説明

ハロゲン化物水溶液から銀を回収する方法

【課題】銀と銅との両方がハロゲン化物水溶液に溶解する場合において、酸化還元反応を用いて銀を選択的に分離する方法を提供する。
【解決手段】塩化物水溶液、臭化物水溶液又はヨウ化物水溶液から選択されるハロゲン化物水溶液から銀を回収するに際し、銀を含有する上記ハロゲン化物水溶液に、銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び2倍モル以上の硫酸イオンを共存させる共存工程と、この共存工程の後、銀/ハロゲン化銀電極に対する酸化還元電位400mV以下に調整する酸化還元電位調整工程と、この酸化還元電位調整工程の後、pHを1〜6に調整するpH調整工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物水溶液から銀を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、黄銅鉱(キャルコパイライト:CuFeS2)、輝銅鉱(キャルコサイト:Cu2S)、斑銅鉱(ボーナイト:Cu5FeS4)、そして銅藍(コベライト:CuS)等の硫化銅鉱物を含む銅鉱石は、通常、粉砕され、選鉱されて銅精鉱とされ、この銅精鉱から銅が回収されている。銅精鉱は、銅だけでなく銀をはじめとした貴金属も含まれており、これら貴金属も銅精鉱から回収されている。
【0003】
一般的に、銅精鉱から銀を回収するには、銅精鉱を熔錬炉に装入し、高温下で熔融して不純物元素をスラグとして分離してマットを得、得たマットをさらに転炉で吹錬して粗銅を得、得られた粗銅をアノードとして用いて電解精製して銀を電解スライム中に濃縮し、これを分銀工程にて処理して回収する乾式製錬法が採られる。この乾式製錬法では、銅精鉱中に含まれる硫黄は亜硫酸ガスとなるため、これを硫酸製造設備にて硫酸として回収しなければならないが、硫酸は液体であるため、保管する際には大きなタンク設備も必要となり、広い敷地が必要とされる。また、高温の熔体を取扱うため、環境や作業に関して高度な配慮が必要となる。これらの問題点を軽減するため、銅精鉱に含まれる金属を酸やアルカリを用いて溶解し、その溶液から金属を取り出す湿式製錬法が検討されている。
【0004】
湿式精錬法として、硫酸塩を含む硫酸水溶液と酸化剤とを用いて銅精鉱から銅を浸出する手法や、塩化物をはじめとしたハロゲン化物水溶液を用いて銅精鉱から銅を浸出する手法が挙げられる。これらの手法は、ともに、浸出した液から溶媒抽出法により銅を抽出分離し、逆抽出して銅溶液を得、これを電解液として用いて銅を電解採取するというものである。湿式精錬法は、乾式製錬法と異なり、精鉱中の硫黄を亜硫酸ガスとせず、また高温の熔体を取扱わないことから、近年注目されている。とりわけ、ハロゲン化物水溶液を用いて硫化銅鉱を湿式製錬する手法では、得られた浸出液から銅を回収できるだけでなく、銀をはじめとした貴金属もハロゲン化物の錯体として浸出できる点で有効である。
【0005】
ところで、ハロゲン化物水溶液を用いて硫化銅鉱を湿式製錬する場合、ハロゲン化物の錯体として浸出された銀は、後に浸出液から銅を電解採取する前に分離されなければならない。しかしながら、ハロゲン化物の錯体としての銀は、非常に安定している。また、ハロゲン化物の錯体としての銀の酸化還元電位(Oxidation−Reduction Potential、以下、「ORP」ともいう。)は、銅の酸化還元電位と略同じである。そのため、銀のハロゲン化物の錯体を還元しようとすると、銀だけでなく銅も還元されてしまい、酸化還元反応を用いて浸出液から銀を単離することは容易ではない。
【0006】
この問題を解決するため、セメンテーション反応により銀を還元回収する方法(特許文献1参照)が提案されている。また、酸化還元電位の差を用いた手法とは異なる銀の回収方法として、浸出液に溶出した銀を、イオン交換(キレート)樹脂にて吸着回収する方法(特許文献2参照)、活性炭により吸着回収する方法(特許文献3参照)のほか、アマルガムの形として回収する方法(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−154249号公報
【特許文献2】特開2010−116607号公報
【特許文献3】特公2006−512484号公報
【特許文献4】特公2006−502309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、還元剤として銀よりもイオン化傾向の大きい金属粉(例えば、鉄粉や亜鉛粉)が必要であるため、その金属粉が液中に溶解しそれ自体が不純物となり汚染源となるという問題点がある。また、銀のクロロ錯体と銅のクロロ錯体の還元電位が近いことから、銅の還元による損失が大きくなると同時に、還元剤消費量が銀回収に必要な計算量よりもかなり多くなる、高濃度の銀濃縮物が回収できず再精製を要するといった問題点もある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、(a)樹脂そのものの価格が高価である、(b)溶離の薬剤コストを要する、(c)溶離した液から銀を再回収しなければならないといった問題点がある。また、(d)高濃度塩化物溶液では水溶液中の銀のハロゲン化物の錯体が安定であることから吸着率そのものが低く、早期に破過しやすいといった問題点もある。ハロゲン化物の錯体としての銀を強く吸着可能な樹脂も存在するが、銅に対する選択性が乏しく、銀と銅とが共に吸着されてしまう。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、(a)活性炭そのものの価格が高価である、(b)基本的に活性炭は使い捨てとなる、(c)活性炭から銀を焙焼等により再回収しなければならないといった問題点がある。
【0011】
また、特許文献4に記載の方法は、コストや銀の回収効率もさることながら、水銀による環境汚染を引き起こすといった問題点がある。
【0012】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、銀と銅との両方がハロゲン化物水溶液に溶解する場合において、酸化還元反応を用いて銀を選択的に分離する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、銀を含有するハロゲン化物水溶液に、上記銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び上記銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させる共存工程と、銀/ハロゲン化銀電極に対する酸化還元電位400mV以下に調整する酸化還元電位調整工程と、pHを1〜6に調整するpH調整工程とを行うことで、ハロゲン化物水溶液から銀を沈殿分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のものを提供する。
【0014】
(1) 本発明は、塩化物水溶液、臭化物水溶液又はヨウ化物水溶液から選択されるハロゲン化物水溶液から銀を回収する方法であって、銀を含有する前記ハロゲン化物水溶液に、前記銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び前記銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させる共存工程と、前記共存工程の後、銀/ハロゲン化銀電極に対する酸化還元電位400mV以下に調整する酸化還元電位調整工程と、前記酸化還元電位調整工程の後、pHを1〜6に調整するpH調整工程とを行う方法である。
【0015】
(2) また、本発明は、前記pH調整工程での前記ハロゲン化物水溶液の温度は40℃〜80℃である、(1)に記載の方法である。
【0016】
(3) また、本発明は、前記pH調整工程において、鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元する還元剤を前記ハロゲン化物水溶液の濃度が10ppm以上10,000ppm未満になるように添加する還元剤添加工程を併せて行う、(1)又は(2)に記載の方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハロゲン化物水溶液中に溶解している銀を濃縮物として回収できるため、工業的な価値が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
[銅鉱石等]
銀をはじめとする貴金属は、銅鉱石や硅石等の脈石成分に存在する。銅鉱石は、黄銅鉱、輝銅鉱、斑銅鉱及び銅藍等の硫化銅鉱物とともに黄鉄鉱やその他の脈石成分が共存する。これらの中で黄銅鉱は、銅、鉄及び硫黄を主成分とし、CuFeSで表される。黄銅鉱は、銅、鉄及び硫黄のほか、金、銀、錫及び亜鉛等も含む。黄銅鉱は、銅鉱石の中で最も一般的なものであり、酸に対する耐浸出性がある。そして、輝銅鉱、斑銅鉱、銅藍等は、黄銅鉱が自然酸化することにより生じたものであり、黄銅鉱と比較して硫黄品位が低く、酸に対する溶解性は良好である。
【0020】
黄銅鉱等を単独で採掘することは困難である。そのため、工業的には、通常、黄銅鉱を主成分とし、他の鉱物が混ざった状態で採掘された銅鉱石を磨鉱し、選鉱して銅精鉱を得、これを銅や銀の回収に供している。なお、銅鉱石中の黄銅鉱の比率は銅鉱石が採掘される鉱山によってそれぞれ異なる。
【0021】
本発明では、銀を含有する銅鉱石がハロゲン化物水溶液に含有されたものであれば、種類を問うものではないが、大きさは、スラリー化できる程度に粉砕されていることが好適であり、銅精鉱の程度に細かくなっていることがより好適である。スラリー化できる程度に粉砕されていないと、ハロゲン化物水溶液に溶解できない可能性がある点で好ましくない。
【0022】
[ハロゲン化物水溶液]
ハロゲン化物水溶液は、塩化物水溶液、臭化物水溶液又はヨウ化物水溶液から選択される。ハロゲン化物水溶液は、水に酸化剤及びハロゲン化物(塩化物、臭化物又はヨウ化物)の混合物を溶解させたものであればよい。フッ化物水溶液であると、銀/ハロゲン化銀電極に対する好適な酸化還元電位が、フッ素錯体形成により本願発明での好適な値と大きく異なるため、好ましくない。また、鉄のフッ化物錯体は安定であるため、ジャロサイトの生成そのものが妨げられる。ハロゲン化物イオン濃度は、銅鉱石等に対して2倍モル以上10倍モル以下であることが好ましい。ハロゲン化物イオン濃度が銅鉱石等に対して1倍モル未満であると、ハロゲン化物水溶液に銅鉱石等を適切に溶解できない可能性がある点で好ましくない。ハロゲン化物イオン濃度が銅鉱石等に対して10倍モルを超えると、飽和濃度を越え、結晶析出する点で好ましくない。また、排水処理の負担が増大し得る点でも好ましくない。
【0023】
[鉄イオン及び硫酸イオンの添加]
本発明では、銀を含有するハロゲン化物水溶液に、銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させることが好適である。一般に、銅鉱石は、銅鉱石に含まれる銀に対して過剰な鉄及び硫黄を含むため、銅鉱石を上記ハロゲン化物水溶液に添加すれば、銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させたことになる。ところで、銅鉱石は、銀のほか鉄も含むため、ハロゲン化物水溶液を用いて銅精鉱から銅を浸出する手法ではなく、硫酸塩を含む硫酸水溶液と酸化剤とを用いて銅精鉱から銅を浸出する手法によって銅鉱石の湿式製錬を行う場合、銀は浸出液中の鉄と結合し、銀鉄明礬石Ag(Fe3+(SO(OH)の形態で沈殿する。一般的に、いったん銀鉄明礬石が生成すると、この銀鉄明礬石を溶解させることは難しく、銀鉄明礬石から銀を回収することは難しいと考えられている。そのため、上記手法による湿式製錬においては、銀鉄明礬石がいかに生成しないようにするか、また、生成した場合は、いかにして分解するかが最大の課題であると考えられている。
【0024】
本発明は、従来の着想とは全く反対の着想にたったものであり、ハロゲン化物水溶液を用いて銅精鉱から銅を浸出する手法を用いて銅鉱石の湿式製錬を行っているにもかかわらず、銀のクロロ錯体中で鉄明礬石をあえて生成させることにより、非常に安定した銀のクロロ錯体から銀を分解し、鉄明礬石中に銀を捕集する方法である。したがって、化学両論比からみると非常に大過剰な鉄イオン及び硫酸イオン、具体的には、銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンが必要となる。鉄イオン濃度が3倍モル未満であるか、又は硫酸イオン濃度が2倍モル未満であると、銀のクロロ錯体中に鉄明礬石を十分に生成させることができない点で好ましくない。
【0025】
[鉄(III)イオンと鉄(II)イオンとの割合の調整]
本発明により銀を回収する場合、水溶液中の鉄(III)イオン/鉄(II)イオンの値が0.9を超えると、銀を回収する際に銀だけでなく鉄も沈殿し、回収される銀の純度が低下してしまう。そこで、上記銅鉱石等を含有するハロゲン化物水溶液に鉄イオンを加えた後、鉄(III)イオンと鉄(II)イオンとの割合を調整する必要がある。
【0026】
ハロゲン化物水溶液中の鉄(III)イオンと鉄(II)イオンとの割合は、ハロゲン化物水溶液の銀/ハロゲン化銀電極に対する酸化還元電位(ORP)に依存し、ハロゲン化物イオン、鉄イオン及び硫酸イオンを上記の量で添加した場合、ORPは、200mV以上400mV以下にすることが好ましい。ORPが400mVを超えると、鉄(III)イオン/鉄(II)イオンの値が0.9を超え、銀を回収する際に銀だけでなく鉄も沈殿し、回収される銀の純度が低下する可能性がある点で好ましくない。ORPが200mV未満であると、鉄(III)イオンの濃度が不足し、銀を確実に捕捉するためのジャロサイトが生成できなくなる可能性がある点で好ましくない。
【0027】
ORPが400mVを超える場合、ORPを400mV以下に抑えるため、還元剤を添加する必要があるが、使用する還元剤は特に限定されない。工業的には、浸出対象である銅鉱石を使用するのが実用的である。
【0028】
[浸出液の温度]
上記ハロゲン化物水溶液に銅鉱石、鉄イオン及び硫酸イオン濃度を添加し、銅鉱石由来の銅、銀等を浸出させた後の浸出液の温度は、室温程度であってもよいが、40℃以上80℃以下に維持することが好ましい。浸出液の温度が室温未満であると、鉄イオンの加水分解反応が円滑に進まない可能性があるため、好ましくない。浸出液の温度が80℃を超えると、設備に必要な費用が高額になる可能性がある点、浸出液が蒸発する可能性がある点、設備のハンドリング性が劣る可能性がある点で好ましくない。
【0029】
[銀の回収]
銀を濃縮物として回収するため、上記ORPを200mV以上400mV以下に調整した後、上記浸出液のpHを1以上6以下に調整する。銀を効率的に回収するには、pHを4前後に調整することが好ましい。pHが1未満であると、鉄明礬石を生成できない点で好ましくない。pHが6を超えると、銀だけでなく不純物である針鉄鉱FeOOH等の鉄化合物も沈殿する点で好ましくない。
【0030】
pH調整剤は特に限定されるものではないが、費用が安価な点から、工業的には、アルカリ金属系又はカルシウム、ストロンチウム及びバリウムを除くアルカリ土類金属系の中和剤が好ましく、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム等のナトリウム系の中和剤がより好ましい。カルシウム、ストロンチウム及びバリウムの中和剤は、浸出液に添加すると、銅鉱石由来の硫酸イオンとアルカリ土類金属イオンとが結合して難溶性の硫酸塩を生成し、回収する銀の純度が低下する可能性があるため、好ましくない。ナトリウム系の中和剤がより好ましいのは、中和剤に含まれる金属イオンの陽イオン半径が大きいと、鉄明礬石が安定化し、銀イオンとの置換性が悪化し得るためである。
【0031】
pH調整剤の添加は、0.1時間以上4時間以下行うことが好ましい。0.1時間未満であると、ジャロサイトによる均質な共沈効果が損なわれる可能性がある点で好ましくない。一方、4時間以上であると、工業的な装置容量が大きくなる点で好ましくない。
【0032】
黄銅鉱等の銀品位は多くても10ppm程度であるが、本発明に係る方法で回収した銀の銀品位は0.05%を超え、銀鉱石の銀品位(通常、数百ppm)と同程度以上となる。そのため、本発明に係る方法で回収した銀をさらに酸に溶解して還元回収する等、広く知られた濃縮・精製法を施すことで銀をさらに濃縮・精製することができる。
【0033】
また、pH調整剤を添加する際に、鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元する還元剤を添加することが好ましい。還元剤として、二酸化硫黄(亜硫酸塩類含む)、硫化水素(硫化物イオン含む)、ヨウ化物イオン等を挙げることができるが、反応速度が速く、沈殿生成など副反応が進行しにくいという点でアスコルビン酸が好ましい。還元剤の添加量は、添加後のハロゲン化物水溶液の濃度が10ppm以上10,000ppm未満になるようにすることが好ましい。添加後のハロゲン化物水溶液の濃度が10ppm未満であると、還元雰囲気の維持が困難になり得る点で好ましくない。一方、10,000ppmを超えると、溶解度を超えた塩類が析出する可能性がある点で好ましくない。
【0034】
pH調整剤を添加する際に上記還元剤を添加すると、回収される銀の銀品位は0.2%程度に達し、銀鉱石の銀品位に比べても遥かに良質となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。例えば、本実施例では、銅、鉄、銀のほか、硫酸イオンを塩化物水溶液に対して個別に添加しているが、銅、鉄、銀及び硫黄を含有する銅鉱石等を塩化物水溶液に対して添加することで、銀に対して3倍モル以上の鉄及び上記銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させたとしても、同様の効果を奏する。また、本実施例では、ハロゲン化物水溶液として塩化物水溶液を用いているが、塩化物水溶液に限らず、フッカ物水溶液等、他のハロゲン化物水溶液を用いることもできる。
【0036】
pHは、ガラス電極式pH計(装置名:HM−30S,東亜社ディーケーケー社製)を用いて測定した。
ORPは、KCl飽和銀/塩化銀電極式ORP計(装置名:HM−30S,東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。
塩化物水溶液中の銀濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES法)にしたがい、STS3000(セイコーインスツル社製)を用いて測定した。
【0037】
<実施例1>
塩素濃度が150g/Lの塩化物水溶液を入れ、銅濃度が9.6g/L、鉄濃度が48.2g/L、銀濃度が6mg/L、硫酸イオン濃度が35g/Lとなるように各種金属を溶解した。このときのpHは2であった。その後、ORPを350mVに調整した。続いて、ガラスビーカーの中に上記水溶液を100mL入れ、常温にてマグネットスターラーで攪拌を行いながら1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpHが3.0になるように添加した。水酸化ナトリウム水溶液の添加は、60分間行った。
【0038】
60分経過後の塩化物水溶液中の銀濃度は、4.0mg/Lであり、沈殿物中の銀品位は、0.05%であった。
【0039】
<実施例2>
1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpHが3.5になるように添加したこと以外は、実施例1と同様の方法にて行った。60分経過後の塩化物水溶液中の銀濃度は、1.5mg/Lであり、沈殿物中の銀品位は、0.05%であった。
【0040】
<実施例3>
1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpHが4.0になるように添加したこと以外は、実施例1と同様の方法にて行った。60分経過後の塩化物水溶液中の銀濃度は、1.1mg/Lであり、沈殿物中の銀品位は、0.05%であった。
【0041】
<実施例4>
塩素濃度が160g/Lの塩化物水溶液を入れ、銅濃度が13.6g/L、鉄濃度が68.3g/L、銀濃度が10mg/L、硫酸イオン濃度が53g/Lとなるように各種金属を溶解した。このときのpHは2であった。その後、ORPを350mVに調整した。続いて、ガラスビーカーの中に上記水溶液を200mL入れ、60℃にてマグネットスターラーで攪拌を行いながら中和剤として1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をpHが4.5になるように添加するとともに、還元剤として50g/Lのアスコルビン酸水溶液を上記塩化物水溶液の濃度が100ppmになるように添加した。水酸化ナトリウム水溶液及びアスコルビン酸水溶液の添加は、60分間行った。
【0042】
60分経過後の塩化物水溶液中の銀濃度は、1.0mg/L未満であり、この塩化物水溶液のORPは100mVであった。沈殿物中の銀品位は、0.21%であった。
【0043】
<比較例1>
塩素濃度が150g/Lの塩化物水溶液を入れ、銅濃度が9.6g/L、鉄濃度が48.2g/L、銀濃度が6mg/L、硫酸イオン濃度が35g/Lとなるように各種金属を溶解した。このときのpHは2であった。その後、ORPを350mVに調整した。続いて、ガラス製のカラム(20mmφ)の中に貴金属、金属錯体吸着用のアクリル系キレート樹脂であるスミキレートMC800(住友ケムテックス株式会社製)を15mL入れた後、上記水溶液を常温にて流速75mL/hの速さで750mL(ベッド体積BV=50)通液した。
【0044】
上記水溶液を150mL(ベッド体積BV=10)通液した段階での吸着後液の銀濃度は、1mg/L未満であった。しかし、上記水溶液を450mL(ベッド体積BV=30)通液した段階での吸着後液の銀濃度は、4mg/Lであり、上記水溶液を750mL(ベッド体積BV=50)通液した段階での吸着後液の銀濃度は、6mg/Lであった。
【0045】
<比較例2>
塩素濃度が170g/Lの塩化物水溶液を入れ、銅濃度が10.7g/L、鉄濃度が81.5g/L、銀濃度が24mg/L、硫酸イオン濃度が62g/Lとなるように各種金属を溶解した。このときのpHは2であった。その後、ORPを350mVに調整した。続いて、ガラスビーカーの中に上記水溶液50mLとともに椰子殻ベースの液相用活性炭クラレコールGW(クラレケミカル株式会社製)1gを入れ、常温にて60分マグネットスターラーで攪拌した。
【0046】
60分経過後の塩化物水溶液中の銀濃度は、24mg/Lであった。
【0047】
本実施例によると、銀を含有する塩化物水溶液に、上記銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び2倍モル以上の硫酸イオンを共存させる共存工程と、この共存工程の後に、銀/塩化銀電極に対する酸化還元電位400mV以下に調整し、次いで、pHを1〜6に調整することで、銀鉱石と同程度以上の銀品位で銀を回収できることが判明した(実施例1〜4)。その際、pHを3.0で維持するよりも3.5で維持する方が、さらには4.0で維持する方が多くの銀を回収できることが判明した(実施例1〜3)。さらに、pHを調整する段階でアスコルビン酸を、添加後の塩化物水溶液の濃度が10ppm以上10,000ppm以下になるように添加することで、銀鉱石よりも遥かに高いと銀品位で銀を回収できることが判明した(実施例4)。
【0048】
一方、ガラス製カラムを用いてアクリル系キレート樹脂に銀を吸着させようとしても、塩化物水溶液をベッド体積BVが10になる程度に通液した後は、アクリル系キレート樹脂が破損してしまい、その後は銀を適切に吸着させることはできなかった(比較例1)。また、液相用活性炭に銀を吸着させようとしても、銀を吸着させることはできなかった(比較例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物水溶液、臭化物水溶液又はヨウ化物水溶液から選択されるハロゲン化物水溶液から銀を回収する方法であって、
銀を含有する前記ハロゲン化物水溶液に、前記銀に対して3倍モル以上の鉄イオン及び前記銀に対して2倍モル以上の硫酸イオンを共存させる共存工程と、
前記共存工程の後、銀/ハロゲン化銀電極に対する酸化還元電位400mV以下に調整する酸化還元電位調整工程と、
前記酸化還元電位調整工程の後、pHを1〜6に調整するpH調整工程とを行う方法。
【請求項2】
前記pH調整工程での前記ハロゲン化物水溶液の温度は40℃〜80℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pH調整工程において、鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元する還元剤を前記ハロゲン化物水溶液の濃度が10ppm以上10,000ppm未満になるように添加する還元剤添加工程を併せて行う、請求項1又は2に記載の方法。