説明

ハモグリバエ防除剤及び防除方法

【課題】ハモグリバエ防除剤及びハモグリバエによる植物の食害の防止方法を提供する。
【解決手段】ジャスモン酸メチルを有効成分とするハモグリバエ防除剤及びこの防除剤を植物に散布することを特徴とするハモグリバエによる食害の防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハモグリバエ防除剤及び防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハモグリバエは、農業経営において難防除害虫の一つに数えられ、「薬剤抵抗性のエリート」とまで言われている。ハモグリバエの化学防除法は、現在、強い殺虫力を持つ既存の薬剤(有機リン系、カルバメート系、合成ピレスロイド系、ベンゾイルフェニルウレア系、クロロニコチル系、ネライストキシン系)に頼っている。しかし、その効果は限定的である。また、ハモグリバエは薬剤抵抗性個体が発生しやすく難防除害虫の代表的存在である。更に、環境や生態系保護の視点から、この様に毒性が高い環境高負荷型の薬剤の使用量を低減して行くのが時代の趨勢であり、害虫を直接殺す殺虫剤とは異なった作用機構で効果的にハモグリバエを防除する低毒性薬剤の開発が強く望まれている。
【0003】
昆虫の摂食は植物の生育を遅らせ、穀物の収量を低下させる。植物は、恒常的及び誘導的応答により昆虫摂食に対する防御系を構築しているが、その防御系の多くは未だに明らかではない。最近、昆虫摂食に対する植物応答が、分子、細胞、及び生理学レベルで分析されている。しかし、これらの植物−草食動物の相互作用分析は、限定された昆虫種、すなわち、鱗翅目の幼虫やアブラムシについてのみ行われてきている。
ハモグリバエは最も重要な植食性昆虫の1種であり、多くの国において温室生産の微小害虫である。ハモグリバエは卵を葉の内部に存在する葉肉組織に産み付け、孵化した幼虫は葉の内部を潜行食害していく。この摂食モードは、イモムシやアブラムシとは異なっている。ハモグリバエ幼虫の葉の内部を占拠するという性質、及び殺虫剤耐性の獲得のため、ハモグリバエを殺虫剤で抑制することは困難である。従って、ハモグリバエの摂食に対する植物の応答の分子メカニズムの解明は損害を防ぐための新規な方法の開発のために重要である。
【0004】
植物ホルモンであるジャスモン酸(JA)、エチレン(ET)、及びサリチル酸(SA)は、真菌、細菌、及びウイルス感染等の種々の生物的ストレスにより誘導される基礎的な植物防御応答をはじめとする種々の生理学的プロセスを仲介する。植物におけるホルモン防御応答は2つの主要な経路、SA経路とJA/ET経路に分けられる。SA仲介防御応答は、ある種の病原菌に対する耐性を与える。SA仲介防御応答の活性化は過敏感反応に関連し、これは植物体の全体にわたって浸透し効果を発揮する獲得耐性の引き金となる。これとは対照的に、JA/ET仲介経路は、宿主植物を最終的に死に追いやるnecrotrophicな病原菌に対する耐性を制御しているようである。さらに、JAとET間には少なくとも2つの相互作用がある。その一方は相乗的であり、他方は拮抗的である。JA/ET経路のマーカー遺伝子である、β-chitinase (chiB)とplant defensin (PDF1.2))の発現は、JA又はETの適用により誘導され、両ホルモンが適用されると相乗効果が現れる。しかし、JA経路のマーカー遺伝子であるvegetative storage protein 2 (VSP2)及びlipoxygenase 2 (LOX2)は、JAにより誘導されるが、ETにより誘導されない。これらの遺伝子の発現に対するJAの効果は、ET処理により拮抗的に低減する。Campbellらは、いくつかの防御関連遺伝子の発現が、複数のシグナルカスケードの協調により制御される可能性を報告している。従って、各生物的ストレス応答における各ホルモンの関与を調べることが重要である。
【0005】
植物ホルモンJA、ET及びSAは昆虫摂食に対する植物応答において重要な機能を有すると思われる。シロイヌナズナ(Arabidopsis)において、Ellis らは、構成的JAシグナル変異体cev1が、アブラムシに対しては強い耐性を示すのに対して、JA-非感受性変異体coi1-1では耐性が低減することを報告している(非特許文献1)。トマトspr2変異体、すなわち、JA生合成に関与する、脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の機能を欠損した変異体は、タバコスズメガ(Manduca sexta)の幼虫による攻撃に対する防御が損なわれる(非特許文献2)。野生のタバコ種であるNicotiana attenuataでは、JAは、潜在的防御代謝物ニコチンの蓄積を制御し、ETは、JAが誘導したニコチンの蓄積を抑制する。N. attenuataを食害するタバコスズメガ(Manduca sexta)によるその葉の攻撃はET合成を誘発する。その結果、N. attenuata中のニコチン含量は減少ないし変化しない。この周知のスキームは植物−昆虫の相互作用と植物ホルモンの機能との関係を示している。
【0006】
昆虫の攻撃に対する植物の耐性におけるSAの機能も明らかとなっている。SAアナログであるベンゾチアゾールをトマトに適用するとアブラムシの生育数が減少する。さらに、高いSAレベルと恒常的に活性なSA依存性シグナルをそれぞれ有するcpr5及びssi2変異体は、アブラムシの生育に対して高い耐性を示した。これとは対照的に、SA蓄積が低減した変異体pad4は、アブラムシの生育に対して低い耐性を示した。アブラムシやイモムシ等の昆虫の摂食により種々の遺伝子の発現が誘導される。これらの摂食誘導遺伝子の多くの発現は、JA/ET 又はSA処理によっても誘導される。摂食応答の際のこれらの植物ホルモンの機能の分子メカニズムはまだ明らかになっていない。
また、シロイヌナズナのJA非感受性変異体coil-1とモンシロチョウ(Pieris rapae)幼虫を用いた解析により、昆虫摂食における植物の防御機構におけるJAの重要性が支持されることが報告されている(非特許文献3)。
本発明者らは先に、ジャスモン酸メチルが、アザミウマの成虫の飛来および産卵、増殖を抑制し、アザミウマによる被害を防止ないし軽減することを報告している(非特許文献4)。
【0007】
【非特許文献1】Ellis, C.ら (2002) "Constitutive activation of jasmonate signaling in an Arabidopsis mutant correlates with enhanced resistance to Erysiphe cichoracearum, Pseudomonas syringae, and Myzus persicae." Mol. Plant Microbe Interact. 15: 1025-1030.
【非特許文献2】Li, C., Liu, G., Xu, C., Lee, G.I., Bauer, P., Ling, H.Q., Ganal, M.W. and Howe, G.A. (2003) "The tomato suppressor of prosystemin-mediated responses 2 gene encodes a fatty acid desaturase required for the biosynthesis of jasmonic acid and the production of a systemic wound signal for defense gene expression." Plant Cell 15: 1646-1661.
【非特許文献3】Reymond, P., Bodenhausen, N., Van Poecke, R.M., Krishnamurthy, V., Dicke, M. and Farmer, E.E. (2004) A conserved transcript pattern in response to a specialist and a generalist herbivore. Plant Cell. 16: 3132-3147
【非特許文献4】Abe, H., Ohnishi, J., Narusaka, M., Seo S., Narusaka, Y., Tsuda S. and Kobayashi M. (2008) Function of Jasmonate in Response and Tolerance of Arabidopsis to Thrip Feeding. Plant Cell Physiol. 49: 68-80
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ハモグリバエ防除剤を提供することである。
本発明の他の目的は、ハモグリバエの防除方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、ハモグリバエによる植物の食害の防止方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、ハモグリバエの産卵を抑制し、その増殖を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下に示すハモグリバエ防除剤、及びハモグリバエによる植物の食害の防止方法を提供するものである。
1.ジャスモン酸、そのエステル、そのアミド、及び塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分とするハモグリバエ防除剤。
2.ジャスモン酸アルキルエステルを有効成分とする上記1記載のハモグリバエ防除剤。
3.ジャスモン酸メチルを有効成分とする上記1記載のハモグリバエ防除剤。
4.上記1〜3のいずれか1項記載のハモグリバエ防除剤を植物に散布することを特徴とするハモグリバエによる食害の防止方法。
5.植物が、花卉類、野菜類である上記4記載の方法。
6.植物が、キク科、又はナス科植物である上記4記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防除剤は、宿主植物に前もって散布しておくことにより、ハモグリバエの成虫の飛来および産卵、増殖が抑制され、ハモグリバエによる被害を防止ないし軽減することができる。また、ウイルスを保毒しているハモグリバエの飛来を防止ないし軽減することができ、ウイルス病の発生を防止ないし軽減することができる。さらに、本発明の防除剤の有効成分は、人畜に対する毒性が極めて低いため、野菜、果菜、果樹、花卉等の農作物に対して安全に使用することができる。
本発明の防除剤は、植物の傷害ストレス応答に関与する植物内生のシグナル物質の一つであるジャスモン酸メチル等のジャスモン酸、その誘導体、又はその類縁体プロヒドロジャスモンを投与し、植物の免疫機構を活性化させることによりハモグリバエを防除するものである。ジャスモン酸メチルの投与によって植物の生育が阻害される。しかし、プロヒドロジャスモンの投与による植物の生育阻害効果はこれより弱いことが明らかとなり、より高い有効性が示された。
本発明によれば、従来の殺虫剤とは異なった作用機構を持つ新しいタイプのハモグリバエ防除剤を提供できる。すなわち、本発明のハモグリバエ防除剤は、直接ハモグリバエを殺す従来の薬剤に比べ、低毒性、即ち、環境低負荷型の防除剤である。また、本発明のハモグリバエ防除剤のハモグリバエ防除効果は、植物が本来持っている害虫食害に対する防御反応が起動あるいは活性化され、植物が虫害抵抗性を獲得した結果であると考えられる。従って、従来の殺虫剤とは異なり、薬剤耐性害虫ができにくいと期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本発明の防除剤の有効成分は、ジャスモン酸、そのエステル、そのアミド、及び塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは式(1)で表されるジャスモン酸、ジヒドロジャスモン酸、それらのエステル体、式(2)で表されるアミド体、及び類縁体プロヒドロジャスモンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】

(式中、R1はペンチル基または 2-ペンテニル基を示し、R2は水素原子またはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等の炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0014】

(式中、R1はペンチル基または 2-ペンテニル基を示し、R2とR3は、それぞれ水素原子またはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル等の炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
これらのうち特に好ましい成分は、R1がペンチル基または 2-ペンテニル基、R2が水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である式(1)で表される化合物である。
【0015】
本発明の防除剤の対象となるハモグリバエの具体例としては、マメハモグリバエ(Liriomyza trifolii)、トマトハモグリバエ(Liriomyza sativae)、ナスハモグリバエ(Liriomyza bryoniae)、カーネーションハモグリバエ(Liriomyza dianthicola)、チャノハモグリバエ(Tropicomyia theae)、ダイズクロハモグリバエ (Japanagromyza tristella)、ナモグリバエ(Chromatomiya horticola)、ネギハモグリバエ(Liriomyza chinensis)等が挙げられる。
【0016】
本発明の防除剤の散布対象植物は、ハモグリバエによる被害を受ける植物であり、代表的な植物としては、ウリ科(例えば、キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、シロウリ、マクワウリ、ヘチマ、ニガウリ)、ナス科(例えば、トマト、ナス、ピーマン、ペチュニア、テリミノイヌホオズキ、ジャガイモ)、マメ科(例えば、インゲン、ソラマメ、アズキ、ダイズ、ササゲ、エンドウ)、キク科(例えば、マリーゴールド、ゴボウ、シュンギク、レタス、キク、ガーベラ、シネラリア)、アブラナ科(例えば、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブ、コマツナ、ブロッコリー、チンゲンサイ、ストック)、アオイ科(例えば、オクラ)、セリ科(例えば、セロリ、ニンジン、パセリ)、ゴマ科(例えば、ゴマ)、ユリ科(例えば、タマネギ、ニラ、アスパラガス、ネギ)、ナデシコ科(例えば、カスミソウ、カーネーション)、ミカン科(例えば、ミカン)、ブドウ科(例えば、ブドウ)、シソ科(例えば、シソ)、アオイ科(例えば、ワタ)、アカザ科(例えば、ホウレンソウ)、リンドウ科(例えば、トルコギキョウ)、スミレ科(例えば、パンジー)、サクラソウ科(例えば、シクラメン)、キンポウゲ科(例えば、クレマチス)、トウダイグサ科(例えば、ポインセチア)等に属する植物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の防除剤は上記有効成分のみを含有するものでもよいが、さらに、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノアリールエーテル等のポリオキシアルキレン系ノニオン界面活性剤を含む助剤を併用してもよい。
助剤の具体例としては、ポリオキシエチレン(5)モノドデシルエーテル、ジグリセリンモノオレート:(ポリオキシエチレンフェニルエーテル+ドデシルベンゼンスルフォネート):ダイズ油(1:1:1)等が挙げられる。
これらの助剤の含有量は、有効成分100質量部に対して好ましくは5〜70質量部、さらに好ましくは20〜50質量部である。
本発明の防除剤には、さらに、一般的な界面活性剤、タルク等の助剤を添加し、製剤化してもよい。本発明の防除剤の剤型は特に限定されず、例えば、水和剤、乳剤、粉剤、フロアブル等が挙げられる。本発明の防除剤にはさらに忌避剤、他の殺虫剤、殺菌剤、植物生長調整剤等を併用してもよい。
さらに製剤化のための界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤だけでなく、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等、通常の製剤に使用される一般的な界面活性剤を使用しても良い。
【0018】
本発明の防除剤は、有効成分であるジャスモン酸誘導体(或は、有効成分)の濃度が好ましくは10〜500 ppm、さらに好ましくは20〜200 ppm程度となるように水等で希釈し、有効成分を5〜100 g/10 a、さらに好ましくは10〜50 g/10 aの範囲で作物に散布することが望ましい。
散布時期はハモグリバエの飛来前が好ましいが、ハモグリバエの飛来を確認した後に散布しても有効である。
【実施例】
【0019】
以下実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1:シロイヌナズナのジャスモン酸非感受性変異体coi1を使った解析
播種後3週目のシロイヌナズナ野生株(Columbia)及び、ジャスモン酸非感受性変異体(coi1)にマメハモグリバエの雌成虫を5頭置き、2週間食害をおこさせた。その結果、coi1変異体は野生株に比べて非常に被害を受けることが分かった(図1A)。実際に葉にしめる食害痕の割合を定量したところ、その差は日を追うにつれ大きくなることが分かった(図1B)。
【0020】
実施例2:ハクサイを用いた植物栽培室内実験
播種後2週目のハクサイ(京都3号)にそれぞれ100 μM ジャスモン酸メチル(JA)を処理した。2日後にマメハモグリバエの雌成虫を5頭置き、1日後に食害痕の数を測定した。その結果、JA処理したハクサイは無処理のものに比べて被害が明らかに軽減されることが分かった。結果を図2に示す。
【0021】
実施例3:シュンギクを用いた植物栽培室内実験
播種後2ヶ月のシュンギク(大葉春菊)にそれぞれ100 μM ジャスモン酸メチル(JA)を処理した。2日後にマメハモグリバエの雌成虫を5頭置き、1週間後に葉面積あたりの食害痕の面積を測定した。その結果、JA処理したハクサイは無処理のものに比べて被害が明らかに軽減されることが分かった。結果を図3に示す。
【0022】
実施例4:JAとJA類縁体PDJがマメハモグリバエ被害に及ぼす効果の比較
播種後2週目のハクサイ(京都3号)にそれぞれ10 μM、100 μM ジャスモン酸メチル(JA)あるいは100 μM プロヒドロジャスモン(PDJ)を処理した。2日後にマメハモグリバエの雌成虫を5頭置き、2週間食害をおこさせた。その結果、JAあるいはPDJ処理したハクサイは無処理のものに比べて被害が明らかに軽減されることが分かった。結果を図4に示す。
【0023】
実施例5:JAとJA類縁体PDJの生育阻害効果の比較
播種後1週目のハクサイ(京都3号)にそれぞれ10 μM、100 μM ジャスモン酸メチル(JA)あるいは100 μM プロヒドロジャスモン(PDJ)を処理した。2週間後に生重量を測定し、無処理の場合と比較した際の生育阻害率を算出した(無処理の場合を100%とする)。その結果、JAに比べてPDJでは植物に及ぼす生育阻害効果が弱いことが分かり、より高い有効性が示された。結果を図5に示す。
【0024】
以上の様に、本発明者らは、害虫の食害に対して植物が本来持っている防御反応を利用したハモグリバエ防除剤の開発を計画し、傷害ストレス応答に関与するシグナル物質の一つであるジャスモン酸メチル (JA) 及び、その類縁体プロヒドロジャスモン(PDJ)がマメハモグリバエに対して食害痕の減少といった防除効果を示すことを明らかにした。特にPDJにおいては植物への生育阻害効果が低いことから、その作用機構の詳細は未だ明らかでないが、現在、ハモグリバエの化学的防除に使用されている毒性の強い殺虫剤とは明らかに異なった低毒性の防除剤を提供できた。
【0025】
以上のとおり、本発明の防除剤は、宿主植物に予め散布しておくと成虫の飛来および産卵が抑制され、ひいてはハモグリバエによる被害が少なくなる。
本発明は、傷害ストレス応答に関与するシグナル物質の一つであるジャスモン酸メチル (MJA) がミカンキイロアザミウマに対して食害痕の減少、産卵数の減少といった防除効果を示すという知見に基づいて完成されたものである。その作用機構の詳細は未だ明らかでないが、MJAは、アザミウマに対して忌避効果を示さなかったことより、その作用は、植物が本来持っている防御反応を介したものであることは明らかである。従って、本発明の防除剤は、現在、アザミウマの化学的防除に使用されている毒性の強い殺虫剤とは明らかに異なった低毒性の防除剤であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】実施例1のシロイヌナズナを用いた植物栽培室内実験の結果を示す。
【図1B】実施例1のシロイヌナズナを用いた植物栽培室内実験の結果を示す。
【図2】実施例2のハクサイを用いた植物栽培室内実験の結果を示す。
【図3】実施例3のシュンギクを用いた植物栽培室内実験の結果を示す。
【図4A】実施例4の、JAとJA類縁体PDJがマメハモグリバエ被害に及ぼす効果の比較結果を示す。
【図4B】実施例4の、JAとJA類縁体PDJがマメハモグリバエ被害に及ぼす効果の比較結果を示す。
【図5】実施例5の、JAとJA類縁体PDJの生育阻害効果の比較結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャスモン酸、そのエステル、そのアミド、及び塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分とするハモグリバエ防除剤。
【請求項2】
ジャスモン酸アルキルエステルを有効成分とする請求項1記載のハモグリバエ防除剤。
【請求項3】
ジャスモン酸メチルを有効成分とする請求項1記載のハモグリバエ防除剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のハモグリバエ防除剤を植物に散布することを特徴とするハモグリバエによる食害の防止方法。
【請求項5】
植物が、花卉類、野菜類である請求項4記載の方法。
【請求項6】
植物が、キク科、又はナス科植物である請求項4記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−155800(P2010−155800A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334620(P2008−334620)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(1)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願(2)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術研究助成事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】