説明

バイオセンサ

【課題】試料中のコレステロールエステルの新規な定量方法、およびそのためのシステムを提供すること。
【解決手段】試料中のコレステロールエステルと反応する酵素を反応させる工程、反応によって生じたイオンの濃度変化を累積型ISFETセンサを用いて検出する工程、および検出されたイオン濃度変化に基づいて試料中のコレステロールエステルを定量する工程を包含することを特徴とする、コレステロールエステルの測定方法、ならびにそのためのシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のコレステロールエステルの新規な定量方法、およびそのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脂質はエネルギー源として、また生体膜や血漿リポ蛋白などの構成成分として生体内で重要な役割を果たす。脂質は主にコレステロール、リン脂質、トリグリセライド(中性脂肪)、遊離脂肪酸からなる。体内で脂質は運搬体であるアポ蛋白と結合してリポ蛋白となり転送される。リポ蛋白にはカイロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)などがあり、それぞれが役目を持って脂質の転送に働いている。コレステロールの運搬体としては、中でもLDLとHDLが注目されている。LDLは血中コレステロールの主たる運搬体であり、これはLDL経由によって動脈壁細胞を含む諸臓器の実質細胞に取り込まれ、同時に細胞内のコレステロール生合成を抑制する。また、この取り込みに関与するLDL受容体数の増減によって細胞内へのコレステロールの過剰蓄積を防いでおり、受容体機構の障害などによる高コレステロール血症は動脈効果の促進因子とされている。HDLは動脈壁を含めた各組織からコレステロールを受け取り、LCATの作用でエステル化して内部に取り込み、肝臓へ輸送して異化させる機能をもち、細胞内に蓄積したコレステロールの除去作用に関係し、またHDLの一部はLDL受容体と競合的に結合してLDLの取り込みを抑制している。これらのリポ蛋白の代謝に異常をきたすと、脳梗塞、動脈硬化、虚血性の心臓病などが起こる。
【0003】
生体内のコレステロールには、遊離型コレステロール(FC)とコレステロールエステル(CE)がある。FCは主に細胞膜の構成成分や胆汁酸の原料として重要な役割をもっている。一方、CEは貯蔵型で不活性であり、内皮下マクロファージや平滑筋細胞によって蓄積され、泡沫細胞を形成すると考えられている。そのため、動脈硬化症等の基礎研究において、動物組織中あるいは培養細胞中のCE量を測定することは重要な意味を持つ。
【0004】
現在、CE量の測定は酵素法にて行われており、一般に総コレステロール(TC)量とFC量とをそれぞれ測定し、TC量からFC量を引き算することによって間接的に求められている。体液中のTC量の定量方法としては、TC中に存在するCEをコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]でFCと脂肪酸に分解し、得られたFCと元から存在するFCとをコレステロールオキシダーゼ[EC1.1.3.6]により酸化し、ペルオキシダーゼ[EC1.11.1.7]の作用により導き出される過酸化水素を、酸化縮合発色する色素群によって検出し、試料中のTCを定量しようとするものである。また、TC中に存在するFC量の測定は、FCとCEを含む試料にコレステロールオキシダーゼを作用させて、遊離型コレステロールを酸化し、ペルオキシダーゼの作用により導き出される過酸化水素を、酸化縮合発色する色素群によって検出し、試料中のFCを定量しようとするものである。
【0005】
これらの酵素によるコレステロールの測定は、類似物質の影響を受け難く特異性に優れ、その他の干渉物質の影響も受け難い、分析機器中で安定であるなどの利点がある。そのため現在では、臨床検査の場での主流として、コレステロールエステラーゼ−コレステロールオキシダーゼ−ペルオキシダーゼの連続酵素反応系によるTCの測定方法が、日常的に実施されている。
【0006】
しかしながら、この方法は使用する酵素数が多く、各々の酵素の測定目的物質に対する高い特異性が必要となる。いずれかの酵素が、目的物質以外の物質に反応してしまう、すなわち特異性が低い場合には、それらを測り込んでしまい、正誤差として現れることとなる。
【0007】
また、酵素の最適な使用条件は個々の酵素によって異なるため、幾つもの酵素を同じ試薬で反応させるには、それぞれの酵素の最適条件での使用をあきらめねばならない。
更に、幾つもの酵素を使用した方法では、試薬のコストダウンにも限界がある。
【0008】
また、従来の方法でCE量を算出する場合、測定を二回行う必要があることから作業が煩雑であり、それぞれの過程で測定誤差を伴うために精度について満足する結果が得られない場合がある。特にTC中に含まれるFC量が多い場合、誤差の影響が大きく、信頼性という面で大きな問題を抱えていた。
【0009】
そこで、一回の測定でFC中のCE量を直接測定可能な簡便で精度の高い測定方法として、FC及びCEを含有する試料に、第一試薬でコレステロールオキシダーゼ及びカタラーゼを作用させFCを酸化した後に、第二試薬でコレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素量を測定するCE量の測定方法が開発された(特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、この方法でも使用する酵素数は3酵素で、根本的な問題の解決には至っていない。
【0011】
したがい、より少ない酵素種でCEを測定できることが望まれており、その要望に応えるため、CEを1酵素で測定できる方法、例えば、CEを直接酸化還元する酵素の研究開発なども試みられているはずであるが、今現在に至るまで、このような酵素や測定方法は開発されていないのが現状である。
【0012】
現在では、医療分野や分析化学、食品工学などの分野において、酵素バイオセンサを用いた計測が盛んに実施されている。このようなバイオセンサは、例えば電気化学センサと酵素固定化膜とから構成され、サンプル溶液中に微量に含まれる生化学成分を測定するために用いられる(例えば、特許文献2〜7参照)。一例として、主に血糖値測定用である電流検出型の酵素センサは、グルコースセンサとして全世界的に普及し、広く利用されている。グルコースセンサには、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼといった酵素が用いられている。実際には、通常、酵素はセンサ用試験片上に担持されており、サンプルである血液を試験片上にのせ、サンプル中のグルコースが酵素と反応して生じる電流をセンサにて検出する。
【0013】
電気化学センサとして電流検出型の酵素センサが一般的であるが、電流検出の代わりに電界効果トランジスタを用いて電位検出を行う場合がある。この目的にために、水素イオン濃度(pH)のセンサとなるイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)を利用することが考えられる。ISFETセンサは、ISFETのゲート上のイオン感応膜(SiO、Si、Ta205など)に溶液が接すると、溶液中のイオン活量に応じて界面電位が発生するしくみを利用している。ISFETのゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部を形成し、このセンシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出して、イオン濃度を検出することができる。用途のひとつとして、ISFETはセンシング部にて水素イオンに感応し、pHセンサになる。ゲート絶縁膜と試料間の界面電位の変化は、pH依存性の出力電圧として計測される。更に、ゲート部に種々の感応膜を着膜することにより、種々のポテンショメトリックセンサが作製できる。ISFETを利用したバイオセンサは、集積回路の製造工程により製造されるので、小型化及び規格化が可能であり、大量生産が可能であるという利点があるため、その開発潜在力が期待されている。
【0014】
しかしながら、ISFETはpHの測定には利用されているものの、感度が低く、時間的に出力が不安定であり、イオン濃度を高精度に検出できないという問題があり、現在のところ、ISFETを利用したバイオセンサは電流検出型のバイオセンサに比して全く普及していない。
【0015】
ISFETの欠点を克服するため、累積型ISFETセンサが開発されている(特許文献8)。累積型ISFETセンサは、ISFETのセンシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化をドレインに電荷として転送することを繰り返し、ドレインに電荷が累積されるべく構成したことにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができる。また、本技術の応用として、高感度に試料中の核酸と一本鎖核酸との間のハイブリダイゼーションの発生の有無を検出することができ、PCR法によりDNAを増量させることなく、簡便に、短時間に、低コストに塩基配列を決定することができるFET型センサ及び塩基配列検出方法についても、既に発明されている(特許文献9)。しかし、このような累積型ISFETがコレステロールエステルなどを高感度に測定するための酵素バイオセンサに利用可能であるかどうかは不明である。
【0016】
【特許文献1】特開2005−80559号公報
【特許文献2】特開平10−293112号公報
【特許文献3】特開2002−350383号公報
【特許文献4】特開平8−327587号公報
【特許文献5】特開2004−294087号公報
【特許文献6】特開平8−313478号公報
【特許文献7】特開平8−29389号公報
【特許文献8】特許第3623728号公報
【特許文献9】国際公開第03/042683号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、試料中のコレステロールエステルの新規な定量方法、およびそのためのシステムを提供することにある。より具体的には、コレステロールエステルを1酵素で測定できる方法、およびそのためのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、累積型のイオン感応性電界効果トランジスタ(Ion Sensitive Field Effect Transistor:ISFET)を利用したセンサ・システムにより、イオン濃度変化として効率よく酵素反応を追跡できることを見出した。また、酵素としてコレステロールエステラーゼ活性を有するタンパク質を使用することにより、試料中のコレステロールエステルとの反応で生じたイオンの濃度変化を累積型ISFETセンサにて検出することで、試料中のコレステロールエステルを定量することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[1]以下の工程を包含することを特徴とする、コレステロールエステルの測定方法:
(1)試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を反応させる工程;
(2)反応によって生じた有機酸に基づくイオンの濃度変化を累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する工程、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(3)検出されたイオン濃度変化に基づいて試料中のコレステロールエステルを定量する工程。
[2]反応によって生じたイオンが水素イオンである、[1]の測定方法。
[3]コレステロールエステルと反応する酵素が単一の酵素からなる、[1]の測定方法。
[4]コレステロールエステルと反応する酵素がコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]活性を有するタンパク質である、[3]の測定方法。
[5]コレステロールエステルと反応する酵素が反応混合物中で遊離状態で存在する、[1]の測定方法。
[6]50mg/dL以上の濃度で試料中に含有されるコレステロールエステルを測定することができる、[1]の測定方法。
[7]バッファー成分の存在下で試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を反応させ、バッファー成分の反応混合物中の濃度が0.5〜5mMである、[1]の測定方法。
[8]累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積が1mm以下である、[1]の測定方法。
[9]試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を30μL以下の容量の反応混合物中で反応させる、[1]の測定方法。
[10]少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中のコレステロールエステルを定量するシステム:
(a)累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)コレステロールエステルと反応する酵素。
[11](b)のコレステロールエステルと反応する酵素がコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]活性を有するタンパク質である、[10]のシステム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、試料中のコレステロールエステルを単一の酵素のみで定量することが可能となる。また、極めて簡単な構成で、試料中のコレステロールエステルを測定するシステムを構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、以下の工程を包含することを特徴とする、コレステロールエステルの測定方法を提供する:
(1)試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を反応させる工程;
(2)反応によって生じたイオンの濃度変化を累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する工程、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(3)検出されたイオン濃度変化に基づいて試料中のコレステロールエステルを定量する工程。
【0022】
生体内のコレステロールには、遊離型コレステロール(FC)とコレステロールエステル(CE)がある。FCは主に細胞膜の構成成分や胆汁酸の原料として重要な役割をもっている。一方、CEは貯蔵型で不活性であり、内皮下マクロファージや平滑筋細胞によって蓄積され、泡沫細胞を形成すると考えられている。そのため、動脈硬化症等の基礎研究において、動物組織中あるいは培養細胞中のCE量を測定することは重要な意味を持つ。
【0023】
本発明の方法において、CE測定に供される試料としては特に限定されない。生体試料の例としては、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、精液、涙液、および各種臓器などの哺乳類(ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ウサギ、特にヒト)、鳥類(ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、カモ、キジなど)、無脊椎動物(昆虫;カイコ、ハチ、アリ、クワガタ、カブトムシなど、甲殻類;エビ、カニなど)、植物(桑、小豆、ソラマメ、トマト、ナス、キュウリ、メロン、タバコ、菊、ユリ、バラなど)、微生物(細菌、酵母、カビなど)などの生体由来の試料が挙げられる。また、環境由来の試料としては、食品、河川、土壌なども例示される。
【0024】
試料は、超音波処理、界面活性剤処理などにより破砕後に測定に供してもよい。このようにすることで、測定感度を向上させることが可能な場合がある。
【0025】
本発明において、測定するイオンとしては、直接あるいは間接的に水素イオン濃度の変化をもたらすものであれば、特に限定されない。そのようなイオンとしては、水素イオン、脂肪酸に代表される有機酸イオン、リン酸イオンなどが挙げられる。本発明の好適な測定対象としては、水素イオンが挙げられる。
【0026】
本発明にはCEと反応して上記のようなイオンの濃度変化を生じる任意の酵素を使用することができる。CEと反応する酵素は、CEと反応してイオンの濃度変化を生じるのであれば特に限定されない。そのような酵素としては、コレステロールエステラーゼ、またはコレステロールエステラーゼ活性を有するタンパク質、例えば、リパーゼが挙げられる。1つの実施態様において、本発明は、試料中のCEを単一の酵素の使用のみでも正確に定量することができることを特徴とするものである。したがって、本発明の利点を活かすためには、コレステロールエステラーゼをCEに反応させることが好適である。コレステロールエステラーゼを使用することにより、本発明の方法にて、生じたイオンの濃度変化を検出し、CEを定量することが可能となる。
【0027】
コレステロールエステラーゼは、CEを加水分解しFCを生成する反応を触媒する酵素である。したがい、本発明に用いるコレステロールエステラーゼとしては、CEを加水分解する能力を有する酵素であれば特にその由来等何ら限定されず、例えば微生物又は動物由来のコレステロールエステラーゼやリポプロテインリパーゼ等が挙げられる。コレステロールエステラーゼの供給源としては、シュードモナス属細菌(特開昭50−157588号公報、特開昭52−7483号公報、特開昭56−42586号公報、特開平9−251号公報)、ストレプトミセス属細菌(特開昭53−109992号公報)、ノカルデイア属細菌(特開昭57−43686号公報)、担子菌のカワラタケ(特開昭55−114288号公報)、スエヒロタケ(特開昭53−9391号公報)などが知られている。また、そのほかにも多くの微生物由来のコレステロールエステラーゼが開示されている(特開昭62−36200号公報)。
【0028】
本発明において、酵素や酵素を含む組成物の形態は、特に限定されない。液状であってもよいし、固形状態であって、試料と混合することにより水分を供給されるものであってもよい。適当な容器に入れられたり、適当なデバイスに搭載されて、例えば、分子生物学用途の分析用試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工した体外診断薬、バイオセンサ、医薬品、食品および飲料など、種々の形態をとることができる。
【0029】
本発明において酵素は膜などの担体に固定化されていてもよく、遊離状態で存在してもよい。一般に、従来の電界効果トランジスタ(FET)を利用したバイオセンサは、センシング部の膜に、酵素を直接あるいは間接的に固定化、担持させて使用する。膜に固定化した酵素と固定化していない酵素では、pH特性が異なる可能性がある。これは、固定化することによって酵素の立体構造が変化し特性が変化することも原因の1つであるが、他に以下の2点が考えられる。第1に、酵素固定化膜によってpHの勾配が生じ、溶液中のpHと酵素固定化膜中のpHに差が生じることと、第2に、酵素反応などによって生成する酸により酵素近傍のpHが変化することである。従って、このような場合は、酵素が遊離状態で存在することが好ましい。また、試料をCE以外の物質の測定に供する多項目同時測定の場合は、酵素が遊離状態で存在することが有利である。
【0030】
本発明において、試料−酵素反応混合物中で用いる酵素の濃度は特に限定されないが、好ましくは試料と混合後の終濃度が0.001〜10mg/mLとなる様に含有させると良い。さらに好ましくは、終濃度0.005〜1mg/mLとなる様に含有させると良い。
【0031】
本発明は高感度なCEの測定方法である。本発明の測定方法によれば、例えば100mg/dL以上、好ましくは50mg/dL以上、より好ましくは30mg/dL以上、かつ例えば200mg/dL以下、好ましくは300mg/dL以下、より好ましくは500mg/dL以下の濃度で試料中に含有されるCEを測定することができる。
【0032】
アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の存在下で試料中のCEにCEと反応する酵素を反応させてもよい。例えば、アルカリ金属塩として塩化ナトリウムを使用することができる。これらの金属塩は、検出シグナルを安定化することが期待される。用いるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の添加濃度は、特に限定されない。例えば、1mM〜1M、好ましくは10〜200mM、より好ましくは50〜100mMの範囲で、効果が期待される。
【0033】
本発明において、試料−酵素反応混合物中には、溶液のpH緩衝作用、タンパク質の安定化などの目的で、さらに他の物質を混合しても良い。1つの実施対応において、バッファー成分の存在下で試料中のCEにCEと反応する酵素を反応させてもよい。例えば、バッファー成分としてはリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES、MES、TES、MOPS、HEPESなどのGood緩衝液などが挙げられる。バッファー成分の反応混合物中の濃度には特に限定はないが、濃度が高すぎるとイオン濃度が変化しにくく、低すぎると変化が過剰になるので、高い検出感度が達成されるように適切な濃度を選択する。バッファー成分の濃度は例えば0.1〜20mM、好ましくは0.2〜10mM、より好ましくは0.5〜5mMである。また、エタノールやメタノール、プロパノールなどのアルコール類などを添加しても良い。
【0034】
本発明において、試料−酵素反応混合物中には、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。添加剤としては界面活性剤、安定化剤、防腐剤、キレート剤、活性化剤などがあげられる。これらについても何ら限定されるものではないが、具体的には以下のようなものが例示される。界面活性剤としては、ノニオン・アニオン・カチオンいずれでも良い。例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類(商品名トリトンX−100など)・ポリオキシエチレンアルキルエーテル類など、アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩など、カチオン界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩などがそれぞれ挙げられる。安定化剤としては、シュークロース・トレハロース・サイクロデキストリンなどの糖類およびその誘導体、アルギニン・リジン・ヒスチジン・グルタミン酸などのアミノ酸類、アルブミンなどの蛋白質、アルカリ金属・アルカリ土類金属などの塩類、アンモニアイオン、グルコン酸などが挙げられる。防腐剤としては、抗生物質、アジ化化合物、その他防菌剤・防かび剤等が挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。活性化剤としては、アルカリ金属・アルカリ土類金属等が挙げられる。
【0035】
本発明の方法では、CEの定量手段として、エンドポイント法(一定時間における試料中のCEに由来するシグナルの増加を計測)、カイネティック法(試料中のCEに由来する酵素の初速度をシグナルの時間変化で計測)のどちらを採用しても構わない。本実施例では、カイネティック法を採用した。
【0036】
本発明において、試料−酵素反応混合物が累積型ISFETセンサのセンシング部に直接あるいは間接的に接触することになる。最適な試料−酵素反応混合物の容量は、システムの構成、特にセンシング部の面積に依存することになるが、0.1〜500μLが好ましい。更には、0.1〜30μLが好適な範囲として挙げられる。
【0037】
本発明では、累積型ISFETセンサを使用する。累積型ISFETセンサは、従来のISFETの欠点を克服するため、ISFETのセンシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化をドレインに電荷として転送することを繰り返し、ドレインに電荷が累積されるべく構成したことにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができる。
【0038】
本発明に使用する累積型ISFETセンサの形態としては、P型又はN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部及び浮遊拡散部と、前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端及び終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲート及び出力ゲートと、前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、前記センシング部に、酵素または酵素を含む組成物および試料を添加混合し、その結果、前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、電位変化として検出するようにしたFET型センサを構成したものである。
【0039】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
【0040】
図1(A)は本発明に一実施形態に係るバイオセンサ素子であるFET型センサ素子20Aの構成を示す縦断面図であり、図1(B)は図1(A)のFET型センサ素子20Aのエネルギー準位を示す模式図である。また、図2は図1(A)のFET型センサ素子20Aのセンサ出力信号を測定するためのバイオセンサ測定装置30の構成を示すブロック図である。さらに、図3は図2のバイオセンサ測定装置30により図1(A)のFET型センサ素子20Aの出力特性を測定するときの動作タイミングチャートである。またさらに、図4は図1(A)のFET型センサ素子20Aの動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図1(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【0041】
図1(A)において、典型的にはシリコンにてなるp−型の半導体基板1の表側には互いに所定間隔をおいてn+型拡散層からなる電荷供給部としての入力ダイオード2及び浮遊拡散部3が形成され、さらに浮遊拡散部3から小間隔をおいてリセットダイオード4が形成される。半導体基板1上には、この場合、n+型拡散層上も含めSiO又はSiからなる絶縁膜5が形成される。入力ダイオード2及び浮遊拡散部3間における半導体基板1表面部には、次に述べるゲート構造との関連において導通チャネル(n型反転層)が形成され、その結果、入力ダイオード2をソースとし、浮遊拡散部3をドレインとするFET型センサ20が構成される。絶縁膜5上には、チャネル始端部に対応する入力ダイオード2の隣接位置において入力ゲート6が、またチャネル終端部に対応する浮遊拡散部3の隣接位置において出力ゲート7が、それぞれポリシリコン、又はアルミニウムからなる蒸着層より形成され、さらに浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間においてリセットゲート8が同様の蒸着層より形成される。入力ゲート6、出力ゲート7及びリセットゲート8の上面と、これらのゲートを支持したゲート外の絶縁膜5上には、典型的にはSi蒸着層からなる被着膜10が形成される。Si膜はSiO膜に比べて構造が緻密で、酸素の拡散係数が小さいため、それ自身が入力ゲート6と出力ゲート7間に形成する凹部をセンシング部9として、良好なイオン感応膜を構成する。イオン感応膜としてはSiの他、SiOやAu、Ta205等も用いることができる。当該センシング部9のイオン感応膜には、試料中の検体と反応若しくは結合し、又は検体反応の触媒となる酵素、抗体、微生物及び核酸等の物質が固定化されてもよいが、これらは遊離状態で存在してもよい(図示せず)。
【0042】
なお、半導体基板1の表面において、入力ダイオード2及びリセットダイオード4の外側には、絶縁膜5と同様なシリコン酸化膜等からなる比較的厚いマスク層11が形成され、前述したセンシング部9を形成する蒸着膜である被着膜10は、当該マスグ層11にも被さり、さらに被着膜10上にはセンシング部9を除き、例えば、リンガラスからなる保護膜12と、当該保護膜12上において外表面を面一にした外装膜13が被着形成される。図1(A)の左側より、入力ダイオード2、入力ゲート電極6及び出力ゲート電極7、浮遊拡散部3、リセットゲート8及びリセットダイオード4の上面には、各々アルミニウム等からなる電極リードが形成され、それらの電極リードを介して測定シーケンスに従った電圧が印加され、又は浮遊拡散部3の電位が検出される。浮遊拡散部3は電極リード端子の出力電圧Vout(本明細書では、当該出力信号電圧をシグナルともいう。)を、ソースフォロワ増幅器を含むバイオセンサ測定装置30に接続される。
【0043】
本実施形態において、FET型センサ素子20Aは、P−型半導体基板1の表面側に所定の間隔をおいて形成された、半導体基板1と逆型であるN+型の拡散領域からなる入力ダイオード部2及び浮遊拡散部3と、リセットダイオード4とを有し、浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間の絶縁膜5上には同じくリセットゲート8を有することにより、浮遊拡散部3のためのリセットトランジスタを構成したものである。まず、入力ゲート6、及び出力ゲート7は入力ダイオード部2から浮遊拡散部3までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部、及び終端部にそれぞれ対応した絶縁膜9上に固定され、両ゲート6及び7を隣接させるため、比較的細幅で高さを持たせた出力ゲート7が、比較的広幅の入力ゲート6の当該隣接側を覆う被着膜10によって、当該入力ゲート6と絶縁された構造となっている。出力ゲート7は底面が半導体基板1上の絶縁膜に接するとともに、その上方部が被着膜10及び保護膜12を貫通し、上端が外装膜13内に位置する高さを有している。
【0044】
このように形成された入力ダイオード2と、入力ゲート6との間の基板表面上の位置、すなわち形成されるべき反転チャネルの入力端に対応した位置には、底面をなす絶縁膜5とともにイオン感応膜となる入力ゲート6側の絶縁膜5と、入力ダイオード2側の被着膜10及び保護膜12の断層とに挟まれて凹部をなすセンシング部9が形成される。
【0045】
次いで、図2を参照して、バイオセンサ測定装置30の構成及び動作について以下説明する。図2において、FET型センサ素子20Aには、直流電圧源21から直流電圧+Vddがリセットダイオード4に印加される。また、コントローラ40は詳細後述するタイミングチャートで変化し所定のパルス幅や周期などを有する所定の各電圧Vin,Vgin,Vsen,Vgout,Vgrを各D/A変換器34乃至38を介してFET型センサ素子20Aに印加する。FET型センサ素子20Aから出力されるセンサ出力電圧Voutは、ソースフォロワ増幅器31を介してA/D変換器32に入力された後、コントローラ40によりクロック周波数やタイミングが制御されるクロック発生器33からのサンプリングクロックを用いてA/D変換される。A/D変換後のデジタルデータはコントローラ40に入力された後、RAM42に格納される。
【0046】
コントローラ40には、コントローラ40の動作プログラムやそれを実行するために必要なデータを格納するROM41と、デジタルデータを格納するRAM42と、デジタルデータをフレキシブルディスクに保存するためのフレキシブルディスクドライブ43とが接続されている。また、コントローラ40には、キーボードインターフェース44を介して操作者が指示コマンドや測定条件などの指示データを入力するためのキーボード45が接続されるとともに、ディスプレイインターフェース46を介して、指示データや測定結果を表示するための液晶ディスプレイ47が接続される。本実施形態では、コントローラ30は、測定されたデジタルデータに基づいて測定波形の比較表示、グラフ表示、テーブル表示などを液晶ディスプレイ47に表示する各種表示機能を有する。
【0047】
さらに、図1(A)のFET型センサ素子20A及びバイオセンサ測定装置30を用いて、イオン濃度を検出する方法について、図3及び図4を参照して以下に説明する。
【0048】
まず、センシング部9内の水溶液に例えば2Vの電圧Vginを印加しセンシング部5の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にする。これがポテンシャル井戸入り口の初期設定値となる。次に、図3に示すように、入力ゲート6に適当な直流電圧Vsen(例えば、2.0V)を印加し、その直下の半導体基板1の表面電位を固定するとともに、電荷供給部としての入力ダイオード2に逆バイアス電圧Vin=5Vを、また、リセットゲート8に所定のパルス幅のリセット電圧Vgrを印加し、浮遊拡散部3の電位の初期値を設定する。このとき、出力ゲート7の電圧Vgoutはゼロボルトである。
【0049】
入力ダイオード2の電圧Vin=5Vは十分な逆バイアスとして、当該入力ゲート内に残留する電荷を図1(B)に示すようにごく僅かに抑え、当該電荷プールの上端は、センシング部9のレベルに届かず、センシング部9以降(図1(B)のセンシング部9の右側)には侵入しない。この場合、水溶液中のマイナスイオン濃度が高くなった場合、センシング部9の表面電位が変化し、当該センシング部9直下の半導体基板1の表面の電位は前記初期設定値b0よりさらに上がり、逆に、マイナスイオン濃度が低くなった場合、又はプラスイオンが高くなった場合には、表面電位はb0より下がる。
【0050】
入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vから1.0Vに下がると、逆バイアスが緩和された分、電荷プール量が多くなり、そのレベルは、この場合センシング部9直下の基板表面電位b0(ポテンシャル井戸入ロレベル)を越え、当該入力ダイオード2からの電荷が入力ゲート6直下のポテンシャル井戸に供給される(図4(A)参照。)。
【0051】
再度、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vに上がると、センシング部9直下の表面電位のレベルで電荷がすりきられ、当該レベル下におけるポテンシャル井戸の容量分だけ電荷が残存、それ以外の電荷は入力ダイオード2を経て、当該ダイオード2に残留する分を残し直流電圧源21に還流する(図4(B)参照。)。この場合も、ポテンシャル井戸に残留した電荷の量はマイナスイオン濃度によって変化し、センシング部9の表面電位の変化量がこの電荷の量に変換される。
【0052】
次に、出力ゲート7に電圧Vgoutが5V印加されると、当該出力ゲート7が開いて、電荷が予めリセット電位に維持された浮遊拡散部3に転送される(図4(C)参照。)。この電荷の転送後、出力ゲート7に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図4(D)参照。)。さらに、浮遊拡散部3は電位が読み取られた後は、リセットゲート8にリセットゲート電圧Vgrを印加し、当該浮遊拡散部3の電荷を、電源電圧+Vddの直流電圧源21に接続されたリセットダイオード4に導き、さらに直流電圧源21に吸収せしめて、初期出力電圧Voutを再設定する。
【0053】
以上説明したように、図4(B)から図4(D)に示したプロセスを繰り返し行うことにより、センシング部9の表面電位の変化量が浮遊拡散部3の電荷量として累積される。そして、浮遊拡散部3に蓄積された電位変化量は出力電圧Voutとして、図2のバイオセンサ測定装置30に入力された後、表示されかつ記録その他の処理に用いられる。
【0054】
本発明において、累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積は、センサを小型化し至便性を高めるためにはより小さい方が好ましく、試料−酵素反応混合物の容量を高め、シグナルのレベルを上げるためにはより大きい方が好ましい。したがって、その使用目的、対象試料種などに応じて、センシング部の表面積を至適化すればよい。一般的に、センシング部の表面積は、5mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.0001mm以上が好ましく、0.005mm以上がより好ましい。
【0055】
本発明は、少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中のCEを定量するシステムを提供する:
(a)累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)CEと反応する酵素。
【0056】
本発明のシステムは上記の本発明のCEの測定方法に使用することができる。従って、本発明のCEの測定方法について上記した各事項を本発明のシステムに適用することができる。例えば、(b)のCEと反応する酵素としてコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]を使用することができる。
【0057】
累積型ISFETをセンサ素子として用いるバイオセンサ測定機によって、CEおよびCEと反応する酵素の反応によって生じるイオン濃度変化を測定することができる。図3に例示的なバイオセンサ測定機のブロック図を示す。図3において、測定機部分を点線で示す。測定機の構成は以下のとおりである。2:センサ(1)からの信号を増幅する;3:アナログ信号をデジタル信号に変換する;4:デジタル信号を記憶する;5:デジタル信号をグラフや表に表示する;6:比較のため過去のデータと重ねて表示する;7:必要に応じて表示データを取り出す;8:素子や回路に電源を供給する;9:3での信号を受けて測定のタイミングをフィードバックする;10:センサ電圧を付加する;11:パルス幅や電圧などの測定条件を設定する;12:累積測定の指令を行う;13:測定データを保存する;14:測定データを印刷する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0059】
[試薬組成物の調製]
下記試薬組成物を調製した。
1mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)
13.3U/mL コレステロールエステラーゼ
(東洋紡績製:COE−311、0.1mg/mL)
【0060】
[測定試料の調製]
下記試料溶液を調製した。
1mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)
0〜300mg/dL コレステロールリノレート(ナカライテスク社製)
【0061】
[対照用試薬の調製]
下記試薬を調製した。
1mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)
【0062】
[使用装置]
累積型ISFETセンサ(AMISセンサー、バイオエックス社製)を利用した測定装置(バイオセンサ開発用測定装置、バイオエックス社製)を用いた。装置構成は、先行技術(特許文献9)に基づいた構成であり、図2にそのブロック図を示した。
ISFETのゲート上のイオン感応膜は、五酸化タンタルを使用した。センシング部の表面積は、0.05mmとした。
【0063】
[測定条件]
以下の測定条件にて、試料中のコレステロールエステル量を測定した。
センサのセンシング部Aに、試薬組成物を18μL添加し、センシング部B(対照用)にコレステロールエステラーゼを含まない対照用試薬を18μL添加した。37℃で5分間の予備加温を実施し、温度を安定化した後、50秒間シグナルを計測し、センサの状態を確認した。そして、センシング部AおよびBの試薬に、コレステロールエステル濃度を0〜300mg/dLに調製した測定試料を各2μL添加、混合し、シグナルが安定した後(1〜2分後)37℃にてシグナル(対照用のセンシング部Bからのシグナルと比較してのシグナルの減少)を5秒毎に4〜5分間計測した。累積型ISFETセンサの累積回数は、10回で設定した。
【0064】
[実施例1]
コレステロールリノレート濃度50mg/dL、100mg/dL、300mg/dLの各測定試料について計測を実施し、各々のシグナル減少のタイムコースを測定した。結果を図5に示す。試薬中のコレステロールエステラーゼが試料中のコレステロールエステルと反応することにより、イオン濃度が変化し、コレステロールエステル濃度に応じたシグナル減少が見られ、良好に測定されることがわかる。
【0065】
[実施例2]
実施例1と同様の方法にて、コレステロールリノレート濃度0、50、75、100、150、200、300mg/dLの各測定試料について計測を実施し、各々のシグナル増加を約4分間測定、1分間当たりのシグナルの変化量をした。シグナル減少速度の計測データより、コレステロールエステル濃度と計測値の直線性をみた。結果を図6に示す。コレステロールエステル濃度と計測値との間に、非常に良好な相関が見られ、本発明の方法にてコレステロールエステル量が良好に測定されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
上述したように、本発明により、従来からの方法、システムと対比して、試料中のコレステロールエステルの新規な定量方法、およびそのためのシステムを提供することが達成された。特に、コレステロールエステルを単一の酵素で測定できる方法、およびそのためのシステムを提供することが達成された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(A)は本発明に一実施形態に係るFET型センサ20の構成を示す縦断面図であり、(B)は図1(A)のFET型センサ20のエネルギー準位を示す模式図である。
【図2】図1(a)のFET型センサ20のセンサ出力信号を測定するためのバイオセンサ測定装置30の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のバイオセンサ測定装置30により図1(A)のFET型センサ20の出力特性を測定するときの動作タイミングチャートである。
【図4】図1(A)のFET型センサ20の動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図1(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【図5】本発明の方法(実施例1)における、試料中コレステロールエステル測定のタイムコースを示す。
【図6】本発明の方法(実施例2)における、コレステロールエステル希釈直線性を示す。
【符号の説明】
【0068】
1…半導体基板、
2…入力ダイオード、
3…浮遊拡散部、
4…リセットダイオード、
5…絶縁膜、
6…入力ゲート、
7…出力ゲート、
8…リセットゲート、
9…センシング部、
10…被着膜
11…マスク層、
12…保護膜、
13…外装膜、
20…FET型センサ、
20A…FET型センサ素子、
21…直流電圧源、
30…バイオセンサ測定装置、
31…ソースフォロワ増幅器、
32…A/D変換器、
33…クロック発生器、
34乃至38…D/A変換器、
40…コントローラ、
41…ROM、
42…RAM、
43…フレキシブルディスクドライブ、
44…キーボードインターフェース、
45…キーボード、
46…ディスプレイインターフェース、
47…液晶ディスプレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を包含することを特徴とする、コレステロールエステルの測定方法:
(1)試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を反応させる工程;
(2)反応によって生じた有機酸に基づくイオンの濃度変化を累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いて検出する工程、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さとポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(3)検出されたイオン濃度変化に基づいて試料中のコレステロールエステルを定量する工程。
【請求項2】
反応によって生じたイオンが水素イオンである、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
コレステロールエステルと反応する酵素が単一の酵素からなる、請求項1記載の測定方法。
【請求項4】
コレステロールエステルと反応する酵素がコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]活性を有するタンパク質である、請求項3記載の測定方法。
【請求項5】
コレステロールエステルと反応する酵素が反応混合物中で遊離状態で存在する、請求項1記載の測定方法。
【請求項6】
50mg/dL以上の濃度で試料中に含有されるコレステロールエステルを測定することができる、請求項1記載の測定方法。
【請求項7】
バッファー成分の存在下で試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を反応させ、バッファー成分の反応混合物中の濃度が0.5〜5mMである、請求項1記載の測定方法。
【請求項8】
累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積が1mm以下である、請求項1記載の測定方法。
【請求項9】
試料中のコレステロールエステルにコレステロールエステルと反応する酵素を30μL以下の容量の反応混合物中で反応させる、請求項1記載の測定方法。
【請求項10】
少なくとも下記(a)および(b)の要素が含まれる、試料中のコレステロールエステルを定量するシステム:
(a)累積型イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサ、ここで累積型ISFETセンサは、センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後に蓄積する電荷量を電位変化として計測するようにしたISFETセンサである;および
(b)コレステロールエステルと反応する酵素。
【請求項11】
(b)のコレステロールエステルと反応する酵素がコレステロールエステラーゼ[EC3.1.1.13]活性を有するタンパク質である、請求項10記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−216004(P2008−216004A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52956(P2007−52956)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(500158096)
【出願人】(301051530)株式会社バイオエックス (4)