説明

ハードコート層を有する成形体の製造方法

【課題】厚みが薄く、面積が比較的大きな樹脂成形体であっても、輪郭の鮮明な凹凸と、均一な厚みを有し、かつ表面硬度の高いハードコート層の形成が可能なハードコート層を有する成形体を製造すること。
【解決手段】ハードコート層を有する成形体の製造方法は、基材に付けられた紫外線硬化型もしくは電子線硬化型の未硬化状態のハードコート材を、樹脂シートに転写する転写工程(ステップS103)と、樹脂シートにハードコート材が転写された状態で、樹脂シートの表面に凹凸を形成するエンボス加工工程(ステップS104)と、樹脂シートに転写されたハードコート材に紫外線または電子線を照射して、該ハードコート材を硬化させて、樹脂シート上にハードコート層を形成する硬化工程(ステップS106)と、転写工程(ステップS103)の後に、基材を樹脂シートから剥離する剥離工程(ステップS105)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層を有する成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂パネル等の樹脂成形体の表面にハードコート層を形成する方法として、樹脂成形体の表面にハードコート材をスプレー塗装、ディッピングまたはスクリーン印刷する方法が知られている。また、射出成形によって樹脂成形体の表面にハードコート層を形成する方法も知られている。例えば、射出成形を用いたハードコート層の形成方法としては、射出成形によって成形体を製造すると同時にハードコート材を該成形体に転写する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、二層積層型の硬化性樹脂層を有するシート基材を金型内に装着した後、該金型内に成形用の樹脂を射出し、該射出時の熱と圧力によって上記二層の硬化性樹脂を混合し、かつ硬化させてハードコート層を形成する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−313371号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハードコート材を塗装する方法の場合には、ハードコート用の塗料の溜りが形成されやすく、均一の厚みを有するハードコート層が得られない。その結果、硬化時における塗膜の硬化や収縮が不均一になったり、残留歪が発生したりする。そのため、硬化後の塗膜にクラック(ひび割れ)が発生したり、塗膜が樹脂シートから剥がれ易くなる等の不具合が生じる。また、スクリーン印刷の場合には、凹凸のある表面への印刷が難しく、印刷ムラが生じやすい。あらかじめハードコート処理をした後に凹凸を加工するという方法も考えられるが、その加工によって、ハードコート層にひびが入るという問題が生じる。また、ひび割れしにくいハードコート材を使用すると、十分な表面硬度が得られないという問題が生じる。一方、特許文献1に開示されている射出成形を用いる場合には、厚みが薄く、かつ細かい凹凸を有する成形体を製造することができない。さらに、成形する面積が小さいものに限られるといった問題もある。
【0006】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、厚みが薄く、面積が比較的大きな樹脂成形体であっても、輪郭の鮮明な凹凸と、均一な厚みを有し、かつ表面硬度の高いハードコート層の形成が可能な、ハードコート層を有する成形体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のハードコート層を有する成形体の製造方法は、基材に付けられた紫外線硬化型もしくは電子線硬化型の未硬化状態のハードコート材を、樹脂成形体に転写する転写工程と、樹脂成形体にハードコート材が転写された状態で、樹脂成形体の表面に凹凸を形成するエンボス加工工程と、樹脂成形体に転写されたハードコート材に紫外線または電子線を照射して、該ハードコート材を硬化させて、樹脂成形体上にハードコート層を形成する硬化工程と、転写工程の後に、基材を樹脂成形体から剥離する剥離工程と、を有する。
【0008】
本発明の製造方法では、ハードコート材は未硬化状態であり、かつハードコート材には、紫外線硬化型もしくは電子線硬化型のものが使用されている。このため、ハードコート材は、転写後も未硬化状態を呈している。したがって、ハードコート材を樹脂成形体に転写した後に、エンボス加工を施すことが容易であり、輪郭の鮮明な凹凸を有する成形体を製造することができる。また、エンボス加工により凹凸を形成することが可能であるため、厚みが薄く、大きな面積を有する成形体を製造することが可能となる。
【0009】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、剥離工程は、転写工程とエンボス加工工程との間またはエンボス加工工程と硬化工程との間に行われる。このような工程により、ハードコート材のみを樹脂成形体に半硬化状態で転写することができる。
【0010】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、樹脂成形体の片面もしくは両面には、薄膜層が形成されているものである。このため、薄膜層が形成された樹脂成形体上にもハードコート材を転写することができ、より意匠性に優れた樹脂成形体を製造することができる。
【0011】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、転写は、熱転写により行われている。これにより、ハードコート材を樹脂成形体に容易かつ確実な方法で転写させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、厚みが薄く、面積が比較的大きな樹脂成形体であっても、輪郭の鮮明な凹凸と、均一な厚みを有し、かつ表面硬度の高いハードコート層の形成が可能なハードコート層を有する成形体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【0015】
本実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法は、図1に示すように、樹脂シート(樹脂成形体の一例)10の表面に薄膜層12を形成する薄膜層形成工程(ステップS101)と、ハードコート材16aを付けた基材18を樹脂シート10上に載置する載置工程(ステップS102)と、ハードコート材16aを基材18から樹脂シート10に転写する転写工程(ステップS103)と、樹脂シート10に凹凸を形成するエンボス加工工程(ステップS104)と、転写した後のハードコート材16aから基材18を剥離する剥離工程(ステップS105)と、ハードコート材16aを硬化させる硬化工程(ステップS106)の各工程を有する。
【0016】
図2は、本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法に用いられる樹脂シート10の側面図である。図3は、樹脂シート10に薄膜層12を形成した状態を示す図であり、(a)は、樹脂シート10の片面に薄膜層12が形成された状態の側面図あり、(b)は、樹脂シート10の両面に薄膜層12が形成された状態の側面図である。
【0017】
まず、加工後の成形体14(図11を参照)の主要部材である樹脂シート10について説明する。樹脂シート10は、図2に示すように、平板状の樹脂材である。樹脂シート10としては、透光性を有するものを採用しても良く、不透明なものを採用しても良い。また、樹脂シート10の材料は特に限定されることはなく、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。その中でも、アクリル系樹脂、PC系樹脂およびABS樹脂は、寸法安定性および透明性が良く、かつ耐衝撃性に優れているため、樹脂シート10の材料として好適である。
【0018】
(薄膜層形成工程)
本実施の形態に係る製造方法では、図3(a)に示すように、樹脂シート10の片面に薄膜層12が形成される。薄膜層12は、樹脂シート10の表面に模様や文字の装飾を施すための層であり、一般的に0.1〜100μmの厚みを有する。この実施の形態では、薄膜層12は、カーボンあるいはウレタン系樹脂等から成るインクを樹脂シート10の表面にスクリーン印刷することにより形成される。しかしながら、印刷は、スクリーン印刷に限ることなく、オフセット印刷あるいはグラビア輪転印刷等の他の方法を用いても良い。また、薄膜層12を、印刷に限ることなく、蒸着法、スパッタ法、メッキ法、マスク法あるいはホットスタンプ等の他の方法によって形成しても良い。なお、樹脂シート10には、薄膜層12を形成しないようにしても良い。さらに、図3(b)に示すように、樹脂シート10の両面に薄膜層12を形成するようにしても良い。
【0019】
図4は、ロール状に巻回されたハードコート材16a付きの基材18を各ロール25a,25bに取り付けた状態を示す斜視図である。
【0020】
次に、ハードコート材16aおよび基材18について説明する。ハードコート層16を形成するため、予め基材18の一方の面にハードコート材16aが付けられたもの(以下、ハードコート材16aが付いた基材18を表す場合、単に、ハードコート材付き基材19という。)が用いられる。図4に示すように、ハードコート材付き基材19は、予めロール状に巻回された状態にて、後述するエンボス加工用金型30を挟んで両側に配置される繰り出しロール25aおよび巻き取りロール25bのそれぞれに取り付けられる。ハードコート材付き基材19は、成形の毎に、図4中の矢示Aで示す方向に向かって、繰り出しロール25aから巻き取りロール25bへ所定の長さだけ巻き取られる。この結果、該巻き取られる所定の長さのハードコート材付き基材19が樹脂シート10上に載置されることになる。
【0021】
ハードコート材16aは、平滑な表面を持つ基材18上にほぼ均一な厚みで付けられている。また、図4に示すように、ハードコート材16aの幅は、基材18の幅と同じかこれより狭い。しかし、基材18およびハードコート材16aの形態は、これらに限定されるものではなく、樹脂シート10の形状に対応する形状としても良い。また、ハードコート材16aおよび基材18の厚みは、特に限定されない。ハードコート材16aの厚みは、0.1μm以上100μm以下の範囲が好ましく、1μm以上50μm以下の範囲がより好ましく、2μm以上20μm以下の範囲がさらに好ましい。基材18の厚みは、0.1μm以上500μm以下の範囲が好ましく、1μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、2μm以上50μm以下の範囲がさらに好ましい。
【0022】
本実施の形態に係る製造方法では、ハードコート材16aとしては、紫外線硬化型(UV硬化型)の樹脂系材料が用いられる。特に、ハードコート材16aとして、アクリレート系樹脂が好適である。ここで、アクリレート系樹脂として、例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、PC系、脂肪族系等からなるウレタン系アクリレートまたはウレタン系メタアクリレート、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビスフェノールAD系、水添加型ビスフェノールA系、ダイマー酸変性系等からなるエポキシ系アクリレートまたはエポキシ系メタアクリレート、ポリエステル系アクリレート、ポリエステル系メタアクリレート、シリコーン系アクリレート、シリコーン系メタアクリレート、アルキッド系アクリレート並びにアルキッド系メタアクリレート等が挙げられる。なお、紫外線硬化型の樹脂系材料を用いる場合には、光重合開始剤が必要である。
【0023】
また、アクリレート系樹脂を紫外線硬化させる場合には、光重合開始剤が用いられる。光重合開始剤として、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系およびチオキサントン系光重合開始剤等が挙げられる。なお、光重合開始剤の選定は、照射する紫外線の波長領域および各種アクリレート系またはメタアクリレート系の樹脂に基づいて行えば良い。また、光重合開始剤の配合量は、一般にアクリレート樹脂またはメタアクリレート樹脂の重量を100とすると、それに対して0.1以上10以下の重量となる。
【0024】
ハードコート材16aは、未硬化状態(以下、未硬化状態と表記する場合には、半硬化状態(Bステージ)も含むものとする。)で基材18上に存在しており、空気に触れても未硬化状態を維持している。但し、一般に室内の蛍光灯等の光があたると硬化が進むため、使用しない場合には、ハードコート材付き基材19を冷暗所(5℃以下の場所)に保存するのが望ましい。なお、ハードコート材16aは、上記の樹脂系材料に限定されることはなく、未硬化状態を維持できるものであれば使用しても差しつかえない。例えば、エポキシ系、ウレタン系、フェノール系、メラミン系、尿素系およびポリエステル系の樹脂等からなる硬化型樹脂が挙げられる。また、ハードコート材16aとして、電子線硬化(EB硬化)型のものを使用しても良い。
【0025】
ハードコート材16aの特性値として、例えば、鉛筆硬度や耐磨耗性等の機械的特性値を向上させたい場合には、各種充填材(コロイダルシリカ、微粉砕状シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、沈降性硫酸バリウム、マイカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、ウイスカーまたはガラスパウダー等)を必要に応じて加えても良い。また、耐水性を向上させたい場合には、例えば、シランカップリング剤(エポキシ官能系、アミン官能系、ハロゲン官能系、ビニル官能系、メルカプトン官能系、不飽和基官能系等のシランカップリング剤)、チタネート系カップリング剤、アルコキシドカップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤または老化防止剤等の各種添加剤等を必要に応じて加えても良い。また、ハードコート材16aに反射防止機能を持たせる場合には、コロイダルシリカ、微粉砕状シリカ、ビーズ樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または表面改質剤等の各種添加剤を必要に応じて加えても良い。
【0026】
ハードコート材16aの未硬化状態は、ゲル分率で40%以上98%以下の範囲が好ましい。また、ゲル分率で50%以上96%以下の範囲がより好ましく、60%以上95%以下の範囲が最も好ましい。ここで、ゲル分率とは、硬化度合いを示すものである。ゲル分率で100%とは、完全に硬化をした状態(Cステージ)を表す。ゲル分率が極端に低い場合には、硬化ができていないため(硬化樹脂の架橋が進んでいない)、ハードコート層に表面タックが残る。そのため、ハードコート箔として巻き取ることができなくなったり、ハードコート箔として保存した場合に、空気中の水分を吸湿してしまい、硬化不良を起こしたりする。また、エンボス加工を施した場合、エンボス用金型にハードコート層が付着し、本来必要な加工面にハードコート層が付着しなくなる等の不具合の原因となるので好ましくない。
【0027】
また、極端にゲル分率が高い場合には、すでに完全硬化をしてしまっているため、この様な状態のハードコート層を用いてエンボス加工をした場合、加工表面にクラック(ひび割れ)が発生し、加工面のコーナー部分が十分に伸ばされない。そのため、余分な応力が加わり、剥がれ等の不良の原因になるので好ましくない。ゲル分率の測定方法として、一般にフーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:FT/IR−6000シリーズ)を用いて調べることができる。基材18に剥離層を形成すると共に、ハードコート材16aとしてアクリレート系樹脂を用いる場合、紫外線(高圧水銀ランプ等を用いて)を一定量照射して半硬化したハードコート材16aの表面を、FT−IRのATR法によって測定し、反応基であるビニル基の吸収波長(905cm−1以上915cm−1以下)と、未反応基であるメチル基の吸収波長(1370cm−1以上1380cm−1以下または2952cm−1以上2972cm−1以下)のピークを紫外線照射前後において、頂点強度法によって得られた値から、紫外線の照射量と、ゲル分率との関係を一次式の関係にしておけば、ハードコート材16aに対する任意なゲル分率を得ることができる。
【0028】
本実施の形態に係る製造方法では、基材18の材料として、ポリエステル系樹脂が使用されている。しかしながら、これに限定されることなく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂等の他の材料を使用しても良い。
【0029】
また、基材18とハードコート材16aとの間に、必要に応じて剥離層を設けるようにしても良い。剥離層は、ハードコート材付き基材19を樹脂シート10に転写した後、ハードコート材16aを基材18から剥がし易くするためのものである。剥離層に用いることができるものは、一般に、シリコーン系、アクリル系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、セルロース系、長鎖アルキル系、パラフィン系、ポリウレタン系およびポリ塩化ビニル系等の化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらを2種類以上混合したものを剥離層の成分として採用しても良い。なお、剥離層の厚みは、一般的に0.01μm以上0.5μm以下の範囲であるが、これに限定されるものではない。剥離層の形成方法として、バーコーター、ホットスタンプ、グラビア印刷、シルク印刷、凸版印刷およびフレキソ印刷等の印刷法や、グラビアコート法およびグラビアリバースコート法等の塗工方法が挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。なお、剥離層を形成する前に、必要に応じて基材18に一度UV照射、コロナ放電またはスパッタリング等の表面改質を行ってから、剥離層を形成すると、より一層剥離層を形成しやすくなる。
【0030】
また、ハードコート材16aの表面にアンカー層を設けるようにしても良い。アンカー層は、ハードコート材16aと後述する接着剤層との親和性を良好にし、これら2つの層の密着性を向上させるために設けられる。アンカー層の成分として、一般的に、シランカップリング剤、並びに、2液硬化型ウレタン系、熱硬化型ウレタン系、アクリル系、エポキシ系およびビニル系の重合体樹脂等が挙げられる。また、これらを2種類以上混合したものを採用しても良い。アンカー層の形成方法は、剥離層と同様の方法にて形成することができるが、特に限定されるものではない。なお、アンカー層の厚みは、一般的に、0.01μm以上20μm以下の範囲であるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
また、ハードコート材16aと樹脂シート10とを接着するための層である接着層を必要に応じて設けるようにしても良い。接着剤層に用いる物質は、樹脂シート10の材質によって選定することが望ましい。接着剤層として、例えば、室温硬化系、加熱硬化系、湿気硬化系、UV硬化系、EB硬化系、ホットメルト硬化系、反応性ホットメルト硬化系等の各種硬化型接着剤や粘着剤を採用することができる。また、該接着剤あるいは粘着剤の成分として、例えば、アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、酢酸−ビニル系、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩素化オレフィン系、ポリビニルブチラール系、シリコーン系、クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、ポリウレタン/ポリエステル系、ポリサルファイド系、ポリアミド系、ポリスチレン系、エポキシ系、尿素系、メラミン系、フェノール系およびポリイミド系の樹脂等が挙げられる。これらの接着剤或いは粘着剤も被着体である樹脂シート10の材質によって選定を行うことが望ましい。例えば、樹脂シート10の材質がアクリル系、PC系、ポリスチレン系または、ABS樹脂の場合には、アクリル系、ウレタン系及び、エポキシ系の樹脂を用いるのが好ましい。また、樹脂シート10が塩化ビニル系樹脂の場合には、アクリル系樹脂に加えて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を混合して用いるのが好ましい。また、樹脂シート10の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系、PC系、スチレン共重合体系、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系、ポリアミド系の樹脂等を用いるのが好ましい。更に、樹脂シート10の材質がポリプロピレン系樹脂の場合には、ポリ塩化ビニル酢酸ビニル共重合体系、ウレタン系、アクリル系、塩素化ポリオレフィン系、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体系、クマロンインデン系の樹脂等を用いるのが好ましい。また、これらの物質を2種類以上を混合したものを用いても良い。
【0032】
接着剤層の形成に市販品で使用可能なものとして、例えば、樹脂シート10がPMMA等に代表されるアクリル系樹脂またはABS樹脂の場合には、十条ケミカル株式会社製、商品名:3100シリーズFEバインダーインキ、B−2およびA−5が挙げられる。また、樹脂シート10がPCまたはABS樹脂の場合には、十条ケミカル株式会社製、商品名:3100シリーズFEバインダーインキ、G−2SおよびU−1が挙げられる。さらに、樹脂シート10がPCまたはPMMA等に代表されるアクリル系樹脂の場合には、帝国インキ製造株式会社製、商品名:IMB003バインダーおよびIMB009バインダー等が挙げられるが、特にこれらのものに限定されるものではなく、用途や、樹脂シートメーカーに合わせて選定し、用いれば良い。接着層の形成方法としては、剥離層と同様な方法にて形成することができるが、特にこれらに限定されるものではない。なお、一般に接着剤層の厚みは、0.01μm以上20μm以下の範囲であるが、これに限定されるものではない。
【0033】
図5は、樹脂シート10の片面側に、ハードコート材付き基材19を載置した状態を示す側面図である。
【0034】
(載置工程)
図5に示すように、ハードコート材付き基材19をロール25a,25bにそれぞれセットした後、薄膜層12が印刷された樹脂シート10の片面側に、ハードコート材付き基材19が載置される。具体的には、図4に示すように、樹脂シート10の薄膜層12が形成されていない面(以下、上面10aという。)に、基材18のハードコート材16aが付いている面を下に向けて、ハードコート材付き基材19が樹脂シート10に載置される。その結果、上面10aとハードコート材16aが接触する。
【0035】
(転写工程)
樹脂シート10の上にハードコート材付き基材19を載置した後、基材18の上方から熱および圧力を加えてハードコート材16aを樹脂シート10に転写させる。該転写は、ロール熱転写によって行われるが、他の方法によって行うようにしても良い。該転写により、ハードコート材16aは、樹脂シート10の上面10aに付着する。なお、転写において加えられる熱および圧力は、樹脂シート10およびハードコート材付き基材19に用いられる材料によって異なる。また、ハードコート材16aは、紫外線硬化型の樹脂から成るため、熱を加えても硬化することはなく、依然として半硬化状態を維持可能である。
【0036】
図6は、エンボス加工工程の状況を示す図である。図7は、エンボス加工工程において、樹脂シート10に凹凸を形成する過程を示す図であり、(a)は、樹脂シート10の両側にエンボス加工用金型30を配置した状態を示す断面図であり、(b)は、エンボス加工用金型30を型締めした状態を示す断面図であり、(c)は、凹凸が形成された樹脂シート10からエンボス加工用金型30を引き離した状態を示す断面図である。図8は、エンボス加工を行った後のハードコート材付き基材19が載置された状態の樹脂シート10を示す側断面図である。
【0037】
(エンボス加工工程)
樹脂シート10にハードコート材16aが転写された後、エンボス加工用金型30を用いて、ハードコート材付き基材19が載置された樹脂シート10(以下、ハードコート材付き基材19が配置された樹脂シート10を表す場合、単に、基材付き樹脂シート21という。)に凹凸を形成する。エンボス加工用金型30は、図6に示すように、樹脂シート10の表および裏の両面に凹凸を形成するために用いられる金型31,32と、樹脂シート10の表または裏のいずれか一方の面にのみ凹凸を形成するための金型33がある。本実施の形態で用いられる金型31は、キャビティ31aを有する雌型である。また、金型32は、突部32aを有する雄型である。以後、金型31および金型32を、それぞれ雌型31および雄型32という。
【0038】
エンボス加工は、具体的には、以下のように行われる。図6および図7(a)に示すように、ハードコート材16aが転写された基材付き樹脂シート21の下方に雄型32を配置させると共に、該基材付き樹脂シート21の上方に雌型31を配置する。雄型32と雌型31は、突部32aとキャビティ31aが、それぞれ対向するように配置される。次に、雄型32および雌型31を基材付き樹脂シート21に向かって、それぞれ近づけていく。すると、突部32aの先端が基材付き樹脂シート21の下面21b(薄膜層12の下面12aに相当)に接触すると共に、雌型31のキャビティ31aの周囲の端面部31bが基材付き樹脂シート21の上面21aに接触する。
【0039】
さらに、上述の状態から、圧力および熱を加えながら雄型32を上昇させると共に、雌型31を下降する。この結果、図7(b)に示すように、突部32aがキャビティ31aの内部に嵌まり込み、基材付き樹脂シート21に凹凸が形成される。その後、図7(c)に示すように、雄型32と雌型31とを基材付き樹脂シート21から引き離す。
【0040】
本実施の形態では、エンボス加工は、雌型31および雄型32を用いると共に、金型33を用いて行われる。金型33を用いる場合、基材付き樹脂シート21の上方に金型33を配置させると共に、該基材付き樹脂シート21の下方に基台34を配置する(図6を参照)。そして、金型33および基台34を基材付き樹脂シート21に向かって、それぞれ近づけていく。すると、金型33が基材付き樹脂シート21の上面21aに接触すると共に、基台34が基材付き樹脂シート21の下面21bに接触する。さらに、上述の状態から、圧力および熱を加えて金型33を押圧すると、金型33と基台34によって挟まれた基材付き樹脂シート21に、凹凸が形成される。以上のような過程を経て、図8に示すように、基材付き樹脂シート21に凹凸が形成される。なお、ハードコート材16aは、紫外線硬化型の樹脂から成るため、エンボス加工工程において熱が加えられても、硬化せずに、未硬化状態を維持している。
【0041】
図9は、基材付き樹脂シート21から基材18を剥離した後の状態を示す側断面図である。図10は、硬化工程を説明するための図である。図11は、成形体14の側面図である。
【0042】
(剥離工程)
エンボス加工によって、基材付き樹脂シート21に凹凸を形成した後、該基材付き樹脂シート21から、基材18を剥離する。ハードコート材16aは、樹脂シート10に付着しているため、基材18を剥離しても、ハードコート材16aは、樹脂シート10上に残る(図9参照)。
【0043】
(硬化工程)
基材18を樹脂シート10から剥離した後、ハードコート材16aの片面から紫外線を照射して、未硬化状態のハードコート材16aを硬化状態とする。硬化工程においてハードコート材16aを硬化させることにより、樹脂シート10の耐磨耗性、耐薬品性または耐水性等の特性を上げることができる。ハードコート材16aに紫外線を照射する放射照度(mW/cm)と積算照射量(mJ/cm)は、使用するハードコート材16aの素材や種類、厚み等を考慮して決める必要がある。極端に紫外線の放射照度(mW/cm)や積算照射量(mJ/cm)が高い場合には、硬化後のハードコート層16が極端に硬く、かつ脆くなるため、ハードコート層16にクラック(ひび割れ)が入ったり、硬化収縮が極端に大きくなることによって、ハードコート層16が樹脂シート10の界面から剥がれてしまう等の不具合が生じる場合がある。これは、ハードコート層16の特性は、照射される紫外線の放射照度(mW/cm)と積算照射量(mJ/cm)に依存するためである。なお、ハードコート材16aとして、電子線硬化型の樹脂系材料を採用した場合、電子線を照射することによって、ハードコート材16aが硬化する。硬化後のハードコート材16aの塗膜の特性値として、鉛筆硬度(測定規格:JIS K5600−5−4)を用いて硬さを表示する。この鉛筆硬度は、ベース面の樹脂シート10の種類や硬さによって異なる。例えば、樹脂シート10がアクリル系樹脂の場合、基材18にハードコート材16aを転写した際の鉛筆硬度は、3H以上となる。また、樹脂シート10がPC系樹脂やABS樹脂の場合、基材18にハードコート材16aを転写した際の鉛筆硬度はHB以上であるのが好ましい。
【0044】
紫外線ランプとして一般に、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよび無電極ランプの三種類が存在する。高圧水銀ランプは、365nmを主波長とし、254nm、303nmおよび313nmの紫外線を放射する。このような高圧水銀ランプとして、例えば、岩崎電気株式会社製造、アイグラフィックス株式会社販売の製品名:H01−L212、M006−L31、M008−L41等が挙げられる。メタルハライドランプは、発光管中にHgを加えて、各種金属をハロゲン化合物の形に封入したものであり、200nm以上450nm以下の範囲の紫外線を放射する。また、メタルハライドランプは、高圧水銀ランプに比べ、300nm以上450nm以下の範囲の長波長紫外線の出力が高いことが特徴である。例えば、岩崎電気株式会社製造、アイグラフィックス株式会社販売の製品名:M004−L21W、M006−L31W、M008−L41W等が挙げられる。高圧水銀ランプやメタルハライドランプを使用する紫外線照射装置として、例えば、同社製造品、コンベヤータイプとして、製品名:アイミニグランテージ(1.5kW)ECS―151U、ECS−151Sおよびアイグランテージ(4kW)ECS−401GX等が挙げられる。スポット型の場合には、アイキュアーライトスポット(200W)UP200GやUP150M等が挙げられる。無電極ランプは、電子レンジと同じマイクロ波(2450MHz)を用いて、ランプバルブ内部の水銀等の発光物質を励起させてプラズマとし、該プラズマを光エネルギーに転換して紫外線を照射する。無電極ランプは、高圧水銀ランプ等の電極を持ったランプに比べ、光出力の安定性や、紫外線の照射時に発生する放熱が低い。そのため、硬化時の紫外線硬化樹脂の収縮率を低下させることができる共に、作業対象物の熱変形等を低減させることができる。無電極ランプおよびそれに使用する紫外線照射装置として、例えば、ヒュージョン社製、製品名:ライトハンマー6、ライトハンマー10、F300SシリーズおよびF600Sシリーズ等が挙げられる。上述した、ランプや装置は、用途によって適宜使い分けるようにしても良い。
【0045】
紫外線の放射照度(mW/cm)と積算照射量(mJ/cm)を測定する機器として、紫外線ランプの種類が高圧水銀ランプやメタルハライドランプを用いた場合には、例えば、岩崎電気株式会社製造、アイグラフィックス株式会社販売の製品名:アイ紫外線積算照度 UVPF−AIを用いれば容易に計測することができる。なお、紫外線の測定範囲が230nm以上280nm以下の場合には、製品名:PD−254型、紫外線の測定範囲が300nm以上390nm以下の場合には、製品名:PD−365型、紫外線の測定範囲が350nm以上490nm以下の場合には、製品名:PD−405をそれぞれ使い分けても良い。また、無電極ランプを用いた場合には、ヒュージョン社製、製品名:UVパワーマップ、UVマッププラス、マイクロキュアおよびUVアイ・ラッド等が挙げられる。
【0046】
基材18の剥離工程は、エンボス加工後であって、かつ紫外線の照射後に行うようにしても良い。透光性の基材18であれば、基材18を通して紫外線を照射しても、紫外線はハードコート材16aに到達する。以上のように、薄膜形成工程から硬化工程までの各工程を経て、図11に示す成形体14が製造される。
【0047】
(効果)
ハードコート材16aは、基板18上において半硬化状態であり、紫外線硬化型の樹脂である。このため、転写直後のハードコート材16aは、半硬化状態を維持している。したがって、ハードコート材16aを樹脂シート10に転写した後に、エンボス加工を施すことが容易であり、輪郭の鮮明な凹凸を有する成形体14を製造することができる。また、エンボス加工により凹凸を形成することが可能であるため、厚みが薄く、大きな面積を有する成形体14を製造することが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態の製造方法では、薄膜形成工程により、薄膜層12を形成している。このため、薄膜層12が形成された樹脂シート10上にハードコート材16aを転写することができ、より意匠性に優れた成形体14を製造することができる。また、転写方法としては、ロール熱転写が採用されている。これにより、ハードコート材16aを樹脂シート10上に容易かつ迅速な方法で転写させることができると共に、転写後のハードコート層16は、きめが細かく、硬度の高い層となる。
【0049】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0050】
上述の実施の形態では、剥離工程は、エンボス加工工程と硬化工程の間に行われているが、転写工程とエンボス加工工程の間に行うようにしても良い。このような工程を行う場合、ハードコート材16aがエンボス加工用金型30に付着しないようにするため、エンボス加工用金型30におけるハードコート材16aとの接触面にテフロン(登録商標)コーティング等を施すのが好ましい。また、該剥離工程を、硬化工程の後に行っても良い。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。表1に、各実施例および各比較例の製造条件および得られた結果を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(実施例1)
1.サンプルの製造
アフターキュアータイプのUV硬化型ハードコート材付き基材(大日本印刷株式会社製、商品名:HCCF−212A(150)、サイズ:110mm×270mm×0.04mm)を用意した。また、樹脂シートとして、アクリル系樹脂(住友化学株式会社製、商品名:テクノロイS001、サイズ:100mm×250mm×0.4mm)を用意した。そして、樹脂シートとハードコート材付き基材のハードコート面が接するように重ね、ラミネート機(フジプラ株式会社製、商品名:ラミネートパッカーLPA300)を用いて、ロール表面温度200℃、線圧約600kPaで1回通し、樹脂シートとハードコート材付き基材を接着させ、サンプルA−1とした。
【0054】
2.試験片の製造
次に、油圧プレス機として、真鍋鉄工株式会社製の4柱型油圧プレス機と、エンボス加工用金型を用した。そして、エンボス加工により、(1)アラビア数字の0(文字幅:0.5mm、文字高さ:0.2mm)、(2)アラビア数字の1(文字幅:0.5mm、文字高さ:0.4mm)、(3)アラビア数字の4(文字幅:0.5mm、文字高さ:0.5mm)、(4)アラビア数字の5(文字幅:0.2mm、文字高さ:0.5mm)、(5)アラビア数字の6(文字幅:0.3mm、文字高さ:0.2mm)のそれぞれをランダムに各4個ずつ作成し、サンプルA−1の基材が凹金型と接するように設置し、金型温度70℃、圧力約3000kPaで1秒間プレス加工を行った。そして、金型からサンプルA−1を取り出し、サンプルA−1の基材側から紫外線が当たるように装置に設置し、紫外線ランプ高さが14cm、放射照度が150mW/cmで積算照射量1500mJ/cmとなるように紫外線を照射した。紫外線照射には、高圧水銀ランプ(岩崎電気株式会社製、アイグラフィックス株式会社販売、商品名:H04−L41)及びコンベヤタイプの紫外線照射装置(商品名:アイミニグランテージ(4kW)ECS−401GX)を用いた。紫外線照射終了後、サンプルA−1を室温まで冷却し、基材を剥がして試験片−1を得た。なお、紫外線放射照度及び積算照射量は、PD−365型(岩崎電気株式会社製、商品名:アイ紫外線照度計 UVメーター)を用いて測定した。
【0055】
3.評価方法および合格判定基準
(1)輪郭の状態:双眼実体顕微鏡(カールトン株式会社製、商品名:DST 44FT型、倍率:20倍)によりハードコート層が基材の加工面(文字等)に対して鮮明に密着していることを確認できた場合に、合格とした。
(2)ハードコート層の塗膜の厚み:ミツトヨ株式会社製、商品名:デジタルダイヤルゲージ ID−C112C型を用いて、塗膜全体が均一の厚みであることを確認できた場合に、合格とした。なお、測定室の条件は、23℃、50%RHとした。
(3)鉛筆硬度:試験規格は、JIS−5400に準拠した。樹脂シートがアクリル系樹脂の場合、3H以上を合格とし、PC系樹脂や、ABS樹脂の場合には、HB以上を合格とした。なお、測定室の条件は、23℃、50%RHとした。
【0056】
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−1のアクリル板上に作成された各アラビア文字(0,1,4,5,6)の上にハードコート層が形成され、鮮明に見えた。:○(合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み3μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:5Hであった。:○(合格)
【0057】
(実施例2)
1.サンプルの製造
実施例1と同様の方法でサンプルA−2を作成した。
2.試験片の製造
基材を剥がした後、実施例1と同様にエンボス加工を行い、ハードコート面側から紫外線を照射し、試験片−2を得た。なお、エンボス加工条件、紫外線照射等の条件は、実施例1と同様にした。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−2のアクリル板上に作成された各アラビア文字(0,1,4,5,6)の上にハードコート層が形成され、鮮明に見えた。:○(合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み3μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:5Hであった。:○(合格)
【0058】
(実施例3)
1.サンプルの製造
実施例1と同様の方法でサンプルA−3を作成した。
2.試験片の製造
基材を剥がした後、実施例1と同様にエンボス加工を行い、ハードコート面側から紫外線を照射し、試験片−3を得た。なお、エンボス加工条件、紫外線照射等の条件は、実施例1と同様にした。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−3のアクリル板上に作成された各アラビア文字(0,1,4,5,6)の上にハードコート層が形成され、鮮明に見えた。:○(合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み3μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:5Hであった。:○(合格)
【0059】
(実施例4)
1.サンプルの製造
アフターキュアータイプのUV硬化型ハードコート材付き基材(ローヤル工業株式会社製、商品名:RK6AF、サイズ:210mm×370mm×0.04mm)を用意した。樹脂シートとして、PC系樹脂(帝人化成株式会社製、商品名:パンライトフィルム PC−3555、サイズ:200mm×350mm×0.25mm)を用意した。そして、樹脂シートの一方の面に、加飾層を形成するために、エンボス金型のアラビア数字と同じ大きさ、同じ位置になるように、紫外線硬化型スクリーンインク(十条ケミカル株式会社製、商品名:レイキュアー VID)を用いて文字を印刷した。その後、紫外線を照射して、インクを硬化させた。印刷はスクリーン印刷法を用い、スクリーン印刷により形成される膜厚の厚みを8μmとした。なお、紫外線照射装置は実施例1と同様の装置を用い、紫外線ランプ高さを14cm、放射照度を150mW/cm、積算照射量を2000mJ/cmとした。次に、樹脂シートの印刷面と反対側の面とハードコート面が接するように、樹脂シートとハードコート材付き基材を重ね、実施例1で使用したラミネート機を用いて、ロール表面温度230℃、線圧約600kPaで1回通し、樹脂シートとハードコート材付き基材を接着させ、サンプルA−4とした。
【0060】
2.試験片の製造
サンプルA−4を、基材側が実施例1で用いた凹金型と接するように、凹金型内に設置し、エンボス金型の文字部と印刷文字部の位置合わせを行った後、金型を閉じて、金型温度100℃、圧力約5000kPaで1秒間プレス加工を行い、サンプルA−4を取り出した。その後、紫外線を基材側から照射した。なお、紫外線照射装置は実施例1と同様の装置を用い、紫外線ランプの高さを14cm、放射照度を150mW/cm、積算照射量を1750mJ/cmとした。その他は実施例1と同様にして試験片−4を得た。文字エンボスの下側にスクリーン印刷によって着色された外観のサンプルが得られた。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−4のPC板上に作成された各アラビア文字(0,1,4,5,6)の上にハードコート層が形成され、鮮明に見えた。:○(合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み3μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:Hであった。:○(合格)
【0061】
(実施例5)
1.サンプルの製造
アフターキュアータイプのUV硬化型ハードコート材付き基材として、実施例3と同じものを用いた。樹脂シートとして、ABS樹脂(三菱樹脂株式会社製、商品名:シヒプレート、サイズ:280mm×310mm×0.5mm)を用いた。そして、実施例1で用いたラミネート機を用いて、実施例1と同じ条件にて樹脂シートにハードコート材付き基材を接着させ、サンプルA−5を得た。
【0062】
2.試験片の製造
エンボス加工を行うために、(1)英単語のA(文字幅:1.0mm、文字高さ:0.6mm)、(2)英単語のR(文字幅:1.0mm、文字高さ:1.0mm)、(3)英単語のX(文字幅:0.3mm、文字高さ:0.5mm)のそれぞれの文字を各5個ずつランダムに作成した凸金型及び、凹金型からなる金型に実施例1と同様にサンプルA−5をセットし、金型温度80℃、油圧プレスの圧力と加圧時間を実施例1と同様にしてエンボス加工を行った。そして、金型からサンプルA−5を取り出し、サンプルA−5の基材側から紫外線が当たるように装置に設置し、紫外線を照射した。紫外線照射装置は実施例1と同じ装置を用い、紫外線ランプをメタルハライドランプ(商品名:M04−L41)に変更した。なお、紫外線ランプ高さを14cm、放射照度を150mW/cm、積算照射量を1750mJ/cmとした。その後、サンプルA−5を室温まで冷却した後、基材を剥がして試験片−5を得た。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−5のABS板上に作成された各アラビア文字(A,R,X)の上にハードコート層が形成され、鮮明に見えた。:○(合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み2μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:Hであった。:○(合格)
【0063】
次に、本発明の比較例について説明する。
【0064】
(比較例1)
1.サンプルの製造
プレキュアータイプのハードコート材付き基材(ローヤル工業株式会社製、商品名:813−C、サイズ:実施例1と同じ)を用意した。樹脂シートは実施例1と同じアクリル系樹脂(サイズ:実施例1と同じ)を用いた。樹脂シートとハードコート材付き基材のハードコート面が接するように重ね、実施例1と同様のラミネート機を用いて、ロール表面温度200℃、線圧約600kPaで1回通し、樹脂シートとハードコート材付き基材を接着させ、サンプルA−6とした。
【0065】
2.試験片の製造
基材を剥がした後、実施例1で用いた油圧プレス機及び、アラビア数字が付いたエンボス金型を用いて、実施例1と同条件でエンボス加工を行い、試験片−6を得た。なお、プレキュアータイプのため、紫外線は照射しなかった。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:試験片−6のアクリル板上に作製されたアラビア文字(0,1,4,5,6)の周辺にクラックやヒビが入った。:×(不合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み2μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:3Hであった。:○(合格)
【0066】
(比較例2)
1.試験片の製造
樹脂シートとして、実施例4と同じものを用意した。樹脂シートにハードコート層を形成するために、スクリーン印刷用のUV硬化型ハードコート(十条ケミカル株式会社製、商品名:レイキュアーOP 4300HG)を硬化後の塗膜として5μmになるようにスクリーン印刷を行った。次に、紫外線を照射して、ハードコート層を形成した。さらに、エンボス加工を実施例4と同じ条件で行い、試験片−7を得た。
2.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
3.結果
(1)輪郭の状態:試験片−7のアクリル板上に作成されたアラビア文字(0,1,4,5,6)の周辺にクラックやヒビが入った。:×(不合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった(厚み5μm)。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:Hであった。:○(合格)
【0067】
(比較例3)
1.サンプルの製造
実施例1で使用した樹脂シートに実施例1と同様な方法にてエンボス加工を行い、サンプルA−8を得た。
2.試験片の作造
次に、ハードコート層を形成するために、紫外線硬化型ウレタン系ハードコート塗料(藤倉化成株式会社製、商品名:フジハードHO9257U)を用い、スプレーガン(アネスト岩田株式会社製、商品名:W−101)にて、吹付け空気圧力0.1MPaで塗装した後、熱風循環式オーブン(ETAC社製、商品名:HISPEC HS210)を用いて、70℃×10分間、溶剤乾燥させた。次に、実施例1で用いた紫外線照射装置を用いて、紫外線を照射し、試験片−8を得た。なお、紫外線ランプ高さ、放射照度および積算照射量は、それぞれ実施例1と同様とした。
3.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
4.結果
(1)輪郭の状態:文字の部分にハードコート液が溜り、鮮明に見えなかった。:×(不合格)、(2)ハードコート層の厚み:文字の周りに溜りがあり、均一(厚みが2μm以上、10μm以下)にならなかった。:×(不合格)(3)鉛筆硬度:測定箇所の厚みにバラツキが出た。:×(不合格)
【0068】
(比較例4)
1.試験片の製造
予め、片面に紫外線硬化型のハードコートが形成されているPC板(日本ジーイープラスチック株式会社製、商品名:レキサンHP92S、サイズ:実施例4と同じ)を用意した。エンボス加工を、実施例4と同じ条件で行い、試験片−9を得た。
2.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
3.結果
(1)輪郭の状態:試験片−9のPC板上に作成された各アラビア文字(0、1,4,5,6)の周辺にクラックやヒビが入った。:×(不合格)、(2)ハードコート層の厚み:全体に均一であった。:○(合格)、(3)鉛筆硬度:Hであった。:○(合格)
【0069】
(比較例5)
1.試験片の製造
射出成形用金型として、キャビティ部分の大きさを100mm×100mm×0.4mmとし、そのキャビティ部分に実施例1と同じアラビア数字のエンボスを形成した金型を用意した。次に、射出成形機(住友重機械工業株式会社製、SE100DU型)に該射出成形金型を取り付け、実施例1で用いたハードコート材付き基材を、ハードコート面が金型面と反対側になるようにキャビティのエンボス金型側に固定装着した。射出成形用の熱可塑性樹脂としては、PC樹脂(帝人化成株式会社、商品名:パンライト、L−1225L)を使用した。射出成形の条件は、シリンダ温度を280〜320℃、射出圧力を150〜170MPa、金型温度を100〜120℃の範囲とした。金型を開いてサンプルを取り出し、基材を剥がした。その後、紫外線を照射し、試験片−10を得た。なお、紫外線照射の条件は、実施例1と同様とした。
2.評価方法および合格判定基準
実施例1の場合と同様の評価方法および合格判定基準を採用した。
3.結果
さまざまな成形条件で試験を行ったが、成形品寸法通りのものを得ようとすると、射出樹脂によってハードコート材料が流れてしまったり、皺が入ったりした。またハードコート材料が流れないような射出条件では、未充填品しか得られなかった。したがって、満足できるハードコート付き成形体は得られなかった。:×(不合格)
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のハードコート層を有する成形体の製造方法は、携帯電話の化粧パネル等、高精度の凹凸が要求される成形体を備えた電子機器に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法に用いられる樹脂シートの側面図である。
【図3】図2中の樹脂シートに薄膜層を形成した状態を示す図であり、(a)は、樹脂シートの片面に薄膜層が形成された状態の側面図あり、(b)は、樹脂シートの両面に薄膜層が形成された状態の側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法に用いられるハードコート材付きの基材を各ロールに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】図3(a)中の樹脂シートの片面側に、ハードコート材付き基材を載置した状態を示す側面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法におけるエンボス加工工程の状況を示す図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るハードコート材を有する成形体の製造方法におけるエンボス加工工程において、樹脂シートに凹凸を形成する過程を示す図であり、(a)は、樹脂シートの両側にエンボス加工用金型を配置した状態を示す断面図であり、(b)は、エンボス加工用金型を型締めした状態を示す断面図であり、(c)は、凹凸が形成された樹脂シートからエンボス加工用金型を引き離した状態を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係るハードコート層を有する成形体の製造方法においてエンボス加工を行った後のハードコート材付き基材が載置された状態の樹脂シートの側断面図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係るハードコート材を有する成形体の製造方法におけるエンボス加工工程後に、基材付き樹脂シートから基材を剥離した後の状態を示す側断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係るハードコート材を有する成形体の製造方法における硬化工程を説明するための図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る成形体の側面図である。
【符号の説明】
【0072】
10…樹脂シート(樹脂成形体)
12…薄膜層
14…成形体
16…ハードコート層
16a…ハードコート材
18…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に付けられた紫外線硬化型もしくは電子線硬化型の未硬化状態のハードコート材を、樹脂成形体に転写する転写工程と、
上記樹脂成形体に上記ハードコート材が転写された状態で、上記樹脂成形体の表面に凹凸を形成するエンボス加工工程と、
上記樹脂成形体に転写された上記ハードコート材に紫外線または電子線を照射して、該ハードコート材を硬化させて、上記樹脂成形体上にハードコート層を形成する硬化工程と、
上記転写工程の後に、上記基材を上記樹脂成形体から剥離する剥離工程と、
を有することを特徴とするハードコート層を有する成形体の製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程は、前記転写工程と前記エンボス加工工程との間または前記エンボス加工工程と前記硬化工程との間に行われることを特徴とする請求項1記載のハードコート層を有する成形体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成形体の片面もしくは両面には、薄膜層が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のハードコート層を有する成形体の製造方法。
【請求項4】
前記転写は、熱転写であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のハードコート層を有する成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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