説明

ハイストレッチ仮より加工糸及びその製造方法

【課題】 ハイストレッチ性であって、かつソフトな風合いとナイロン様のヌメリ感を持ち、ストレッチ素材用に適したポリエステル系仮より加工糸を提供する。
【解決手段】 ポリトリメチレンテレフタレート系繊維からなる仮より加工糸であって、伸縮伸長率が300%以上、かつ、伸縮弾性率が70%以上を有するハイストレッチ仮より加工糸である。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート層を1層とする、サイドバイサイド型又は偏心芯鞘型複合のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維を120〜190℃の加工温度で仮より加工することによって製造することができるハイストレッチ仮より加工糸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系仮より加工糸に関する。さらに詳しくは、ソフトな風合いとナイロン様のヌメリ感を持ちながら、弾性回復性に優れたストレッチ素材用に適したハイストレッチ性の仮より加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性回復性に優れ、ストレッチ素材用に適したポリエステル系繊維としては、例えば、ポリプロピレンテレフタレート繊維を仮より加工したポリエステル系仮より加工糸が提案されている(特許文献1参照)。この仮より加工糸は、弾性回復性及びその持続性に優れ、またヤング率が低いことからソフトであるが、ストレッチ性が不十分であり、ストレッチ性がさらに高いハイストレッチ性の素材が要求されている。
【特許文献1】特開平9−78373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、ハイストレッチ性であって、かつソフトな風合いとナイロン様のヌメリ感を持ち、ストレッチ素材用に適したポリエステル系仮より加工糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明のハイストレッチ仮より加工糸は、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維からなる仮より加工糸であって、伸縮伸長率が300%以上、かつ、伸縮弾性率が70%以上であることを特徴とするものである。また、このハイストレッチ仮より加工糸を、ポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維からなるフィラメント糸を120℃〜190℃の加工温度で仮より加工することによって製造することを特徴とするものである。
【0005】
このように、本発明の仮より加工糸は、特定のポリエステル系複合繊維を特定条件で仮より加工することによって製造することが可能になったものである。
【0006】
本発明において、伸縮伸長率(%)、伸縮弾性率(%)は、JIS−L−1090伸縮性試験方法(A法)に準じて測定した値であり、測定の試料としては、0.3mg/dの荷重下で乾熱90℃×15分処理を行った後、一昼夜放置したものを用いた。
【発明の効果】
【0007】
本発明の仮より加工糸は、ソフトな風合いとナイロン様のヌメリ感を持ちながら、極めて高い伸縮伸長率と高い伸縮弾性率とをもち、弾性回復性に優れたハイストレッチ素材用に適したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明においては、ポリエステル系繊維としてポリトリメチレンテレフタレート系繊維を使用する。該繊維を使用することにより、仮より加工してもポリエステル系加工糸特有のふかつき感が発生せず、ナイロン様のヌメリ感のある風合いと優れたストレッチ性を持つ加工糸とすることができる。
【0009】
このポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、ポリトリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルを用いて製造された繊維である。
【0010】
このポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステルは、トリメチレンテレフタレート単位を50モル%以上、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90〜100モル%以上含むものである。従って、第三成分として他の酸成分及び/又はグリコール成分を合計量で50モル%以下、好ましくは30モル%以下、更に好ましくは10モル%以下の範囲で含有するものでもよい。
【0011】
ポリトリメチレンテレフタレートは、テレフタル酸又はその機能的誘導体と、トリメチレングリコール又はその機能的誘導体とを、触媒の存在下で、適当な反応条件下に重合させることにより製造することができる。この製造過程において、適当な一種又は二種以上の第三成分を添加して共重合ポリエステルとしてもよいし、又、ポリエチレンテレフタレート等のポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、ナイロンとポリトリメチレンテレフタレートを別個に製造した後、ブレンドしてもよい。
【0012】
添加する第三成分としては、脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、アジピン酸等)、脂環族ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、ソジウムスルホイソフタル酸等)、脂肪族グリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール等)、脂環族グリコール(シクロヘキサンジオール等)芳香族ジオキシ化合物(ハイドロキノンビスフェノールA等)、芳香族を含む脂肪族グリコール(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等)、ポリエーテルグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、脂肪族オキシカルボン酸(ω−オキシカプロン酸等)、芳香族オキシカルボン酸(P−オキシ安息香酸等)等が挙げられる。又、1個又は3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物(安息香酸等又はグリセリン等)も重合体が実質的に線状である範囲内で使用できる。
【0013】
更に、二酸化チタン等の艶消し剤、リン酸等の安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、タルク等の結晶化核剤、アエロジル等の易滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、難燃剤、制電剤、顔料、蛍光増白剤、赤外線吸収剤、消泡剤等が含有されていてもよい。
【0014】
本発明においては、上記ポリトリメチレンテレフタレート層を1層とする複合繊維を用いることが好ましく、特に、サイドバイサイド型又は偏心芯鞘型複合のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維を用いることが好ましい。
【0015】
複合繊維を構成する各層のうち、少なくとも1層はポリトリメチレンテレフタレート層である。例えば、ポリトリメチレンテレフタレート層と他のポリエステルからなる層とが複合された複合繊維や、低粘度のポリトリメチレンテレフタレートからなる層と高粘度のポリトリメチレンテレフタレートからなる層とが複合された複合繊維が挙げられる。前者の複合繊維の場合は、各層のポリマが相違することによってコイル状捲縮が発現するものであり、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート層とポリエチレンテレフタレート層とからなるサイドバイサイド複合繊維や偏心芯鞘型複合繊維が挙げられる。また、後者の複合繊維の場合は、各層のポリマが同種でも粘度が相違することによってコイル状捲縮が発現するものである。
【0016】
ポリトリメチレンテレフタレート層と他のポリエステル層とからなるポリエステル複合繊維の場合、他のポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる共重合ポリエチレンテレフタレートでもよい。
【0017】
本発明で用いるポリトリメチレンテレフタレート系繊維の製造方法を、ポリトリメチレンテレフタレートを1層とする複合繊維の場合を例にとって以下説明する。
【0018】
ポリトリメチレンテレフタレートと、他のポリエステル若しくは粘度が相違するポリトリメチレンテレフタレートとを溶融複合紡糸装置で所定の複合形態で複合した後、口金から吐出し、1500m/分程度で巻き取って未延伸糸とし、次いで、2〜3.5倍程度で延伸する2工程法により複合繊維の延伸糸を製造する。製糸方法は、紡糸−延伸工程を直結した直接紡糸延伸法でもよいし、また、巻き取り速度5000m/分以上の高速紡糸することにより延伸状態の繊維を製造する高速紡糸法のいずれでもよい。
【0019】
本発明で使用するポリトリメチレンテレフタレート系繊維の単糸繊度は0.5〜5dtex程度が好ましい。単糸繊度が0.5dtexよりも小さい場合は、仮より加工時に毛羽や糸切れを発生しやすく、また、5dtexよりも大きい場合は、風合いが硬くなるので好ましいものではない。
【0020】
上記したポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、次いで、仮より加工される。この仮より加工には、一般に用いられるピンタイプ、フリクションタイプ、ベルトニップタイプ等のいかなる方法を用いてもよいが、好ましくは高速フリクションタイプである。仮より加工することによって伸縮伸長率が300%以上、伸縮弾性率が70%以上の仮より加工糸とするためには、仮より加工時の加工温度、加工張力、仮より数の設定が重要であり、例えば、加工温度は120〜190℃、好ましくは150〜180℃とする必要がある。この加工温度が低すぎる場合には、前記したポリトリメチレンテレフタレート系繊維を用いたにしても、伸縮伸長率が300%以上の仮より加工糸を製造することは難しい。
【0021】
また、仮より数(T)は、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維の仮より加工で通常に用いられる範囲と同様であればよい。即ち、次式により求められる仮より係数(K)の値が29000〜35000の範囲であることが好ましい。
T(t/m)=K/√D
(式中、T は 仮より数(t/m)、Kは仮より係数、Dは、仮より加工糸の繊度(dtex)である。)
【0022】
なお、仮より加工は、必要に応じて、トリメチレンテレフタレート繊維の複数種を混繊させた混繊糸や他のポリエステル繊維を混繊させた混繊糸の状態で行ってもよい。また、他の繊維維糸条との同時仮より、位相差仮より、伸度差仮より等の公知の複合仮より手段によって複合仮より加工としてもよい。
【0023】
このようにして製造することができる本発明の仮より加工糸は、伸縮伸長率は300%以上、好ましくは320%以上、特に好ましくは350%以上というハイストレッチ性を有する。伸縮伸長率が300%よりも小さいと、ハイストレッチ素材としての伸縮性が不足する。伸縮弾性率は70%以上、特に好ましくは80%以上である。伸縮弾性率が70%よりも小さい場合は、ストレッチ素材としての弾性回復性能が不十分である。
【0024】
本発明のハイストレッチ仮より加工糸は、他の原糸や加工糸と交絡させたり、タスラン加工や交撚等の手段で加工させたりして複合糸として用いてもよい。また、本発明の仮より加工糸や上記の複合糸を撚糸して用いてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
[極限粘度(η)]
オルソクロロフェノール10mlに対し試料0.1gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0027】
[実施例1]
極限粘度が1.31のポリトリメチレンテレフタレートと極限粘度が0.52のポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で24孔のサイドバイサイド型複合紡糸口金によりポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの重量比率が50/50となるように吐出し、紡糸速度1400m/分で引き取り、165dtex24フイラメントの未延伸糸とした。さらに、ホットロール−熱板型延伸機を用い、ホットロール温度70℃、熱板温度145℃、延伸倍率3.0で延伸して、56dtex24フイラメントのサイドバイサイド型ポリエステル系複合繊維(延伸糸)を製造した。
【0028】
得られた延伸糸を、TMT社製TMC−1仮より加工機(フリクションタイプ)を用いて、加工速度400m/分、加工倍率1.02、仮より数4100t/mの条件で、仮より加工温度を表−1に示す温度(150℃、170℃、又は、190℃)に設定して仮より加工を行った。得られた仮より加工糸の伸縮伸長率、伸縮弾性率の測定結果を表1に示す。
【0029】
また、得られた仮より加工糸を用い、28ゲージの筒編み機で編成し、編み検染料で染色したところ、伸縮性及び回復性に富んだ編物が得られた。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のハイストレッチ仮より加工糸は、ストッキング類、タイツ、ソックス(特に裏糸や口ゴム部分)、三段スムースや四段スムースのスポーツウエアー等のジャージ類等に適用することができる。また、ゾッキや交編タイプのストッキング類に用いられる被覆弾性糸のカバリング用糸や、交編タイプストッキング等の交編編地の伴糸等としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維からなる仮より加工糸であって、伸縮伸長率が300%以上、かつ、伸縮弾性率が70%以上であることを特徴とするハイストレッチ仮より加工糸。
【請求項2】
ポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維からなるフィラメント糸を120〜190℃の加工温度で仮より加工することによって請求項1記載のハイストレッチ仮より加工糸を製造することを特徴とする仮より加工糸の製造方法。
【請求項3】
ポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維が、ポリトリメチレンテレフタレート層を1層とする、サイドバイサイド型又は偏心芯鞘型複合のポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維であることを特徴とする請求項2記載の仮より加工糸の製造方法。