説明

ハイブリッドポリヌクレオチドの作製法

【課題】 比較的低い相同性を持つポリヌクレオチドにも適用可能で、しかも操作が簡便なハイブリッドポリヌクレオチドの作製法を提供する。
【解決手段】 ハイブリッドさせようとするポリヌクレオチドを含む2つの直鎖状分子を、相同組換え能を持つ微生物に導入することによって、ハイブリッドポリヌクレオチドを作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドポリヌクレオチドの作製法に関する。複数の既存のタンパク質のアミノ酸構造を人為的に交換し、ハイブリッドタンパク質を作製し、機能を改良しようとするタンパク質工学の試みが数多くなされている。本発明は、そうしたタンパク質工学の分野に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
酵素などのタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を加え、耐熱性や基質特異性などの機能を改良する試みは従来から行われている。タンパク質をコードする遺伝子にUV照射や化学的処理を行い、突然変異を導入する方法は古くから行われてきたが、この方法では得られる変異の多様性が低いという欠点があった。近年になって相同性を持つ2種以上のタンパク質の間でハイブリッドを形成することにより多様な変異体を作製する方法が開発されてきた。DNAシャフリング法あるいはSexual PCRと呼ばれる方法では複数の相同性を持つ遺伝子(親遺伝子)を断片化し、断片を混合してPCRにより再構成させることで、複数の親遺伝子がランダムに混合されたハイブリッド遺伝子を多数得ることができる(特許文献1)。また、遺伝子の断片化を制限酵素で行うことで、ハイブリッド遺伝子の形成効率を上昇させることもできる(特許文献2)。
【0003】
また、大腸菌あるいは酵母の細胞の持つ相同組換えの性質を利用してもハイブリッド遺伝子を作製することができる。例えば大腸菌のRecAタンパク質の性質を利用した方法では、相同性のある2種の遺伝子を適当なベクターに同じ向きにタンデムに並べて挿入し、2種の遺伝子の間で切断し、直鎖状のDNAにしたものを用いて大腸菌を形質転換する。その結果、RecAタンパク質の働きで2種類の遺伝子間の1カ所で組み換えが起こり、環状のベクターになるものが生じる。ベクターには抗生物質耐性遺伝子を別に導入しておき、抗生物質により形質転換した大腸菌を選抜することにより組み換えが起こって環状のベクターになったもののみを選択できる。
【0004】
【特許文献1】特表平10-500561号公報
【特許文献2】特開2000-245473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のハイブリッド遺伝子作製法により多様性の大きな変異体を作製可能である。しかしながらこれらの方法にはいずれも問題点がある。DNA シャフリング法では遺伝子を断片化し、混合、PCRを行うという煩雑な工程が必要である。また、遺伝子の再構成にPCRを用いているため、組換えを行わせる遺伝子間の相同性が全長にわたり高くなくてはならない(約70%以上)。また、相同組換えを用いる方法では、一度の反応で一回の相同組換えしか起こらず、得られるハイブリッド遺伝子の種類がDNAシャフリング法に比べて少ない。二回目、三回目の相同組換えにより、ハイブリッド遺伝子の種類を増やすことは可能であるが、そのためには、その都度遺伝子をクローン化し、タンデムに挿入したプラスミドを作製する必要があり、非常に煩雑である。本発明の目的は比較的低い相同性を持つ遺伝子の間でもハイブリッド遺伝子を構成可能で、しかも操作が簡便なハイブリッドポリヌクレオチドの作製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
基質の一部に酸素を添加し、隣り合う2つの炭素原子にヒドロキシル基を導入するジオキシゲナーゼ類のうち、芳香族環にヒドロキシル基を導入するジオキシゲナーゼ類は数多くの微生物種から見いだされており、スーパーファミリーを形成している。同じスーパーファミリーに属する2種のビフェニルジオキシゲナーゼ(BphA)を材料として選んだ。ビフェニルジオキシゲナーゼは4種のサブユニットから構成され、最大のサブユニットがBphA1である。本発明者は2種類のビフェニル分解菌であるシュードモナス・シュードアルカリゲネス KF707株およびシュードモナス・プチダ KF715株のbphA1遺伝子を用い、DNAシャフリング法によりハイブリッド遺伝子を作製することに成功している。しかしながら、遺伝子の断片化に要する操作が非常に煩雑であった。そこで、この2種類のbphA1遺伝子を用いてより簡便なハイブリッド遺伝子を作製する方法の開発を試みた。
【0007】
従来の微生物内での相同組換え法は、2種類の相同な遺伝子をタンデムにクローン化した後、これを制限酵素で切断して直鎖状DNAとし、次いで、この直鎖状DNAを大腸菌内での相同組換えによって環状化することによって行われてきた。本発明者は、この従来法における大腸菌内での環状化工程に着目し、2種類の遺伝子を含む一つの直鎖状DNAを大腸菌に導入するのではなく、1種類の遺伝子を含む二つの直鎖状DNAを大腸菌に導入することにより、簡便にハイブリッド遺伝子を作製できることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕以下の(1)〜(6)の工程を含むことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)第一のポリヌクレオチドと、第一のポリヌクレオチドと相同な配列を持つ第二のポリヌクレオチドをそれぞれ任意のベクターに同じ向きでクローニングする工程、
(2)第一のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方を第一のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方を第一のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(3)第二のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方を第二のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方を第二のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(4)第一のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子と第二のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(5)第一のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子と第二のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(6)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【0010】
〔2〕以下の(1)〜(3)の工程を少なくとも一回行うことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)〔1〕記載の工程(6)又は下記の工程(3)において採取されたハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方をハイブリッドポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方をハイブリッドポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(2)上記2群の直鎖状分子を、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(3)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【0011】
〔3〕以下の(1)〜(6)の工程を含むことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)第一のポリヌクレオチドと、第一のポリヌクレオチドと相同な配列を持つ第二のポリヌクレオチドをそれぞれ任意のベクターに同じ向きでクローニングする工程、
(2)第一のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方については第一のポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方については第一のポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれ第一のポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(3)第二のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方については第二のポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方については第二のポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれ第二のポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(4)第一のポリヌクレオチドを鋳型とし、5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子と、第二のポリヌクレオチドを鋳型とし、3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(5)第一のポリヌクレオチドを鋳型とし、3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子と、第二のポリヌクレオチドを鋳型とし、5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(6)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【0012】
〔4〕以下の(1)〜(3)の工程を少なくとも一回行うことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)〔3〕記載の工程(6)又は下記の工程(3)において採取されたハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方についてはハリブリッドポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方についてはハイブリッドポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(2)上記2群の直鎖状分子を、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(3)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【発明の効果】
【0013】
従来の微生物を用いたハイブリッド遺伝子の作製方法では、ハイブリッドさせようとする遺伝子をタンデムにクローン化したベクターを作製するなど煩雑な作業が必要であったが、本発明では、そのような煩雑な作業を行うことなく、ハイブリッド遺伝子を作製できる。また、作製したハイブリッド遺伝子は、簡単な処理で、次のハイブリッド遺伝子作製のための親遺伝子として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明に使用する任意のベクターは特に限定されないが、通常、抗生物質耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を含むものを使用する。
【0016】
本発明に使用する相同組換え能を持つ微生物は特に限定されないが、通常、recA遺伝子を持つ大腸菌株を使用し、recBCsbcA変異株の大腸菌を使用するのが特に好ましい。
【0017】
本発明の概要を図1を用いて説明する。
【0018】
第一のポリヌクレオチド(図1中の遺伝子A)と、第一のポリヌクレオチドと相同な配列を持つ第二のポリヌクレオチド(図1中の遺伝子B)をそれぞれ適当な同じ種類のベクターのマルチクローニングサイトに導入したものを例に説明するが、本発明は相同性のある遺伝子断片すべてに適用できる。また、図1では、第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチドとしてそれぞれ1種類の遺伝子(遺伝子A及び遺伝子B)を使用しているが、二種類以上の遺伝子を用いてハイブリッドポリヌクレオチドを作製してもよい。更に、以下の説明では、抗生物質耐性遺伝子を利用して、相同組換え体の選抜を行っているが、他の手段によって相同組換え体の選抜を行ってもよい。
【0019】
第一のポリヌクレオチドをクローン化した環状ベクターを制限酵素等により第一のポリヌクレオチドの5'末端若しくは3'末端又はいずれかの末端の近傍で切断し、直鎖状分子を作製する。ここで「5'末端の近傍」とは、第一のポリヌクレオチドの5'末端の上流側の部分と下流側の部分の両方を含み、上流側については、第一のポリヌクレオチドの5'末端から最大でベクターの複製開始点まで(複製開始点は含まない)の部分(より好ましくは5'末端から約20塩基上流までの部分)をいい、下流側については、第一のポリヌクレオチドの5'末端から約20塩基下流までの部分をいう。また、「3'末端の近傍」とは、第一のポリヌクレオチドの3'末端の上流側の部分と下流側の部分の両方を含み、下流側については、第一のポリヌクレオチドの3'末端から最大でベクターの複製開始点まで(複製開始点は含まない)の部分(より好ましく3'末端から約20塩基下流までの部分)をいい、上流側については、第一のポリヌクレオチドの3'末端から約20塩基上流までの部分をいう。
【0020】
第二のポリヌクレオチドをクローン化した環状ベクターを制限酵素等により第一のポリヌクレオチドをクローン化した環状ベクターの場合とは別の末端又はその近傍で切断し、直鎖状分子を作製する。これにより、(a)第一のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子、(b)第一のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子、(c)第二のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子、(d)第二のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子の4種類の直鎖状分子が得られる。これらの4種類の直鎖状分子のうち、(a)と(d)又は(b)と(c)を混合し、相同組換え能を持つ微生物に導入する。その後、微生物をベクターに応じた抗生物質を含む寒天培地状に接種する。2種類のポリヌクレオチドの相同性を持つ部分で組換えが起こり、環状になった分子を持つもののみが培地状に生育してくる。生育してきたコロニーを、寒天培地に用いたものと同じ抗生物質を含む液体培地中で増殖、菌体を遠心分離操作により回収し、含有するベクターを精製する。導入する直鎖状分子の組み合わせは二通りあるので((a)と(d)及び(b)と(c))、それぞれについてライブラリーができる。これらを混合したものを一回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーとする。一回目組換えハイブリッドポリクレオチドライブラリーはそのそれぞれが第一のポリヌクレオチドと第二のポリヌクレオチドとの間で1回組換えを起こしたハイブリッドポリヌクレオチドが挿入された環状ベクターからなる。
【0021】
次に一回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを用いて二回目の組換えを行う(図2)。一回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを2つに分け、一方はハイブリッドポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で、もう一方はハイブリッドポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で一回目組換え操作と同様に切断し、それぞれ直鎖状分子を作製する。この2種の直鎖状分子を混合し、相同組換え能を持つ微生物に導入する。その後、微生物を適当な抗生物質を含む寒天培地状に接種する。生育したコロニーを抗生物質を含む液体培地により増殖し、ベクターを精製、二回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーとする。二回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーは、そのそれぞれが第一のポリヌクレオチドと第二のポリヌクレオチドとの間で2回以上組換えを起こしたハイブリッドポリヌクレオチドが挿入された環状ベクターからなる。
【0022】
二回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを用い、上記と同様の操作により三回目の組換えを行い、三回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを作製、さらに三回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを用いて四回目の組換えを行い、四回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを作製、というように繰り返し組換えを行うことができ、そのたび毎にハイブリッドポリヌクレオチドの組換えの回数が増し、複雑さを向上させることができる。
【0023】
上述のハイブリッドポリヌクレオチドの作製法では、環状ベクターの一部を切断することにより直鎖状分子を作製していたが、環状ベクターを切断する代わりに、環状ベクターを鋳型としたPCRによっても直鎖状分子を作製することができる。即ち、ポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍を切断する代わりに、5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いたPCRを行うことによって同様の直鎖状分子を作製でき、また、3'末端又はその近傍を切断する代わりに3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いたPCRを行うことによって同様の直鎖状分子を作製できる。ここで「5'末端の付近」とは、ポリヌクレオチドの5'末端の上流側の部分と下流側の部分の両方を含み、上流側については、ポリヌクレオチドの5'末端から最大でベクターの複製開始点まで(複製開始点は含まない)の部分(より好ましくは5'末端から約20塩基上流までの部分)をいい、下流側については、ポリヌクレオチドの5'末端から約20塩基下流までの部分をいう。また、「3'末端の付近」とは、ポリヌクレオチドの3'末端の上流側の部分と下流側の部分の両方を含み、下流側については、ポリヌクレオチドの3'末端から最大でベクターの複製開始点まで(複製開始点は含まない)の部分(より好ましく3'末端から約20塩基下流までの部分)をいい、上流側については、ポリヌクレオチドの3'末端から約20塩基上流までの部分をいう。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕芳香環ジオキシゲナーゼ大サブユニットハイブリッド遺伝子の作製
シュードモナス・シュードアルカリゲネス KF707株およびシュードモナス・プチダKF715株を2mlのL培地で37℃、一晩培養し、常法に従いそれぞれのゲノムDNAを抽出した。これらのゲノムDNAおよび、BphA1両末端領域のアミノ酸配列をコードするプライマーを用いてPCRを行い、ビフェニルジオキシゲナーゼ大サブユニット遺伝子に相当する約1.5kbの遺伝子断片をそれぞれ増幅した。プライマーはbphA1開始コドン付近20bp(フォワードプライマー1)および、終始コドン下流15bp付近20bpの配列(リバースプライマー1)をそれぞれ合成して作製した。以下にプライマーの塩基配列を示す。
【0025】
フォワードプライマー1: 5’- GAA TCA TGA GCT CAT CAA TC -3’
リバースプライマー1 : 5’- GGT TGA CAG ATC TAA CGA TT -3’
PCRの条件は、94℃1分、61℃1分、72℃1分で、30サイクル行った。
【0026】
増幅されたそれぞれの1.5kb遺伝子断片をアガロースゲル電気泳動で分離後、バンドを切り出して精製し、pT7Blue perfect blunt cloning kit(Novagen社)を用い、クローニングベクターpT7Blueのマルチクローニングサイトに挿入した。作製したプラスミドをそれぞれ707A1pT7B、715A1pT7Bとした。
【0027】
次に707A1pT7Bおよび715A1pT7Bを制限酵素により切断し、直鎖状DNAを作製した。まず、707A1pT7BをHindIIIで、715A1pT7BをBamHIで処理し、それぞれアルカリフォスファターゼ処理した。また、715A1pT7BをHindIIIで処理、707A1pT7BをBamHIで処理し、アルカリフォスファターゼ処理した。
【0028】
それぞれの直鎖状DNAをアガロース電気泳動により分離、バンドを切り出して精製し、TEバッファー中に100μg/mlの濃度に調製した。
【0029】
これら直鎖状DNAを、BamH1処理707A1pT7BとHindIII処理715A1pT7Bの組み合わせ、そしてHindIII処理707A1pT7BとBamHI処理715A1pT7B の組み合わせで等量混合し、それぞれ2μlの混合液を用いて大腸菌JM105株を形質転換した。100μg/mlの濃度のアンピシリンを含むLB寒天培地上に形質転換体を一晩37℃で放置したところ直鎖状のベクターが組み換わって環状ベクターを形成したと思われるコロニーが生育した。形質転換効率はBamH1処理707A1pT7BとHindIII処理715A1pT7Bの組み合わせ、そしてHindIII処理707A1pT7BとBamHI処理715A1pT7B の両組み合わせともに約1X103/μg DNAであった。それぞれ生育したコロニーのうち無作為に5コロニーづつを取得し、それぞれからプラスミドDNAを抽出し、ベクターに挿入された部分のDNA配列を解析した。その結果、計10クローン中8種類がKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1が一カ所で組み換わったハイブリッド遺伝子であった(図3)。
【0030】
両組み合わせから生じたコロニーをそれぞれ約100コロニーずつ無作為に取得、混合して培養した後、プラスミドDNAを抽出したものを一回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーとした。一回目組換えハイブリッドポリヌクレオチドライブラリーを2つに分け、一方をHindIIIで、もう一方をBamHIで処理して直鎖状DNAを作製し、それぞれアルカリフォスファターゼ処理した。それぞれをTEバッファー中に100μg/mlの濃度に調製した後、等量混合し、2μlを用いて大腸菌JM105株を形質転換した。100μg/mlの濃度のアンピシリンを含むLB寒天培地上に形質転換体を一晩37℃で放置した後生育したコロニーを無作為に10コロニー取得し、それぞれからプラスミドDNAを抽出し、ベクターに挿入された部分のDNA配列を解析した。その結果、計10クローン中1種類がKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1が4カ所で組み換わったハイブリッド遺伝子、2種類がKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1が2カ所で組み換わったハイブリッド遺伝子、4種類がKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1が1カ所で組み換わったハイブリッド遺伝子、その他3種類は組換えが起こっていないbphA1遺伝子であった(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のハイブリッドポリヌクレオチドの作製法による一回目の組換えの概要を示す図である。
【図2】本発明のハイブリッドポリヌクレオチドの作製法による二回目の組換えの概要を示す図である。
【図3】実施例1で得られたKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1の一回目組換えハイブリッド遺伝子の構造を示す図である。
【図4】実施例1で得られたKF707株由来bphA1とKF715株由来bphA1の二回目組換えハイブリッド遺伝子の構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(6)の工程を含むことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)第一のポリヌクレオチドと、第一のポリヌクレオチドと相同な配列を持つ第二のポリヌクレオチドをそれぞれ任意のベクターに同じ向きでクローニングする工程、
(2)第一のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方を第一のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方を第一のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(3)第二のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方を第二のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方を第二のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(4)第一のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子と第二のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(5)第一のポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子と第二のポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍でベクターを切断することによって作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(6)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【請求項2】
以下の(1)〜(3)の工程を少なくとも一回行うことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)請求項1記載の工程(6)又は下記の工程(3)において採取されたハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方をハイブリッドポリヌクレオチドの5'末端又はその近傍で切断し、他方をハイブリッドポリヌクレオチドの3'末端又はその近傍で切断し、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(2)上記2群の直鎖状分子を、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(3)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【請求項3】
以下の(1)〜(6)の工程を含むことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)第一のポリヌクレオチドと、第一のポリヌクレオチドと相同な配列を持つ第二のポリヌクレオチドをそれぞれ任意のベクターに同じ向きでクローニングする工程、
(2)第一のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方については第一のポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方については第一のポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれ第一のポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(3)第二のポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方については第二のポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方については第二のポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれ第二のポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(4)第一のポリヌクレオチドを鋳型とし、5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子と、第二のポリヌクレオチドを鋳型とし、3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(5)第一のポリヌクレオチドを鋳型とし、3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子と、第二のポリヌクレオチドを鋳型とし、5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用いて作製した直鎖状分子とを、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(6)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。
【請求項4】
以下の(1)〜(3)の工程を少なくとも一回行うことを特徴とするハイブリッドポリヌクレオチドの作製法、
(1)請求項3記載の工程(6)又は下記の工程(3)において採取されたハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを2群に分け、一方についてはハリブリッドポリヌクレオチドの5'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、他方についてはハイブリッドポリヌクレオチドの3'末端の付近から両方向に伸長させるプライマーを用い、それぞれハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを鋳型としたPCRを行い、2群の直鎖状分子を作製する工程、
(2)上記2群の直鎖状分子を、相同組換え能を持つ微生物に導入し、直鎖状分子が環状化した微生物を選抜する工程、
(3)選抜した微生物からハイブリッドポリヌクレオチドを含むベクターを採取する工程。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−75071(P2006−75071A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262203(P2004−262203)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【Fターム(参考)】