説明

ハウス栽培システム

【課題】植物の生育を妨げることなく、植物の所望の部分に気体を供給できる、ハウス栽培システムを提供する。
【解決手段】ハウス2内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッド3を用いるハウス栽培システム1であって、畝またはベッド3に沿い、畝またはベッド3より育成される複数の植物50の近傍を通るように配置され、複数の植物50に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクト11と、畝またはベッド3に沿い、畝またはベッド3より育成される複数の植物50から離れた位置を通るように配置された、第1のダクト11よりも硬質の第2のダクト12と、第1のダクト11と第2のダクト12とを断続的に接続する複数の第3のダクト13と、第2のダクト12に気体を供給する送風装置20とを有する。第1のダクト11の複数の孔から気体を吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウス内において植物を育成させるハウス栽培システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水耕栽培方法および水耕栽培装置が開示されている。特許文献1に開示されている水耕栽培装置には、ドーム内を冷却する冷却手段が設けられている。この冷却手段は、ハウス内に設置され、空気を冷却する冷風機と、この冷風機に接続され、当該冷風機から冷却された空気が供給されるダクトとを有している。このダクトは、ドーム内ではベッドの長手方向に沿ってベッドの全長に亘って延びており、このドーム内に延びる部分には、所定のピッチで送風口が設けられている。そして、ダクトに送風機から冷却された空気が供給されると、この空気が各送風口からドーム内に流れ出すことにより、当該ドーム内が冷却されるようになっている。ダクトは、適所をバンドで連結材から吊下げられている。連結材は、ドームの天井に設けられており、したがって、ダクトは、ドームの天井から吊下げられた状態となっている。
【特許文献1】特開2007−105001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の技術の場合、冷却された空気がドームの天井(上方)から吹き出されるため、ドーム内の全体、すなわち、植物の全体が冷却される。これに対し、ハウス栽培システムにおいては、所望の気体などを、植物の特定の部位にのみ供給したい場合がある。しかしながら、特許文献1に記載のような技術では、所望の気体などを、植物の特定の部位にのみ、あるいは集中して供給することは難しい。
【0004】
例えば、いちごは、秋に日が短くなって、涼しくなるとつぼみをつける。すなわち、いちごの育成(花芽分化)には、短日・低温条件が必要となる。いちごの栽培においては、これを利用し、所定のタイミングで遮光し、さらに、冷却した空気(冷風)をいちごの苗の特定の部位、この場合は株元に供給することにより、約8〜9ヶ月間連続していちごを収穫することができるようになる。
【0005】
したがって、所望の気体あるいは所望の条件にかなった気体などを、植物の特定の部位にのみ、または所定の部位に集中して供給することができるシステムが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培システムである。このハウス栽培システムは、畝またはベッドに沿い、この畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、畝またはベッドに沿い、畝またはベッドより育成される複数の植物から離れた位置を通るように配置され、第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、第1のダクトと第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトと、第2のダクトに気体を供給する送風装置とを有する。このハウス栽培システムでは、第1のダクトの複数の孔から気体を吐出させる。
【0007】
このハウス栽培システムによれば、第1のダクトは、畝またはベッドに沿い、この畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成されている。したがって、第1のダクトの複数の孔から気体を吐出させることにより、植物の特定の部位に気体を供給することができる。しかも、第1のダクトは、軟質フィルム製であるため、植物の生長(成長)や動きにより、比較的自由に変形する。すなわち、軟質フィルム製のダクトは、ダクトが通る位置が外力により比較的自由に変形するだけではなく、ダクトの外形、ダクトの断面形状も、外力、例えば、植物の動き、生長にともなって比較的自由に変形する。したがって、第1のダクトは、植物の生長の妨げになり難い。
【0008】
軟質フィルム製の第1のダクトは、変形が比較的自由であり、気体を吹き出している間も変形が比較的自由であることが好ましい。第1のダクトのみを設けた場合、典型的には第1のダクトに送風装置を直に接続した場合には、第1のダクトが変形すると、その部分で気体の流通が妨げられ、第1のダクトが変形した先(妨げられた先)の植物に気体を供給できなくなる、あるいは、供給されにくくなるおそれがある。また、第1のダクトに大量の気体を流通させるために加圧すると、第1のダクト(軟質フィルム)が膨らみ、スペースを占有したり、変形しにくくなるので、植物の生長の妨げになる可能性がある。
【0009】
このハウス栽培システムによれば、第1のダクトと別に、第2のダクトを植物から離れた位置を通るように配置し、第1のダクトと第2のダクトとを複数の第3のダクトにより断続的に接続している。したがって、第2のダクトにより、気体の流通が確保される。しかも、第2のダクトは、植物から離れて配置でき、第1のダクトよりも硬質にできるため、加圧できる。このため、第2のダクトを第1のダクトと並列に配置することにより、第1のダクトの変形の自由度を確保したまま、大量の気体を第1のダクトから植物の所望の部位に安定して供給できる。植物に沿って設ける第1のダクトが軟質フィルム製であって、変形が比較的自由であっても、典型的には、途中で第1のダクトが曲がって、気体の流通が困難な場所が出来ていたとしても、第2のダクトおよび第3のダクトを介して、第1のダクトの複数の孔のほとんど全てから気体を吐出させることができる。
【0010】
さらに、複数の第3のダクトにより、第1のダクトと第2のダクトとを接続する際に、圧力および流量を調整できる。したがって、第1のダクト内部の条件や第1のダクトから気体を吹き出す状態の調整は容易である。このため、第2のダクトをバッファとして用い、長い畝またはベッドに沿って植えられた植物に対し、所望の量の気体を安定して、確実に供給できる。さらに、複数の畝またはベッドに対して、連続した第1のダクトおよび第2のダクトを配置したり、複数の畝またベッドに対して、少なくとも第2のダクトをシリーズにあるいはパラレルに接続することにより、1つの送風装置から供給される気体を、第2のダクトおよび第3のダクトを介して、第1のダクトから大量の植物の所定の部位に供給できる。
【0011】
このハウス栽培システムは、ハウス内で植物を育てるものであれば、畝(土)を用いる土耕栽培、ベッド(水)を用いる水耕栽培、あるいは、その他の栽培のいずれの栽培方法にも適用できる。
【0012】
このハウス栽培システムによれば、例えば、第1のダクトは、複数の植物の根元の近傍を通るように配置することもできる。第2のダクトおよび第3のダクトを介して、第1のダクトの複数の孔のほとんど全てから気体を吐出することができるため、第1のダクトの複数の孔から吐出させた気体を、複数の植物の根元にそれぞれ吹きつけることができる。
【0013】
このハウス栽培システムにおいて、第2のダクトの内径は、第1のダクトの内径よりも大きいことが好ましい。このハウス栽培システムでは、第2のダクトを植物から離して配置できるので、第2のダクトの内径を大きくでき、圧力損失を低減し、気体の供給圧力を低減できる。したがって、送風装置をコンパクトにでき、ランニングコストを低減できる。また、第2のダクト内の圧力差を小さくできるので、第3のダクトを介して連通している第1のダクトの内圧を調整しやすく、第1のダクトの複数の孔のほとんど全てから所望の量の気体を吐出しやすい。
【0014】
このハウス栽培システムでは、複数の植物を上方から覆うように設けられた、遮光性のカバーをさらに有するものにも適用できる。上述のように、例えば、いちごの育成(花芽分化)には、短日条件(日のあたる時間に関する条件)が必要となる。このように短日条件が必要な場合、特に、日のあたる時間を短くしたい場合には、遮光性のカバーにより植物を覆うことにより、日のあたる時間を調整(例えば短く)することができる。
【0015】
このハウス栽培システムにおいて、植物の特定の部分に冷風を供給したい場合には、送風装置は、第2のダクトに供給する気体を冷却するための冷却ユニットを備えていることが好ましい。上述のように、例えば、いちごの育成(花芽分化)には、低温条件(温度に関する条件)が必要となる。このような場合、送風装置に冷却ユニットを設けることにより、第1のダクトの複数の孔から冷風を複数の植物にそれぞれ供給することができる。
【0016】
本発明の他の態様は、ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培方法である。この方法では、畝またはベッドに沿い、畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、畝またはベッドに沿い、畝またはベッドより育成される複数の植物から離れた位置を通るように配置され、第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、第1のダクトと第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトとが設けられている。この方法は、第1のダクトの複数の孔から複数の植物のそれぞれに所望の気体を供給することを含む。
【0017】
この方法によれば、所望の気体などを、植物の特定の部位に供給することができる。しかも、植物の特定の部位に気体を供給する第1のダクトが、植物の生長の妨げになり難い。さらに、複数の第3のダクトにおいて第1のダクトと第2のダクトとを接続する際に、圧力調整、流量調整をすれば、第1のダクトに供給される気体の量を所望の値に調整することができる。
【0018】
この方法において、供給することは、第1のダクトに冷風を供給し、第1のダクトの複数の孔から冷風を複数の植物のそれぞれの根元に吹きつけることを含むようにしてもよい。この方法によれば、第2のダクトおよび第3のダクトを介して、第1のダクトの複数の孔のほとんど全てから冷風を吐出することができるため、第1のダクトの複数の孔から吐出させた冷風を、複数の植物の根元にそれぞれ吹きつけることができる。
【0019】
この方法は、例えば、いちごのように、低温条件が必要な植物の育成に好適である。すなわち、上述のように、いちごの栽培においては、冷却した空気(冷風)をいちごの苗の株元に供給することにより、10月から翌年の春まで、約8〜9ヶ月間連続していちごを収穫することができるようになる。この方法は、冷却した空気(冷風)を複数の植物の根元にそれぞれ吹きつけることができる。したがって、この方法においては、複数の植物は、複数のいちごの苗を含むようにしてもよい。
【0020】
本発明のさらに他の態様は、ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培用の気体供給システムである。この気体供給システムは、畝またはベッドに沿い、畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、畝またはベッドに沿い、畝またはベッドより育成される複数の植物から離れた位置を通るように配置され、第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、第1のダクトと第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトと、第2のダクトに気体を供給する送風装置とを有する。この気体供給システムでは、第1のダクトの複数の孔から気体を吐出させる。
【0021】
この気体供給システムは、ハウス栽培システムに好適であり、この気体供給システムを用いることにより、所望の気体などを、植物の特定の部位に供給することができる。第2のダクトおよび第3のダクトを介して第1のダクトに気体を供給することにより、第1のダクトにおいて、植物の生長の妨げになり難い程度の変形の自由度を確保でき、さらに、第1のダクトの複数の孔のほとんど全てから気体を吐出させることができる。
【0022】
この気体供給システムにおいて、第2のダクトおよび複数の第3のダクトは、それぞれ、可撓性を有する蛇腹状のダクトであることが好ましい。可撓性を有する蛇腹状のダクトは、ダクト断面積が確保できる程度の強度があり、蛇腹により変形が自由なので、気体供給システムの配置の自由度(第2および第3のダクトの配管の自由度)をより高めることができる。
【0023】
また、この気体供給システムにおいて、第2のダクトの内径は、第1のダクトの内径よりも大きいことが好ましい。第2のダクトにおける圧力損失を低減できるので、第1のダクトに対する供給圧力を均一化しやすく、バッファとして機能させやすい。
【0024】
植物の特定の部分に冷風を供給したい場合には、送風装置は、第2のダクトに供給する気体を冷却するための冷却ユニットを備えていることが好ましい。上述のように、例えば、いちごの育成(花芽分化)には、低温条件が必要となる。このような場合、送風装置に冷却ユニットを設けることにより、第1のダクトの複数の孔から冷風を複数の植物にそれぞれ供給することができる。
【0025】
この気体供給システムにおいて、第1のダクトは、複数のダクトに分割されていてもよい。第1のダクトを容易に配置することができる。この場合、分割されている複数のダクトは、それぞれ、硬質の略T字型の接続部材を介して、複数の第3のダクトと接続することが好ましい。分割された軟質フィルム製の第1のダクトを接続部材により接続でき、また、第3のダクトを介して気体が供給される部分においては所定の断面積を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本例では、いちごのハウス栽培システム、より具体的には、ハウス内でのいちごの高設栽培(水耕栽培)システムを例にとって説明する。図1は、ハウス栽培システムの一例の概略構成を斜視図により示している。図2は、図1のハウス栽培システムの一部を横断面図により示している。図3は、ハウス栽培用の気体供給システムの一部を側面図により示している。図4は、第1のダクトが備える複数のダクトのうちの1つを下方から見た図により示している。なお、後述するように、符号4は、遮光性のカバーであるが、図1においては、遮光性のカバーを介して内部が透けて見えるように記載している。
【0027】
このハウス栽培システム1は、透明または半透明なビニールなどの樹脂製のシート、板またはガラス製の板により周囲が覆われたハウス2内に互いに略平行に配置された複数の高設栽培ベッド(栽培プランタ)3と、これら高設栽培ベッド3をそれぞれ覆うように長手方向に延びる複数の遮光性のカバー4と、ハウス栽培用の気体供給システム10とを備えている。なお、図1では、例として、1つの高設栽培ベッド3の近傍のみを抜き出して記載している。
【0028】
高設栽培ベッド3は、ベッド部分3aと、ベッド部分3aを支える脚部分3bとを有している。ベッド部分3aは、例えば、地上から1.2m程度の高さに設置されている。高設栽培ベッド3のベッド部分3aは、典型的には水耕栽培用のベッドであって、養液、培地を含み、苗、その他の植物を嵌めこみ(植え)、支持する部分である。このベッド部分3aには、いちごの苗50が必要とする水分や養分が溜められて、この高設栽培ベッド3に沿うように、複数のいちごの苗50が配置されている。本例では、高設栽培ベッド3の全長Lは、約45mである。遮光性のカバー4は、複数のいちごの苗50を上方から覆うように、高設栽培ベッド3の長手方向に沿って設けられている。
【0029】
ハウス栽培用の気体供給システム10は、第1のダクト11と、第2のダクト12と、複数の第3のダクト13と、複数の略T字型の接続部材14と、送風装置20とを備えている。
【0030】
第1のダクト11は、軟質フィルム製のダクトである。第1のダクト11は、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル、酢酸ビニルなどにより形成することができる。第1のダクト11は、典型的には、円筒状であるが、断面が方形であってもよい。第1のダクト11は、第1のダクト11により影ができて植物の成長に影響を及ぼすことがないように、典型的には透明または半透明なフィルムにより形成される。第1のダクト11は有色であってもよい。第1のダクト11として用いられる膜厚が0.1mm程度以下、例えば、0.05〜0.08mm程度の樹脂製のシートは、ビニール袋などと称される袋に用いられている。また、厚みが10μm前後のポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンの薄膜はラップ素材に使用されている。これらの軟質フィルム製のダクト11は、軽量で、変形が容易である。したがって、植物の生長や動きによる外力により、ダクト11の位置だけではなく、外形、断面形状も含めて容易に変形するため、植物の育成の障害になりにくい。
【0031】
この第1のダクト11は、高設栽培ベッド3のベッド部分3aの表面(上面)のほぼ中央に沿って配置されている。より具体的には、第1のダクト11は、高設栽培ベッド3のベッド部分3aにより育成される複数のいちごの苗50の根元(株元)の近傍を通るように配置されている。第1のダクト11には、複数のいちごの苗50の根元部分に向けて気体Aが放出されるように、ベッド部分3aに保持される複数の苗50の配置(パターン)に合わせて複数の孔11aが形成されている。本例では、複数の孔11aは、第1のダクト11の両側に配置される苗50に冷気が供給されるように、ダクト11の中心よりも下側に2つ(1組)ずつ所定の間隔をあけて設けられている(図2および図4参照)。長手方向の孔11aのピッチPは、ベッド3aに配置された複数の苗50のピッチに合わせてある。本例では、長手方向の孔11aのピッチPは、大凡200mmである(図4参照)。本例では、第1のダクト11に流通する気体Aの量を調整することにより、これらの孔11aから、略水平方向に空気が吹き出るようにしている(図2参照)。ベッド部分3aの大きさ、複数の苗50の配置などにより、複数の第1のダクト11をベッド部分3aに沿って配置してもよい。
【0032】
本例の第1のダクト11は、長手方向に、複数、例えば4本のダクト15に分割されている。分割されている4本のダクト15は、複数、例えば5つの略T字型のPVCなどの硬質樹脂製の接続部材14により、直列(シリーズ)に接続されている。そして、4本のダクト15は、それぞれ、略T字型の接続部材14を介して、複数、この例では5本の第3のダクト13と接続され、さらに、これら第3のダクト13を介して第2のダクト12と接続されている。このようにすることにより、軟質フィルム製で変形しやすく、傷つきやすい第1のダクト11を短い寸法で用意でき、しかも、交換が容易なシステムで、苗50の配置に沿ってより容易に配置することができる。また、第3のダクト13を介して第1のダクト11に対し気体が供給される部分においては、硬質の接続部材14により所定の断面積を確保できる。したがって、第3のダクト13から第1のダクト11に対してスムーズに供気を行うことができる。第1のダクト11の内径(複数のダクトの内径)D1の一例は、50mm程度であり、各ダクト15の長さL1の一例は、それぞれ、7.5m程度である(図3参照)。
【0033】
第3のダクト13は、例えば、第1のダクト11よりも硬質のダクト、例えば、塩化ビニル製などの樹脂製あるいはアルミニウム製などの金属製の可撓性を有する蛇腹状のダクトを用いることができる。第3のダクト13は、ベッド3の脚部分3bに沿って配置された第2のダクト12と、第1のダクト11とを、断続的に接続するためのダクトであり、第3のダクト13の長さL2は、高設栽培ベッド3の高さにもよるが、本例では、1m程度とされている(図3参照)。また、第3のダクト13の内径D3は、第1のダクト11の内径よりも大きい。本例では、第3のダクト13の内径D3は、100mm程度である(図3参照)。薄膜からなる第1のダクト11を風船のように膨らませずに適当な量の気体を供給するためには、第3のダクト13および第1のダクト11の内圧は低いことが望ましい。したがって、第3のダクト13は、低圧、低流速でも十分な量の気体を供給できる程度の断面積を確保することが望ましい。
【0034】
第2のダクト12は、第1のダクト11よりも硬質のダクト、例えば、塩化ビニル製などの樹脂製あるいはアルミニウム製などの金属製の可撓性を有する蛇腹状のダクトを用いることができる。第2のダクト12は、高設栽培ベッド3に沿い、高設栽培ベッド3により育成される複数のいちごの苗50から離れた位置(第1のダクト11よりも複数のいちごの苗50から離れた位置)を通るように配置されている(図1参照)。この例では、ハウス2の床面上に、ベッドの脚部分3bに沿って配置されている。第2のダクト12の内径D2は、第1のダクト11の内径よりも大きくすることができる。
【0035】
第2のダクト12には、所定のピッチで複数の第3のダクト13が接続される。第3のダクト13との接続部分に、適当な減圧機構、例えば、オリフィス、シャッター、ノズルを取り付けることにより、適当な圧力に減圧した気体を第2のダクト12から第3のダクト13および第1のダクト11に供給できる。したがって、第2のダクト12の内圧は、第1のダクト11の内圧に比べて高く設定できる。しかしながら、第2のダクト12の長手方向の差圧は、小さい方が第1のダクト11の圧力調整は容易であり、複数の第1のダクト11から安定した量の気体を各苗50の根元に供給できる。本例では、第2のダクト12の内径D2は、150mm程度である(図3参照)。
【0036】
送風装置20は、供気用のファン20aと、供給する気体のコンディションを制御するための空調ユニット21とを含む。空調ユニット21の典型的なものは、気体(空気)Aを冷却するための冷却ユニットであり、例えば、冷媒循環システムと、コンプレッサと、エバポレータと、コンデンサとを備えている。この冷却ユニット21は、冷媒と空気との間で、熱交換を行い、冷風Aを生成する。また、この送風装置20は、吐出ダクト22を備えている。吐出ダクト22を、直接的または接続管31を介して、第2のダクト12の端部と接続することにより、送風装置20から第2のダクト12に、冷却ユニット21により冷却された空気(冷風)Aが供給される。また、この送風装置20は、移動用のキャスタ23を備えている。このため、例えば、ハウス2で栽培される植物が変わったときには、その植物の育成に適した気体を発生する装置に交換できる。可動式の冷風を供給する送風装置20としては、例えば、特開平10−281496に記載の可搬式空調装置を用いることができる。例えば、送風装置20に窒素ガス発生装置としての機能を含めることにより、気体供給システム10を介して、育成中の植物の所望の位置に、冷気だけではなく、窒素リッチな気体を供給することもできる。
【0037】
なお、図1では、1つの高設栽培ベッド3のみを抜き出して記載しているため、第2のダクト12は、この高設栽培ベッド3にのみ沿っているように示されているが、第2のダクト12は、直接的または接続管32を介して、隣の高設栽培ベッド3や、さらにその隣の高設栽培ベッド3にも沿うように、シリーズに、あるいはパラレルに延びていてもよい。すなわち、このハウス栽培システム1では、1つの送風装置20および1本の第2のダクト12で、複数の高設栽培ベッド3に冷風Aを供給できるようになっている。
【0038】
本実施形態のハウス栽培システム1およびこれに好適に用いることができる気体供給システム10によれば、所望の気体、例えば冷風Aなどを、植物の特定の部位に供給することができる。しかも、植物の特定の部位に気体Aを供給する第1のダクト11が、植物の生長の妨げになり難い。さらに、複数の第3のダクト13において第1のダクト11と第2のダクト12とを接続する際に、圧力調整、流量調整をすれば、第1のダクト11に供給される気体Aの量を所望の値に調整することができる。
【0039】
したがって、本例のハウス栽培システム1およびハウス栽培用の気体供給システム(局所冷却システム)10は、いちごの栽培に適用される短日・スポット夜冷処理法を行うのに好適である。本例のハウス栽培システム1およびハウス栽培用の気体供給システム10では、ベッド部分3aに定植された未分化苗50に対し、短日処理と株元への効率的な冷風Aの送風処理を行う工程を含む、いちごのハウス栽培方法(短日・スポット夜冷処理法)を実施できる。すなわち、本例のハウス栽培方法は、ベッド部分3aの所定の位置に未分化苗50を定植し、その後、所定のタイミングで遮光性のカバー4(遮光トンネル)で複数のいちごの苗50に対して遮光するとともに、所定のタイミングで第1のダクト11の複数の孔11aから冷気Aを吐出させる工程を含む。これにより、冷気Aは、複数のいちごの苗50の根元にそれぞれ吹きつけられ、花芽分化の促進が図られ、早期定植、早期収穫ができる。
【0040】
いちごは、秋に日が短くなって、涼しくなるとつぼみをつける。すなわち、いちごの育成(花芽分化)には、短日(日のあたる時間を短くする)・低温条件(低温にする、所定の温度まで下げる)が必要となる。従来、温暖地においては、連続出らい、収穫が可能な定植適期は、9月の1か月に限定されていた。本実施形態のいちごのハウス栽培システム1によれば、短日・低温条件を利用することにより、これまでの「早出し栽培」よりさらに1か月早い10月から翌年の春まで、約8〜9か月間連続していちごを収穫することができる。
【0041】
以下に、実験例に基づいて、本例のハウス栽培方法を説明する。本例のハウス栽培方法(短日・スポット夜冷処理法)では、17時〜翌9時まで、遮光率100%の遮光性のカバー4で栽培ベッド3といちごの苗50(定植株)を遮光し、同時に、ハウス栽培用の気体供給システム10の第1のダクト11から、複数のいちごの苗50の根元のみにそれぞれに約15℃の冷気Aを吹きつけた。品種としては、「とちおとめ」を使用した。
【0042】
慣行より40日以上早い7月23日に未分化苗50を高設栽培ベッド(高設栽培装置)3に定植後、上記の短日・スポット夜冷処理法を実施し、温度を測定したところ、7月23日〜8月23日までの1か月間における17時から翌9時の地表からの高さ2cm地点の平均処理温度は22.4℃で、未処理区の25.7℃よりも3.3℃低く、短日夜冷処理区の18.3℃よりも4.1℃高く推移した。なお、開花期から見て「とちおとめ」の平均処理温度は、地表から2cmの地点で25℃以下であれば、短日夜冷処理と同等の花芽分化促進効果がある。
【0043】
短日・スポット夜冷処理を7月23日から9月30日まで行った「とちおとめ」の頂花房平均収穫日は、花芽分化促進処理を行わずに、7月23日に定植した区(早定+無処理)に比べ2か月以上早く、第1次えき花房収穫日も50日以上早かった。短日夜冷処理育苗後に定植した区と比べ、頂花房はほぼ同等であったが、第1次えき花房以降は、約20日早期化した。本ぽに定植した状態で、短日・スポット夜冷処理を行うことにより、連続出らいが可能であることがわかった。また、短日・スポット夜冷では、定植後に処理を始めるので、生育は旺盛であった。また、連続出らいできるので、他の処理区と比べて収量が高く、連続収穫できた。なお、処理効果を高めるためには、ハウス外部には、適当な遮光資材を利用することが好ましい。また、処理温度、処理期間は、品種毎に適宜変更することが好ましい。
【0044】
図5は、ハウス栽培システム1の他の例の一部を横断面図により示している。図2および図4に示す第1のダクトでは、第1のダクト11の複数の孔11aは、中心よりも下側に2つ(1組)ずつ設けていたが、複数の孔11aの位置は、図5に示すように、中心を通る線上に乗る程度の位置に2つ(1組)ずつ設けてもよい。そして、第1のダクト11に流通する気体Aの量を調整することにより、これらの孔11aから、下側に冷風Aが吹き出るようにしてもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態のハウス栽培システム1、気体供給システム10、およびハウス栽培方法によれば、冷気などの所望の気体Aを、植物50の特定の部位に供給することができる。しかも、第3のダクト13および第2のダクト12を介して、第1のダクト11の複数のポイントから気体を供給できる。このため、第1のダクト11の内圧を高くせずに、風船などのように第1のダクト11が膨らんで形状が変わりにくい状態を避けて、植物50の所定の場所に気体Aを供給できる。したがって、植物50の特定の部位に気体Aを供給する第1のダクト11が、植物50の生長の妨げになり難い。そして、硬質の第2のダクト12は、第1のダクト11から離れた場所、すなわち、植物50の生長に係わりのない、または、係わりの少ない場所に配置することができる。したがって、気体供給システム10の全体としては、植物50にほとんど影響を与えずに、植物50のごく近傍から所定の限られた場所に所望の気体を供給できる。
【0046】
また、第1のダクト11が途中で曲がったり、断面積が非常に小さい状態になるなどの要因により、第1のダクト11の内部での気体の流通が困難になった場合でも、第2のダクト12および第3のダクト13を介して、第1のダクト11には複数のポイントから気体Aが供給される。このため、第1のダクト11の全体の複数の孔11aのほとんど全てから気体を安定して吐出させることができる。さらに、複数の第3のダクト13において第1のダクト11と第2のダクト12とを接続する際に、圧力および/または流量調整をすれば、第1のダクト11に供給される気体Aの量を所望の値に調整することができる。したがって、いちごの栽培に適用される短日・スポット夜冷処理法などを行うのに好適である。
【0047】
また、本実施形態のハウス栽培システム1および気体供給システム10によれば、第2のダクト12の内径は、第1のダクト11の内径よりも大きい。このため、第2のダクト12においてより多くの気体Aを流通させることができる。また、第2のダクト12の内径が、第1のダクト11の内径よりも大きいため、第2のダクト12において、大量の気体Aを流通させたときの、気体Aの流通の上流側と下流側との圧力差(内圧差)を小さくすることができる。したがって、第3のダクト13を介して連通している第1のダクト11においても、内圧をより均一にすることができる。このため、第1のダクト11の複数の孔11aから所定量の気体Aを安定して吐出することができる。また、送風装置20の供給圧力を低減できるので、送風装置20の出力を低減でき、ランニングコストを下げることができる。
【0048】
さらに、本実施形態のハウス栽培システム1および気体供給システム10によれば、第2のダクト12および複数の第3のダクト13は、それぞれ、可撓性を有する蛇腹状のダクトであるため、第2のダクト12および複数の第3のダクト13の配置の自由度(第2および第3のダクト13の配管の自由度)をより高めることができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、いちごの水耕栽培を例にとって説明したが、本発明の栽培システム、栽培方法、ハウス栽培用の気体供給システムは、いちごの栽培だけでなく、種々の植物の栽培に用いることができる。また、水耕栽培に限らず、ハウス内に、畝状に土盛りした土を用いた地植え栽培にも適用できる。また、気体供給システムの送風手段は、冷却ユニットを備えたものに限定されない。送風手段は、例えば、ヒータを備えたものであってもよく、所定のガスタンクを備えたものであってもよい。本発明の栽培システム、栽培方法、ハウス栽培用の気体供給システムでは、冷風、温風、炭酸ガス、オゾン、イオンガスなど、種々の気体を植物の特定の部位にスポット的に提供することができる。本発明の栽培システム、栽培方法、ハウス栽培用の気体供給システムは、比較的少ないコストでハウス内の環境を制御することができる。すなわち、本発明の栽培システム、栽培方法、ハウス栽培用の気体供給システムは、省コストで、植物を良好に育成する環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ハウス栽培システムの一例の概略構成を示す斜視図。
【図2】図1のハウス栽培システムの一部を示す横断面図。
【図3】ハウス栽培用の気体供給システムの一部を示す側面図。
【図4】第1のダクトが備える複数のダクトの1つを示す下面図。
【図5】ハウス栽培システムの他の例の一部を示す横断面図。
【符号の説明】
【0051】
1 ハウス栽培システム、 2 ハウス
3 ベッド、 4 カバー、 10 気体供給システム
11 第1のダクト、 11a 第1のダクトの孔
12 第2のダクト、 13 第3のダクト
20 送風装置、 21 冷却ユニット
50 いちごの苗(植物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培システムであって、
前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、前記複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、
前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される前記複数の植物から離れた位置を通るように配置され、前記第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、
前記第1のダクトと前記第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトと、
前記第2のダクトに気体を供給する送風装置とを有し、
前記第1のダクトの前記複数の孔から気体を吐出させる、ハウス栽培システム。
【請求項2】
請求項1において、前記第1のダクトは、前記複数の植物の根元の近傍を通るように配置されており、前記第1のダクトの前記複数の孔から吐出させた気体が、前記複数の植物の根元にそれぞれ吹きつけられる、ハウス栽培システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第2のダクトの内径は、前記第1のダクトの内径よりも大きい、ハウス栽培システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記複数の植物を上方から覆うように設けられた、遮光性のカバーをさらに有する、ハウス栽培システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記送風装置は、前記第2のダクトに供給する気体を冷却するための冷却ユニットを備えており、
前記第1のダクトの前記複数の孔から冷風が前記複数の植物にそれぞれ供給される、ハウス栽培システム。
【請求項6】
ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培方法であって、
前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、前記複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される前記複数の植物から離れた位置を通るように配置され、前記第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、前記第1のダクトと前記第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトとが設けられており、
当該方法は、前記第1のダクトの前記複数の孔から前記複数の植物のそれぞれに所望の気体を供給することを含む、ハウス栽培方法。
【請求項7】
請求項6において、前記第1のダクトは、前記複数の植物の根元の近傍を通るように配置されており、
前記供給することは、前記第1のダクトに冷風を供給し、前記第1のダクトの複数の孔から冷風を前記複数の植物のそれぞれの根元に吹きつけることを含む、ハウス栽培方法。
【請求項8】
請求項6または7において、前記複数の植物は、複数のいちごの苗を含む、ハウス栽培方法。
【請求項9】
ハウス内に設けられた少なくとも一列の栽培用の畝またはベッドを用いるハウス栽培用の気体供給システムであって、
前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される複数の植物の近傍を通るように配置され、前記複数の植物に向けて気体が放出されるように複数の孔が形成された軟質フィルム製の第1のダクトと、
前記畝またはベッドに沿い、前記畝またはベッドより育成される前記複数の植物から離れた位置を通るように配置され、前記第1のダクトよりも硬質の第2のダクトと、
前記第1のダクトと前記第2のダクトとを断続的に接続する複数の第3のダクトと、
前記第2のダクトに気体を供給する送風装置とを有し、
前記第1のダクトの前記複数の孔から気体を吐出させる、気体供給システム。
【請求項10】
請求項9において、前記第2のダクトおよび前記複数の第3のダクトは、それぞれ、可撓性を有する蛇腹状のダクトである、気体供給システム。
【請求項11】
請求項9または10において、前記第2のダクトの内径は、前記第1のダクトの内径よりも大きい、気体供給システム。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかにおいて、前記送風装置は、前記第2のダクトに供給する気体を冷却するための冷却ユニットを備えている、気体供給システム。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかにおいて、前記第1のダクトは、複数のダクトに分割されており、
前記分割されている複数のダクトは、それぞれ、略T字型の接続部材を介して、前記複数の第3のダクトと接続されている、気体供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95293(P2009−95293A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270856(P2007−270856)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(592251499)株式会社デンソーエース (6)
【出願人】(591150797)GAC株式会社 (69)
【Fターム(参考)】