説明

ハナビラタケの栽培方法

【課題】 ハナビラタケを人工栽培する際、磁場を用いて生長を促進し、効率よく収量を増加させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 針葉樹を基材とする人工培地を詰めた容器を用いて、ハナビラタケを栽培し、この容器をソレノイド状の導線の内部に入れ、パルス幅が3〜20マイクロ秒のパルス電流を流して300〜500ガウスの磁場を発生させる。この方法により、ハナビラタケの生長を促進し、効率よくハナビラタケの収量を増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電流を用いたハナビラタケの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノコ類の人工栽培には、クヌギやコナラなどの原木(適当な長さの丸太)に、キノコの菌糸をあらかじめ植菌して栽培を行う原木栽培や、人工培地(大鋸屑に栄養剤を加え、水で培地の含水率を調整する)を使って栽培を行う菌床栽培がある。そして、このような人工栽培においては、キノコの生長を促進するために、キノコの種類毎に適当な温度や湿度等の環境条件を設定することが必要とされている。
【0003】
従来、原木栽培におけるキノコの収量を増加させる方法として、キノコが発芽する直前にキノコを栽培する培養体に対して人工的に磁場を与える方法があった(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法は、キノコ菌を植菌した原木に対し、約2万〜約10万ガウスの磁場を約5〜10分間も発生させなければならず、時間とコストがかかる非効率的な方法であった。さらに、上記方法は、キノコとしてはシイタケとシメジに対する効果しか確認されておらず、ハナビラタケについての効果は不明であった。
【特許文献1】特開昭61−78332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、ハナビラタケを人工栽培する際、磁場を用いて生長を促進し、効率よく収量を増加させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかるハナビラタケの栽培方法は、栽培の途中で、パルス電流を用いて発生させた磁力線を照射することを特徴とする。前記ハナビラタケの栽培方法において、磁力線照射によって、100〜2000ガウスの磁場が発生することが好ましい。また、前記磁場は、300〜500ガウスであることがより好ましい。さらに、前記ハナビラタケの栽培方法において、前記パルス電流のパルス幅が1マイクロ秒から1ミリ秒であることが好ましい。また、前記パルス電流のパルス幅は3〜20マイクロ秒であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ハナビラタケを人工栽培する際、磁場を用いて生長を促進し、効率よく収量を増加させる方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、好ましい実施の形態につき、添付図面を用いて詳細に説明する。
【0008】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0009】
===磁場処理装置の構成===
本発明の一実施形態であるハナビラタケに磁場を照射する装置としては、図1に示すように、容器8と、容器8の外部にコイル状に巻きつけた導線2を備えている。容器8の内側にハナビラタケを栽培している容器4を入れてから磁場処理を行う。ここで用いられる容器4及び容器8の材質としては、容器8に巻きつけた導線2に電流を流すことにより磁場を発生させた時、容器4内のハナビラタケが所望の磁場の影響を受けることができる素材(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニルなど)であることを要する。なお、容器8の形状・型、大きさは特に限定されない。磁場処理する容器4などのハナビラタケの菌床をコイルの内側に入れることができればよい。また、容器8はコイルの形状を安定させる目的で使用しており、絶対に必要とされる物ではない。例えば、容器8を使用せずに、ハナビラタケを栽培している部屋全体に磁場をかけてもよい。
【0010】
導線2は、電流を流すことにより、容器8内のハナビラタケが所望の磁場の影響を受けることができればどのような材質でもよく、例えば、銅、アルミニウム、金、銀等の金属から作製されていてもよい。また、導線の形状は、どのようなコイル状でもよいが、均一かつ強力な磁場を発生させるため、ソレノイド状になるように、容器8へ導線2を複数回巻きつけることが好ましい。また、導線2の末端には数cmの放電ギャップ6を設けておくことが好ましい。
【0011】
===ハナビラタケの栽培方法===
本発明で用いられるハナビラタケは特に菌株を限定するものではなく、どのような菌株でも用いることができる。ハナビラタケの取得方法としては、野生に生育しているものを採取してもよいし、(独)農業生物資源研究所や(財)日本きのこ研究所の保存菌株を取り寄せることもできる。さらに、生食用として市販されているハナビラタケの小片をできるだけ無菌的に切取り、例えばPDA寒天培地に植菌し培養した後スラントに植継げば、保存用のハナビラタケとすることができる。
【0012】
本発明で用いられるハナビラタケは従来の栽培ビンによる人工栽培方法によって得られる。人工栽培方法とは、以下の1)〜3)の順序で栽培する。
【0013】
1)栽培ビンに大鋸屑に栄養分を添加した固形培地を作製する。なお、固形培地には接種孔を開けておくことが望ましい。
2)この固形培地に種菌を接種する。
3)接種した培地を通常の条件で培養し、生育させる。
【0014】
本発明で用いられる大鋸屑としては、マツ、モミ、ツガ、ブナ、シイなどの大鋸屑が挙げられるが、針葉樹の大鋸屑が好ましく、この中でもカラマツの大鋸屑が好ましい。広葉樹と針葉樹の大鋸屑の混合物を用いることもでき、大鋸屑にコーンコブなどを混合してもよい。添加する栄養分としては、必要に応じ適宜添加することができるが、小麦粉などが好ましく、小麦粉を1%〜30%、好ましくは3%〜20%、さらに好ましくは5%〜10%を混合する。これを通常850ccのポリプロピレン製栽培ビンに約520g充填する。この際、培地中央に接種孔を開けておくと、接種量を多くすることができ培地全体に菌糸が回りやすくなり、また通気がよくなるため好ましい。接種孔を開けることにより結果として収穫までの期間が短縮でき、収量が上がるなどの利点が生じる。接種孔の大きさは断面積がほぼ80mm以上あればよい。固形培地は、高圧殺菌などの方法により殺菌をしておく。
【0015】
このような培地に同様の大鋸屑培地で培養した種菌を接種する。接種量は通常8g〜18gである。種菌を接種した後、一定の条件下、すなわち温度は15℃〜30℃、好ましくは18℃〜28℃、20〜25℃が最も好ましく、湿度は50%〜80%、好ましくは55%〜75%、60%〜70%が最も好ましい。このような条件下で培養し、培地に菌糸を回らせる。
【0016】
その後、49日程度で菌糸体が培地全面に蔓延するので、ビンの蓋を取って、栽培室に移し、子実体を成育させる。栽培室の温度は10〜30℃、好ましくは15〜28℃、最も好ましくは17〜25℃、湿度は80%以上、好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上である。通常、栽培室に移動後70日間前後で生長が終了するので、子実体の収穫を行う。この際のキノコは直径15〜20cmまで生長している。
【0017】
磁場処理は種菌の植菌から収穫までの期間のどの時点で行っても良いが、子実体の発生以前に行うことが好ましく、更に好ましくは、菌糸体が培地全面に蔓延する前後に行うことが好ましく、具体的には菌糸体が培地全面に蔓延する1週間前から1週間後の間のいずれかの時点でおこなうことが最も好ましい。
【0018】
磁場処理の手順を以下に示す。容器4を導線2のコイルの内側に入れ、前記導線にパルス電流を流して磁場を発生させる。ここで、前記磁場は、100〜2000ガウスであることが好ましく、200〜1500ガウスであることがさらに好ましく、300〜500ガウスであることが最も好ましい。また、前記パルス電流のパルス幅は、1マイクロ秒から1ミリ秒であることが好ましく、1マイクロ秒から100マイクロ秒であることがさらに好ましく、3〜20マイクロ秒であることが最も好ましい。
【0019】
なお、パルス電流のパルスの回数は、ハナビラタケを栽培している期間中、1回でよいが、複数回パルスを与えてもよい。
【0020】
このような栽培方法を用いて、ハナビラタケの発育を亢進させ、ハナビラタケの収量を増加させることができる。
【0021】
以上より、本発明を用いればパルス電流を用いて発生させた磁力線を照射することで短時間の処理でハナビラタケの収量を増加させることができるので、本発明はとても効率がよい方法である。
【0022】
また、ハナビラタケを栽培している部屋全体に磁場をかけてもよい。
【0023】
さらに、本発明の方法は、導線を培地へ接触させないで磁場を発生させているので、導線にハナビラタケ栽培培地が付着して導線が汚染する心配がない。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0025】
===磁場処理装置の構成===
ハナビラタケに磁場を照射する装置としては、図1に示すように、容器8と、容器8の外部にコイル状に巻きつけた導線2を備えている。容器8は、塩化ビニルの材質からなるバイプ(高さ:15cm、底:直径11cm)であり、その容器8へ320cmの導線2を約20mm間隔でソレノイド状(コイルの長さ300cm、コイルの直径11.5cm、巻き数:10回)に巻きつけた。また、高電圧実験棟内(床面コンクリート、床面専用アースあり、試験用絶縁架台敷設)に、7cmの放電ギャップ6を設けた。この容器8の内側にハナビラタケを栽培している容器4を入れ、磁場処理を行う。
【0026】
ここで、磁場処理装置10に用いたパルス装置にはIVG−900H(パルス電子技術株式会社)を用い、磁場を発生させる際のパルス幅を3〜20マイクロ秒とした。
==ハナビラタケ栽培方法==
試験にはユニチカ株式会社保存菌株であるハナビラタケUFC−779を用いた。ハナビラタケUFC−779を大鋸屑培地に接種して作製した種菌を、栽培用の大鋸屑培地に接種した。大鋸屑培地の培地基材にはカラマツの大鋸屑を用い、これに小麦粉を7%混合し、水を加えて水分を61%に調整した。これを上記容器4(容量850mL、口径58mm、高さ:15cm、底:直径10cm、材質:ポリプロピレン)に520g充填し、直径20mmの接種孔を市販の穴開け機を用いて栽培ビンの中央に1つ開けた後110℃で3時間高圧殺菌した。その後、培地温度が30℃以下まで下がるのを待って種菌を接種し、これを23℃、湿度65%で培養した。接種後48日経過し、栽培ビンのほぼ全体に菌糸が蔓延したところで磁場処理を行った。
【0027】
この際、導線2に200kV(740アンペア)、450kV(1535アンペア)で、パルス幅が3〜20マイクロ秒のパルス電流を流し、413ガウス、1039ガウスの磁場を発生させた。
【0028】
磁場を発生させてから63日後、ハナビラタケUFC−779を収穫し、ハナビラタケUFC−779の重量をそれぞれ測定した(n=6)。また、ハナビラタケを水分率が15%以下になるように凍結乾燥したものを、105℃で2時間乾燥させ、絶乾重量もそれぞれ測定した(n=6)。
【0029】
なお、コントロールとして、パルス電流を流さないこと以外は、同様に栽培したハナビラタケUFC−779を用いた。
【0030】
==結果==
本実施例の結果を表1に示す。
【表1】

【0031】
413ガウスの磁場を発生させた場合、ハナビラタケUFC−779の重量は、コントロールと比較して18%増加した。また、乾燥重量もコントロールと比較して15%増加した。
【0032】
また、1039ガウスの磁場を発生させた場合、ハナビラタケUFC−779の重量は、コントロールと比較して3%増加した。また、乾燥重量もコントロールと比較して3%増加した。
【0033】
このように、ハナビラタケUFC−779に対して特に300〜500ガウスの磁場を発生させ、パルス電流のパルス幅が3〜20マイクロ秒である場合に、ハナビラタケUFC−779の収量を増加させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態において、ハナビラタケ栽培装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0035】
2 導線
4 容器
6 放電ギャップ
8 容器
10 磁場処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培の途中で、パルス電流を用いて発生させた磁力線を照射すること、を特徴とするハナビラタケの栽培方法。
【請求項2】
磁力線照射によって、100〜2000ガウスの磁場が発生することを特徴とする、請求項1に記載のハナビラタケの栽培方法。
【請求項3】
前記磁場が、300〜500ガウスであることを特徴とする請求項2に記載のハナビラタケの栽培方法。
【請求項4】
前記パルス電流のパルス幅が1マイクロ秒から1ミリ秒であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のハナビラタケの栽培方法。
【請求項5】
前記パルス電流のパルス幅が3〜20マイクロ秒であることを特徴とする、請求項4に記載のハナビラタケの栽培方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−104996(P2007−104996A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300747(P2005−300747)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】