説明

ハイハットシンバル用クラッチ

【課題】 演奏中にハイハットをハーフオープン状態に切り替えるためのドロップ式クラッチを提供する。
【解決手段】クラッチボルト(5)に上下一対のロックナット(6)とストッパー用ナット(7)、上部シンバル(10)を保持するための上下一対のロックナット(8)、フェルトワッシャー(9)、ボトムナット(11)を螺着、もしくは挿通させる。このクラッチをロッド(1)に設置し、フック(4)をロックナット(6B)に引っかけた状態でロックナット(6)を上下に回転移動させ、ハイハットを好みのハーフオープンの状態にした後、上下ロックナット(6A、6B)が互いに近づく方向に締めつけることで固定が完了する。以後、フック(4)がストッパー用ナット(7)に引っかかったハイハットオープンの状態でフックレバー部(4A)を叩くことで瞬時にあらかじめ設定したハーフオープンの状態に切り替えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイハット上部シンバルのドロップ式クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のドロップ式クラッチについて代表的な一形態について概略を説明する。その一例の側面図を図5に示す。その構成は大別するとクラッチヘッド(3)とクラッチボルト(5)の2つを基礎とする部品からなる。クラッチヘッド(3)にはフック(4)とウイングボルト(2)が装着している。クラッチヘッド(3)は円筒体(3A)でその中心軸はロッド(1)の径より若干大きい孔が貫通しており、その孔に対して表面から垂直方向に貫通するネジ孔も有している。クラッチヘッド(3)の中心軸にロッド(1)を通した後、ウイングボルト(2)をねじ孔にねじ込むとクラッチヘッド(3)がロッド(1)に固定される。またクラッチヘッド(3)表面には中心軸に対して垂直方向に突起(3B)があり、ここにフック(4)とバネ(12)を装着する。バネ(12)の弾性力により、フック(4)には常にフック突起(4B)が出ている方向に回転するような力がかかっている。
【0003】
クラッチボルト(5)はロッド(1)が摩擦なく貫通可能な大きさの孔が空いた中空ボルトであり、ここに上から円錐の側面状の傾斜面を有するストッパー用ナット(15)、上下一対からなるロックナット(8)を螺着し、このロックナット(8B)とクラッチボルト(5)最下部に位置するボトムナット(11)で上下一対のフェルトワッシャー(9)と上部シンバル(10)を挟み、これらを保持する。ストッパー用ナット(15)は、その最下面からクラッチボルト(5)の最上面までの距離が、フック突起部(4B)からクラッチヘッド円筒体(3A)の最下面までの距離と等しくなる位置で動かぬよう固定し、それによりフック(4)がストッパー用ナット(15)に引っかかった状態ではクラッチボルト(5)がその中心軸方向へのわずかな運動もできないようになる。
【0004】
以上のようなクラッチヘッド(3)とクラッチボルト(5)をロッド(1)に通し、フック(4)をストッパー用ナット(15)に引っかけた状態で、上部シンバル(10)と下部シンバル(13)の間に適当な隙間が開く位置で、上部シンバル(10)が落下しないように、ウイングボルト(2)をロッド(1)に押圧し固定する。この状態でハイハットの演奏が可能となる。演奏中フックレバー(4A)をスティックなどで叩くとストッパー用ナット(15)からフック(4)が離れる。その瞬間、上部シンバル(10)と一体となったクラッチボルト(5)がロッド(1)をレールとした状態で自由落下運動を始め、上部シンバル(10)の外周が下部シンバル(13)の外周と衝突した後静止し続けることになる。このときシンバルを叩くと上部シンバル(10)の重みでシンバルの振動が消され、残響がなくなる。この状態を上部シンバル(10)と下部シンバル(13)の間が閉じられた状態なのでクローズ状態と呼ぶ。また、図4に示すように、ハイハットスタンドペダル(14)を踏み込むとロッド(1)が下方向に引っ張られるので、ロッド(1)に固定されたクラッチヘッド(3)も下方に動く。クラッチヘッド(3)がクラッチボルト(5)の上端に接するところまで踏み込めばフック(4)が再度ストッパー用ナット(15)に引っかかり、その後踏み込みを解除するとフック(4)に引き上げられる形で上部シンバル(10)は上昇し、ハイハットのオープン状態を維持する。従来のドロップ式クラッチは、以上のような機構によりハイハットのオープン、クローズ状態を簡単に切り替えることを可能とし、その目的は演奏中にクローズ状態の音色を得ることであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これには、次のような欠点があった。そもそもドロップ式クラッチは、ツーバス奏法という演奏法を用いるドラム奏者が使用するものである。ツーバス奏法は、ハイハットスタンドペダル(14)に置いていた足で別のペダルを操作する奏法であり、その際は必然的にハイハットがオープン状態になるが、この状態でハイハットを叩くと上部シンバル(10)の音の減衰が過度に遅く、ハイハットが音楽的な役目を果たさなくなる。
【0006】
そこで従来のドロップ式クラッチを用いればクローズ状態の音を得ることができるが、ツーバス奏法中はクローズ状態の音の他に、上部シンバル(10)と下部シンバル(13)のわずかな接触で適度な残響が得られるハーフオープン状態の音が好まれて用いられることが非常に多く、ドラム奏者個々人にとってクローズからオープン状態まで無断階に音の選択が可能であれば、より音楽的な演奏ができるのであるが、従来のドロップ式クラッチではクローズ状態の残響のない音しか出すことができず、音楽的な表現の幅に制限を設けることにつながった。本発明の目的は、以上のような欠点をなくし、クローズ状態のみならず任意のハーフオープン状態にもすることができるドロップ式ハイハットクラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来のストッパー用ナット(15)よりも厚みが薄いストッパー用ナット(7)を用意する。このストッパー用ナット(7)は必ずしも円錐状の傾斜面を必要とはしない。これをクラッチボルト(5)に螺着し、その上部に上下一対のロックナット(6)を追加、螺着する。このときロックナット(6)の上下側にクラッチボルト(5)のねじ溝が適度に露出する程度のスペースを、クラッチボルト(5)上面から確保した位置でストッパー用ナット(7)を固定するのがよい。またロックナット(6)は、その径がストッパー用ナット(7)と同じか、それよりもすこし大きいものを用いるのがよい。上下一対のロックナット(6)の代わりに、側面から内空に向かって貫通したねじ孔とそこにねじ込むことができるボルトを有したナットを用いてもよい。ロックナット(6)を用いる利点は、ストッパー用ナット(7)より上部のクラッチボルト(5)の任意の位置で、上下ロックナット(6A、6B)が互いに近づくように締めることで、ナット中心軸方向に力が加わり、それがロックナット(6)のねじ溝とクラッチボルト(5)のねじ溝間に摩擦を生み、結果容易に固定できることである。
【0008】
フック(4)をストッパー用ナット(7)に引っかけた状態でフックレバー部(4A)を叩くとフック(4)がストッパー用ナット(7)から離れ、その瞬間クラッチボルト(5)は落下を始めるが、クラッチヘッド突起部(3B)とフック(4)間のバネ(12)の弾性力によってフック(4)にはフック突起(4B)方向に回転する力が加わっているため、早急にフック(4)はクラッチボルト(5)側面に接触することになり、結果下部ロックナット(6B)の下面にフック(4)が引っかかる。これにより本発明の目的達成に必要な、クラッチボルト(5)の落下距離の調整が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
上部シンバル(10)を、オープンからクローズ状態までの、任意の高さに落とすことができるので、個人の好みに合ったハーフオープンの状態を作り出すことができる。クローズ状態にしたければそのように調整することも可能であるし、ハーフオープンの状態からさらに上部シンバル(10)を落とし、クローズ状態にすることで2種類の状態の音色を得ることも可能である。これはつまり本発明は従来のドロップ式クラッチの機能を内包しているということである。また、開き具合の調整に関してはロックナット(6)を回して上下方向に移動させるだけなので、短時間で容易に調整を完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実用例を示す側面図である。
【図2】クラッチヘッド部の斜視図である。
【図3】クラッチボルト部の分解斜視図である。
【図4】ハイハットスタンドの斜視図である。
【図5】従来のドロップ式クラッチの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例の側面図を図1に示す。クラッチヘッド(3)は、図2に示すように、円柱の中心軸にロッドの径より若干大きい孔が貫通した円筒体(3A)と、表面から内空まで中心軸に垂直方向に貫通したねじ孔とそれにねじ込むことができるウイングボルト(2)と、回転できるように円筒体(3A)の側面にある突起(3B)に一点で固定されたフック(4)と、フック(4)と円筒体(3A)の間に反発力が加わるようにクラッチヘッド突起部(3B)に設置されたバネ(12)から構成される。
【0012】
クラッチボルト(5)は、図3に示すように、ロッド(1)の径より若干大きい孔が貫通した全周囲にねじ溝を有するボルトで、これに螺着可能な上下一対のロックナット(6)、ストッパー用ナット(7)、上下一対のロックナット(8)、ボトムナット(11)を、上からこの順になるようクラッチボルト(5)に螺着させる。ナットの径に関しては上部ロックナット(6)がストッパー用ナット(7)と同じかそれよりも大きいほうがよい。また上部ロックナット(6)の代わりに、側面から内空に向かって貫通したねじ孔とそこにねじ込むことができるボルトを有したナットを用いてもよい。ストッパー用ナット(7)は下面にフック(4)を引っかけた状態でクラッチボルト(5)上面とクラッチヘッド円筒体(3A)の下面が密着するような位置で、以後回転しないように固定する。ストッパー用ナット(7)の固定方法は接着剤を用いてもよいし、もしくはナット表面から内空まで貫通したねじ溝とこれにねじ込み可能なボルトからなるナットを用いてもよい。また、このときロックナット(6)が上方にも下方にも適度に移動できる程度のスペースが確保できるように、フック(4)の固定位置もそれに合わせて決定する必要がある。また上下一対のフェルトワッシャー(9)の間に上部シンバル(10)を挟み、ロックナット(8)とボトムナット(11)の間に通す。
【0013】
以上の部品によって構成されたクラッチヘッド(3)とクラッチボルト(5)を、上からこの順になるようロッド(1)に挿通する。この際、フック(4)をストッパー用ナット(7)に引っかけた状態でウイングナット(2)を上部シンバル(10)と下部シンバル(13)に適度な隙間が空く位置で締める。ロックナット(6)の位置についてはフック(4)をロックナット(6B)に引っかけたとき、上部シンバル(10)と下部シンバル(13)の隙間が狭まった任意の位置で上下ロックナット(6A、6B)が近づく方向に締め付けて固定すればよい。
【0014】
使用例として、フック(4)がストッパー用ナット(7)に引っかかった状態でフックレバー部(4A)を叩くことで、フック(4)がストッパー用ナット(7)から外れ、その瞬間上部シンバル(10)を備えたクラッチボルト(5)が落下を始め、バネ(12)の弾性力により自動的にもとの位置に復元したフック(4)がロックナット(6B)下面に引っかかり、上部シンバル(10)と下部シンバル(13)の隙間を瞬時に狭めることに用いる。またその後元の位置に上部シンバル(10)を復元するのであれば、図4に示すように、ハイハットスタンドペダル(14)を踏みこんでロッド(1)を下方に動かし、フック(4)がストッパー用ナット(7)外面に沿いながら再びストッパー用ナット(7)下面に引っかかった後、踏み込みを解除すれば完了する。
【0015】
なお、本発明の構成部品の形状について、クラッチボルト(5)、ロックナット(6)、ストッパー用ナット(7)に関しては円形のものがよいが、その他の部品に関しては上記の機能を損なわない範囲であればその形状に制限はないものとする。
【符号の説明】
【0016】
1 ロッド
2 ウイングボルト
3 クラッチヘッド(3A:円筒体、3B:突起部)
4 フック(4A:レバー部、4B:突起部)
5 クラッチボルト
6 ロックナット
7 ストッパー用ナット
8 ロックナット
9 フェルトワッシャー
10 上部シンバル
11 ボトムナット
12 バネ
13 下部シンバル
14 ハイハットスタンドペダル
15 ストッパー用ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイハットロッド(1)が通る円筒体(3A)と、その表面から内空まで中心軸に垂直方向に貫通したねじ孔にねじ込むことができるウイングボルト(2)と、円筒体(3A)の側面にある突起(3B)に回転できるように一点で固定されたフック(4)と、フック(4)と円筒体(3A)の間に反発力が加わるようにクラッチヘッド突起部(3B)に設置されたバネ(12)から構成されるクラッチヘッド(3)部と、全周囲にねじ溝を有するクラッチボルト(5)と、これに螺着可能で任意の位置で締め付け固定可能な上下一対のロックナット(6)と、ストッパー用ナット(7)と、その下方にさらに上下一対のロックナット(8)と、上下一対のフェルトワッシャー(9)と、このフェルトワッシャー(9)をロックナット(8)と挟むことができるボトムナット(11)から構成されるクラッチボルト(5)部を備え、フック(4)がストッパー用ナット(7)から外れた後ロックナット(6B)に再び引っかかることで、演奏中ハイハットのオープン状態から瞬時にハーフオープン状態のセッティングへと変換可能にしたことを特徴とするハイハットのドロップ式クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−224275(P2010−224275A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72087(P2009−72087)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(309008468)