションは、単相であってもよいし、特に分散相中に第2の水相を含むことによって多相であってもよい。
当該ナノ結晶は、それらが一般に親油性の親和性である場合、ナノエマルションの油性分散相に封入されている。
【0035】
上述のように、生物学および医学分野での用途において現在有益なナノ結晶は、主として無機ナノ結晶である。
特に、無機材料は、金および銀などの金属、酸化鉄などの酸化物(特に、磁鉄鉱、磁赤鉄鉱、酸化ガドリニウムおよび酸化ハフニウム)であってもよい。
【0036】
特に、本発明は、半導体ナノ結晶、さらに特に発光ナノ結晶、特に蛍光ナノ結晶に関する。実際、蛍光ナノ結晶は、画像処理の分野において非常に有用なマーカーである。
発光半導体ナノ結晶によって吸収および/または放射される光の波長は、ナノ結晶の大きさだけでなく、半導体ナノ結晶のエネルギーギャップにも依存する。従って、エネルギーギャップが目的の用途において有益な波長(例えば、可視波長または近赤外波長)に対応する化合物が選択される。
【0037】
ナノ結晶にとって有益な半導体の例は、特に、CdS、CdSe、CdTe、InP、PbS、Si、CuInSおよびInGa半導体である。これらの材料は、純粋な形態、混合物またはドープされた形態で、あるいはナノ結晶のコアがシェル(例えば、ZnS製シェル)で被覆されているコアシェル型の形態のナノ結晶で存在していてもよい。
【0038】
これらの材料は、異なる方法(有機金属法、放射線分解法、水熱法、共沈法、熱分解法またはゾル−ゲル法など)によって合成してもよいし、市販されているものであってもよい。
【0039】
市販のナノ結晶は一般に、少なくとも1種の疎水性鎖(好ましくはC8(またはそれ以上の)炭化水素鎖)を有する配位子の層によって安定化されている。これらの疎水性鎖状配位子は、例えば、脂肪鎖を有する、脂肪酸類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、リン酸類、ホスホン酸類、またはアミン類であってもよい。これらは、それらをナノ結晶に結合させることができる1つまたは2つ以上の官能基を含んでいてもよい(例えば、リポ酸、オリゴマーホスフィン類など)。使用される配位子の例は、特に、3個のC8炭化水素鎖を有するトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)である。あるいは、一般により長い単一の疎水性脂肪鎖(例えば、C14〜C22鎖、特にC16鎖またはC18鎖)を有する配位子を使用してもよい。
【0040】
本発明に係るナノエマルションに封入可能なナノ結晶の大きさは、特に限定されず、商業的入手性および他の用途制限の関数として選択される。典型的には、ナノ結晶は、約1nm〜100nm、好ましくは2nm〜20nmの平均径を有する。
【0041】
両親媒性脂質の濃度を上昇させることができる分散相中の可溶化脂質の使用により、提案されるナノエマルションは、濃度が上昇したナノ結晶を封入することができる。
従って、同じナノ液滴中に複数の同一または異なるナノ結晶を封入するナノエマルションを得ることができる。異なるナノ結晶の封入によって、多機能性ナノエマルションを得ることができる。従って、様々な量および異なる波長で光を放射する発光半導体ナノ結晶の封入によって、光学「バーコード」を有するナノ粒子を得ることができる。
【0042】
ナノ結晶の所望の濃度は、一般に、目的の用途によって決まる。典型的には、油相は、例えば、0.001〜2nmol/gのエマルションにおける最終濃度が0.1〜20nmol/gのナノ結晶を含有する。
【0043】
疎水性配位子の層によって安定化され、かつ有機溶剤中に分散されたナノ結晶をエマルションの油相に組み込み、次いで、有機溶剤を蒸発させてもよい。使用される有機溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、シクロヘキサン、DMSOまたはDMFであってもよい。微量の毒性溶媒も避けるために、最初に、より耐性の高い(例えば、ヘキサン)溶媒にナノ結晶を移してもよい。
【0044】
また、ナノエマルションの油相は、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質を含む。
安定なナノエマルションを形成するために、一般に、組成物中に少なくとも1種の両親媒性脂質を界面活性剤として含める必要がある。界面活性剤の両親媒性により、油滴を水性連続相中で安定化させることができる。
【0045】
両親媒性脂質は、親水性部分および親油性部分を含む。両親媒性脂質は一般に、親油性部分が8〜30個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和鎖もしくは不飽和鎖を含む化合物から選択される。両親媒性脂質は、リン脂質類、コレステロール類、リゾ脂質類、スフィンゴミエリン類、トコフェロール類、グルコリピド類、ステアリルアミン類およびカルジオリピン類から選択されてもよく、天然または合成由来であってもよく、すなわち、ソルビタンエステル(例えば、Sigma社からSpan(登録商標)という商品名で販売されているモノオレイン酸ソルビタンおよびモノラウリン酸ソルビタン)などのエーテルまたはエステル基によって親水基に結合されている脂肪酸から形成された分子;重合脂質類;ICI Americas社からTween(登録商標)という商品名で販売され、Union Carbide社からTriton(登録商標)という商品名で販売されている非イオン界面活性剤などのポリエチレンオキシド(PEG)の短鎖に結合された脂質類;モノラウリン酸スクロースおよびジラウリン酸スクロース、モノパルチミン酸スクロースおよびジパルミチン酸スクロース、モノステアリン酸スクロースおよびジステアリン酸スクロースなどの糖エステル類であってもよく、前記界面活性剤は、単独で、あるいは、混合物で使用することができる。
【0046】
レシチンは、好ましい両親媒性脂質である。
特定の一態様では、両親媒性脂質の全部または一部は、反応性官能基(例えば、マレイミド、チオール、アミン、エステル、オキシアミンまたはアルデヒド基)を有してもよい。反応性官能基が存在することにより、官能性化合物を界面でグラフト結合させることができる。反応性の両親媒性脂質は、分散相を安定化させている界面に形成された層に組み込まれており、そこでは、例えば、水相に存在する反応性化合物に結合しやすい。
【0047】
一般に、油相は、0.01〜99重量%、好ましくは5〜75重量%、特に20〜60重量%、最も特に33〜45重量%の両親媒性脂質を含む。
上記量の両親媒性脂質は、有利には、得られたナノエマルションの分散相の大きさを制御するのに有用である。
【0048】
本発明に係るエマルションは、可溶化脂質も含む。この化合物の主な仕事は、ナノエマルションの油相に十分に溶解しない両親媒性脂質を可溶化することである。
可溶化脂質は、両親媒性脂質の可溶化を可能にする両親媒性脂質との十分な親和性を有する脂質である。可溶化脂質は、好ましくは室温で固体である。
【0049】
両親媒性脂質がリン脂質である場合、可能な可溶化脂質は、特にグリセリン誘導体、とりわけ、グリセリンを脂肪酸でエステル化することによって得られるグリセリド類である。
【0050】
使用される可溶化脂質は、有利には、使用される両親媒性脂質に応じて選択される。それは、所望の可溶化をもたらすように、類似した化学構造を一般に有する。それは、油またはワックスであってもよい。可溶化脂質は、好ましくは室温(20℃)で固体であるが、体温(37℃)で液体である。
【0051】
特にリン脂質類にとって好ましい可溶化脂質は、脂肪酸グリセリド類であり、特に、飽和脂肪酸グリセリド類であり、特に、8〜18個の炭素原子、さらにより好ましくは12〜18個の炭素原子を含む飽和脂肪酸グリセリド類である。有利には、異なるグリセリド類の混合物が使用される。
【0052】
好ましくは、少なくとも10重量%のC12脂肪酸、少なくとも5重量%のC14脂肪酸、少なくとも5重量%のC16脂肪酸および少なくとも5重量%のC18脂肪酸を含む飽和脂肪酸グリセリド類が使用される。
【0053】
好ましくは、0%〜20重量%のC8脂肪酸、0%〜20重量%のC10脂肪酸、10%〜70重量%のC12脂肪酸、5%〜30重量%のC14脂肪酸、5%〜30重量%のC16脂肪酸および5%〜30重量%のC18脂肪酸を含む飽和脂肪酸グリセリド類が使用される。
【0054】
Gattefosse社によってSuppocire(登録商標)NCという商品名で販売されている半合成グリセリド混合物は、室温で固体であり、ヒトの注射用に認可されており、特に好ましい。タイプNのSuppocire(登録商標)グリセリド類は、脂肪酸とグリセリンの直接エステル化によって得られる。これらは、C8〜C18飽和脂肪酸の半合成グリセリド類であり、その定性−定量組成を以下の表に示す。
【0055】
上述した可溶化脂質によって、安定であるナノエマルション形態の製剤を有利に得ることができる。特定の理論を利用することは望まないが、上述した可溶化脂質によって、無定形コアを有する液滴のナノエマルションが得られると推測される。こうして得られたコアは、結晶性を示さず、内部粘度が高い。結晶化は、ナノエマルションの安定性に対して悪影響を与える。それは、結晶化により、一般に、液滴が凝集しかつ/または封入された分子が液滴から排出するからである。従って、これらの特性によって、長期にわたるナノエマルションの物理的安定性およびナノ結晶の封入の安定性が促進される。
【0056】
可溶化脂質の量は、油相に存在する両親媒性脂質の種類と量の関数として、大きく変動してもよい。一般に、油相は、1〜99重量%、好ましくは5〜80重量%、特に40〜75重量%の可溶化脂質を含む。
【0057】
【表1】

【0058】
油相は、1種または2種以上の他の油をさらに含んでいてもよい。
使用される油は、好ましくは8未満、さらにより好ましくは3〜6の親水−親油性バランス(HLB)を有する。有利には、油は、エマルションの形成前に、化学的または物理的な修正もせずに使用される。
【0059】
提案される用途では、油は、生体適合性の油、特に天然(植物もしくは動物)または合成由来の油から選択してもよい。この種の油としては、特に、大豆、亜麻仁、椰子、落花生、オリーブ、ブドウ種子およびひまわり油などの特に天然植物由来の油、ならびに、特に、トリグリセリド類、ジグリセリド類およびモノグリセリド類などの合成油が挙げられる。これらの油は、それらの天然形態であっても、精製されていても、エステル交換されていてもよい。
【0060】
好ましい油は、大豆油および亜麻仁油である。
一般に、上記油は、存在する場合、油相中に1〜80重量%、好ましくは5〜50重量%、特に10〜30重量%の量で含有されている。
【0061】
油相は、適量の他の添加剤、例えば、着色剤、安定剤、防腐剤、フルオロフォア、画像処理用の造影剤または他の有効成分をさらに含有していてもよい。
エマルションの分散相のための油相は、単に成分を混合し、かつすべての成分が溶解するまで、必要に応じてそれらを加熱することによって調製してもよい。
【0062】
好ましくは、本発明に係る方法で使用される水相は、水および/またはリン酸緩衝液、例えばPBS(「リン酸緩衝食塩水」)または別の食塩水、特に塩化ナトリウムなどの緩衝液からなる。
【0063】
さらに、水相は、共界面活性剤などの他の成分も含む。共界面活性剤は、当該ナノエマルションを安定化させる。
また、共界面活性剤は、当該ナノエマルションの目的の用途に加えて他の効果を有してもよい。特に、共界面活性剤は、対象とする配位子を運ぶようにグラフト結合されていてもよい。
【0064】
本発明に係るエマルションで使用され得る共界面活性剤は、好ましくは水溶性界面活性剤である。水溶性界面活性剤は、好ましくはアルコキシル化されており、好ましくは、エチレンオキシド単位(PEOもしくはPEG)またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位からなる少なくとも1つの鎖を含む。好ましくは、鎖の単位数は、2〜500の範囲で変化する。
【0065】
共界面活性剤の例としては、特に、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)、ICI Americas社からBrij(登録商標)(例えば、Brij(登録商標)35、58、78もしくは98)という商品名で販売されている製品のような脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、ICI Americas社からMyrj(登録商標)(例えば、Myrj(登録商標)45、52、53もしくは59)という商品名で販売されている製品のような脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、およびBASF AG社からPluronic(登録商標)(例えば、Pluronic(登録商標)F68、F127、L64、L61、10R4、17R2、17R4、25R2もしくは25R4)という商品名で販売されている製品、またはUnichema Chemie BV社からSynperonic(登録商標)(例えば、Synperonic(登録商標)PE/F68、PE/L61もしくはPE/L64)という商品名で販売されている製品のようなエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体が挙げられる。
【0066】
好ましくは、水相は、2〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、特に10〜20重量%の共界面活性剤を含む。
好ましい態様では、連続相は、グリセリン、糖、オリゴ糖もしくは多糖、ゴム、さらにはタンパク質、好ましくはグリセリン、のような増粘剤も含む。実際、より粘度の高い連続相の使用によって乳化を容易にし、よって、超音波処理時間を短縮させることができる。
【0067】
水相は、有利には、0〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に5〜20重量%の増粘剤を含む。
当然のことながら、水相は、適量の着色剤、安定剤および防腐剤などの他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0068】
エマルションの連続相のための水相は、異なる成分を選択された水性媒体と単に混合することによって調製することができる。
分散相のゼータ電位の絶対値は、好ましくは20mV未満(すなわち、−20〜20mV)である。実際、ナノ粒子のゼータ電位の絶対値が増加すると、体内、特に、肝臓、脾臓、肺、さらに腎臓にまでナノ粒子が蓄積してしまう。しかし、画像処理の分野での用途においては、逆のもの、すなわち静脈内注射後に長い血漿内寿命を有するステルス製剤(stealthy formulation)が求められる。
【0069】
[調製方法]
上記ナノエマルションは、剪断力の影響下で好適な量の油相および水相を分散させることによって容易に調製することができる
本発明に係る方法では、最初に異なる油性成分および無機ナノ結晶を混合してエマルションの分散相のための油性プレミックスを調製する。混合は、場合により、適当な有機溶剤溶液にその成分または完全な混合物のうちの一方を入れることによって容易にすることができる。次いで、有機溶剤を蒸発させて分散相のための均質な油性プレミックスを得る。
【0070】
さらに、全ての成分が液体である温度でプレミックスを生成することが好ましい。
好適な態様によれば、ナノエマルションの分散相は、有益な分子(例えば、生物学的配位子)によって界面でグラフト結合されている。この種のグラフト結合プロセスによって、特定の細胞(例えば、論文S. Achilefu, Technology in Cancer Research & Treatment(癌の研究および治療における技術), 2004, 3, 393-408に記載されているような腫瘍細胞)または特定の人体器官を認識することができる。
【0071】
界面グラフト結合プロセスは、好ましくは、分子またはそれらの前駆体を両親媒性化合物(特に、共界面活性剤)に結合させることによって達成される。この場合、両親媒性化合物は、標的分子を界面に配置させることができるスペーサとして機能する。この結合は、乳化の前もしくは後に行われてもよい。特にpHに関して、使用される化学反応がエマルションのコロイド安定性と両立する場合には、後者が好まれるかもしれない。カップリング反応中のpHは、好ましくは5〜11である。
【0072】
例えば、有益な分子は、生物学的標的リガンド(例えば、抗体、ペプチド類、糖類、アプタマー類、オリゴヌクレオチド類、または葉酸などの化合物)、または、ステルス剤(ナノエマルションを免疫系に察知されないようにして生体内でのその循環時間を増加させ、かつその排出を遅くするために添加される物質)であってもよい。
【0073】
また、特に、MRI(磁気共鳴画像)、PET(陽電子放射断層撮影)、SPECT(シングルフォトン断層撮影)、超音波検査、X線撮影、X断層撮影および光学画像処理(蛍光、生体発光、散乱など)用の画像処理剤および/または治療薬を、共有結合またはそれ以外によって、その界面において、あるいはその上に吸着させてナノ粒子内に導入することもできる。
【0074】
油相と水相の割合は非常に変動的である。ただし、通常、ナノエマルションは、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、特に10〜30重量%の油相および50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、特に70〜90重量%の水相によって調製される。
【0075】
有利には、油相を、液体状態で水相に分散させる。相のうちの1つが室温で凝固する場合、1つまたは好ましくは2つの相を有する混合物の温度を融解温度以上に加熱することが好ましい。
【0076】
剪断力効果下での乳化は、好ましくは超音波処理器またはミクロ流動化装置を用いて生じさせる。好ましくは、水相および次いで油相を、所望の割合で適当な円筒状容器に導入し、超音波処理器を媒体に浸漬させ、ナノエマルションを得るのに十分な長さの間(通常、数分間)作動させる。
【0077】
これにより、油滴の平均径が10nm超〜200nm未満、好ましくは20〜50nmである均質なナノエマルションが生成される。
コンディショニング前に、例えば、濾過または透析によって、エマルションを希釈および/または殺菌してもよい。この工程によって、エマルションの調製中に形成され得る凝集体も除去することができる。
【0078】
必要であれば希釈後に、こうして得られたエマルションは、すぐに使用することができる。
[使用方法]
本発明に係る製剤は、ヒトまたは動物へのナノ結晶の投与のために、そのままで、あるいは、例えば希釈により目的の用途に合わせて使用してもよい。
【0079】
当該製剤は、ヒト用に認可された成分のみから調製され得るという事実から、非経口投与に特に適している。ただし、投与は、他の経路、特に経口または局所投与によって達成することもできる。
【0080】
従って、開示される製剤によって、生物学および医学分野、特に医用画像処理の分野での用途のためのナノ結晶の投与において有用な製剤を得ることができる。
また、本発明は、光線療法または熱療法の治療方法であって、それを必要としている哺乳動物(好ましくはヒト)に上に定義したとおりの治療的有効量の製剤を投与することを含む治療方法、および哺乳動物(好ましくはヒト)に上述した製剤を投与することを含む診断法にも関する。
【0081】
本発明を、以下の実施例および図によって以下により詳細に説明する。
図1は、PBSで10回希釈されたナノエマルションP1、P2およびP3の蛍光スペクトルを示す。
【0082】
図2は、実施例2に記載されているように、ナノ結晶のナノエマルション(P3)を注射した健康なヌードマウスの経時的な蛍光反射画像を示す。
図3は、実施例2に従って処置を受け、かつ24時間後に屠殺されたマウスの器官の蛍光反射画像(心臓(A)、肺(B)、脳(C)、皮膚(D)、筋肉(E)、腎臓(F)、副腎(G)、膀胱(H)、腸(I)、脾臓(J)、膵臓(K)、脂肪(L)、胃(M)および子宮−卵巣(N))を示す。
【0083】
図4は、実施例2に従って処置を受け、かつ24時間後に屠殺されたマウスの前記器官における蛍光についての棒グラフを示す。
図5は、温度T=10℃およびT=60℃についての、製造後のナノエマルションの2種類のH−NMRスペクトルを示す(実施例3)。
【0084】
図6は、Universal V3.8B TA機器を用いて(a)製造後、および(b)室温で4ヶ月の貯蔵後のナノエマルションの示差走査熱量測定(DSC)によって得られたサーモグラム(温度(単位:℃)の関数としての熱流(W/g))を示す(実施例3)。
【0085】
図7は、3種のナノエマルションに関する、40℃における時間(単位:日数)の関数としてのナノエマルションの液滴の大きさ(単位:nm)の発達を示す。菱形は可溶化脂質を含有せずかつ油を含むナノエマルションを表し、三角形は可溶化脂質と油の50:50混合物を含むナノエマルションを表し、かつ、丸は油を含有せずかつ可溶化脂質を含有するナノエマルションを表す(実施例3)。
【実施例】
【0086】
実施例1
蛍光半導体ナノ結晶を封入するナノエマルションの調製
1)分散相のプレミックスの調製
1回分のプレミックス1gを以下の方法で調製した。大豆油(Sigma−Aldrich社)50mg、半合成グリセリド(Gattefosse社からSuppocire(登録商標)NCという商品名で販売されている)450mgおよび大豆レシチン(75%ホスファチジルコリン含有、Lipoid社からLipoid(登録商標)S75という商品名で販売されている)400mgを適当な容器に入れた。これらの化合物をクロロホルムに溶解し、次いで、低圧で蒸発させた。残留した混合物を50℃で乾燥して粘性油の形態のプレミックスを得、これを冷却するとすぐに凝固した。
【0087】
2)蛍光半導体ナノ結晶の調製
1μMのデカン溶液で販売されている、近赤外線範囲(705nm)内の光を放射し、かつ10±2nmの平均径を有するCdTe−ZnS系コア/シェル型ナノ結晶(整理番号Q21761MPでInvitrogen社から販売されているQdots 705 ITK Organic)を以下のようにヘキサン溶液に移した。体積で4倍量(4×)のメタノール/イソプロパノール溶液(体積比75:25)を、1倍量(1×)の半導体ナノ結晶に添加した。得られた混合物をボルテックスで混合した後、3000rpmで5分間遠心分離した。次いで、上澄みを除去し、半導体ナノ結晶を1倍量(1×)のヘキサンに再分散させた。
【0088】
3)分散相の調製
約70℃の温度で、先の工程で調製した上記プレミックス0.334gを回収し、そこに、上記のとおりに得られた半導体ナノ結晶の分散系0μL(P0)、125μL(0.125nmol)(P1)、250μL(0.250nmol)(P2)および500μL(0.500nmol)(P3)を添加した。次いで、溶媒を低圧で蒸発させ、得られた混合物を50℃で乾燥して粘性油を得、これを冷却するとすぐに凝固した。この溶液をボルテックスによって均質化し、乳化段階の前に70℃に維持した。
【0089】
4)連続相の調製
1回分の連続相1.666gを以下のように調製した。グリセリン0.050g、50モルのエチレンオキシドを有するステアリン酸ポリオキシエチレン(ICI Americas社からMyrj(登録商標)53という商品名で販売されている)0.228gおよびリン酸緩衝液(PBS)から連続相を形成して、最高1.666gの混合物を生成した。この溶液を、乳化前に50℃まで加熱した。
【0090】
【表2】

【0091】
5)乳化
上で得られた1回分の連続相を、3)で得られた1回分の分散相0.334gに添加し、上の表2に示す組成の混合物を得た。混合物を、全エネルギー6000ジュールを使用して5分間、直径が3mmの円錐形プローブを備えたAV505(登録商標)超音波処理器(Sonics Newtown)を用いて乳化した。非常に安定であり、かつ透明なナノエマルション(P0)、(P1)、(P2)および(P3)が得られ、この色の濃さは、ナノ結晶の濃度によって増加した。
【0092】
6)特性
得られたナノエマルションの、0.1MのPBS中に1:1000の比率で希釈された試料からZetasizer(Malvern Instruments社)を用いて測定された分散相の平均径は、30±10nmであった。
【0093】
同じ機器を用いて測定された、調製後のナノエマルションのゼータ電位は−8.6±7.7mVであった。調製後のナノエマルションは、優れたコロイド安定性(3ヶ月超)を示した。
【0094】
分光蛍光計(PERKIN ELMERモデルLS 50)を用いて記録した調製後のナノエマルションの蛍光スペクトルは、封入後であっても有益な光学特性を示した。
実施例2
蛍光画像処理のための蛍光半導体ナノ結晶を封入するナノエマルションの使用
実施例1に従って調製した1回分のナノエマルション(P3)100μLを、リン酸緩衝液100μLを添加して二回希釈した。次いで、得られた1回分200μL(0.025nMのナノ結晶)を、6〜8週齢の雌のヌードマウス(フランスのマルシーレトワール(Marcy l'Etoile)所在のIFFA−Credo社)の尾(尾静脈)に静脈内注射し、無菌条件下に置いた。
【0095】
処置の間ずっとガス(イソフルオラン)による全身麻酔薬下に置かれたマウスを、633nmの光(光力50μW.cm−2)を放射する、干渉フィルタを備えた励起源としての冠状のLEDを含む蛍光反射撮像装置(FRI: fluorescence reflectance imaging device)を用いて撮像した。上記装置については、論文Texier, I. et al., “Luminescent probes for optical in vivo imaging”(光学的インビボ画像化のための発光プローブ), Proceedings of the SPIE, 2005, 5704, 16-22に、より詳細に記載されている。この画像は、500msの露光時間を有するCCDカメラ(Hamamatsu社製Orca BTL)によって、励起波長での光学濃度が5超であるRG665色フィルタによるろ過後に回収した。この信号を、画像処理ソフトウェアを用いて定量化した。
【0096】
図2は、得られた画像を示し、かつナノエマルションの注射から24時間後のマウスにおけるナノエマルション(P3)の体内分布を示す。マウスが注射後の最初の15分間において、体全体のナノ結晶の均一な分布によって照らされていることが分かる。1時間後、信号が明らかに胃に集中し、これは時間とともに減少する。小さな蓄積が肝臓に認められ、これは注射後のエマルションのステルス性が良好であることを示す。
【0097】
図3は、注射から24時間後に屠殺されたマウスの器官の画像を示す。前記画像は、蛍光反射撮像装置を用いて得られたものである。肝臓、脾臓、肺および腎臓中に観察される信号は、胃、皮膚および副腎中に観察される信号と比較して非常に弱いことが分かる。
【0098】
これらの結果は、静脈内注射から少なくとも1時間後の血漿内寿命、よって本発明に係るナノエマルションのステルス性を確認している。血漿内寿命は、生物学および医学分野、特に、医用画像処理、温熱療法および光線療法の分野で使用することができる製剤を選択する際の重要なパラメータである。
【0099】
実施例3
ナノエマルションの安定性の確認
可溶化脂質によってナノエマルションに与えられる安定性を実証するために以下の実験を行なった。
【0100】
実施例3a:NMRによる液滴の内部粘度の高いことの確認
Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)255mg、大豆油(Sigma Aldrich社)(油)85mg、Myrj52(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)345mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)65mgおよびリン酸緩衝液(PBS)を含むナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0101】
ナノエマルションは、プロトン核磁気共鳴によって、10℃と60℃で分析した。特に温度が低かった場合は、H−NMRスペクトルで観察されたナノエマルション(油/可溶化脂質および両親媒性脂質)の液滴のコア成分に関連するピーク(0.9;1.5;1.6;2.0;2.2;4.1;4.2ppm)は、基準(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸(DSS)を0ppmとする)と比較して広くなっており、よって、液滴の内部粘度が高いことを明らかにした。共界面活性剤Myrj53(登録商標)に関連するピーク(3.7ppm)は拡がりを示さず、これは、共界面活性剤が液滴の表面に残存し、かつポリオキシエチレン鎖が水性緩衝液に可溶化されていることを示す(図5)。
【0102】
実施例3b:示差走査熱量測定による液滴中に結晶化が生じていないことの確認
Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)150mg、大豆油(Sigma Aldrich社)(油)50mg、Myrj53(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)228mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)100mgのおよびリン酸緩衝液(PBS)を含むナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0103】
調製後および室温で4ヶ月の貯蔵後に、ナノエマルションの示差走査熱量測定分析によって得られたサーモグラムは、製造後および4ヶ月を超える室温での貯蔵後のいずれにおいても融解ピークが観察されなかったことを示し、これは、液滴が結晶化しなかったことを示す(図6)。
【0104】
実施例3c:物理的安定性に対するナノエマルション組成の影響を明らかにする
Myrj53(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)228mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)100mg、リン酸緩衝液(PBS)1600μL、表3に示す量のSuppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)および大豆油(Sigma Aldrich社)(油)を含む3種類のナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0105】
【表3】

【0106】
得られた3種類のナノエマルション対して40℃における安定性の促進試験を行なった。経時的なナノエマルションの大きさ/多分散性を監視することで、可溶化脂質の安定化作用を確認することができた。可溶化脂質を含有していないナノエマルションの大きさは、40℃では、ほぼ170日後に著しく増加したのに対して、可溶化脂質を含有するナノエマルションは、液滴の大きさに顕著な変化を示さなかった(図7)。この結果は、可溶化脂質をナノエマルションの組成物に添加することによって、液滴およびナノエマルションに対して、より良好な物理的安定性を与えることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続水相および少なくとも1つの分散油相を含んでなるナノエマルション形態の金属、金属酸化物または半導体ナノ結晶製剤であって、該油相は、少なくとも1種のリン脂質と、12〜18個の炭素原子を含む少なくとも1種の飽和脂肪酸グリセリドを含む少なくとも1種の可溶化脂質とを含み、該水相は共界面活性剤を含む、ナノ結晶製剤。
【請求項2】
ナノ結晶が発光性である、請求項1に記載のナノ結晶製剤。
【請求項3】
油相が少なくとも1種の油をさらに含む、請求項1または請求項2に記載のナノ結晶製剤。
【請求項4】
共界面活性剤が、エチレンオキシド単位またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位から形成された少なくとも1つの鎖を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ結晶製剤。
【請求項5】
共界面活性剤が、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG/PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体から選択される、請求項4に記載のナノ結晶製剤。
【請求項6】
分散相が官能化されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ結晶製剤。
【請求項7】
少なくとも1つの連続水相および少なくとも1つの分散油相を含む金属、金属酸化物または半導体ナノ結晶製剤を調製する方法であって、
(i)好適な量のナノ結晶と、リン脂質と、12〜18の炭素原子を含む少なくとも1種の飽和脂肪酸グリセリドを含む少なくとも1種の可溶化脂質とを含む油相を調製する工程と、
(ii)共界面活性剤を含有する水相を調製する工程と、
(iii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で水相に油相を分散させる工程と、
(iv)そのように形成されたナノエマルションを回収する工程と、
を含む方法。
【請求項8】
剪断力の影響が超音波処理によって生成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
油相を、その成分の全てまたは一部を適当な溶媒の溶液に入れ、かつ後に該溶媒を蒸発させることによって調製する、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医用画像処理、温熱療法または光線療法に使用される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノ結晶製剤。
【請求項11】
光線療法または熱療療法の治療法であって、それを必要としている哺乳動物に治療的有効量の請求1〜6のいずれか1項に記載の製剤を投与することを含む治療法。
【請求項12】
哺乳動物に請求項1〜6のいずれか1項に記載の製剤を投与することを含む診断法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−530573(P2011−530573A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522519(P2011−522519)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060534
【国際公開番号】WO2010/018222
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511039614)
【Fターム(参考)】