説明

ナノ複合体およびその製造方法

【課題】製紙スラッジ成分とMAPとを結合させたナノ複合体を提供し、併せてこのナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】製紙スラッジの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)2を製紙スラッジ成分であるセルロース1にナノオーダー距離まで接近乃至接触させて、微結晶のミセル3を形成し、製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで強固に結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙スラッジ成分と無機物質とのナノ複合体に係り、特に植物生育促進資材として有用なナノ複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙過程で発生する製紙スラッジは、従来一般に焼却した後、埋立処分されていた。しかるに、近年、製紙スラッジの発生量が益々増大する一方で、処分場の確保が益々困難になる傾向にあり、製紙スラッジの再生利用が大きな技術的課題となっている。
【0003】
そして従来、製紙スラッジの再生利用技術としては、例えば、特許文献1に記載されるように、製紙スラッジに家畜廃棄物を混合して発酵させ、培養土や緑化基盤材とする方法、あるいは特許文献2に記載されるように、製紙スラッジをアルカリ処理してゼオライト含有物質とする方法などがあった。しかし、前者の方法で得られる培養土や緑化基盤材は、肥料成分を含む電解質を大量に含有するため、環境負荷が大きすぎて土壌汚染、富栄養化などの弊害を引き起す虞があり、一方、後者の方法で得られるゼオライト含有物質は、植物の生育に必要な栄養素の供給能に劣り、何れも使用量に一定の限界があって、大量に発生する製紙スラッジの処理に対応できない、という問題があった。
【0004】
なお、無機肥料として、リン酸マグネシウムアンモニウム、所謂MAPが知られており(例えば、特許文献3等参照)、植物の生育に必要なリン、マグネシウム、窒素を総合的に含むことから、現在、多方面で利用されている。したがって、このMAPを上記した製紙スラッジと結合できれば、極めて有用な植物生育促進資材になって、製紙スラッジの大量処理も可能になると考えられるが、MAPを結合した製紙スラッジは、いまだ実現していない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−86854号公報
【特許文献2】特開2004−182538号公報
【特許文献3】特開平05−319966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、製紙スラッジ成分とMAPとを結合させたナノ複合体を提供し、併せてこのナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るナノ複合体は、製紙スラッジ成分とリン酸マグネシウムアンモニウムとを分子レベルで結合してなることを特徴とする。製紙スラッジは、セルロース(繊維)を主成分としており、このセルロース繊維にMAPを分子レベルで結合させることで、植物の生育に有用な栄養素を複合して有しかつ徐放性を有する植物生育促進資材が実現する。また、セルロース繊維は土の団粒化を促進する効果があるので、この面でも植物の生育促進に寄与するものとなる。
【0008】
本ナノ複合体において、上記製紙スラッジ成分とリン酸マグネシウムアンモニウムとの結合割合は、重量比で1:100乃至100:1の範囲とすることができる。
【0009】
本発明に係るナノ複合体の製造方法は、製紙スラッジの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウムを製紙スラッジ成分に分子レベルで結合させることを特徴とする。このようにすることで、各塩の反応で生成されたMAP成分が製紙スラッジ成分に分子レベルで結合される。
【0010】
この場合、リン酸アンモニウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液との混合溶液に製紙スラッジを懸濁させた後、前記懸濁液にアンモニア水を該溶液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取するようにしてもよく、このようにすることで、極めて簡単にナノ複合体を製造できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るナノ複合体によれば、植物の生育に有用な栄養素を複合して有するばかりか徐放性を有し、しかも土の団粒化を促進する効果を有するので、植物生育促進資材として極めて有用となり、結果として製紙スラッジの大量処理にも役立つ。
【0012】
また、本発明に係るナノ複合体の製造方法によれば、製紙スラッジの共存下で化学反応を起こさせてリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させるので、ナノ複合体を確実にかつ安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面も参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るナノ複合体の結合構造を模式的に示したものである。本ナノ複合体は、製紙スラッジ成分とリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)とを分子レベルで結合させたもので、図中、1は製紙スラッジの主成分であるセルロース(微細繊維)を、2はリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を表わしている。MAP2は陽イオン(Mg2+、NH4+)と陰イオン(PO43-)とを含んでおり、その一部は、セルロース1の鎖状分子(O、H)と共有結合および水素結合して微結晶のミセル(ナノ複合体)3を形成し、他の一部は、セルロースの微細繊維間に物理的に結合される。
【0015】
このように、本ナノ複合体は、製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合してなっているので、植物の栄養素であるリン、マグネシウム、窒素が徐々に放出される。したがって、これを土壌に混入しても環境負荷は小さく抑えられ、土壌汚染、富栄養化などの弊害を引き起すことはない。また、セルロース繊維は土の団粒化を促進する効果があるので、この面でも植物の生育促進に寄与するものとなる。
【0016】
なお、ここで選択する製紙スラッジの発生源(発生工場)は任意であり、1つの工場から発生した製紙スラッジであっても、複数の工場から発生した製紙スラッジの混合スラッジであってもよい。
【0017】
本ナノ複合体を製造するには、製紙スラッジの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させればよい。この場合、リン酸アンモニウム(NH42PO4)の水溶液と塩化マグネシウム(MgCl2)の水溶液との混合溶液に製紙スラッジを懸濁させ、前記懸濁液にpH調整用のアンモニア水(NH4OH)を該溶液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取するのが望ましい。前記白濁物質は反応により生成したMAP成分であり、製紙スラッジの共存下でMAPの生成反応を起こさせることで、MAP成分が製紙スラッジの主成分であるセルロースに対して、分子軌道同士が相互作用を起こすナノオーダー距離まで接近乃至接触し、これにより上述した形態(図1)でセルロース1とMAP成分2とが分子レベルで結合し、ナノ複合体が生成する。
【実施例1】
【0018】
任意の工場から発生した製紙スラッジを選択し、この製紙スラッジ20gを予め反応容器に入れ、次に、前記反応容器にNH42PO4(リン酸アンモニウム)とMgCl2(塩化マグネシウム)との飽和混合溶液を加え、混合溶液中に製紙スラッジを懸濁させた。このとき、NH42PO4とMgCl2は、MAP換算で製紙スラッジ成分との割合が、重量比で1:1(製紙スラッジ成分:MAP)となるように加えた。次に、前記製紙スラッジ懸濁液にNH4OH(アンモニア水)を、該溶液が白濁するまで添加し、その後、遠心分離器により固液分離して固形物を採取し、さらに、乾燥した。そして、乾燥した固形物をX線回折試験に供し、物質の同定を行った。
【0019】
図2は、X線回折結果を示したものである。これより、固形物には製紙スラッジ成分およびMAPが明瞭に認められ、この固形物が製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体あることを確認できた。
【実施例2】
【0020】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算で製紙スラッジ成分との割合が、重量比で10:1(製紙スラッジ成分:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物には製紙スラッジ成分およびMAPが明瞭に認められ、この固形物が製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例3】
【0021】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算で製紙スラッジ成分との割合が、重量比で100:1(製紙スラッジ成分:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物には製紙スラッジ成分およびMAPが明瞭に認められ、この固形物が製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例4】
【0022】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算で製紙スラッジ成分との割合が、重量比で1:10(製紙スラッジ成分:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物には製紙スラッジ成分およびMAPが明瞭に認められ、この固形物が製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【実施例5】
【0023】
NH42PO4とMgCl2を、MAP換算で製紙スラッジ成分との割合が、重量比で1:100(製紙スラッジ成分:MAP)となるように加えた以外は、実施例1同じ手順で固形物を採取し、この固形物についてX線回折試験を行った。この結果、固形物には製紙スラッジ成分およびMAPが明瞭に認められ、この固形物が製紙スラッジ成分とMAPとを分子レベルで結合させたナノ複合体であることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るナノ複合体の結合構造の1つの形態を示す模式図である。
【図2】本発明の1つの実施例で得られたナノ複合体のX線回折結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 製紙スラッジ成分(セルロースの微細繊維)
2 リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)
3 ミセル(ナノ複合体)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙スラッジ成分とリン酸マグネシウムアンモニウムとを分子レベルで結合してなることを特徴とするナノ複合体。
【請求項2】
製紙スラッジ成分とリン酸マグネシウムアンモニウムとの結合割合が、重量比で1:100乃至100:1の範囲にある、請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノ複合体を製造する方法であって、製紙スラッジの共存下で、リン酸塩と、マグネシウム塩とアンモニウム塩とを反応させて、反応生成物であるリン酸マグネシウムアンモニウムを製紙スラッジ成分に分子レベルで結合させることを特徴とするナノ複合体の製造方法。
【請求項4】
リン酸アンモニウム水溶液と塩化マグネシウム水溶液との混合溶液に製紙スラッジを懸濁させた後、前記懸濁液にアンモニア水を該懸濁液が白濁するまで添加し、しかる後、固液分離して、ナノ複合体を固形物として採取する、請求項3に記載のナノ複合体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−153705(P2007−153705A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353648(P2005−353648)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(592062943)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】