説明

ノズル構造体

【課題】 噴射ヘッドから消火ガスを噴射した際の音響を抑制することができるガス系消火設備を提供する。
【解決手段】 高圧の消火ガスを空間に向けて噴射する複数のノズル孔26を有する噴射ヘッド23と、噴射ヘッド23が接続され、噴射ヘッド23に高圧の消火ガスを導く導管24と、導管24に高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源25と、多孔質材料から成り、噴射ヘッド23内に各ノズル孔26の開口に直前に、噴射ヘッド23の前記開口を規定する表面部に密接して配置される吸音部材33を有する消音装置27とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災発生時に建物の消火対象区画内にNガスまたはハロゲン化物ガスなどの消火ガスを消火剤として放出することによって、消火対象区画内の消火ガス濃度を消炎濃度以上にして消火するガス系消火設備の消火ガス噴射装置として有利に実施することができるノズル構造体に関し、さらに詳しくは、消火対象区画内に設けられる噴射ヘッドから消火ガスを噴射した際に発生する大音響を低減することができるノズル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物には、消火剤としてCOガスおよびNガスおよびハロゲン化物などの消火ガスを消火対象区画内に放出して、その消火対象区画内の消火ガス濃度を消炎濃度以上にすることによって消火を行うノズル構造体を備えたガス系消火設備が装備されている。
【0003】
図8は、従来技術のノズル構造体1を有するガス系消火設備を示す斜視図である。従来のガス系消火設備に具備されるノズル構造体1は、消火ガス供給源2から火災発生時に供給される高圧の消火ガスを消火対象区画内に向けて噴射する噴射ヘッド3と、噴射ヘッド3が接続され、消火ガス供給源2から噴射ヘッド3へ消火ガスを導く導管4とを備える。
【0004】
導管4は、消火ガス供給源2に接続される主管5と、主管5に介在される分岐管6と、分岐管6によって主管5から消火ガスが導かれ、噴射ヘッド3が接続される枝管7とを有する。主管5は、建物の躯体またはその躯体に固定された基台8およびブラケット9にUボルトなどの締結具10によって締結され、消火ガス噴射時におけるガス噴射反力などに起因する噴射ヘッド3の変位が阻止された状態で設置されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−173565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の技術では、消火ガス供給源2から導管4を経て供給される高圧の消火ガスを噴射ヘッド3から大量に噴射するため、噴射ヘッド3のノズル部11に形成されるノズル孔12から高速で噴射される消火ガス流によって、いわば空気を切り裂くような大音響を発生してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、噴射ヘッドからの消火ガスの噴射流に起因する音響を減衰させることができるノズル構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高圧の消火ガスを空間に向けて噴射する複数のノズル孔を有する噴射ヘッドと、
噴射ヘッドが接続され、噴射ヘッドに高圧の消火ガスを導く導管と、
導管に高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源と、
多孔質材料から成り、噴射ヘッド内に各ノズル孔の開口に直前に、噴射ヘッドの前記開口を規定する表面部に密接して配置される吸音部材を有する消音装置とを含むことを特徴とするノズル構造体である。
【0009】
また本発明は、前記複数のノズル孔は、噴射ヘッドの前記開口を規定する表面部に分散して配置されることを特徴とする。
【0010】
本発明に従えば、消火ガス供給源から導管に供給された高圧の消火ガスは、噴射ヘッドを介して建物内の空間に向けて噴射される。このような噴射ヘッドには、複数のノズル孔を有するノズル部が設けられるとともに、各ノズル孔の開口の直前に、吸音部材が設けられ、噴射ヘッドのノズル部から高速で噴射される消火ガスの噴射流に起因する大きな噴射音の発生を防止することができる。また、各ノズル孔から噴射される消火ガスは、吸音部材内で徐々に減圧膨張し、その流速を下げることができる。これによって、消火ガスの噴射に起因する噴射音の発生をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、噴射ヘッドに消音装置が設けられるので、火災発生時に噴射ヘッドのノズル部から消火ガスが噴射されても大きな噴射音が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のノズル構造体21を示す断面図である。
【図2】図1の上方から見たノズル部22および消音装置27の平面図である。
【図3】ケーシング35を斜め上方から見た斜視図である。
【図4】ケーシング35を斜め下方から見た斜視図である。
【図5】消音装置27による消音効果を説明するためのグラフである。
【図6】本発明の他の実施形態のノズル構造体21aを示す断面図である。
【図7】図6の下方から見た底面図である。
【図8】従来技術のノズル構造体1を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態のノズル構造体21を示す断面図であり、図2は図1の上方から見たノズル構造体21の平面図である。なお、図1は図解を容易にするため、ノズル構造体21は中心軸線L1を含む仮想一平面に関して片側が断面で示されている。本実施形態のノズル構造体21は、高圧の消火ガスを前記消火対象区画内の空間に向けて噴射するノズル部22を有する噴射ヘッド23と、噴射ヘッド23が接続され、噴射ヘッド23に高圧の消火ガスを導く導管24と、導管24に高圧の消火ガスを供給する消火ガス供給源25と、噴射ヘッド23に設けられ、ノズル部22に形成される複数(本実施形態では7)のノズル孔26から噴射される消火ガスの噴射による噴射音を減衰させる消音装置27とを含む。
【0014】
前記消火ガスは、NガスおよびCOガスなどの不活性ガスまたはハロゲン化物ガスなどの活性ガスによって実現される。このような消火ガスを消火剤として放出することによって、消火対象区画内の消火ガス濃度を消炎濃度以上にして消火することができる。
【0015】
前記噴射ヘッド23と消音装置27とによって、前記ノズル構造体21が構成される。このようなノズル構造体21には、消火ガス供給源25から導管24を経て噴射ヘッド23に消火ガスが供給される。導管24は、図8に示される従来技術と同様に、消火ガス供給源25に接続される主管と、主管に介在される分岐管と、分岐管に接続される枝管とを含んで構成されてもよい。このような導管24を経て消火ガス供給源25からの高圧の消火ガスが、噴射ヘッド23に導かれる。導管24は、基台およびブラケットにUボルトなどの締結具によって締結され、変位が阻止された状態で建物の天井部または壁などにに設置されている。
【0016】
図3はケーシング35を斜め上方から見た斜視図であり、図4はケーシング35を斜め下方から見た斜視図である。図1および図2をも参照して、前記消音装置27は、円筒状の周壁30と、周壁30の軸線方向一端部(図1では下端部)に該周壁30の軸線に関して半径方向内方に突出して円環状または周方向に間欠的に形成される突部31と、周壁30の軸線方向他端部に、噴射ヘッド23に着脱可能に接続される端壁32と、周壁30内にたとえば円柱状の吸音部材33とを含む。
【0017】
前記周壁30および端壁32は、有底筒状のケーシング35を構成する。端壁32には、軸線L1に同軸に取付け筒部36が一体的に形成される。取付け筒部36の内周部には、内ねじが形成される。前記吸音部材33は、ケーシング35内に収容され、前記突部31によって保持される。
【0018】
ノズル部22は、内ねじが形成される略円筒状の螺合部22aと、螺合部22aに同軸に連なる円筒状の胴部22bと、螺合部22aの軸線方向他端部に直角に連なる隔壁部22cとを有する。隔壁部22cには、前記複数のノズル孔26が形成される。隔壁部22cには、ケーシング35内で端壁32側に配置される吸音部材33の端面が密接し、該吸音部材33と隔壁部22cとの間に隙間が生じていない。このようにして各吸音部材33は、ケーシング35内に収容されている。
【0019】
前記複数のノズル孔26の合計は、次の表1に示すように、コード番号によって割当てられた等価噴口面積を有する。このような等価噴口面積は、「不活性ガス消火設備等の噴射ヘッドの基準」(平成7年6月6日消防庁告示第7号)によって規定されている。
【0020】
【表1】

【0021】
消音装置27において、吸音部材33は、一方の端面と端壁32の内面とが面接触し、かつ他方の端面とノズル部22の端面とが面接触した状態で、ケーシング35内の空間に収容される。したがって、吸音部材33は、前述したようにケーシング35内の空間に軸線L1方向に端壁32から突部31にわたって隙間なく詰まった状態で収容され、隔壁部22cに端壁32側の吸音部材33の端面が密接している。各ノズル孔26からケーシング35内へ流出する消火ガスは、前記端壁32側の吸音部材33内に直接流れ込み、ケーシング35の開口部側に連なる残余の吸音部材33の領域に流入して拡散するように構成されている。
【0022】
前記吸音部材33は、微小な柱状の空隙が連続した多孔質金属から成る。このような吸音部材33は、前述したようにケーシング35内の空間に臨む各ノズル孔26の開口の直前に、隔壁部22cの表面に密接して設けられる。これによって、消音装置27は、導管24から供給される消火ガスを、吸音部材33の全体に拡散しながら徐々に減圧膨張させて急激に減速させ、流速を下げることができる。これによって、消火ガスの噴射に起因する周囲の空気に衝撃波を伴う強い乱れを誘起することが防がれ、噴射音を抑制することができる。
【0023】
詳細には、複数のノズル孔26によって予め分散させた消火ガスの流れは、ケーシング35内の空間に隙間なく詰められている吸音部材33に流入するので、各ノズル孔26から放出される消火ガスは、多孔質金属からなる吸音部材33内へ直接流入し、多孔質金属内の空隙を経て、最も開口部側に配置される吸音部材33の領域を通過した消火ガスを、蓋体31の開口から直接、外部へ放出することができる。
【0024】
このようにノズル孔26から放出される消火ガスを吸音部材33へ直接流入させることによって、消火ガスを吸音部材33内で充分に拡散させて流速を急激に減衰させることができ、ノズル孔26から放出直後に過膨張して衝撃波を発生しない状態で消火ガスを外部へ放出することができる。
【0025】
図5は消音装置27による消音効果を説明するためのグラフである。縦軸が音圧レベル(dB)であり、横軸が消火ガスの放出開始からの経過時間(sec)である。同図において、ライン91は消音装置27を用いない場合のグラフであり、ライン92は消音装置27を用いた場合のグラフである。
【0026】
本件発明者は、ノズル構造体21による消音効果を確認するため、測定用周波数範囲が20Hz〜100kHzの音響について、前述の図1〜図4のノズル構造体21を用いて消火ガス噴射直後の音圧レベルを測定した。測定用の集音マイクは、ノズル構造体21の前方1m、略水平に右へ45°の斜め前の位置に設置し、市販の騒音計によって測定した。
【0027】
同図において、消火ガス放出開始直後では、消音装置27を用いない場合、音圧レベルは約140dBであるが、消音装置27を用いた場合には、音圧レベルが約100dBまで下がっている。同様に、消火ガス放出開始から60秒後では、消音装置27を用いない場合、音圧レベルは約125dBであるが、消音装置27を用いた場合には、音圧レベルが約85dBまで下がっている。すなわち、消音装置27を用いない場合に比べて、消音装置27を用いた場合に比べて音圧レベルを約40dB下げることができる。
【0028】
このように、本実施形態の噴射ヘッド23と消音装置27とによって構成されるノズル構造体21は、吸音部材33が、ケーシング35内の空間に臨むノズル孔26の開口の直前に、各開口を規定する隔壁部22cの表面部に密接して設けることによって、導管24から供給される消火ガスを吸音部材33の全体に拡散しながら徐々に減圧膨張して急激に減速させ、消音装置27から噴射直後の消火ガスの流速を下げることができ、消火ガスの噴射に起因する噴射音の発生を抑制することができる。さらに、ノズル構造体21は、消音装置27によって、消火ガスの急激な減圧膨張を抑制することができるので、急激な減圧膨張に起因する衝撃波による騒音の発生を抑制することができる。
【0029】
図6は本発明の他の実施形態のノズル構造体21aを示す断面図であり、図7は図6の切断面線VII−VIIから見たケーシング35の底面図である。なお、図6は図解を容易にするため、ノズル構造体21aは中心軸線L1を含む仮想一平面に関して片側だけが断面で示されている。前述の実施形態に対応する部分には、同一の参照符を付す。本実施形態のノズル構造体21aは、ケーシング35と、ケーシング35内に同軸に形成される円板状のノズル部22とによって構成される。ノズル部22は、複数のノズル孔26が分散して形成される隔壁部22cを有し、これらのノズル孔26の合計は、前述の表1に示すように、コード番号によって割当てられた等価噴出口面積を有し、ケーシング35内の空間に臨んでほぼ均一に分布して形成されている。
【0030】
ノズル部22の前記複数のノズル孔26は、隔壁部22cにその厚み方向に貫通して軸線L1に平行に形成されている。隔壁部22cの開口側の表面には、ケーシング35に収容された吸音部材33が接触し、各ノズル孔26から噴出した消火ガスが直接流入する。端壁32と隔壁部22cとの間には、空間50が形成される。取付け筒部36から供給される消火ガスは、前記空間50に流入した後、各ノズル孔26へ流入するので、消火ガスを各ノズル孔26によって吸音部材33の前記ノズル部22に臨む端面のほぼ全面に分散して供給し、各ノズル孔26を通過する消火ガスの流速を均一化することができる。
【0031】
このような構成によってもまた、前述の実施形態と同様に、吸音部材33によって、消火ガスの噴射流に起因する音響振動を吸収し、消火ガスの噴射に起因する噴射音の発生を抑制することができる。
【0032】
このように放出する消火ガス量が同じであれば、各ノズル孔26を中心軸線Lから半径線方向に離れた位置に分散させて配置することによって、吸音部材33の厚みをT1>T2とし、ガス出口内径をID1>ID2としても、同様な消音効果が得られることが確認された。これによって、各ノズル孔26を周方向に分散させて配置することによって、消音効果を低下させずに噴射ヘッドを小型化することができる。
【0033】
図6に示すノズル構造体は、図1に示すノズル構造体に比べて、吸音部材33の厚みが薄いため、消火ガスが噴射ヘッドから放出されるまでに消火ガスが受ける流路抵抗が小さく、流速の低下を抑えることができる。そのため、消火対象区画内の消火ガスの到達距離が小さくなることを防止することができる。また、消火ガスの流路抵抗が小さくなるため、液体系消火ガスを放出する場合であっても、到達距離の減少を少なくし、噴射ヘッドから所要の到達距離を確保することができ、気体系消火ガスに比べて流路抵抗の高い液体系消火ガスにも本発明に係るノズル構造体を好適に実施することができる。
【0034】
本発明のさらに他の実施形態では、吸音部材は円板状とし、複数枚を同軸に積層した状態でケーシング内に収容して用いるようにしてもよい。このように円板状の吸音部材を用いることによって、厚みまたは収容枚数を容易に調整することができ、製造状の利便性を向上することができる。
【0035】
このように、本実施形態の消音装置27aは、吸音部材33が、ケーシング35内の空間に臨む各ノズル孔26の開口の直前に、各開口を規定するノズル部22の表面部に密接して設けることによって、導管24から供給される消火ガスを吸音部材33の積層体全体に拡散しながら徐々に減圧膨張させて急激に減速させ、流速を下げることができ、消火ガスの噴射に起因する噴射音の発生を抑制することができる。さらに、消音装置27aは、消火ガスの急激な減圧膨張を抑制するように構成されているので、急激な減圧膨張に起因する騒音の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0036】
21 ノズル構造体
20 天井部
22 ノズル部
23 噴射ヘッド
24 導管
25 消火ガス供給源
26 ノズル孔
27,27a 消音装置
30 周壁
32 端壁
33 吸音部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火ガスを空間に向けて噴射する複数のノズル孔を有する噴射ヘッドと、
噴射ヘッドが接続され、噴射ヘッドに消火ガスを導く導管と、
導管に消火ガスを供給する消火ガス供給源と、
多孔質材料から成り、噴射ヘッド内に各ノズル孔の開口に直前に、噴射ヘッドの前記開口を規定する表面部に密接して配置される吸音部材を有する消音装置とを含むことを特徴とするノズル構造体。
【請求項2】
前記複数のノズル孔は、噴射ヘッドの前記開口を規定する表面部に分散して配置されることを特徴とする請求項1に記載のノズル構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−195(P2013−195A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131696(P2011−131696)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(390010342)エア・ウォーター防災株式会社 (56)
【Fターム(参考)】