説明

ノンアスベスト珪酸カルシウム板の抄造方法

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は,建築用の内外装材,船舶用資材として使用される珪酸カルシウム板のノンアスベスト押出製品の製法に関する。
[従来の技術]
珪酸カルシウム板はセメント,消石灰等の石灰質原料と珪抄,珪藻土等の珪酸質原料及び石綿,パルプ等の補強繊維を水に分散させ,スラリー状態にした後,丸網式抄造法により脱水成形しオートクレーブ養生後,乾燥して製品とするものである。これらの製品は軽量,高強度,すぐれた寸法安定性,加工性の良さ等から建築用の内外装材,船舶用資材として広く使用されている。
抄造法における石綿の使用は,固定分の吸着,濾水性の付与,半製品の強度向上(取り扱い上に問題となる)に不可欠であり,石綿なしでは安定した連続生産は困難と言われていた。また,石綿は製品の強度面,耐火性能,耐候性,寸法安定性,加工性等の物性に重要な役割を果たし,安価な工業用資材として使用されてきた。しかし,近年,石綿の発癌性が指摘され,その使用は次第に法規性を受け始めており,また,石綿産出国の資源枯渇の問題もあり,石綿を使用しないで安価で生産性の高い製品の開発が急がれている。最近,これらの丸網式抄造製品の製造に関して,パルプ,ワラストナイト,高分子凝集剤からなるノンアスベスト製品の製法,パルプを叩解してフィブリル化したものに,補強繊維としてビニロン,アクリル等の合成樹脂を使用する上記と同じ製法,2種類の叩解度の異なるパルプと補強繊維として各種合成繊維を使用する方法が提案されている。
従来,丸網式抄造方式により製造される建材について石綿が使用されてきたが,石綿は補強繊維としての効果もさることながら,製造時に固形分の吸着,濾水度の調整等連続生産を行なっても支障をきたさない技術が確立されている。現在,親水性のあるパルプによる固形分の吸着,高分子凝集剤による凝集,補強繊維としてのワラストナイト,ガラス繊維,炭素繊維の使用が提案されているが,パルプは石綿に比較して繊維径が太く,固形分の吸着能力が劣る。従って,固形分の排水への流出が多く,丸網抄造では排水を循環して使用するため支障をきたす。高分子凝集剤の使用はスラリーの固形分の凝集に効果を示すが,フェルトのベタ付き,排水の汚れ等の諸問題を誘発し,連続操作には不向きである。また,丸網式抄造ではスラリー濃度が遂次変化するため,添加量コントロールが困難で,過度の添加は製品の物性の悪影響を示す。補強繊維として使用するガラス繊維はオートクレーブ養生する関係上,高アルカリ雰囲気化で劣化を起こし,その性能がえられず,炭素繊維はマトリックスの付着性が悪く,また,高価なこともあり,安価な製品の製造には不向きである。
パルプを叩解して使用する提案,叩解度の異なる2種類のパルプを補強繊維,フィラーとともに使用する提案がなされているが,これらはマトリックスとして粉末度(粒度)の比較的に大きいセメントを主成分とする製品に関するものであり,低比重,高強度を得る珪酸カルシウム板の製造に使用する粉末度(粒度)の小さい消石灰,珪藻土を用いた場合には固形分の吸収が悪く,排水中の固形分の流出が多く,連続操業に耐えない等の問題がある。
[発明が解決しようとする問題点]
本発明は,以上述べたような従来のノンアスベスト珪酸カルシウム板製造に関する問題点を解決すべく鋭意研究を行なった結果,安価で連続生産にも支障をきたさずに,高水準の物性を有するノンアスベスト珪酸カルシウム板の製法を提供できたものである。
従って,本発明は,抄造方式で製造されるノンアスベスト珪酸カルシウムの製法を提供することを目的にする。
[発明の構成]
[問題点を解決するための手段]
本発明の要旨とするものは,粉末度(粒度)の小さい消石灰,珪藻土原料と全乾燥物量に対してショッパー濾水度80゜SR以上に叩解されたセルロース系繊維0.5〜3重量%をスラリー濃度で15〜30%になるように水を加えて,繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第1工程と;
その他の石灰分,珪酸質原料に全乾燥物量に対して,ショッパー濾水度50〜70゜SRに叩解した天然セルロース繊維0.5〜3重量%,無機質添加剤5〜20重量%,有機合成繊維0.5〜2重量%をスラリー濃度5〜10重量%になるように水を加え繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第2工程とを有し;
第1工程で作成したスラリーと,第2工程で作成したスラリーを,所望により量調整しながら合わせた後に,丸網式抄造機により製造することを特徴とするノンアスベスト珪酸カルシウム板の製法である。
本発明は,珪酸カルシウム板の製造に使用される固形分原料を十分に繊維に吸着させることができるように,抄造方法を工夫したものである。即ち,各々,比較的に粉末度の小さい原料と,比較的に粉末度の大きい原料,繊維分とを有する2種類の叩解度の異なる天然セルロース繊維に別々の容器に,スラリー濃度を変化させて原料スラリーを作成し,これらの量割合を調整しながら,合せて用いて,合量した後,丸網式抄造機にかけることにより製造する珪酸カルシウム板の製法である。
本発明を更に説明すると,使用される天然セルロース系繊維は針葉樹,広葉樹,木綿,麻,故紙等のパルプでショッパー濾水度(SIS−P−8121)で80゜SR以上に叩解したパルプと,50〜70゜SRに叩解したパルプの2種類が必要である。
第1工程で使用するパルプは,高度の叩解を行なうため繊維質の軟かい短繊維系の広葉樹系パルプが最適であり,全乾物量に対して0.5〜3重量%の添加量が適当である。0.5重量%以下では固形分の吸着が悪く,3重量%を超えて添加すると,第2工程で使用するパルプとの関係で不燃性に問題が生じる。
これらのパルプは,消石灰,珪藻土等の微粒分を十分に吸着させるため,スラリー濃度15〜30%に調整する必要がある。
スラリー濃度15%未満では,固形分に吸着が悪く,濃度30%以上ではパルプの分散性が悪くなる。
第2工程で使用するパルプは,補強効果も期待できるように,繊維長をなるべく長く保つ必要があり,引張強度の強い麻,木綿等のパルプが好適である。全乾物量に対するパルプの添加割合は,0.5〜3重量%が適当である。
0.5重量%未満では固形分の吸着が悪く,3重量%を超えて添加しても,その効果はあまり期待できなく,且つ,上記のパルプの添加量との関係で不燃性に問題を生じることがある。これらの使用したパルプは,比較的に粉末度の悪い原料及び繊維分を混合してあるため,スラリー濃度を5〜10重量%に調整する必要がある。即ち,スラリー濃度5重量%未満では,固形分の吸着も悪く,混合機が大型が必要になり,設備的に問題を生じる。また10重量%以上では,繊維分の分散が悪くなる。
無機質添加材は,粉末状ワラストナイト,マイカ等を使用できる。使用量は全乾量に対して5〜20重量%が最適である。即ち,5重量%未満では,その効果が見られず,20重量%以上,過剰に添加すると曲げ強度が低下するためである。
使用する繊維としては,有機合成繊維があるが,オートクレーブ養生するためにそれに耐える繊維である必要であり,アクリル繊維,レーヨン繊維が使用できる。また,価格的に許されるならば,炭素繊維等を用いることが好適である。その使用量は,0.3〜2重量%が好適である。即ち,0.5重量%未満ではこの効果が見られず,2重量%以上添加すると,不燃性で問題を起こす。
[作用]
ショッパー濾水度80゜SR以上に叩解したセルロース繊維は,フィブリル化が高度に進行し適正水分量でのスラリー化により,繊維分の分散も良く,固形分の吸着,付着性を増加させ,特に,微粒子分をも容易に吸着できるものである。
ショッパー濾水度50゜〜70゜SRに叩解したパルプを第2工程で固形分とともにスラリー化すると,パルプは切断されず,固形分の吸着にも十分に効果があるばかりでなく,補強効果も増すものである。無機質添加材は熱的に安定な物質であり,耐候性,耐火性,寸法安定性に寄与している。従来,無機質繊維状物質を使用して,叩解したパルプへの吸着,付着を容易にし,また同時に補強効果を得るために使用されてきたが,本発明の抄造方法では,繊維状のものを使用する必要がなく,安価な粒状物で十分であるために製品の価格にもすぐれた効果を奏する。
本発明の抄造方法では,有機合成繊維は強度物性上で必要であり,特に耐衝撃性を向上させる作用がある。しかし,これらの原料は,スラリー化した状態で十分に分散,混合され,叩解された繊維に吸着されることによって本発明の抄造方法が達成されるものである。
次に,本発明の抄造方法を更に詳しく具体例により説明するが,本発明要旨を越えない限り,以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
珪藻土15g,消石灰22g,LBKP(広葉樹晒しパルプ)2gを使用して第1表に示すパルプの叩解度及びスラリー濃度を変化させて調整したスラリー濃度を変化させて調整したスラリーを60メッシュの金網上に流化させ,網下に流出する固形分量及び網上の固形分について繊維の分散状況を観察した。


[実施例2]
珪砂22g,セメント15g,ワラストナイト(粒状)10g,麻パルプ2g,アクリル繊維1gを第2表に示す。パルプの叩解度,スラリー濃度を変化させて調整したスラリーについて実施例1に示す試験方法で金網下固形分量及び網上の固形分について繊維の分散状況を観察した。


[実施例3]
珪藻土,珪砂,消石灰,セメント,ワラストナト,アクリル繊維,2種類の叩解度の異なるパルプを使用し,珪藻土,消石灰,LBKP(ショッパー濾水度85゜SRに叩解)を所定の量を計算し,スラリー濃度20%で混合して得たスラリーを,珪砂,セメント,ワラストナイト,アクリル繊維,木綿パルプ(ショッパー濾水度55゜SRに叩解)を所定量,計量し,スラリー濃度8%で混合して得たスラリーを合わせて丸網式抄造機を用いて,板状成形体を製造し,これら板状成形体はオートクレーブ養生を行なった後,乾燥して物性値を測定した。この結果を第3表に示す,即ち,配合割合,抄造状況,物性を示す。


[発明の効果]
本発明の珪酸カルシウム板の抄造方法は, 第1に,ノアンスベスト抄造製品で, 建築用部材として化粧性の優れた珪酸質−石灰質系成形体製品を製造できること, 第2に,低コストで耐久性に優れた仕上げを施すことができること, 第3に,成形後に,後のコーテイング塗布の必要を略することができるノンアスベスト抄造成形品の供給が可能になったことなどの技術的効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】粉末度(粒度)の小さい消石灰,珪藻土原料と全乾燥物量に対してショッパー濾水度80゜SR以上に叩解されたセルロース系繊維0.5〜3重量%をスラリー濃度で15〜30%になるように水を加えて,繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第1工程と;
その他の石灰分,珪酸質原料に全乾燥物量に対して,ショッパー濾水度50〜70゜SRに叩解した天然セルロース繊維0.5〜3重量%,無機質添加剤5〜20重量%,有機合成繊維0.5〜2重量%をスラリー濃度5〜10重量%になるように水を加え繊維に固形分を吸着させた状態にしたスラリーを得る第2工程とを有し;
第1工程で作成したスラリーと,第2工程で作成したスラリーを,所望により量調整しながら合わせた後に,丸網式抄造機により製造することを特徴とするノンアスベスト珪酸カルシウム板の製法。

【特許番号】第2582834号
【登録日】平成8年(1996)11月21日
【発行日】平成9年(1997)2月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−30871
【出願日】昭和63年(1988)2月15日
【公開番号】特開平1−208355
【公開日】平成1年(1989)8月22日
【出願人】(999999999)三菱マテリアル株式会社
【出願人】(999999999)三菱マテリアル建材株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭60−99100(JP,A)
【文献】特開 昭61−53141(JP,A)