説明

ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法

【課題】ニッケル及びコバルトの高浸出率と3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高温加圧酸浸出法において酸化剤として使用される高圧空気及び温度の維持のため使用される高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができる製錬方法を提供する。
【解決手段】ニッケル酸化鉱石をスラリー化する第1の工程と、前記鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込み浸出する第2の工程を含む製錬方法において、第1の工程で、鉱石スラリーを構成するニッケル酸化鉱石の配合割合により、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.5質量%となるように調整し、かつ第2の工程で、高圧空気の吹込量を該鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整し、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関し、さらに詳しくは、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含む高温加圧酸浸出法(以下、単に高温加圧酸浸出法と呼称する場合がある。)を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイト(Fe)の形で浸出残渣に固定するため3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高温加圧酸浸出法において酸化剤として使用される高圧空気と温度の維持のために使用される高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができる製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄が主成分で、ニッケルを1〜2質量%含有するニッケル酸化鉱石から、ニッケル及びコバルトを鉄から分離回収する製錬プロセスとして、例えば、ニッケル酸化鉱石を焙焼し、ニッケル分を還元し硫化し、その後、熔錬して、ニッケル硫化物を含むマットを製造する乾式製錬法、或いは、ニッケル酸化鉱石を還元焙焼した後、アンモニア錯イオンを生成しながら、選択的にニッケル及びコバルトを浸出する還元焙焼−浸出法が行われていた。
【0003】
しかしながら、これらの製錬プロセスは、付着水分が多い原料鉱石を乾燥及び焙焼するための乾式処理工程を含み、しかも選択的にニッケル及びコバルトだけを還元するのは不可能であるため、エネルギー的にもコスト的にも無駄が多いという問題があった。したがって、これらの製錬プロセスに対し、簡便かつ低コストで実施することができるプロセスの開発が望まれていた。
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高温加圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、上記のような従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法と異なり、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利である。
【0004】
前記高温加圧酸浸出法では、例えば、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、オートクレーブを用いた200℃以上の高温高圧下で浸出し、浸出スラリーを得る浸出工程、浸出スラリー中の浸出残渣とニッケル及びコバルトを含む浸出液を分離する工程、ニッケル及びコバルトとともに、不純物元素を含む浸出液のpHを調整し、鉄等の不純物元素を含む中和澱物スラリーと浄液されたニッケル回収用母液を形成する中和工程、及び該ニッケル回収用母液に硫化水素ガスを供給し、ニッケルコバルト混合硫化物と貧液を形成する硫化工程を含む(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
ところで、前記高温加圧酸浸出法では、浸出工程において、加圧浸出反応器内の浸出液の酸化還元電位及び温度を制御することにより、主要不純物である鉄をヘマタイト(Fe)の形で浸出残渣に固定することにより、鉄に対し選択的にニッケル及びコバルトを浸出することができるので、非常に大きなメリットがある。その反面、鉱石の組成、含有する有機成分等のばらつきの大きなニッケル酸化鉱石を、焙焼工程を経ずに直接浸出処理するため、特に、ニッケル酸化鉱石の有機成分の含有量によって、浸出時の酸化還元電位(ORP)が大きく変動することが生じるという課題があった。
【0006】
例えば、浸出時の酸化還元電位が高すぎる場合には、ニッケル酸化鉱石中に含まれるクロムが6価まで酸化され状態で浸出される。この6価のクロムを、後工程の中和処理工程や排水処理工程で除去するためには、還元剤を使用して3価に還元することが必要であり、製錬コストの上昇が不可欠である。このため、還元処理を行わないと、ニッケルやコバルトの製品にクロムが不純物として含まれたり、或いは排水処理の終液にクロムが残留するという問題が起きる。一方、浸出時の酸化還元電位が低すぎると、耐食材としてオートクレーブに使われるチタンを劣化させるとともに、鉄の高温熱加水分解反応を抑制して、浸出液中に多量の鉄が残留し、後工程の中和処理工程での薬剤の使用量とニッケル及びコバルトの共沈量の上昇を起こしてしまうという問題が起きる。
【0007】
この解決策として、例えば、高温加圧酸浸出法において、鉱石スラリーに硫黄及び炭素化合物のうちの一つ以上を添加して、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御して浸出を行う方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。この方法では、添加された硫黄及び炭素化合物を還元剤として作用させることによって、酸化還元電位を低下させ、6価のクロムが溶出しない600mV以下に制御する。一方、酸化還元電位が400mV未満では、鉄の酸化加水分解反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねるので、前記硫黄又は炭素化合物の添加量を調整する。
【0008】
ところで、この方法を用いた実用の浸出工程では、浸出された鉄を、ヘマタイトに酸化し加水分解するため、酸化剤として通常は高圧空気を使用し、かつ反応容器内を加圧下に維持することが不可欠である。ところが、この方法においては、高圧空気の使用条件に関しては開示されていない。そのため、前記浸出工程では、鉱石の組成や有機成分含有量のばらつきによる酸化還元電位の変動に対処し、特に酸化還元電位の低下による3価の鉄への鉄酸化率の低下とクロムの溶出を防止するため、添加された硫黄及び炭素化合物を還元剤として作用させることによって酸化還元電位を低下させることに主眼をおいていたため、酸化還元電位の制御のため過剰量の高圧空気を吹き込んでいた。その結果、加圧反応容器からの排ガス量の増加に伴い、熱損失が上昇し、それを補って加圧反応容器内の温度を維持するため、温度調節に用いる高圧水蒸気の使用量が増加するなどによりエネルギーコストの悪化を招いていた。
【0009】
【特許文献1】特開2005−350766号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2005−281733号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含む高温加圧酸浸出法(以下、単に高温加圧酸浸出法と呼称する場合がある。)を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定するため3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高温加圧酸浸出法において酸化剤として使用される高圧空気の使用量と温度の維持のために使用される高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができる製錬方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、上記高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、鉱石中に含有される有機成分の含有量及び高圧空気の使用量と酸化還元電位の関係について、鋭意研究を重ねた結果、前記第1の工程で、前記鉱石スラリーを構成する炭素品位の異なるニッケル酸化鉱石の配合割合により、該鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を特定の値となるように調整し、かつ前記第2の工程で、前記高圧空気の吹込量を特定値に調整し、前記浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御したところ、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定するため3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高圧空気の使用量の調整に伴い高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含む高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、
前記第1の工程で、前記鉱石スラリーを構成する炭素品位の異なるニッケル酸化鉱石の配合割合により、該鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.5質量%となるように調整し、かつ前記第2の工程で、前記高圧空気の吹込量を該鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整し、前記浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、さらに、前記高圧水蒸気の使用量を、乾燥鉱石1トン当たり150〜200kgに制御することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.15質量%となるように調整することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記第2の工程において、浸出液中の鉄酸化率は80%以上であることを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、上記高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定するため3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高圧空気の使用量の調整に伴い高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を詳細に説明する。
本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含む高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、前記第1の工程で、前記鉱石スラリーを構成する炭素品位の異なるニッケル酸化鉱石の配合割合により、該鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.5質量%となるように調整し、かつ前記第2の工程で、前記高圧空気の吹込量を該鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整し、前記浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することを特徴とする。
【0018】
本発明の製錬方法において、原料である複数種のニッケル酸化鉱石の混合割合により、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を所定値となるように調整することと、この鉱石スラリーの炭素量に合わせて、浸出時の高圧空気の吹込量を所定値に調整することが重要である。これによって、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することができ、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、主要不純物である鉄の大部分をヘマタイトの形で浸出残渣に固定するため3価の鉄への高鉄酸化率が達成される。さらに、高圧空気の吹込量を所定値に調整することにより、加圧反応容器からの排ガス量が削減され、熱損失が抑えられるので、浸出時の高圧水蒸気の使用量を、乾燥鉱石1トン当たり150〜200kgに制御することができ、浸出時のエネルギーコストを低減することが達成される。
【0019】
すなわち、従来の高温加圧酸浸出法による製錬方法では、採掘されたニッケル酸化鉱石には、有機成分が比較的多く含有されていることがあり、それらを処理した場合、浸出時の酸化還元電位が著しく低下する。このとき、鉄の酸化反応が促進されないので、浸出液中に2価の鉄イオンが多量に残留する結果、後工程で、粗硫酸ニッケルコバルト混合水溶液から鉄を分離することが困難となったり、或いは分離に必要な操業資材コストの上昇を招く。しかも、加圧反応容器ならびに付帯設備の耐蝕性劣化を招くことになる。したがって、最適の酸化還元電位に維持することが重要であり、過剰量の高圧空気の吹き込みに繋がっていた。
【0020】
ここで、上記浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)としては、400〜600mVであり、550〜600mVが好ましい。すなわち、前記酸化還元電位(Ag/AgCl規準)が400mV未満では、鉄の酸化反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねる。一方、前記酸化還元電位(Ag/AgCl規準)が600mVを超えると、クロムが6価まで酸化され、ニッケルやコバルトの製品にクロムが不純物として含まれ、或いは排水処理の終液にクロムが残留するという問題が起きる。
【0021】
このため、上記製錬方法では、原料である複数種のニッケル酸化鉱石の混合割合によって鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を所定値となるように調整することにより、鉱石スラリー中の有機成分の含有量が安定的に所望値に調整されるので、酸化反応への影響を制御し、過度の変動を抑制することができる。なお、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位の調整としては、処理される複数種の鉱石中の炭素品位を定期的に分析し、配合することにより行われる。
さらに、上記製錬方法では、この鉱石スラリーの炭素量に合わせて、浸出時の高圧空気の吹込量を所定値に調整することにより、浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することができる。この結果、浸出液中の総鉄イオン濃度に対する3価の鉄イオン濃度の比率を表す鉄酸化率としては、50%以上が得られ、特に炭素品位が0.15%以下であれば、80%以上が得られる。
【0022】
上記鉱石スラリーの固形分中の炭素品位としては、0.1〜0.5質量%であり、好ましくは0.1〜0.15質量%である。すなわち、前記炭素品位が0.5質量%を超えると、浸出液の酸化還元電位が低下し、過剰の高圧空気の吹き込みなしに、酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を600mV以下に制御することが難しい。一方、前記炭素品位を0.1質量%未満とすることは、鉱石中の有機成分の存在量から困難である。
【0023】
上記高圧空気の吹込量としては、鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整する。すなわち、高圧空気の吹込量が700Nm未満では、上記炭素品位の鉱石を用いた場合、浸出液の酸化還元電位が低下し、酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400mV以上に制御することが難しく、鉄の酸化加水分解反応が不良となるだけでなく、設備材料の耐食性を損ねる可能性がある。一方、高圧空気の吹込量が800Nmを超えると、浸出液の酸化還元電位は上昇するが、排ガス量の増加に伴い熱損失が上昇し、温度を維持するための高圧水蒸気の使用量が増加する。
【0024】
ここで、加圧反応容器内への高圧空気の吹き込みは、浸出液の酸化還元電位を所定値に制御するために行われるが、通常は、浸出時に生成される炭酸ガスを加圧反応容器内にそのままパージし、酸化雰囲気を維持することが可能であるので、該炭酸ガスは、加圧反応容器に設けた圧力自動制御システムにより、排ガスと随伴させて適時放出することが好ましい。これにより、高圧空気の吹き込みは、過剰の吹込みを防止して、上記の鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmの範囲に調整する。このとき、高圧水蒸気の使用量としては、乾燥鉱石1トン当たり150〜200kgに制御することができる。ここで、乾燥鉱石とは、略100℃で乾燥して、付着水分を除去した鉱石の状態を意味する。
【0025】
上記高圧空気としては、工業用に通常用いられる高圧空気が用いられるが、例えば3〜6MPaGの圧力のものが用いられる。
また、上記高圧水蒸気としては、工業用に通常用いられる高圧水蒸気が用いられるが、例えば3〜6MPaGの圧力のものが用いられる。
【0026】
上記高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法としては、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含むものであれば、特に限定されるものではない。なお、上記工程において、ニッケルとコバルトの浸出率が、いずれも90%以上であり95%に達するように、下記の条件を用いる。
【0027】
上記工程で用いるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。前記ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.5〜3.0質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50質量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト、FeOOH)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0028】
上記第1の工程としては、ニッケル酸化鉱石を水中で解砕及び粉砕してスラリー化する。その後、シックナー等の固液分離装置を用いてスラリー中の余剰の水を除去し濃縮して、所定濃度の鉱石スラリーを調製することが好ましい。この際、原料である複数種のニッケル酸化鉱石の混合割合により、鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を所定範囲内となるように調整する。
【0029】
上記工程で用いるスラリー濃度は、処理されるニッケル酸化鉱の性質に大きく左右されるるため、特に限定されるものではないが、浸出スラリーのスラリー濃度は高い方が好ましく、通常、概ね25〜45質量%に調製される。すなわち、浸出スラリーのスラリー濃度が25質量%未満では、浸出の際、同じ滞留時間を得るために大きな設備が必要となり、酸の添加量も残留酸濃度を調整のため増加する。また、得られる浸出液のニッケル濃度が低くなる。一方、スラリー濃度が45質量%を超えると、設備の規模は小さくできるものの、スラリー自体の粘性(降伏応力)が高くなり、搬送が困難(管内閉塞の頻発、エネルギーを要するなど)という問題が生じることとなる。
【0030】
上記第2の工程としては、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、さらに酸化剤として高圧空気及び加熱源として高圧水蒸気を吹き込み、所定の圧力及び温度下に制御しながら撹拌して、浸出残渣と浸出液からなる浸出スラリーを形成し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る。この工程では、所定温度により形成される加圧下、例えば3〜6MPaGで行なわれるので、これらの条件に対応することができる高温加圧容器(オートクレーブ)が用いられる。
【0031】
上記工程においては、下記の式(1)〜(5)で表される浸出反応と高温加水分解反応によって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。しかしながら、鉄イオンの固定化は、完全には進行しないので得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほか、2価と3価の鉄イオンが含まれるのが通常である。
【0032】
「浸出反応」
MO+HSO ⇒ MSO+HO (1)
(式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2FeOOH+3HSO ⇒ Fe(SO+4HO (2)
FeO+HSO ⇒ FeSO+HO (3)
【0033】
「高温加水分解反応」
2FeSO+HSO+1/2O ⇒ Fe(SO+HO (4)
Fe(SO+3HO⇒ Fe+3HSO (5)
【0034】
上記工程で用いる温度は、特に限定されるものではないが、220〜280℃が好ましく、240〜270℃がより好ましい。すなわち、この温度範囲で反応を行うことにより、鉄はヘマタイトとして大部分が固定される。温度が220℃未満では、高温熱加水分解反応の速度が遅いため反応溶液中に鉄が溶存して残るので、鉄を除去するための後続の中和工程の負荷が増加し、ニッケルとの分離が非常に困難となる。一方、280℃を超えると、高温熱加水分解反応自体は促進されるものの、高温加圧浸出に用いる容器の材質の選定が難しいだけでなく、温度上昇にかかる蒸気コストが上昇するため不適当である。
【0035】
上記工程で用いる硫酸量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられるが、例えば、鉱石1トン当り200〜500kgであり、鉱石1トン当りの硫酸添加量が500kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。
なお、得られる浸出液のpHは、固液分離工程での生成されたヘマタイトを含む浸出残渣のろ過性から、0.1〜1.0に調整されることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行った。
【0037】
(実施例1)
炭素品位が0.1〜0.3質量%に調整され、ニッケル品位が1.25質量%、及び鉄品位が46質量%のニッケル酸化鉱石を、固形率が約40質量%のスラリーとし、容量1mのチタン製オートクレーブ反応容器内に投入した。
その際、反応終液中のフリー硫酸濃度が,約45g/lとなるように硫酸を添加した。オートクレーブ内で、約5MPaGの高圧空気を、鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり750Nmの吹込量で吹き込みながら、約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に1時間保持し、得られた浸出スラリーの鉄濃度とORP(Ag/AgCl電極規準)を測定した。なお、高圧水蒸気の使用量は、乾燥鉱石1トン当たり200kgであった。
また、浸出スラリーに炭酸カルシウムスラリーを添加し、3価のFeイオンを酸化中和除去し、液中に残留する2価のFe濃度を分析した。その後、浸出スラリー中の浸出液の総Fe濃度と中和後液中の2価のFe濃度及び液量から逆算した浸出液の3価のFe濃度を用いて、浸出液中の鉄酸化率((3価の鉄濃度/総鉄濃度)×100)を求めた。
結果を図1、2に示す。図1は、鉱石の炭素品位と酸浸出液ORPの関係を表す。図2は、鉱石の炭素品位と鉄酸化率を表す(Fe(III)/Fe、total)比との関係を表す。
【0038】
図1、2より、鉱石の炭素品位が0.10〜0.30%であれば、浸出液の酸化還元電位が480〜580mVで、浸出液中の鉄酸化率が50%以上となること、及び鉱石の炭素品位が0.15%以下で、浸出液中の鉄酸化率が80%以上となることが分かる。
【0039】
(実施例2、比較例1)
炭素品位が0.1〜0.3質量%に調整され、ニッケル品位が1.25質量%、及び鉄品位が46質量%のニッケル酸化鉱石を、固形率が約40質量%のスラリーとし、容量1mのチタン製オートクレーブ反応容器内に投入した。
その際、反応終液中のフリー硫酸濃度が,約45g/lとなるように硫酸を添加した。オートクレーブ内で、約5MPaGの高圧空気の吹込み量を、鉱石中の炭素1トン当たり700〜800Nm(実施例2)と875Nm(比較例1)に変化させ、同時に約5MPaGの高圧水蒸気を吹き込み、攪拌しながら245℃の温度に1時間保持し、得られた浸出スラリーのORP(Ag/AgCl電極規準)と乾燥鉱石1トン当たりの高圧水蒸気の使用量を測定した。結果を図3に示す。図3は、鉱石の炭素1トン当たりの高圧空気吹込量と浸出液ORPの関係を表す。
【0040】
図3より、高圧空気吹込み量が、鉱石中の炭素1トン当たり700〜800Nm(実施例2)では、ORPが520mV程度に制御されることが分かる。また、高圧空気吹込量を875Nmに増加させた場合(比較例1)では、浸出液のORPは、600mV以下に制御されるが、高圧水蒸気量は、図示していないが、大幅に上昇し、乾燥鉱石1トン当たり250kgを超えた。
【0041】
(実施例3)
実施例2と同様のスラリーを同様条件で浸出し、鉱石の炭素1トン当たりの高圧空気吹込み量(高圧空気量)、乾燥鉱石1トン当たりの高圧水蒸気の使用量(高圧水蒸気量)、及びそれぞれの浸出液ORPとを求めた。結果を表1、図4に示す。図4は、高圧空気吹込み量(高圧空気量)と高圧水蒸気の使用量(高圧水蒸気量)との関係を表す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、高圧空気量を増加させても、浸出液のORPはそれに比例的に増加するのではなく、ある程度までしか上昇しないことが分かる。また、図4より、高圧空気量が鉱石中の炭素1トン当たり700〜800Nmでは、高圧水蒸気量を、乾燥鉱石1トン当たり150〜200kgの範囲に制御することができることが分かる。また、高圧空気量を増加させることにより、それに比例して高圧水蒸気量の増加することが分かる。すなわち、吹込まれた高圧空気が増加しても、浸出液のORPの上昇に寄与せず、オートクレーブのベント(コントロール弁)から放出される。このとき、空気とともに、水蒸気が必要以上に放出されてしまい、エネルギーロスになる。
【0044】
以上より、実施例1、2、3では、鉱石中の炭素品位を0.1〜0.5質量%となるように調整し、かつ高圧空気の吹込量を該鉱石中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整して、浸出するとき、3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、高圧空気及び高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上より明らかなように、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、上記高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル及びコバルトの高浸出率と、3価の鉄への高鉄酸化率を達成し、同時に、酸化雰囲気又は温度の維持のため用いる高圧空気及び高圧水蒸気の使用量を抑えてエネルギーコストを削減することができるので、高温加圧酸浸出法において用いるニッケル酸化鉱石の浸出方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】鉱石の炭素品位と酸浸出液ORPの関係を表す図である。(実施例1)
【図2】鉱石の炭素品位と鉄酸化率を表す(Fe(III)/Fe、total)比との関係を表す図である。(実施例1)
【図3】鉱石の炭素1トン当たりの高圧空気吹込み量と浸出液ORPの関係を表す図である。(実施例2、比較例1)
【図4】高圧空気吹込み量(高圧空気量)と高圧水蒸気の使用量(高圧水蒸気量)との関係を表す図である。(実施例3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、鉱石スラリーを調製する第1の工程と、第1の工程から移送された鉱石スラリーに、硫酸を添加し、かつ高圧空気及び高圧水蒸気を吹込みながら浸出し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る第2の工程を含む高温加圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、
前記第1の工程で、前記鉱石スラリーを構成する炭素品位の異なるニッケル酸化鉱石の配合割合により、該鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.5質量%となるように調整し、かつ前記第2の工程で、前記高圧空気の吹込量を該鉱石スラリーの固形分中の炭素1トン当たり700〜800Nmに調整し、前記浸出液の酸化還元電位(Ag/AgCl規準)を400〜600mVに制御することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
さらに、前記高圧水蒸気の使用量を、乾燥鉱石1トン当たり150〜200kgに制御することを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記鉱石スラリーの固形分中の炭素品位を0.1〜0.15質量%となるように調整することを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、浸出液中の鉄酸化率は80%以上であることを特徴とする請求項3に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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