説明

ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置

【課題】未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができるハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供する。
【解決手段】本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理装置1は、被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽15と、前記脱ハロゲン油と少量の水とを混合し、前記脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込む不純物抽出槽19と、前記不純物抽出槽19から排出される脱ハロゲン油中の水を分離するコアレッサー型油水分離機21と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB混入絶縁油など油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで無害化するハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、平成13年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」により、平成28年7月までに処理を完了することが義務付けられている。
【0003】
PCBの脱塩素化技術は、これまでに多くの方法が提案されており、幾つかの方法は実用化されている。金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させる方法は、PCB含有絶縁油の無害化処理に使用され、処理プラントも稼働中である。金属ナトリウムとPCB含有絶縁油とを反応させるとPCBが脱塩素化された処理済油が得られる。通常、金属ナトリウムとPCB含有絶縁油とを反応させる際には、PCB濃度を十分に低下させる又は反応時間を短縮させるために金属ナトリウムは過剰に添加される。このため処理済油には、金属ナトリウムとPCBとが反応して生成した塩化ナトリウム、ビフェニル、ビフェニル重合物、水酸化ナトリウムなどの反応生成物のほか、未反応の金属ナトリウムが残存する。
【0004】
未反応の金属ナトリウムは活性が高いため、これを含む処理済油は、保管、貯蔵、さらには再利用する上で種々の困難が付きまとう。このため通常、処理済油に水を加え、金属ナトリウムを水でクエンチングする操作が行われる(例えば特許文献1、2参照)。このようなクエンチング操作は、金属ナトリウム以外の他のアルカリ金属を反応剤とし、油中の多塩素化芳香族化合物を脱塩素化するプロセスにおいても行われている(例えば特許文献3参照)。水によるクエンチング操作は、同時に、処理済油に含まれる反応生成物など固体状の不純物を除去する操作でもある(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−212109号公報
【特許文献2】特開2005−254147号公報
【特許文献3】特開2001−206857号公報
【特許文献4】特開2006−193482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
処理済油に水を加えて残存する未反応のアルカリ金属をクエンチングする場合には、処理済油に含まれる固体状の不純物を除去することも同時に行われることが多く、処理済油に多量の水が加えられる。水を加えられた処理済油は、中和処理を経て、静置され油水分離される。静置による油水分離のみでは処理済油から十分に水を分離することができないので、油水分離後の処理済油は、さらに蒸留操作により水が分離される。この一連の操作により未反応のアルカリ金属、固体状の不純物を分離した精製油を得ることができる。一方、油水分離後の水は、乾燥機を用いて反応生成物等の固形分と水とに分離され、水は再利用される。
【0007】
多量の水を用い、未反応のアルカリ金属をクエンチングすると共に、処理済油から固体状の不純物を分離し精製油を得る従来の方法は、装置が大掛かりとなる。さらに蒸留操作、乾燥操作が必要なためエネルギー消費量も大きい。
【0008】
本発明の目的は、未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができるハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応工程と、前記脱ハロゲン油に所定量の水を添加し、前記脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させる及び/又は水に取り込む不純物抽出工程、前記不純物抽出工程に続きコアレッサー型油水分離機を用い前記脱ハロゲン油から水を分離する油水分離工程を含む脱ハロゲン油の精製工程と、を含むことを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理方法である。
【0010】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムを水でクエンチングすると共に、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水で抽出し、これをコアレッサー型油水分離機で油水分離し精製油を得る精製工程を備えるので、未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができる。
【0011】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記所定量の水は、未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、かつ固体状の不純物を抽出後の水の粘度が、前記コアレッサー型油水分離機で分離可能な粘度となる最小限の水量であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を抽出する水の量が非常に少ないので、少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができる。
【0013】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記被処理油が低濃度のPCB混入絶縁油であり、前記水を脱ハロゲン油に対して1重量%添加することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、被処理油が低濃度のPCB混入絶縁油の場合、脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を抽出するに必要な水の量は、脱ハロゲン油の1重量%であるので、従来の水を使用するクエンチング法と比較すれば、水の添加量は圧倒的に少ない。
【0015】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記被処理油は、さらに酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、被処理油には、酸化変質油が含まれていてもよいので、例えばPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液を含むようなPCB混入絶縁油も被処理油とすることができる。
【0017】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記精製工程は、さらに前記油水分離工程後の油中の水を脱水剤で脱水する脱水工程を含むことを特徴とする。
【0018】
精製油を絶縁油として再利用する場合には、油中の水を十分に除去する必要がある。本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、添加する水の量が非常に少なく、さらにコアレッサー型油水分離機を用いて水を分離するので、油中の水を十分に分離することができるが、さらに脱水剤で脱水することで脱水が確実となり、このような精製油は絶縁油として再利用することができる。
【0019】
また本発明は、被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽と、前記脱ハロゲン油と所定量の水とを混合し、前記脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込む不純物抽出槽と、前記不純物抽出槽から排出される脱ハロゲン油中の水を分離するコアレッサー型油水分離機と、を含むことを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理装置である。
【0020】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理装置は、構成が単純であり、使用する装置、機器の数も少ない。このため従来の多量の水を使用してクエンチング、精製するハロゲン化合物含有油の無害化処理装置に比べコンパクトである。さらに効率的に脱ハロゲン油を精製することが可能でエネルギー消費量も小さい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置は、脱ハロゲン油に少量の水を添加し、脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込んだ後に、コアレッサー型油水分離機を用いて油水分離し、精製油を得るので、未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。
【図2】図1のPCB混入絶縁油無害化処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置2の概略的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。図2は、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。以下、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とする場合を例にとり、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の構成及び処理手順について説明する。本発明の第1及び第2実施形態において、固体状の不純物は、未反応の金属ナトリウムと水とが反応して生成した水酸化ナトリウム、PCBが脱塩素化され生成した反応生成物である塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ビフェニル、ポリビフェニル、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応して生成した反応生成物である。
【0024】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、SPプロセス(soduim pulverulent dispersion)法を用いてPCB混入絶縁油を無害化する装置であり、金属ナトリウムと絶縁油に混入するPCBとを反応させPCBを脱塩素化する。さらにPCBを脱塩素化した処理済油を精製し精製油を回収する。
【0025】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、被処理油を貯留する貯留タンク11、被処理油に含まれる水を除去する減圧蒸留槽13、PCBを金属ナトリウムと反応させ脱塩素化する反応槽15、PCBの脱塩素化を確認するための分解確認槽17、処理済油に含まれる未反応の金属ナトリウムを少量の水でクエンチングすると共に処理済油に含まれる固体状の不純物を抽出する不純物抽出槽19、処理済油から水を分離し精製油を回収するコアレッサー型油水分離機21を備える。
【0026】
被処理油は、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物であり、これらは貯留タンク11に貯留された後(受入工程:ステップS1)、減圧蒸留槽13に送られる。なお、被処理油はこれに限定されるものではなく、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油のみを被処理油としてもよく、さらにPCBを多く含む絶縁油を被処理油とすることができる。
【0027】
減圧蒸留槽13は、ジャケット付き攪拌槽であり、ジャケットに加熱した熱媒を供給することで被処理油を加熱する。また減圧蒸留槽13は、槽内を減圧し被処理油に含まれる水を蒸発させ凝縮し回収する減圧装置(図示を省略)を備え、貯留タンク11から送られた被処理油は、ここで90℃程度に加熱、0.0142Mpa程度に減圧され、被処理油に含まれる水が除去される(脱水工程:ステップS2)。減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油は反応槽15に送られる。
【0028】
反応槽15は、ジャケット付き攪拌槽であり、ここで減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油に金属ナトリウムが添加される。金属ナトリウムは、絶縁油中に金属ナトリウムの微粒子を分散させた金属ナトリウム分散体(SD:soduim dispersion)として反応槽15に添加される。SD中の金属ナトリウムの大きさは、平均粒子径が約6μmである。ここでは、PCBを十分に脱塩素化し、かつ分解速度(脱塩素化速度)を速めるため、PCBを脱塩素化するに必要な金属ナトリウム量を上回る量の金属ナトリウムが添加される。被処理油と金属ナトリウムとは、攪拌されながらジャケットに供給される加熱した熱媒により90℃程度まで加熱され、PCBは金属ナトリウムと反応し脱塩素化し、被処理油は無害化される(反応工程:ステップS3)。なお、金属ナトリウム分散体を添加し所定の時間経過後に、反応促進剤として所定量の水が添加される。
【0029】
本実施形態では、被処理油にPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液を含むため、被処理油中にC=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれる。C=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれるのは、柱上変圧器に紙、木が含まれ、これらの乾留物が回収絶縁油に含まれることによる。図3は、紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。紙木類乾留物を含む絶縁油にはC=Oのピーク1750cm−1が強く表れている。C=O結合を含む酸化変質油としては、カルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトンがある。よって、本実施形態では、PCBと金属ナトリウムとの反応の他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応する。以下、反応槽15での代表的な反応を示す。
【0030】
【化1】

【0031】
以上の反応式からも分かるようにPCBが脱塩素化された被処理油(処理済油)には、反応生成物である塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ビフェニル、ポリビフェニルの他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応して生成した反応生成物が含まれる。さらに反応槽15には金属ナトリウムが過剰に添加されるため、処理済油には、未反応の金属ナトリウムも残存している。上記反応生成物、未反応の金属ナトリウムは、固体状となって処理済油中に分散している。
【0032】
柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油とPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とした場合の分解確認槽17出口でサンプリングした処理済油に含まれる固体状の不純物(含む未反応の金属ナトリウム)の大きさの一例を示せば、粒径2〜11μm、平均粒径9μmであり、目開きが1μmのろ材でろ過すれば95%以上、0.1μmのろ材でろ過すれば99%以上分離することができる。また処理済油中の固体状の不純物(含む未反応の金属ナトリウム)濃度は、約0.2重量%程度であり、固体状の不純物のうち未反応の金属ナトリウムは、約10%である。
【0033】
反応槽15でPCBが脱塩素化された処理済油は、分解確認槽17に送られ、サンプリングライン18を介してサンプリングされ、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度以下になっているか確認される(確認工程:ステップS4)。ここでPCBが所定濃度以下に達していないことが確認されると、処理済油を反応槽15に返送し再度、PCBの脱塩素化を行う。処理済油は、PCB濃度が所定の濃度以下であることが確認されると不純物抽出槽19に送られる(確認工程:ステップS5)。分解確認槽17から不純物抽出槽19への送油に際し、処理済油を冷却するなどの温度調整操作は不要である。
【0034】
不純物抽出槽19は、撹拌機を備える撹拌槽であり、ここでは処理済油に少量の水を添加し、水と処理済油とを攪拌混合し、処理済油中の未反応の金属ナトリウムと水とを反応させ、未反応の金属ナトリウムを水酸化ナトリウムとすることでクエンチングを行う。さらに処理済油中の固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込む(不純物抽出工程:ステップS6)。
【0035】
ここで添加する水の量は、処理済油中の未反応の金属ナトリウムをクエンチング可能でかつ、固体状の不純物が溶解した及び/又は不純物を取り込んだ水の粘度が、コアレッサー型油水分離機21で処理可能な粘度となる最小限の量である。水の添加は、処理済油中の未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、かつ固体状の不純物を抽出し、この水を分離することで精製油を得るために添加するものであるから、処理済油中の未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、かつ固体状の不純物を水で抽出できる量を添加する必要がある。しかし処理済油中の未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、かつ固体状の不純物を抽出できる水の量を添加しても、添加する水量が少な過ぎると、固体状の不純物が溶解した及び/又は不純物を取り込んだ水の粘度が高くなり過ぎ、コアレッサー型油水分離機21で処理済油から水を分離することが困難となる。水量を多くすれば、固体状の不純物が溶解した及び/又は不純物を取り込んだ水の粘度は低下し、コアレッサー型油水分離機21で分離することは容易となるが、処理量が増加し不経済である。
【0036】
以上のことから添加する水の量は、溶解している水酸化ナトリウムの濃度が20〜30重量%程度となる量が好ましい。この程度の水を添加すれば、処理済油中の未反応の金属ナトリウムを完全にクエンチングし、かつ処理済油中の固体状の不純物を抽出可能であり、粘度もコアレッサー型油水分離機21で処理可能な粘度となる。上記の水の量は、被処理油中のPCB濃度により異なるが、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とする場合、処理済油の1重量%程度の量である。この量から分かるように添加する水量は非常に少ない。
【0037】
不純物抽出槽19で水を添加し、処理済油中の未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、さらに固体状の不純物を溶解させ及び/又は固体状の不純物を取り込んだ水を含む処理済油は、送油ポンプ20を介してコアレッサー型油水分離機21に送られ、ここで水が分離される(油水分離工程:ステップS7)。
【0038】
コアレッサー型油水分離機21は、処理済油をフィルター22を通過させることで処理済油に分散した微小の水滴を大きな水滴とし、比重差により水と油とに分離する装置であり、ここでは公知のコアレッサー型油水分離機21を使用することができる。これにより、処理済油から未反応の金属ナトリウム及び固体状の不純物を取り除いた精製油を得ることができる。
【0039】
コアレッサー型油水分離機21を用いた油水分離実験結果を示す。処理済油中の水分濃度が3070ppm、処理済油中の水滴の粒径が7〜150μm、水滴のピーク粒径が50〜60μmの処理済油をコアレッサー型油水分離機21で処理したところ、処理済油中の水分濃度は180ppmとなった。得られた精製油の絶縁破壊電圧は、60kV2.5mm以上であり、絶縁油の規格を十分に満足した。
【0040】
コアレッサー型油水分離機21で分離された水は、蒸発乾固し固形分を回収することができるが、従来の多量の水を用いたクエンチング法と異なり、添加した水の量が非常に少ないので、そのまま廃棄物として処理しても大きな負担とはならない。分離された水をそのまま廃棄物とする場合には中和処理を行わないので、従来の多量の水を用いたクエンチング法のように中和剤が廃棄物とならず廃棄物量も増加しない。
【0041】
上記のようにPCB混入絶縁油無害化処理装置1は、少量の水で脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込み、油水分離することで精製油を得るので少ないエネルギーで効率的に脱ハロゲン油を精製することができる。また装置構成が単純であり、使用する装置、機器の数も少ない。このため従来の多量の水を使用しクエンチング、精製するハロゲン化合物含有油の無害化処理装置に比べコンパクトである。
【0042】
図4は、本発明の第2実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置2の概略的構成を示す図である。図1に示す第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2も第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同様に、少量の水で処理済油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に固体状の不純物を抽出し、その後、処理済油をコアレッサー型油水分離機21を用いて油水分離するが、PCB混入絶縁油無害化処理装置2では、コアレッサー型油水分離機21での油水分離に先立ち処理済油をろ過装置23でろ過し、さらにコアレッサー型油水分離機21で油水分離した処理済油を脱水装置25で脱水し、精製油を得る点が異なる。
【0044】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2も第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同様に、不純物抽出槽19では、処理済油に少量の水しか添加しないため被処理油の性状によっては、水に溶解しない粒径の大きい固体状の不純物が残存することも想定される。コアレッサー型油水分離機21では、水に溶解した固体状の不純物、水側に移行した固体状の不純物のうちフィルター22を通過できるものは、水といっしょに処理済油から分離されるが、フィルター22を通過できない固体状の不純物はフィルター22に捕捉される。このため大きな固体状の不純物が精製油に含まれることはないが、このような不純物はフィルター22を閉塞させてしまう。
【0045】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2では、不純物抽出槽19から排出される処理済油をコアレッサー型油水分離機21にかけるに先立ち、コアレッサー型油水分離機21のフィルター22の閉塞防止、性能低下防止を目的に、ろ過装置23でコアレッサー型油水分離機21のフィルター22を通過できない固体状の不純物を除去する。ろ過装置23は、コアレッサー型油水分離機21のフィルター22を通過できない固体状の不純物を除去することができればよく、公知のストレーナなどを使用することができる。なお、コアレッサー型油水分離機21のフィルター22を通過できない固体状の不純物が少なく、コアレッサー型油水分離機21のフィルター22で該固体状の不純物を捕捉するならば、ろ過装置23は特に設ける必要はない。
【0046】
脱水装置25は、脱水剤26を内蔵しコアレッサー型油水分離機21で水が分離された後の処理済油に残存する微量の水をさらに取り除く。脱水装置25の型式は特に限定されず、脱水剤26としては、公知の脱水剤であるモリキュラシーブ、シリカゲルなどを使用することができる。脱水剤26を通過させれば、精製油中の水分量を100ppm以下とすることも可能なため精製油を絶縁油として再利用することも可能であり、精製油の用途が広がる。
【0047】
上記実施形態では、PCB混入絶縁油無害化処理装置1、2を示したが、本発明は少量の水で脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込み、油水分離することで精製油を得る点に特徴があり、PCB混入絶縁油以外にも、ハロゲン化合物を含有する油を金属ナトリウムで脱ハロゲン化するプロセスに、本発明を好適に使用することができる。なお上記実施形態において、SD中の金属ナトリウムの大きさ、処理済油中の固体状の不純物の大きさ、量を数値で示したが、これは一例であり本発明は、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 PCB混入絶縁油無害化処理装置
2 PCB混入絶縁油無害化処理装置
11 貯留タンク
13 減圧蒸留槽
15 反応槽
17 分解確認槽
18 サンプリングライン
19 不純物抽出槽
20 送油ポンプ
21 コアレッサー型油水分離機
22 フィルター
23 ろ過装置
25 脱水装置
26 脱水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応工程と、
前記脱ハロゲン油に所定量の水を添加し、前記脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させる及び/又は水に取り込む不純物抽出工程、前記不純物抽出工程に続きコアレッサー型油水分離機を用い前記脱ハロゲン油から水を分離する油水分離工程を含む脱ハロゲン油の精製工程と、
を含むことを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項2】
前記所定量の水は、未反応の金属ナトリウムをクエンチングし、かつ固体状の不純物を抽出後の水の粘度が、前記コアレッサー型油水分離機で分離可能な粘度となる最小限の水量であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項3】
前記被処理油が低濃度のPCB混入絶縁油であり、前記水を脱ハロゲン油に対して1重量%添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項4】
前記被処理油は、さらに酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする請求項3に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項5】
前記精製工程は、さらに前記油水分離工程後の油中の水を脱水剤で脱水する脱水工程を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項6】
被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽と、
前記脱ハロゲン油と所定量の水とを混合し、前記脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムをクエンチングすると共に、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を水に溶解させ及び/又は水に取り込む不純物抽出槽と、
前記不純物抽出槽から排出される脱ハロゲン油中の水を分離するコアレッサー型油水分離機と、
を含むことを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56063(P2013−56063A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196588(P2011−196588)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)