説明

ナノ金属又は複合金属を含有する物体を製造する方法

全体又は選択された部分がアモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体からなる三次元物体を製造する方法である。金属粉末層(4)は熱伝導ベース(1、13)に適用され、放射銃を用いて前記層の限定されたエリアが逐次的に融解され、融解されたエリアはアモルファス金属として凝固するように冷却される。放射銃は、前記層の一又は複数の限定されたエリアの融解との関連において、アモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体が形成されるように規定された時間−温度曲線に従って融解エリアが冷却されるように調整される。前記方法は、所望の範囲の複合金属を含有する連続層が形成されるまで繰り返される。新たな粉末層(4)が適用されて前記方法が繰り返され、三次元物体の逐次的な構築のために、前記新たな層が下層に融合される。
別の方法としては、最初にアモルファス金属のみからなる層が形成され、引き続いて、前記層の限定されたエリアが放射銃を用いて加熱され、アモルファス金属がアモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体に転換するように規定された時間−温度曲線に基づいて熱処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス金属のマトリクス中の全体又は選択された部分が、結晶性又はナノ結晶性金属粒子の複合体からなる、三次元の金属物体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を液相から固相に冷却する際、通常は多結晶構造が得られる。ここで、その微細構造は多数の様々な粒子からなり、各粒子における原子は、ある種の規則的なパターンに従って配置されている。一方、原子が完全に不規則構造であり、原子が規則的に配列した粒子がない場合、その物質はアモルファスであると言われる。これは例えば、いかなる粒子も成長する時間がないほど急速に融解物を冷却すること、或いは、粒子が破壊される極度の機械的な変形を与えることによって達成される。
【0003】
60年代の初頭、最初のアモルファス金属が、熱伝導ベース上に融解物の薄膜を噴霧することによって製造された。これは、10−10K/sという非常に速い冷却速度において得られたもので、いかなる粒子も成長する時間がなかったために不規則な構造が固相中においても維持された。しかしながら、得られた合金は厚みが数十マイクロメータという非常に薄いものであったため、その応用範囲は限定されていた。
【0004】
特別に構成された合金から、アモルファスのバルク金属やアモルファスの構造金属、すなわち構造的な応用が可能であるような寸法を有するアモルファス金属が製造されたことは、70年代までなかった。これらの合金のバルク金属は、融解物を約1000K/sという速度で冷却することで製造されたが、とりわけパラジウムという高価な金属を含有することが、大量生産の妨げとなっていた。80年代の終盤には、日本の東北大学の井上教授が、融解物からの冷却時にアモルファスバルク構造を得ることができる、通常の金属材料からなる様々な多成分系を開発することに成功した。その後の数年間で、多数の様々なアモルファス金属系が見いだされた。文献上ではそれらはしばしば「金属ガラス(バルク金属ガラス)」と称される。
【0005】
完全なアモルファス物質はしばしば非常に高い硬度を有し、一方、多結晶性物質はより延性を有する。様々な状況下において、アモルファス構造と、とりわけ結晶性構造との物質特性を組み合わせることが期待されている。多結晶構造において、結晶と結晶の間のエリアや粒子の境界部は、不規則構造或いはアモルファスであると認められうる。粒子の数が増加し、すなわち粒子の大きさが減少すれば、その構造における粒子の境界部や材料の不規則度合いもまた増加する。ナノ結晶性物質においては、粒子は非常に小さく、かかる物質は不規則(アモルファス)マトリクス中に多数の小結晶を有する複合材料であると認められうる。
【0006】
アモルファスマトリクス中に結晶性金属を有する複合物質は、急速冷却によってアモルファス金属を形成しうる対象の合金を、結晶の継続的な成長が阻害される程度に材料が冷却される前に、結晶の成長が許容されるように制御された時間−温度曲線に従って融解物から冷却することで製造されてきた。米国特許7,244,321号はこのような方法を開示しており、結晶の成長を促進する機能を与えるべく、さらなる材料を合金系に添加することが開示されている。また、アモルファス合金である目的物質を出発として、かかる目的物質を、その物質中で結晶が成長するよう制御された時間−温度曲線に従って熱処理し、続いて、目的物質を再度急速冷却することも知られている。アモルファスマトリクス中にナノ結晶性粒子を有する複合物質の製造は、例えば、井上ら"Synthesis of High Strength Bulk Nanocrystalline Alloys Containing Remaining Amorphous Phase", Journal of Metastable and Nanocrystalline Materials, Vol. 1 , (1999), pp 1-8.に開示されている。
【0007】
三次元物体の製造においては、実例として相当な厚みや多様な幾何学的形態等の構造の詳細について、これらの既知の方法を用いて、物体の全部分についての十分に明瞭に規定された冷却速度を得ることは不可能である。
結晶の大きさや成長速度は、温度、及び、その温度が材料に作用している時間の長さに依存するという事実によれば、これらの方法では、制御された材料特性を有する物体を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許7,244,321号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】井上ら "Synthesis of High Strength Bulk Nanocrystalline Alloys Containing Remaining Amorphous Phase", Journal of Metastable and Nanocrystalline Materials, Vol. 1, (1999), pp 1-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、金属合金から、アモルファス金属のマトリクス中の全体又は選択された部分が、結晶性又はナノ結晶性金属粒子の複合体からなる三次元物体を製造する方法を得ることであり、これにより、上述の課題が大幅に解消される。さらなる目的は、物体中の選択された部分が、アモルファスのマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性の金属粒子を有する複合体からなる三次元物体を製造する方法を提供することである。発明のさらなる目的は、傾斜材料、すなわち、物体中の異なる部分において結晶性金属粒子のサイズや量が多様であるだけでなく、物体中の異なる部分において使用された合金の化学成分も多様でありうる材料からなる三次元物体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、添付された特許請求の範囲で規定された方法によって達成される。
WO2008/039134で開示されたタイプの自由造形技術(freeforming technique)が、本発明の方法において使用されうるが、製造される物体中における複合金属の含有量を所望の量とするために、工程が制御されるという点においては異なる。金属粉末層が熱伝導ベースに適用され、かかる層の限定されたエリアが放射銃を用いて逐次的に融解され、また、かかるエリアがアモルファス金属の状態に凝固されうるように冷却される。本発明において、放射銃は、前記層の一又は複数部分の融解との関連において、アモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子の複合体が形成されるように規定された時間−温度曲線に従って、融解エリアが冷却されるように調整される。かかる方法は、所望の範囲の複合金属を含有する連続層が形成されるまで繰り返される。新たな粉末層が適用されてかかる方法が繰り返され、三次元物体を逐次的に構築するために、前記の新たな層が下層に融合される。
【0012】
別の手順においては、金属粉末層が放射銃を用いてエリア毎に融解され、融解されたエリアはアモルファス金属の状態に凝固するように急速に冷却される。すなわち、最初の段階は、WO2008/039134に開示されたのと同様の方法によることができる。形成されたアモルファス金属の限定されたエリアは、その物質のガラス転移点(Tg)以上の温度にまで放射銃によって再加熱される。放射銃は、アモルファス金属がアモルファス金属のマトリクス中に結晶性金属又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体に転換するように規定された時間−温度曲線に従って、前記の限定されたエリアが熱処理されるように調整される。かかる熱処理は、新たな限定されたエリアにおいて、被処理層の中で所望の範囲の複合金属が形成されるまで逐次的に繰り返される。続いて新たな粉末層が適用されてかかる方法が繰り返され、三次元物体を逐次的な構築するために、前記の新たな層が下層に融合される。
【0013】
好適な時間−温度曲線は、TTT(Time Temperature Transformation)線図及びCCT(Continuous Cooling Transformation)線図を用いて規定される。これら線図はノーズといわれる結晶化曲線を含み、過冷却状態下でアモルファス合金が結晶化し始める温度と時間とを示す曲線である。これら線図については図1との関連において後に詳述する。完全なアモルファス合金を形成するためには、冷却曲線と結晶化曲線とが交差してはならない。これはアモルファス合金の溶着と対応して適用される。結晶化をもたらす時間−温度進行の事例は例えば、Y. Yokoyama et al: "Electron-beam welding of Zr50Cu3ONi1OAl10 bulk glassy alloys", Materials Science and Engineering A375-377 (2004) 422-426の文献がある。アモルファスや結晶構造を形成するための時間−温度進行についての議論は、Y. Kawamura: "Liquid phase and supercooled liquid phase welding of bulk metallic glasses", Materials Science and Engineering A375-377 (2004) 112-119にも見ることができる。
【0014】
放射銃は、形成された複合金属の連続層の輪郭が、三次元物体を横断する断面に対応するように調整される。物体は、前記の断面が積層されることで一層毎に構築される。
【0015】
全ての物質を同時に成形し融解する代わりに、粉末層の限定された小部分が一回毎に融解される。ビームを定められた速度で動かすことによって連続的に、或いは、点状のエリアを融解するのに続いてビームを方向転換し、粉末層の他のエリアにビームを移動させることによって間欠的に、これを実現できる。少量の融解合金は容易に冷却され、融解された量の全部について所望の時間−温度進行を得ることができる。限定されたエリアの大きさや粉末層の厚さは被処理合金の臨界的な冷却速度に依存して多様である。典型的には、限定されたエリアは1mmないし200mmとすることができ、粉末層の厚さは、0.1mmないし5mmとすることができる。
【0016】
放射銃は、ビームの出力を変化させること及び/又は各点における照射時間を変化させることで調節することができる。連続的な融解との関連では、各点における照射時間はビームの移動速度によって与えられる。さらに、ビームの焦点を変化させることも可能であり、つまり融解される点のサイズや帯の幅を変化させることもできる。高出力のビーム、長い照射時間、低速度でのビーム移動はいずれも遅い冷却速度を与える。すなわち、結晶化の度合いが高められうる。この方法でビームを調節することによって、完全にアモルファスのエリア、完全に結晶性/ナノ結晶性のエリア、又は、これらの構造が混合したエリアが、各粉末層において製造されうる。
【0017】
傾斜物質の三次元物体が前記の方法によって製造されうる。物体中の異なる部分が、完全にアモルファス、完全にナノ結晶性、完全に結晶性、又は、これらの構造の複合体とされうる。また、粉末層に多様な成分を添加することで、物体中における化学成分を多様とすることができる。異なる化学成分を有するアモルファス物質が電子ビーム溶接によって互いに溶着されうること、また、アモルファス構造が結晶構造と溶着されうることは既知である。例えば、S. Kagao et al: "Electron beam welding of Zr-based bulk metallic glasses", Materials Science Engineering A 375-377 (2004) 312-316 また、 Y. Kawamura et al: Materials Transactions, Vol 42, No. 12, (2001) pp 2649-2651を参照せよ。
【0018】
WO2004/056509は、自由造形技術(freeforming technique)によって金属粉末を融解する際に、一つのサイドから他のサイドへ規則的なラインで粉末層を放射銃で掃過するのではなく、操作スキームに従って先ず粉末層の限定されたエリアを融解し、続いてこれらのエリアを結合することによって、物質内の応力発生を回避する方法を開示している。WO2004/056509に開示された技術と同様な技術は、本発明において、冷却速度に関して高い要求を有するアモルファス合金が使用される場合、特に好適に使用されうる。その技術は、融解エリア中での時間−温度進行の制御を容易にし、また、隣接する限定エリアを融解する前に作業台を通じて熱を逃がすことを容易にする。
【0019】
熱伝導ベースは作業台であってもよいし、完成された三次元物体の一部をなし、前記方法に従って複合金属が添加される、アモルファス、結晶性又はナノ結晶性の金属の物体であってもよい。
【0020】
融解された限定エリアの冷却は、熱伝導ベースを通じた排熱や、気体(例えばヘリウム)の流れを融解エリアに形成することによって行うこともできる。熱伝導ベース(例えば作業台)は熱伝導性の高い材質からなり、融解エリアからの熱を迅速に吸収する効果的なヒートシンクとして機能するために十分な質量を有する。作業台は例えば、銅、アルミニウムもしくは鉄の厚板、或いは、高熱伝導性のセラミックス(例えば窒化ホウ素)からなる。好ましくは熱伝導ベースが冷媒(例えば水)によって冷却される。例えば、作業台は冷却用ダクトを有していてもよく、かかる冷却用ダクトを通じて冷媒が流されて、ヒートシンク/作業台で連続的に吸収される熱が排出される。既にある金属物体に複合金属の新たな部分が付加される場合、かかる金属物体は冷却コイルに包囲されてもよいし、高熱伝導性の粉末中に埋め込まれてもよい。
【0021】
作業エリアに載置される金属粉末は、アモルファス粉末であってもよいし、制御された急速冷却によってナノ結晶もしくはアモルファス金属を形成する合金の結晶粉末であってもよい。そのような合金系の例として、チタンベース、ジルコニウムベース、銅ベースの合金が使用されうる。他の例としては、Leslie K. Kohler et al: "Spray Forming Iron Based Amorphous Metals", Document NSWCCD-61 -TR-2003/09 from Naval Surface Warfare Center また、 SJ. Spoon et al: "Glass formability of ferrous- and aluminium-based structural metallic alloys", Journal of Non-Crystalline Solids, Vol 317, No. 1 , March 2003, pp. 1-9に鉄ベース、銅ベースの合金が例示されている。急速冷却によってアモルファス金属を形成しうる合金の例として、次のものが挙げられる:
Ni-Nb-Sn
Co-Fe-Ta-B
Ca-Mg-Ag-Cu
Co-Fe-b-Si-Nb
Fe-Ga-(Cr,Mo)-(P,C,B)
Ti-Ni-Cu-Sn
Fe-Co-Ln-B
Co-(Al,Ga)-(P,B,Si)
Fe-B-Si-Nb
Ni-(Nb,Ta)-Zr-Ti
Ni-Zr-Ti-Sn-Si
Fe-Ga-(P,B)
Co-Ta-B
Ni-(Nb,Cr,Mo)-(P,B)
Fe-(Al,Ga)-(P,C,B,Si,Ge)
Zr-Ti-Cu-Ni-Al
Zr-(Ti,Nb,Pb)-Al-TM
Zr-Ti-TM-Be
Ti-Zr-TM
Zr-Al-TM
Mg-Ln-M
TM=遷移金属
M=金属
【0022】
このタイプのさらなる合金は、lnoue et al: "Stability and lcosahedral Transformation of Supercooled Liquid in Metal- Metal type Bulk Glassy Alloys" presented at the Materials Research Society, Boston, MA, USAに記載されている。
放射銃は高出力レーザ(例えばYAGレーザ)であってもよく、電子ビームであってもよい。
【0023】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照して以下に詳述される。図面において、同等の要素には同じ参照番号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】アモルファス合金のTTT線図を図示している。
【図2】本発明の方法における複合金属の物体の製造に使用されうる装置の断面概略図である。
【図3】本発明の方法における物体に複合金属を付加する装置の断面概略図である。
【0025】
図1は、急速冷却された場合にアモルファス金属を形成しうる、目的の合金に関するTTT線図、CCT線図の主要部を示している。本発明において、好適な時間−温度曲線を決定する基礎としてこの形式の線図が用いられうる。Tgは合金のガラス転移温度を、Tmは合金の融点を示している。K1及びK2で示される曲線は各々、結晶化開始及び結晶化完了を示している。Tg−Tm間の温度範囲、及び、結晶化曲線K1のノーズの左側の範囲では、合金は過冷却状態で存在し、この状態がアモルファス金属を形成するために用いられる。TT1及びTT2は融解物から冷却を行う場合の時間−温度曲線(冷却曲線)を示している。TT3はアモルファス合金を部分的に結晶化させるために熱処理する場合の時間−温度曲線を示している。TTT線図は、合金をTg以上の一定温度に維持しながら結晶化を生じさせる場合の結晶化曲線を示している。CCT線図は、融解物から冷却を行う場合に結晶化を生じさせる結晶化曲線を示している。融解物から冷却を行う場合、結晶化曲線は少し異なる様相となる。とりわけ、TTT線図における対応の転換度と比較すれば、しばしば、より長時間側、高温度側に曲線がオフセットする。結晶化曲線の位置はまた、核生成特性の変化にも影響を受ける。冷却速度について要求の低い合金では、結晶化曲線は図の時間軸に沿って右側にさらにオフセットする。TT1及びTT2は融解物から冷却を行う場合の、目的の時間−温度曲線を示している。時間−温度曲線が結晶化曲線K1と交差するときに結晶化が起きる。図示された例では、TT1は合金のアモルファス状態を生じ、一方、TT2は完全な結晶構造をもたらす。時間−温度曲線が、完全な結晶化時間を満たさないように進行する場合、すなわち、進行曲線が曲線K1とは交わるが曲線K2とは交わらない場合、部分結晶構造(複合金属)が得られうる。TT3は部分結晶化を達成するためにアモルファス合金を熱処理する場合の目的の時間−温度曲線を示している。
【0026】
かかる処理と関連してアモルファス金属中にナノ結晶性又は結晶性の粒子が形成されるか否かについては、その被処理物質がいかにして結晶化するかという別の要因もある。一般的に、結晶化は核生成段階と結晶成長段階に分けられる。ある時間において核生成度が高く結晶成長度が低い場合に、ナノ結晶構造の形成が促進される。アモルファス金属では、核生成度と結晶成長度のいずれもが、温度及び組成に強い影響を受ける。結晶への物質拡散が高い場合、結晶の成長は融点近くで最大となる。しかし、核生成のための駆動力はより低い温度で最大となる。アモルファス金属のマトリクス中にナノ結晶性粒子を有する複合材料を得るためには、熱処理温度や冷却曲線は、経過時間の主要部の間の核生成度と結晶成長度との割合ができるだけ同等になるように選択される。
【0027】
図2は、垂直方向に調節可能であって、ケースもしくはフレームワーク2内に配置される作業台1を含む装置を図解している。作業台1の垂直方向の調整は様々な方法で行うことができ、図示された実施形態では、ねじ8及びナット9を含んでいる。粉末ディスペンサー3は、粉末層4を適用するために作業台を横断して前後に移動可能である。さらにこの装置は、レーザ5aもしくは電子ビーム5bの形式であり、レーザビーム/電子ビームを粉末層の選択された位置に向けるために制御手段6と関連付けられた放射銃5を含んでいる。制御コンピュータ(図示せず)が、作業台、粉末ディスペンサー、放射銃及び制御手段を調整する。また、制御コンピュータは、製造される三次元物体の形態(三次元図)情報を有し、さらに、粉末層毎に表された断面の輪郭に関する情報も有している。装置全体もしくはその一部はケーシング7で囲われており、融解工程の間、不活性雰囲気又は電子ビーム融解の場合には真空状態が維持される。
【0028】
作業台1は、例えば、上述のように高熱伝導度を有する材質の厚板からなっていてもよい。冷却用ダクト10は作業台内に配置され、冷媒を通過させうる。接続部11は冷媒を供給および排出するために配置されている。冷媒は例えば水である。
【0029】
図示された実施形態では、粉末ディスペンサー3は、作業台を横断するガイド12上をスライド可能な漏斗状の容器である。粉末は、作業台を横断する間に容器の下縁から分配され、そして、スクレーパもしくは他の平滑化装置(図示せず)が、粉末を作業エリアに均一に分配する。
【0030】
放射銃5は高出力レーザ5a(例えばYAGレーザ)からなっていてもよく、制御手段6は米国特許4,863,538号に示されるのと同様に鏡からなっていてもよい。放射銃5はまたWO2004/056509に示されるのと同様に電子ビーム5bからなっていてもよく、この場合には制御手段は偏向コイルからなる。
【0031】
ケーシング7は、電子ビームを用いた融解の際に真空下に置かれる装置の各部、又は、レーザ融解において、不活性ガス(例えばアルゴン)雰囲気下におかれる装置の各部を囲むために使用される。
【0032】
本発明にかかる方法は、上述の装置を使用して以下に例示される。この方法はレーザを使用した例だが、電子ビームも同様に使用できる。
【0033】
粉末薄層4は粉末ディスペンサー3を用いて作業台1上に広げられる。制御コンピュータは、制御手段6を用いて、融解される層の選択された限定エリア(点)にレーザを向かわせる。レーザパルスが活性化され、前記の限定エリアを融解する。作業台1に融着されるように、限定エリアの粉末層の厚さ方向全体が融解されることが好ましい。こうすれば、冷却された作業台への熱伝導が最適となる。
【0034】
限定エリアに対するビームの出力及び/又はビーム照射時間は、所望の冷却速度、さらに、所望の時間−温度曲線を得られるように調整される。一連の連続的な融解との関連では、照射時間はビームの移動速度によって与えられる。
【0035】
続いて、制御コンピュータはレーザを別の限定エリアに向かわせ、融解工程が繰り返される。粉末層の新しいエリアでは別の物質特性を得られるようにする場合には、放射銃は、別の出力及び/又は照射時間値に調整される。この方法は、限定エリアが連続的な層として融合されるまで繰り返される。
【0036】
別の方法においては、アモルファス相を与える冷却速度によって、先ず完全にアモルファス状態の層が形成される。つまり、先ずはWO2008/039134と同様の方法で工程を開始する。製造されたアモルファス層に再度放射銃が向けられて、限定されたエリアが合金のガラス転移点Tg以上の温度まで加熱される。アモルファス物質がアモルファスマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体に転換するように選択された時間−温度曲線に従ってかかるエリアが熱処理されるよう、ビームの出力と照射時間が調節される。この方法は、アモルファス構造が転換される層中の全てのエリアで繰り返され、かかる層は、選択されたエリアにおいて所望の物質特性を与えられる。
【0037】
続いて作業台1が降下され、新たな粉末薄層4が粉末ディスペンサー3を用いて適用され、新たな限定エリアがレーザパルスで融解され、それによって、そのエリアは下層と融合される。このようにして、各層は三次元物体の被処理断面に対応する輪郭に従って融解され、三次元物体が一層ずつ構築される。物体が作業台に融着されている場合、完成時に物体は切り離されなければならない。製造された最初の層はそれゆえ余剰の物質であり、完成した物体の実際の断面になる必要はないが、作業台の良好な熱伝導のためにより自由に形成することもできる。
【0038】
このようにして、完成された三次元物体は、物体中の異なる部分では異なる構造を有することができ、アモルファス及び結晶部分や、アモルファスマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体である構造からなりうる。異なる層で異種の粉末を用いることによって、物体中の化学成分もまた多様とすることができる。異種の粉末や粉末組成物は、製造開始前に粉末ディスペンサーに層状に仕込んでおくこともできる。
【0039】
通常の場合、作業台内の冷却ダクト10に冷媒が流されて、ヒートシンクに吸収される熱を連続的に取り除く。別の場合として、台に冷媒を流さなくとも、融解物をナノ金属やアモルファス金属に冷却するためのヒートシンクとしての作業台の機能が十分である場合もある。
【0040】
図3はアモルファスもしくは結晶性金属の物体13に複合金属を付加する態様を図示している。物体13は作業台1に載置され、高熱伝導性の粉末14に埋め込まれる。さらに、物体は冷媒が流された冷却コイル15に囲まれる。すなわち、作業台1及び物体13の両方が冷媒によって冷却される。手順は上記とほぼ同様である。金属粉末層4は物体13の上に適用され、かかる層はエリア毎に、冷却されながら逐次的に物体に融合される。この場合、最初の層も完成した物体の断面に相当する。
【実施例1】
【0041】
直径20mm、厚さ2mmの合金Zr52.5TiCu17.9Ni14.6Al10の円板が、円板間の熱伝達が良好になるようにして、より大きな金属板に取り付けられた。これら円板は真空下に配置され、Zr55Cu30Al10Niの薄層が円板上に広げられた。続いてこの物質が電子ビームによって融解された。ビームは焦点が合わされ、加速電圧は60kVであった。ビームの移動速度及び出力(電流の強度)は融解の間可変され、すなわち、融解物の冷却には、異なる時間−温度進行が適用された。新たな粉末薄層が供給され、この粉末層が下層に融合されるように工程が繰り返された。実験後、DSC(示差走査熱量測定)及びX線回折測定を用いて、その物質がアモルファス構造だけでなく結晶構造やそれらの混合物をも含み、また、化学成分の点でも傾斜構造が得られていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体又は選択された部分がアモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体からなる三次元物体を製造する方法であって、
前記方法は、金属粉末層(4)を熱伝導ベース(1、13)に適用すること、放射銃(5)を用いて前記層の限定されたエリアを逐次的に融解すること、及び、前記融解されたエリアがアモルファス金属として凝固しうるように冷却することを含み、
前記放射銃は、前記層の一又は複数の限定されたエリアの融解との関連において、アモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体が形成されるように規定された時間−温度曲線に従って融解エリアが冷却されるように調整され;
前記方法は、所望の範囲の複合金属を含有する連続層が形成されるまで繰り返され;
新たな粉末層(4)が適用されて前記方法が繰り返され、三次元物体の逐次的な構築のために、前記新たな層が下層に融合されることを特徴とする。
【請求項2】
全体又は選択された部分がアモルファス金属のマトリクス中に結晶性又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体からなる三次元物体を製造する方法であって、
前記方法は、金属粉末層(4)を熱伝導ベース(1、13)に適用すること、放射銃(5)を用いて前記金属粉末層を融解すること、及び、前記金属粉末層がアモルファス金属として凝固しうるように冷却することを含み、
形成されたアモルファス金属の限定されたエリアは、物質のガラス転移温度(Tg)以上の温度にまで放射銃によって再加熱され、放射銃は、アモルファス金属がアモルファス金属マトリクス中に結晶性金属又はナノ結晶性金属粒子を有する複合体に転換するように規定された時間−温度曲線に従って、前記限定されたエリアが熱処理されるように調整され;
前記熱処理は新たな限定されたエリアにおいて、被処理層の中で所望の範囲の複合金属が形成されるまで逐次的に繰り返され;
新たな粉末層(4)が適用されて前記方法が繰り返され、三次元物体の逐次的な構築のために、前記新たな層が下層に融合されることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記層の各点において、放射銃は出力及び/又は照射時間を可変することで調整されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法において、一又は複数の粉末層(4)においては、他の層と異なる組成の粉末が使用されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法において、熱伝導ベース(13)は、完成された三次元物体の一部分をなし、アモルファス金属、結晶性金属又は複合金属の物体であって、前記一部分に複合金属が付加されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の方法において、熱伝導ベースが作業台(1)であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の方法において、熱伝導ベース(1、13)が高熱伝導性であり、前記粉末層の融解エリアを迅速に冷却するためのヒートシンクとしての機能を果たすことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の方法において、熱伝導ベース(1、13)が冷媒によって冷却されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−502178(P2012−502178A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526009(P2011−526009)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050980
【国際公開番号】WO2010/027317
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511058143)
【Fターム(参考)】