ヌクレオチドアナログ組込み用ポリメラーゼ
活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入を改善し、活性部位領域でヌクレオチドアナログと配位するための特徴をもつポリメラーゼを含有する組成物を提供する。前記ポリメラーゼの作製方法、シーケンシングとDNA複製及び増幅における前記ポリメラーゼの使用方法、ポリメラーゼ活性の反応速度モデル、並びに前記モデルを使用するコンピューター実施方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は先行予備特許出願USSN60/753,670(出願日2005年12月22日、発明の名称「ヌクレオチドアナログ組込み用ポリメラーゼ(POLYMERASES FOR NUCLEOTIDE ANALOGUE INCORPORATION)」、発明者David K.Hanzelら)の優先権と特典を主張し、言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む。
【0002】
(連邦政府支援研究開発から創出された発明の権利に関する陳述)
本発明の一部はNHGRI助成番号R01 HG003710−01として米国政府助成下に創出され、米国政府は本発明に所定の権利をもつことができる。
【0003】
(発明の技術分野)
本発明は活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入を改善し、活性部位領域でヌクレオチドアナログと配位するための特徴をもつポリメラーゼに関する。前記ポリメラーゼの作製方法、シーケンシングとDNA複製及び増幅における前記ポリメラーゼの使用方法、ポリメラーゼ活性の反応速度モデル、並びに前記モデルを使用するコンピューター実施方法も記載する。
【背景技術】
【0004】
DNAポリメラーゼは生体のゲノムを複製する。生物学におけるこの中心的役割に加え、DNAポリメラーゼはバイオテクノロジーの汎用ツールでもある。例えば、シーケンシング、核酸増幅、クローニング、蛋白工学、診断、分子医学及び他の多くの技術等の各種用途の中心的技術である逆転写、増幅、標識及びシーケンシングに広く使用されている。
【0005】
DNAポリメラーゼはその重要性により広く研究されている。この研究は例えばポリメラーゼ間の系統発生関係、ポリメラーゼの構造、ポリメラーゼの構造−機能特徴、DNA複製や他の基本生物学におけるポリメラーゼの役割、及びバイオテクノロジーにおけるDNAポリメラーゼの使用方法に焦点を当てている。ポリメラーゼの概要については、例えばHubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163;Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4;Steitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398及びBurgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90参照。多くのポリメラーゼの結晶構造が解明されており、その多くは類似構造をもつ。多くのポリメラーゼの基本作用メカニズムが決定されている。
【0006】
DNAテクノロジーの基本的利用はDNAポリメラーゼにより生成されるDNAを標識するための各種標識ストラテジーを必要とする。これはマイクロアレイテクノロジー、DNAシーケンシング、SNP検出、クローニング、PCR分析、及び他の多くの用途で有用である。標識は各種合成後ハイブリダイゼーション又は化学標識スキームで実施されることが多いが、DNAポリメラーゼは例えばニック翻訳、逆転写、ランダムプライミング、増幅、ポリメラーゼ連鎖反応等により各種用途で各種標識ヌクレオチドを直接組込むためにも使用されている。例えばGillerら(2003)“Incorporation of reporter molecule−labeled nucleotides by DNA polymerases.I.Chemical synthesis of various reporter group−labeled 2’−deoxyribonucleoside−5’−triphosphates”Nucleic Acids Res.31(10):2630−2635;Augustinら(2001)“Progress towards single−molecule sequencing:enzymatic synthesis of nucleotide−specifically labeled DNA”J.Biotechnol.,86:289−301;Tononら(2000)“Spectral karyotyping combined with locus−specific FISH simultaneously defines genes and chromosomes involved in chromosomal translocations”Genes Chromosom.Cancer 27:418−423;Zhu and Waggoner(1997)“Molecular mechanism controlling the incorporation of fluorescent nucleotides into DNA by PCR.”Cytometry,28:206−211.Yuら(1994)“Cyanine dye dUTP analogs for enzymatic labeling of DNA probes”Nucleic Acids Res.,22:3226−3232;Zhuら(1994)“Directly labeled DNA probes using fluorescent nucleotides with different length linkers.”Nucleic Acids Res.22:3418−3422;Riedら(1992)“Simultaneous visualization of seven different DNA probes by in situ hybridization using combinatorial fluorescence and digital imaging microscopy”Proc.Natl Acad.Sci.USA,89:1388−1392参照。
【0007】
対応する野生型酵素に対して改変されたヌクレオチドアナログ組込み特性をもつDNAポリメラーゼ突然変異体も同定されている。例えば、VentA488LDNAポリメラーゼは天然Vent DNAポリメラーゼよりも高い効率で所定の非標準ヌクレオチドを組込むことができる。Gardnerら(2004)“Comparative Kinetics of Nucleotide Analog Incorporation by Vent DNA Polymerase”J.Biol.Chem.,279(12),11834−11842;Gardner and Jack “Determinants of nucleotide sugar recognition in an archaeon DNA polymerase”Nucleic Acids Research,27(12)2545−2553参照。この突然変異体における改変残基A488は酵素のヌクレオチド結合部位と反対の方向を向いていると予想される。この位置の特異性低下パターンは置換アミノ酸側鎖の寸法とほぼ相関し、酵素による各種改変ヌクレオチド糖の組込みに影響を与える。
【非特許文献1】Hubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163
【非特許文献2】Steitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398
【非特許文献3】Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4
【非特許文献4】Burgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90
【非特許文献5】Gillerら(2003)“Incorporation of reporter molecule−labeled nucleotides by DNA polymerases.I.Chemical synthesis of various reporter group−labeled 2’−deoxyribonucleoside−5’−triphosphates”Nucleic Acids Res.31(10):2630−2635
【非特許文献6】Augustinら(2001)“Progress towards single−molecule sequencing:enzymatic synthesis of nucleotide−specifically labeled DNA”J.Biotechnol.,86:289−301
【非特許文献7】Tononら(2000)“Spectral karyotyping combined with locus−specific FISH simultaneously defines genes and chromosomes involved in chromosomal translocations”Genes Chromosom.Cancer 27:418−423
【非特許文献8】Zhu and Waggoner(1997)“Molecular mechanism controlling the incorporation of fluorescent nucleotides into DNA by PCR.”Cytometry,28:206−211
【非特許文献9】Yuら(1994)“Cyanine dye dUTP analogs for enzymatic labeling of DNA probes”Nucleic Acids Res.,22:3226−3232
【非特許文献10】Zhuら(1994)“Directly labeled DNA probes using fluorescent nucleotides with different length linkers.”Nucleic Acids Res.22:3418−3422
【非特許文献11】Riedら(1992)“Simultaneous visualization of seven different DNA probes by in situ hybridization using combinatorial fluorescence and digital imaging microscopy”Proc.Natl Acad.Sci.USA,89:1388−1392
【非特許文献12】Gardnerら(2004)“Comparative Kinetics of Nucleotide Analog Incorporation by Vent DNA Polymerase”J.Biol.Chem.,279(12),11834−11842
【非特許文献13】Gardner and Jack “Determinants of nucleotide sugar recognition in an archaeon DNA polymerase”Nucleic Acids Research,27(12)2545−2553
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば核酸標識が所望される各種状況(例えばDNA増幅、シーケンシング、標識、検出、クローニング及び他の多くの状況)では、標識ヌクレオチドアナログに対するDNAポリメラーゼの特異性、プロセッシビティ又は他の特徴を改善できることが非常に望ましい。本発明は標識ヌクレオチドアナログに対する特性を改変した新規DNAポリメラーゼ、前記ポリメラーゼの作製方法、前記ポリメラーゼの使用方法、及び以下の記載を精読することにより明らかになる他の多くの特徴を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はDNA増幅中に成長中の鋳型コピーにリン酸アナログ等のヌクレオチドアナログを組込むポリメラーゼに関する。特定作用理論に結び付けるものではないが、これらのポリメラーゼは場合により活性部位へのアナログの立体導入妨害を軽減するため、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の他の非天然特徴に対する相補性を提供するためにポリメラーゼの活性部位を変異させるように改変されている。このようなポリメラーゼは例えばポリメラーゼによるアナログ残基のDNA組込みを含む増幅又はシーケンシングプロトコールにおけるリアルタイム用途を含むDNA増幅及び/又はシーケンシング用途に特に好適である。組込まれるアナログ残基は例えばアナログのラベル又は他の部分が組込み中にポリメラーゼの作用により除去される場合には天然残基と同一とすることができるが、そうでない場合には、アナログ残基は天然ヌクレオチド残基と異なる1種以上の特徴をもつことができる。
【0010】
従って、本発明は組換えDNAポリメラーゼを含有する組成物に関する。組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域と相同の改変活性部位領域を含む。改変活性部位領域は例えば天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログに対する酵素の所望活性を改善するように野生型活性部位領域に対して1種以上の構造改変を含む。所定側面では、特定作用理論に結び付けるものではないが、このような改変は改変活性部位領域への天然ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか、及び/又は活性部位領域を天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的にする改変を含む。組換えDNAポリメラーゼはヌクレオチドアナログに対する特性が野生型ポリメラーゼに比較して改変されている。
【0011】
場合により改変活性部位領域を含むように各種DNAポリメラーゼを改変する。例えば、組換えDNAポリメラーゼは場合によりΦ29DNAポリメラーゼ又はその突然変異体、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、DNA Pol Iポリメラーゼ、T7ポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ又はDNA Pol Iポリメラーゼのクレノウフラグメントに対応するポリメラーゼに相同である。例えば、組換えDNAポリメラーゼは例えば米国特許第5,001,050号、5,198,543号、又は5,576,204号に記載されているように野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同とすることができる。同様に、組換えDNAポリメラーゼはΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17等に相同とすることができる。命名法については、Meijerら(2001)“Φ29 Family of Phages”Microbiology and Molecular Biology Reviews,65(2):261−287も参照。
【0012】
改変活性部位領域は立体妨害を軽減するため及び/又は領域をヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的にするための各種改変の任意のものを含むことができる。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対する活性部位内又はその近位の構造改変はΔ505−525欠失、Δ505−525内の欠失、K135A突然変異、L384R突然変異と本明細書に記載する別の突然変異の組み合わせ(L384R突然変異が存在する場合には、一般にヌクレオチドアナログの導入の立体妨害を軽減する1種以上の他の突然変異との組み合わせとなる)、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、及びその組み合わせから選択される。ポリメラーゼは表8に示す突然変異から選択される別の突然変異又は突然変異組み合わせも含むことができる。
【0013】
ポリメラーゼは場合により更に内在エキソヌクレアーゼ活性を低下又は排除させるように野生型ポリメラーゼに対して1種以上の突然変異/欠失を含む。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、N62は場合によりエキソヌクレアーゼ活性を低下させるように突然変異又は欠失しており、例えばポリメラーゼはN62D突然変異を含むことができる。エキソヌクレアーゼ活性を低下させる他の代表的突然変異としては、D12A、T15I、E14I、及び/又はD66Aが挙げられ、従って、本発明のポリメラーゼは場合によりこれらの突然変異の1種以上を含む。
【0014】
組換えDNAポリメラーゼは場合により野生型又はヌクレアーゼ欠損ポリメラーゼ等の対応するDNAポリメラーゼに対して外来又は異種の他の特徴を含む。例えば、組換えポリメラーゼは場合により1種以上の外来アフィニティータグ(例えば6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列、SNAPタグ等の精製又は基質結合タグ)を含む。これらは蛋白質内の各種位置の任意のものに挿入することができるが、1個以上の末端(例えば蛋白質のC末端又はN末端)が好ましく、蛋白質の3D構造で活性部位に最も遠位の末端がより好ましい。
【0015】
本発明の代表的ポリメラーゼとしては表3に示すものが挙げられる。
【0016】
組成物は場合によりヌクレオチドアナログを含有する。代表的ヌクレオチドアナログとしてはフルオロフォア及び/又は色素部分を含むものが挙げられる。例えば、ヌクレオチドアナログは標識ヌクレオチド(例えば塩基、糖及び/又はリン酸で標識したヌクレオチド)とすることができる。アナログはモノデオキシ又はジデオキシヌクレオチドアナログとすることができる。
【0017】
ヌクレオチドアナログの代表的な1分類はリン酸標識ヌクレオチドアナログであり、モノデオキシリン酸標識ヌクレオチドアナログ及び/又はジデオキシリン酸標識ヌクレオチドアナログが挙げられる。例えば、ヌクレオチドアナログは3〜6個のリン酸基をもつ標識ヌクレオチドアナログとすることができる(例えばヌクレオチドアナログは三リン酸塩、四リン酸塩、五リン酸塩又は六リン酸塩である)。
【0018】
例えば、組成物は式:
【化1】
の標識化合物を含有することができ、上記式中、Bはヌクレオ塩基であり(なお、Bは場合によりラベルを含む);Sは糖部分、非環状部分又は炭素環部分から選択され(なお、Sは場合によりラベルを含む);Lは非必須の検出可能なラベルであり;R1はO及びSから選択され;R2、R3及びR4は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、C(O)、C(CH2)、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択され、但し、R4は更に、
【化2】
及び
【化3】
から選択してもよく;R5、R6、R7、R8、R11及びR13が存在する場合には、各々独立してO、BH3、及びSから選択され;R9、R10及びR12は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択される。場合により、例えばR2、R3、R4、R9、R10又はR12の1個がO以外のものであり、例えばメチル等である場合には、ホスホン酸アナログをアナログとして利用してもよい。
【0019】
組換えDNAポリメラーゼは野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログに対する特性が改変されている。例えば、改変特性は例えばKm、kcat、Vmax、ヌクレオチドアナログ(又は天然ヌクレオチド)の存在下における組換えポリメラーゼプロセッシビティ、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼによる平均鋳型読み取り長、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼの特異性、ヌクレオチドアナログの結合速度、産物(ピロリン酸塩、三リン酸塩等)放出速度、及び/又は分岐速度とすることができる。望ましい1態様では、改変特性はヌクレオチドアナログに対するKmの低下及び/又はヌクレオチドアナログに対するkcat/Km又はVmax/Kmの増加である。同様に、組換えポリメラーゼは場合により野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。
【0020】
同時に、組換えDNAポリメラーゼは成長中のコピー核酸に天然ヌクレオチド(例えばA、C、G及びT)を組込むことができる。例えば、組換えポリメラーゼは場合により天然ヌクレオチドに対する比活性が対応する野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高く、鋳型の存在下における天然ヌクレオチドによるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高い。場合により、組換えポリメラーゼは天然ヌクレオチドに対するkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば約5%、10%、25%、50%、75%又は100%以上)高い。
【0021】
場合によりヌクレオチドアナログとDNA鋳型を本発明の組成物に加え、例えば組換えポリメラーゼは鋳型DNAに応答してヌクレオチドアナログをコピー核酸に組込む。鋳型DNAは線状又は環状DNAとすることができ、所定シーケンシング用途では、環状鋳型が望ましい。従って、組成物はDNA増幅及び/又はシーケンシングシステムで利用することができる。場合により、1分類の態様では、シーケンシングシステムはゼロモード導波管を含む。
【0022】
前記組成物の作製方法及び使用方法も本発明の特徴である。例えば、1側面では、例えば1個以上のヌクレオチドアナログ残基を含むDNAの作製方法を提供する。これらの方法では、反応混合物を準備する。反応混合物は一般に少なくとも部分的に鋳型を複製することが可能な成分(例えば鋳型、ヌクレオチド、ポリメラーゼ、及びポリメラーゼをプライミングするために鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分)を含有する。この場合の複製開始部分はポリメラーゼを開始するための部位として機能することが可能な任意部分であり、例えば鋳型に相補的な別個のオリゴヌクレオチド、鋳型のヘアピン又は他の自己相補領域(例えば1本鎖鋳型におけるヘアピン)、末端蛋白質等である。ポリメラーゼは(例えば複製開始部分を開始部位として使用する)鋳型依存的ポリメラーゼ伸長反応で鋳型を少なくとも部分的に複製することが可能な組換えポリメラーゼである。一般に、1個以上のヌクレオチドはヌクレオチドアナログからなる。好ましい側面では、少なくとも1個、好ましくは2個以上、3個以上又は少なくとも4個のヌクレオチドはヌクレオチドアナログである。組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位に相同の改変活性部位(改変されると、ポリメラーゼの活性が変化するポリメラーゼの領域)をもつ。組成物に関して上記に記載したように、改変活性部位は1種以上の天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログに対する酵素の活性を改善するように野生型活性部位に対して1種以上の構造改変を含むことができる。少なくとも1例では、特定作用理論に結び付けるものではないが、活性部位の改変は改変活性部位へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか、及び/又は改変はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である。
【0023】
組換えポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む。アナログの組込みにより、伸長したDNAに非標準残基を(例えば標識ヌクレオチド残基として)組込むことができ、あるいはポリメラーゼの作用により、伸長したDNAに組込まれたヌクレオチドアナログ残基が標準ヌクレオチド残基と構造的に同一となるようにアナログを改変することができる。例えば、後者態様では、各種ラベルがポリメラーゼの作用により開裂され、例えば本明細書により詳細に記載する所定のリン酸ラベルが成長中のDNAに組込まれるにつれてヌクレオチドアナログから開裂される(一般にラベルが放出されるとシグナルを発生する)。
【0024】
関連分類の方法では、鋳型、複製開始部分、鋳型依存的組換えポリメラーゼ及び1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する。1個以上のヌクレオチドはリン酸標識ヌクレオチドを含む。ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値はヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい。ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、例えば得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む。上述したように、組込まれると、残基は天然ヌクレオチド残基と同一になる場合もあるし、天然ヌクレオチド残基と異なる場合もある。
【0025】
別の関連分類のDNA作製方法では、鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ伸長反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する。この場合も、1個以上のヌクレオチドは一般にリン酸標識ヌクレオチドアナログを含む。この分類の態様におけるポリメラーゼはΦ29DNAポリメラーゼに相同である。ポリメラーゼはA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するKmがA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼのKmの約75%未満である。例えば、488dC4P、A568dC4Pに対するKmはGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼの約40%以下、例えば約15%以下とすることができる。ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を複製するように混合物を反応させる。
【0026】
上記方法で使用されるポリメラーゼは組成物に関して上記に記載した任意のものとすることができる。上記方法で使用されるポリメラーゼの特性は組成物に関して上記に記載した任意のものとすることができる。例えば、ポリメラーゼは場合によりヌクレオチドアナログに対するkcat/Kmがヌクレオチドアナログに対する野生型Φ29のkcat/Kmよりも高い。同様に、上記方法で使用されるヌクレオチドアナログは本発明の組成物に関して記載する任意のものとすることができる。本発明の組換えポリメラーゼは組換えポリメラーゼに相同な天然ポリメラーゼのKmに比較してヌクレオチドアナログに対するKmを例えば約90%、約80%、約75%、約60%、約50%、約40%、約25%、約15%、約10%、又は約5%未満にすることができる。組換えポリメラーゼは場合により対応する野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。
【0027】
本発明の組成物の使用方法に加え、本発明は組成物の作製方法も含む。例えば、1側面では、組換えDNAポリメラーゼ(例えば本発明の組成物に関して記載する任意のもの)の作製方法を提供する。例えば、前記方法は例えば入手可能な任意結晶構造及び分子モデリングソフトウェア又はシステムを使用して第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階を含むことができる。モデル化に基づき、活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は相補性特徴及び/又は活性部位領域内のヌクレオチドアナログの結合を例えば活性部位又はその近位で同定する。少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる。
【0028】
前記方法は更に得られた組換えポリメラーゼのヌクレオチドアナログに対する活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを判定するためのスクリーニング又は他のプロトコールを含むことができる。例えば、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログと天然ヌクレオチドの両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0029】
組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製し、これらの特性についてスクリーニングすることができる。例えば、1種以上の立体妨害特徴突然変異及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に対する相補性を生じるための突然変異を含むようにライブラリーの複数のメンバーを作製した後、該当特性についてスクリーニングする。一般に、該当改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0030】
別の側面では、本発明は例えば酵素反応速度のモデル化のためのコンピューター実施方法を含む。本方法は例えば鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する段階と;状態間の複数の速度遷移速度を定義する段階と;所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて、可能な状態の多次元確率行列を作成する段階と;コンピューター読み取り可能な媒体に多次元確率行列を保存する段階を含む。
【0031】
上記方法の各種特徴は多様である。例えば、ポリメラーゼ状態遷移は場合によりユーザー選択可能である。状態間の速度遷移速度は場合によりヌクレオチド濃度、鋳型配列及び鋳型に沿うポリメラーゼの位置により異なる。反応混合物中のヌクレオチドは場合により1個以上のヌクレオチドアナログを含む。状態間の速度遷移速度は場合によりポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの使用中のポリメラーゼの配座遷移速度を含み、前記速度は天然ヌクレオチドの配座遷移速度に等しくなるように設定される。多次元確率行列は場合により鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される。場合により可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する。
【0032】
同様に、確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために場合により第2の試薬濃度行列を作成する。場合により複数鋳型について確率行列をベクトル化し、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じると、状態分布行列が得られる。鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を使用することができる。連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義することができる。
【0033】
図1はタグ付きN62DΦ29DNAポリメラーゼの発現用ベクターを模式的に示す。
【0034】
図2Aは残基505−525の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号35、B103配列番号36、PZA配列番号37、M2配列番号38、G1配列番号39、cp−1配列番号40)の配列アラインメントを示す。図2Bは残基505−525をもつもの(上段)ともたないもの(下段)のΦ29の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0035】
図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号41、B103配列番号42、PZA配列番号43、M2配列番号44、G1配列番号45、cp−1配列番号46)の配列アラインメントを示す。図3BはΦ29(上段)とE375H突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0036】
図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号47、B103配列番号48、PZA配列番号49、M2配列番号50、G1配列番号51、cp−1配列番号52)の配列アラインメントを示す。図4BはΦ29(上段)とE486A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0037】
図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号53、B103配列番号54、PZA配列番号55、M2配列番号56、G1配列番号57、cp−1配列番号58)の配列アラインメントを示す。図5BはΦ29(上段)とK512A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0038】
図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号59、B103配列番号60、PZA配列番号61、M2配列番号62、G1配列番号63、cp−1配列番号64)の配列アラインメントを示す。図6BはΦ29(上段)とK135A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0039】
図7Aは結合速度と産物放出速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。図7B〜DはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【0040】
図8Aは分岐速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。図8B〜DはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【0041】
図9は濃度低下に対する反応速度行列ジャンプサイズのプロットを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
概説
各種技術は実験結果を観測するためにラベルの核酸組込みに依存している。例えば、シーケンシング、核酸増幅及びニック翻訳反応の結果はいずれも一般に産物核酸を標識することによりモニターされる。これは例えば標識プローブを産物核酸と結合することにより、ラベルを産物核酸と共有又は非共有的に結合させることにより実施することが多い。他のアプローチでは、産物核酸の合成中にヌクレオチドアナログを産物核酸に組込む。これは一般に例えば組込み法や、所定のリアルタイムPCR(RT−PCR)及びリアルタイムLCR反応(RT−LCR)によりシーケンシングで実施される。アナログに付加したラベルはDNAに組込んでもよいし、ポリメラーゼの作用により放出してもよい。アナログ残基の産物核酸組込みをモニターするようにラベルの組込み又は放出をモニターすることができる。
【0043】
本発明は色素標識リン酸標識アナログ等のヌクレオチドアナログをDNA増幅中に成長中の鋳型コピーに組込む新規ポリメラーゼを提供する。これらのポリメラーゼは活性部位へのアナログの立体導入妨害を軽減する(活性部位へのヌクレオチドアナログの導入を助長)するため、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の特徴との相補性を提供するためにポリメラーゼの活性部位を変異させるように改変されている。
【0044】
これらの新規ポリメラーゼは例えばDNAアンプリコンへの標識アナログの組込みを含む増幅又はシーケンシングプロトコールにおけるDNA増幅(例えばRT−PCR及びRT−LCR)及び/又はシーケンシング用途に特に好適である。
【0045】
DNAポリメラーゼ
活性部位への立体導入妨害の軽減又はアナログに相補的な特徴の付加によりヌクレオチドアナログと相互作用するように改変可能なDNAポリメラーゼは一般に入手可能である。DNAポリメラーゼは比較的最近になって各種系統発生関係に基づいて6つの主要なグループに分類されており、例えば大腸菌Pol I(クラスA)、大腸菌Pol II(クラスB)、大腸菌Pol III(クラスC)、ユリアーキオータPol II(クラスD)、ヒトPolβ(クラスX)、並びに大腸菌UmuC/DinB及び真核RAD30/色素性乾皮症変異体(クラスY)に分類される。最近の命名法の概要については、例えばBurgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90参照。ポリメラーゼの概要については、例えばHubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163;Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4;及びSteitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398参照。多数のポリメラーゼの基本作用メカニズムが決定されている。文字通り数百種のポリメラーゼの配列が公共入手可能であり、これらの多くのものの結晶構造が決定されており、あるいは相同ポリメラーゼについて解明された結晶構造との類似性に基づいて推測することができる。例えば、Φ29の結晶構造が入手可能である。
【0046】
入手可能なDNAポリメラーゼ酵素は更に、例えばエキソヌクレアーゼ活性を軽減又は排除するため(多くの天然DNAポリメラーゼは例えばシーケンシング用途を妨げるプルーフリーディングエキソヌクレアーゼ機能をもつ)や、クレノウフラグメント組換え体等のプロテアーゼ酵素消化フラグメントを作製することにより生産を単純化するために各種方法で改変されている。活性部位へのアナログ導入の立体妨害を軽減するため、又はアナログに相補的な特徴を提供するために、このような入手可能なポリメラーゼの任意のものを本発明により改変することができる。改変に適した多くのこのようなポリメラーゼは例えばシーケンシング、標識及び増幅技術で使用するのに利用可能である。例えば、ヒトDNAポリメラーゼβはR&D systemsから入手可能である。DNAポリメラーゼIはEpicenter、GE Health Care、Invitrogen、New England Biolabs、Promega、Roche Applied Science、Sigma Aldrich及び他の多数の業者から入手可能である。DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントは例えばAmbion、Chimerx、eEnzyme LLC、GE Health Care、Invitrogen、New England Biolabs、Promega、Roche Applied Science、Sigma Aldrich及び他の多数の業者から組換え体及びプロテアーゼ消化物として入手可能である。Φ29DNAポリメラーゼは例えばEpicenterから入手可能である。Poly Aポリメラーゼ、逆転写酵素、Sequenase、SP6 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、及び各種熱安定性DNAポリメラーゼ(Taq、hot start、titanium Taq等)は上記及び他の各種業者から入手可能である。最近の市販DNAポリメラーゼとしてはPhusion(登録商標)High−Fidelity DNA PolymeraseがNew England Biolabsから市販されており;GoTaq(登録商標)Flexi DNA PolymeraseがPromegaから市販されており;RepliPHI(登録商標)Φ29DNA PolymeraseがEPICENTREから市販されており;PfuUltra(登録商標)Hotstart DNA PolymeraseがStratageneから市販されており;KOD HiFi DNA PolymeraseがNovagen及び他の多数の業者から市販されている。Biocompare(dot)comは多種多様な市販ポリメラーゼの比較を掲載している。
【0047】
立体妨害を軽減するため又はヌクレオチドアナログに相補的な特徴を付加するための突然変異に好ましい基質であるDNAポリメラーゼとしては、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼ1、クレノウフラグメント、逆転写酵素、Φ29関連ポリメラーゼ(エキソヌクレアーゼ欠損型誘導体等のこのようなポリメラーゼの野生型Φ29ポリメラーゼ誘導体を含む)、T7 DNAポリメラーゼ、T5 DNAポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ等が挙げられる。例えば、組換えDNAポリメラーゼは例えば米国特許第5,001,050号、5,198,543号、又は5,576,204号に記載されているように、野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同とすることができる。同様に、組換えDNAポリメラーゼはΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17等に相同とすることができる。
【0048】
ヌクレオチドアナログ
上記のように、本発明の各種ポリメラーゼは成長中のオリゴヌクレオチド鎖に1個以上のヌクレオチドアナログを組込むことができる。組込み後、アナログは成長中のオリゴヌクレオチドに含まれる天然ヌクレオチドと同一又は異なる残基を放出することができる(ポリメラーゼはアナログの任意非標準部分を組込むことができ、又はオリゴヌクレオチドへの組込み中にこれを開裂することができる)。本明細書において「ヌクレオチドアナログ」とは、特定用途で天然ヌクレオシド三リン酸(「ヌクレオチド」)と類似又は同様の方法で機能する化合物であり、それ以外には特定構造を意味しない。ヌクレオチドアナログは標準天然ヌクレオチド以外、即ちA、G、C、T、又はU以外のアナログであるが、オリゴヌクレオチドに組込まれると、オリゴヌクレオチド中に得られる残基はA、G、C、T又はU残基と同一になる(又は異なる)場合がある。
【0049】
多数のヌクレオチドアナログが入手可能である。これらのアナログとしては天然ヌクレオチドに基本的類似性をもつアナログ構造が挙げられ、例えば天然ヌクレオシド又はヌクレオチドに対してヌクレオシド又はヌクレオチドのリン酸、糖又は塩基部分に1個以上の置換基を含むものが挙げられる。1態様では、ヌクレオチドアナログはヌクレオシド三リン酸に対して1個以上の付加リン酸を含むことができる。例えば、言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許出願第11/241,809号(出願日2005年9月29日)には、例えば4〜6個のリン酸を含む各種ヌクレオチドアナログが記載されている。
【0050】
例えば、アナログは式:
【化4】
の標識化合物を含むことができ、上記式中、Bはヌクレオ塩基であり(場合によりラベルを含む);Sは糖部分、非環状部分又は炭素環部分から選択され(場合によりラベルを含む);Lは非必須の検出可能なラベルであり;R1はO及びSから選択され;R2、R3及びR4は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、C(O)、C(CH2)、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択され、但し、R4は更に、
【化5】
及び
【化6】
から選択してもよく;R5、R6、R7、R8、R11及びR13が存在する場合には、各々独立してO、BH3、及びSから選択され;R9、R10及びR12は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択される。場合により、例えばR2、R3、R4、R9、R10又はR12の1個がO以外のものであり、例えばメチル等である場合には、ホスホン酸アナログをアナログとして利用してもよい。例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む上記米国特許出願第11/241,809号参照。
【0051】
アナログに組込まれる塩基部分は一般に天然又は非天然ヌクレオ塩基又はヌクレオ塩基アナログの任意のものから選択され、例えば核酸及び入手可能な核酸アナログに通常存在するプリン又はピリミジン塩基が挙げられ、例えばアデニン、チミン、グアニン、シチジン、ウラシル、及び場合によりイノシンが挙げられる。上記のように、塩基は場合によりラベル部分を含む。便宜上、ヌクレオチド及びヌクレオチドアナログは一般に天然ヌクレオチドとのそれらの相対的類似に基づいて呼称する。従って、アデノシン三リン酸と機能的に同様に作用するアナログを本明細書では一般に略称Aで呼称する場合がある。同様に、一般にT、G、C、U及びIの標準略称で呼称される天然ヌクレオシド及びヌクレオチドのアナログの呼称に同様の略称を使用する場合がある。場合により、塩基はより普遍的な方法で機能する場合があり、例えば任意ピリミジン塩基とハイブリダイズできるという点で任意プリン塩基と同様に機能し、あるいは任意プリン塩基とハイブリダイズできるという点で任意ピリミジン塩基と同様に機能する。本発明で使用される塩基部分としては本明細書に記載する通常の塩基が挙げられ、あるいは1個以上の側基を置換されたこのような塩基、又は付加環構造によりB基をプリンでもピリミジンでもないものにする他の蛍光塩基もしくは塩基アナログ(例えば1,N6エテノアデノシン又はピロロC)が挙げられる。例えば、場合により、塩基部分の1個以上の側基を標識基又は標識基の成分(例えばドナー又はアクセプターフルオロフォアの一方)、又は他の標識基で置換することが望ましい場合がある。標識ヌクレオ塩基とこのような塩基の標識方法の例は例えば各々言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許第5,328,824号及び5,476,928号に記載されている。
【0052】
アナログにおいて、S基は場合により合成核酸鎖に適切な主鎖を提供する糖部分である。例えば、糖部分は場合によりD−リボシル、2’もしくは3’−D−デオキシリボシル、2’,3’−D−ジデオキシリボシル、2’,3’−D−ジデヒドロジデオキシリボシル、2’もしくは3’アルコキシリボシル、2’もしくは3’アミノリボシル、2’もしくは3’メルカプトリボシル、2’もしくは3’アルコチオリボシル、非環状、炭素環又は他の修飾糖部分から選択される。例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む上記公開米国特許出願第2003/0124576号に記載のもの等の各種炭素環又は非環状部分を糖部分の代わりに「S」基として組込むことができる。
【0053】
殆どの場合に、アナログのリン含有鎖(例えば通常のNTPにおける三リン酸塩)は天然ヌクレオシド三リン酸と同様に5’ヒドロキシ基と結合することが好ましい。しかし、場合によっては、3’ヒドロキシ基によりリン含有鎖をS基と結合する。
【0054】
Lは一般にR4(又はR10又はR12)基を介して末端リン原子と結合される検出可能な標識基を意味する。本発明のアナログで利用される標識基は各種検出可能なラベルの任意のものを含むことができる。検出可能なラベルとは一般にこのような標識基をもたない同一化合物とは別個のアナログ化合物の検出の基礎となる化学部分を意味する。ラベルの例としては、例えば光学ラベル(例えばアナログに検出可能な光学的性質を付与するラベル)、電気化学的ラベル(例えばアナログに検出可能な電気的又は電気化学的性質を付与するラベル)、物理的ラベル(例えばアナログに別の物理的又は空間的性質を付与するラベル、例えば質量タグ又は分子容量タグ)が挙げられる。場合により、本発明のアナログに上記性質の2種以上を付与する個々のラベル又は組み合わせを使用してもよい。
【0055】
場合により、アナログに組込まれる標識基は光学的に検出可能な部分(例えば発光、化学発光、蛍光、蛍光発生、発色及び/又は呈色部分)を含み、蛍光及び/又は蛍光発生ラベルが好ましい。多種多様なラベル部分がヌクレオチドアナログで容易に利用される。このような基としてはフルオレセインラベル、ローダミンラベル、シアニンラベル(即ちGE HealthcareのAmersham Biosciences部門から一般に入手可能なCy3、Cy5等)、Alexaファミリーの蛍光色素、並びにMolecular Probes/In vitrogen,Inc.から入手可能であり、‘The Handbook−A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,Tenth Edition’(2005)(Invitrogen,Inc./Molecular Probesから入手可能)に記載されている他の蛍光色素及び蛍光発生色素が挙げられる。本発明のポリメラーゼにより組込まれるヌクレオチドアナログにも適用可能と思われるヌクレオシドポリリン酸用の他の各種蛍光及び蛍光発生ラベルは例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む公開米国特許出願第2003/0124576号に記載されている。
【0056】
アナログとこのようなアナログの作製方法に関するその他の詳細は言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許出願第11/241,809号(出願日2005年9月29日)に記載されている。
【0057】
従って、1具体例では、アナログは例えばAlexa色素ラベルを含むリン酸アナログ(例えばリン酸塩がヌクレオシド三リン酸に存在する典型数よりも多いアナログ)とすることができる。例えば、Alexa488色素をδ−リン酸に標識することができ(例えばA488dC4Pと言う)、あるいはAlexa568又はAlexa633色素を使用することができ(例えば夫々A568dC4P及びA633dC4P)、あるいはAlexa546色素を使用することができ(例えばA546dG4P)、あるいはAlexa594色素を使用することができる(例えばA594dT4P)。同様に、色分離を容易にするために、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を示す1対のフルオロフォアを四リン酸アナログのδ−リン酸に標識することができる(例えばFAM−amb−A532dG4P又はFAM−amb−A594dT4Pと言う)。
立体障害特徴を軽減するため及び/又は相補性特徴を付加するためのDNAポリメラーゼの改変
【0058】
組換えポリメラーゼの構造に基づく設計
改変活性部位領域をもつ組換えポリメラーゼを作製するための突然変異誘発候補としてアミノ酸残基を簡便に同定するためにはポリメラーゼの構造データを使用することができる。例えば、ポリメラーゼの三次元構造分析により、天然ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログ又はそのアナログによる活性部位への接近を立体的に妨害する残基あるいは例えば電荷、疎水性、サイズ等の付加又は改変により、アナログの非天然特徴に相補的な特徴を導入するように突然変異させることが可能な残基を同定することができる。
【0059】
鋳型、ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを結合したポリメラーゼの構造を含めて多数のDNAポリメラーゼの三次元構造がX線結晶構造解析及び核磁気共鳴(NMR)分光法により決定されている。多数のこのようなこのような構造はProtein Data Bank(www(dot)rcsb(dot)org/pdb)からダウンロード用に自由に入手可能である。構造と共にドメイン及びホモロジー情報もNational Center for Biotechnology Information’s Molecular Modeling DataBase(www(dot)ncbi(dot)nlm(dot)nih(dot)gov/Structure/MMDB/mmdb(dot)shtml)から検索及びダウンロード用に自由に入手可能である。例えば、構造が既に決定されているポリメラーゼとポリメラーゼの相同性に基づいて他のポリメラーゼの構造をモデル化することができる。あるいは、場合によりヌクレオチドアナログ等と複合体化した所与ポリメラーゼの構造を決定することができる。
【0060】
結晶構造決定技術は周知である。例えば、McPherson(1999)Crystallization of Biological Macromolecules Cold Spring Harbor Laboratory;Bergfors(1999)Protein Crystallization International University Line;Mullin(1993)Crystallization Butterwoth−Heinemann;Stout and Jensen(1989)X−ray structure determination:a practical guide,2nd Edition Wiley Publishers,New York;Ladd and Palmer(1993)Structure determination by X−ray crystallography,3rd Edition Plenum Press,New York;Blundell and Johnson(1976)Protein Crystallography Academic Press,New York;Glusker and Trueblood(1985)Crystal structure analysis:A primer,2nd Ed.Oxford University Press,NewYork;International Tables for Crystallography,Vol.F.Crystallography of Biological Macromolecules;McPherson(2002)Introduction to Macromolecular Crystallography Wiley−Liss;McRee and David(1999)Practical Protein Crystallography,Second Edition Academic Press;Drenth(1999)Principles of Protein X−Ray Crystallography(Springer Advanced Texts in Chemistry)Springer−Verlag;Fanchon and Hendrickson(1991)Crystallographic Computing,Volume 5 IUCr/Oxford University Pressの第15章;Murthy(1996)Crystallographic Methods and Protocols Humana Pressの第5章;Dauterら(2000)“Novel approach to phasing proteins:derivatization by short cryo−soaking with halides”Acta Cryst.D56:232−237;Dauter(2002)“New approaches to high−throughput phasing”Curr.Opin.Structural Biol.12:674−678;Chenら(1991)“Crystal structure of a bovine neurophysin−II dipeptide complex at 2.8 Å determined from the single−wavelength anomalous scattering signal of an incorporated iodine atom”Proc.Natl Acad.Sci.USA,88:4240−4244;及びGaviraら(2002)“Ab initio crystallographic structure determination of insulin from protein to electron density without crystal handling”Acta Cryst.D58:l 147−1154参照。
【0061】
更に、データ収集、フェーズ決定、モデル構築及び精巧化等を容易にするための各種プログラムも公共入手可能である。例としては限定されないが、HKL2000パッケージ(Otwinowski and Minor(1997)“Processing of X−ray Diffraction Data Collected in Oscillation Mode”Methods in Enzymology 276:307−326)、CCP4パッケージ(Collaborative Computational Project(1994)“The CCP4 suite:programs for protein crystallography”Acta Crystallogr D 50:760−763)、SOLVE and RESOLVE(Terwilliger and Berendzen(1999)Acta Crystallogr D 55(Pt4):849−861)、SHELXS and SHELXD(Schneider and Sheldrick(2002)“Substructure solution with SHELXD”Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 58:1772−1779)、Refmac5(Murshudovら(1997)“Refinement of Macromolecular Structures by the Maximum−Likelihood Method”Acta Crystallogr D 53:240−255)、PRODRG(van Aaltenら(1996)“PRODRG,a program for generating molecular topologies and unique molecular descriptors from coordinates of small molecules”J Comput Aided Mol Des 10:255−262)、及びO(Jonesら(1991)“Improved methods for building protein models in electron density maps and the location of errors in these models”Acta Crystallogr A 47(Pt2):110−119)が挙げられる。
【0062】
NMR分光法による構造決定技術も文献に詳細に記載されている。例えばCavanaghら(1995)Protein NMR Spectroscopy:Principles and Practice,Academic Press;Levitt(2001)Spin Dynamics:Basics of Nuclear Magnetic Resonance,John Wiley & Sons;Evans(1995)Biomolecular NMR Spectroscopy,Oxford University Press;Wuthrich(1986)NMR of Proteins and Nucleic Acids(Baker Lecture Series),Kurt Wiley−Interscience;Neuhaus and Williamson(2000)The Nuclear Overhauser Effect in Structural and Conformational Analysis,2nd Edition,Wiley−VCH;Macomber(1998)A Complete Introduction to Modern NMR Spectroscopy,Wiley−Interscience;Downing(2004)Protein NMR Techniques(Methods in Molecular Biology),2nd edition,Humana Press;Clore and Gronenborn(1994)NMR of Proteins(Topics in Molecular and Structural Biology),CRC Press;Reid(1997)Protein NMR Techniques.Humana Press;Krishna and Berliner(2003)Protein NMR for the Millenium(Biological Magnetic Resonance),Kluwer Academic Publishers;Kiihne and De Groot(2001)Perspectives on Solid State NMR in Biology(Focus on Structural Biology,1),Kluwer Academic Publishers;Jonesら(1993)Spectroscopic Methods and Analyses:NMR,Mass Spectrometry,and Related Techniques(Methods in Molecular Biology,Vol.17),Humana Press;Goto and Kay(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:585;Gardner(1998)Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.27:357;Wuthrich(2003)Angew.Chem.Int.Ed.42:3340;Bax(1994)Curr.Opin.Struct.Biol.4:738;Pervushinら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:12366;Fiauxら(2002)Nature 418:207;Fernandez and Wider(2003)Curr.Opin.Struct.Biol.13:570;Ellmanら(1992)J.Am.Chem.Soc.114:7959;Wider(2000)BioTechniques 29:1278−1294;Pellecchiaら(2002)Nature Rev.Drug Discov.(2002)1:211−219;Arora and Tamm(2001)Curr.Opin.Struct.Biol.11:540−547;Flauxら(2002)Nature 418:207−211;Pellecchiaら(2001)J.Am−Chem.Soc.123:4633−4634;及びPervushinら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:12366−12371参照。
【0063】
所与ヌクレオチドアナログを活性部位に組込んだポリメラーゼの構造は上記のように例えばX線結晶構造解析又はNMR分光法により直接決定することもできるし、ポリメラーゼの構造及び/又は天然ヌクレオチドを結合したポリメラーゼの構造に基づいて構造をモデル化することもできる。ポリメラーゼの活性部位領域は例えば他のポリメラーゼとの相同性、ポリメラーゼ−鋳型もしくはポリメラーゼ−ヌクレオチド共複合体の試験、突然変異体ポリメラーゼの生化学的分析、及び/又は同等方法により同定することができる。活性部位におけるヌクレオチドアナログの位置は例えば、活性部位における別のヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの既に決定された位置に基づいてアナログの非天然特徴(例えばヌクレオチドに結合したリン含有鎖における付加リン酸基又はホスホン酸基、例えば四、五又は六リン酸基、検出可能な標識基、例えば蛍光色素等)の位置を推定することによりモデル化することができる。
【0064】
活性部位におけるヌクレオチドアナログのこのようなモデル化は例えば、PyMOLビューアー(ワールドワイドウェブwww(dot)pymol(dot)orgで自由に入手可能なオープンソース)又はInsight II(Accelrysから(www(dot)accelrys(dot)com/products/insight)で市販)を使用してポリメラーゼのモデルの単なる目視検査により実施することができる。あるいは、ポリメラーゼ又は推定突然変異体ポリメラーゼの活性部位におけるヌクレオチドアナログのモデル化は例えば、コンピューター支援ドッキング法、分子力学法、自由エネルギー最小化法、及び/又は同等計算法により実施することができる。このようなモデル化技術は文献に詳細に記載されている。例えばBabine and Abdel−Meguid(編)(2004)Protein Crystallography in Drug Design,Wiley−VCH,Weinheim;Lyne(2002)“Structure−based virtual screening:An overview” Drug Discov.Today 7:1047−1055;Molecular Modeling for Beginners,at(www(dot)usm(dot)maine(dot)edu/〜rhodes/SPVTut/index(dot)html);及びMethods for Protein Simulations and Drug Design at(www(dot)dddc(dot)ac(dot)cn/embo04);並びにその引用文献参照。このようなモデル化を容易にするためのソフトウェアは広く入手可能であり、例えば、ハーバード大学から学術資料として入手可能であるか又はAccelrys(www(dot)accelrys(dot)com)から市販されているCHARMmシミュレーションパッケージ、Discoverシミュレーションパッケージ(Insight II,前出に同梱)、及びDynama(www(dot)cs(dot)gsu(dot)edu/〜cscrwh/progs/progs(dot)htmlで入手可能)が挙げられる。www(dot)netsci(dot)org/Resources/Software/Modeling/MMMD/top(dot)htmlに掲載されているモデル化ソフトウェアの大規模なリストも参照。
【0065】
ポリメラーゼモデルの目視検査及び/又はコンピューター分析により、例えば、活性部位へのヌクレオチドアナログの導入を立体的に妨害し得る残基(例えばアナログをポリメラーゼと結合したときに、アナログ内の1個以上の原子の推定位置に不適切に近接する残基)等の活性部位領域の該当特徴を同定することができる。このような残基は例えば、欠失させるか又はより小さい側鎖をもつ残基で置換することができ、例えば、多くの残基はアミノ酸側鎖が短い以外は類似特徴をもつ残基(例えばアラニン)で簡便に置換することができる。同様に、ヌクレオチドアナログとの望ましい相互作用を導入するために改変可能な残基も同定することができる。このような残基はアナログの非天然特徴に相補的な残基で置換することができ、例えば、アナログと水素結合することが可能な残基(例えばセリン、スレオニン、ヒスチジン、アスパラギン、又はグルタミン)、アナログ上の疎水性基と相互作用することが可能な疎水性残基、アナログ上の基(例えばフルオロフォア)と好ましい疎水性相互作用を生じることが可能な芳香族残基、アナログの芳香族基とのπ−πもしくはedge−faceスタッキング相互作用に関与することが可能な芳香族残基、アナログとのカチオン−π相互作用に関与することが可能な残基、又はアナログ上の逆電荷部分(例えば付加リン酸基)と静電的に相互作用することが可能な荷電残基(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、又はヒスチジン)で置換することができる。
【0066】
このような構造に基づく設計のほんの1特定例として、Φ29ポリメラーゼのモデルの検査の結果、Δ505−525ドメインと残基K135、E486、及びK512が活性部位へのアナログの導入を潜在的に立体的に妨害するとして同定され、E375をヒスチジン、リジン、又はアルギニンに突然変異させたならば、アナログ上の非天然四リン酸に相補的な正電荷が導入されると予想された。同様に、モデルの検査の結果、E375をトリプトファン、チロシン、又はフェニルアラニン等の芳香族残基に突然変異させたならば、アナログ上のフルオロフォアとの疎水性相互作用が改善することも予想された。その他の詳細については下記実施例2及び3参照。
【0067】
従って、本発明のポリメラーゼ及び他の組成物の使用方法に加え、本発明はポリメラーゼの作製方法も含む。上記のように、組換えDNAポリメラーゼの作製方法は、例えば入手可能な任意結晶構造及び分子モデリングソフトウェア又はシステムを使用して第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階を含むことができる。モデル化に基づき、活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は相補性特徴及び/又は活性部位領域内のヌクレオチドアナログの結合を例えば活性部位又はその近位で同定する。少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる。
【0068】
活性部位領域の突然変異
例えば上記のようなポリメラーゼモデル及びモデル予想に従って、例えば相補性特徴を含む変異体を作製するように又は立体障害特徴を軽減するようにポリメラーゼを改変するために、本発明では場合により各種突然変異誘発法を使用する。一般に、このような突然変異体を作製するためには入手可能な任意突然変異誘発法を使用することができる。このような突然変異誘発法は場合により1種以上の該当活性(例えばヌクレオチドアナログに対するKm、Vmax、kcat等)について突然変異体核酸及びポリペプチドを選択する段階を含む。使用可能な方法としては限定されないが、部位特異的点突然変異誘発法、ランダム点突然変異誘発法、in vitro又はin vivo相同組換え法(DNAシャフリング)、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発法、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発法、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発法、ギャップ入り2本鎖DNAを使用する突然変異誘発法、点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発法、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発法、全遺伝子合成による突然変異誘発法、縮重PCR法、2本鎖切断修復、及び当業者に公知の他の多くの方法が挙げられる。
【0069】
場合により、天然ポリメラーゼ分子からの既知情報、又は(例えばエキソヌクレアーゼ活性の低下を示す既存突然変異体ポリメラーゼを使用する)既知改変もしくは突然変異ポリメラーゼの情報、例えば上記のような配列、配列比較、物理的性質、結晶構造及び/又は同等事項により突然変異誘発法を誘導することができる。他方、別の分類の態様では、改変は(例えば古典的DNAシャフリングの場合のように)本質的にランダムとすることができる。
【0070】
突然変異フォーマットに関するその他の情報はSambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2000(「Sambrook」);Current Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(2006年補遺)(「Ausubel」))及びPCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(Innis)に記載されている。突然変異フォーマットに関するその他の詳細は以下の刊行物とその引用文献に記載されている。Arnold,Protein engineering for unusual environments,Current Opinion in Biotechnology 4:450−455(1993);Bassら,Mutant Trp repressors with new DNA−binding specificities,Science 242:240−245(1988);Botstein & Shortle,Strategies and applications of in vitro mutagenesis,Science 229:1193−1201(1985);Carterら,Improved oligonucleotide site−directed mutagenesis using M13 vectors,Nucl.Acids Res.13:4431−4443(1985);Carter,Site−directed mutagenesis,Biochem.J.237:1−7(1986);Carter,Improved oligonucleotide−directed mutagenesis using M13 vectors,Methods in Enzymol.154:382−403(1987);Daleら,Oligonucleotide−directed random mutagenesis using the phosphorothioate method,Methods Mol.Biol.57:369−374(1996);Eghtedarzadeh & Henikoff,Use of oligonucleotides to generate large deletions,Nucl.Acids Res.14:5115(1986);Fritzら,Oligonucleotide−directed construction of mutations:a gapped duplex DNA procedure without enzymatic reactions in vitro,Nucl.Acids Res.16:6987−6999(1988);Grundstromら,Oligonucleotide−directed mutagenesis by microscale ‘shot−gun’ gene synthesis,Nucl.Acids Res.13:3305−3316(1985);Kunkel,The efficiency of oligonucleotide directed mutagenesis,in Nucleic Acids & Molecular Biology(Eckstein,F.and Lilley,D.M.J,編,Springer Verlag,Berlin)(1987);Kunkel,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492(1985);Kunkelら,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Methods in Enzymol.154,367−382(1987);Kramerら,The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed mutation construction,Nucl.Acids Res.12:9441−9456(1984);Kramer & Fritz Oligonucleotide−directed construction of mutations via gapped duplex DNA,Methods in Enzymol.154:350−367(1987);Kramerら,Point Mismatch Repair,Cell 38:879−887(1984);Kramerら,Improved enzymatic in vitro reactions in the gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed construction of mutations,Nucl.Acids Res.16:7207(1988);Lingら,Approaches to DNA mutagenesis:an overview,Anal Biochem.254(2):157−178(1997);Lorimer and Pastan Nucleic Acids Res.23,3067−8(1995);Mandecki,Oligonucleotide−directed double−strand break repair in plasmids of Escherichia coli:a method for site−specific mutagenesis,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:7177−7181(1986);Nakamaye & Eckstein,Inhibition of restriction endonuclease Nci I cleavage by phosphorothioate groups and its application to oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.14:9679−9698(1986);Nambiarら,Total synthesis and cloning of a gene coding for the ribonuclease S protein.Science 223:1299−1301(1984);Sakamar and Khorana,Total synthesis and expression of a gene for the a−subunit of bovine rod outer segment guanine nucleotide−binding protein(transducin),Nucl.Acids Res.14:6361−6372(1988);Sayersら,Y−T Exonucleases in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.16:791−802(1988);Sayersら,Strand specific cleavage of phosphorothioate−containing DNA by reaction with restriction endonucleases in the presence of ethidium bromide,(1988)Nucl.Acids Res.16:803−814;Sieberら,Nature Biotechnology,19:456−460(2001);Smith,In vitro mutagenesis,Ann.Rev.Genet.19:423−462(1985);Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Stemmer,Nature 370,389−91(1994);Taylorら,The use of phosphorothioate−modified DNA in restriction enzyme reactions to prepare nicked DNA,Nucl.Acids Res.13:8749−8764(1985);Taylorら,The rapid generation of oligonucleotide−directed mutations at high frequency using phosphorothioate−modified DNA,Nucl.Acids Res.13:8765−8787(1985);Wellsら,Importance of hydrogen−bond formation in stabilizing the transition state of subtilisin,Phil.Trans.R.Soc.Lond.A 317:415−423(1986);Wellsら,Cassette mutagenesis:an efficient method for generation of multiple mutations at defined sites,Gene 34:315−323(1985);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis using M13−derived vectors:an efficient and general procedure for the production of point mutations in any DNA fragment,Nucleic Acids Res.10:6487−6500(1982);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors,Methods in Enzymol.100:468−500(1983);及びZoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis:a simple method using two oligonucleotide primers and a single−stranded DNA template,Methods in Enzymol.154:329−350(1987)。上記方法の多くに関するその他の詳細はMethods in Enzymology Volume 154に記載されており、同書は各種突然変異誘発法に伴う問題のトラブルシューティングに有用な対策についても記載している。
【0071】
反応速度パラメーターの決定
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼの活性が第1のDNAポリメラーゼ(例えば組換えポリメラーゼの誘導元である対応する野生型ポリメラーゼ)に比較して改変されているか否かを判定するために本発明のポリメラーゼをスクリーニング又は他の方法で試験することができる。例えば、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、kcat/Km、Vmax/Km、kpol、及び/又はKdを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、Vmax/Km、kcat/Km、kpol、及び/又はKdも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログ及び天然ヌクレオチド両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0072】
当分野で周知の通り、単純なミカエリス・メンテン式に従う酵素では、反応速度パラメーターは各種基質濃度で測定した触媒速度から容易に誘導される。ミカエリス・メンテン式V=Vmax[S]([S]+Km)−1は未結合基質濃度([S],総基質濃度により近似)、最大速度(Vmax,酵素が基質で飽和されるときに達せられる)、及びミカエリス定数(Km,反応速度がその最大値の2分の1である基質濃度に等しい)と反応速度(V)の関係を表す。
【0073】
多くの酵素では、Kmは酵素−基質複合体の解離定数に等しいため、酵素−基質複合体の強度の尺度である。このような酵素では、Kmを比較すると、Kmが小さいほど複合体の結合は強く、Kmが大きいほど複合体の結合は弱い。kcat/Km比(特異性定数と言う場合もある)は基質と遊離酵素の結合の見かけの速度定数である。特異性定数が大きいほど、酵素が基質と結合して産物に変換する効率は高い。
【0074】
Vmax=kcat[ET]であるので、総酵素濃度([ET],即ち活性部位の濃度)が分かっているならば、kcat(酵素の回転数とも言う)を決定することができる。総酵素濃度を測定することが困難な状況では、効率の尺度としてVmax/Km比を代用することが多い。KmとVmaxは例えば、1/[S]に対する1/Vのラインウィーバー・バークプロット(ここで、y切片は1/Vmaxを表し、x切片は−1/Kmを表し、傾きはKm/Vmaxである)、又はV/[S]に対するVのイーディー・ホフスティープロット(ここで、y切片はVmaxを表し、x切片はVmax/Kmを表し、傾きは−Kmである)から決定することができる。触媒速度データからの反応速度パラメーターの決定はKinetAsyst(登録商標)やEnzfit(Biosoft,Cambridge,UK)等のソフトウェアパッケージにより容易にすることができる。
【0075】
ポリメラーゼのように複数の基質をもつ酵素では、1種のみの基質の濃度を変化させ、その他は適切な過剰(例えば有効に一定)濃度に維持すると、一般に正常なミカエリス・メンテン反応速度が得られる。
【0076】
1態様では、定常状態前の反応速度を使用すると、速度kobs(dNTP組込みの実測一次速度定数)のヌクレオチド濃度依存性により、基底状態結合のKmの推定値と最大重合速度(kpol)が得られる。kobsはバーストアッセイを使用して測定する。アッセイの結果をバースト式:産物=A[1−exp(−kobs*t)]+kss*t(式中、Aは酵素活性濃度の推定値の振幅を表し、kssは実測定常状態速度定数であり、tは反応インキュベーション時間である)にフィットさせる。ポリメラーゼ−DNA複合体と結合するdNTPのKmとkpolは式kobs=(kpol*[S])*(Km+[S])−1(式中、[S]は基質濃度である)を使用してkobsのdNTP濃度依存的変化をフィットさせることにより計算する。結果は、場合により例えば、Johnson(1986)“Rapid kinetic analysis of mechanochemical adenosinetriphosphatases” Methods Enzymol.134:677−705,Patelら(1991)“Pre−steady−state kinetic analysis of processive DNA replication including complete characterization of an exonuclease−deficient mutant” Biochemistry 30(2):511−25、及びTsai and Johnson(2006)“A new paradigm for DNA polymerase specificity” Biochemistry 45(32):9675−87に記載の方法に基づく急速クエンチ実験(クエンチフロー測定とも言う)から得られる。
【0077】
ヌクレオチドアナログと組換えポリメラーゼの結合速度、組換えポリメラーゼによる産物放出速度、又は組換えポリメラーゼの分岐速度(「分岐速度」はヌクレオチド又はヌクレオチドアナログが組込まれずにポリメラーゼ活性部位から解離する速度であり、このヌクレオチド又はヌクレオチドアナログは組込まれた場合には鋳型の相補的ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログと正しく塩基対合する)等のパラメーターも測定することができ、場合により第1のポリメラーゼ(例えば対応する野生型ポリメラーゼ)のパラメーターと比較することができる。例えば下記実施例3参照。
【0078】
酵素反応速度の更に詳細については、例えばBerg,Tymoczko,and Stryer(2002)Biochemistry.Fifth Edition,W.H.Freeman;Creighton(1984)Proteins:Structures and Molecular Principles,W.H.Freeman;及びFersht(1985)Enzyme Structure and Mechanism,Second Edition,W.H.Freeman参照。
【0079】
上記のように、該当DNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位領域をもち、この領域は例えば天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上に対する酵素の相対活性を増加するように野生型活性部位領域に対して1種以上の構造改変を含み、ヌクレオチドアナログに対する活性増加が好ましい目的である。少なくとも1側面では、特定作用理論に結び付けるものではないが、改変は改変活性部位へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減することを目的とするか、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である。ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値は一般にヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい。
【0080】
1側面では、モデルアナログ又はアナログセットを参照して本発明の酵素の改善された活性を測定し、所与親酵素と比較する。例えば、Φ29親酵素に由来する酵素の場合には、本発明の改善型酵素は親酵素(例えば野生型Φ29又はN62D Φ29)よりも所与アナログに対するKmが低くなる。一般に、説明の目的で、本発明の改善型酵素の例は夫々Φ29由来酵素により妥当に十分にプロセシングされたものと妥当に十分にプロセシングされていないものとの2種のアナログであるA488dC4P及び/又はA568dC4Pに対するKmが同一アナログに対するN62D Φ29のKmの例えば約5%以下〜約90%以下であると特徴付けることができよう。例えば、下記実施例(例えば表2)により詳細に記載するように、A488dC4Pに対するHis−375H−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約40%であり、A488dC4Pに対するHis−375S−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約75%である。同様に、A568dC4Pに対するHis−375H−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約15%であり、A568dC4Pに対するHis−375S−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約38%である。上記特徴は特性決定ツールとして使用することができるが、本発明の特に限定的な反応を意味するものではない。
【0081】
ポリメラーゼのスクリーニング
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼの活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを判定するためにはスクリーニング又は他のプロトコールを使用することができる。例えば、上記のようにヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログ及び天然ヌクレオチド両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0082】
望ましい1側面では、組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製し、これらの特性についてスクリーニングすることができる。例えば、1種以上の立体妨害特徴突然変異及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に対する相補性を生じると推定される突然変異を含むようにライブラリーの複数のメンバーを作製した後、該当特性についてスクリーニングする。一般に、該当改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0083】
ポリメラーゼライブラリーは本質的に物理的又は論理的なものとすることができる。更に、多様なライブラリーフォーマットの任意のものを使用することができる。例えば、ポリメラーゼを蛋白質アレイとして固体表面に固定することができる。同様に、ポリメラーゼを含有する溶液の簡便な高スループット流体操作のために(例えばマイクロウェルプレートで)ポリメラーゼの液相アレイを構築することができる。組換えポリメラーゼを発現する細胞の液相、エマルション又はゲル相ライブラリーも例えばマイクロウェルプレート内、又は寒天プレート上に構築することができる。ポリメラーゼ又はポリメラーゼドメイン(例えば活性部位領域を含む)のファージディスプレイライブラリーを作製することもできる。ライブラリーの作製及び使用に関する手引きは例えば本明細書に引用するSambrook、Ausubel及びBergerに記載されている。
【0084】
マイクロタイタープレートの流体移出入を伴うライブラリーの作製には、場合により流体操作ステーションを使用する。このような移送を実施するための数種の「既製」流体操作ステーションが市販されており、例えばCaliper Life Sciences(Hopkinton,MA)のZymateシステムや、例えばプレート移動用ロボット(例えばBeckman Coulter,Inc.(Fullerton,CA)から市販されている各種実験室システムで使用されるORCA(登録商標)ロボット)と共に自動ピペッターを利用する他のステーションが挙げられる。
【0085】
代替態様では、マイクロチップで流体操作を実施し、例えばマイクロウェルプレート又は他のウェルからチップ上のマイクロチャネルを介して宛先サイト(マイクロチャネル領域、ウェル、チャンバー等)まで材料を移送する。市販マイクロフルイディックシステムとしてはHewlett−Packard/Agilent Technologiesから市販されているシステム(例えばHP2100バイオアナライザー)やCaliper High Throughput Screening Systemが挙げられる。Caliper High Throughput Screening Systemは標準マイクロウェルライブラリーフォーマットとLabchip技術の連携の1具体例である。更に、流体操作のためにマイクロウェルプレートと直接連携することが可能なマイクロフルイディックシステムの多数の例が特許及び技術文献に記載されている。
【0086】
望ましい特性
本発明のポリメラーゼは用途に応じて天然又はヌクレオチドアナログに対する各種改変特性の任意のものを含むことができ、速度増加、組込まれた塩基の保持時間増加(又は速度低下)、プロセッシビティ増加等が挙げられる。例えば、より高レベルのヌクレオチドアナログ組込みが所望される場合には、所与ヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼよりもKmが低く、Vmaxが高く、及び/又はkcatが高くなるように本発明のポリメラーゼを選択する。所定態様では、(例えば組込みをモニターするために使用される装置の解像度に応じて)ポリメラーゼの総ヌクレオチド組込み速度を増減すること、又はプロセッシビティ、特異性等を改善することが望ましい。所定態様では、組換えポリメラーゼは対応する相同野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。本発明のポリメラーゼを選択するにはこれらの特徴の任意のものについてスクリーニングすることができる。
【0087】
例えば、本発明のポリメラーゼは一般に成長中のコピー核酸に天然ヌクレオチド(例えばA、C、G及びT)を組込むことができる。例えば、組換えポリメラーゼは場合により天然ヌクレオチドに対する比活性が対応する相同野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高く、鋳型の存在下における天然ヌクレオチドによるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高い。場合により、組換えポリメラーゼは更に天然ヌクレオチドに対するkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約10%(例えば10%、25%、50%、75%又は100%以上)高い。
【0088】
その他の具体的な詳細
本明細書には改変活性部位領域の多数の特定例を記載する。「活性部位領域」は折り畳まれたポリメラーゼの三次元構造の活性部位を含むか又はその近位(例えば活性部位から約2nm以内)のポリメラーゼの部分である。本明細書にはΦ29DNAポリメラーゼの活性部位内又はその近位の構造改変の特定例を記載する。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、これらの改変としてはΔ505−525の欠失、Δ505−525ドメイン内の欠失、K135A突然変異、(例えば本明細書に記載する別の突然変異と組み合わせた)L384R突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、表8に示す突然変異、及びその組み合わせの任意のものが挙げられる。例えば、ポリメラーゼは表8の組み合わせリストから選択される突然変異の組み合わせを含むことができる。
【0089】
ポリメラーゼは場合により更に内在エキソヌクレアーゼ活性を低下又は排除させるように野生型ポリメラーゼに対して1種以上の突然変異/欠失を含む。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、N62は場合によりエキソヌクレアーゼ活性を低下させるように突然変異又は欠失しており、例えばポリメラーゼはN62D突然変異を含むことができる。エキソヌクレアーゼ活性を低下させる他の代表的突然変異としては、D12A、T15I、E14I、及び/又はD66Aが挙げられ、従って、本発明のポリメラーゼは場合によりこれらの突然変異の1種以上を含む。
【0090】
当然のことながら、アミノ酸残基のナンバリングはΦ29ポリメラーゼの野生型配列を基準とする番号であり、本発明の分子内の実際の位置は野生型Φ29酵素に対して酵素に実施される各種改変の種類(例えば欠失及び/又は末端又は分子自体の内部の分子への付加)により変動し得る。
【0091】
アフィニティータグ及び他の非必須ポリメラーゼ特徴
組換えDNAポリメラーゼは場合によりポリメラーゼに対して外来又は異種の他の特徴を含む。例えば、組換えポリメラーゼは場合により1個以上の外来アフィニティータグ(例えば6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列、SNAPタグ等の精製又は基質結合タグ)を含む。例えばポリメラーゼを表面に結合する際にポリメラーゼ活性部位を方向付けるため及び/又は保護するために、これらの特徴及びポリメラーゼと表面の結合に関して有用な他の特徴を場合により付加する。他の有用な特徴としては、酵素の組換え二量体ドメインや、例えば活性部位に遠位のポリメラーゼと結合した大型の外部ポリペプチドドメインが挙げられる。例えば、Φ29では、活性部位は蛋白質のC末端領域に位置するので、付加表面結合エレメント(付加ドメイン、Hisタグ等)はポリメラーゼを表面に結合する際に活性部位を妨害しないように一般にN末端領域に配置される。
【0092】
一般に、(組換えにより又は例えば化学的に)ポリメラーゼに付加することができる表面結合エレメント及び精製タグとしては、例えばポリヒスチジンタグ、HIS−6タグ、ビオチン、アビジン、GST配列、BiTag配列、Sタグ、SNAP−タグ、エンテロキナーゼ部位、トロンビン部位、抗体もしくは抗体ドメイン、抗体フラグメント、抗原、受容体、受容体ドメイン、受容体フラグメント、リガンド、色素、アクセプター、クエンチャー、又はその組み合わせが挙げられる。
【0093】
表面に対してポリペプチドを方向付けるため及び/又はポリメラーゼの表面結合を強化するために、複数の表面結合ドメインを付加することができる。2個以上の別個のタグを介して2カ所以上の部位で表面と結合することにより、ポリメラーゼは表面に対して比較的固定した方向に維持される。ポリメラーゼの表面固定に関するその他の詳細は言及により全目的で本明細書に組込む米国特許出願第60/753,446号、発明の名称「表面結合蛋白質の活性を最適化するための蛋白質工学ストラテジー(PROTEIN ENGINEERING STRATEGIES TO OPTIMIZE ACTIVITY OF SURFACE ATTACHED PROTEINS)」、発明者Hanzelら及び米国特許出願第60/753,515号、発明の名称「活性表面結合ポリメラーゼ(ACTIVE SURFACE COUPLED POLYMERASES)」、発明者Hanzelら(出願日いずれも2005年12月22日)、並びに言及により全目的で本明細書に組込む代理人整理番号105−001210US、発明の名称「表面結合蛋白質の活性を最適化するための蛋白質工学ストラテジー(PROTEIN ENGINEERING STRATEGIES TO OPTIMIZE ACTIVITY OF SURFACE ATTACHED PROTEINS)」、発明者Hanzelら及び代理人整理番号105−00810US、発明の名称「活性表面結合ポリメラーゼ(ACTIVE SURFACE COUPLED POLYMERASES)」、発明者Hanzelら(いずれも本願と同日出願)に記載されている。
【0094】
DNAポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの組込み強化の用途
場合により鋳型核酸を複製するために、本発明のポリメラーゼと、天然及び/又はヌクレオチドアナログと、核酸鋳型(DNA又はRNA)を使用する。即ち、ポリメラーゼがプライマーを鋳型依存的に伸長するように、ポリメラーゼと、ヌクレオチドアナログと、場合により天然ヌクレオチド及び他の試薬と、鋳型と、複製開始部分の混合物を反応させる。複製開始部分は標準オリゴヌクレオチドプライマー、あるいは鋳型の成分とすることができ、例えば鋳型は自己プライミング1本鎖DNA、ニック入り2本鎖DNA等とすることができる。同様に、末端蛋白質を開始部分として使用することもできる。少なくとも1個のヌクレオチドアナログをDNAに組込むことができる。鋳型DNAは線状又は環状DNAとすることができ、所定用途では、環状鋳型が望ましい(例えばローリングサークル型複製や環状鋳型のシーケンシング)。場合により、組成物は自動DNA複製及び/又はシーケンシングシステムで利用することができる。
【0095】
本発明のポリメラーゼによる標識ヌクレオチドアナログの組込みはDNA重合のリアルタイムモニターを含む多様な核酸分析で特に有用である。ラベルはそれ自体を組込んでもよいが、組込み中に放出するほうが好ましい。例えば、ポリメラーゼによるアナログの組込み中にラベル放出をモニターすることによりアナログ組込みをリアルタイムでモニターすることができる。組込まれるアナログの部分は天然ヌクレオチドと同一でもよいし、天然ヌクレオチドとは異なるアナログの特徴を含んでいてもよい。
【0096】
一般に、成長中の核酸鎖の存在と組成を指示し、例えば鋳型複製/増幅及び/又は鋳型の配列を実証するために、ラベル組込み又は放出を使用することができる。組込みからのシグナルは例えば固相アッセイで組込まれたアナログから遊離される標識基の検出結果として発生することもできるし、組込み反応の結果として発生することもできる。例えば、結合したラベルをクエンチし、遊離ラベルをクエンチしないFRETラベルの場合には、組込まれたアナログからのラベル基の放出により蛍光シグナルを発生することができる。あるいは、活性部位に近位のFRET対の1メンバーで酵素を標識し、他のメンバーを担持するアナログを組込むと、組込み後にエネルギー移動が生じる。核酸シーケンシング用途における酵素結合FRET成分の使用は例えば言及により本明細書に組込む公開米国特許出願第2003−0044781号に記載されている。
【0097】
代表的な1該当反応では、個々のポリメラーゼ分子を有効に観測できるような極めて小さい観測容積内でポリメラーゼ反応物を単離することができる。その結果、組込みイベントにより、組込んでいるヌクレオチドアナログを組込まれなかったヌクレオチドアナログから容易に区別可能に観測できる。好ましい側面では、このような小さい観測容積はゼロモード導波管等の光学的閉じ込め構造内にポリメラーゼ酵素を固定化することにより得られる。ZMWと単分子分析、特に核酸シーケンシングにおけるその適用については、例えば各々言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む公開米国特許出願第2003/0044781号及び米国特許第6,917,726号参照。
【0098】
一般に、1個以上のヌクレオチド及び/又は1個以上の本発明のヌクレオチドアナログの存在下でポリメラーゼ酵素を鋳型鎖と複合体化する。例えば、所定態様では、4種の天然ヌクレオチドA、T、G及びCの各々に類似する化合物に相当する標識アナログを例えば古典的サンガーシーケンシングのように別個のポリメラーゼ反応で使用するか、又は多重化シーケンシングアプローチのように単一反応で相互に多重化する。鋳型鎖の特定塩基が重合反応中にポリメラーゼと遭遇すると、このようなヌクレオチドに相補的な利用可能なアナログと複合体化し、成長中の新生核酸鎖にこのアナログを組込む。1側面では、組込みの結果、例えばポリリン酸アナログ中のラベルが放出され、アナログ中のαリン原子とβリン原子の間が開裂し、従って標識基(又はその一部)を放出することができる。組込みイベントはアナログが長くなっているために複合体中のラベルにより検出されるか、又はラベル基が周囲媒体中に放出されることにより検出される。各種アナログの各々(例えばA、T、G又はC)に異なる標識基を使用する場合には、組込まれたアナログのラベルの同定によりこのアナログを同定し、従って、この時点でプロセッシングされている鋳型鎖中の相補的ヌクレオチドを決定することができる。連鎖反応とモニターにより、重合反応のリアルタイムモニターと鋳型核酸の配列決定が可能になる。上記のように、特に好ましい側面では、ポリメラーゼ酵素/鋳型複合体は個々の複合体の観測を可能にする光学的閉じ込め構造(例えばゼロモード導波管)内に固定化した状態で提供される。シーケンシングにおけるその使用に加え、本発明のアナログは他の各種ゲノタイピング分析(例えば一塩基伸長法を使用するSNPゲノタイピング)、増幅のリアルタイムモニター(例えばRT−PCR法)等でも同様に有用である。
【0099】
シーケンシングと核酸増幅に関するその他の詳細はSambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2000(「Sambrook」);Current Protocols in Molecular Biology.F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(2006年補遺)(「Ausubel」))及びPCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(「Innis」)に記載されている。
【0100】
組換えポリメラーゼの作製及び単離
一般に、本発明のポリメラーゼをコードする核酸はクローニング、組換え、in vitro合成、in vitro増幅及び/又は他の利用可能な方法により作製することができる。本発明のポリメラーゼ(特定理論に結び付けるものではないが、例えば本発明のヌクレオチドアナログの立体障害を軽減するか、及び/又は相補性特徴を含む突然変異体ポリメラーゼ)をコードする発現ベクターを発現させるためには各種組換え法を使用することができる。核酸作製、発現及び発現産物の単離のための組換え法は例えばSambrook、Ausubel及びInnisに記載されている。
【0101】
更に、プラスミド又は他の該当核酸を細胞から精製するための多数のキットが市販されている(例えばいずれもPharmacia Biotech製品であるEasyPrep(登録商標)、FlexiPrep(登録商標);Stratagene製品StrataClean(登録商標);及びQiagen製品QIAprep(登録商標))。単離及び/又は精製された任意核酸を更に操作して他の核酸を作製することもできるし、細胞にトランスフェクトするために使用することもできるし、発現用生物に感染させるために関連ベクターに組込むこともできるし、及び/又は同等の操作が可能である。典型的なクローニングベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製及び組込みに適している。Giliman & Smith,Gene 8:81(1979);Robertsら,Nature,328:731(1987);Schneider,B.ら,Protein Expr.Purif.6435:10(1995);Ausubel、Sambrook、Berger(前出)参照。クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばThe ATCC Catalogue of Bacteria and BacteriophageがATCCから毎年発行されている。シーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面のその他の基本手順と基礎理論事項もWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition,Scientific American Books,NYに記載されている。
【0102】
更に、各種非天然アミノ酸の任意のものを組換え蛋白質(例えば本発明のポリメラーゼ)に組込むことが可能な直交成分のシステムも入手可能である。要約すると、直交tRNA(「OtRNA」;アンバー又は4塩基tRNA等の細胞の内在翻訳機構により認識されないtRNA)と直交tRNAシンテターゼ(「ORS」;これは細胞の内在tRNAをアミノアシル化しないが、セレクターコドンに応答してOtRNAをアミノアシル化することができるシンテターゼである)を含む細胞又は他の翻訳系(例えばin vitro翻訳系)を構築する。OtRNAにより特異的に認識される選択部位にセレクターコドンを含むように酵素をコードする核酸を構築する。ORSは(例えば活性部位の遠位の)1個以上の選択部位に所望化学官能基をもつ非天然アミノ酸を特異的に組込む。この化学官能基は例えばケト又は他の官能基を組込むアミノ酸に元々存在している官能基に比較してユニークであると言える。直交系に関する詳細な情報は例えばWangら,(2001),Science 292:498−500;Chinら,(2002)Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027;Chin and Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137;Chinら,(2002),PNAS United States of America 99:11020−11024;及びWang and Schultz,(2002),Chem.Comm.,1−10に記載されている。国際公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2005/019415(出願日2004年7月7日);WO2005/007870(出願日2004年7月7日);及びWO2005/007624(出願日2004年7月7日)も参照。
【0103】
(例えば後期核酸単離のための)例えば細胞単離及び培養に関する他の有用な文献としては、Freshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,third edition,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(編)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(編)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
【0104】
更に、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)等の各種販売会社からほぼ任意核酸をオーダーメード又は標準注文することができる。
【0105】
各種蛋白質単離及び検出方法が公知であり、例えば本発明の組換えポリメラーゼを発現する細胞の組換え培養液からポリメラーゼを単離するために使用することができる。各種蛋白質単離及び検出方法が当分野で周知であり、例えばR.Scopes,Protein Purification.Springer−Verlag,N.Y.(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press,Inc.N.Y.(1990);Sandana(1997)Bioseparation of Proteins,Academic Press,Inc.;Bollagら(1996)Protein Methods,2nd Edition Wiley−Liss,NY;Walker(1996)The Protein Protocols Handbook Humana Press,NJ,Harris and Angal(1990)Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Scopes(1993)Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag,NY;Janson and Ryden(1998)Protein Purification:Principles,High Resolution Methods and Applications,Second Edition Wiley−VCH,NY;及びWalker(1998)Protein Protocols on CD−ROM Humana Press,NJ;並びにその引用文献に記載されている方法が挙げられる。蛋白質精製及び検出方法に関するその他の詳細はSatinder Ahuja編,Handbook of Bioseparations,Academic Press(2000)に記載されている。
【0106】
キット
本発明は例えばシーケンシング、核酸増幅等の用途のために例えば1種以上のヌクレオチドアナログと共に本発明のポリメラーゼを含むキットも提供する。このようなキットはポリメラーゼの使用を可能にする方法でパッケージングされた本発明のポリメラーゼと、本発明の各種ヌクレオチドアナログ(例えばA、T、G、及びCに類似するヌクレオチドアナログ)のセットを含むことができ、例えばアナログの少なくとも1個は検出可能な部分をもち、好ましい側面では2個以上の検出可能な部分をもち、多くの場合には、場合により他のアナログの存在下で同定できるように、各々が検出可能な異なる標識基をもつ。所望用途に応じて、本発明のキットは場合により天然ヌクレオチド、対照鋳型、及び他の試薬(例えば緩衝溶液及び/又は例えば2価金属イオン即ちMg++、Mn++及び/又はFe++を含む塩類溶液、標準溶液(例えば検出器校正用色素標準))等の付加試薬を含む。このようなキットは一般に更に所望適用方法(例えば核酸シーケンシング、増幅等)に従って化合物及び他の試薬を使用するための説明書を含む。
【0107】
核酸及びポリペプチド配列と変異体
本明細書に記載するように、本発明は例えば本明細書に記載するようなポリメラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。立体障害又は相補性特徴を含むポリメラーゼ配列の例を本明細書(例えば表3)に示す。しかし、当業者に自明の通り、本発明はこれらの配列に限定されない。例えば、当業者に自明の通り、本発明は例えば本明細書に記載する機能をもつ多数の関連配列(例えば、表3のポリメラーゼの保存変異体をコードするポリヌクレオチド及びポリペプチド)も提供する。
【0108】
従って、本発明は各種ポリペプチド(ポリメラーゼ)とポリヌクレオチド(ポリメラーゼをコードする核酸)を提供する。本発明のポリヌクレオチドの例としては、例えば表3に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド又はそのポリヌクレオチド配列に相補的であるかもしくは前記配列をコードするポリヌクレオチドが挙げられる(例えば所与配列がDNAである場合には、例えば逆転写によりこのDNAをコードする配列の1例はRNAである)。本発明のポリヌクレオチドは更に場合により表3のポリメラーゼをコードする任意ポリヌクレオチドを含む。遺伝コードの縮重により、多数のポリヌクレオチドが所与ポリメラーゼ配列を等しくコードする。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする人工又は組換え核酸(天然ポリヌクレオチド以外のもの)も本発明のポリヌクレオチドである。1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は本発明のポリペプチドに対して特異的に免疫反応性の抗体又は抗血清(例えば改変立体障害又はヌクレオチドアナログ相補性特徴を特異的に認識するもの)も提供する。
【0109】
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
【0110】
同様に当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に類似する配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。少なくとも1種の開示配列とハイブリダイスする核酸ポリヌクレオチド配列の変異体も本発明に含むものとする。例えば標準配列比較法により判定した場合に本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であると判断される配列も本発明に含まれる。
【0111】
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸配列をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1個又は少数のアミノ酸を高度に類似する性質をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異体は本発明の特徴である。
【0112】
特定核酸配列の「保存変異体」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果として、該当する立体障害軽減又はヌクレオチドアナログ相補性特徴を維持しながら、アミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存改変変異」である(例えば、保存置換としては活性部位領域に対して遠位の残基の置換が挙げられる)。従って、本発明の指定ポリペプチド配列の「保存変異体」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基のアミノ酸で置換されたものが挙げられる。最後に、非機能的配列又はタグ配列(核酸中のイントロン、コードされるポリペプチド中のポリHis又は同様の配列等)の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸又はポリペプチドの保存変異である。
【0113】
1側面では、保存置換はアミノ酸残基375に対応するポリメラーゼのアミノ酸残基における1以上の残基欠失又は置換を含む。
【0114】
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知であり、このようなアミノ酸では、あるアミノ酸残基が類似の化学的性質(例えば芳香族側鎖又は正荷電側鎖)をもつ別のアミノ酸残基に置換しているため、ポリペプチド分子の機能的性質は実質的に変化しない。化学的性質が類似する天然アミノ酸を含む代表的グループを以下に示すが、これらのグループ内の置換は「保存置換」である。
【表1】
【0115】
核酸ハイブリダイゼーション
本発明の核酸の保存変異体を含めて本発明の核酸を同定するためには比較ハイブリダイゼーションを使用することができる。更に、天然Φ29又はN62D突然変異体を除く表3に示す核酸と高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては表3の所与核酸配列と比較して1又は少数のサイレント又は保存核酸置換を含むものが挙げられる。
【0116】
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも50%の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
【0117】
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(Elsevier,New York)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)(「Ausubel」)に記載されており、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England,(Hames and Higgins 1)と、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England(Hames and Higgins 2)はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
【0118】
100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上でサザン又はノーザンブロット法で実施するためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで無関係プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
【0119】
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件では、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
【0120】
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(Tm)に等しくなるように選択される。Tmは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTmよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
【0121】
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
【0122】
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高レベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件を決定できる。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
【0123】
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
【0124】
ユニークサブ配列
所定側面では、本発明は表3のポリメラーゼをコードする核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は野生型Φ29又はそのN62D突然変異体に対応する核酸に比較してユニークであり得る。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
【0125】
同様に、本発明は表3のポリメラーゼ中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は野生型Φ29又はそのN62D突然変異体に比較してユニークである。
【0126】
本発明は表3の配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は野生型Φ29又はN62D突然変異体に対応するポリペプチド(例えば本発明のポリメラーゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)に比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
【0127】
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度百分率」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
【0128】
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばポリメラーゼをコードするDNA又はポリメラーゼのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、約80%、約90〜95%、約98%、約99%又はそれ以上であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の祖先が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域、より好ましくは少なくとも約100残基長の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
【0129】
蛋白質及び/又は蛋白質配列は共通の祖先蛋白質又は蛋白質配列から天然又は人工的に誘導される場合に「相同」である。同様に、核酸及び/又は核酸配列は共通の祖先核酸又は核酸配列から天然又は人工的に誘導される場合に相同である。相同性は一般に2種以上の核酸又は蛋白質(又はその配列)間の配列類似度から推定される。相同性の判定に有用な配列間類似度の厳密な百分率は該当核酸及び蛋白質により異なるが、通常は50個、100個、150個又はそれ以上の残基にわたる25%程度の低い配列類似度を使用して相同性を判定する。より高レベルの配列類似度(例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上)を使用して相同性を判定することもできる。配列類似度百分率の決定方法(例えばデフォルトパラメーターを使用するBLASTP及びBLASTN)は本明細書に記載し、一般に入手可能である。
【0130】
配列比較及び相同性判定には、一般にある配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対する試験配列の配列一致度百分率を計算する。
【0131】
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューター実施(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)参照)により実施することができる。
【0132】
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Informationから公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列させた場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
【0133】
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin & Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
【0134】
コンピューターによる反応速度のモデル化方法
別の側面では、本発明は例えば酵素反応速度をモデル化するためのコンピューター実施方法を含む。本方法では、鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する。最小離散時間ステップでは、モデル化される酵素速度反応に従って多くのポリメラーゼ状態遷移が禁止される。状態間の複数の速度遷移速度を定義し、所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて最小離散時間ステップで可能な状態遷移の多次元確率行列を定義する。得られた多次元確率行列をコンピューター読み取り可能な媒体に保存する。
【0135】
上記方法の各種特徴は多様である。例えば、ポリメラーゼ状態遷移は場合によりユーザー選択可能である。状態間の遷移速度は場合によりヌクレオチド濃度、ポリメラーゼ濃度、鋳型濃度、鋳型配列、鋳型に沿うポリメラーゼの位置、現在のワトソン・クリック鋳型−ヌクレオチド対の特徴、1つ前のワトソン・クリック鋳型−ヌクレオチド対の特徴、又は組込まれるヌクレオチドの特徴により異なる。反応混合物中のヌクレオチドは場合により1個以上のアナログヌクレオチドを含む。状態間の遷移速度は場合により上記多次元依存性の全組み合わせ間に完全な直交性を含む。多次元確率行列は場合により鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される。場合により可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する。所定状態遷移(例えばDNAに沿うポリメラーゼ転位)が確率行列の各次元(例えば先に組込まれたヌクレオチドの所定特徴)間で等しいと仮定することにより確率行列を場合により更に単純化する。
【0136】
同様に、確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために場合により第2の試薬濃度行列を作成する。場合により複数鋳型について確率行列をベクトル化し、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じると、状態分布行列が得られる。鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を使用することができる。連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義することができる。
【0137】
当然のことながら、本明細書に記載する実施例と態様は例証の目的に過ぎず、これらの記載に鑑み、種々の変形又は変更が当業者に想到されよう。従って、以下の実施例は特許請求の範囲に記載する発明を例証するものであり、これを限定するものではない。
【0138】
改変活性部位領域とヌクレオチドアナログに対する改変特性をもつ各種組換えDNAポリメラーゼの構築と特性決定を実証する一連の実験を以下に記載する。
【実施例1】
【0139】
組換えポリメラーゼの発現
図1に模式的に示すΦ29ポリメラーゼの発現用ベクターを構築した。エキソヌクレアーゼ活性を低下させるために野生型Φ29(配列番号1)にN62D突然変異を導入し、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、His、及びSタグを付加した。得られたタグ付きN62D Φ29アミノ酸配列を配列番号2として示す。ベクターの配列を配列番号14として示す。タグ付きN62D Φ29ポリメラーゼはベクター配列のヌクレオチド4839−7428によりコードされ、ポリメラーゼはヌクレオチド5700−7428に位置し、N62D突然変異はヌクレオチド5883−5885に位置する。ベクターの他の特徴としては、GST−His−Sタグ配列(ヌクレオチド4838−5699)、リボソーム結合部位(ヌクレオチド4822−4829)、T7プロモーター(ヌクレオチド4746−4758)、及びカナマイシン耐性マーカー(ヌクレオチド563−1375の相補配列)が挙げられる。
【0140】
例えば、改変活性部位領域をもつ組換えΦ29ポリメラーゼの発現を容易にするために、所望により他の突然変異もこの構築物に容易に導入される。例えば配列番号15−23参照。組換え蛋白質は例えば大腸菌で発現させることができ、GST、His、及び/又はSタグと標準技術を使用して精製することができる。適切なプロテアーゼ(例えばトロンビンやエンテロキナーゼ)で消化することにより場合によりタグを除去する。
【実施例2】
【0141】
代表的な組換えポリメラーゼ
改変活性部位領域をもつ各種組換えΦ29ポリメラーゼを構築した。特定メカニズムに限定する意図はないが、改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減することができ、これらの基を相補する特徴(例えば正電荷アミノ酸側鎖)を提供することにより余分なリン酸基に配位することができ、及び/又は他の方法でポリメラーゼのヌクレオチドアナログ組込み能を強化することができる構造改変を以下に例証する。
【0142】
図2Aは残基505−525(括り記号で示す)の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。Φ29と異なるアミノ酸残基を下線で示す。cp−1 DNAポリメラーゼ(G1と同様に、Φ29に遠縁)ではこの領域の大部分が欠失している。更に、この領域はフランキング配列よりも配列保存が著しく少ない。これらの点から、この領域を除去しても有害になる可能性は低いと思われる。
【0143】
図2Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す(例えばKamtekarら(2004)“Insights into strand displacement and processivity from the crystal structure of the protein−primed DNA polymerase of bacteriophage Φ29” Mol.Cell 16(4):609−618参照)。下段3図は残基505−525を除去したポリメラーゼを示し、この領域の除去によりヌクレオチド結合ポケットが形成されることが分かる。例えば、異なる配列を使用してこの領域を除去する配列番号12及び13又は33及び34参照。
【0144】
図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図3Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。375位のグルタミン酸(矢印で示す)は次に入ってくるdNTPの三リン酸部分と接触する正電荷残基(K371,K379,K383;ミディアムグレーにダークグレーが点在している部分)の近位に位置する。図3Bの下段3図に示すように、四リン酸ヌクレオチドアナログの余分なリン酸に配位させるために、この負電荷アミノ酸(E)を正電荷アミノ酸(H)で置換した。更に、この位置の余分な正電荷は三リン酸アナログに配位するのにも利用できる。組換えポリメラーゼの分析によると、E375H突然変異はリン酸標識ヌクレオチドアナログを組込むために酵素の反応速度を改善したと思われる(下記実施例3参照)。この位置に中性残基を導入するため、及び/又は、例えばイネーブル機能への配座変化を容易にするために、突然変異体E375Sも構築した。配列番号4−7及び25−28も参照。
【0145】
図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図4Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示し、E486の位置を矢印で示す。下段3図に示すように、E486をアラニン残基で置換すると、触媒カルボン酸(D249及びD458,白で示す)の近傍の活性部位領域に余分な空間が形成され、負電荷が除去される。別の例として、E486をアスパラギン酸残基で置換すると、炭素が除去され、負電荷を維持しながらヌクレオチドアナログ結合の立体干渉が軽減する。配列番号9−10及び30−31も参照。
【0146】
図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図5Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。K512(矢印で示す)は残基505−525領域から突出し、次に入ってくるdNTPとの結合部位の開口を部分的に塞ぐ。下段3図に示すように、K512をアラニン残基で置換すると、活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害が減り、結合ポケットに入るための余分なスペースが得られる。配列番号11及び32も参照。
【0147】
図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図6Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。K135(矢印で示す)は次に入ってくるdNTPとの結合部位の開口に突出している。下段3図に示すように、K135をアラニン残基で置換すると、活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害が減り、結合ポケットに入るための余分なスペースが得られる。配列番号3及び24も参照。
【実施例3】
【0148】
組換えポリメラーゼのスクリーニング及び特性決定
実施例2に記載したように作製するか、又は本質的に任意の他の合理的もしくはランダム突然変異誘発ストラテジーにより作製した組換えポリメラーゼを場合により特性決定し、各種天然及び/又はヌクレオチドに対するその特性を決定する。組換えポリメラーゼを特性決定するための代表的な5段階プロトコールの1例を以下に記載する。
【0149】
組換えポリメラーゼをまず蛋白調製物の品質と基本的触媒活性について評価する。天然(野生)ヌクレオチドでポリメラーゼの活性を分析し、その比活性(単位/mg)を決定する。触媒能をもつ突然変異体のみを次段階に選択する。
【0150】
「トラップ」(未標識競合DNA又はヘパリン)の存在下で実施するプライマー伸長反応でポリメラーゼのプロセッシビティ(解離/kb)を推定する。プロセッシビティアッセイは天然ヌクレオチドによる連続重合試験(重合再開なし)で長いDNA産物を合成する能力を維持する突然変異体を選択するように設計する。プロセッシビティが有意に低下した突然変異体は次段階に選択しない。
【0151】
10μMのアナログ4種(A488dA4P,A633dC4P,A546dG4P及びA594dT4P)と環状鋳型(AGTC,反復AGTCモチーフから主に構成される72量体環状鋳型)による重合速度(塩基数/分)を測定する。
【0152】
環状鋳型(AGTC)を使用してA488dC4P及びA568dC4Pと天然ヌクレオチドのサブセット(dATP、dGTP及びdTTP)の重合速度とKmを決定することにより最も有望なポリメラーゼ突然変異体を特性決定する。アナログA488dC4P(代表的な良好な基質)及びA568dC4P(代表的な好ましくない基質)の濃度を数種に変化させて速度を測定する。
【0153】
ヌクレオチドアナログによるプライマー伸長アッセイを使用し、末端リン酸標識ヌクレオチドアナログについて反応速度が改善されたポリメラーゼ突然変異体の初期選択を実施し、実験条件下でアナログの速度を決定する。10μM A488dC4P、20μM 3dNTP−dCTP、及び環状鋳型(AGTC)の存在下と、10μM A568dC4P、20μM 3dNTP−dCTP、及び環状鋳型(AGTC)の存在下の2種の別個の実験を一般に実施する。
【0154】
例えば、忠実度、滞留時間(1/Vmax)、エキソヌクレアーゼ活性(例えば10uM,ミスマッチプライマーの伸長による)、活性率(バースト頻度)、dNTP、dN5P、リンカー単独アナログ及び/又はFRETアナログの速度、Mn2+に対するMg2+の反応速度(アナログの利用能)、光損傷感受性、1本鎖DNA結合、モノマー状態(例えばゲル濾過又は天然ゲルを使用)、及び/又は貯蔵寿命等の組換えポリメラーゼの他の特徴を場合により試験する。
【0155】
代表的な組換えΦ29ポリメラーゼの蛋白品質評価と重合速度及び速度定数測定の結果を夫々表1及び2に示す。
【表2】
【表3】
A列:呼称。
B列: dTTP、dATP、dGTP(Gフォークなし)、20μMのV;天然ヌクレオチド3種(dGTP、dTTP及びdATP)を使用するアッセイにより測定。
C列: A488dC4P、kel(bp/分);重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
D列: A488dC4P、Km; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
E列: A568dC4P、kel; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
F列: A568dC4P、Km; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
G列: A488dC4P、10μMのV;低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイにより測定。
H列: A568dC4P、10μMのV;低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイにより測定。
I列: A488dA4P、A633dC4P、A546dG4P、A594dT4P、10μMのV;末端標識ヌクレオチドアナログ4種を使用するアッセイにより測定。
J列: プロセッシビティ(kb−1);プロセッシビティアッセイにより測定。
【0156】
低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。プレインキュベーションミックスには天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP)と10μM濃度の末端標識ヌクレオチドアナログ(A488dC4P又はA568dC4P)を加える。短時間プレインキュベーション後、MnCl2で反応を開始した。EDTAで反応を停止し、アガロースゲル電気泳動を使用して産物を分離し、SYBR Gold(Invitrogen)で染色した。DNAポリメラーゼにより生成されたDNAの平均長を測定し、これを使用して重合速度を推定した。例えば表2のG及びH列参照。
【0157】
末端標識ヌクレオチドアナログ4種を使用するアッセイ
本アッセイでは全ヌクレオチドを末端標識(いずれも10μMのA488dA4P、A633dC4P、A546dG4P、A594dT4P)する以外は、基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りの手順とする。例えば表2のI列参照。
【0158】
天然ヌクレオチド3種(dGTP、dTTP及びdATP)を使用するアッセイ
天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP)をプレインキュベーションミックスに加え、DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(G残基を含まない反復配列CATから主に構成される環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。その後の全段階は基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りに実施した。例えば表2のB列参照。
【0159】
重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。プレインキュベーションミックスは更に天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP各20μM)と各種濃度の末端標識アナログ(A488dC4P又はA568dC4P)を加える。その後の全段階は基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りに実施した。各アナログ濃度でDNAポリメラーゼにより生成されたDNA産物の平均長を測定し、結果を式:k=kel*[S]*(Kd+[S])−1(式中、kは実測重合速度であり、kelは飽和基質濃度における重合速度(kelは複数残基の組込みに相当する)であり、[S]は基質濃度である)にフィットさせた。例えば表2のC、D、E、及びF列参照。
【0160】
プロセッシビティアッセイ
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。短時間プレインキュベーション後、MnCl2、dNTP及びヘパリンを含有する開始ミックスで反応を開始した。反応にヘパリンを加えると、鋳型/プライマーからのポリメラーゼ解離後に重合を再開できなくなるので、生成された全DNA産物が連続重合試験の結果となる。20分間インキュベーション後、EDTAで反応を停止し、アガロースゲル電気泳動を使用して産物を分離し、SYBR Gold(Invitrogen)で染色した。基本的にBibillo A,Eickbush TH.J Biol Chem.2002 Sep 20;277(38):34836−45,Epub 2002 Jul5に記載されているようにDNA産物を分析した。結果を単一指数方程式:A*exp(−Poff*kb)(式中、Aは振幅であり、Poffは早期ポリメラーゼ解離確率であり、kbはDNA長(1000ヌクレオチド)である)にフィットさせた。鎖伸長確率(プロセッシビティ)はPoff値を1.0から引くことにより容易に計算することができる。例えば表2のJ列参照。
【0161】
代表的組換えポリメラーゼの配列
野生型Φ29及び代表的組換えポリメラーゼのアミノ酸及びポリヌクレオチド配列を表3に示す。
【表4−1】
【表4−2】
【表4−3】
【表4−4】
【表4−5】
【表4−6】
【表4−7】
【表4−8】
【表4−9】
【表4−10】
【表4−11】
【表4−12】
【表4−13】
【表4−14】
【0162】
ヌクレオチドアナログによる組換えポリメラーゼの特性決定
代表的な組換えΦ29ポリメラーゼと各種ヌクレオチドアナログについてKmとVmaxを測定した。結果を表4に示す。
【表5】
1 Alexa633−O−dC4P(本明細書ではA633dC4Pとも言う)で測定。
2 Alexa555−C2−dT4Pで測定。このアナログはδリン酸とラベル部分の間に2炭素リンカー(「C2」)をもち、下記構造:をもつ。
【化7】
3 Alexa555−C2−dTTPで測定。
4 Alexa532−O−dG4Pで測定。
【0163】
各種ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを使用して一連の代表的な組換えΦ29ポリメラーゼを特性決定した。結果を表5に示す。
【表6】
1 比=1mM MnCl2における(5μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度)/(25μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度)。比が大きいほどKmは小さい。
2 25μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度。
3 10μM Alexa488−O−dA4P、10μM FAM−Alexa532−O−dG4P、10μM FAM− Alexa594−O−dT4P、10μM Alexa633−O−dC4P+1 mM MnCl2の速度。ヌクレオチドアナログ4種の代表的組み合わせによるKm及びVmax両者の指標である。
4バックグラウンド突然変異(存在する場合)。組換えポリメラーゼは野生型Φ29ポリメラーゼ+突然変異1+突然変異2に対応する。
5固定化及び/又は精製用タグ。
【0164】
図7Aに模式的に示すようなFRET停止型フローアッセイを使用して代表的な組換えΦ29ポリメラーゼとヌクレオチドアナログA594−dT4Pの結合速度と産物放出速度を測定した。図7にΦ29 N62D(B)、N62D:E375Y(C)、及びN62D:E375W(D)の結果をグラフで示す。産物放出速度を表6に示す。
【0165】
E375Y及びE375W突然変異体ポリメラーゼは結合速度と産物放出速度の増加を示し、親酵素よりも良好にアナログを利用することが分かった。
【表7】
【0166】
図8Aに模式的に示すようなFRET停止型フローアッセイを使用して代表的な組換えΦ29ポリメラーゼとヌクレオチドアナログAlexa568−dA4P(A568−dA4Pとも言う)の相対分岐速度(取込まれないアナログの解離、即ち基質解離)も測定した。この手法では、ヌクレオチドアナログ上の対応する色素と共にFRETに適合性のFRETドナー色素で標識した鋳型を使用する。プライマーは取込みを生じないように3’末端をジデオキシヌクレオチドで停止する。アナログを酵素−鋳型−ジデオキシプライマー複合体とプレミックスする。停止型フロー装置で、解離後にアナログの再結合を阻止するための「トラップ」として機能する過剰の対応する天然ヌクレオチド(本実施例では天然dATP)とこの予備形成した複合体を迅速に混合する。アナログの解離/分岐速度をモニターする手段としてドナー色素蛍光の増加をモニターする。
【0167】
図8にΦ29 N62D(B)、N62D:E375Y(C)、及びN62D:E375W(D)の結果をグラフで示す。分岐速度を表7に示す。
【表8】
【0168】
その他の代表的な組換えポリメラーゼ
本発明のポリメラーゼとしては、単独又は他の突然変異(例えば本明細書に記載する他の突然変異)との組み合わせとして表8に示す突然変異の任意のものを含むΦ29ポリメラーゼ(又はそのホモログ)が挙げられる。例えば、本発明のポリメラーゼとしては、場合により表8に特定するような突然変異の組み合わせを含むΦ29ポリメラーゼ(又はそのホモログ)が挙げられる。
【表9−1】
【表9−2】
【表9−3】
【表9−4】
【0169】
Φ29ポリメラーゼの数種の突然変異が従来文献に記載されている。N62D突然変異については、de Vegaら(1996)“Primer−terminus stabilization at the 3’−5’ exonuclease active site of phi29DNA polymerase.Involvement of two amino acid residues highly conserved in proofreading DNA polymerases” EMBO J.15(5):1182−92参照。D12A突然変異と、E14位、66位、165位、169位、12位と66位、及び14位と66位の突然変異については、Estebanら(1994)“3’−>5’ exonuclease active site of phi 29DNA polymerase.Evidence favoring a metal ion−assisted reaction mechanism” J Biol Chem.269(50):31946−54参照。S252の突然変異については、Blascoら(1993)“Phi 29 DNA polymerase active site.Residue ASP249 of conserved amino acid motif ‘Dx2SLYP’ is critical for synthetic activities” J Biol Chem.268(32):24106−13参照。Y254の突然変異については、Blascoら(1992)“Phi 29 DNA polymerase active site.Mutants in conserved residues Tyr254 and Tyr390 are affected in dNTP binding” J Biol Chem.267(27):19427−34参照。K371の突然変異については、Trunigerら(2002)“A positively charged residue of phi29DNA polymerase,highly conserved in DNA polymerases from families A and B,is involved in binding the incoming nucleotide” Nucleic Acids Res.30(7):1483−92参照。K379の突然変異については、Trunigerら(2004)“Two Positively Charged Residues of φ29DNA Polymerase,Conserved in Protein−primed DNA Polymerases,are Involved in Stabilisation of the Incoming Nucleotide” Journal of Molecular Biology 335(2):481−494参照。N387の突然変異については、Blascoら(1993)“Phi 29 DNA polymerase active site.The conserved amino acid motif ‘Kx3NSxYG’ is involved in template−primer binding and dNTP selection” J Biol Chem.268(22):16763−70参照。Y390の突然変異については、Blascoら(1992)“Phi 29 DNA polymerase active site.Mutants in conserved residues Tyr254 and Tyr390 are affected in dNTP binding” J Biol Chem.267(27):19427−34参照。D456の突然変異については、Bernadら(1990)“The highly conserved amino acid sequence motif Tyr−Gly−Asp−Thr−Asp−Ser in alpha−like DNA polymerases is required by phage phi 29DNA polymerase for protein−primed initiation and polymerization” Proc Natl Acad Sci U S A.87(12):4610−4参照。
【実施例4】
【0170】
DNAポリメラーゼの酵素反応速度をモデル化及び試験し、全動的プロセスと自由変数を同時に割り当てるためのコンピューターフレームワーク
ポリメラーゼ反応状態遷移を離散時間ステップについて確率行列に保存する。状態確率分布のベクトルは連続モデルに従う多数のポリメラーゼ状態から特定ポリメラーゼを発見する確率を表すことができる。状態分布ベクトルと状態遷移確率行列の線形代数乗算により、状態遷移確率行列の離散時間ステップに等しい時間経過の効果を表すポリメラーゼ状態分布の新しいベクトルが得られる。
【数1】
状態遷移確率行列を特定指数乗(例えば100)に増加することにより、特定数の離散時間ステップ(例えば100時間ステップ)の時間経過をシミュレートする。多数の離散時間ステップを使用してDNA重合をシミュレートする。定常状態モデル。
【数2】
遷移速度はユーザーにより定義される。確率行列は鋳型配列とハードコード化状態遷移規則を使用して自動作成する。試薬濃度、反応速度値、及び確率行列構成等の各種パラメーターは本実施例に記載するパラメーターと異なっていてもよい。
【0171】
定常状態ポリメラーゼ反応速度モデルの1例を以下に示す。
【表10】
Rp = 触媒速度。
C6 = 状態6のポリメラーゼを発見する確率。
K61 = 状態6から状態1へのポリメラーゼの遷移速度。
kij = 反応速度定数。
Pij = kijΔt反応速度定数。
Pij = i→j確率。
* K54≒0(ピロリン酸濃度として)。
↓
Rp = C6K61 − C1K16 =触媒速度。
Rp = 飽和まで増加するヌクレオチド濃度条件としてK61→∞, C6→ 0における(Rp)max。
(Rp)maxを求めるには、
【表11】
*Δt↓につれて、Rpの漸近線を求める。
【0172】
巨大行列
ポリメラーゼ−鋳型−dNTP系の可能な全反応状態を捕えるための単一2−D行列を以下に示す。
【表12】
【0173】
*この結果、以下の状態から構成される656状態行列となる。
【表13】
*この場合、状態7は鋳型からのポリメラーゼの解離であり、場合により、発生しないものとして単純化することができる。
【0174】
この場合には、DNA鋳型は反復配列(ACGT)である。鋳型反復配列が延長するにつれて状態も比例して増加し、延長した鋳型反復配列が元の鋳型配列を含まなくなる程度まで増加する。例えば、配列:
...[ACGT]ACGT...
に作成される確率遷移行列は配列:
...[ACGTACGT]ACGT....
に作成される行列と等価になる。他方、配列:
...[AACCGGTT]AACC...
に作成される確率遷移行列は元の行列で許容されない多数の状態遷移(例えば鋳型配列中の「A」から別の「A」へのポリメラーゼ転位)を含むので異なる。更に、この反復配列は4個ではなく8個のワトソン・クリック塩基を含むので、656ではなく1,312状態の行列が作成される。
【0175】
状態によっては全変数を定義する必要はない(上記表参照)。例えば、状態6にまだ取込まれていないヌクレオチドの特徴は状態6の実質に影響しない。
【表14】
【0176】
*2状態間の遷移速度は以下のように定義されよう。
【表15】
【0177】
P56TAxC=k56TAxC*time_step
式中、P56TAxCは「TAxC」により表される付加ヌクレオチド−鋳型条件で状態5から状態6への転位を完了するポリメラーゼの確率である。K56TAxCはこの転位の遷移速度である。
【0178】
一般に、この656状態システムでは、定義する遷移速度数は1568である。ユーザーが入力する必要がある入力数を減らすために実施することができる近似法には多数のものがある。
【0179】
以下の組み合わせは全状態遷移で同等に処理することができる:
鋳型ヌクレオチド:ACGT
TGCA。
同様に、全ミスマッチを等しく処理することができる。
K12AT0A=k12xZ0Z
K12CG0T=k12xZ0Z
K12CT0T=k12xY0Z
K12CT1C=k12xY1Y
X=任意変数
Y=任意ミスマッチ
Z=任意マッチ。
【0180】
こうしてユーザー入力選択をユニークな遷移速度変数〜100個まで減らす。明示的に定義された全速度は適切なユーザー入力に自動的に割り当てられる。
【表16】
【0181】
ユーザーに定義される遷移速度を行列に自動的に挿入する目的で対称を利用するために、656状態行列の構成を変更することができる。
【表17】
【0182】
これには2つの利点がある。
(1)行列を僅かに変更するだけで鋳型を伸長することができる。反復配列の各鋳型塩基が164状態を追加する。従来は、新しい状態を行列に組み入れる必要があった。
【表18】
(2)行列は以前よりも対称度が高いので、自動コードを使用して行列を構築し易い。
【数3】
7個の「eval」ステートメント(人工的に構築されたコマンドを評価する関数)は7個のポリメラーゼ状態を構築する。
【0183】
これを更に拡張し、任意所与鋳型配列の行列を自動的に構築した。
【0184】
全該当試薬(ポリメラーゼ、鋳型、ヌクレオチド等)の濃度を含む濃度行列の構築により状態遷移確率行列の作成を更に自動化する。この濃度行列は(線形濃度限度内で)
kinetic_matrix=rate_transition_matrix * conc_matrix
state_transition_probability_matrix=kinetic_matrix * time_step
となるように速度遷移行列を補完し、上記式では、速度遷移行列の各要素に濃度行列におけるその対応する依存変数を乗じている。このように、濃度依存状態遷移を捕える(例えばヌクレオチド取込み速度はヌクレオチド濃度に依存する)。濃度に依存しない行列の要素は変化させない。非線形濃度依存性は反応速度行列を定義する非線形式を使用して表すことができる。
【0185】
状態遷移確率行列を以下に示す。
【表19】
上記式中、行列に挿入された各確率値はユーザーに定義された遷移速度、濃度値、及び離散時間ステップを使用して計算している。なお、行の最初の要素は状態間に遷移がない確率であり、従って、100%とこの特定状態以外の全状態遷移の確率の差である。
【0186】
シミュレーション効率の増加:
状態遷移確率行列を特定指数乗(例えば100)に増加することにより、特定数の離散時間ステップ(例えば100時間ステップ)の時間経過をシミュレートする。
多数のポリメラーゼ−鋳型複合体を同時にベクトル化することによりシミュレーションの効率を更に改善することができる。
【数4】
【0187】
速度限界:ポリメラーゼが鋳型の何処に存在するかを確認することによりDNA合成を追跡することができる。
【化8】
【0188】
移動が早過ぎる(即ち遷移行列指数中の時間ステップ数が多過ぎる)と、ポリメラーゼが「A」から直接「G」に移り、転位が順方向であったのか逆方向であったのか分からなくなる可能性がある。従って、kinetic_matrixの指数時間係数を定義する誤差限界(〜1e−6)を設定する。速度限界は「A」から「G」への逆方向転位の確率と「A」から「T」への順方向転位の確率のいずれもが誤差率限界を越えないように設定する。DNA反復配列が長いほうが速く移動できるが、反復配列が長過ぎると、コンピューターの負担が増す。
【0189】
このプログラムの別のアプリケーションとして試薬消費速度のシミュレーションが挙げられる。非常に大きなステップサイズで移動し、鋳型に沿ってポリメラーゼ移動をシミュレーションする。このアプローチは(離散状態の鋳型1000+個ではなく)状態の連続分布におけるただ1個の鋳型を使用する。こうして試薬消費を継時的に追跡する。
【0190】
システムの現在の集合と遷移速度定数に基づいて試薬の濃度変化を求める:
【数5】
【0191】
これらの確率がkinetic_matrixから1e−6sec時間ステップの場合には、1ループサイクル(経過時間=num_steps*1e−6sec)における試薬dTAP(天然)の濃度変化(モル)は以下の通りである。
【数6】
Nが大きくなるにつれて、各ループサイクルの濃度調整は大きくなり、不正確になる。これを使用してkinetic_matrixの指数時間係数を設定する。
濃度低下に対する反応速度行列ジャンプをプロットする図9参照。
【0192】
num_steps=1e6としても「十分に」正確な濃度曲線が得られる(ステップサイズが減少するにつれて平滑に近づく点に留意されたい)。
【0193】
得られる4096×4096正方行列は妥当なメモリ限界である。
【0194】
このプログラムの別のアプリケーションとして連続モデル又は計数モデルを使用するポリメラーゼミスマッチ率の推定が挙げられる。一般に、2つ前の鋳型−ヌクレオチド対は常にマッチであると仮定する。(これは行列サイズの4分の1の縮小であり、エキソヌクレアーゼ活性が大きくない限り、誤差は小さくなるはずである)。
【0195】
従って、前のミスマッチを含む状態5からの任意順方向転位は永久ミスマッチとなる(バックアップすればそうはならない)。
順方向合計転位率=C5.*C6.−C6.*k65
反応=(ミスマッチ率)/(合計率)
C5は状態5のポリメラーゼを含む全行列状態の濃度を表す(128頁参照)。
k56は対応する全順方向転位率の完全なセットである。
順方向ミスマッチ転位=C5(m).*k56(m)−C6(m).*k65(m)
(逆方向転位では、前のミスマッチを含むポリメラーゼ状態5にはならない。上記参照)。
【0196】
前の鋳型/ヌクレオチドミスマッチをもち且つ同様に順方向に転位する(ミスマッチを永久にする)ポリメラーゼ/鋳型複合体数を計数する計数モデルを作成し、これを全ポリメラーゼで平均してミスマッチ率を得ることもできる。これは上記連続モデル推定値とほぼ同一範囲となる。
1)まず、Patelら(1991)“Pre−Steady−State Kinetic Analysis of Processive DNA Replication Including Complete Characterization of an Exonuclease−Deficient Mutant” Biochemistry 30:511−525に示されているように、全速度定数をT7ポリメラーゼと等しくなるように設定する。
【表20】
【0197】
特定速度定数等。
K61≧50μm−1s−1
K12=300μm−1s−1
K23≧9000μm−1s−1
K34=1200μm−1s−1
K645≧1000μm−1s−1
K16≧1000μm−1s−1
K21=100μm−1s−1
K32=18,000μm−1s−1
K43=18μm−1s−1
K54≧0.5μm−1s−1
(Vmax)native=50bps
(Vmax)analog=5bps
(km)native=0.2μm
(km)analog=6μm
2)dNTP濃度飽和(≧1mM)を使用し、(主に)k12と(必要に応じて)他の速度定数を変化させることによりVmax=50bpsを設定する。全アナログ遷移速度を天然dNTP遷移速度と同一に維持する。当面、解離を抑える(速度→0)。
3)アナログ−dNTP濃度飽和(≧1mM)を使用し、アナログのみのk45を変化させることによりVmax=5bpsを設定する。
4)天然dNTP濃度を0.2μmに設定し、V=25bpsとなるようにk61(天然のみ)を変化させることにより(km)native=0.2μmを設定する。
5)アナログdNTP濃度を6μmに設定し、V=2.5bpsとなるようにk61(アナログのみ)を変化させることにより(km)native=6μmを設定する。
天然dNTP
k61=365μm−1s−1
k12=60μm−1s−1
K23=9000μm−1s−1
k34=1200μm−1s−1
k45=1000μm−1s−1
k56=500μm−1s−1
k16=10μm−1s−1
k21=100μm−1s−1
k32=1800μm−1s−1
k43=18μm−1s−1
k54=0.5μm−1s−1
k65=100μm−1s−1
アナログdNTP
k61=1.1μm−1s−1
k12=60μm−1s−1
K23=9000μm−1s−1
k34=5.5μm−1s−1
k45=5.5μm−1s−1
k56=500μm−1s−1
k16=10μm−1s−1
k21=100μm−1s−1
k32=1800μm−1s−1
k43=18μm−1s−1
k54=0.1μm−1s−1
k65=100μm−1s−1。
全速度は今後の実験で更に校正されよう。
pol_index.m:DNA配列に基づいて必要な全行列指数リスト及びポインターを初期化する。
Pol_ratematrix.m:全ユニーク速度定数のリストを含むエクセルファイルを入力として取込み、DNA配列に基づいて遷移速度行列を作成する。
Pol_conmatrix.m:試薬濃度を取込み、
(全非対角線要素について)確率行列=time_step * rate_matrix * conc_matrix
となるように濃度行列を構築する。
Pol_dntp_concumption.m:連続モデルに基づいて試薬消費速度を計算する。
POL_dna.m:POL_DNA、POL_REAGENTS、POL_CURVEMAPの以前の全関数を統合し、
以前の全消費を追跡し、
DNA合成長分布を追跡し、
遊離鋳型、完成したdsDNA鋳型、現在処理中の鋳型、可能な複数濃度試験、ユーザー定義された反復DNA配列、有限長鋳型を追跡する。
pol_metal.m:POL_DNAの機能縮小版を使用したMg+消耗実験の完全態様。
【0198】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献は言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込み、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を言及により全目的で本明細書に組込むと個々に記載しているものとみなす。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】タグ付きN62DΦ29DNAポリメラーゼの発現用ベクターを模式的に示す。
【図2A】図2Aは残基505−525の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号35、B103配列番号36、PZA配列番号37、M2配列番号38、G1配列番号39、cp−1配列番号40)の配列アラインメントを示す。
【図2B】図2Bは残基505−525をもつもの(上段)ともたないもの(下段)のΦ29の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図3A】図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号41、B103配列番号42、PZA配列番号43、M2配列番号44、G1配列番号45、cp−1配列番号46)の配列アラインメントを示す。
【図3B】図3BはΦ29(上段)とE375H突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図4A】図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号47、B103配列番号48、PZA配列番号49、M2配列番号50、G1配列番号51、cp−1配列番号52)の配列アラインメントを示す。
【図4B】図4BはΦ29(上段)とE486A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図5A】図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号53、B103配列番号54、PZA配列番号55、M2配列番号56、G1配列番号57、cp−1配列番号58)の配列アラインメントを示す。
【図5B】図5BはΦ29(上段)とK512A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図6A】図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号59、B103配列番号60、PZA配列番号61、M2配列番号62、G1配列番号63、cp−1配列番号64)の配列アラインメントを示す。
【図6B】図6BはΦ29(上段)とK135A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図7A】図7Aは結合速度と産物放出速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。
【図7B】図7BはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図7C】図7CはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図7D】図7DはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図8A】図8Aは分岐速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。
【図8B】図8BはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図8C】図8CはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図8D】図8DはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図9】濃度低下に対する反応速度行列ジャンプサイズのプロットを示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
本願は先行予備特許出願USSN60/753,670(出願日2005年12月22日、発明の名称「ヌクレオチドアナログ組込み用ポリメラーゼ(POLYMERASES FOR NUCLEOTIDE ANALOGUE INCORPORATION)」、発明者David K.Hanzelら)の優先権と特典を主張し、言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む。
【0002】
(連邦政府支援研究開発から創出された発明の権利に関する陳述)
本発明の一部はNHGRI助成番号R01 HG003710−01として米国政府助成下に創出され、米国政府は本発明に所定の権利をもつことができる。
【0003】
(発明の技術分野)
本発明は活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入を改善し、活性部位領域でヌクレオチドアナログと配位するための特徴をもつポリメラーゼに関する。前記ポリメラーゼの作製方法、シーケンシングとDNA複製及び増幅における前記ポリメラーゼの使用方法、ポリメラーゼ活性の反応速度モデル、並びに前記モデルを使用するコンピューター実施方法も記載する。
【背景技術】
【0004】
DNAポリメラーゼは生体のゲノムを複製する。生物学におけるこの中心的役割に加え、DNAポリメラーゼはバイオテクノロジーの汎用ツールでもある。例えば、シーケンシング、核酸増幅、クローニング、蛋白工学、診断、分子医学及び他の多くの技術等の各種用途の中心的技術である逆転写、増幅、標識及びシーケンシングに広く使用されている。
【0005】
DNAポリメラーゼはその重要性により広く研究されている。この研究は例えばポリメラーゼ間の系統発生関係、ポリメラーゼの構造、ポリメラーゼの構造−機能特徴、DNA複製や他の基本生物学におけるポリメラーゼの役割、及びバイオテクノロジーにおけるDNAポリメラーゼの使用方法に焦点を当てている。ポリメラーゼの概要については、例えばHubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163;Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4;Steitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398及びBurgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90参照。多くのポリメラーゼの結晶構造が解明されており、その多くは類似構造をもつ。多くのポリメラーゼの基本作用メカニズムが決定されている。
【0006】
DNAテクノロジーの基本的利用はDNAポリメラーゼにより生成されるDNAを標識するための各種標識ストラテジーを必要とする。これはマイクロアレイテクノロジー、DNAシーケンシング、SNP検出、クローニング、PCR分析、及び他の多くの用途で有用である。標識は各種合成後ハイブリダイゼーション又は化学標識スキームで実施されることが多いが、DNAポリメラーゼは例えばニック翻訳、逆転写、ランダムプライミング、増幅、ポリメラーゼ連鎖反応等により各種用途で各種標識ヌクレオチドを直接組込むためにも使用されている。例えばGillerら(2003)“Incorporation of reporter molecule−labeled nucleotides by DNA polymerases.I.Chemical synthesis of various reporter group−labeled 2’−deoxyribonucleoside−5’−triphosphates”Nucleic Acids Res.31(10):2630−2635;Augustinら(2001)“Progress towards single−molecule sequencing:enzymatic synthesis of nucleotide−specifically labeled DNA”J.Biotechnol.,86:289−301;Tononら(2000)“Spectral karyotyping combined with locus−specific FISH simultaneously defines genes and chromosomes involved in chromosomal translocations”Genes Chromosom.Cancer 27:418−423;Zhu and Waggoner(1997)“Molecular mechanism controlling the incorporation of fluorescent nucleotides into DNA by PCR.”Cytometry,28:206−211.Yuら(1994)“Cyanine dye dUTP analogs for enzymatic labeling of DNA probes”Nucleic Acids Res.,22:3226−3232;Zhuら(1994)“Directly labeled DNA probes using fluorescent nucleotides with different length linkers.”Nucleic Acids Res.22:3418−3422;Riedら(1992)“Simultaneous visualization of seven different DNA probes by in situ hybridization using combinatorial fluorescence and digital imaging microscopy”Proc.Natl Acad.Sci.USA,89:1388−1392参照。
【0007】
対応する野生型酵素に対して改変されたヌクレオチドアナログ組込み特性をもつDNAポリメラーゼ突然変異体も同定されている。例えば、VentA488LDNAポリメラーゼは天然Vent DNAポリメラーゼよりも高い効率で所定の非標準ヌクレオチドを組込むことができる。Gardnerら(2004)“Comparative Kinetics of Nucleotide Analog Incorporation by Vent DNA Polymerase”J.Biol.Chem.,279(12),11834−11842;Gardner and Jack “Determinants of nucleotide sugar recognition in an archaeon DNA polymerase”Nucleic Acids Research,27(12)2545−2553参照。この突然変異体における改変残基A488は酵素のヌクレオチド結合部位と反対の方向を向いていると予想される。この位置の特異性低下パターンは置換アミノ酸側鎖の寸法とほぼ相関し、酵素による各種改変ヌクレオチド糖の組込みに影響を与える。
【非特許文献1】Hubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163
【非特許文献2】Steitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398
【非特許文献3】Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4
【非特許文献4】Burgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90
【非特許文献5】Gillerら(2003)“Incorporation of reporter molecule−labeled nucleotides by DNA polymerases.I.Chemical synthesis of various reporter group−labeled 2’−deoxyribonucleoside−5’−triphosphates”Nucleic Acids Res.31(10):2630−2635
【非特許文献6】Augustinら(2001)“Progress towards single−molecule sequencing:enzymatic synthesis of nucleotide−specifically labeled DNA”J.Biotechnol.,86:289−301
【非特許文献7】Tononら(2000)“Spectral karyotyping combined with locus−specific FISH simultaneously defines genes and chromosomes involved in chromosomal translocations”Genes Chromosom.Cancer 27:418−423
【非特許文献8】Zhu and Waggoner(1997)“Molecular mechanism controlling the incorporation of fluorescent nucleotides into DNA by PCR.”Cytometry,28:206−211
【非特許文献9】Yuら(1994)“Cyanine dye dUTP analogs for enzymatic labeling of DNA probes”Nucleic Acids Res.,22:3226−3232
【非特許文献10】Zhuら(1994)“Directly labeled DNA probes using fluorescent nucleotides with different length linkers.”Nucleic Acids Res.22:3418−3422
【非特許文献11】Riedら(1992)“Simultaneous visualization of seven different DNA probes by in situ hybridization using combinatorial fluorescence and digital imaging microscopy”Proc.Natl Acad.Sci.USA,89:1388−1392
【非特許文献12】Gardnerら(2004)“Comparative Kinetics of Nucleotide Analog Incorporation by Vent DNA Polymerase”J.Biol.Chem.,279(12),11834−11842
【非特許文献13】Gardner and Jack “Determinants of nucleotide sugar recognition in an archaeon DNA polymerase”Nucleic Acids Research,27(12)2545−2553
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば核酸標識が所望される各種状況(例えばDNA増幅、シーケンシング、標識、検出、クローニング及び他の多くの状況)では、標識ヌクレオチドアナログに対するDNAポリメラーゼの特異性、プロセッシビティ又は他の特徴を改善できることが非常に望ましい。本発明は標識ヌクレオチドアナログに対する特性を改変した新規DNAポリメラーゼ、前記ポリメラーゼの作製方法、前記ポリメラーゼの使用方法、及び以下の記載を精読することにより明らかになる他の多くの特徴を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はDNA増幅中に成長中の鋳型コピーにリン酸アナログ等のヌクレオチドアナログを組込むポリメラーゼに関する。特定作用理論に結び付けるものではないが、これらのポリメラーゼは場合により活性部位へのアナログの立体導入妨害を軽減するため、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の他の非天然特徴に対する相補性を提供するためにポリメラーゼの活性部位を変異させるように改変されている。このようなポリメラーゼは例えばポリメラーゼによるアナログ残基のDNA組込みを含む増幅又はシーケンシングプロトコールにおけるリアルタイム用途を含むDNA増幅及び/又はシーケンシング用途に特に好適である。組込まれるアナログ残基は例えばアナログのラベル又は他の部分が組込み中にポリメラーゼの作用により除去される場合には天然残基と同一とすることができるが、そうでない場合には、アナログ残基は天然ヌクレオチド残基と異なる1種以上の特徴をもつことができる。
【0010】
従って、本発明は組換えDNAポリメラーゼを含有する組成物に関する。組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域と相同の改変活性部位領域を含む。改変活性部位領域は例えば天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログに対する酵素の所望活性を改善するように野生型活性部位領域に対して1種以上の構造改変を含む。所定側面では、特定作用理論に結び付けるものではないが、このような改変は改変活性部位領域への天然ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか、及び/又は活性部位領域を天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的にする改変を含む。組換えDNAポリメラーゼはヌクレオチドアナログに対する特性が野生型ポリメラーゼに比較して改変されている。
【0011】
場合により改変活性部位領域を含むように各種DNAポリメラーゼを改変する。例えば、組換えDNAポリメラーゼは場合によりΦ29DNAポリメラーゼ又はその突然変異体、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、DNA Pol Iポリメラーゼ、T7ポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ又はDNA Pol Iポリメラーゼのクレノウフラグメントに対応するポリメラーゼに相同である。例えば、組換えDNAポリメラーゼは例えば米国特許第5,001,050号、5,198,543号、又は5,576,204号に記載されているように野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同とすることができる。同様に、組換えDNAポリメラーゼはΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17等に相同とすることができる。命名法については、Meijerら(2001)“Φ29 Family of Phages”Microbiology and Molecular Biology Reviews,65(2):261−287も参照。
【0012】
改変活性部位領域は立体妨害を軽減するため及び/又は領域をヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的にするための各種改変の任意のものを含むことができる。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対する活性部位内又はその近位の構造改変はΔ505−525欠失、Δ505−525内の欠失、K135A突然変異、L384R突然変異と本明細書に記載する別の突然変異の組み合わせ(L384R突然変異が存在する場合には、一般にヌクレオチドアナログの導入の立体妨害を軽減する1種以上の他の突然変異との組み合わせとなる)、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、及びその組み合わせから選択される。ポリメラーゼは表8に示す突然変異から選択される別の突然変異又は突然変異組み合わせも含むことができる。
【0013】
ポリメラーゼは場合により更に内在エキソヌクレアーゼ活性を低下又は排除させるように野生型ポリメラーゼに対して1種以上の突然変異/欠失を含む。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、N62は場合によりエキソヌクレアーゼ活性を低下させるように突然変異又は欠失しており、例えばポリメラーゼはN62D突然変異を含むことができる。エキソヌクレアーゼ活性を低下させる他の代表的突然変異としては、D12A、T15I、E14I、及び/又はD66Aが挙げられ、従って、本発明のポリメラーゼは場合によりこれらの突然変異の1種以上を含む。
【0014】
組換えDNAポリメラーゼは場合により野生型又はヌクレアーゼ欠損ポリメラーゼ等の対応するDNAポリメラーゼに対して外来又は異種の他の特徴を含む。例えば、組換えポリメラーゼは場合により1種以上の外来アフィニティータグ(例えば6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列、SNAPタグ等の精製又は基質結合タグ)を含む。これらは蛋白質内の各種位置の任意のものに挿入することができるが、1個以上の末端(例えば蛋白質のC末端又はN末端)が好ましく、蛋白質の3D構造で活性部位に最も遠位の末端がより好ましい。
【0015】
本発明の代表的ポリメラーゼとしては表3に示すものが挙げられる。
【0016】
組成物は場合によりヌクレオチドアナログを含有する。代表的ヌクレオチドアナログとしてはフルオロフォア及び/又は色素部分を含むものが挙げられる。例えば、ヌクレオチドアナログは標識ヌクレオチド(例えば塩基、糖及び/又はリン酸で標識したヌクレオチド)とすることができる。アナログはモノデオキシ又はジデオキシヌクレオチドアナログとすることができる。
【0017】
ヌクレオチドアナログの代表的な1分類はリン酸標識ヌクレオチドアナログであり、モノデオキシリン酸標識ヌクレオチドアナログ及び/又はジデオキシリン酸標識ヌクレオチドアナログが挙げられる。例えば、ヌクレオチドアナログは3〜6個のリン酸基をもつ標識ヌクレオチドアナログとすることができる(例えばヌクレオチドアナログは三リン酸塩、四リン酸塩、五リン酸塩又は六リン酸塩である)。
【0018】
例えば、組成物は式:
【化1】
の標識化合物を含有することができ、上記式中、Bはヌクレオ塩基であり(なお、Bは場合によりラベルを含む);Sは糖部分、非環状部分又は炭素環部分から選択され(なお、Sは場合によりラベルを含む);Lは非必須の検出可能なラベルであり;R1はO及びSから選択され;R2、R3及びR4は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、C(O)、C(CH2)、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択され、但し、R4は更に、
【化2】
及び
【化3】
から選択してもよく;R5、R6、R7、R8、R11及びR13が存在する場合には、各々独立してO、BH3、及びSから選択され;R9、R10及びR12は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択される。場合により、例えばR2、R3、R4、R9、R10又はR12の1個がO以外のものであり、例えばメチル等である場合には、ホスホン酸アナログをアナログとして利用してもよい。
【0019】
組換えDNAポリメラーゼは野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログに対する特性が改変されている。例えば、改変特性は例えばKm、kcat、Vmax、ヌクレオチドアナログ(又は天然ヌクレオチド)の存在下における組換えポリメラーゼプロセッシビティ、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼによる平均鋳型読み取り長、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼの特異性、ヌクレオチドアナログの結合速度、産物(ピロリン酸塩、三リン酸塩等)放出速度、及び/又は分岐速度とすることができる。望ましい1態様では、改変特性はヌクレオチドアナログに対するKmの低下及び/又はヌクレオチドアナログに対するkcat/Km又はVmax/Kmの増加である。同様に、組換えポリメラーゼは場合により野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。
【0020】
同時に、組換えDNAポリメラーゼは成長中のコピー核酸に天然ヌクレオチド(例えばA、C、G及びT)を組込むことができる。例えば、組換えポリメラーゼは場合により天然ヌクレオチドに対する比活性が対応する野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高く、鋳型の存在下における天然ヌクレオチドによるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高い。場合により、組換えポリメラーゼは天然ヌクレオチドに対するkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば約5%、10%、25%、50%、75%又は100%以上)高い。
【0021】
場合によりヌクレオチドアナログとDNA鋳型を本発明の組成物に加え、例えば組換えポリメラーゼは鋳型DNAに応答してヌクレオチドアナログをコピー核酸に組込む。鋳型DNAは線状又は環状DNAとすることができ、所定シーケンシング用途では、環状鋳型が望ましい。従って、組成物はDNA増幅及び/又はシーケンシングシステムで利用することができる。場合により、1分類の態様では、シーケンシングシステムはゼロモード導波管を含む。
【0022】
前記組成物の作製方法及び使用方法も本発明の特徴である。例えば、1側面では、例えば1個以上のヌクレオチドアナログ残基を含むDNAの作製方法を提供する。これらの方法では、反応混合物を準備する。反応混合物は一般に少なくとも部分的に鋳型を複製することが可能な成分(例えば鋳型、ヌクレオチド、ポリメラーゼ、及びポリメラーゼをプライミングするために鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分)を含有する。この場合の複製開始部分はポリメラーゼを開始するための部位として機能することが可能な任意部分であり、例えば鋳型に相補的な別個のオリゴヌクレオチド、鋳型のヘアピン又は他の自己相補領域(例えば1本鎖鋳型におけるヘアピン)、末端蛋白質等である。ポリメラーゼは(例えば複製開始部分を開始部位として使用する)鋳型依存的ポリメラーゼ伸長反応で鋳型を少なくとも部分的に複製することが可能な組換えポリメラーゼである。一般に、1個以上のヌクレオチドはヌクレオチドアナログからなる。好ましい側面では、少なくとも1個、好ましくは2個以上、3個以上又は少なくとも4個のヌクレオチドはヌクレオチドアナログである。組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位に相同の改変活性部位(改変されると、ポリメラーゼの活性が変化するポリメラーゼの領域)をもつ。組成物に関して上記に記載したように、改変活性部位は1種以上の天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログに対する酵素の活性を改善するように野生型活性部位に対して1種以上の構造改変を含むことができる。少なくとも1例では、特定作用理論に結び付けるものではないが、活性部位の改変は改変活性部位へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか、及び/又は改変はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である。
【0023】
組換えポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む。アナログの組込みにより、伸長したDNAに非標準残基を(例えば標識ヌクレオチド残基として)組込むことができ、あるいはポリメラーゼの作用により、伸長したDNAに組込まれたヌクレオチドアナログ残基が標準ヌクレオチド残基と構造的に同一となるようにアナログを改変することができる。例えば、後者態様では、各種ラベルがポリメラーゼの作用により開裂され、例えば本明細書により詳細に記載する所定のリン酸ラベルが成長中のDNAに組込まれるにつれてヌクレオチドアナログから開裂される(一般にラベルが放出されるとシグナルを発生する)。
【0024】
関連分類の方法では、鋳型、複製開始部分、鋳型依存的組換えポリメラーゼ及び1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する。1個以上のヌクレオチドはリン酸標識ヌクレオチドを含む。ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値はヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい。ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、例えば得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む。上述したように、組込まれると、残基は天然ヌクレオチド残基と同一になる場合もあるし、天然ヌクレオチド残基と異なる場合もある。
【0025】
別の関連分類のDNA作製方法では、鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ伸長反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する。この場合も、1個以上のヌクレオチドは一般にリン酸標識ヌクレオチドアナログを含む。この分類の態様におけるポリメラーゼはΦ29DNAポリメラーゼに相同である。ポリメラーゼはA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するKmがA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼのKmの約75%未満である。例えば、488dC4P、A568dC4Pに対するKmはGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼの約40%以下、例えば約15%以下とすることができる。ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を複製するように混合物を反応させる。
【0026】
上記方法で使用されるポリメラーゼは組成物に関して上記に記載した任意のものとすることができる。上記方法で使用されるポリメラーゼの特性は組成物に関して上記に記載した任意のものとすることができる。例えば、ポリメラーゼは場合によりヌクレオチドアナログに対するkcat/Kmがヌクレオチドアナログに対する野生型Φ29のkcat/Kmよりも高い。同様に、上記方法で使用されるヌクレオチドアナログは本発明の組成物に関して記載する任意のものとすることができる。本発明の組換えポリメラーゼは組換えポリメラーゼに相同な天然ポリメラーゼのKmに比較してヌクレオチドアナログに対するKmを例えば約90%、約80%、約75%、約60%、約50%、約40%、約25%、約15%、約10%、又は約5%未満にすることができる。組換えポリメラーゼは場合により対応する野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。
【0027】
本発明の組成物の使用方法に加え、本発明は組成物の作製方法も含む。例えば、1側面では、組換えDNAポリメラーゼ(例えば本発明の組成物に関して記載する任意のもの)の作製方法を提供する。例えば、前記方法は例えば入手可能な任意結晶構造及び分子モデリングソフトウェア又はシステムを使用して第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階を含むことができる。モデル化に基づき、活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は相補性特徴及び/又は活性部位領域内のヌクレオチドアナログの結合を例えば活性部位又はその近位で同定する。少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる。
【0028】
前記方法は更に得られた組換えポリメラーゼのヌクレオチドアナログに対する活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを判定するためのスクリーニング又は他のプロトコールを含むことができる。例えば、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログと天然ヌクレオチドの両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0029】
組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製し、これらの特性についてスクリーニングすることができる。例えば、1種以上の立体妨害特徴突然変異及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に対する相補性を生じるための突然変異を含むようにライブラリーの複数のメンバーを作製した後、該当特性についてスクリーニングする。一般に、該当改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0030】
別の側面では、本発明は例えば酵素反応速度のモデル化のためのコンピューター実施方法を含む。本方法は例えば鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する段階と;状態間の複数の速度遷移速度を定義する段階と;所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて、可能な状態の多次元確率行列を作成する段階と;コンピューター読み取り可能な媒体に多次元確率行列を保存する段階を含む。
【0031】
上記方法の各種特徴は多様である。例えば、ポリメラーゼ状態遷移は場合によりユーザー選択可能である。状態間の速度遷移速度は場合によりヌクレオチド濃度、鋳型配列及び鋳型に沿うポリメラーゼの位置により異なる。反応混合物中のヌクレオチドは場合により1個以上のヌクレオチドアナログを含む。状態間の速度遷移速度は場合によりポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの使用中のポリメラーゼの配座遷移速度を含み、前記速度は天然ヌクレオチドの配座遷移速度に等しくなるように設定される。多次元確率行列は場合により鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される。場合により可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する。
【0032】
同様に、確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために場合により第2の試薬濃度行列を作成する。場合により複数鋳型について確率行列をベクトル化し、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じると、状態分布行列が得られる。鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を使用することができる。連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義することができる。
【0033】
図1はタグ付きN62DΦ29DNAポリメラーゼの発現用ベクターを模式的に示す。
【0034】
図2Aは残基505−525の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号35、B103配列番号36、PZA配列番号37、M2配列番号38、G1配列番号39、cp−1配列番号40)の配列アラインメントを示す。図2Bは残基505−525をもつもの(上段)ともたないもの(下段)のΦ29の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0035】
図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号41、B103配列番号42、PZA配列番号43、M2配列番号44、G1配列番号45、cp−1配列番号46)の配列アラインメントを示す。図3BはΦ29(上段)とE375H突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0036】
図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号47、B103配列番号48、PZA配列番号49、M2配列番号50、G1配列番号51、cp−1配列番号52)の配列アラインメントを示す。図4BはΦ29(上段)とE486A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0037】
図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号53、B103配列番号54、PZA配列番号55、M2配列番号56、G1配列番号57、cp−1配列番号58)の配列アラインメントを示す。図5BはΦ29(上段)とK512A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0038】
図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号59、B103配列番号60、PZA配列番号61、M2配列番号62、G1配列番号63、cp−1配列番号64)の配列アラインメントを示す。図6BはΦ29(上段)とK135A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【0039】
図7Aは結合速度と産物放出速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。図7B〜DはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【0040】
図8Aは分岐速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。図8B〜DはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【0041】
図9は濃度低下に対する反応速度行列ジャンプサイズのプロットを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
概説
各種技術は実験結果を観測するためにラベルの核酸組込みに依存している。例えば、シーケンシング、核酸増幅及びニック翻訳反応の結果はいずれも一般に産物核酸を標識することによりモニターされる。これは例えば標識プローブを産物核酸と結合することにより、ラベルを産物核酸と共有又は非共有的に結合させることにより実施することが多い。他のアプローチでは、産物核酸の合成中にヌクレオチドアナログを産物核酸に組込む。これは一般に例えば組込み法や、所定のリアルタイムPCR(RT−PCR)及びリアルタイムLCR反応(RT−LCR)によりシーケンシングで実施される。アナログに付加したラベルはDNAに組込んでもよいし、ポリメラーゼの作用により放出してもよい。アナログ残基の産物核酸組込みをモニターするようにラベルの組込み又は放出をモニターすることができる。
【0043】
本発明は色素標識リン酸標識アナログ等のヌクレオチドアナログをDNA増幅中に成長中の鋳型コピーに組込む新規ポリメラーゼを提供する。これらのポリメラーゼは活性部位へのアナログの立体導入妨害を軽減する(活性部位へのヌクレオチドアナログの導入を助長)するため、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の特徴との相補性を提供するためにポリメラーゼの活性部位を変異させるように改変されている。
【0044】
これらの新規ポリメラーゼは例えばDNAアンプリコンへの標識アナログの組込みを含む増幅又はシーケンシングプロトコールにおけるDNA増幅(例えばRT−PCR及びRT−LCR)及び/又はシーケンシング用途に特に好適である。
【0045】
DNAポリメラーゼ
活性部位への立体導入妨害の軽減又はアナログに相補的な特徴の付加によりヌクレオチドアナログと相互作用するように改変可能なDNAポリメラーゼは一般に入手可能である。DNAポリメラーゼは比較的最近になって各種系統発生関係に基づいて6つの主要なグループに分類されており、例えば大腸菌Pol I(クラスA)、大腸菌Pol II(クラスB)、大腸菌Pol III(クラスC)、ユリアーキオータPol II(クラスD)、ヒトPolβ(クラスX)、並びに大腸菌UmuC/DinB及び真核RAD30/色素性乾皮症変異体(クラスY)に分類される。最近の命名法の概要については、例えばBurgersら(2001)“Eukaryotic DNA polymerases:proposal for a revised nomenclature”J Biol Chem.276(47):43487−90参照。ポリメラーゼの概要については、例えばHubscherら(2002)EUKARYOTIC DNA POLYMERASES Annual Review of Biochemistry Vol.71:133−163;Alba(2001)“Protein Family Review:Replicative DNA Polymerases”Genome Biology 2(1):reviews 3002.1−3002.4;及びSteitz(1999)“DNA polymerases:structural diversity and common mechanisms”J Biol Chem 274:17395−17398参照。多数のポリメラーゼの基本作用メカニズムが決定されている。文字通り数百種のポリメラーゼの配列が公共入手可能であり、これらの多くのものの結晶構造が決定されており、あるいは相同ポリメラーゼについて解明された結晶構造との類似性に基づいて推測することができる。例えば、Φ29の結晶構造が入手可能である。
【0046】
入手可能なDNAポリメラーゼ酵素は更に、例えばエキソヌクレアーゼ活性を軽減又は排除するため(多くの天然DNAポリメラーゼは例えばシーケンシング用途を妨げるプルーフリーディングエキソヌクレアーゼ機能をもつ)や、クレノウフラグメント組換え体等のプロテアーゼ酵素消化フラグメントを作製することにより生産を単純化するために各種方法で改変されている。活性部位へのアナログ導入の立体妨害を軽減するため、又はアナログに相補的な特徴を提供するために、このような入手可能なポリメラーゼの任意のものを本発明により改変することができる。改変に適した多くのこのようなポリメラーゼは例えばシーケンシング、標識及び増幅技術で使用するのに利用可能である。例えば、ヒトDNAポリメラーゼβはR&D systemsから入手可能である。DNAポリメラーゼIはEpicenter、GE Health Care、Invitrogen、New England Biolabs、Promega、Roche Applied Science、Sigma Aldrich及び他の多数の業者から入手可能である。DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントは例えばAmbion、Chimerx、eEnzyme LLC、GE Health Care、Invitrogen、New England Biolabs、Promega、Roche Applied Science、Sigma Aldrich及び他の多数の業者から組換え体及びプロテアーゼ消化物として入手可能である。Φ29DNAポリメラーゼは例えばEpicenterから入手可能である。Poly Aポリメラーゼ、逆転写酵素、Sequenase、SP6 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、及び各種熱安定性DNAポリメラーゼ(Taq、hot start、titanium Taq等)は上記及び他の各種業者から入手可能である。最近の市販DNAポリメラーゼとしてはPhusion(登録商標)High−Fidelity DNA PolymeraseがNew England Biolabsから市販されており;GoTaq(登録商標)Flexi DNA PolymeraseがPromegaから市販されており;RepliPHI(登録商標)Φ29DNA PolymeraseがEPICENTREから市販されており;PfuUltra(登録商標)Hotstart DNA PolymeraseがStratageneから市販されており;KOD HiFi DNA PolymeraseがNovagen及び他の多数の業者から市販されている。Biocompare(dot)comは多種多様な市販ポリメラーゼの比較を掲載している。
【0047】
立体妨害を軽減するため又はヌクレオチドアナログに相補的な特徴を付加するための突然変異に好ましい基質であるDNAポリメラーゼとしては、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼ1、クレノウフラグメント、逆転写酵素、Φ29関連ポリメラーゼ(エキソヌクレアーゼ欠損型誘導体等のこのようなポリメラーゼの野生型Φ29ポリメラーゼ誘導体を含む)、T7 DNAポリメラーゼ、T5 DNAポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ等が挙げられる。例えば、組換えDNAポリメラーゼは例えば米国特許第5,001,050号、5,198,543号、又は5,576,204号に記載されているように、野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同とすることができる。同様に、組換えDNAポリメラーゼはΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17等に相同とすることができる。
【0048】
ヌクレオチドアナログ
上記のように、本発明の各種ポリメラーゼは成長中のオリゴヌクレオチド鎖に1個以上のヌクレオチドアナログを組込むことができる。組込み後、アナログは成長中のオリゴヌクレオチドに含まれる天然ヌクレオチドと同一又は異なる残基を放出することができる(ポリメラーゼはアナログの任意非標準部分を組込むことができ、又はオリゴヌクレオチドへの組込み中にこれを開裂することができる)。本明細書において「ヌクレオチドアナログ」とは、特定用途で天然ヌクレオシド三リン酸(「ヌクレオチド」)と類似又は同様の方法で機能する化合物であり、それ以外には特定構造を意味しない。ヌクレオチドアナログは標準天然ヌクレオチド以外、即ちA、G、C、T、又はU以外のアナログであるが、オリゴヌクレオチドに組込まれると、オリゴヌクレオチド中に得られる残基はA、G、C、T又はU残基と同一になる(又は異なる)場合がある。
【0049】
多数のヌクレオチドアナログが入手可能である。これらのアナログとしては天然ヌクレオチドに基本的類似性をもつアナログ構造が挙げられ、例えば天然ヌクレオシド又はヌクレオチドに対してヌクレオシド又はヌクレオチドのリン酸、糖又は塩基部分に1個以上の置換基を含むものが挙げられる。1態様では、ヌクレオチドアナログはヌクレオシド三リン酸に対して1個以上の付加リン酸を含むことができる。例えば、言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許出願第11/241,809号(出願日2005年9月29日)には、例えば4〜6個のリン酸を含む各種ヌクレオチドアナログが記載されている。
【0050】
例えば、アナログは式:
【化4】
の標識化合物を含むことができ、上記式中、Bはヌクレオ塩基であり(場合によりラベルを含む);Sは糖部分、非環状部分又は炭素環部分から選択され(場合によりラベルを含む);Lは非必須の検出可能なラベルであり;R1はO及びSから選択され;R2、R3及びR4は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、C(O)、C(CH2)、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択され、但し、R4は更に、
【化5】
及び
【化6】
から選択してもよく;R5、R6、R7、R8、R11及びR13が存在する場合には、各々独立してO、BH3、及びSから選択され;R9、R10及びR12は独立してO、NH、S、メチレン、置換メチレン、CNH2、CH2CH2、C(OH)CH2R(式中、Rは4−ピリジン又は1−イミダゾールである)から選択される。場合により、例えばR2、R3、R4、R9、R10又はR12の1個がO以外のものであり、例えばメチル等である場合には、ホスホン酸アナログをアナログとして利用してもよい。例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む上記米国特許出願第11/241,809号参照。
【0051】
アナログに組込まれる塩基部分は一般に天然又は非天然ヌクレオ塩基又はヌクレオ塩基アナログの任意のものから選択され、例えば核酸及び入手可能な核酸アナログに通常存在するプリン又はピリミジン塩基が挙げられ、例えばアデニン、チミン、グアニン、シチジン、ウラシル、及び場合によりイノシンが挙げられる。上記のように、塩基は場合によりラベル部分を含む。便宜上、ヌクレオチド及びヌクレオチドアナログは一般に天然ヌクレオチドとのそれらの相対的類似に基づいて呼称する。従って、アデノシン三リン酸と機能的に同様に作用するアナログを本明細書では一般に略称Aで呼称する場合がある。同様に、一般にT、G、C、U及びIの標準略称で呼称される天然ヌクレオシド及びヌクレオチドのアナログの呼称に同様の略称を使用する場合がある。場合により、塩基はより普遍的な方法で機能する場合があり、例えば任意ピリミジン塩基とハイブリダイズできるという点で任意プリン塩基と同様に機能し、あるいは任意プリン塩基とハイブリダイズできるという点で任意ピリミジン塩基と同様に機能する。本発明で使用される塩基部分としては本明細書に記載する通常の塩基が挙げられ、あるいは1個以上の側基を置換されたこのような塩基、又は付加環構造によりB基をプリンでもピリミジンでもないものにする他の蛍光塩基もしくは塩基アナログ(例えば1,N6エテノアデノシン又はピロロC)が挙げられる。例えば、場合により、塩基部分の1個以上の側基を標識基又は標識基の成分(例えばドナー又はアクセプターフルオロフォアの一方)、又は他の標識基で置換することが望ましい場合がある。標識ヌクレオ塩基とこのような塩基の標識方法の例は例えば各々言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許第5,328,824号及び5,476,928号に記載されている。
【0052】
アナログにおいて、S基は場合により合成核酸鎖に適切な主鎖を提供する糖部分である。例えば、糖部分は場合によりD−リボシル、2’もしくは3’−D−デオキシリボシル、2’,3’−D−ジデオキシリボシル、2’,3’−D−ジデヒドロジデオキシリボシル、2’もしくは3’アルコキシリボシル、2’もしくは3’アミノリボシル、2’もしくは3’メルカプトリボシル、2’もしくは3’アルコチオリボシル、非環状、炭素環又は他の修飾糖部分から選択される。例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む上記公開米国特許出願第2003/0124576号に記載のもの等の各種炭素環又は非環状部分を糖部分の代わりに「S」基として組込むことができる。
【0053】
殆どの場合に、アナログのリン含有鎖(例えば通常のNTPにおける三リン酸塩)は天然ヌクレオシド三リン酸と同様に5’ヒドロキシ基と結合することが好ましい。しかし、場合によっては、3’ヒドロキシ基によりリン含有鎖をS基と結合する。
【0054】
Lは一般にR4(又はR10又はR12)基を介して末端リン原子と結合される検出可能な標識基を意味する。本発明のアナログで利用される標識基は各種検出可能なラベルの任意のものを含むことができる。検出可能なラベルとは一般にこのような標識基をもたない同一化合物とは別個のアナログ化合物の検出の基礎となる化学部分を意味する。ラベルの例としては、例えば光学ラベル(例えばアナログに検出可能な光学的性質を付与するラベル)、電気化学的ラベル(例えばアナログに検出可能な電気的又は電気化学的性質を付与するラベル)、物理的ラベル(例えばアナログに別の物理的又は空間的性質を付与するラベル、例えば質量タグ又は分子容量タグ)が挙げられる。場合により、本発明のアナログに上記性質の2種以上を付与する個々のラベル又は組み合わせを使用してもよい。
【0055】
場合により、アナログに組込まれる標識基は光学的に検出可能な部分(例えば発光、化学発光、蛍光、蛍光発生、発色及び/又は呈色部分)を含み、蛍光及び/又は蛍光発生ラベルが好ましい。多種多様なラベル部分がヌクレオチドアナログで容易に利用される。このような基としてはフルオレセインラベル、ローダミンラベル、シアニンラベル(即ちGE HealthcareのAmersham Biosciences部門から一般に入手可能なCy3、Cy5等)、Alexaファミリーの蛍光色素、並びにMolecular Probes/In vitrogen,Inc.から入手可能であり、‘The Handbook−A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies,Tenth Edition’(2005)(Invitrogen,Inc./Molecular Probesから入手可能)に記載されている他の蛍光色素及び蛍光発生色素が挙げられる。本発明のポリメラーゼにより組込まれるヌクレオチドアナログにも適用可能と思われるヌクレオシドポリリン酸用の他の各種蛍光及び蛍光発生ラベルは例えば言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む公開米国特許出願第2003/0124576号に記載されている。
【0056】
アナログとこのようなアナログの作製方法に関するその他の詳細は言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む米国特許出願第11/241,809号(出願日2005年9月29日)に記載されている。
【0057】
従って、1具体例では、アナログは例えばAlexa色素ラベルを含むリン酸アナログ(例えばリン酸塩がヌクレオシド三リン酸に存在する典型数よりも多いアナログ)とすることができる。例えば、Alexa488色素をδ−リン酸に標識することができ(例えばA488dC4Pと言う)、あるいはAlexa568又はAlexa633色素を使用することができ(例えば夫々A568dC4P及びA633dC4P)、あるいはAlexa546色素を使用することができ(例えばA546dG4P)、あるいはAlexa594色素を使用することができる(例えばA594dT4P)。同様に、色分離を容易にするために、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を示す1対のフルオロフォアを四リン酸アナログのδ−リン酸に標識することができる(例えばFAM−amb−A532dG4P又はFAM−amb−A594dT4Pと言う)。
立体障害特徴を軽減するため及び/又は相補性特徴を付加するためのDNAポリメラーゼの改変
【0058】
組換えポリメラーゼの構造に基づく設計
改変活性部位領域をもつ組換えポリメラーゼを作製するための突然変異誘発候補としてアミノ酸残基を簡便に同定するためにはポリメラーゼの構造データを使用することができる。例えば、ポリメラーゼの三次元構造分析により、天然ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログ又はそのアナログによる活性部位への接近を立体的に妨害する残基あるいは例えば電荷、疎水性、サイズ等の付加又は改変により、アナログの非天然特徴に相補的な特徴を導入するように突然変異させることが可能な残基を同定することができる。
【0059】
鋳型、ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを結合したポリメラーゼの構造を含めて多数のDNAポリメラーゼの三次元構造がX線結晶構造解析及び核磁気共鳴(NMR)分光法により決定されている。多数のこのようなこのような構造はProtein Data Bank(www(dot)rcsb(dot)org/pdb)からダウンロード用に自由に入手可能である。構造と共にドメイン及びホモロジー情報もNational Center for Biotechnology Information’s Molecular Modeling DataBase(www(dot)ncbi(dot)nlm(dot)nih(dot)gov/Structure/MMDB/mmdb(dot)shtml)から検索及びダウンロード用に自由に入手可能である。例えば、構造が既に決定されているポリメラーゼとポリメラーゼの相同性に基づいて他のポリメラーゼの構造をモデル化することができる。あるいは、場合によりヌクレオチドアナログ等と複合体化した所与ポリメラーゼの構造を決定することができる。
【0060】
結晶構造決定技術は周知である。例えば、McPherson(1999)Crystallization of Biological Macromolecules Cold Spring Harbor Laboratory;Bergfors(1999)Protein Crystallization International University Line;Mullin(1993)Crystallization Butterwoth−Heinemann;Stout and Jensen(1989)X−ray structure determination:a practical guide,2nd Edition Wiley Publishers,New York;Ladd and Palmer(1993)Structure determination by X−ray crystallography,3rd Edition Plenum Press,New York;Blundell and Johnson(1976)Protein Crystallography Academic Press,New York;Glusker and Trueblood(1985)Crystal structure analysis:A primer,2nd Ed.Oxford University Press,NewYork;International Tables for Crystallography,Vol.F.Crystallography of Biological Macromolecules;McPherson(2002)Introduction to Macromolecular Crystallography Wiley−Liss;McRee and David(1999)Practical Protein Crystallography,Second Edition Academic Press;Drenth(1999)Principles of Protein X−Ray Crystallography(Springer Advanced Texts in Chemistry)Springer−Verlag;Fanchon and Hendrickson(1991)Crystallographic Computing,Volume 5 IUCr/Oxford University Pressの第15章;Murthy(1996)Crystallographic Methods and Protocols Humana Pressの第5章;Dauterら(2000)“Novel approach to phasing proteins:derivatization by short cryo−soaking with halides”Acta Cryst.D56:232−237;Dauter(2002)“New approaches to high−throughput phasing”Curr.Opin.Structural Biol.12:674−678;Chenら(1991)“Crystal structure of a bovine neurophysin−II dipeptide complex at 2.8 Å determined from the single−wavelength anomalous scattering signal of an incorporated iodine atom”Proc.Natl Acad.Sci.USA,88:4240−4244;及びGaviraら(2002)“Ab initio crystallographic structure determination of insulin from protein to electron density without crystal handling”Acta Cryst.D58:l 147−1154参照。
【0061】
更に、データ収集、フェーズ決定、モデル構築及び精巧化等を容易にするための各種プログラムも公共入手可能である。例としては限定されないが、HKL2000パッケージ(Otwinowski and Minor(1997)“Processing of X−ray Diffraction Data Collected in Oscillation Mode”Methods in Enzymology 276:307−326)、CCP4パッケージ(Collaborative Computational Project(1994)“The CCP4 suite:programs for protein crystallography”Acta Crystallogr D 50:760−763)、SOLVE and RESOLVE(Terwilliger and Berendzen(1999)Acta Crystallogr D 55(Pt4):849−861)、SHELXS and SHELXD(Schneider and Sheldrick(2002)“Substructure solution with SHELXD”Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 58:1772−1779)、Refmac5(Murshudovら(1997)“Refinement of Macromolecular Structures by the Maximum−Likelihood Method”Acta Crystallogr D 53:240−255)、PRODRG(van Aaltenら(1996)“PRODRG,a program for generating molecular topologies and unique molecular descriptors from coordinates of small molecules”J Comput Aided Mol Des 10:255−262)、及びO(Jonesら(1991)“Improved methods for building protein models in electron density maps and the location of errors in these models”Acta Crystallogr A 47(Pt2):110−119)が挙げられる。
【0062】
NMR分光法による構造決定技術も文献に詳細に記載されている。例えばCavanaghら(1995)Protein NMR Spectroscopy:Principles and Practice,Academic Press;Levitt(2001)Spin Dynamics:Basics of Nuclear Magnetic Resonance,John Wiley & Sons;Evans(1995)Biomolecular NMR Spectroscopy,Oxford University Press;Wuthrich(1986)NMR of Proteins and Nucleic Acids(Baker Lecture Series),Kurt Wiley−Interscience;Neuhaus and Williamson(2000)The Nuclear Overhauser Effect in Structural and Conformational Analysis,2nd Edition,Wiley−VCH;Macomber(1998)A Complete Introduction to Modern NMR Spectroscopy,Wiley−Interscience;Downing(2004)Protein NMR Techniques(Methods in Molecular Biology),2nd edition,Humana Press;Clore and Gronenborn(1994)NMR of Proteins(Topics in Molecular and Structural Biology),CRC Press;Reid(1997)Protein NMR Techniques.Humana Press;Krishna and Berliner(2003)Protein NMR for the Millenium(Biological Magnetic Resonance),Kluwer Academic Publishers;Kiihne and De Groot(2001)Perspectives on Solid State NMR in Biology(Focus on Structural Biology,1),Kluwer Academic Publishers;Jonesら(1993)Spectroscopic Methods and Analyses:NMR,Mass Spectrometry,and Related Techniques(Methods in Molecular Biology,Vol.17),Humana Press;Goto and Kay(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:585;Gardner(1998)Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.27:357;Wuthrich(2003)Angew.Chem.Int.Ed.42:3340;Bax(1994)Curr.Opin.Struct.Biol.4:738;Pervushinら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94:12366;Fiauxら(2002)Nature 418:207;Fernandez and Wider(2003)Curr.Opin.Struct.Biol.13:570;Ellmanら(1992)J.Am.Chem.Soc.114:7959;Wider(2000)BioTechniques 29:1278−1294;Pellecchiaら(2002)Nature Rev.Drug Discov.(2002)1:211−219;Arora and Tamm(2001)Curr.Opin.Struct.Biol.11:540−547;Flauxら(2002)Nature 418:207−211;Pellecchiaら(2001)J.Am−Chem.Soc.123:4633−4634;及びPervushinら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:12366−12371参照。
【0063】
所与ヌクレオチドアナログを活性部位に組込んだポリメラーゼの構造は上記のように例えばX線結晶構造解析又はNMR分光法により直接決定することもできるし、ポリメラーゼの構造及び/又は天然ヌクレオチドを結合したポリメラーゼの構造に基づいて構造をモデル化することもできる。ポリメラーゼの活性部位領域は例えば他のポリメラーゼとの相同性、ポリメラーゼ−鋳型もしくはポリメラーゼ−ヌクレオチド共複合体の試験、突然変異体ポリメラーゼの生化学的分析、及び/又は同等方法により同定することができる。活性部位におけるヌクレオチドアナログの位置は例えば、活性部位における別のヌクレオチド又はヌクレオチドアナログの既に決定された位置に基づいてアナログの非天然特徴(例えばヌクレオチドに結合したリン含有鎖における付加リン酸基又はホスホン酸基、例えば四、五又は六リン酸基、検出可能な標識基、例えば蛍光色素等)の位置を推定することによりモデル化することができる。
【0064】
活性部位におけるヌクレオチドアナログのこのようなモデル化は例えば、PyMOLビューアー(ワールドワイドウェブwww(dot)pymol(dot)orgで自由に入手可能なオープンソース)又はInsight II(Accelrysから(www(dot)accelrys(dot)com/products/insight)で市販)を使用してポリメラーゼのモデルの単なる目視検査により実施することができる。あるいは、ポリメラーゼ又は推定突然変異体ポリメラーゼの活性部位におけるヌクレオチドアナログのモデル化は例えば、コンピューター支援ドッキング法、分子力学法、自由エネルギー最小化法、及び/又は同等計算法により実施することができる。このようなモデル化技術は文献に詳細に記載されている。例えばBabine and Abdel−Meguid(編)(2004)Protein Crystallography in Drug Design,Wiley−VCH,Weinheim;Lyne(2002)“Structure−based virtual screening:An overview” Drug Discov.Today 7:1047−1055;Molecular Modeling for Beginners,at(www(dot)usm(dot)maine(dot)edu/〜rhodes/SPVTut/index(dot)html);及びMethods for Protein Simulations and Drug Design at(www(dot)dddc(dot)ac(dot)cn/embo04);並びにその引用文献参照。このようなモデル化を容易にするためのソフトウェアは広く入手可能であり、例えば、ハーバード大学から学術資料として入手可能であるか又はAccelrys(www(dot)accelrys(dot)com)から市販されているCHARMmシミュレーションパッケージ、Discoverシミュレーションパッケージ(Insight II,前出に同梱)、及びDynama(www(dot)cs(dot)gsu(dot)edu/〜cscrwh/progs/progs(dot)htmlで入手可能)が挙げられる。www(dot)netsci(dot)org/Resources/Software/Modeling/MMMD/top(dot)htmlに掲載されているモデル化ソフトウェアの大規模なリストも参照。
【0065】
ポリメラーゼモデルの目視検査及び/又はコンピューター分析により、例えば、活性部位へのヌクレオチドアナログの導入を立体的に妨害し得る残基(例えばアナログをポリメラーゼと結合したときに、アナログ内の1個以上の原子の推定位置に不適切に近接する残基)等の活性部位領域の該当特徴を同定することができる。このような残基は例えば、欠失させるか又はより小さい側鎖をもつ残基で置換することができ、例えば、多くの残基はアミノ酸側鎖が短い以外は類似特徴をもつ残基(例えばアラニン)で簡便に置換することができる。同様に、ヌクレオチドアナログとの望ましい相互作用を導入するために改変可能な残基も同定することができる。このような残基はアナログの非天然特徴に相補的な残基で置換することができ、例えば、アナログと水素結合することが可能な残基(例えばセリン、スレオニン、ヒスチジン、アスパラギン、又はグルタミン)、アナログ上の疎水性基と相互作用することが可能な疎水性残基、アナログ上の基(例えばフルオロフォア)と好ましい疎水性相互作用を生じることが可能な芳香族残基、アナログの芳香族基とのπ−πもしくはedge−faceスタッキング相互作用に関与することが可能な芳香族残基、アナログとのカチオン−π相互作用に関与することが可能な残基、又はアナログ上の逆電荷部分(例えば付加リン酸基)と静電的に相互作用することが可能な荷電残基(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、又はヒスチジン)で置換することができる。
【0066】
このような構造に基づく設計のほんの1特定例として、Φ29ポリメラーゼのモデルの検査の結果、Δ505−525ドメインと残基K135、E486、及びK512が活性部位へのアナログの導入を潜在的に立体的に妨害するとして同定され、E375をヒスチジン、リジン、又はアルギニンに突然変異させたならば、アナログ上の非天然四リン酸に相補的な正電荷が導入されると予想された。同様に、モデルの検査の結果、E375をトリプトファン、チロシン、又はフェニルアラニン等の芳香族残基に突然変異させたならば、アナログ上のフルオロフォアとの疎水性相互作用が改善することも予想された。その他の詳細については下記実施例2及び3参照。
【0067】
従って、本発明のポリメラーゼ及び他の組成物の使用方法に加え、本発明はポリメラーゼの作製方法も含む。上記のように、組換えDNAポリメラーゼの作製方法は、例えば入手可能な任意結晶構造及び分子モデリングソフトウェア又はシステムを使用して第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階を含むことができる。モデル化に基づき、活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は相補性特徴及び/又は活性部位領域内のヌクレオチドアナログの結合を例えば活性部位又はその近位で同定する。少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる。
【0068】
活性部位領域の突然変異
例えば上記のようなポリメラーゼモデル及びモデル予想に従って、例えば相補性特徴を含む変異体を作製するように又は立体障害特徴を軽減するようにポリメラーゼを改変するために、本発明では場合により各種突然変異誘発法を使用する。一般に、このような突然変異体を作製するためには入手可能な任意突然変異誘発法を使用することができる。このような突然変異誘発法は場合により1種以上の該当活性(例えばヌクレオチドアナログに対するKm、Vmax、kcat等)について突然変異体核酸及びポリペプチドを選択する段階を含む。使用可能な方法としては限定されないが、部位特異的点突然変異誘発法、ランダム点突然変異誘発法、in vitro又はin vivo相同組換え法(DNAシャフリング)、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発法、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発法、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発法、ギャップ入り2本鎖DNAを使用する突然変異誘発法、点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発法、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発法、全遺伝子合成による突然変異誘発法、縮重PCR法、2本鎖切断修復、及び当業者に公知の他の多くの方法が挙げられる。
【0069】
場合により、天然ポリメラーゼ分子からの既知情報、又は(例えばエキソヌクレアーゼ活性の低下を示す既存突然変異体ポリメラーゼを使用する)既知改変もしくは突然変異ポリメラーゼの情報、例えば上記のような配列、配列比較、物理的性質、結晶構造及び/又は同等事項により突然変異誘発法を誘導することができる。他方、別の分類の態様では、改変は(例えば古典的DNAシャフリングの場合のように)本質的にランダムとすることができる。
【0070】
突然変異フォーマットに関するその他の情報はSambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2000(「Sambrook」);Current Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(2006年補遺)(「Ausubel」))及びPCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(Innis)に記載されている。突然変異フォーマットに関するその他の詳細は以下の刊行物とその引用文献に記載されている。Arnold,Protein engineering for unusual environments,Current Opinion in Biotechnology 4:450−455(1993);Bassら,Mutant Trp repressors with new DNA−binding specificities,Science 242:240−245(1988);Botstein & Shortle,Strategies and applications of in vitro mutagenesis,Science 229:1193−1201(1985);Carterら,Improved oligonucleotide site−directed mutagenesis using M13 vectors,Nucl.Acids Res.13:4431−4443(1985);Carter,Site−directed mutagenesis,Biochem.J.237:1−7(1986);Carter,Improved oligonucleotide−directed mutagenesis using M13 vectors,Methods in Enzymol.154:382−403(1987);Daleら,Oligonucleotide−directed random mutagenesis using the phosphorothioate method,Methods Mol.Biol.57:369−374(1996);Eghtedarzadeh & Henikoff,Use of oligonucleotides to generate large deletions,Nucl.Acids Res.14:5115(1986);Fritzら,Oligonucleotide−directed construction of mutations:a gapped duplex DNA procedure without enzymatic reactions in vitro,Nucl.Acids Res.16:6987−6999(1988);Grundstromら,Oligonucleotide−directed mutagenesis by microscale ‘shot−gun’ gene synthesis,Nucl.Acids Res.13:3305−3316(1985);Kunkel,The efficiency of oligonucleotide directed mutagenesis,in Nucleic Acids & Molecular Biology(Eckstein,F.and Lilley,D.M.J,編,Springer Verlag,Berlin)(1987);Kunkel,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492(1985);Kunkelら,Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection,Methods in Enzymol.154,367−382(1987);Kramerら,The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed mutation construction,Nucl.Acids Res.12:9441−9456(1984);Kramer & Fritz Oligonucleotide−directed construction of mutations via gapped duplex DNA,Methods in Enzymol.154:350−367(1987);Kramerら,Point Mismatch Repair,Cell 38:879−887(1984);Kramerら,Improved enzymatic in vitro reactions in the gapped duplex DNA approach to oligonucleotide−directed construction of mutations,Nucl.Acids Res.16:7207(1988);Lingら,Approaches to DNA mutagenesis:an overview,Anal Biochem.254(2):157−178(1997);Lorimer and Pastan Nucleic Acids Res.23,3067−8(1995);Mandecki,Oligonucleotide−directed double−strand break repair in plasmids of Escherichia coli:a method for site−specific mutagenesis,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:7177−7181(1986);Nakamaye & Eckstein,Inhibition of restriction endonuclease Nci I cleavage by phosphorothioate groups and its application to oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.14:9679−9698(1986);Nambiarら,Total synthesis and cloning of a gene coding for the ribonuclease S protein.Science 223:1299−1301(1984);Sakamar and Khorana,Total synthesis and expression of a gene for the a−subunit of bovine rod outer segment guanine nucleotide−binding protein(transducin),Nucl.Acids Res.14:6361−6372(1988);Sayersら,Y−T Exonucleases in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis,Nucl.Acids Res.16:791−802(1988);Sayersら,Strand specific cleavage of phosphorothioate−containing DNA by reaction with restriction endonucleases in the presence of ethidium bromide,(1988)Nucl.Acids Res.16:803−814;Sieberら,Nature Biotechnology,19:456−460(2001);Smith,In vitro mutagenesis,Ann.Rev.Genet.19:423−462(1985);Methods in Enzymol.100:468−500(1983);Methods in Enzymol.154:329−350(1987);Stemmer,Nature 370,389−91(1994);Taylorら,The use of phosphorothioate−modified DNA in restriction enzyme reactions to prepare nicked DNA,Nucl.Acids Res.13:8749−8764(1985);Taylorら,The rapid generation of oligonucleotide−directed mutations at high frequency using phosphorothioate−modified DNA,Nucl.Acids Res.13:8765−8787(1985);Wellsら,Importance of hydrogen−bond formation in stabilizing the transition state of subtilisin,Phil.Trans.R.Soc.Lond.A 317:415−423(1986);Wellsら,Cassette mutagenesis:an efficient method for generation of multiple mutations at defined sites,Gene 34:315−323(1985);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis using M13−derived vectors:an efficient and general procedure for the production of point mutations in any DNA fragment,Nucleic Acids Res.10:6487−6500(1982);Zoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors,Methods in Enzymol.100:468−500(1983);及びZoller & Smith,Oligonucleotide−directed mutagenesis:a simple method using two oligonucleotide primers and a single−stranded DNA template,Methods in Enzymol.154:329−350(1987)。上記方法の多くに関するその他の詳細はMethods in Enzymology Volume 154に記載されており、同書は各種突然変異誘発法に伴う問題のトラブルシューティングに有用な対策についても記載している。
【0071】
反応速度パラメーターの決定
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼの活性が第1のDNAポリメラーゼ(例えば組換えポリメラーゼの誘導元である対応する野生型ポリメラーゼ)に比較して改変されているか否かを判定するために本発明のポリメラーゼをスクリーニング又は他の方法で試験することができる。例えば、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、kcat/Km、Vmax/Km、kpol、及び/又はKdを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、Vmax/Km、kcat/Km、kpol、及び/又はKdも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログ及び天然ヌクレオチド両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0072】
当分野で周知の通り、単純なミカエリス・メンテン式に従う酵素では、反応速度パラメーターは各種基質濃度で測定した触媒速度から容易に誘導される。ミカエリス・メンテン式V=Vmax[S]([S]+Km)−1は未結合基質濃度([S],総基質濃度により近似)、最大速度(Vmax,酵素が基質で飽和されるときに達せられる)、及びミカエリス定数(Km,反応速度がその最大値の2分の1である基質濃度に等しい)と反応速度(V)の関係を表す。
【0073】
多くの酵素では、Kmは酵素−基質複合体の解離定数に等しいため、酵素−基質複合体の強度の尺度である。このような酵素では、Kmを比較すると、Kmが小さいほど複合体の結合は強く、Kmが大きいほど複合体の結合は弱い。kcat/Km比(特異性定数と言う場合もある)は基質と遊離酵素の結合の見かけの速度定数である。特異性定数が大きいほど、酵素が基質と結合して産物に変換する効率は高い。
【0074】
Vmax=kcat[ET]であるので、総酵素濃度([ET],即ち活性部位の濃度)が分かっているならば、kcat(酵素の回転数とも言う)を決定することができる。総酵素濃度を測定することが困難な状況では、効率の尺度としてVmax/Km比を代用することが多い。KmとVmaxは例えば、1/[S]に対する1/Vのラインウィーバー・バークプロット(ここで、y切片は1/Vmaxを表し、x切片は−1/Kmを表し、傾きはKm/Vmaxである)、又はV/[S]に対するVのイーディー・ホフスティープロット(ここで、y切片はVmaxを表し、x切片はVmax/Kmを表し、傾きは−Kmである)から決定することができる。触媒速度データからの反応速度パラメーターの決定はKinetAsyst(登録商標)やEnzfit(Biosoft,Cambridge,UK)等のソフトウェアパッケージにより容易にすることができる。
【0075】
ポリメラーゼのように複数の基質をもつ酵素では、1種のみの基質の濃度を変化させ、その他は適切な過剰(例えば有効に一定)濃度に維持すると、一般に正常なミカエリス・メンテン反応速度が得られる。
【0076】
1態様では、定常状態前の反応速度を使用すると、速度kobs(dNTP組込みの実測一次速度定数)のヌクレオチド濃度依存性により、基底状態結合のKmの推定値と最大重合速度(kpol)が得られる。kobsはバーストアッセイを使用して測定する。アッセイの結果をバースト式:産物=A[1−exp(−kobs*t)]+kss*t(式中、Aは酵素活性濃度の推定値の振幅を表し、kssは実測定常状態速度定数であり、tは反応インキュベーション時間である)にフィットさせる。ポリメラーゼ−DNA複合体と結合するdNTPのKmとkpolは式kobs=(kpol*[S])*(Km+[S])−1(式中、[S]は基質濃度である)を使用してkobsのdNTP濃度依存的変化をフィットさせることにより計算する。結果は、場合により例えば、Johnson(1986)“Rapid kinetic analysis of mechanochemical adenosinetriphosphatases” Methods Enzymol.134:677−705,Patelら(1991)“Pre−steady−state kinetic analysis of processive DNA replication including complete characterization of an exonuclease−deficient mutant” Biochemistry 30(2):511−25、及びTsai and Johnson(2006)“A new paradigm for DNA polymerase specificity” Biochemistry 45(32):9675−87に記載の方法に基づく急速クエンチ実験(クエンチフロー測定とも言う)から得られる。
【0077】
ヌクレオチドアナログと組換えポリメラーゼの結合速度、組換えポリメラーゼによる産物放出速度、又は組換えポリメラーゼの分岐速度(「分岐速度」はヌクレオチド又はヌクレオチドアナログが組込まれずにポリメラーゼ活性部位から解離する速度であり、このヌクレオチド又はヌクレオチドアナログは組込まれた場合には鋳型の相補的ヌクレオチド又はヌクレオチドアナログと正しく塩基対合する)等のパラメーターも測定することができ、場合により第1のポリメラーゼ(例えば対応する野生型ポリメラーゼ)のパラメーターと比較することができる。例えば下記実施例3参照。
【0078】
酵素反応速度の更に詳細については、例えばBerg,Tymoczko,and Stryer(2002)Biochemistry.Fifth Edition,W.H.Freeman;Creighton(1984)Proteins:Structures and Molecular Principles,W.H.Freeman;及びFersht(1985)Enzyme Structure and Mechanism,Second Edition,W.H.Freeman参照。
【0079】
上記のように、該当DNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位領域をもち、この領域は例えば天然ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上に対する酵素の相対活性を増加するように野生型活性部位領域に対して1種以上の構造改変を含み、ヌクレオチドアナログに対する活性増加が好ましい目的である。少なくとも1側面では、特定作用理論に結び付けるものではないが、改変は改変活性部位へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減することを目的とするか、及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である。ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値は一般にヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい。
【0080】
1側面では、モデルアナログ又はアナログセットを参照して本発明の酵素の改善された活性を測定し、所与親酵素と比較する。例えば、Φ29親酵素に由来する酵素の場合には、本発明の改善型酵素は親酵素(例えば野生型Φ29又はN62D Φ29)よりも所与アナログに対するKmが低くなる。一般に、説明の目的で、本発明の改善型酵素の例は夫々Φ29由来酵素により妥当に十分にプロセシングされたものと妥当に十分にプロセシングされていないものとの2種のアナログであるA488dC4P及び/又はA568dC4Pに対するKmが同一アナログに対するN62D Φ29のKmの例えば約5%以下〜約90%以下であると特徴付けることができよう。例えば、下記実施例(例えば表2)により詳細に記載するように、A488dC4Pに対するHis−375H−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約40%であり、A488dC4Pに対するHis−375S−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約75%である。同様に、A568dC4Pに対するHis−375H−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約15%であり、A568dC4Pに対するHis−375S−N62D Φ29のKmはN62D Φ29のKmの約38%である。上記特徴は特性決定ツールとして使用することができるが、本発明の特に限定的な反応を意味するものではない。
【0081】
ポリメラーゼのスクリーニング
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼの活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを判定するためにはスクリーニング又は他のプロトコールを使用することができる。例えば、上記のようにヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定することができる。更に、天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmも測定することができる(例えばポリメラーゼはアナログ及び天然ヌクレオチド両者の組込み活性を含むことが望ましい)。
【0082】
望ましい1側面では、組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製し、これらの特性についてスクリーニングすることができる。例えば、1種以上の立体妨害特徴突然変異及び/又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に対する相補性を生じると推定される突然変異を含むようにライブラリーの複数のメンバーを作製した後、該当特性についてスクリーニングする。一般に、該当改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングすることができる。
【0083】
ポリメラーゼライブラリーは本質的に物理的又は論理的なものとすることができる。更に、多様なライブラリーフォーマットの任意のものを使用することができる。例えば、ポリメラーゼを蛋白質アレイとして固体表面に固定することができる。同様に、ポリメラーゼを含有する溶液の簡便な高スループット流体操作のために(例えばマイクロウェルプレートで)ポリメラーゼの液相アレイを構築することができる。組換えポリメラーゼを発現する細胞の液相、エマルション又はゲル相ライブラリーも例えばマイクロウェルプレート内、又は寒天プレート上に構築することができる。ポリメラーゼ又はポリメラーゼドメイン(例えば活性部位領域を含む)のファージディスプレイライブラリーを作製することもできる。ライブラリーの作製及び使用に関する手引きは例えば本明細書に引用するSambrook、Ausubel及びBergerに記載されている。
【0084】
マイクロタイタープレートの流体移出入を伴うライブラリーの作製には、場合により流体操作ステーションを使用する。このような移送を実施するための数種の「既製」流体操作ステーションが市販されており、例えばCaliper Life Sciences(Hopkinton,MA)のZymateシステムや、例えばプレート移動用ロボット(例えばBeckman Coulter,Inc.(Fullerton,CA)から市販されている各種実験室システムで使用されるORCA(登録商標)ロボット)と共に自動ピペッターを利用する他のステーションが挙げられる。
【0085】
代替態様では、マイクロチップで流体操作を実施し、例えばマイクロウェルプレート又は他のウェルからチップ上のマイクロチャネルを介して宛先サイト(マイクロチャネル領域、ウェル、チャンバー等)まで材料を移送する。市販マイクロフルイディックシステムとしてはHewlett−Packard/Agilent Technologiesから市販されているシステム(例えばHP2100バイオアナライザー)やCaliper High Throughput Screening Systemが挙げられる。Caliper High Throughput Screening Systemは標準マイクロウェルライブラリーフォーマットとLabchip技術の連携の1具体例である。更に、流体操作のためにマイクロウェルプレートと直接連携することが可能なマイクロフルイディックシステムの多数の例が特許及び技術文献に記載されている。
【0086】
望ましい特性
本発明のポリメラーゼは用途に応じて天然又はヌクレオチドアナログに対する各種改変特性の任意のものを含むことができ、速度増加、組込まれた塩基の保持時間増加(又は速度低下)、プロセッシビティ増加等が挙げられる。例えば、より高レベルのヌクレオチドアナログ組込みが所望される場合には、所与ヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼよりもKmが低く、Vmaxが高く、及び/又はkcatが高くなるように本発明のポリメラーゼを選択する。所定態様では、(例えば組込みをモニターするために使用される装置の解像度に応じて)ポリメラーゼの総ヌクレオチド組込み速度を増減すること、又はプロセッシビティ、特異性等を改善することが望ましい。所定態様では、組換えポリメラーゼは対応する相同野生型ポリメラーゼに比較してヌクレオチドアナログの結合速度が増加、産物放出速度が増加、及び/又は分岐速度が低下している。本発明のポリメラーゼを選択するにはこれらの特徴の任意のものについてスクリーニングすることができる。
【0087】
例えば、本発明のポリメラーゼは一般に成長中のコピー核酸に天然ヌクレオチド(例えばA、C、G及びT)を組込むことができる。例えば、組換えポリメラーゼは場合により天然ヌクレオチドに対する比活性が対応する相同野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高く、鋳型の存在下における天然ヌクレオチドによるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%(例えば5%、10%、25%、50%、75%、100%又はそれ以上)高い。場合により、組換えポリメラーゼは更に天然ヌクレオチドに対するkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約10%(例えば10%、25%、50%、75%又は100%以上)高い。
【0088】
その他の具体的な詳細
本明細書には改変活性部位領域の多数の特定例を記載する。「活性部位領域」は折り畳まれたポリメラーゼの三次元構造の活性部位を含むか又はその近位(例えば活性部位から約2nm以内)のポリメラーゼの部分である。本明細書にはΦ29DNAポリメラーゼの活性部位内又はその近位の構造改変の特定例を記載する。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、これらの改変としてはΔ505−525の欠失、Δ505−525ドメイン内の欠失、K135A突然変異、(例えば本明細書に記載する別の突然変異と組み合わせた)L384R突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、表8に示す突然変異、及びその組み合わせの任意のものが挙げられる。例えば、ポリメラーゼは表8の組み合わせリストから選択される突然変異の組み合わせを含むことができる。
【0089】
ポリメラーゼは場合により更に内在エキソヌクレアーゼ活性を低下又は排除させるように野生型ポリメラーゼに対して1種以上の突然変異/欠失を含む。例えば、野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して、N62は場合によりエキソヌクレアーゼ活性を低下させるように突然変異又は欠失しており、例えばポリメラーゼはN62D突然変異を含むことができる。エキソヌクレアーゼ活性を低下させる他の代表的突然変異としては、D12A、T15I、E14I、及び/又はD66Aが挙げられ、従って、本発明のポリメラーゼは場合によりこれらの突然変異の1種以上を含む。
【0090】
当然のことながら、アミノ酸残基のナンバリングはΦ29ポリメラーゼの野生型配列を基準とする番号であり、本発明の分子内の実際の位置は野生型Φ29酵素に対して酵素に実施される各種改変の種類(例えば欠失及び/又は末端又は分子自体の内部の分子への付加)により変動し得る。
【0091】
アフィニティータグ及び他の非必須ポリメラーゼ特徴
組換えDNAポリメラーゼは場合によりポリメラーゼに対して外来又は異種の他の特徴を含む。例えば、組換えポリメラーゼは場合により1個以上の外来アフィニティータグ(例えば6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列、SNAPタグ等の精製又は基質結合タグ)を含む。例えばポリメラーゼを表面に結合する際にポリメラーゼ活性部位を方向付けるため及び/又は保護するために、これらの特徴及びポリメラーゼと表面の結合に関して有用な他の特徴を場合により付加する。他の有用な特徴としては、酵素の組換え二量体ドメインや、例えば活性部位に遠位のポリメラーゼと結合した大型の外部ポリペプチドドメインが挙げられる。例えば、Φ29では、活性部位は蛋白質のC末端領域に位置するので、付加表面結合エレメント(付加ドメイン、Hisタグ等)はポリメラーゼを表面に結合する際に活性部位を妨害しないように一般にN末端領域に配置される。
【0092】
一般に、(組換えにより又は例えば化学的に)ポリメラーゼに付加することができる表面結合エレメント及び精製タグとしては、例えばポリヒスチジンタグ、HIS−6タグ、ビオチン、アビジン、GST配列、BiTag配列、Sタグ、SNAP−タグ、エンテロキナーゼ部位、トロンビン部位、抗体もしくは抗体ドメイン、抗体フラグメント、抗原、受容体、受容体ドメイン、受容体フラグメント、リガンド、色素、アクセプター、クエンチャー、又はその組み合わせが挙げられる。
【0093】
表面に対してポリペプチドを方向付けるため及び/又はポリメラーゼの表面結合を強化するために、複数の表面結合ドメインを付加することができる。2個以上の別個のタグを介して2カ所以上の部位で表面と結合することにより、ポリメラーゼは表面に対して比較的固定した方向に維持される。ポリメラーゼの表面固定に関するその他の詳細は言及により全目的で本明細書に組込む米国特許出願第60/753,446号、発明の名称「表面結合蛋白質の活性を最適化するための蛋白質工学ストラテジー(PROTEIN ENGINEERING STRATEGIES TO OPTIMIZE ACTIVITY OF SURFACE ATTACHED PROTEINS)」、発明者Hanzelら及び米国特許出願第60/753,515号、発明の名称「活性表面結合ポリメラーゼ(ACTIVE SURFACE COUPLED POLYMERASES)」、発明者Hanzelら(出願日いずれも2005年12月22日)、並びに言及により全目的で本明細書に組込む代理人整理番号105−001210US、発明の名称「表面結合蛋白質の活性を最適化するための蛋白質工学ストラテジー(PROTEIN ENGINEERING STRATEGIES TO OPTIMIZE ACTIVITY OF SURFACE ATTACHED PROTEINS)」、発明者Hanzelら及び代理人整理番号105−00810US、発明の名称「活性表面結合ポリメラーゼ(ACTIVE SURFACE COUPLED POLYMERASES)」、発明者Hanzelら(いずれも本願と同日出願)に記載されている。
【0094】
DNAポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの組込み強化の用途
場合により鋳型核酸を複製するために、本発明のポリメラーゼと、天然及び/又はヌクレオチドアナログと、核酸鋳型(DNA又はRNA)を使用する。即ち、ポリメラーゼがプライマーを鋳型依存的に伸長するように、ポリメラーゼと、ヌクレオチドアナログと、場合により天然ヌクレオチド及び他の試薬と、鋳型と、複製開始部分の混合物を反応させる。複製開始部分は標準オリゴヌクレオチドプライマー、あるいは鋳型の成分とすることができ、例えば鋳型は自己プライミング1本鎖DNA、ニック入り2本鎖DNA等とすることができる。同様に、末端蛋白質を開始部分として使用することもできる。少なくとも1個のヌクレオチドアナログをDNAに組込むことができる。鋳型DNAは線状又は環状DNAとすることができ、所定用途では、環状鋳型が望ましい(例えばローリングサークル型複製や環状鋳型のシーケンシング)。場合により、組成物は自動DNA複製及び/又はシーケンシングシステムで利用することができる。
【0095】
本発明のポリメラーゼによる標識ヌクレオチドアナログの組込みはDNA重合のリアルタイムモニターを含む多様な核酸分析で特に有用である。ラベルはそれ自体を組込んでもよいが、組込み中に放出するほうが好ましい。例えば、ポリメラーゼによるアナログの組込み中にラベル放出をモニターすることによりアナログ組込みをリアルタイムでモニターすることができる。組込まれるアナログの部分は天然ヌクレオチドと同一でもよいし、天然ヌクレオチドとは異なるアナログの特徴を含んでいてもよい。
【0096】
一般に、成長中の核酸鎖の存在と組成を指示し、例えば鋳型複製/増幅及び/又は鋳型の配列を実証するために、ラベル組込み又は放出を使用することができる。組込みからのシグナルは例えば固相アッセイで組込まれたアナログから遊離される標識基の検出結果として発生することもできるし、組込み反応の結果として発生することもできる。例えば、結合したラベルをクエンチし、遊離ラベルをクエンチしないFRETラベルの場合には、組込まれたアナログからのラベル基の放出により蛍光シグナルを発生することができる。あるいは、活性部位に近位のFRET対の1メンバーで酵素を標識し、他のメンバーを担持するアナログを組込むと、組込み後にエネルギー移動が生じる。核酸シーケンシング用途における酵素結合FRET成分の使用は例えば言及により本明細書に組込む公開米国特許出願第2003−0044781号に記載されている。
【0097】
代表的な1該当反応では、個々のポリメラーゼ分子を有効に観測できるような極めて小さい観測容積内でポリメラーゼ反応物を単離することができる。その結果、組込みイベントにより、組込んでいるヌクレオチドアナログを組込まれなかったヌクレオチドアナログから容易に区別可能に観測できる。好ましい側面では、このような小さい観測容積はゼロモード導波管等の光学的閉じ込め構造内にポリメラーゼ酵素を固定化することにより得られる。ZMWと単分子分析、特に核酸シーケンシングにおけるその適用については、例えば各々言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込む公開米国特許出願第2003/0044781号及び米国特許第6,917,726号参照。
【0098】
一般に、1個以上のヌクレオチド及び/又は1個以上の本発明のヌクレオチドアナログの存在下でポリメラーゼ酵素を鋳型鎖と複合体化する。例えば、所定態様では、4種の天然ヌクレオチドA、T、G及びCの各々に類似する化合物に相当する標識アナログを例えば古典的サンガーシーケンシングのように別個のポリメラーゼ反応で使用するか、又は多重化シーケンシングアプローチのように単一反応で相互に多重化する。鋳型鎖の特定塩基が重合反応中にポリメラーゼと遭遇すると、このようなヌクレオチドに相補的な利用可能なアナログと複合体化し、成長中の新生核酸鎖にこのアナログを組込む。1側面では、組込みの結果、例えばポリリン酸アナログ中のラベルが放出され、アナログ中のαリン原子とβリン原子の間が開裂し、従って標識基(又はその一部)を放出することができる。組込みイベントはアナログが長くなっているために複合体中のラベルにより検出されるか、又はラベル基が周囲媒体中に放出されることにより検出される。各種アナログの各々(例えばA、T、G又はC)に異なる標識基を使用する場合には、組込まれたアナログのラベルの同定によりこのアナログを同定し、従って、この時点でプロセッシングされている鋳型鎖中の相補的ヌクレオチドを決定することができる。連鎖反応とモニターにより、重合反応のリアルタイムモニターと鋳型核酸の配列決定が可能になる。上記のように、特に好ましい側面では、ポリメラーゼ酵素/鋳型複合体は個々の複合体の観測を可能にする光学的閉じ込め構造(例えばゼロモード導波管)内に固定化した状態で提供される。シーケンシングにおけるその使用に加え、本発明のアナログは他の各種ゲノタイピング分析(例えば一塩基伸長法を使用するSNPゲノタイピング)、増幅のリアルタイムモニター(例えばRT−PCR法)等でも同様に有用である。
【0099】
シーケンシングと核酸増幅に関するその他の詳細はSambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(3rd Ed.),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2000(「Sambrook」);Current Protocols in Molecular Biology.F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,(2006年補遺)(「Ausubel」))及びPCR Protocols A Guide to Methods and Applications(Innisら編)Academic Press Inc.San Diego,CA(1990)(「Innis」)に記載されている。
【0100】
組換えポリメラーゼの作製及び単離
一般に、本発明のポリメラーゼをコードする核酸はクローニング、組換え、in vitro合成、in vitro増幅及び/又は他の利用可能な方法により作製することができる。本発明のポリメラーゼ(特定理論に結び付けるものではないが、例えば本発明のヌクレオチドアナログの立体障害を軽減するか、及び/又は相補性特徴を含む突然変異体ポリメラーゼ)をコードする発現ベクターを発現させるためには各種組換え法を使用することができる。核酸作製、発現及び発現産物の単離のための組換え法は例えばSambrook、Ausubel及びInnisに記載されている。
【0101】
更に、プラスミド又は他の該当核酸を細胞から精製するための多数のキットが市販されている(例えばいずれもPharmacia Biotech製品であるEasyPrep(登録商標)、FlexiPrep(登録商標);Stratagene製品StrataClean(登録商標);及びQiagen製品QIAprep(登録商標))。単離及び/又は精製された任意核酸を更に操作して他の核酸を作製することもできるし、細胞にトランスフェクトするために使用することもできるし、発現用生物に感染させるために関連ベクターに組込むこともできるし、及び/又は同等の操作が可能である。典型的なクローニングベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製及び組込みに適している。Giliman & Smith,Gene 8:81(1979);Robertsら,Nature,328:731(1987);Schneider,B.ら,Protein Expr.Purif.6435:10(1995);Ausubel、Sambrook、Berger(前出)参照。クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばThe ATCC Catalogue of Bacteria and BacteriophageがATCCから毎年発行されている。シーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面のその他の基本手順と基礎理論事項もWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition,Scientific American Books,NYに記載されている。
【0102】
更に、各種非天然アミノ酸の任意のものを組換え蛋白質(例えば本発明のポリメラーゼ)に組込むことが可能な直交成分のシステムも入手可能である。要約すると、直交tRNA(「OtRNA」;アンバー又は4塩基tRNA等の細胞の内在翻訳機構により認識されないtRNA)と直交tRNAシンテターゼ(「ORS」;これは細胞の内在tRNAをアミノアシル化しないが、セレクターコドンに応答してOtRNAをアミノアシル化することができるシンテターゼである)を含む細胞又は他の翻訳系(例えばin vitro翻訳系)を構築する。OtRNAにより特異的に認識される選択部位にセレクターコドンを含むように酵素をコードする核酸を構築する。ORSは(例えば活性部位の遠位の)1個以上の選択部位に所望化学官能基をもつ非天然アミノ酸を特異的に組込む。この化学官能基は例えばケト又は他の官能基を組込むアミノ酸に元々存在している官能基に比較してユニークであると言える。直交系に関する詳細な情報は例えばWangら,(2001),Science 292:498−500;Chinら,(2002)Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027;Chin and Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137;Chinら,(2002),PNAS United States of America 99:11020−11024;及びWang and Schultz,(2002),Chem.Comm.,1−10に記載されている。国際公開WO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(METHODS AND COMPOSITIONS FOR THE PRODUCTION OF ORTHOGONAL tRNA AMINOACYL−tRNA SYNTHETASE PAIRS)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(IN VIVO INCORPORATION OF UNNATURAL AMINO ACIDS)」;WO2004/094593、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(EXPANDING THE EUKARYOTIC GENETIC CODE)」;WO2005/019415(出願日2004年7月7日);WO2005/007870(出願日2004年7月7日);及びWO2005/007624(出願日2004年7月7日)も参照。
【0103】
(例えば後期核酸単離のための)例えば細胞単離及び培養に関する他の有用な文献としては、Freshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,third edition,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley & Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(編)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(編)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
【0104】
更に、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)等の各種販売会社からほぼ任意核酸をオーダーメード又は標準注文することができる。
【0105】
各種蛋白質単離及び検出方法が公知であり、例えば本発明の組換えポリメラーゼを発現する細胞の組換え培養液からポリメラーゼを単離するために使用することができる。各種蛋白質単離及び検出方法が当分野で周知であり、例えばR.Scopes,Protein Purification.Springer−Verlag,N.Y.(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press,Inc.N.Y.(1990);Sandana(1997)Bioseparation of Proteins,Academic Press,Inc.;Bollagら(1996)Protein Methods,2nd Edition Wiley−Liss,NY;Walker(1996)The Protein Protocols Handbook Humana Press,NJ,Harris and Angal(1990)Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Scopes(1993)Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag,NY;Janson and Ryden(1998)Protein Purification:Principles,High Resolution Methods and Applications,Second Edition Wiley−VCH,NY;及びWalker(1998)Protein Protocols on CD−ROM Humana Press,NJ;並びにその引用文献に記載されている方法が挙げられる。蛋白質精製及び検出方法に関するその他の詳細はSatinder Ahuja編,Handbook of Bioseparations,Academic Press(2000)に記載されている。
【0106】
キット
本発明は例えばシーケンシング、核酸増幅等の用途のために例えば1種以上のヌクレオチドアナログと共に本発明のポリメラーゼを含むキットも提供する。このようなキットはポリメラーゼの使用を可能にする方法でパッケージングされた本発明のポリメラーゼと、本発明の各種ヌクレオチドアナログ(例えばA、T、G、及びCに類似するヌクレオチドアナログ)のセットを含むことができ、例えばアナログの少なくとも1個は検出可能な部分をもち、好ましい側面では2個以上の検出可能な部分をもち、多くの場合には、場合により他のアナログの存在下で同定できるように、各々が検出可能な異なる標識基をもつ。所望用途に応じて、本発明のキットは場合により天然ヌクレオチド、対照鋳型、及び他の試薬(例えば緩衝溶液及び/又は例えば2価金属イオン即ちMg++、Mn++及び/又はFe++を含む塩類溶液、標準溶液(例えば検出器校正用色素標準))等の付加試薬を含む。このようなキットは一般に更に所望適用方法(例えば核酸シーケンシング、増幅等)に従って化合物及び他の試薬を使用するための説明書を含む。
【0107】
核酸及びポリペプチド配列と変異体
本明細書に記載するように、本発明は例えば本明細書に記載するようなポリメラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。立体障害又は相補性特徴を含むポリメラーゼ配列の例を本明細書(例えば表3)に示す。しかし、当業者に自明の通り、本発明はこれらの配列に限定されない。例えば、当業者に自明の通り、本発明は例えば本明細書に記載する機能をもつ多数の関連配列(例えば、表3のポリメラーゼの保存変異体をコードするポリヌクレオチド及びポリペプチド)も提供する。
【0108】
従って、本発明は各種ポリペプチド(ポリメラーゼ)とポリヌクレオチド(ポリメラーゼをコードする核酸)を提供する。本発明のポリヌクレオチドの例としては、例えば表3に記載のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド又はそのポリヌクレオチド配列に相補的であるかもしくは前記配列をコードするポリヌクレオチドが挙げられる(例えば所与配列がDNAである場合には、例えば逆転写によりこのDNAをコードする配列の1例はRNAである)。本発明のポリヌクレオチドは更に場合により表3のポリメラーゼをコードする任意ポリヌクレオチドを含む。遺伝コードの縮重により、多数のポリヌクレオチドが所与ポリメラーゼ配列を等しくコードする。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする人工又は組換え核酸(天然ポリヌクレオチド以外のもの)も本発明のポリヌクレオチドである。1態様では、組成物は本発明のポリペプチドと賦形剤(例えば緩衝液、水、医薬的に許容可能な賦形剤等)を含有する。本発明は本発明のポリペプチドに対して特異的に免疫反応性の抗体又は抗血清(例えば改変立体障害又はヌクレオチドアナログ相補性特徴を特異的に認識するもの)も提供する。
【0109】
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。別の態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。別の態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
【0110】
同様に当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に類似する配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。少なくとも1種の開示配列とハイブリダイスする核酸ポリヌクレオチド配列の変異体も本発明に含むものとする。例えば標準配列比較法により判定した場合に本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であると判断される配列も本発明に含まれる。
【0111】
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸配列をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1個又は少数のアミノ酸を高度に類似する性質をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異体は本発明の特徴である。
【0112】
特定核酸配列の「保存変異体」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果として、該当する立体障害軽減又はヌクレオチドアナログ相補性特徴を維持しながら、アミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存改変変異」である(例えば、保存置換としては活性部位領域に対して遠位の残基の置換が挙げられる)。従って、本発明の指定ポリペプチド配列の「保存変異体」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基のアミノ酸で置換されたものが挙げられる。最後に、非機能的配列又はタグ配列(核酸中のイントロン、コードされるポリペプチド中のポリHis又は同様の配列等)の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸又はポリペプチドの保存変異である。
【0113】
1側面では、保存置換はアミノ酸残基375に対応するポリメラーゼのアミノ酸残基における1以上の残基欠失又は置換を含む。
【0114】
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知であり、このようなアミノ酸では、あるアミノ酸残基が類似の化学的性質(例えば芳香族側鎖又は正荷電側鎖)をもつ別のアミノ酸残基に置換しているため、ポリペプチド分子の機能的性質は実質的に変化しない。化学的性質が類似する天然アミノ酸を含む代表的グループを以下に示すが、これらのグループ内の置換は「保存置換」である。
【表1】
【0115】
核酸ハイブリダイゼーション
本発明の核酸の保存変異体を含めて本発明の核酸を同定するためには比較ハイブリダイゼーションを使用することができる。更に、天然Φ29又はN62D突然変異体を除く表3に示す核酸と高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては表3の所与核酸配列と比較して1又は少数のサイレント又は保存核酸置換を含むものが挙げられる。
【0116】
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも50%の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
【0117】
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(Elsevier,New York)、及びCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)(「Ausubel」)に記載されており、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England,(Hames and Higgins 1)と、Hames and Higgins(1995)Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England(Hames and Higgins 2)はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
【0118】
100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上でサザン又はノーザンブロット法で実施するためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで無関係プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
【0119】
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件では、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
【0120】
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(Tm)に等しくなるように選択される。Tmは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTmよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
【0121】
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
【0122】
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高レベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件を決定できる。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
【0123】
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
【0124】
ユニークサブ配列
所定側面では、本発明は表3のポリメラーゼをコードする核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は野生型Φ29又はそのN62D突然変異体に対応する核酸に比較してユニークであり得る。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
【0125】
同様に、本発明は表3のポリメラーゼ中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は野生型Φ29又はそのN62D突然変異体に比較してユニークである。
【0126】
本発明は表3の配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は野生型Φ29又はN62D突然変異体に対応するポリペプチド(例えば本発明のポリメラーゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)に比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
【0127】
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度百分率」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
【0128】
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばポリメラーゼをコードするDNA又はポリメラーゼのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、約80%、約90〜95%、約98%、約99%又はそれ以上であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の祖先が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域、より好ましくは少なくとも約100残基長の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
【0129】
蛋白質及び/又は蛋白質配列は共通の祖先蛋白質又は蛋白質配列から天然又は人工的に誘導される場合に「相同」である。同様に、核酸及び/又は核酸配列は共通の祖先核酸又は核酸配列から天然又は人工的に誘導される場合に相同である。相同性は一般に2種以上の核酸又は蛋白質(又はその配列)間の配列類似度から推定される。相同性の判定に有用な配列間類似度の厳密な百分率は該当核酸及び蛋白質により異なるが、通常は50個、100個、150個又はそれ以上の残基にわたる25%程度の低い配列類似度を使用して相同性を判定する。より高レベルの配列類似度(例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上)を使用して相同性を判定することもできる。配列類似度百分率の決定方法(例えばデフォルトパラメーターを使用するBLASTP及びBLASTN)は本明細書に記載し、一般に入手可能である。
【0130】
配列比較及び相同性判定には、一般にある配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対する試験配列の配列一致度百分率を計算する。
【0131】
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューター実施(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.(2004年補遺)参照)により実施することができる。
【0132】
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Informationから公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列させた場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff & Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
【0133】
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin & Altschul,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787(1993)参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
【0134】
コンピューターによる反応速度のモデル化方法
別の側面では、本発明は例えば酵素反応速度をモデル化するためのコンピューター実施方法を含む。本方法では、鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する。最小離散時間ステップでは、モデル化される酵素速度反応に従って多くのポリメラーゼ状態遷移が禁止される。状態間の複数の速度遷移速度を定義し、所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて最小離散時間ステップで可能な状態遷移の多次元確率行列を定義する。得られた多次元確率行列をコンピューター読み取り可能な媒体に保存する。
【0135】
上記方法の各種特徴は多様である。例えば、ポリメラーゼ状態遷移は場合によりユーザー選択可能である。状態間の遷移速度は場合によりヌクレオチド濃度、ポリメラーゼ濃度、鋳型濃度、鋳型配列、鋳型に沿うポリメラーゼの位置、現在のワトソン・クリック鋳型−ヌクレオチド対の特徴、1つ前のワトソン・クリック鋳型−ヌクレオチド対の特徴、又は組込まれるヌクレオチドの特徴により異なる。反応混合物中のヌクレオチドは場合により1個以上のアナログヌクレオチドを含む。状態間の遷移速度は場合により上記多次元依存性の全組み合わせ間に完全な直交性を含む。多次元確率行列は場合により鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される。場合により可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する。所定状態遷移(例えばDNAに沿うポリメラーゼ転位)が確率行列の各次元(例えば先に組込まれたヌクレオチドの所定特徴)間で等しいと仮定することにより確率行列を場合により更に単純化する。
【0136】
同様に、確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために場合により第2の試薬濃度行列を作成する。場合により複数鋳型について確率行列をベクトル化し、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じると、状態分布行列が得られる。鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を使用することができる。連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義することができる。
【0137】
当然のことながら、本明細書に記載する実施例と態様は例証の目的に過ぎず、これらの記載に鑑み、種々の変形又は変更が当業者に想到されよう。従って、以下の実施例は特許請求の範囲に記載する発明を例証するものであり、これを限定するものではない。
【0138】
改変活性部位領域とヌクレオチドアナログに対する改変特性をもつ各種組換えDNAポリメラーゼの構築と特性決定を実証する一連の実験を以下に記載する。
【実施例1】
【0139】
組換えポリメラーゼの発現
図1に模式的に示すΦ29ポリメラーゼの発現用ベクターを構築した。エキソヌクレアーゼ活性を低下させるために野生型Φ29(配列番号1)にN62D突然変異を導入し、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、His、及びSタグを付加した。得られたタグ付きN62D Φ29アミノ酸配列を配列番号2として示す。ベクターの配列を配列番号14として示す。タグ付きN62D Φ29ポリメラーゼはベクター配列のヌクレオチド4839−7428によりコードされ、ポリメラーゼはヌクレオチド5700−7428に位置し、N62D突然変異はヌクレオチド5883−5885に位置する。ベクターの他の特徴としては、GST−His−Sタグ配列(ヌクレオチド4838−5699)、リボソーム結合部位(ヌクレオチド4822−4829)、T7プロモーター(ヌクレオチド4746−4758)、及びカナマイシン耐性マーカー(ヌクレオチド563−1375の相補配列)が挙げられる。
【0140】
例えば、改変活性部位領域をもつ組換えΦ29ポリメラーゼの発現を容易にするために、所望により他の突然変異もこの構築物に容易に導入される。例えば配列番号15−23参照。組換え蛋白質は例えば大腸菌で発現させることができ、GST、His、及び/又はSタグと標準技術を使用して精製することができる。適切なプロテアーゼ(例えばトロンビンやエンテロキナーゼ)で消化することにより場合によりタグを除去する。
【実施例2】
【0141】
代表的な組換えポリメラーゼ
改変活性部位領域をもつ各種組換えΦ29ポリメラーゼを構築した。特定メカニズムに限定する意図はないが、改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減することができ、これらの基を相補する特徴(例えば正電荷アミノ酸側鎖)を提供することにより余分なリン酸基に配位することができ、及び/又は他の方法でポリメラーゼのヌクレオチドアナログ組込み能を強化することができる構造改変を以下に例証する。
【0142】
図2Aは残基505−525(括り記号で示す)の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。Φ29と異なるアミノ酸残基を下線で示す。cp−1 DNAポリメラーゼ(G1と同様に、Φ29に遠縁)ではこの領域の大部分が欠失している。更に、この領域はフランキング配列よりも配列保存が著しく少ない。これらの点から、この領域を除去しても有害になる可能性は低いと思われる。
【0143】
図2Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す(例えばKamtekarら(2004)“Insights into strand displacement and processivity from the crystal structure of the protein−primed DNA polymerase of bacteriophage Φ29” Mol.Cell 16(4):609−618参照)。下段3図は残基505−525を除去したポリメラーゼを示し、この領域の除去によりヌクレオチド結合ポケットが形成されることが分かる。例えば、異なる配列を使用してこの領域を除去する配列番号12及び13又は33及び34参照。
【0144】
図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図3Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。375位のグルタミン酸(矢印で示す)は次に入ってくるdNTPの三リン酸部分と接触する正電荷残基(K371,K379,K383;ミディアムグレーにダークグレーが点在している部分)の近位に位置する。図3Bの下段3図に示すように、四リン酸ヌクレオチドアナログの余分なリン酸に配位させるために、この負電荷アミノ酸(E)を正電荷アミノ酸(H)で置換した。更に、この位置の余分な正電荷は三リン酸アナログに配位するのにも利用できる。組換えポリメラーゼの分析によると、E375H突然変異はリン酸標識ヌクレオチドアナログを組込むために酵素の反応速度を改善したと思われる(下記実施例3参照)。この位置に中性残基を導入するため、及び/又は、例えばイネーブル機能への配座変化を容易にするために、突然変異体E375Sも構築した。配列番号4−7及び25−28も参照。
【0145】
図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図4Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示し、E486の位置を矢印で示す。下段3図に示すように、E486をアラニン残基で置換すると、触媒カルボン酸(D249及びD458,白で示す)の近傍の活性部位領域に余分な空間が形成され、負電荷が除去される。別の例として、E486をアスパラギン酸残基で置換すると、炭素が除去され、負電荷を維持しながらヌクレオチドアナログ結合の立体干渉が軽減する。配列番号9−10及び30−31も参照。
【0146】
図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図5Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。K512(矢印で示す)は残基505−525領域から突出し、次に入ってくるdNTPとの結合部位の開口を部分的に塞ぐ。下段3図に示すように、K512をアラニン残基で置換すると、活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害が減り、結合ポケットに入るための余分なスペースが得られる。配列番号11及び32も参照。
【0147】
図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼの配列アラインメントを示す。図6Bの上段3図はΦ29ポリメラーゼの構造を示す。K135(矢印で示す)は次に入ってくるdNTPとの結合部位の開口に突出している。下段3図に示すように、K135をアラニン残基で置換すると、活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害が減り、結合ポケットに入るための余分なスペースが得られる。配列番号3及び24も参照。
【実施例3】
【0148】
組換えポリメラーゼのスクリーニング及び特性決定
実施例2に記載したように作製するか、又は本質的に任意の他の合理的もしくはランダム突然変異誘発ストラテジーにより作製した組換えポリメラーゼを場合により特性決定し、各種天然及び/又はヌクレオチドに対するその特性を決定する。組換えポリメラーゼを特性決定するための代表的な5段階プロトコールの1例を以下に記載する。
【0149】
組換えポリメラーゼをまず蛋白調製物の品質と基本的触媒活性について評価する。天然(野生)ヌクレオチドでポリメラーゼの活性を分析し、その比活性(単位/mg)を決定する。触媒能をもつ突然変異体のみを次段階に選択する。
【0150】
「トラップ」(未標識競合DNA又はヘパリン)の存在下で実施するプライマー伸長反応でポリメラーゼのプロセッシビティ(解離/kb)を推定する。プロセッシビティアッセイは天然ヌクレオチドによる連続重合試験(重合再開なし)で長いDNA産物を合成する能力を維持する突然変異体を選択するように設計する。プロセッシビティが有意に低下した突然変異体は次段階に選択しない。
【0151】
10μMのアナログ4種(A488dA4P,A633dC4P,A546dG4P及びA594dT4P)と環状鋳型(AGTC,反復AGTCモチーフから主に構成される72量体環状鋳型)による重合速度(塩基数/分)を測定する。
【0152】
環状鋳型(AGTC)を使用してA488dC4P及びA568dC4Pと天然ヌクレオチドのサブセット(dATP、dGTP及びdTTP)の重合速度とKmを決定することにより最も有望なポリメラーゼ突然変異体を特性決定する。アナログA488dC4P(代表的な良好な基質)及びA568dC4P(代表的な好ましくない基質)の濃度を数種に変化させて速度を測定する。
【0153】
ヌクレオチドアナログによるプライマー伸長アッセイを使用し、末端リン酸標識ヌクレオチドアナログについて反応速度が改善されたポリメラーゼ突然変異体の初期選択を実施し、実験条件下でアナログの速度を決定する。10μM A488dC4P、20μM 3dNTP−dCTP、及び環状鋳型(AGTC)の存在下と、10μM A568dC4P、20μM 3dNTP−dCTP、及び環状鋳型(AGTC)の存在下の2種の別個の実験を一般に実施する。
【0154】
例えば、忠実度、滞留時間(1/Vmax)、エキソヌクレアーゼ活性(例えば10uM,ミスマッチプライマーの伸長による)、活性率(バースト頻度)、dNTP、dN5P、リンカー単独アナログ及び/又はFRETアナログの速度、Mn2+に対するMg2+の反応速度(アナログの利用能)、光損傷感受性、1本鎖DNA結合、モノマー状態(例えばゲル濾過又は天然ゲルを使用)、及び/又は貯蔵寿命等の組換えポリメラーゼの他の特徴を場合により試験する。
【0155】
代表的な組換えΦ29ポリメラーゼの蛋白品質評価と重合速度及び速度定数測定の結果を夫々表1及び2に示す。
【表2】
【表3】
A列:呼称。
B列: dTTP、dATP、dGTP(Gフォークなし)、20μMのV;天然ヌクレオチド3種(dGTP、dTTP及びdATP)を使用するアッセイにより測定。
C列: A488dC4P、kel(bp/分);重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
D列: A488dC4P、Km; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
E列: A568dC4P、kel; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
F列: A568dC4P、Km; 重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性を試験することにより測定。
G列: A488dC4P、10μMのV;低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイにより測定。
H列: A568dC4P、10μMのV;低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイにより測定。
I列: A488dA4P、A633dC4P、A546dG4P、A594dT4P、10μMのV;末端標識ヌクレオチドアナログ4種を使用するアッセイにより測定。
J列: プロセッシビティ(kb−1);プロセッシビティアッセイにより測定。
【0156】
低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。プレインキュベーションミックスには天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP)と10μM濃度の末端標識ヌクレオチドアナログ(A488dC4P又はA568dC4P)を加える。短時間プレインキュベーション後、MnCl2で反応を開始した。EDTAで反応を停止し、アガロースゲル電気泳動を使用して産物を分離し、SYBR Gold(Invitrogen)で染色した。DNAポリメラーゼにより生成されたDNAの平均長を測定し、これを使用して重合速度を推定した。例えば表2のG及びH列参照。
【0157】
末端標識ヌクレオチドアナログ4種を使用するアッセイ
本アッセイでは全ヌクレオチドを末端標識(いずれも10μMのA488dA4P、A633dC4P、A546dG4P、A594dT4P)する以外は、基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りの手順とする。例えば表2のI列参照。
【0158】
天然ヌクレオチド3種(dGTP、dTTP及びdATP)を使用するアッセイ
天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP)をプレインキュベーションミックスに加え、DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(G残基を含まない反復配列CATから主に構成される環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。その後の全段階は基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りに実施した。例えば表2のB列参照。
【0159】
重合速度のヌクレオチドアナログ濃度依存性
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。プレインキュベーションミックスは更に天然ヌクレオチド3種(dTTP、dATP及びdGTP各20μM)と各種濃度の末端標識アナログ(A488dC4P又はA568dC4P)を加える。その後の全段階は基本的に上記「低濃度(10μM)のアナログ1種と天然ヌクレオチド3種を使用するアッセイ」なる表題のセクションに記載した通りに実施した。各アナログ濃度でDNAポリメラーゼにより生成されたDNA産物の平均長を測定し、結果を式:k=kel*[S]*(Kd+[S])−1(式中、kは実測重合速度であり、kelは飽和基質濃度における重合速度(kelは複数残基の組込みに相当する)であり、[S]は基質濃度である)にフィットさせた。例えば表2のC、D、E、及びF列参照。
【0160】
プロセッシビティアッセイ
DNAプライマーをアニールさせたDNA鋳型(反復配列AGTCから主に構成される72ヌクレオチド環状DNA)の存在下でΦ29DNAポリメラーゼ(親酵素又は突然変異体)をプレインキュベートした。短時間プレインキュベーション後、MnCl2、dNTP及びヘパリンを含有する開始ミックスで反応を開始した。反応にヘパリンを加えると、鋳型/プライマーからのポリメラーゼ解離後に重合を再開できなくなるので、生成された全DNA産物が連続重合試験の結果となる。20分間インキュベーション後、EDTAで反応を停止し、アガロースゲル電気泳動を使用して産物を分離し、SYBR Gold(Invitrogen)で染色した。基本的にBibillo A,Eickbush TH.J Biol Chem.2002 Sep 20;277(38):34836−45,Epub 2002 Jul5に記載されているようにDNA産物を分析した。結果を単一指数方程式:A*exp(−Poff*kb)(式中、Aは振幅であり、Poffは早期ポリメラーゼ解離確率であり、kbはDNA長(1000ヌクレオチド)である)にフィットさせた。鎖伸長確率(プロセッシビティ)はPoff値を1.0から引くことにより容易に計算することができる。例えば表2のJ列参照。
【0161】
代表的組換えポリメラーゼの配列
野生型Φ29及び代表的組換えポリメラーゼのアミノ酸及びポリヌクレオチド配列を表3に示す。
【表4−1】
【表4−2】
【表4−3】
【表4−4】
【表4−5】
【表4−6】
【表4−7】
【表4−8】
【表4−9】
【表4−10】
【表4−11】
【表4−12】
【表4−13】
【表4−14】
【0162】
ヌクレオチドアナログによる組換えポリメラーゼの特性決定
代表的な組換えΦ29ポリメラーゼと各種ヌクレオチドアナログについてKmとVmaxを測定した。結果を表4に示す。
【表5】
1 Alexa633−O−dC4P(本明細書ではA633dC4Pとも言う)で測定。
2 Alexa555−C2−dT4Pで測定。このアナログはδリン酸とラベル部分の間に2炭素リンカー(「C2」)をもち、下記構造:をもつ。
【化7】
3 Alexa555−C2−dTTPで測定。
4 Alexa532−O−dG4Pで測定。
【0163】
各種ヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを使用して一連の代表的な組換えΦ29ポリメラーゼを特性決定した。結果を表5に示す。
【表6】
1 比=1mM MnCl2における(5μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度)/(25μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度)。比が大きいほどKmは小さい。
2 25μM A633dC4P+20μM dA,dG,dTTPの速度。
3 10μM Alexa488−O−dA4P、10μM FAM−Alexa532−O−dG4P、10μM FAM− Alexa594−O−dT4P、10μM Alexa633−O−dC4P+1 mM MnCl2の速度。ヌクレオチドアナログ4種の代表的組み合わせによるKm及びVmax両者の指標である。
4バックグラウンド突然変異(存在する場合)。組換えポリメラーゼは野生型Φ29ポリメラーゼ+突然変異1+突然変異2に対応する。
5固定化及び/又は精製用タグ。
【0164】
図7Aに模式的に示すようなFRET停止型フローアッセイを使用して代表的な組換えΦ29ポリメラーゼとヌクレオチドアナログA594−dT4Pの結合速度と産物放出速度を測定した。図7にΦ29 N62D(B)、N62D:E375Y(C)、及びN62D:E375W(D)の結果をグラフで示す。産物放出速度を表6に示す。
【0165】
E375Y及びE375W突然変異体ポリメラーゼは結合速度と産物放出速度の増加を示し、親酵素よりも良好にアナログを利用することが分かった。
【表7】
【0166】
図8Aに模式的に示すようなFRET停止型フローアッセイを使用して代表的な組換えΦ29ポリメラーゼとヌクレオチドアナログAlexa568−dA4P(A568−dA4Pとも言う)の相対分岐速度(取込まれないアナログの解離、即ち基質解離)も測定した。この手法では、ヌクレオチドアナログ上の対応する色素と共にFRETに適合性のFRETドナー色素で標識した鋳型を使用する。プライマーは取込みを生じないように3’末端をジデオキシヌクレオチドで停止する。アナログを酵素−鋳型−ジデオキシプライマー複合体とプレミックスする。停止型フロー装置で、解離後にアナログの再結合を阻止するための「トラップ」として機能する過剰の対応する天然ヌクレオチド(本実施例では天然dATP)とこの予備形成した複合体を迅速に混合する。アナログの解離/分岐速度をモニターする手段としてドナー色素蛍光の増加をモニターする。
【0167】
図8にΦ29 N62D(B)、N62D:E375Y(C)、及びN62D:E375W(D)の結果をグラフで示す。分岐速度を表7に示す。
【表8】
【0168】
その他の代表的な組換えポリメラーゼ
本発明のポリメラーゼとしては、単独又は他の突然変異(例えば本明細書に記載する他の突然変異)との組み合わせとして表8に示す突然変異の任意のものを含むΦ29ポリメラーゼ(又はそのホモログ)が挙げられる。例えば、本発明のポリメラーゼとしては、場合により表8に特定するような突然変異の組み合わせを含むΦ29ポリメラーゼ(又はそのホモログ)が挙げられる。
【表9−1】
【表9−2】
【表9−3】
【表9−4】
【0169】
Φ29ポリメラーゼの数種の突然変異が従来文献に記載されている。N62D突然変異については、de Vegaら(1996)“Primer−terminus stabilization at the 3’−5’ exonuclease active site of phi29DNA polymerase.Involvement of two amino acid residues highly conserved in proofreading DNA polymerases” EMBO J.15(5):1182−92参照。D12A突然変異と、E14位、66位、165位、169位、12位と66位、及び14位と66位の突然変異については、Estebanら(1994)“3’−>5’ exonuclease active site of phi 29DNA polymerase.Evidence favoring a metal ion−assisted reaction mechanism” J Biol Chem.269(50):31946−54参照。S252の突然変異については、Blascoら(1993)“Phi 29 DNA polymerase active site.Residue ASP249 of conserved amino acid motif ‘Dx2SLYP’ is critical for synthetic activities” J Biol Chem.268(32):24106−13参照。Y254の突然変異については、Blascoら(1992)“Phi 29 DNA polymerase active site.Mutants in conserved residues Tyr254 and Tyr390 are affected in dNTP binding” J Biol Chem.267(27):19427−34参照。K371の突然変異については、Trunigerら(2002)“A positively charged residue of phi29DNA polymerase,highly conserved in DNA polymerases from families A and B,is involved in binding the incoming nucleotide” Nucleic Acids Res.30(7):1483−92参照。K379の突然変異については、Trunigerら(2004)“Two Positively Charged Residues of φ29DNA Polymerase,Conserved in Protein−primed DNA Polymerases,are Involved in Stabilisation of the Incoming Nucleotide” Journal of Molecular Biology 335(2):481−494参照。N387の突然変異については、Blascoら(1993)“Phi 29 DNA polymerase active site.The conserved amino acid motif ‘Kx3NSxYG’ is involved in template−primer binding and dNTP selection” J Biol Chem.268(22):16763−70参照。Y390の突然変異については、Blascoら(1992)“Phi 29 DNA polymerase active site.Mutants in conserved residues Tyr254 and Tyr390 are affected in dNTP binding” J Biol Chem.267(27):19427−34参照。D456の突然変異については、Bernadら(1990)“The highly conserved amino acid sequence motif Tyr−Gly−Asp−Thr−Asp−Ser in alpha−like DNA polymerases is required by phage phi 29DNA polymerase for protein−primed initiation and polymerization” Proc Natl Acad Sci U S A.87(12):4610−4参照。
【実施例4】
【0170】
DNAポリメラーゼの酵素反応速度をモデル化及び試験し、全動的プロセスと自由変数を同時に割り当てるためのコンピューターフレームワーク
ポリメラーゼ反応状態遷移を離散時間ステップについて確率行列に保存する。状態確率分布のベクトルは連続モデルに従う多数のポリメラーゼ状態から特定ポリメラーゼを発見する確率を表すことができる。状態分布ベクトルと状態遷移確率行列の線形代数乗算により、状態遷移確率行列の離散時間ステップに等しい時間経過の効果を表すポリメラーゼ状態分布の新しいベクトルが得られる。
【数1】
状態遷移確率行列を特定指数乗(例えば100)に増加することにより、特定数の離散時間ステップ(例えば100時間ステップ)の時間経過をシミュレートする。多数の離散時間ステップを使用してDNA重合をシミュレートする。定常状態モデル。
【数2】
遷移速度はユーザーにより定義される。確率行列は鋳型配列とハードコード化状態遷移規則を使用して自動作成する。試薬濃度、反応速度値、及び確率行列構成等の各種パラメーターは本実施例に記載するパラメーターと異なっていてもよい。
【0171】
定常状態ポリメラーゼ反応速度モデルの1例を以下に示す。
【表10】
Rp = 触媒速度。
C6 = 状態6のポリメラーゼを発見する確率。
K61 = 状態6から状態1へのポリメラーゼの遷移速度。
kij = 反応速度定数。
Pij = kijΔt反応速度定数。
Pij = i→j確率。
* K54≒0(ピロリン酸濃度として)。
↓
Rp = C6K61 − C1K16 =触媒速度。
Rp = 飽和まで増加するヌクレオチド濃度条件としてK61→∞, C6→ 0における(Rp)max。
(Rp)maxを求めるには、
【表11】
*Δt↓につれて、Rpの漸近線を求める。
【0172】
巨大行列
ポリメラーゼ−鋳型−dNTP系の可能な全反応状態を捕えるための単一2−D行列を以下に示す。
【表12】
【0173】
*この結果、以下の状態から構成される656状態行列となる。
【表13】
*この場合、状態7は鋳型からのポリメラーゼの解離であり、場合により、発生しないものとして単純化することができる。
【0174】
この場合には、DNA鋳型は反復配列(ACGT)である。鋳型反復配列が延長するにつれて状態も比例して増加し、延長した鋳型反復配列が元の鋳型配列を含まなくなる程度まで増加する。例えば、配列:
...[ACGT]ACGT...
に作成される確率遷移行列は配列:
...[ACGTACGT]ACGT....
に作成される行列と等価になる。他方、配列:
...[AACCGGTT]AACC...
に作成される確率遷移行列は元の行列で許容されない多数の状態遷移(例えば鋳型配列中の「A」から別の「A」へのポリメラーゼ転位)を含むので異なる。更に、この反復配列は4個ではなく8個のワトソン・クリック塩基を含むので、656ではなく1,312状態の行列が作成される。
【0175】
状態によっては全変数を定義する必要はない(上記表参照)。例えば、状態6にまだ取込まれていないヌクレオチドの特徴は状態6の実質に影響しない。
【表14】
【0176】
*2状態間の遷移速度は以下のように定義されよう。
【表15】
【0177】
P56TAxC=k56TAxC*time_step
式中、P56TAxCは「TAxC」により表される付加ヌクレオチド−鋳型条件で状態5から状態6への転位を完了するポリメラーゼの確率である。K56TAxCはこの転位の遷移速度である。
【0178】
一般に、この656状態システムでは、定義する遷移速度数は1568である。ユーザーが入力する必要がある入力数を減らすために実施することができる近似法には多数のものがある。
【0179】
以下の組み合わせは全状態遷移で同等に処理することができる:
鋳型ヌクレオチド:ACGT
TGCA。
同様に、全ミスマッチを等しく処理することができる。
K12AT0A=k12xZ0Z
K12CG0T=k12xZ0Z
K12CT0T=k12xY0Z
K12CT1C=k12xY1Y
X=任意変数
Y=任意ミスマッチ
Z=任意マッチ。
【0180】
こうしてユーザー入力選択をユニークな遷移速度変数〜100個まで減らす。明示的に定義された全速度は適切なユーザー入力に自動的に割り当てられる。
【表16】
【0181】
ユーザーに定義される遷移速度を行列に自動的に挿入する目的で対称を利用するために、656状態行列の構成を変更することができる。
【表17】
【0182】
これには2つの利点がある。
(1)行列を僅かに変更するだけで鋳型を伸長することができる。反復配列の各鋳型塩基が164状態を追加する。従来は、新しい状態を行列に組み入れる必要があった。
【表18】
(2)行列は以前よりも対称度が高いので、自動コードを使用して行列を構築し易い。
【数3】
7個の「eval」ステートメント(人工的に構築されたコマンドを評価する関数)は7個のポリメラーゼ状態を構築する。
【0183】
これを更に拡張し、任意所与鋳型配列の行列を自動的に構築した。
【0184】
全該当試薬(ポリメラーゼ、鋳型、ヌクレオチド等)の濃度を含む濃度行列の構築により状態遷移確率行列の作成を更に自動化する。この濃度行列は(線形濃度限度内で)
kinetic_matrix=rate_transition_matrix * conc_matrix
state_transition_probability_matrix=kinetic_matrix * time_step
となるように速度遷移行列を補完し、上記式では、速度遷移行列の各要素に濃度行列におけるその対応する依存変数を乗じている。このように、濃度依存状態遷移を捕える(例えばヌクレオチド取込み速度はヌクレオチド濃度に依存する)。濃度に依存しない行列の要素は変化させない。非線形濃度依存性は反応速度行列を定義する非線形式を使用して表すことができる。
【0185】
状態遷移確率行列を以下に示す。
【表19】
上記式中、行列に挿入された各確率値はユーザーに定義された遷移速度、濃度値、及び離散時間ステップを使用して計算している。なお、行の最初の要素は状態間に遷移がない確率であり、従って、100%とこの特定状態以外の全状態遷移の確率の差である。
【0186】
シミュレーション効率の増加:
状態遷移確率行列を特定指数乗(例えば100)に増加することにより、特定数の離散時間ステップ(例えば100時間ステップ)の時間経過をシミュレートする。
多数のポリメラーゼ−鋳型複合体を同時にベクトル化することによりシミュレーションの効率を更に改善することができる。
【数4】
【0187】
速度限界:ポリメラーゼが鋳型の何処に存在するかを確認することによりDNA合成を追跡することができる。
【化8】
【0188】
移動が早過ぎる(即ち遷移行列指数中の時間ステップ数が多過ぎる)と、ポリメラーゼが「A」から直接「G」に移り、転位が順方向であったのか逆方向であったのか分からなくなる可能性がある。従って、kinetic_matrixの指数時間係数を定義する誤差限界(〜1e−6)を設定する。速度限界は「A」から「G」への逆方向転位の確率と「A」から「T」への順方向転位の確率のいずれもが誤差率限界を越えないように設定する。DNA反復配列が長いほうが速く移動できるが、反復配列が長過ぎると、コンピューターの負担が増す。
【0189】
このプログラムの別のアプリケーションとして試薬消費速度のシミュレーションが挙げられる。非常に大きなステップサイズで移動し、鋳型に沿ってポリメラーゼ移動をシミュレーションする。このアプローチは(離散状態の鋳型1000+個ではなく)状態の連続分布におけるただ1個の鋳型を使用する。こうして試薬消費を継時的に追跡する。
【0190】
システムの現在の集合と遷移速度定数に基づいて試薬の濃度変化を求める:
【数5】
【0191】
これらの確率がkinetic_matrixから1e−6sec時間ステップの場合には、1ループサイクル(経過時間=num_steps*1e−6sec)における試薬dTAP(天然)の濃度変化(モル)は以下の通りである。
【数6】
Nが大きくなるにつれて、各ループサイクルの濃度調整は大きくなり、不正確になる。これを使用してkinetic_matrixの指数時間係数を設定する。
濃度低下に対する反応速度行列ジャンプをプロットする図9参照。
【0192】
num_steps=1e6としても「十分に」正確な濃度曲線が得られる(ステップサイズが減少するにつれて平滑に近づく点に留意されたい)。
【0193】
得られる4096×4096正方行列は妥当なメモリ限界である。
【0194】
このプログラムの別のアプリケーションとして連続モデル又は計数モデルを使用するポリメラーゼミスマッチ率の推定が挙げられる。一般に、2つ前の鋳型−ヌクレオチド対は常にマッチであると仮定する。(これは行列サイズの4分の1の縮小であり、エキソヌクレアーゼ活性が大きくない限り、誤差は小さくなるはずである)。
【0195】
従って、前のミスマッチを含む状態5からの任意順方向転位は永久ミスマッチとなる(バックアップすればそうはならない)。
順方向合計転位率=C5.*C6.−C6.*k65
反応=(ミスマッチ率)/(合計率)
C5は状態5のポリメラーゼを含む全行列状態の濃度を表す(128頁参照)。
k56は対応する全順方向転位率の完全なセットである。
順方向ミスマッチ転位=C5(m).*k56(m)−C6(m).*k65(m)
(逆方向転位では、前のミスマッチを含むポリメラーゼ状態5にはならない。上記参照)。
【0196】
前の鋳型/ヌクレオチドミスマッチをもち且つ同様に順方向に転位する(ミスマッチを永久にする)ポリメラーゼ/鋳型複合体数を計数する計数モデルを作成し、これを全ポリメラーゼで平均してミスマッチ率を得ることもできる。これは上記連続モデル推定値とほぼ同一範囲となる。
1)まず、Patelら(1991)“Pre−Steady−State Kinetic Analysis of Processive DNA Replication Including Complete Characterization of an Exonuclease−Deficient Mutant” Biochemistry 30:511−525に示されているように、全速度定数をT7ポリメラーゼと等しくなるように設定する。
【表20】
【0197】
特定速度定数等。
K61≧50μm−1s−1
K12=300μm−1s−1
K23≧9000μm−1s−1
K34=1200μm−1s−1
K645≧1000μm−1s−1
K16≧1000μm−1s−1
K21=100μm−1s−1
K32=18,000μm−1s−1
K43=18μm−1s−1
K54≧0.5μm−1s−1
(Vmax)native=50bps
(Vmax)analog=5bps
(km)native=0.2μm
(km)analog=6μm
2)dNTP濃度飽和(≧1mM)を使用し、(主に)k12と(必要に応じて)他の速度定数を変化させることによりVmax=50bpsを設定する。全アナログ遷移速度を天然dNTP遷移速度と同一に維持する。当面、解離を抑える(速度→0)。
3)アナログ−dNTP濃度飽和(≧1mM)を使用し、アナログのみのk45を変化させることによりVmax=5bpsを設定する。
4)天然dNTP濃度を0.2μmに設定し、V=25bpsとなるようにk61(天然のみ)を変化させることにより(km)native=0.2μmを設定する。
5)アナログdNTP濃度を6μmに設定し、V=2.5bpsとなるようにk61(アナログのみ)を変化させることにより(km)native=6μmを設定する。
天然dNTP
k61=365μm−1s−1
k12=60μm−1s−1
K23=9000μm−1s−1
k34=1200μm−1s−1
k45=1000μm−1s−1
k56=500μm−1s−1
k16=10μm−1s−1
k21=100μm−1s−1
k32=1800μm−1s−1
k43=18μm−1s−1
k54=0.5μm−1s−1
k65=100μm−1s−1
アナログdNTP
k61=1.1μm−1s−1
k12=60μm−1s−1
K23=9000μm−1s−1
k34=5.5μm−1s−1
k45=5.5μm−1s−1
k56=500μm−1s−1
k16=10μm−1s−1
k21=100μm−1s−1
k32=1800μm−1s−1
k43=18μm−1s−1
k54=0.1μm−1s−1
k65=100μm−1s−1。
全速度は今後の実験で更に校正されよう。
pol_index.m:DNA配列に基づいて必要な全行列指数リスト及びポインターを初期化する。
Pol_ratematrix.m:全ユニーク速度定数のリストを含むエクセルファイルを入力として取込み、DNA配列に基づいて遷移速度行列を作成する。
Pol_conmatrix.m:試薬濃度を取込み、
(全非対角線要素について)確率行列=time_step * rate_matrix * conc_matrix
となるように濃度行列を構築する。
Pol_dntp_concumption.m:連続モデルに基づいて試薬消費速度を計算する。
POL_dna.m:POL_DNA、POL_REAGENTS、POL_CURVEMAPの以前の全関数を統合し、
以前の全消費を追跡し、
DNA合成長分布を追跡し、
遊離鋳型、完成したdsDNA鋳型、現在処理中の鋳型、可能な複数濃度試験、ユーザー定義された反復DNA配列、有限長鋳型を追跡する。
pol_metal.m:POL_DNAの機能縮小版を使用したMg+消耗実験の完全態様。
【0198】
以上、明確に理解できるように本発明を多少詳細に記載したが、本発明の真の範囲を逸脱することなく形態や細部に種々の変更が可能であることは以上の開示から当業者に自明である。例えば、上記全技術及び装置は種々に組合せて使用することができる。本明細書に引用した全刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献は言及によりその開示内容全体を全目的で本明細書に組込み、各刊行物、特許、特許出願、及び/又は他の文献を言及により全目的で本明細書に組込むと個々に記載しているものとみなす。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】タグ付きN62DΦ29DNAポリメラーゼの発現用ベクターを模式的に示す。
【図2A】図2Aは残基505−525の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号35、B103配列番号36、PZA配列番号37、M2配列番号38、G1配列番号39、cp−1配列番号40)の配列アラインメントを示す。
【図2B】図2Bは残基505−525をもつもの(上段)ともたないもの(下段)のΦ29の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図3A】図3AはΦ29のE375の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号41、B103配列番号42、PZA配列番号43、M2配列番号44、G1配列番号45、cp−1配列番号46)の配列アラインメントを示す。
【図3B】図3BはΦ29(上段)とE375H突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図4A】図4AはΦ29のE486の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号47、B103配列番号48、PZA配列番号49、M2配列番号50、G1配列番号51、cp−1配列番号52)の配列アラインメントを示す。
【図4B】図4BはΦ29(上段)とE486A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図5A】図5AはΦ29のK512の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号53、B103配列番号54、PZA配列番号55、M2配列番号56、G1配列番号57、cp−1配列番号58)の配列アラインメントを示す。
【図5B】図5BはΦ29(上段)とK512A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図6A】図6AはΦ29のK135の前後の領域におけるΦ29様ポリメラーゼ(Φ29配列番号59、B103配列番号60、PZA配列番号61、M2配列番号62、G1配列番号63、cp−1配列番号64)の配列アラインメントを示す。
【図6B】図6BはΦ29(上段)とK135A突然変異体(下段)の構造を示す。3種の異なる角度から見た構造図を示す。
【図7A】図7Aは結合速度と産物放出速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。
【図7B】図7BはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図7C】図7CはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図7D】図7DはΦ29 N62D(図7B)、N62D:E375Y(図7C)、及びN62D:E375W(図7D)のアッセイの結果を示す。
【図8A】図8Aは分岐速度を測定するために使用したFRET停止型フローアッセイを模式的に示す。
【図8B】図8BはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図8C】図8CはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図8D】図8DはΦ29 N62D(図8B)、N62D:E375Y(図8C)、及びN62D:E375W(図8D)のアッセイの結果を示す。
【図9】濃度低下に対する反応速度行列ジャンプサイズのプロットを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えDNAポリメラーゼを含有する組成物であって、組換えDNAポリメラーゼが野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位領域を含み、改変活性部位領域が改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である1種以上の構造改変を野生型活性部位領域に対して含み、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼの特性が野生型ポリメラーゼに比較して改変されている前記組成物。
【請求項2】
組換えDNAポリメラーゼがΦ29DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、DNA Pol Iポリメラーゼ、T7ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ又はDNA Pol Iポリメラーゼのクレノウフラグメントに対応するフラグメントに相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組換えDNAポリメラーゼが野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組換えDNAポリメラーゼがΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17に相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
組換えDNAポリメラーゼがその活性部位内又はその近位に野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに対して残基505−525の欠失、残基505−525内の欠失、K135A突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異及びその組み合わせから選択される構造改変を含む請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
組換えDNAポリメラーゼが更にL384R突然変異を含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
組換えDNAポリメラーゼが更に表8から選択される別の突然変異又は突然変異組み合わせを含む請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
組換えDNAポリメラーゼが野生型ポリメラーゼに対して組換えポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性を低下させる構造改変を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ポリメラーゼがΦ29DNAポリメラーゼに相同であり、構造改変がエキソヌクレアーゼ活性を低下させるアミノ酸欠失又は改変である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
改変が野生型Φ29DNAポリメラーゼに対するN62の突然変異に対応する請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
組換えDNAポリメラーゼが1個以上の外来アフィニティータグ配列を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
アフィニティータグ配列が6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列及びその組み合わせから選択される請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
組換えDNAポリメラーゼが表3から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
ヌクレオチドアナログを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
ヌクレオチドアナログがフルオロフォア又は色素部分を含む請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ヌクレオチドアナログがリン酸標識ヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
ヌクレオチドアナログがモノデオキシ又はジデオキシヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
ヌクレオチドアナログが3〜6個のリン酸基をもつ標識ヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
ヌクレオチドアナログが三リン酸塩、四リン酸塩、五リン酸塩又は六リン酸塩である請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
構造改変がヌクレオチドアナログのリン酸残基と結合する正電荷アミノ酸残基の付加を含む請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
改変特性がKm、kcat、Vmax、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼプロセッシビティ、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼによる平均鋳型読み取り長、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼの特異性、ヌクレオチドアナログの結合速度、産物放出速度、及び分岐速度から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
改変特性がヌクレオチドアナログに対するKmの低下を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
改変特性がヌクレオチドアナログに対するkcat/Km又はVmax/Kmの増加を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼの比活性が野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%高く、鋳型の存在下におけるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項26】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約25%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項27】
ヌクレオチドアナログとDNA鋳型を含有しており、組換えポリメラーゼが鋳型DNAに応答してヌクレオチドアナログをコピー核酸に組込む請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
鋳型が環状鋳型である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
組成物がDNAシーケンシングシステムに存在している請求項1に記載の組成物。
【請求項30】
シーケンシングシステムがゼロモード導波管を含む請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、前記組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位を含み、改変活性部位は改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である1種以上の構造改変を野生型活性部位に対して含む)と;
組換えポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させる段階を含む前記方法。
【請求項32】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、リン酸標識アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値はヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい)と;
ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む段階を含む前記方法。
【請求項33】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、リン酸標識アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、前記ポリメラーゼはΦ29DNAポリメラーゼに相同であり、A488dC4P、A568dC4P又は両者に対するKmはA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼ突然変異体のKmの約75%未満である)と;
ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を複製するように混合物を反応させる段階を含む前記方法。
【請求項34】
複製開始部分がオリゴヌクレオチドプライマー、鋳型における自己相補性領域、又は鋳型と結合するポリペプチドを含む請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項35】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約75%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項36】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約40%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項37】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約15%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項38】
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmがヌクレオチドアナログに対する野生型Φ29のkcat/Km又はVmax/Kmよりも高い請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項39】
ポリメラーゼが野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して残基505−525の欠失、残基505−525内の欠失、K135A突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、及びその組み合わせから選択される構造改変を含む組換えDNAポリメラーゼである請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項40】
組換えDNAポリメラーゼの作製方法であって、
第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階と;
活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は活性部位におけるヌクレオチドアナログの相補性特徴を同定する段階と;
少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は少なくとも1種のヌクレオチドアナログ相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる段階と;
得られる組換えポリメラーゼのヌクレオチドアナログに対する活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを試験する段階を含む前記方法。
【請求項41】
ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定する段階を含む請求項40に記載の方法。
【請求項42】
天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定する段階を含む請求項40に記載の方法。
【請求項43】
組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製する段階を含み、ライブラリーの複数のメンバーが1種以上の立体妨害特徴突然変異又は相補性特徴突然変異を含む請求項40に記載の方法。
【請求項44】
改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングする段階を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する段階と;
状態間の複数の速度遷移速度を定義する段階と;
所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて、可能な状態遷移の多次元確率行列を作成する段階と;
コンピューター読み取り可能な媒体に多次元確率行列を保存する段階を含むコンピューター実施方法。
【請求項46】
ポリメラーゼ遷移状態がユーザー選択可能である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
状態間の速度遷移速度がヌクレオチド濃度、鋳型配列及び鋳型に沿うポリメラーゼの位置により異なる請求項45に記載の方法。
【請求項48】
反応混合物中のヌクレオチドが1個以上のヌクレオチドアナログを含む請求項45に記載の方法。
【請求項49】
状態間の速度遷移速度がポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの使用中のポリメラーゼの配座遷移速度を含み、前記速度が天然ヌクレオチドの配座遷移速度に等しくなるように設定される請求項45に記載の方法。
【請求項50】
多次元確率行列が鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される請求項45に記載の方法。
【請求項51】
可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する請求項45に記載の方法。
【請求項52】
確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために第2の試薬濃度行列を作成する請求項45に記載の方法。
【請求項53】
複数鋳型について確率行列をベクトル化する段階と、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じ、状態分布行列を得る段階を含む請求項45に記載の方法。
【請求項54】
鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を定義する段階を含む請求項45に記載の方法。
【請求項55】
連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義する段階を含む請求項45に記載の方法。
【請求項1】
組換えDNAポリメラーゼを含有する組成物であって、組換えDNAポリメラーゼが野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位領域を含み、改変活性部位領域が改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である1種以上の構造改変を野生型活性部位領域に対して含み、ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼの特性が野生型ポリメラーゼに比較して改変されている前記組成物。
【請求項2】
組換えDNAポリメラーゼがΦ29DNAポリメラーゼ、Taqポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ欠損Taqポリメラーゼ、DNA Pol Iポリメラーゼ、T7ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ、RB69ポリメラーゼ、T5ポリメラーゼ又はDNA Pol Iポリメラーゼのクレノウフラグメントに対応するフラグメントに相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組換えDNAポリメラーゼが野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組換えDNAポリメラーゼがΦ29、B103、GA−1、PZA、Φ15、BS32、M2Y、Nf、G1、Cp−1、PRD1、PZE、SF5、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722、又はL17に相同である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
組換えDNAポリメラーゼがその活性部位内又はその近位に野生型又はエキソヌクレアーゼ欠損Φ29DNAポリメラーゼに対して残基505−525の欠失、残基505−525内の欠失、K135A突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異及びその組み合わせから選択される構造改変を含む請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
組換えDNAポリメラーゼが更にL384R突然変異を含む請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
組換えDNAポリメラーゼが更に表8から選択される別の突然変異又は突然変異組み合わせを含む請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
組換えDNAポリメラーゼが野生型ポリメラーゼに対して組換えポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性を低下させる構造改変を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ポリメラーゼがΦ29DNAポリメラーゼに相同であり、構造改変がエキソヌクレアーゼ活性を低下させるアミノ酸欠失又は改変である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
改変が野生型Φ29DNAポリメラーゼに対するN62の突然変異に対応する請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
組換えDNAポリメラーゼが1個以上の外来アフィニティータグ配列を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
アフィニティータグ配列が6Hisタグ配列、GSTタグ、HAタグ配列、複数の6Hisタグ配列、複数のGSTタグ、複数のHAタグ配列及びその組み合わせから選択される請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
組換えDNAポリメラーゼが表3から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
ヌクレオチドアナログを含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
ヌクレオチドアナログがフルオロフォア又は色素部分を含む請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ヌクレオチドアナログがリン酸標識ヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
ヌクレオチドアナログがモノデオキシ又はジデオキシヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
ヌクレオチドアナログが3〜6個のリン酸基をもつ標識ヌクレオチドアナログである請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
ヌクレオチドアナログが三リン酸塩、四リン酸塩、五リン酸塩又は六リン酸塩である請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
構造改変がヌクレオチドアナログのリン酸残基と結合する正電荷アミノ酸残基の付加を含む請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
改変特性がKm、kcat、Vmax、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼプロセッシビティ、ヌクレオチドアナログの存在下における組換えポリメラーゼによる平均鋳型読み取り長、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼの特異性、ヌクレオチドアナログの結合速度、産物放出速度、及び分岐速度から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
改変特性がヌクレオチドアナログに対するKmの低下を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
改変特性がヌクレオチドアナログに対するkcat/Km又はVmax/Kmの増加を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼの比活性が野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%高く、鋳型の存在下におけるプロセッシビティが天然ヌクレオチドの存在下における野生型ポリメラーゼよりも少なくとも5%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約5%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項26】
天然ヌクレオチドに対する組換えポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmが野生型ポリメラーゼよりも少なくとも約25%高い請求項1に記載の組成物。
【請求項27】
ヌクレオチドアナログとDNA鋳型を含有しており、組換えポリメラーゼが鋳型DNAに応答してヌクレオチドアナログをコピー核酸に組込む請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
鋳型が環状鋳型である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
組成物がDNAシーケンシングシステムに存在している請求項1に記載の組成物。
【請求項30】
シーケンシングシステムがゼロモード導波管を含む請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、前記組換えDNAポリメラーゼは野生型DNAポリメラーゼの野生型活性部位領域に相同の改変活性部位を含み、改変活性部位は改変活性部位領域へのヌクレオチドアナログ導入の立体妨害を軽減するか又はヌクレオチドアナログの1種以上の非天然特徴に相補的である1種以上の構造改変を野生型活性部位に対して含む)と;
組換えポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させる段階を含む前記方法。
【請求項32】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、リン酸標識アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、ヌクレオチドアナログに対する組換えポリメラーゼのKm値はヌクレオチドアナログに対する対応する相同野生型ポリメラーゼのKmよりも小さい)と;
ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を鋳型依存的に複製するように混合物を反応させることにより、得られるDNAに少なくとも1個のヌクレオチドアナログ残基を組込む段階を含む前記方法。
【請求項33】
DNAの作製方法であって、
鋳型と、鋳型と複合体化又は一体化する複製開始部分と、鋳型依存的ポリメラーゼ反応で前記部分を使用して鋳型の少なくとも一部を複製することが可能なポリメラーゼと、リン酸標識アナログヌクレオチドを含む1個以上のヌクレオチドを含有する反応混合物を準備する段階(なお、前記ポリメラーゼはΦ29DNAポリメラーゼに相同であり、A488dC4P、A568dC4P又は両者に対するKmはA488dC4P、A568dC4P又は両者に対するGST−N62D Φ29DNAポリメラーゼ突然変異体のKmの約75%未満である)と;
ポリメラーゼが鋳型の少なくとも一部を複製するように混合物を反応させる段階を含む前記方法。
【請求項34】
複製開始部分がオリゴヌクレオチドプライマー、鋳型における自己相補性領域、又は鋳型と結合するポリペプチドを含む請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項35】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約75%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項36】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約40%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項37】
アナログに対するポリメラーゼのKmが対応する野生型ポリメラーゼのKmの約15%未満である請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項38】
ヌクレオチドアナログに対するポリメラーゼのkcat/Km又はVmax/Kmがヌクレオチドアナログに対する野生型Φ29のkcat/Km又はVmax/Kmよりも高い請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項39】
ポリメラーゼが野生型Φ29DNAポリメラーゼに対して残基505−525の欠失、残基505−525内の欠失、K135A突然変異、E375H突然変異、E375S突然変異、E375K突然変異、E375R突然変異、E375A突然変異、E375Q突然変異、E375W突然変異、E375Y突然変異、E375F突然変異、E486A突然変異、E486D突然変異、K512A突然変異、及びその組み合わせから選択される構造改変を含む組換えDNAポリメラーゼである請求項31、32又は33に記載の方法。
【請求項40】
組換えDNAポリメラーゼの作製方法であって、
第1のポリメラーゼを構造的にモデル化する段階と;
活性部位へのヌクレオチド接近に影響を与える1種以上の立体妨害特徴又は活性部位におけるヌクレオチドアナログの相補性特徴を同定する段階と;
少なくとも1種の立体妨害特徴を軽減もしくは排除するか又は少なくとも1種のヌクレオチドアナログ相補性特徴を付加するように第1のDNAポリメラーゼを突然変異させる段階と;
得られる組換えポリメラーゼのヌクレオチドアナログに対する活性が第1のDNAポリメラーゼに比較して改変されているか否かを試験する段階を含む前記方法。
【請求項41】
ヌクレオチドアナログに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定する段階を含む請求項40に記載の方法。
【請求項42】
天然ヌクレオチドに対する組換えDNAポリメラーゼのkcat、Km、Vmax、又はkcat/Kmを測定する段階を含む請求項40に記載の方法。
【請求項43】
組換えDNAポリメラーゼのライブラリーを作製する段階を含み、ライブラリーの複数のメンバーが1種以上の立体妨害特徴突然変異又は相補性特徴突然変異を含む請求項40に記載の方法。
【請求項44】
改変活性を含む少なくとも1個のメンバーを同定するようにライブラリーをスクリーニングする段階を含む請求項43に記載の方法。
【請求項45】
鋳型重合反応中の離散時間ステップについて複数のポリメラーゼ状態遷移を定義する段階と;
状態間の複数の速度遷移速度を定義する段階と;
所与核酸鋳型配列、反応混合物中のヌクレオチド及びポリメラーゼ状態遷移に基づいて、可能な状態遷移の多次元確率行列を作成する段階と;
コンピューター読み取り可能な媒体に多次元確率行列を保存する段階を含むコンピューター実施方法。
【請求項46】
ポリメラーゼ遷移状態がユーザー選択可能である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
状態間の速度遷移速度がヌクレオチド濃度、鋳型配列及び鋳型に沿うポリメラーゼの位置により異なる請求項45に記載の方法。
【請求項48】
反応混合物中のヌクレオチドが1個以上のヌクレオチドアナログを含む請求項45に記載の方法。
【請求項49】
状態間の速度遷移速度がポリメラーゼによるヌクレオチドアナログの使用中のポリメラーゼの配座遷移速度を含み、前記速度が天然ヌクレオチドの配座遷移速度に等しくなるように設定される請求項45に記載の方法。
【請求項50】
多次元確率行列が鋳型配列、確率状態の標準化行列、及び反応混合物中のヌクレオチドに基づいて自動的に作成される請求項45に記載の方法。
【請求項51】
可能な全ワトソン・クリック塩基対が全状態遷移で等しいと仮定することにより確率行列を単純化する請求項45に記載の方法。
【請求項52】
確率行列の出力に基づいて、鋳型に沿うポリメラーゼの位置に起因する試薬濃度変化を考慮するために第2の試薬濃度行列を作成する請求項45に記載の方法。
【請求項53】
複数鋳型について確率行列をベクトル化する段階と、得られたベクトル化確率行列に多次元確率行列を乗じ、状態分布行列を得る段階を含む請求項45に記載の方法。
【請求項54】
鋳型配列内の反復配列を考慮するために確率行列の指数時間係数を定義する段階を含む請求項45に記載の方法。
【請求項55】
連続モデル又は計数モデルを使用してポリメラーゼヌクレオチドミスマッチ率を定義する段階を含む請求項45に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【公表番号】特表2009−521227(P2009−521227A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547635(P2008−547635)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/049122
【国際公開番号】WO2007/076057
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(506141546)パシフィック バイオサイエンシーズ オブ カリフォルニア, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/049122
【国際公開番号】WO2007/076057
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(506141546)パシフィック バイオサイエンシーズ オブ カリフォルニア, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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