説明

ハイブリッド多層薄膜衛生具および製造方法

【課題】避妊具、生理用タンポン、座薬などの求められる性能、利便性の向上と、同一の製造施設により多品目の製造を可能ならしめ、生産性の向上を施す。
【解決手段】耐水性や必要な物理的強度を有する、プラスティックフイルムなどの素材と、デンプン膜などの乾燥状態で形状を保持し、体内の水分でジェル化する素材を積層させ、ペンシルキャップ状に成形することで、女性膣などへの挿入を容易とし、使用時の快適性を高める。それを実施解決するため、プラスティックフイルムを十分に薄く柔軟なものとし、その存在感を減少させる。さらにジェルにより膣内壁に密着したフィルムは、外気との遮断によって脱落を防ぎ、本発明の目的である、精液の侵入、経血の洩れを阻止、薬剤の定着保持向上を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、性質の異なる薄膜を多層構造にして製品の基材とし、おもに女性用衛生具、さらに医療分野への応用を見据えた多層薄膜基材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、女性用衛生具(生理用タンポン、生理用ナプキン)は脱脂綿等の吸着性を利用し経血の流出を防いでいる。また逆に、避妊具の場合はコンドームなどにより、膣内部への精子の流入を阻害している。これらに共通している技術は、内部から外部へあるいは外部から内部への体液、精液の遮断をもって目的を達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】 特開2009−148636
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの従来の技術、一般に発売されている製品を項目ごとに課題を述べる。
1 生理用ナプキン 専用の生理下着などにナプキンを装着し経血を吸収するが、姿勢の変化などで密着不良を起こし、隙間から漏れる。また経血の付着による不快感、かゆみ、におい、なども問題とされる。
2 生理用タンポン 体内へ装着されるタンポンの異物感。装着補助具の抵抗感。脱着ひもの強度不安。経血が多い場合、タンポンの吸収量を超えると漏れ始める。長時間の装着で細菌繁殖の危険性(トキシックショック症候群など)がある。しかしながら行動に制限がない、持ち運びに便利、視覚的に自然であるなど利点も多く、本発明が目的とする課題の解決に最も近いものである。
3 避妊具 多くは、男性用のコンドームに代表されるゴム製の袋を、そのゴムの特性である伸縮性、摩擦抵抗により陰茎に密着させ、体液の交換を阻止している。これはその特性である伸縮性が故、僅かな傷で簡単に破断し、摩擦により女性に苦痛を与える。さらにゴムの耐油性、耐薬品性、アレルギー要因、圧迫感、装着時に指などの付着菌による感染の不安。など、長年使用されているが、基本技術における課題の解決に進歩はみられない。
女性用コンドームなども製品化されているが、高価格である、装着が面倒、見た目が悪い、などで普及には至ってない。
また、避妊ピルでは性感染症に対する防御力はない。
4 座薬(膣座薬) 座薬、軟膏などの患部への定着保持は、油脂、カプセル中の薬剤が体内で溶けだし流動性を持つことで、粘膜から吸収されるが、薬剤が脱落したり、流れ出して下着等を汚したりするため、安静が必要など、行動は制約され快適性には課題が多い。これでは必ずしも効果的、効率的には投与されていないと言える。
【発明を実施解決するための手段】
【0004】
本発明者は、この性質の異なる薄膜を多層構造に加工成形することで、従来の各製品の課題の解決、求められる性能の向上をはかり、その使用時における各素材がはたす役割を説明解説し、その製造工程を提示することで本発明の実施を目的とする。
【0005】
本発明の名称を、ハイブリッド薄膜多層衛生具とした由来は、異なる性質の素材を積層し、それぞれの素材の特性を利用し課題を補うことで、本発明の実施を解決する。
本発明は、少なくとも二層構造以上を基本構造とし、第一層(内殻)を遮断層の構造基材とする。第二層(外殻)を形状維持、挿入補助に用いる。第三層(目的殻)は、治療に必要とされる薬剤の搬送目的に使用する。必ずしも第一層から順に積層する必要はなく、第三層が第一層と第二層の間に入ってもよい。
第一層
素材としてプラスティックフィルムなど耐水性に優れ、体液などの透過を阻害し、柔軟性に富み、すべり抵抗が低く、耐油、耐薬品、耐低温性を備え、成形が容易で、安価であること、そしてなにより薄くても充分な強度を保つことが求められる。この要求にこたえる素材として、ポリエチレンフィルムなど、広く一般に販売されているものが適当と考える。これを基材とし膣内の容量程度(50〜500cc)で袋状に形成する。膜厚は0.01mm以下がよい。(これは装着時の異物感を低減するため、また挿入を容易とするため、小さく折りたたむ必要があり、必要な強度の許す限り薄いほうが望ましい。)
第二層
これにはデンプン、糖、ゼラチンなど、体に対し無害であり、ジェル状態で第一層のフィルムと一体化、乾燥状態では形状を保持し、再度の加水によりジェル化する特性を有する素材が望ましい。これを装着しやすいサイズ(内径10mm長さ80mm程度)で円筒キャップ状に成形し、そのキャップ内に第一層のポリフィルムを折たたんで内包させる。またはフィルムを被せたオス型に、帯状に作成した第二層膜を巻き付け成形する。この第二層部分は、膣内にて分泌物などの体液水分によりジェル化し、第一層のポリフィルムが自在に拡がることで複雑な膣内壁に密着する。またこの第二層膜を製造する際に、有効な除菌、滅菌効果の期待できる薬剤(銀イオン含有物、ミョウバン等)を混合させれば、真菌や黄色ブドウ球菌などの病原菌等の増殖を抑制、あるいは滅菌することで長時間の装着が可能となる。また第一層のフィルムが薬剤流出を防止するので、効果の減少が少ない。
第三層
これは医療目的の薬剤搬送に用いる。素材は第二層と同様、加水にてジェル化するものがよい。例えばジェル化したものは、それぞれの症状に対応する薬剤を混合するのに大変都合がよい。一定量の薬剤を混合後、これを既定の枠で帯状に乾燥させ混合膜を作る。
作成した薬剤混合膜は、薬剤の定量が容易で、必要な投薬量分だけ切り取り積層すれば良い。またはオブラートの様に一定のサイズで、含有する薬量を計量した状態で保管すれば必要量の薬剤混合膜を医療現場にて、あるいは患者自身で巻きつけて投薬できる。
これは、体重当たりの薬量コントロールが必要な薬品に有効であると考える。さらに直腸座薬と同様、膣内で吸収された薬剤は、下大静脈より全身を経由したのち肝臓で解毒されるので、経口薬に比較して薬効を損なうことなく患部に到達する。同時に消化器系の負担が軽減されるとともに、投薬量の減少も期待できるのではないかと考える。
ただし、本発明者は医学、薬学研究者ではないため、これを提案するにとどめ、本発明を薬剤搬送、定着向上目的での多層膜構造物の提供のみとする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の生産性は、大量生産に有利である。工程数は少なく、製品精度も許容範囲が広く、生産設備の投資額は低く抑えられる。素材は安価であり、素材の物性が扱いやすいので、大規模なプラントが不要で製造コストは低く抑えられる。また様々な製品が、ほぼ同様の生産方法に付加工程を加えることで製造が可能、など量産性、コストでの利点が多い。
本発明の避妊用製品は柔軟性に富み、ジェルが膣に密着することで女性膣の体積、形状の変化に追従し、脱落の恐れがない。また万一の破損があっても、伸縮性の少ないポリフィルムは急激な破裂をしない、これは求める効果の減少を最小限にとどめる。さらに膣粘膜から外性器までの、ほぼすべてを被覆するので性感染症の危険からも身を守る。
装脱着は簡単で、装着時の外観も自然で心理的抵抗感が少ない。また事前に装着する事により、自然な流れで行為を迎えられ行動も阻害しない。女性自身の意思によってのみ望まない妊娠を避けることができる。さらに男性側は完全なる自然体で臨める事となる。
生理用製品においても経血の洩れの不安がなく行動に制限を与えない。
薬剤搬送具は、確実に定着し脱落の恐れや、洩れによる薬剤流出の減少がない。
なにより本発明の成形物の構成材料は、すべて人体に無害である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
これら第一層から第二層、第三層と加工積層する作成工程の一例を提示する。
一般に、広く流通販売されているポリエチレンフィルム(以降PEフィルムとする)を第一層とし、取り扱いの容易なデンプン粉を第二層の基材とした、本発明の基本構成である避妊用具の製作例を説明する。また別段にて生理用具、薬剤搬送具の追加工程を示す。(第三層以降は使用目的に適合する薬剤を、第二層と同等な基材にて工程の最後、あるいは使用直前に付加するので、あらかじめオブラート状膜を製作しておくとよい。)
(1)ロール状のPEフィルム(0.03mm厚程度)をメス型A(内径40〜80mm、深さ100〜300mm)の上に被せる。メス型Aの中に電解水(食塩水など)を10ccほど入れておく。
(2)メス型Aの内径より若干多きめのプレートB(一辺が100mm〜300mmの正方形板の中心に10mm程度の孔の空いたもの)でPEフィルムをはさみ固定する。
(3)プレートBの中心孔に外径10mm(長さ80〜120mm程度)の先端にメッシュキャップを装着したオス型パイプCを押込み、水温65〜80℃の電解水(食塩水など)を加圧しながら50〜500ccほど注水して、PEフィルムをメス型Aにそって膨張成形させる。(これでフィルム厚は0.01mm以下となる)
(4)この段階でメス型A、オス型パイプCを電導性のある金属、あるいは一部に電極を備え、簡単な回路を構築すれば、破損、ピンホールなどの不良成形は、通電することで容易に発見できる。また注入された熱水は付着した細菌などを殺菌できる。
(5)オス型パイプCからPEフィルム内の電解水を吸引する。PEフィルムは伸縮性をあまり持たないので、いったん成形されたPEフィルムは、大気圧により折りたたまれながらプレートBとオス型パイプCに密着する。
(6)プレートB、オス型パイプCを折りたたまれたPEフィルムとともに、メス型Aから外す。
(7)デンプン粉を温水で溶かし、抗菌剤を混合。その後乾燥させ、オブラート状としたものを、オス型パイプC部分のPEフィルムに巻きつける。(あるいは、デンプン膜をあらかじめキャップ状に製作しておいてフィルムに被せ接合してもよい。メス型A内の電解水が若干フィルムに付着するので、容易に接着できる。)
(8)プレートB部分にユリ花弁状に密着したPEフィルムへ、粘着性の耐水接着剤を塗布し、ドーナツ状の保護紙を貼りつける。
(9)プレートB部分のPEフィルムを接着剤、保護紙とともにタマゴ状楕円形(長径100mm短径60mm程度)に切り取る。同時に花弁状屈曲部の適撰位置に、U字スリットを入れることで排尿用フラップを作成する。これを冷風で完全乾燥させる。
(10)オス型から離形させた後、個別包装。女性用コンドームの製造工程とする。
【0008】
また、オス型パイプCから先端部のドーム型メッシュを外し、パイプ内(約30mm)奥に装着する。(6)の工程でPEフィルムはパイプ内に吸引され折りたたまれる。パイプ内に入り込んだPEフィルムに、繭状に圧縮加工(長さ約40mm程度)した綿などを押し込み、奥から10mmの部分のみ接着する。この工程(6A)を加えることで、女性用生理衛生具(生理タンポン)の製造工程とすることができる。
【0009】
あるいは、工程(7)の後、デンプンと薬剤の混合膜を積層する工程(7A)を追加して、座薬等の製造工程とする。(特に、膣座薬に限定はしない。)
【0010】
これは、上記の製作例を基本技術とし、素材、工程、提示した数値を限定するものではない。避妊具ではダイナミックな形状、容積の変化に対応が求められ、生理具、座薬ではタンポン、薬剤の膣内位置を、適正に保持するサイズが求められるためである。
【0011】
この、上記工程にて製造された多層膜成形物(避妊用)は、挿入補助具(外形10mm、全長60〜80mm、1mm厚程度の塩化ビニルパイプに、半径30mm程の楕円フランジを備えたもの)をPEフィルム内に装着して、女性膣に挿入する。開口部の粘着剤保護紙を剥がし、膣口、小陰唇部に貼りつける。挿入補助具を抜きとり、しばらくすると膣内の水分により、デンプン膜は溶けだしジェル化、外気は遮断されて大気圧の作用で、膣粘膜に密着する。PEフィルムは十分に柔軟で、性交時の激しい形状変化にも追従し、すべり抵抗の良さも相まってPEフィルムの破壊、脱落を起こさない。
【0012】
また綿タンポンを内装した多層膜成形物(生理用)は、挿入補助パイプに押し出し棒を差し込み膣に挿入する。PEフィルムに包まれたタンポンを20mm程、膣内に押し出す。第二層のデンプン膜を押し破ったタンポンは、子宮口付近の空洞部で広がり、経血を吸収する。使用後の取り出しはフィルムを反転させ、タンポンを包み込みながら抜き取ることで、手を汚すことなく清潔に取り出せる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】避妊具の構造断面図
【図2】生理用衛生具の構造断面図
【図3】座薬搬送具の構造断面図
【図4】本発明の一形態の簡単な製造工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスティックフィルムなどの耐水性を有する薄膜と、デンプン膜、糖、ゼラチンなど水分を吸収するとジェル化する素材を積層し、袋状あるいはペンシルキャップ状に成形したものを、女性用避妊具とした衛生具。
【請求項2】
プラスティックフィルムなどの耐水性を有する薄膜と、デンプン膜糖、ゼラチンなど水分を吸収するとジェル化する素材を積層し、袋状あるいはペンシルキャップ状に成形し、先端部に綿などの吸収材を装着したものを、女性用生理用具とした衛生具。
【請求項3】
プラスティックフィルムなどの耐水性を有する薄膜と、デンプン膜糖、ゼラチンなど水分を吸収するとジェル化する素材を積層し、袋状あるいはペンシルキャップ状に成形し、薬剤混合膜あるいは錠剤、軟膏などの薬剤をフィルム外表面に装備した、従来の座薬、軟膏の代替となる薬剤搬送用多層膜成形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143206(P2011−143206A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19482(P2010−19482)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(510027375)
【Fターム(参考)】