説明

ハニカム構造体の製造方法

【課題】ハニカム焼成体を接着剤層を介して複数個結束することによりハニカム集合体を作製する結束工程とを含むハニカム構造体の製造方法であって、焼成工程においてハニカム焼成体に反りが発生することを防止してハニカム構造体を製造することのできるハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】ハニカム成形体120を焼成用治具10の底板11上に配置したスペーサ12上に載置して焼成処理を施すことによりハニカム焼成体を作製する焼成工程において、上記スペーサは、上記スペーサ上に載置された上記ハニカム成形体を平面視した際の上記ハニカム成形体の重心Gを上記長手方向に挟むように少なくとも2カ所に配置されており、かつ、上記スペーサを、上記ハニカム成形体を平面視した際の上記重心と上記ハニカム成形体の長手方向の両端面の重心の間に存在する各中点Lに対して上記重心側の領域及び上記端面側の領域の両方を含むように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排ガス中のスス等のパティキュレートが、環境や人体に害を及ぼすことが近年問題となっている。
そこで、多孔質セラミックからなるハニカム構造体を用いることにより、排ガス中のパティキュレートを捕集し、排ガスを浄化するパティキュレートフィルタが種々提案されている。また、担持した触媒と排ガスとを接触させることにより、排ガス中の窒素酸化物等の改質をするハニカム構造体も知られている。
【0003】
このようなハニカム構造体としては、炭化ケイ素等のセラミック材料等を含む混合物に押出成形、脱脂、焼成等の処理を行うことによって作製される角柱形状のハニカム焼成体がシール材層(接着剤層)を介して複数個結束された円柱形状のハニカム構造体が用いられている。
【0004】
ハニカム焼成体は、例えば以下の方法により製造することができる。
まず、炭化ケイ素等のセラミック材料とバインダと分散媒液等とを混合して原料組成物を調製し、この原料組成物を連続的に押出成形した後、押し出された成形体を所定の長さに切断することにより、角柱状のハニカム成形体を作製する。
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥や熱風乾燥を利用して乾燥させ、その後、所定のセルに目封じを施し、セルのいずれかの端部が封止された状態とした後、脱脂工程を行う。
最後に、ハニカム成形体を焼成する焼成工程を行う。以上の工程によって、ハニカム焼成体を作製することができる。
【0005】
上記工程のうち、焼成工程は、押出成形工程によって作製され、脱脂工程によって有機物が燃焼除去されたハニカム成形体を、高温加熱して、セラミック粉末を加熱焼結させてハニカム焼成体を作製する工程であるが、この焼成工程においては、カーボン製の焼成用治具の底板にハニカム成形体を載置して焼成を行っていた。
しかし、セラミック材料として炭化ケイ素を含むハニカム成形体は、その製造条件に起因して炭化ケイ素粉末中に約3%のSiOを含有しているため、この焼成工程において、ハニカム成形体からSiOが昇華して放出され、その一部がSiOガスとなり、このSiOガスと焼成用治具を構成する炭素とが反応してSiCが生成する反応が進行して、焼成用治具の底板に炭化ケイ素の粗大粒子が形成されることがあった。
焼成用治具は繰り返し使用する部材であるが、焼成用治具の底板に炭化ケイ素の粗大粒子が形成された状態で焼成用治具の底板にハニカム成形体を載置して焼成工程を行うと、ハニカム成形体の表面に傷がつきやすく、得られるハニカム焼成体には欠けやピンホールが発生するためにハニカム焼成体の強度が低下することがあり、問題となっていた。
さらに、このような炭化ケイ素の粗大粒子が形成されると、焼成用治具を繰り返し使用することが困難となるという問題があった。
【0006】
特許文献1及び2には、焼成用治具の底板と炭化ケイ素成形体との間に空間を設けて焼成を行う炭化ケイ素成形体(ハニカム成形体)の焼成方法が開示されている。
図8は、焼成用治具の底板にスペーサを配置し、スペーサ上にハニカム成形体を載置して焼成工程を行う方法を模式的に示す断面図である。
【0007】
特許文献1においては、図8に示すように焼成用治具10の底板11上にカーボン等のセラミック部材からなるスペーサ12を配置し、ハニカム成形体120をスペーサ12上に載置して焼成工程を行っており、焼成用治具10の底板11とハニカム成形体120との間にはスペーサ12の厚み分だけの空間が設けられている。
【0008】
特許文献1によると、このように焼成用治具10の底板11とハニカム成形体120との間に空間を設けて焼成工程を行うことによって、焼成用治具10の底板11に炭化ケイ素の粗大粒子が形成されることを防止して、作製されるハニカム焼成体に欠けやピンホールが発生することを防止することができるとされている。
【0009】
特許文献2においては、突起部を備えた焼成用治具が開示されている。この焼成用治具の突起部の上に炭化ケイ素成形体(ハニカム成形体)を載置すると、焼成用治具の底板とハニカム成形体との間に突起部の厚み分だけの空間を設けることができる。
そのため、特許文献2に開示された焼成用治具を用いて焼成工程を行うことによっても、焼成用治具の底板に炭化ケイ素の粗大粒子が形成されることを防止して、ハニカム成形体に欠けやピンホールが発生することを防止することができるとされている。
【0010】
【特許文献1】特開2001−220240号公報
【特許文献2】特開2001−72472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、図8に示すようにハニカム成形体と焼成用治具の底板との間に空間を設けて焼成工程を行った場合、作製したハニカム焼成体に反りが生じることがあった。
【0012】
図9は、スペーサ上に載置したハニカム成形体の重心付近が沈み込んで反る様子を模式的に示す断面図である。
焼成用治具10の底板11上に配置したスペーサ12上にハニカム成形体120を載置して焼成工程を行った場合、図9に示すように、ハニカム成形体120の重心G付近が沈み込む方向(図9中、矢印bで示す方向)に反りが発生することがあり、このような状態でハニカム成形体が焼成されることによって作製されるハニカム焼成体には反りが発生することがあった。
特に、ハニカム成形体の長手方向の長さが330mm(13インチ)以上である場合には、重心G付近が沈み込む方向に反りが頻繁に発生していた。
【0013】
そして、反りのあるハニカム焼成体を複数個結束してハニカム構造体の製造を行うと、結束工程の際にハニカム焼成体同士が接触して欠けることがあり、ハニカム構造体を製造することが困難となるという問題があった。
【0014】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、焼成工程においてハニカム焼成体に反りが発生することを防止してハニカム構造体を製造することのできるハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、ハニカム焼成体に反りが発生することを防止してハニカム焼成体を作製することのできる焼成方法について検討を行った。
まず、本発明者らは、ハニカム成形体の重心付近が沈み込む方向に反りが発生する原因について検討し、ハニカム成形体の自重によってハニカム成形体の重心に対して沈み込む方向に力が加わっていることが反りが発生する原因であると予想した。
そこで、図9に示す2本のスペーサに加えて、ハニカム成形体の重心の直下にもスペーサを配置することによって、焼成工程の際にハニカム成形体の重心付近が沈み込むことに起因して反りが発生することを防止することを試みた。
【0016】
図10は、焼成工程においてハニカム成形体の重心の直下にスペーサを配置してハニカム成形体を焼成用治具内に載置する方法の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
なお、図10では、ハニカム成形体の載置状態を把握しやすいように、焼成用治具の側壁部材の一部を省略している。
【0017】
通常、焼成用治具10の形状は、載置するハニカム成形体120の長手方向の長さに比べて焼成用治具10の底板11の一辺の長さが少し長い程度となるように設計されている。
従って、図10に示すように複数のハニカム成形体120をその長手方向が平行になるようにして焼成用治具10に配置したスペーサ12上に載置した場合には、ハニカム成形体120の重心が焼成用治具10の底板11の中心線M付近に位置することとなる。
【0018】
本発明者らは、図10に示すようにハニカム成形体120を3本のスペーサ12上に載置して焼成工程を行うことによって、ハニカム成形体の重心付近が沈み込む方向に反りが発生することを防止することができた。しかし、逆に、この方法で焼成工程を行うことによって作製したハニカム焼成体のうちのいくつかには重心付近が持ち上がる方向に反りが発生していた。
このような反りが発生したハニカム焼成体も、ハニカム構造体の製造に適していないものであり、重心付近が持ち上がる方向に反りが発生することも問題であった。
【0019】
このため、本発明者らは、重心付近が持ち上がる方向に反りが発生する原因について検討を行った。すると、焼成用治具を繰り返し使用した場合に、焼成用治具の底板の中央付近を頂点としてドーム形に持ち上がるように、焼成用治具の底板が反ることがあることが判明した。
【0020】
図11は、スペーサ上に載置したハニカム成形体の重心付近が持ち上がって反る様子を模式的に示す断面図である。
図11に示すように、焼成用治具10の底板11の中央付近が持ち上がる方向に反った場合、焼成用治具10の底面の中心線に沿って配置した中央のスペーサ12にも、持ち上がる方向に力が加わる。
このことから、ハニカム成形体120の重心Gの直下に対して上向きの力(図11中、矢印cで示す)が加わっていることが推定され、この力がハニカム成形体120の重心G付近が持ち上がる方向に反りが発生する原因であることが予想された。
【0021】
このように、本発明者らは従来知られていた方法によって作成されたハニカム焼成体に反りが発生する原因について鋭意検討を行い、その検討の過程でさらに焼成用治具の反りによってもハニカム焼成体に反りが発生することを発見し、さらにこの発見に基づいて検討を行った結果、本発明を完成した。
【0022】
すなわち、請求項1に記載の本発明のハニカム焼成体の製造方法は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製する成形工程と、
上記ハニカム成形体を焼成用治具の底板上に配置したスペーサ上に載置して焼成処理を施すことによりハニカム焼成体を作製する焼成工程と、
上記ハニカム焼成体を接着剤層を介して複数個結束することによりハニカム集合体を作製する結束工程とを含むハニカム構造体の製造方法であって、
上記焼成工程において、上記スペーサは、上記スペーサ上に載置された上記ハニカム成形体を平面視した際の上記ハニカム成形体の重心を上記長手方向に挟むように少なくとも2カ所に配置されており、かつ、
上記スペーサは、上記ハニカム成形体を平面視した際の上記重心と上記ハニカム成形体の長手方向の両端面の重心の間に存在する各中点に対して上記重心側の領域及び上記端面側の領域の両方を含むように配置されていることを特徴とする。
【0023】
この請求項1に記載の発明によると、焼成工程において、スペーサはハニカム成形体の重心を長手方向に挟むように少なくとも2カ所に配置されている。
このようにスペーサを配置した場合、焼成用治具の底板の中心線付近、すなわちハニカム成形体の重心の直下にはスペーサが配置されていないため、焼成用治具の底板の中央付近が持ち上がる方向に反った場合であってもスペーサを介してハニカム成形体を持ち上げる方向に加わる力が小さくなる。そのため、焼成用治具の底板が反る方向に沿ってハニカム焼成体に発生する反りを小さくすることができる。
従って、焼成用治具を繰り返し使用した場合であっても、反りが小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0024】
また、焼成工程において、スペーサはハニカム成形体を平面視した際の重心とハニカム成形体の長手方向の両端面の重心の間に存在する各中点に対して重心側の領域及び端面側の領域の両方を含むように配置されている。
【0025】
焼成工程においては、ハニカム成形体の重心付近に対して自重により沈み込む方向に反ろうとする力が加わるが、この力の支点はスペーサのうちハニカム成形体の重心に最も近い側の辺となるものと考えられる。そのため、本発明で規定した位置にスペーサを配置すると、力の支点とハニカム成形体の重心との間の距離が、上記中点とハニカム成形体の重心との距離よりも短くなるため、ハニカム成形体の重心付近に加わる力を小さくすることができる。
また、ハニカム成形体の端面付近にも、自重により沈み込む方向に反ろうとする力が加わるが、この力の支点はスペーサのうちハニカム成形体の端面に最も近い側の辺となるものと考えられる。そのため、本発明で規定した位置にスペーサを配置すると、力の支点とハニカム成形体の端面との間の距離が上記中点と上記端面との間の距離よりも短くなるため、ハニカム成形体の端面付近に加わる力を小さくすることができる。
このように、ハニカム成形体の重心付近及び端面付近に加わる力を共に小さくすることができるために、反りが小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0026】
そして、請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法においては、焼成工程において、反りが小さいハニカム焼成体を作製することができるため、複数のハニカム焼成体を結束してハニカム構造体を製造する際にハニカム焼成体同士が接触して欠けることがなく、ハニカム構造体を歩留りよく製造することができる。
【0027】
請求項2に記載の発明では、上記重心を挟む2つの上記スペーサ間の距離は、上記ハニカム焼成体の長手方向の長さの25〜45%である。
請求項2に記載の発明によると、2つのスペーサ間の距離をこのような範囲とすることによって、ハニカム成形体が自重により沈み込む方向に加わる力を小さくする効果と、焼成用治具の底板が反る方向に沿ってハニカム焼成体に発生する反りを小さくする効果とをさらに有効に発揮させることができる。従って、反りがより小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0028】
請求項3に記載の発明の焼成工程において、上記スペーサは、上記スペーサ上に載置された上記ハニカム成形体を平面視した際に、2ヶ所の上記中点のそれぞれに対して重なる位置に配置されている。
そのため、1つのスペーサのみで1つの中点に対してハニカム焼成体の重心側の領域及び端面側の領域の両方を含むようにスペーサを配置することができる。従って、反りの小さいハニカム焼成体を容易に作製することができる。
【0029】
請求項4に記載の発明では、上記中点と重なるスペーサの上記長手方向における長さは、20〜50mmである。
【0030】
請求項4に記載の発明によると、ハニカム成形体の長手方向におけるスペーサの長さを20mm以上としているため、スペーサの最も重心に近い側の辺とハニカム成形体の重心との間の距離、及び、スペーサの最も端面に近い側の辺とハニカム成形体の端面との間の距離がより短くなり、ハニカム成形体の重心付近及び端面付近に加わる力をより小さくすることができる。従って反りがより小さいハニカム焼成体を作製することができる。
また、スペーサとハニカム成形体が接触している領域では焼成が不充分になることがあり、焼成が不充分であるとハニカム焼成体の強度が低くなるが、請求項4に記載の発明によると、ハニカム成形体の長手方向におけるスペーサの長さを50mm以下としているため、スペーサとハニカム成形体が接触している領域の面積を小さくして焼成が不充分となる領域の面積を小さくすることができるため、強度の高いハニカム焼成体を作製することができる。
【0031】
請求項5に記載の発明では、上記焼成工程において、上記スペーサ上に載置されたハニカム成形体を平面視した際に、上記各中点が少なくとも2つのスペーサで挟まれるように、上記スペーサが配置されており、各中点からハニカム成形体の重心の側の領域には重心側スペーサが配置され、各中点からハニカム成形体の端面側の領域には端面側スペーサが配置されている。
【0032】
請求項5に記載の発明によると、1つの中点に対してハニカム成形体の重心側の領域及び端面側の領域の両方にスペーサを配置しているため、反りの小さいハニカム焼成体を作製することができる。
さらに、ハニカム成形体とスペーサが接触している領域の面積をより小さくして焼成が不充分となる領域の面積を小さくすることができるため、強度の高いハニカム焼成体を作製することができる。
また、ハニカム成形体とスペーサが接触している領域ではハニカム成形体の焼結が進行しにくくなっており、焼成後のハニカム焼成体の表面が荒れる(凹凸を有する状態となる)傾向があるが、請求項5に記載の発明によると焼成がきわめて充分に行われるため、スペーサが接触していた領域の表面が荒れていないハニカム焼成体を作製することができる。
【0033】
請求項6に記載の発明では、上記端面側スペーサの上記端面の重心に最も近い位置と、上記重心側スペーサの上記重心に最も近い位置との距離は、30〜50mmである。また、請求項7に記載の発明では、上記端面側スペーサの上記端面の重心に最も近い位置と、上記重心側スペーサの上記重心に最も近い位置との距離は、上記ハニカム焼成体の長手方向の長さの9〜16%である。
この請求項6又は7の発明によると、反りがより小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0034】
請求項8に記載の発明では、上記端面側スペーサ及び上記重心側スペーサの上記長手方向における長さは、5〜10mmである。
スペーサの長手方向の長さが小さすぎると、焼成治具のスペーサ上にハニカム成形体を載置する際にハニカム成形体の位置がずれやすくなるが、請求項8に記載の発明によると、スペーサの長手方向における長さを5mm以上としているため、ハニカム成形体の位置がずれることを防止することができる。
さらに、スペーサの長手方向における長さを10mm以下としているため、ハニカム成形体とスペーサが接触している領域の面積をきわめて小さくすることができる。そのため、、強度が高く、スペーサが接触していた領域の表面が荒れていない(凹凸を有する状態となっていない)ハニカム焼成体を作製することができる。
【0035】
請求項9に記載の発明では、上記焼成工程において、上記スペーサ上に載置された上記ハニカム成形体を平面視した際に、上記スペーサは、上記ハニカム成形体の重心を通り、上記長手方向に垂直な直線に対して、線対称となる位置に配置されている。
請求項9に記載の発明によると、ハニカム成形体の重心付近及び両側の端面付近に加わる力をバランスよく分散させることができる。従って、反りがより小さく寸法精度のより高いハニカム焼成体を作製することができる。
【0036】
請求項10に記載の発明では、上記ハニカム成形体の長手方向の長さは、305mm以上である。
請求項10に記載の発明によると、ハニカム成形体の長さが長い場合であっても反りが小さく強度の高いハニカム焼成体を作製することができ、ハニカム構造体を歩留まりよく製造することができる。
【0037】
請求項11の記載の発明では、少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダとを含む原料組成物を成形することにより、上記ハニカム成形体を作製する。
請求項11に記載の発明によると、炭化ケイ素を含んだハニカム成形体を載置して焼成工程を行った場合であっても、スペーサ上にハニカム成形体を載置して焼成工程を行うので、焼成用治具の底板に炭化ケイ素の粗大粒子が形成されることを防止して、強度の高いハニカム焼成体を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(第一実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第一実施形態について説明する。
この第一実施形態では、図2(a)、(b)に示したハニカム焼成体、及び、図1に示したハニカム構造体を製造するものとする。
【0039】
図1は、ハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2(a)は、上記ハニカム構造体を構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【0040】
ハニカム構造体100では、図1に示すようにハニカム焼成体110が接着剤層101を介して複数個結束されてセラミックブロック103を構成し、さらに、このセラミックブロック103の外周にコート層102が形成されている。
また,ハニカム焼成体110は、図2(a)に示すように、長手方向(図2(a)中、矢印aの方向)に多数のセル111が並設され、セル111同士を隔てるセル壁113がフィルタとして機能するようになっている。
なお、本明細書において、ハニカム焼成体の端面とは、ハニカム焼成体の外形状をなす面のうち、セルが露出している面をいい、端面以外の面を側面という。
【0041】
即ち、ハニカム焼成体110に形成されたセル111は、図2(b)に示すように、排ガスの流入側又は流出側の端部のいずれかが封止材112により目封じされ、一のセル111に流入した排ガスは、必ずセル111を隔てるセル壁113を通過した後、他のセル111から流出するようになっており、排ガスがこのセル壁113を通過する際、パティキュレートがセル壁113部分で捕捉され、排ガスが浄化される。
【0042】
ここでは、まず、脱脂工程及び焼成工程においてハニカム成形体を焼成用治具内に載置する方法について詳細に説明し、その後、本発明のハニカム構造体の製造方法の全製造工程を工程順に説明する。
【0043】
図3(a)は、本発明の第一実施形態においてハニカム成形体を焼成用治具内に載置する方法を模式的に示す一部切り欠き斜視図であり、(b)は、図3(a)においてBで示す部分の平面図である。
なお、図3(a)では、ハニカム成形体の載置状態を把握しやすいように、焼成用治具の側壁部材の一部を省略している。
また、図3(b)では、ハニカム成形体の長手方向が紙面横向きとなるように、図3(a)に対して90度回転した図を示している。
【0044】
図3(a)に示す焼成用治具10は、カーボン製で、その上面が開放された箱状を有しており、上記箱状は、矩形板形状の底板11と底板11の4辺から立設した側壁部材13とからなる。
この焼成用治具の寸法は、底板11の短辺の長さがハニカム成形体120の長手方向の長さよりも少し長い程度となるように設計されている。
また、底板11上には、ハニカム成形体120を載置するためのスペーサ12が、底板11の短辺の中点を通る中心線Mに対して線対称となる位置に、2本配置されている。
【0045】
スペーサ12は、カーボン繊維を組み合わせて布状にしたカーボンフェルト製で、その厚みは2.0〜5.0mmであり、短辺の長さは20〜50mmであり、長辺の長さは焼成用治具10の底板11の長辺の長さよりも少し短い程度となっている。
そして、本実施形態における焼成工程では、2本のスペーサ12を底板11上に配置し、その2本のスペーサ12と所定の位置関係となるようにハニカム成形体120を載置している。
この所定の位置関係について以下に説明する。
【0046】
図3(b)は、図3(a)においてBで示す部分の平面図である。この平面図において、ハニカム成形体120の左側側面125、右側端面126の重心の位置をそれぞれ示す点を考えると、ハニカム成形体120は両端面の形状が略正方形の角柱形状であるため、ハニカム成形体120の左側端面重心LGは左側端面125を示す線分の中点となり、右側端面重心RGは右側端面126を示す線分の中点となる。
そして、このようにして定めた左側端面重心LG、右側端面重心RGと、ハニカム成形体120の重心Gとの間の中点は、それぞれ、左側中点L、及び、右側中点Rとなる。
【0047】
本実施形態では、図3(b)のようにスペーサ12上に載置されたハニカム成形体120を平面視した際に、左側中点L及び右側中点Rとスペーサ12とがそれぞれ重なるように、ハニカム成形体120を2本のスペーサ12上に載置している。
このように2カ所の中点のそれぞれに対してスペーサが重なっていると、中点L又は中点Rのそれぞれに対してハニカム成形体120の重心側の領域及び端面側の領域の両方を含むようにスペーサが配置されていることとなる。
また、本実施形態においては、重心Gを通りハニカム成形体120の長手方向に対して垂直な直線Mに対して、スペーサ12が線対称となるようにハニカム成形体120と2本のスペーサ12の位置関係を定めている。
【0048】
さらに、本実施形態では、図3(b)に示す平面図において2本のスペーサ12がハニカム成形体120の重心Gをハニカム成形体120の長手方向に挟むように、ハニカム成形体120と2本のスペーサ12の位置関係を定めている。
【0049】
また、本実施形態において、ハニカム成形体120の長手方向におけるスペーサ12の長さは、図3(b)においてWで示す長さであり、この長さWはスペーサの短辺の長さと等しく、20〜50mmである。
以下、本明細書中においてこの長さWをスペーサの長手方向の長さW、又は、長さWということとする。
【0050】
また、本実施形態において2本のスペーサ12間の距離は、図3(b)においてEで示す距離であり、ハニカム成形体120の長手方向の長さの25〜45%である。
この距離Eは、左側端面重心LGとハニカム成形体の重心Gとを通る直線上の位置であって、中点Lと重なるスペーサ12の重心Gに最も近い位置14Lと、右側端面重心RGとハニカム成形体の重心Gとを通る直線上の位置であって、中点Rと重なるスペーサ12の重心Gに最も近い位置14Rとの間の距離Eのハニカム成形体の全長に対する割合(%)として定める。
以下、本明細書中においてこの距離E(%)を、スペーサ間の距離E、又は、距離Eということとする。
【0051】
次に、このようにして焼成用治具内にハニカム成形体を載置して行う脱脂工程及び焼成工程を含む、本発明の第一実施形態に係るハニカム構造体の製造方法の全製造工程について、工程順に説明する。
【0052】
まず、平均粒子径の異なる炭化ケイ素粉末と有機バインダとを含む原料組成物を乾式混合して混合粉末を調製するとともに、液状の可塑剤と潤滑剤と水とを混合して混合液体を調製し、続いて、上記混合粉末と上記混合液体とを湿式混合機を用いて混合することにより、成形体製造用の湿潤混合物を調製する。
【0053】
次に、上記湿潤混合物を、押出成形機に投入して押出成形する成形工程を行う。
そして、押出成形により得られた長尺のハニカム成形体を、切断装置を用いて切断することにより、図2(a)に示した角柱形状のハニカム成形体を作製する。
本実施形態においては、ハニカム成形体の長手方向の長さが305mm以上となるように切断する。
その後、上記ハニカム成形体を、マイクロ波と熱風とを組み合わせた乾燥機を用いて乾燥させる。
【0054】
次いで、入口側セル群の出口側の端部、及び、出口側セル群の入口側の端部に、封止材となる封止材ペーストを所定量充填し、セルを目封じする。このセルの目封じの際には、ハニカム成形体の端面(すなわち切断工程後の切断面)に目封じ用のマスクを当てて、目封じの必要なセルにのみ封止材ペーストを充填する。
このような工程を経て、封止材ペーストが充填されたハニカム成形体を作製する。
【0055】
次に、封止材ペーストが充填されたハニカム成形体を、ハニカム成形体とスペーサの位置関係が上述した関係となるように焼成用治具のスペーサに載置して、脱脂炉中で脱脂温度250〜390℃、雰囲気中の酸素濃度5〜13体積%で脱脂する脱脂工程を行い、ハニカム成形体中の有機物を除去する。
続いて、脱脂工程を経たハニカム成形体を焼成用治具のスペーサに載置したまま、焼成炉内でアルゴン雰囲気下、例えば、2200℃の焼成温度で焼成する焼成工程を行い、ハニカム焼成体を作製する。
【0056】
そして、得られたハニカム焼成体の側面に、接着剤層となるシール材ペーストを塗布して接着剤ペースト層を形成し、この接着剤ペースト層の上に、順次他のハニカム焼成体を積層する工程を繰り返して所定数のハニカム焼成体が結束されたハニカム集合体を作製する結束工程を行う。なお、シール材ペーストとしては、例えば、無機バインダと有機バインダと無機繊維及び/又は無機粒子とからなるものを使用することができる。
【0057】
次に、このハニカム集合体を加熱して接着剤ペースト層を乾燥、固化させて接着剤層とする。その後、ダイヤモンドカッターを用いてハニカム焼成体の集合体に切削加工を施してセラミックブロックとし、セラミックブロックの外周面にシール材ペーストを塗布し、シール材ペーストを乾燥固化させてコート層を形成することによりハニカム構造体の製造を終了する。
なお、接着剤層の形成とコート層の形成に用いるシール材ペーストとしては、同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0058】
以下、本実施形態のハニカム構造体の製造方法についての作用効果について列挙する。
(1)スペーサ上にハニカム成形体を載置して焼成工程を行うので、焼成用治具の底板に炭化ケイ素の粗大粒子が形成されることを防止して、強度の高いハニカム焼成体を作製することができる。
【0059】
(2)焼成用治具の底板の中心線付近、すなわちハニカム成形体の重心の直下にはスペーサが配置されていないため、焼成用治具の底板の中央付近が持ち上がる方向に反った場合であっても、スペーサを介してハニカム成形体を持ち上げる方向に加わる力が小さくなる。そのため、焼成用治具の底板が反る方向に沿ってハニカム焼成体に発生する反りを小さくすることができる。
従って、焼成用治具を繰り返し使用した場合であっても、反りの小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0060】
(3)ハニカム成形体の重心とハニカム成形体の各端面の重心との間に存在する2箇所の中点のそれぞれに対して上記ハニカム成形体の重心側にスペーサが存在するようにスペーサを配置しているので、自重によりハニカム成形体の重心付近に加わる力を小さくすることができる。
従って、反りの小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0061】
(4)ハニカム成形体の重心とハニカム成形体の各端面の重心との間に存在する2箇所の中点のそれぞれに対して、上記ハニカム成形体の端面側にスペーサが存在するようにスペーサを配置しているので、自重によりハニカム成形体の端面付近に加わる力を小さくすることができる。従って、反りの小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0062】
(5)ハニカム成形体の重心を挟む2つのスペーサ間の距離を、上記ハニカム焼成体の長手方向の長さの25〜45%としているので、ハニカム成形体が沈み込む方向に加わる力を小さくする効果と、焼成用治具の底板が反る方向に沿ってハニカム焼成体に発生する反りを小さくする効果とをさらに有効に発揮させることができる。従って、反りがより小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0063】
(6)スペーサを上記中点と重なる位置に配置しているため、一つのスペーサのみで1つの中点に対してハニカム焼成体の重心側の領域及び端面側の領域の両方を含むようにスペーサを配置することができる。従って、反りの小さいハニカム焼成体を容易に作製することができる。
【0064】
(7)ハニカム成形体の長手方向におけるスペーサの長さWを20mm以上としているため、スペーサの最も重心に近い側の辺とハニカム成形体の重心との間の距離、及び、スペーサの最も端面に近い側の辺とハニカム成形体の端面との間の距離が短くなり、ハニカム成形体の重心付近及び端面付近に加わる力を小さくすることができる。従って反りが小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0065】
(8)ハニカム成形体の長手方向におけるスペーサの長さWを50mm以下としているため、スペーサとハニカム成形体が接触している領域の面積を小さくすることができる。従って焼成が充分に行われて強度の高いハニカム焼成体を作製することができる。
【0066】
(9)ハニカム成形体の重心を通りハニカム成形体の長手方向に対して垂直な直線に対して、線対称となる位置にスペーサを配置しているため、ハニカム成形体の重心付近及び両側の端面付近に加わる力をバランスよく分散させることができる。従って、反りがより小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0067】
(10)ハニカム成形体の重心付近及び端面付近に加わる力を小さくすることができるため、ハニカム成形体の長手方向の長さを305mm以上と長くしているにも関わらず、反りの少ないハニカム焼成体を作製することができる。
【0068】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
平均粒径22μmを有する炭化ケイ素の粗粉末52.2重量%と、平均粒径0.5μmの炭化ケイ素微粉末22.4重量%とを湿式混合し、得られた混合物に対して、アクリル樹脂4.8重量%、有機バインダ(メチルセルロース)2.6重量%、潤滑剤(日本油脂社製 ユニルーブ)2.9重量%、グリセリン1.3重量%、及び、水13.8重量%を加えて混練して湿潤混合物を得た。
【0070】
次に、この湿潤混合物を押出成形機に投入し、連続的に柱状のハニカム成形体を押出成形する成形工程を行った。その後、押出成形されたハニカム成形体を切断装置に設けられた切断部材を用いて切断して、図2(a)、(b)に示した形状のハニカム成形体を作製した。
このハニカム成形体は、その大きさが33.0mm×33.0mm×330.2mmであった。
【0071】
次に、マイクロ波と熱風とを併用した乾燥機を用いて上記ハニカム成形体を乾燥させた後、押出成形に用いた組成物と同様の組成の封止材ペーストを所定のセルに充填した。
【0072】
続いて、ポーラスカーボン(東海カーボン社製 G100)からなり、その一主面が開口した箱型の焼成用治具(底板の短辺350mm×底板の長辺430mm×高さ45mm)内に、カーボンフェルト(短辺20mm×長辺410mm×厚み5mm)からなるスペーサを2本配置して、2本のスペーサ上に、各ハニカム成形体の長手方向がスペーサの長辺と直交するように、一定間隔でハニカム成形体を3個載置した。
【0073】
図4(a)、(b)は、各実施例におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
本実施例では、図4(a)に示すように、スペーサ上に載置されたハニカム成形体を平面視した際に、ハニカム成形体の長手方向の端面の重心LG、RGとハニカム成形体の重心Gとがなす2箇所の中点L及びRのそれぞれと各スペーサとが重なる位置に、2本のスペーサ12を配置した。
また、本実施例において、長さWは、スペーサ12の短辺の長さである20mmであり、スペーサ間の距離Eはハニカム成形体の全長に対して43.9%であった。
【0074】
次に、焼成用治具内にハニカム成形体が載置された上記焼成用治具を連続脱脂炉内に搬入し、9体積%の酸素濃度を有する空気と窒素との混合ガス雰囲気下、400℃で加熱することにより脱脂する脱脂工程を行った。
【0075】
そして、脱脂された上記ハニカム成形体を上記焼成用治具に載置したまま、焼成装置に搬入し、常圧のアルゴン雰囲気下において2200℃で約3時間の焼成する焼成工程を行い、四角柱状のハニカム焼成体を作製した。
【0076】
(比較例1)
図5(a)〜(d)は、各比較例におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
脱脂工程及び焼成工程において、図5(a)に示すように、スペーサが中点L又はRよりも端面側にのみ位置するように、ハニカム成形体の端面とスペーサの長辺とが重なる位置に配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0077】
(比較例2)
脱脂工程及び焼成工程において、図5(b)に示すように、比較例1と同じ位置に配置した2本のスペーサに加えて、重心Gとスペーサとが重なるようにスペーサを1本配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0078】
(比較例3)
脱脂工程及び焼成工程において、図5(c)に示すように、1枚のスペーサを中点Lよりも端面側にのみ位置するように、ハニカム成形体の端面とスペーサの長辺とが重なる位置に配置し、かつ、他の1枚のスペーサを中点Rとスペーサとが重なるように配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0079】
(比較例4)
脱脂工程及び焼成工程において、図5(d)に示すように、実施例1と同じ位置に配置した2本のスペーサに加えて、重心Gとスペーサとが重なるようにスペーサを1本配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0080】
(比較例5)
脱脂工程及び焼成工程において、スペーサを配置することなく、ハニカム成形体を焼成用治具の底板上に直接載置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0081】
これまで説明した各実施例及び比較例において得られたハニカム焼成体について、下記の評価(測定)を行った。
【0082】
(1)反り量の測定
ハニカム焼成体の反り量の測定は、反り量測定用治具を用いて行った。
この反り量測定用治具は、成形体の全長とほぼ同じ長さを有する真直なSUS製の角材において、この角材の両端に同じ厚さの当接部材が配設されている。また、この角材の中央には上記角材の長手方向と垂直にスライド可能なスケールが取り付けられている。
測定時には、上記当接部材を成形体の両端付近に当接し、その後、反り量測定用スケールを成形体側に移動させ、成形体と上記スケールとが接触したときのスケールの移動量を読み取ることによって反り量を測定した。その結果を表1に示した。
(2)焼成状態の評価
イ)曲げ強度の評価
得られたハニカム焼成体について、JIS R 1624を参考にした4点曲げ強度試験を行い、曲げ強度を評価した。
詳細には、ランダムに抜き出したハニカム焼成体(5サンプル)について、曲げ強度試験機(インストロン5582)を用い、上側スパン間距離195mm、下側スパン間距離308mm、スピード0.35mm/minで51MPaの荷重を加えて4点曲げ試験を行い、各ハニカム焼成体にクラックが生じるか否かを判定した。
なお、このスパン間距離及び荷重は、成形体長、セル壁の厚さ及びセル密度を考慮した断面二次モーメントから応力が30MPaとなるように算出したものである。
その結果を、5サンプル全てにクラックが生じなかったものを○、5サンプルのうちのいずれかにクラックが生じたものを△、5サンプル全てにクラックが生じたものを×として表1に示した。
ロ)外観の評価
得られたハニカム焼成体について、焼成工程においてスペーサと接触していた領域の外観を目視で評価した。
その結果を、上記領域の表面が荒れていないものを◎とし、以後、表面の荒れが少ない順に○、△、×として表1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1においては、2カ所の中点のそれぞれと重なるようにスペーサを配置して焼成工程を行ったため、得られたハニカム焼成体の反りが0.8mm以下と小さくなっていた。
また、実施例1で得られたハニカム焼成体は充分な曲げ強度を有していた。このことから、実施例1の方法によるとハニカム構造体を製造するために好適なハニカム焼成体を作製できることがわかった。
【0085】
これに対し、比較例1〜5で得られたハニカム焼成体ではいずれも反りが1.0mmより大きくなっており、ハニカム構造体を製造するためには不適当なハニカム焼成体であった。この反りは、スペーサの配置位置が適当でないため、又は、スペーサが用いられていないために発生したものと考えられる。
【0086】
(実施例2〜4)
脱脂工程及び焼成工程において、短辺の長さが30〜50mmであり、長さWが表2に示す長さ(30〜50mm)となるスペーサを配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0087】
(参考例1〜5)
脱脂工程及び焼成工程において、短辺の長さが10mm又は60〜90mmであり、長さWが表2に示す長さ(10mm又は60〜90mm)となるスペーサを配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0088】
各実施例及び参考例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例1の結果と併せて表2に示した。
【0089】
【表2】

【0090】
表2に示した結果から明らかなように、スペーサの長さWを20mm以上とすると、作製されたハニカム焼成体の反りが0.8mm以下と小さくなっていた。
特に、長さWを30mm以上とすると、作製されたハニカム焼成体の反りが0.5mm以下ときわめて小さくなっていた。
また、長さWを50mm以下とすると、得られたハニカム焼成体の曲げ強度は良好となっていた。
これは、スペーサとハニカム成形体が接触している面積が小さいほど、焼成がより充分に行われるためと考えられる。
また、長さWの変化に伴い距離Eが変化するが、実施例1〜4及び参考例2〜4のように距離Eが25〜45%の範囲内であると反りが0.8mm以下と低くなっていた。
【0091】
(実施例5)
押出成形されたハニカム成形体を切断する際の切断寸法を変更して、長手方向の長さが355.6mmであるハニカム成形体を作製した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0092】
(参考例6)
押出成形されたハニカム成形体を切断する際の切断寸法を変更して、長手方向の長さが304.8mmであるハニカム成形体を作製した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0093】
(比較例6)
押出成形されたハニカム成形体を切断する際の切断寸法を変更して、長手方向の長さが304.8mmであるハニカム成形体を作製し、焼成工程において、図5(a)に示すように、スペーサが中点L又はRよりも端面側にのみ位置するように、ハニカム成形体の端面とスペーサの長辺とが重なる位置にスペーサを配置した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0094】
各実施例、参考例及び比較例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例1及び比較例1の結果と併せて表3に示した。
なお、曲げ強度の測定においては、スパン間距離及び荷重を成形体長に合わせて変更した。
【0095】
【表3】

【0096】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1及び5においては、ハニカム成形体の長手方向の長さが330.2mm又は355.6mmと長いにも関わらず、得られたハニカム焼成体の反りが0.8mm以下と小さくなっていた。
これに対し、比較例1及び6のようにスペーサが中点L又はRよりも端面側にのみ位置するようにスペーサを配置して焼成を行った場合には、比較例6のように成形体長が305mm未満であれば得られたハニカム焼成体の反りは1.0mm以下とそれほど大きくなかったものの、比較例1のように成形体長が305mm以上であると、得られたハニカム焼成体の反りは1.0mmを超えていた。
また、参考例6と比較例6を対比すると、ハニカム成形体の長手方向の長さを304.8mmとした場合には、スペーサを配置する位置に関わらず、作製されたハニカム焼成体の反りは0.8mm以下と小さくなっていた。
したがって、本発明のハニカム構造体の製造方法を用いて焼成工程を行うことによって、成形体長が305mm以上の場合に特に反りを低減することができることが明らかとなった。
【0097】
(参考例7)
脱脂工程及び焼成工程において、図4(b)に示すように、スペーサ上に載置されたハニカム成形体を平面視した際に、中点Lと重なる位置に配置するスペーサ22の短辺の長さを50mm、中点Rとスペーサとが重なる位置に配置するスペーサ12の短辺の長さを20mmとして、2本のスペーサを配置し、この2本のスペーサ上にハニカム成形体を載置した。
本参考例では、ハニカム成形体の重心を通りハニカム成形体の長手方向に対して垂直な直線に対して、配置されたスペーサは線対称でない形態であった。
このように、スペーサの短辺の長さを変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0098】
この参考例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例1の結果と併せて表4に示した。
【0099】
【表4】

【0100】
表4に示した結果から明らかなように、実施例1においては、参考例7と比べて反りが小さくなっていた。これは、実施例1においてはハニカム成形体の重心を通りハニカム成形体の長手方向に対して垂直な直線に対して、スペーサが線対称となる位置にスペーサが配置されていたためであると考えられる。
【0101】
(第二実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第二実施形態について説明する。
本実施形態では、第一実施形態において2カ所の中点のそれぞれに対してスペーサが重なるようにスペーサとハニカム成形体の位置関係を定めていることに代えて、上記中点とスペーサとが重ならず、かつ、上記中点がハニカム成形体の重心側及び端面側のそれぞれに位置する少なくとも2本のスペーサ(重心側スペーサ、端面側スペーサ)で挟まれるようにスペーサとハニカム成形体の位置関係を定めている。
【0102】
図6は、第二実施形態におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
本実施形態において使用するスペーサは、第一実施形態において使用するスペーサと同様のものであるが、その幅が5〜10mmのものを好適に用いることができる。
【0103】
ハニカム成形体120は、図6に示すように4本のスペーサ32の上に載置されている。
そして、左側中点Lに対して重心G側に重心側スペーサ32G、左側端面重心LG側に端面側スペーサ32Eがそれぞれ存在しており、左側中点Lは2つのスペーサ32で挟まれている。
また、右側中点Rに対しても同様に、重心G側に重心側スペーサ32G、右側端面重心RG側に端面側スペーサ32Eがそれぞれ存在しており、右側中点Rは2つのスペーサ32で挟まれている。
【0104】
また、図6において、左側端面重心LGとハニカム成形体の重心Gとを通る直線上の位置であって、端面側スペーサ32Eの左側端面重心LGに最も近い位置35Lと、重心側スペーサ32Gの重心Gに最も近い位置34Lとを考える。このとき、位置35Lと位置34Lとの間の距離は、図6においてDで示す距離となる。
本実施形態では、この距離Dが30〜50mmとなるように各スペーサ32の位置を定めている。
右側端面側についても、同様にして位置35R、位置34R及び距離Dを定めることができ、本実施形態では、右側端面側についても、距離Dが30〜50mmとなるように各スペーサ32の位置を定めている。
また、この距離Dがハニカム成形体の長手方向の長さの9〜16%となるように各スペーサ32の位置を定めており、距離Dはその長さ(mm)又はハニカム成形体の長手方向の長さに対する割合(%)で表される。
【0105】
また、本実施形態においてスペーサ間距離Eは、位置34Lと位置34Rとの間の距離のハニカム成形体の全長に対する割合(%)として定められ、本実施形態では、距離Eが25〜45%となるように各スペーサ32の位置を定めている。
また、本実施形態では、長さWはスペーサ32の短辺の長さである5〜10mmである。
【0106】
本実施形態においても、第一実施形態において説明した効果(1)〜(5)、(9)及び(10)を発揮することができる。
また、以下の効果を発揮することができる。
(11)距離Dを30mm(9%)以上としているため、スペーサの最も重心に近い側の辺とハニカム成形体の重心との間の距離、及び、スペーサの最も端面に近い側の辺とハニカム成形体の端面との間の距離を短くすることができ、ハニカム成形体の重心付近及び端面付近に加わる力を小さくすることができる。
従って、反りが小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0107】
(12)距離Dを50mm(16%)以下としているため、スペーサの最も中点に近い側の辺と中点との間の距離を短くすることができる。そのため、2つのスペーサに挟まれた中点付近が沈み込もうとする方向に加わる力を小さくすることができる。
従って、反りが小さいハニカム焼成体を作製することができる。
【0108】
(13)ハニカム成形体の長手方向におけるスペーサの長さWを10mm以下としているため、スペーサとハニカム成形体が接触している領域の面積をきわめて小さくすることができる。従って、焼成がより充分に行われて、強度が高く、スペーサとハニカム成形体が接触していた領域の表面が荒れていないハニカム焼成体を作製することができる。
【0109】
(14)スペーサが細すぎると、焼成治具のスペーサ上にハニカム成形体を載置する際にハニカム成形体の位置がずれやすくなるが、本実施形態ではスペーサの長手方向における長さを5mm以上としているため、ハニカム成形体の位置がずれることを防止することができる。
【0110】
以下、本発明の第二実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0111】
(実施例6)
脱脂工程及び焼成工程において、図6に示すように、カーボンフェルト(短辺5mm×長辺410mm×厚み5mm)からなるスペーサを4本配置して、スペーサ上にハニカム成形体を載置した。
本実施例においては、中点L及びRがそれぞれその重心側及び端面側のそれぞれに位置する2つのスペーサ(重心側スペーサ、端面側スペーサ)によって挟まれ、距離Dが50mmとなるようにスペーサを配置した。そして、スペーサをこのように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、ハニカム焼成体を作製した。
【0112】
この実施例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例4の結果と併せて表5に示した。
【0113】
【表5】

【0114】
表5に示した結果から明らかなように、実施例6においては、2カ所の中点L及びRのそれぞれが2つのスペーサによって挟まれるようにスペーサを配置して焼成工程を行ったため、得られたハニカム焼成体の反りが小さくなっていた。
特に、距離Dを50mmとしたため、反りが0.5mm以下ときわめて小さくなっていた。
【0115】
ここで、実施例6の結果と、実施例4の結果を比較する。実施例6では距離Dが50mmであるのに対し、実施例4では長さWが50mmである。
すると、反りはいずれの実施例においても0.5mm以下ときわめて小さくなっていた。これは、両実施例とも2カ所の中点の両側にスペーサが存在していること、並びに、スペーサの最も重心に近い側の辺とハニカム成形体の重心との間の距離及びスペーサの最も端面に近い側の辺とハニカム成形体の端面との間の距離が短くなっていることによると考えられる。
しかし、外観については実施例6の方が良好であった。これは、実施例6においてはスペーサとハニカム成形体とが接触している面積が実施例4と比較して小さいために、焼成がより充分に行われるためと考えられる。
【0116】
(実施例7、8、参考例8、9)
脱脂工程及び焼成工程において、スペーサを配置する位置を変更して、表6に示すように距離Dが20〜60mm(6〜18%)、距離Eが43.9〜31.8%となるようにスペーサを配置した以外は、実施例6と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
【0117】
各実施例及び参考例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例6の結果と併せて表6に示した。
【0118】
【表6】

【0119】
表6に示した結果から明らかなように、距離Dを30〜50mm(9〜15%)の範囲内とすると、作製されたハニカム焼成体の反りが0.5mm以下ときわめて小さくなっていた。
【0120】
(実施例9、参考例10、11)
脱脂工程及び焼成工程において、短辺の長さが3〜12mmであり、長さWが表7に示す長さ(3〜12mm)であるスペーサを配置した以外は、実施例6と同様にしてハニカム焼成体を作製した。
このとき距離Dが50mm(15%)、距離Eが34.8%となるようにスペーサを配置した。
【0121】
各実施例及び参考例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例6の結果と併せて表7に示した。
【0122】
【表7】

【0123】
表7に示した結果から明らかなように、長さWを5〜10mmの範囲内とすると、作製されたハニカム焼成体の反りが0.5mm以下ときわめて小さくなっており、曲げ強度が高く、かつ、外観もきわめて良好となっていた。
これは、スペーサとハニカム成形体とが接触している領域の面積が小さいために、焼成が充分に行われたためと考えられる。また、スペーサがハニカム成形体に食い込むことがないためと考えられる。
【0124】
(第三実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第三実施形態について説明する。
本実施形態では、第二実施形態において配置しているスペーサに加えて、2カ所の中点のそれぞれに対してスペーサが重なるような位置にもスペーサを配置している。
【0125】
図7は、第三実施形態におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
ハニカム成形体120は、図7に示すように6本のスペーサ32の上に載置されている。
そして、左側中点Lに対して重心G側に重心側スペーサ32G、左側端面重心LG側に端面側スペーサ32Eがそれぞれ存在していることから、左側中点Lは2つのスペーサ32で挟まれている。
さらに、左側中点Lと重なる位置にもスペーサ32が存在している。
また、右側中点Rに対しても同様に、重心G側に重心側スペーサ32G、右側端面重心RG側に端面側スペーサ32Eがそれぞれ存在しており、さらに、右側中点Rと重なる位置にもスペーサ32が存在している。
【0126】
本実施形態においても、第一実施形態において説明した効果(1)〜(5)、(9)及び第二実施形態において説明した効果(11)〜(14)を発揮することができる。
【0127】
以下、本発明の第三実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0128】
(実施例10)
脱脂工程及び焼成工程において、図7に示すように、カーボンフェルト(短辺5mm×長辺410mm×厚み5mm)からなるスペーサを6本配置して、スペーサ上にハニカム成形体を載置した。
本実施例においては、中点L及びRがそれぞれその重心側及び端面側のそれぞれに位置する2つのスペーサ32(重心側スペーサ、端面側スペーサ)によって挟まれ、かつ、中点L及びRがそれぞれスペーサ32と重なるようにスペーサを配置した。
また、このとき距離Dが50mm(15%)、距離Eが34.8%となるようにスペーサを配置した。そして、スペーサをこのように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、ハニカム焼成体を作製した。
【0129】
この実施例において得られたハニカム焼成体について、反り量と焼成状態の評価を行った。その結果を、実施例4及び6の結果と併せて表8に示した。
【0130】
【表8】

【0131】
表8に示した結果から明らかなように、実施例10においては、2カ所の中点のそれぞれが2つのスペーサで挟まれるように、かつ、2カ所の中点のそれぞれがスペーサと重なるようにスペーサを配置して焼成工程を行ったため、得られたハニカム焼成体の反りが小さくなっていた。
特に、距離Dを50mm(15%)としたため、反りが0.5mm以下ときわめて小さくなっていた。
実施例10の結果は、実施例6の結果とほぼ同様であり、外観が実施例4と比べて良好になっていた。実施例10においてもスペーサとハニカム成形体とが接触する領域の面積が実施例4と比較して小さいために、焼成が充分に行われれたためと考えられる。
【0132】
(その他の実施形態)
各実施形態において用いることのできるスペーサについて、以下に詳しく説明する。
スペーサの材料は、焼成工程時の高温に耐え得る材料であれば、特に限定されるものではなく、耐熱性を有するセラミック部材を好適に使用することができる。
また、スペーサを用いて焼成用治具とハニカム成形体との間に空間を形成した際、ハニカム成形体への伝熱は、主に、ハニカム成形体の下に存在するスペーサを介して行われるため、ハニカム成形体の焼結を早く進行させるためには、スペーサの熱伝導率は高いことが望ましい。
このことから、上記セラミック部材としては、カーボン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等を使用することができる。
なお、スペーサとして使用する上記セラミック部材は、焼成するハニカム成形体を構成する材料に応じて種々変更することができる。
【0133】
この中でも、カーボン繊維を組み合わせて布状にしたカーボンフェルトや糸状のカーボン繊維を組み上げたものが好ましい。これらは固すぎることがないためにハニカム成形体を傷つけにくいためである。
【0134】
また、カーボンフェルトの嵩密度は0.3g/cm以下であることが望ましく、0.1g/cm以下であることがより望ましい。嵩密度がこの範囲内であると、ハニカム成形体を傷つけることがなく、また、ハニカム成形体とカーボンフェルトとの接触面積が小さく、さらに、ハニカム成形体から発生したSiOガスがカーボンフェルトを通過するので、ハニカム成形体とカーボンフェルトとが反応して炭化ケイ素からなる粗大粒子が形成されにくいためである。
【0135】
スペーサの厚さは、焼成用治具とハニカム成形体との間に空間を設けることを考慮すると、1.0mm以上であることが望ましく、ハニカム成形体への熱伝導を考慮すると、10.0mm以下であることが望ましい。
また、スペーサの具体的な形状は、特に限定されるものではないが、ハニカム成形体を載置した際の安定性の面から四角柱形状が望ましい。
【0136】
本実施形態において製造されるハニカム構造体は、そのセルが封止されたハニカム構造体に限定されるものではない。セルが封止されたハニカム構造体は、ハニカムフィルタとして好適に使用することができ、また、セルが封止されていないハニカム構造体は、触媒担体として好適に使用することができる。
従って、本実施形態のハニカム構造体の製造方法においては、必ずしも封止材ペーストの充填を行う必要はなく、必要に応じて充填を行えばよい。
【0137】
ハニカム構造体の構成材料の主成分は、炭化ケイ素に限定されるわけではなく、他のセラミック原料として、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、チタン酸アルミニウム等の酸化物セラミック等の無機粉末が挙げられる。
これらのなかでは、非酸化物セラミックが好ましく、炭化ケイ素が特に好ましい。耐熱性、機械強度、熱伝導率等に優れるからである。なお、上述したセラミックに金属ケイ素を配合したケイ素含有セラミック、ケイ素やケイ酸塩化合物で結合されたセラミック等のセラミック原料も構成材料として挙げられ、これらのなかでは、炭化ケイ素に金属ケイ素が配合されたもの(ケイ素含有炭化ケイ素)が望ましい。
【0138】
また、炭化ケイ素粉末の粒径は特に限定されないが、後の焼成工程で収縮の少ないものが好ましく、例えば、1.0〜50μmの平均粒径を有する粉末100重量部と0.1〜1.0μmの平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが好ましい。
ハニカム焼成体の気孔径等を調節するためには、焼成温度を調節する必要があるが、無機粉末の粒径を調節することにより、気孔径を調節することができる。
【0139】
湿潤混合物における有機バインダとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのなかでは、メチルセルロースが望ましい。有機バインダの配合量は、通常、無機粉末100重量部に対して、1〜10重量部が望ましい。
湿潤混合物における可塑剤は、特に限定されず、例えば、グリセリン等が挙げられる。また、潤滑剤は特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
潤滑剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等が挙げられる。
なお、可塑剤、潤滑剤は、場合によっては、混合原料粉末に含まれていなくてもよい。
【0140】
また、湿潤混合物を調製する際には、分散媒液を使用してもよく、分散媒液としては、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。
さらに、湿潤混合物中には、成形助剤が添加されていてもよい。
成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0141】
さらに、湿潤混合物には、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等が挙げられる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0142】
また、ここで調製した、炭化ケイ素粉末を用いた湿潤混合物は、その温度が28℃以下であることが望ましい。温度が高すぎると、有機バインダがゲル化してしまうことがあるからである。
また、湿潤混合物中の有機分の割合は10重量%以下であることが望ましく、水分の含有量は8〜20重量%であることが望ましい。
【0143】
セルを封止する封止材ペーストとしては特に限定されないが、後工程を経て製造される封止材の気孔率が30〜75%となるものが望ましく、例えば、湿潤混合物と同様のものを用いることができる。
【0144】
また、ハニカム焼成体の集合体を作製する際には、予めハニカム焼成体同士をスペーサを介して組み上げておき、その後、ハニカム焼成体同士の間隙にシール材ペーストを注入することにより、ハニカム焼成体の集合体を作製してもよい。
【0145】
シール材ペーストにおける無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機バインダのなかでは、シリカゾルが望ましい。
【0146】
シール材ペーストにおける有機バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機バインダのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0147】
シール材ペーストにおける無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機繊維のなかでは、アルミナファイバが望ましい。
【0148】
シール材ペーストにおける無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等が挙げられる。具体的には、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素からなる無機粉末等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化ケイ素が望ましい。
【0149】
さらに、シール材ペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等が挙げられる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0150】
各実施形態における各工程の望ましい形態について、以下に詳しく説明する。
押出成形によりハニカム成形体を作製した後には、必ずも乾燥処理を行う必要はなく、必要に応じて行えばよい。また、封止材ペーストをセルの端部に充填した後に乾燥処理を行ってもよい。
また、ハニカム成形体の乾燥処理を行う際には、マイクロ波と熱風とを組み合わせた乾燥機以外に、例えば、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機、誘電乾燥機、凍結乾燥機等を用いてもよい。
【0151】
また、ハニカム成形体のセルの端部を封止材ペーストで充填する工程は、必ずしも行う必要はなく、省略してもよい。封止材ペーストを充填する工程を省略した場合、完成したハニカム構造体は、触媒を担持する触媒担体として好適に使用することができる。
【0152】
なお、脱脂工程と焼成工程は、必ずしも同一の焼成用治具を用いて行う必要はなく、脱脂工程の際には焼成用治具とは別の脱脂用治具を用いてもよい。この場合、脱脂されたハニカム成形体を脱脂用治具から取り出し、焼成用治具に配置したスペーサ上に載置して、焼成工程を行うことができる。
【0153】
本発明で製造したハニカム構造体には、必要に応じて触媒を担持させてもよい。また、触媒の担持はハニカム集合体を作製する前のハニカム焼成体に対して行ってもよい。
触媒を担持させる場合には、ハニカム構造体の表面に高い比表面積のアルミナ膜を形成し、このアルミナ膜の表面に助触媒、及び、白金等の触媒を付与することが望ましい。
【0154】
ハニカム構造体の表面にアルミナ膜を形成する方法としては、例えば、Al(NO等のアルミニウムを含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法、アルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
助触媒を付与する方法としては、例えば、Ce(NO等の希土類元素等を含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
触媒を付与する方法としては、例えば、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液([Pt(NH(NO]HNO、白金濃度約4.53重量%)等をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
また、予め、アルミナ粒子に触媒を付与して、触媒が付与されたアルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法で触媒を付与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】ハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示すハニカム構造体を構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【図3】(a)は、本発明の第一実施形態においてハニカム成形体を焼成用治具内に載置する方法を模式的に示す一部切り欠き斜視図であり、(b)は、図3(a)においてBで示す部分の平面図である。
【図4】各実施例におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
【図5】各比較例におけるハニカム成形体とスペーサの位置関係を模式的に示す平面図である。
【図6】第二実施形態におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
【図7】第三実施形態におけるスペーサとハニカム成形体の位置関係を模式的に示す平面図である。
【図8】焼成用治具の表面にスペーサを配置し、スペーサ上にハニカム成形体を載置して焼成工程を行う方法を模式的に示す断面図である。
【図9】スペーサ上に載置したハニカム成形体の重心付近が沈み込んで反る様子を模式的に示す断面図である。
【図10】焼成工程においてハニカム成形体の重心の直下にスペーサを配置してハニカム成形体を焼成用治具内に載置する方法の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視図である。
【図11】スペーサ上に載置したハニカム成形体の重心付近が持ち上がって反る様子を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0156】
10 焼成用治具
11 底板
12、22、32 スペーサ
14L、34L 重心に最も近い位置(左)
14R、34R 重心に最も近い位置(右)
15L、35L 端面の重心最にも近い位置(左)
15R、35R 端面の重心に最も近い位置(右)
32E 端面側スペーサ
32G 重心側スペーサ
100 ハニカム構造体
101 接着剤層
110 ハニカム焼成体
111 セル
113 セル壁
120 ハニカム成形体
125 左側端面(端面)
126 右側端面(端面)
G ハニカム成形体の重心
L 左側中点(重心と端面の重心の間の中点)
R 右側中点(重心と端面の重心の間の中点)
LG 左側端面重心(端面の重心)
RG 右側端面重心(端面の重心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製する成形工程と、
前記ハニカム成形体を焼成用治具の底板上に配置したスペーサ上に載置して焼成処理を施すことによりハニカム焼成体を作製する焼成工程と、
前記ハニカム焼成体を接着剤層を介して複数個結束することによりハニカム集合体を作製する結束工程とを含むハニカム構造体の製造方法であって、
前記焼成工程において、前記スペーサは、前記スペーサ上に載置された前記ハニカム成形体を平面視した際の前記ハニカム成形体の重心を前記長手方向に挟むように少なくとも2カ所に配置されており、かつ、
前記スペーサは、前記ハニカム成形体を平面視した際の前記重心と前記ハニカム成形体の長手方向の両端面の重心の間に存在する各中点に対して前記重心側の領域及び前記端面側の領域の両方を含むように配置されていることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記重心を挟む2つの前記スペーサ間の距離は、前記ハニカム焼成体の長手方向の長さの25〜45%である請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程において、前記スペーサは、前記スペーサ上に載置された前記ハニカム成形体を平面視した際に、2ヶ所の前記中点のそれぞれに対して重なる位置に配置されている請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記中点と重なるスペーサの前記長手方向における長さは、20〜50mmである請求項3に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記スペーサ上に載置されたハニカム成形体を平面視した際に、前記各中点が少なくとも2つのスペーサで挟まれるように、前記スペーサが配置されており、各中点からハニカム成形体の重心の側の領域には重心側スペーサが配置され、各中点からハニカム成形体の端面側の領域には端面側スペーサが配置されている、請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記端面側スペーサの前記端面の重心に最も近い位置と、前記重心側スペーサの前記重心に最も近い位置との距離は、30〜50mmである請求項5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記端面側スペーサの前記端面の重心に最も近い位置と、前記重心側スペーサの前記重心に最も近い位置との距離は、前記ハニカム焼成体の長手方向の長さの9〜16%である請求項5に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
前記端面側スペーサ及び前記重心側スペーサの前記長手方向における長さは、5〜10mmである請求項5〜7のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程において、前記スペーサ上に載置された前記ハニカム成形体を平面視した際に、前記スペーサは、前記ハニカム成形体の重心を通り、前記長手方向に垂直な直線に対して、線対称となる位置に配置されている請求項1〜8のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項10】
前記ハニカム成形体の長手方向の長さは、305mm以上である請求項1〜9のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項11】
少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダとを含む原料組成物を成形することにより、前記ハニカム成形体を作製する請求項1〜10のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−273810(P2008−273810A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291167(P2007−291167)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】