説明

ハブの電着塗装方法

【課題】 ハブ本体13aの表面のうち、少なくとも円筒部16の表面を含む所望範囲(破線αを付した部分)に的確に塗装膜34を形成できる様にする。
【解決手段】 上記所望範囲に塗装膜34を形成する作業を、複数工程に分けて行なう。例えば、図示の様に、ノズル32から噴出した塗装液27を上記円筒部16の内面に流し掛けながら、この内面に塗装膜34を形成する作業を、第一工程の作業として行なう。その後、上記円筒部16を、塗装槽28の内側に満たした塗装液27に浸漬しながら、この円筒部16の外周面に塗装膜を形成する作業を、第二工程の作業として行なう。この様な方法を採用する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るハブの電着塗装方法は、車輪支持用ハブユニットを構成するハブの外端部に設けた円筒部の表面に、防錆用の塗装膜を形成する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を構成するホイール1、及び、制動用回転部材であって制動装置であるディスクブレーキを構成するロータ2は、例えば図9に示す様な構造により、懸架装置を構成するナックル3に回転自在に支持している。即ち、このナックル3に形成した円形の支持孔4部分に、車輪支持用ハブユニット5を構成する外輪6を、複数本のボルト7により固定している。一方、この車輪支持用ハブユニット5を構成するハブ8に上記ホイール1及びロータ2を、複数本のスタッド9とナット10とにより結合固定している。
【0003】
上記外輪6の内周面には複列の外輪軌道11a、11bを、外周面には結合フランジ12を、それぞれ形成している。この様な外輪6は、この結合フランジ12を上記ナックル3に、上記各ボルト7で結合する事により、このナックル3に対し固定している。
【0004】
一方、上記ハブ8は、ハブ本体13と内輪14とから成る。このうちのハブ本体13の外周面の一部で、上記外輪6の外端(軸方向に関して「外」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1〜8、11、12の下側、図9、10の左側を言う。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1〜8、11、12の上側、図9、10の右側を、軸方向に関して「内」と言う。本明細書及び特許請求の範囲の全体で同じ。)開口から突出した部分には、取付フランジ15を形成している。又、上記ハブ本体13の外端部には、パイロット部と呼ばれる円筒部16を、このハブ本体13と同心に設けている。上記ホイール1及びロータ2は、この円筒部16に外嵌する事により径方向の位置決めを図った状態で、上記取付フランジ15の外側面に、上記各スタッド9とナット10とにより結合固定している。
【0005】
又、上記ハブ本体13の外周面の中間部には、上記複列の外輪軌道11a、11bのうちの外側の外輪軌道11aに対向する内輪軌道17aを、同じく内端部には小径段部18を、それぞれ形成している。そして、この小径段部18に、上記内輪14を外嵌している。この内輪14の外周面には、上記複列の外輪軌道11a、11bのうちの内側の外輪軌道11bに対向する、内輪軌道17bを形成している。この様な内輪14は、上記ハブ本体13の内端部を径方向外方に塑性変形させて形成したかしめ部19により、このハブ本体13に対して固定している。そして、上記各外輪軌道11a、11bと上記各内輪軌道17a、17bとの間に転動体20、20を、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けている。尚、図示の例では、上記外側の内輪軌道17aを上記ハブ本体13の外周面の中間部に直接形成しているが、この外側の内輪軌道17aは、図9に二点鎖線で示す様に、上記ハブ本体13の中間部に外嵌した別体の内輪14aの外周面に形成する場合もある。又、図示の例では、上記各転動体20、20として玉を使用しているが、重量の嵩む自動車用のハブユニットの場合には、円すいころを使用する場合もある。又、上記各転動体20、20を設置した円筒状の空間の両端開口部は、それぞれシールリング21a、21bにより密閉している。
【0006】
更に、図示の例は、駆動輪(FF車の前輪、FR車及びRR車の後輪、4WD車の全車輪)用の車輪支持用ハブユニット5である為、上記ハブ8の中心部に、スプライン孔22を形成している。そして、このスプライン孔22に、等速ジョイント用外輪23の外端面に固設したスプライン軸24を挿入している。これと共に、このスプライン軸24の先端部にナット25を螺合し、更に緊締する事により、上記ハブ本体13を、このナット25と上記等速ジョイント用外輪23との間に挟持している。
【0007】
次に、図10は、従来から知られている車輪支持用ハブユニットの第2例として、従動輪(FF車の後輪、FR車及びRR車の前輪)用のものを示している。この第2例の車輪支持用ハブユニット5aは、従動輪用である為、ハブ8aを構成するハブ本体13aの中心部にスプライン孔を設けていない。又、本例の場合も、このハブ本体13aの外周面の中間部には、外側の内輪軌道17aを直接形成しているが、この外側の内輪軌道17aは、上記ハブ本体13aの中間部に外嵌した別体の内輪(図示省略)の外周面に形成する場合もある。その他の部分の構造及び作用は、上述した第1例の車輪支持用ハブユニット5の場合と同様である。
【0008】
ところで、上述した様な各車輪支持用ハブユニット5、5aの場合、ハブ本体13、13aの外端部に設けた円筒部16の表面には、防錆等の目的で、塗装膜を形成する。又、この様な塗装膜の形成方法として従来から、刷毛塗り塗装法や電着塗装法等の各種の方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。これら各方法のうち、電着塗装法を採用すれば、他の方法を採用する場合に比べて、上記円筒部16の表面に塗装膜を薄く均一に形成できると共に、この塗装膜をこの表面に焼き付ける際の乾燥時間を短くでき、しかもこの塗装膜をこの表面から剥がれにくくできる為、好ましい。
【0009】
電着塗装法により、例えば図11に示すハブ本体13aのうち、円筒部16の外周面の外端部乃至中間部、外端面、及び内周面、並びに、上記ハブ本体13aの外端面のうち上記円筒部16に周囲を囲まれた部分(破線αを付して示した部分)に塗装膜を施す場合には、先ず、この破線αを付して示した部分に対し、脱脂洗浄等の前処理を施す。
【0010】
次いで、例えば図12に示す様な塗装装置26を使用して、上記破線αを付して示した部分に、塗装粒子を電着させる作業(未乾燥の塗装膜34を形成する作業)を施す。上記塗装装置26は、その内側に塗装液27を満たした、上端が開口した塗装槽28と、この塗装槽28の周囲に設けられ、この塗装槽28の上端縁から溢れ出した塗装液27を回収する回収槽29と、これら塗装槽28及び回収槽29を構成する各底板部30、31の中央部を気密且つ液密に貫通する状態で上下方向に設けられ、図示しないポンプの作用により、その上端開口から塗装液27を噴出するノズル32とを備える。このノズル32の上端部には、この上端部を全周に亙り径方向外側にU字形に折り返した如き形状の案内部33を設けている。又、このノズル32の上端縁は、上記塗装槽28の内側に満たされた塗装液27の表面よりも上方に配置している。
【0011】
この様な塗装装置26を使用して、上記破線αを付して示した部分に塗料粒子を電着させる場合には、図示の様に、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27に、上記円筒部16の外端部乃至中間部を浸漬する。これと共に、上記ハブ本体13aの外端面のうち上記円筒部16に周囲を囲まれた部分、並びに、この円筒部16の内周面に、上記ノズル32の上端部に設けた案内部33の外面を、全周に亙り対向させる。そして、この状態で、このノズル32の上端開口から塗装液27を上方に噴出する事により、この噴出した塗装液27を、上記互いに対向させた面同士の間部分に、この間部分の全体を満たす状態で流通させる。これにより、この塗装液27を、上記ハブ本体13aの外端面のうちで上記円筒部16に周囲を囲まれた部分の全体、並びに、この円筒部16の内周面の全体に、それぞれ接触させた状態とする。この様にして、上記破線αを付して示した部分の全体に、塗装液27を接触させた状態とする。
【0012】
尚、上述の様にノズル32の上端開口から噴出した塗装液27は、上記塗装槽28の内側に注がれる。そして、この様に注がれた分だけ、上記塗装槽28の内側に満たされた塗装液27が、この塗装槽28の上端縁から外部に溢れ出す。この様に外部に溢れ出した塗装液27は、上記回収槽29により回収され、再び上記ノズル32の上端開口から噴出させる為の塗装液27として利用される。
【0013】
上述の様に破線αを付した部分の全体に塗装液27を接触させたならば、次いで、この状態で、この塗装液27の他の部分に接触させた図示しない電極と、上記ハブ本体13aとの間に、電圧を印加する(例えば、この電極側に+極を、このハブ本体13a側に−極を、それぞれ通じさせる)。これにより、上記塗装液27中の塗料粒子をイオン化し、このイオン化した塗料粒子を上記破線αを付して示した部分に電着させる事で、当該部分に未乾燥の塗装膜34を形成する。この様に未乾燥の塗装膜34を形成したならば、その後、この未乾燥の塗装膜34を加熱して乾燥させる事により、この塗装膜34を上記表面に焼き付けた後、この塗装膜34を冷却して、塗装作業を完了する。尚、図示の例では、便宜上、上記塗装膜34を太線で示しているが、この太線の幅は、この塗装膜34の厚さを示すものではない。実際の塗装膜34の厚さは、上述した電圧の印加時間にもよるが、焼き付け後の状態で、例えば十数μm程度である。後述する実施例に於いても、同様である。
【0014】
上述の様に破線αを付して示した部分に塗料粒子を電着させる作業を1工程で行なう場合には、上記ノズル32の上端開口から噴出した塗装液27が上記塗装槽28に注がれる際の液流に基づいて、この塗装槽28に満たした塗装液27の表面のうち、上記円筒部16の径方向外側の部分に、うねりが発生する。この結果、この円筒部16の外周面に対する塗装液27の接触範囲が上記うねりの動きに伴って変化し、この円筒部16の外周面に形成される塗装膜34の縁の形状が、この円筒部16の径方向外側から見た場合に直線状にならず、波形になって、形成すべき部分に的確な塗装膜34を形成でなくなる可能性がある。
【0015】
【特許文献1】特開2003−136902号公報
【特許文献2】特開2003−342793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明のハブの電着塗装方法は、上述の様な事情に鑑み、ハブの表面のうち少なくとも円筒部の表面を含む所望範囲に、塗装膜を的確に形成できる方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のハブの電着塗装方法は、外周面の外端寄り部分に車輪及び制動用回転部材を支持固定する為の取付フランジを、外端部にこれら車輪と制動用回転部材とのうちの少なくとも一方を外嵌する為の円筒部を、それぞれ備えた、車輪支持用ハブユニットを構成するハブの表面うち、少なくとも上記円筒部の表面を含む所望範囲に塗装膜を形成する為、この所望範囲に塗装液を接触させながら、この塗装液中の塗料粒子をこの所望範囲に電着させる。
特に、本発明のハブの電着塗装方法に於いては、それぞれが上記所望範囲のうちの一部の範囲となる複数の部分範囲を設定し、上記所望範囲に上記塗料粒子を電着させる作業を、これら各部分範囲毎に別の工程に分けて行なう。
尚、上記複数の部分範囲を設定する場合、総ての部分範囲を足し合わせた状態で上記所望範囲の全体をカバーしていれば良く、各部分範囲同士で互いに重なり合う範囲が生じる事は差支えない。
又、本発明は、上記車輪支持用ハブユニットを組み立てる以前の、上記ハブ単体の状態で実施しても良いし、この車輪支持用ハブユニットを組み立てた状態のハブに対し実施しても良い。
【発明の効果】
【0018】
上述した様に、本発明のハブの電着塗装方法の場合には、ハブの表面の所望範囲に塗料粒子を電着させる作業を、複数の部分範囲毎に別の工程に分けて行なう為、各部分範囲の塗装を的確に行なえる。従って、上記所望範囲全体の塗装を的確に行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、各工程のうちの1つの工程として、上部が開口した塗装槽に収容した塗装液に円筒部のみを浸漬しながら、この円筒部の表面のうち上記塗装液が接触した部分に塗料粒子を電着させる工程を採用する。
この様にすれば、上記塗装槽に収容した塗装液に上記円筒部のみを浸漬しながら、この円筒部の外周面に塗装粒子を電着させる際に、上記塗装液の表面にうねりが生じる事を防止できる。この為、上記円筒部の外周面の所望個所に、塗装膜を的確に形成する事ができる。
【0020】
又、本発明を実施する場合には、例えば、請求項3に記載した様に、少なくとも塗装液を収容して上端が開口した塗装槽を備えた塗装装置を複数用意し、各工程毎にこれら各塗装装置の中から1つの塗装装置を選択し、この選択した塗装装置を使用して当該工程を行なう。
【0021】
又、本発明を実施する場合には、例えば、請求項4に記載した様に、塗装液を収容し、上端が開口した塗装槽と、塗装液を上方に噴出するノズルとを備えた1つの塗装装置を用意し、各工程を、この塗装装置のみを使用して行なう方法を採用する事もできる。
【0022】
更に、この様な請求項4に記載した発明を実施する場合には、例えば、請求項5に記載した様に、各工程毎に、塗装槽に収容した塗装液の液面及びノズルとハブとの相対位置、並びに、このノズルから噴出する塗装液の噴出の仕方を変更する。
【実施例1】
【0023】
図1〜2は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例では、前述の図10に示した車輪支持用ハブユニット5aを構成する、ハブ本体13aを実施の対象とし、このハブ本体13aを構成する円筒部16の外周面の外端部乃至中間部、外端面及び内周面、並びに、上記ハブ本体13aの外端面のうち上記円筒部16に周囲を囲まれた部分(破線αを付して示した部分)に電着塗装を施す。この為に本実施例の場合、先ず、上記破線αを付して示した部分に対し、脱脂洗浄を施した後、必要に応じて(省略しても良いが)クロメート処理等の前処理を施す。次いで、上記破線αを付して示した部分に、塗料粒子を電着させる作業を行なう。本実施例の場合には、この作業を、2工程(第一工程、第二工程)に分けて行なう。
【0024】
第一工程の作業は、前述の図12に示した塗装装置26(以下、「第一塗装装置26」とする。)を使用して行なう。具体的には、図1に示す様に、この第一塗装装置26を構成する塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面に、上記ハブ本体13aを構成する円筒部16の外端面を全周に亙り接触させる。これと共に、このハブ本体13aの外端面のうち上記円筒部16に周囲を囲まれた部分、並びに、この円筒部16の内周面に、ノズル32の上端部に設けた案内部33の外面を、全周に亙り対向させる。そして、この状態で、このノズル32の上端開口から塗装液27を上方に噴出する事により、この噴出した塗装液27を、上記互いに対向させた面同士の間部分に、この間部分の全体を満たす状態で流通させる。これにより、この塗装液27を、上記ハブ本体13aの外端面のうち上記円筒部16に周囲を囲まれた部分の全体、並びに、この円筒部16の内周面の全体に、それぞれ接触させた状態とする。
【0025】
尚、上述の様にノズル32の上端開口から上方に噴出した塗装液27は、上記互いに対向させた面同士の間部分を通過した後、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27に注がれる。そして、この様に注がれた分だけ、上記塗装槽28の内側の塗装液27が、この塗装槽28の上端縁から外部に溢れ出す。この様に外部に溢れ出した塗装液27は、上記第一塗装装置26を構成する回収槽29により回収され、再び上記ノズル32の上端開口から噴出させる為の塗装液27として利用される。この様な塗装液27の利用方法は、本実施例並びに後述する各実施例で使用する、総ての塗装装置に関して共通である。尚、図示の例では、上述の様に塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面に円筒部16の外端面を接触させている為、この表面のうち上記塗装液27が注がれた部分で跳ね返った塗装液27が、上記円筒部16の外側の空間に飛び散る事を防止できる。
【0026】
上述の様に、円筒部16の外端面及び内周面、並びに、ハブ本体13aの外端面のうちこの円筒部16に周囲を囲まれた部分に塗装液27を接触させたならば、次いで、この状態で、この塗装液27の他の部分に接触させた図示しない電極と、上記ハブ本体13aとの間に、電圧を印加する(例えば、この電極側に+極を、このハブ本体13a側に−極を、それぞれ通じさせる)。これにより、上記塗装液27中の塗料粒子をイオン化し、このイオン化した塗料粒子を上記塗装液27を接触させた部分に電着させる事で、当該部分に未乾燥の塗装膜34を形成する。ここまでが、第一工程の作業である。
【0027】
この様にして第一工程の作業を完了させたならば、次いで、第二工程の作業に移行する。この第二工程の作業は、図2に示す様な、第二塗装装置26aを使用して行なう。この第二塗装装置26aの基本構成は、上述した第一塗装装置26の基本構成とほぼ同様である。但し、この第二塗装装置26aの場合には、ノズル32aの上端部の形状を単なる円筒形状とすると共に、このノズル32aの上端縁を、塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面下に配置している。
【0028】
この様な第二塗装装置26aを使用して、第二工程を行なう場合には、図2に示す様に、上記塗装槽28の内側に塗装液27を、上記ノズル32aの上端開口から連続供給する。これにより、この塗装槽28の内側に満たした塗装液27を、この塗装槽28の上端縁から外部に溢れ出させつつ、上記ハブ本体13aを構成する円筒部16の外端部乃至中間部を、上記塗装液27に浸漬する。尚、この様に塗装液27を溢れ出させつつ円筒部16を浸漬する理由は、この塗装液27の液面位置を一定とし、上記円筒部16の外周面の塗装範囲を適切に規制する為である。又、本実施例の場合には、上記塗装液27の表面のうち、上記円筒部16の径方向外側部分にうねりを発生させにくくする為、上記ノズル32aの上端開口を上記円筒部16の径方向内側に配置すると共に、このノズル32aの上端開口から塗装液27を緩やかに吐出させている。
【0029】
上述の様に塗装槽28の内側に満たした塗装液27に円筒部16の外端部乃至中間部を浸漬する事により、この円筒部16の外端面、並びに、外周面及び内周面の外端部乃至中間部に上記塗装液27を接触させたならば、次いで、この状態で、上述した第一工程の場合と同様、上記塗装液27の他の部分に接触させた図示しない電極と、上記ハブ本体13aとの間に、電圧を印加する(例えば、この電極側に+極を、このハブ本体13a側に−極を、それぞれ通じさせる)。これにより、上記塗装液27中の塗料粒子をイオン化し、このイオン化した塗料粒子を上記塗装液27を接触させた部分に電着させる事で、当該部分に未乾燥の塗装膜34を形成する。ここまでが、第二工程の作業である。
【0030】
この様にして前記破線αを付して示した部分の全体に未乾燥の塗装膜34を形成したならば、その後、この未乾燥の塗装膜34を加熱して乾燥させる事により、この塗装膜34を上記表面に焼き付けた後、この塗装膜34を冷却して、塗装作業を完了する。
【0031】
上述した様に、本実施例のハブの電着塗装方法の場合には、ハブ本体13aの外端面のうち円筒部16に周囲を囲まれた部分、並びに、この円筒部16の内周面に、ノズル32の上端開口から噴出した塗装液27を流し掛ける作業(第一工程)と、塗装槽28の内側に満たした塗装液27に上記円筒部16の外端部乃至中間部を浸漬する作業(第二工程)とを、互いに分けて行なう。この為、この第二工程の作業を行なっている際に、上記ノズル32(32a)の上端開口から噴出した塗装液27が、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27に降り注がれて、この塗装液27の表面にうねりが発生すると言った不都合が発生する事を防止できる。従って、上記第二工程の作業を行なう際に、上記円筒部16の外周面の外端部乃至中間部に対する塗装液27の接触状態を安定させる事ができる。この結果、本実施例の場合には、上記円筒部16の外周面の外端部乃至中間部を含めて、上記破線αを付して示した部分の全体に、塗装膜34を的確に形成する事ができる。
【実施例2】
【0032】
図3〜4は、やはり請求項1〜3に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例では、前述の図9に示した車輪支持用ハブユニット5を構成する、ハブ本体13を実施の対象とし、このハブ本体13を構成する円筒部16の外周面の外端部乃至中間部、外端面及び内周面、並びに、上記ハブ本体13の外端面のうち、上記円筒部16に周囲を囲まれた部分の径方向外半部(破線βを付して示した部分)に、電着塗装を施す。尚、上記ハブ本体13の外端面のうち、上記円筒部16に周囲を囲まれた部分の径方向内半部に電着塗装を施さない理由は、この径方向内半部はナット25(図9参照)の座面であり、この径方向内半部に電着塗装を施すと、上記ナット25が緩み易くなる為である。
【0033】
そこで、本実施例の場合、図5に示す様に第一工程の作業を行なう際に、第一塗装装置26bを構成するノズル32bの上端部から噴出した塗装液27が、上記径方向内半部に掛からない様にする為に(更にはスプライン孔22の内周面に掛からない様にする為に)、これら径方向内半部及びスプライン孔22の外端開口を、マスキングカバー35により覆う。このマスキングカバー35は、ゴム、合成樹脂等の弾性材により円すい台状に形成したもので、小径側(図5の下側)の端部である底板部36を上記ノズル32bの上端部に支持固定すると共に、大径側(図5の上側)の開口周縁部を上記ハブ本体13の外端面に、全周に亙り液密に押し付けている。又、上記ノズル32bの上端部で、上記マスキングカバー35と案内部33との間部分には、塗装液27を通過自在とした網目部37を、全周に亙り設けている。そして、この網目部37を通じて、上記ノズル32bの上端部から塗装液27を噴出できる様にしている。又、本実施例の場合、続く第二工程の作業は、上述した実施例1の場合と同様、図6に示す様に、第二塗装装置26aを使用して行なう。その他の構成及び作用は、上述した実施例1の場合と同様である。
【実施例3】
【0034】
次に、図5〜6は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施例3を示している。前述の図1〜2に示した実施例1では、第一工程の作業と第二工程の作業とを、互いに異なる塗装装置26、26aを使用して行なう方法を採用した。これに対し、本実施例の場合には、上記第一、第二各工程の作業を、それぞれ図3〜4に示す様な1つの塗装装置26cを使用して行なう方法を採用している。本実施例で使用する塗装装置26cの基本構成は、上述の実施例1で使用した第一塗装装置26の基本構成とほぼ同様である。但し、本実施例の塗装装置26cの場合には、塗装槽28及び回収槽29に対してノズル32を、軸方向(図3〜4の上下方向)に変位させる事ができる様にしている。この為に、本実施例の場合、上記塗装槽28及び回収槽29を構成する各底板部30、31に形成した貫通孔38、39の内周縁に、それぞれ円環状の密封装置40、40を設置すると共に、これら各密封装置40、40の内周縁を、それぞれ上記ノズル32の中間部外周面に、軸方向の摺動を可能に、且つ、シール性を十分に確保した状態で接触させている。
【0035】
本実施例の場合、上記塗装装置26cを使用して、第一工程の作業を行なう際には、図5に示す様に、上記ノズル32の上端開口を、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面よりも上部に配置する。そして、この状態で、同図に示す様に、上述した実施例1の場合と同様にして、第一工程の作業を行なう。次いで、第二工程の作業を行なう際には、図3→図4に示す様に、上記ノズル32の上端開口を下方に変位させる事により、このノズル32の上端開口を、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面下に配置する。これと共に、上記塗装装置26cとハブ本体13aとのうちの何れか一方、或は双方を、軸方向(図3〜4の上下方向)に関して互いに近づけ合う方向に変位させる事により、上記ハブ本体13aを構成する円筒部16の外端部乃至中間部を上記塗装液27に浸漬する。そして、この状態で、図4に示す様に、上述の実施例1の場合と同様にして、第二工程の作業を行なう。
【0036】
上述の様な本実施例の場合には、第一、第二各工程の作業を、1つの塗装装置26cを使用して行なう為、上述した実施例1の場合と比べて、作業時間の短縮と、作業スペースの削減と、作業装置のコスト低減とを図れる。その他の構成及び作用は、上述した実施例1の場合と同様である。
【実施例4】
【0037】
次に、図7〜8は、やはり請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施例4を示している。前述の図3〜4に示した実施例2では、第一工程の作業と第二工程の作業とを、互いに異なる塗装装置26b、26aを使用して行なう方法を採用した。これに対し、本実施例の場合では、上記第一、第二各工程の作業を、それぞれ図7〜8に示す様な1つの塗装装置26dを使用して行なう方法を採用する。本実施例で使用する塗装装置26dの基本構成は、前述の実施例2で使用した第一塗装装置26bの基本構成とほぼ同様である。但し、本実施例の塗装装置26dの場合には、塗装槽28及び回収槽29に対してノズル32bを、軸方向(図7〜8の上下方向)に変位させる事ができる様にしている。この為に、本実施例の場合、上記塗装槽28及び回収槽29を構成する各底板部30、31に形成した貫通孔38、39の内周縁に、それぞれ円環状の密封装置40、40を設置すると共に、これら各密封装置40、40の内周縁を、それぞれ上記ノズル32bの中間部外周面に、軸方向の摺動を可能に、且つ、シール性を十分に確保した状態で接触させている。
【0038】
本実施例の場合、上記塗装装置26dを使用して、第一工程の作業を行なう際には、図7に示す様に、上記ノズル32bの上端開口である網目部37を、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面よりも上部に配置する。そして、この状態で、同図に示す様に、上述した実施例2の場合と同様にして、第一工程の作業を行なう。次いで、第二工程の作業を行なう際には、図7→図8に示す様に、上記ノズル32bを下方に変位させる事により、このノズル32bの上端部に設けた案内部33及び網目部37を、上記塗装槽28の内側に満たした塗装液27の表面下に配置する。但し、この際に、マスキングカバー35の少なくとも上端部は、上記塗装液27の表面よりも上方に配置し、このマスキングカバー35の内側(上面に設けられた凹部内)に上記塗装液27が入り込まない様にする。これと共に、上記塗装装置26dとハブ本体13とのうちの何れか一方、或は双方を、軸方向(図7〜8の上下方向)に関して互いに近づけ合う方向に変位させる事により、上記ハブ本体13を構成する円筒部16の外端部乃至中間部を上記塗装液27に浸漬する。そして、この状態で、図8に示す様に、上述の実施例2の場合と同様にして、第二工程の作業を行なう。
【0039】
上述の様な本実施例の場合には、第一、第二各工程の作業を、1つの塗装装置26dを使用して行なう為、上述した実施例2の場合と比べて、作業時間の短縮と、作業スペースの削減と、作業装置のコスト低減とを図れる。その他の構成及び作用は、上述した実施例2の場合と同様である。
【0040】
尚、上述した各実施例では、塗装装置26、26b、26cを構成するノズル32、32bとして、これら各ノズル32、32bの上端部に案内部33を設けたものを使用したが、この案内部33は、設ける事を省略しても良い。前述の図12に示した塗装装置26を構成するノズル32に関しても同様である。
【0041】
又、上述した各実施例では、前述の図8に示した従動輪用の車輪支持用ハブユニット5aを構成するハブ(ハブ本体13a)を対象として本発明を実施したが、本発明は、前述の図7に示した駆動輪用の車輪支持用ハブユニット5を構成するハブ(ハブ本体13)を対象として実施する事もできる。又、これらに限らず、各種構造の車輪支持用ハブユニットを構成するハブ(外側の外輪軌道をハブの外周面の中間部に直接形成したものと、この外側の外輪軌道をハブの中間部に外嵌した別体の内輪の外周面に形成したものとの、双方を含む。)に対しても実施する事ができる。
【0042】
又、上述した各実施例では、電着塗装法による塗装膜の形成作業を、車輪支持用ハブユニットを組み立てる以前の、ハブ単体の状態で実施する方法を採用した。但し、本発明を実施する場合には、電着塗装法による塗装膜の形成作業を、車輪支持用ハブユニットを組み立てた状態で実施しても良い。
【0043】
尚、前述の図9〜10に示した各車輪支持用ハブユニット5、5aを製造する場合には、ハブ本体13、13aの内端部に存在する円筒状部にローリングプレス加工等の鍛造加工を施す事により、この円筒状部を径方向外方に塑性変形させる事で、当該部分にかしめ部19を形成する。この様なかしめ部19の形成作業を、例えば上述した様な各実施例の実施後に行なう場合、塗装膜34を形成した部分(例えば、上記各ハブ本体13、13aの外端面のうち周囲を円筒部16に囲まれた部分、並びに、この円筒部16の内周面)を受面(台座に接触させる面)として採用すると、加工時に加わる力によって、上記塗装膜34が剥がれてしまう可能性がある。この為、この様な不都合が発生するのを防止すべく、上記受面としては、上記塗装膜34を形成していない部分(例えば、取付フランジ15の外側面等)を採用する事が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1を、電着塗装の第一工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図2】同じく第二工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図3】本発明の実施例2を、電着塗装の第一工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図4】同じく第二工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図5】本発明の実施例3を、電着塗装の第一工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図6】同じく第二工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図7】本発明の実施例4を、電着塗装の第一工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図8】同じく第二工程の作業を行なう状態で示す断面図。
【図9】駆動輪用の車輪支持用ハブユニットの1例を、ナックルに組み付けた状態で示す断面図。
【図10】従動輪用の車輪支持用ハブユニットの1例を示す断面図。
【図11】図10に示した従動輪用の車輪支持用ハブユニットを構成するハブ本体の断面図。
【図12】従来の電着塗装方法の1例を示す断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 ホイール
2 ナックル
3 ロータ
4 支持孔
5、5a 車輪支持用ハブユニット
6 外輪
7 ボルト
8、8a ハブ
9 スタッド
10 ナット
11a、11b 外輪軌道
12 結合フランジ
13、13a ハブ本体
14、14a 内輪
15 取付フランジ
16 円筒部
17a、17b 内輪軌道
18 小径段部
19 かしめ部
20 転動体
21a、21b シールリング
22 スプライン孔
23 等速ジョイント用外輪
24 スプライン軸
25 ナット
26、26a〜26d 塗装装置
27 塗装液
28 塗装槽
29 回収槽
30 底板部
31 底板部
32、32a、32b ノズル
33 案内部
34 塗装膜
35 マスキングカバー
36 底板部
37 網目部
38 貫通孔
39 貫通孔
40 密封装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面の外端寄り部分に車輪及び制動用回転部材を支持固定する為の取付フランジを、外端部にこれら車輪と制動用回転部材とのうちの少なくとも一方を外嵌する為の円筒部を、それぞれ備えた、車輪支持用ハブユニットを構成するハブの表面うち、少なくとも上記円筒部の表面を含む所望範囲に塗装膜を形成する為、この所望範囲に塗装液を接触させながら、この塗装液中の塗料粒子を上記所望範囲に電着させるハブの電着塗装方法に於いて、それぞれが上記所望範囲のうちの一部の範囲となる複数の部分範囲を設定し、この所望範囲に上記塗料粒子を電着させる作業を、上記各部分範囲毎に別の工程に分けて行なう事を特徴とするハブ電着塗装方法。
【請求項2】
各工程のうちの1つの工程が、上部が開口した塗装槽に収容した塗装液に円筒部のみを浸漬しながら、この円筒部の表面のうち上記塗装液が接触した部分に塗料粒子を電着させる工程である、請求項1に記載したハブの電着塗装方法。
【請求項3】
少なくとも塗装液を収容して上端が開口した塗装槽を備えた塗装装置を複数用意し、各工程毎にこれら各塗装装置の中から1つの塗装装置を選択し、この選択した塗装装置を使用して当該工程を行なう、請求項1〜2の何れか1項に記載したハブの電着塗装方法。
【請求項4】
塗装液を収容して上端が開口した塗装槽と、塗装液を上方に噴出するノズルとを備えた1つの塗装装置を用意し、各工程を、この塗装装置のみを使用して行なう、請求項1〜2の何れか1項に記載したハブの電着塗装方法。
【請求項5】
各工程毎に、塗装槽に収容した塗装液の液面及びノズルとハブとの相対位置、並びに、このノズルから噴出する塗装液の噴出の仕方を変更する、請求項4に記載したハブの電着塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−183077(P2006−183077A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376005(P2004−376005)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)