説明

バイオマスの処理方法

【課題】バイオマスの処理に用いられるイオン液体の回収率を向上することができ、回収したイオン液体を再利用するバイオマスの処理方法を提供すること。
【解決手段】セルロース系バイオマスからエタノールを製造する工程では、セルロース系バイオマスに対して前処理工程を行った後に糖化処理工程を実施する。前処理工程は、セルロース系バイオマスを溶解させた後に貧溶媒を用いて析出バイオマスを析出させる溶解析出工程S1と、第1の分離工程S2と、析出バイオマスを粉砕する粉砕工程S3と、析出バイオマスを貧溶媒に向流接触させる向流接触式溶出工程S4と、第2の分離工程S5と、蒸留工程S6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエタノール等の原料となるバイオマスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から再生可能エネルギーであるバイオマスの活用が注目され、特に、セルロース系バイオマスからエタノールを製造する方法やバイオマスを溶解し化成品等を製造する方法の開発が進められている。エタノールは、セルロース系バイオマスを糖化してグルコースやキシロース等の単糖を生成し、この単糖に発酵酵素を作用させることにより生成される。セルロース系バイオマスから単糖を高収率で得るには糖化処理を行う際の前処理により、セルロース系バイオマスを糖化しやすい状態に変化させている。
セルロースを容易に溶解させる溶媒として、最近ではイオン液体を用いる技術が提案されている(特許文献1、非特許文献1、および非特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、イミダゾリウム系イオン液体でセルロースを溶解し、このセルロース含有イオン液体を水と混合させることで、セルロースを再生する技術が記載されている。
非特許文献1には、木粉をイオン液体で溶解し、アセトンと水の混合溶液によりセルロースの主成分を除去し、リグニンを析出させる技術が記載されている。
非特許文献2には、セルロースをイオン液体で溶解し、水やメタノールを用いてセルロースを析出させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−506401号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rodersら、グリーンケミストリー(Green Chem.)、2009年、第11巻、p.646−655
【非特許文献2】Dadiら、バイオテクノールとバイオエンジニアリング(Biotechnol. Bioeng.)、2006年、第95巻、p.904−910
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、非特許文献1および2で使用されるイオン液体は高価であるため、再利用することが求められているが、イオン液体を十分な回収率で得ることができない。
本発明の目的は、バイオマスの処理に用いられるイオン液体の回収率を向上することができ、回収したイオン液体を再利用するバイオマスの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバイオマスの処理方法は、セルロース系バイオマスをイオン液体に溶解させ、さらに第1の貧溶媒を混合してバイオマスを析出させる溶解析出工程と、前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液から前記イオン液体を回収する第1のイオン液体回収工程と、前記溶解析出工程で析出させた析出バイオマスに包含されている前記イオン液体を第2の貧溶媒に溶出させて前記イオン液体を回収する第2のイオン液体回収工程と、を備え、前記第1のイオン液体回収工程および前記第2のイオン液体回収工程で回収した前記イオン液体を前記溶解析出工程で再利用することを特徴とする。
【0008】
この発明は、セルロース系バイオマスを糖化する糖化処理工程の前処理や、セルロース系バイオマスを化成品用の原料として使用する際に実施される処理である。具体的には、セルロース系バイオマスに対して溶解析出工程を実施し、溶解析出工程で使用するイオン液体を回収して再利用するものである。溶解析出工程により得られた析出バイオマスは、処理前のセルロース系バイオマスとは結晶状態が変化しており、その後の工程で処理しやすい原料となっている。
第1のイオン液体回収工程は、溶解析出工程で使用されたイオン液体と第1の貧溶媒との混合溶液から、イオン液体を回収する工程である。第2のイオン液体回収工程は、溶解析出工程で得られた析出バイオマスに包含されているイオン液体を回収する工程である。溶解析出工程で得られた析出バイオマスにはイオン液体が包含されているため、このイオン液体をも回収することで、全体としてのイオン液体の回収率を向上することができる。回収されたイオン液体は、溶解析出工程で再利用されるので、少ない資源で処理を実施することができ、環境面および経済性に優れている。
【0009】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記第2のイオン液体回収工程は、前記析出バイオマスを前記第2の貧溶媒に向流接触させ、前記析出バイオマスに包含されている前記イオン液体を前記第2の貧溶媒に溶出させる向流接触式溶出工程を備えることが好ましい。
【0010】
この発明では、向流接触式溶出工程により析出バイオマスを第2の貧溶媒に向流接触させ、析出バイオマスに包含されたイオン液体を第2の貧溶媒に溶出させる。向流接触させることで、析出バイオマスの表面全体が第2の貧溶媒に満遍なく接触し、より多くのイオン液体が第2の貧溶媒に溶出する。したがって、イオン液体の回収率を向上させることができる。
また、向流接触を用いれば、第2の貧溶媒の量が少なくても析出バイオマスに包含されたイオン液体を十分に溶出させることができる。したがって、第2の貧溶媒の使用量を低減させることができるとともに、第2の貧溶媒と析出バイオマスとを分離させる工程においてエネルギー量を低減させることができる。すなわち、経済性に優れている。
【0011】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記第2のイオン液体回収工程は、前記析出バイオマスを粉砕する粉砕工程を備え、前記粉砕工程の後に、粉砕された前記析出バイオマスを前記第2の貧溶媒に接触させて前記イオン液体を溶出させることが好ましい。
【0012】
この発明では、粉砕工程により析出バイオマスが粉砕されるため、第2の貧溶媒に接触する析出バイオマスの表面積が大きくなる。このため、析出バイオマスに包含されたより多くのイオン液体が第2の貧溶媒に接触し、より多くのイオン液体が第2の貧溶媒に溶出する。また、粉砕することで、析出バイオマスの塊中に包含されるイオン液体が削減されるため、析出バイオマスに含まれるイオン液体が減少する。これらのイオン液体は第2の貧溶媒に溶出して回収される。したがって、イオン液体の回収率を向上させることができる。
【0013】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記溶解析出工程は、前記セルロース系バイオマスを前記イオン液体に溶解させる溶解工程と、前記溶解液を所定形状の複数の粒子に成型する成型工程と、前記複数の粒子に前記第1の貧溶媒を添加してバイオマスを析出させる析出工程と、を有することが好ましい。
【0014】
この発明では、バイオマスを析出させる前に、セルロース系バイオマスを所定形状に成型しているため、析出工程により析出したバイオマスは、粒度が均一化される。このため、後の工程において濾過によりセルロース系バイオマスと溶媒とに分離する際、目詰まりを防止することができ、濾過を容易に行うことができる。
【0015】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記第1のイオン液体回収工程は、前記溶解析出工程で得られる前記析出バイオマスと、前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液と、を分離する第1の分離工程と、前記第1の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液を蒸留し、再生イオン液体および第1の再生貧溶媒を生成する蒸留工程と、を備え、前記蒸留工程で生成された前記再生イオン液体を、前記溶解析出工程におけるイオン液体として再利用することが好ましい。
【0016】
溶解析出工程では、イオン液体と第1の貧溶媒との混合溶液中に析出バイオマスが析出する。
この発明では、析出バイオマスとイオン液体および第1の貧溶媒の混合溶液とを分離し、分離した混合溶液を蒸留することにより、再生イオン液体と再生貧溶媒とを生成する。そして、再生イオン液体を溶解析出工程のイオン液体として再利用する。
このようにイオン液体を再利用するため、イオン液体にかかるコストを大幅に低減することができ、経済性に優れる。
【0017】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記蒸留工程で生成された前記第1の再生貧溶媒を、前記第1の貧溶媒または前記第2の貧溶媒として再利用することが好ましい。
【0018】
この発明では、上述した蒸留工程により得られた第1の再生貧溶媒を溶解析出工程の第1の貧溶媒として再利用するか、第2のイオン液体回収工程の第2の貧溶媒として再利用することができる。
このように、貧溶媒を再利用するため、貧溶媒にかかるコストを大幅に低減することができ、経済性に優れる。
【0019】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記第2のイオン液体回収工程は、包含していた前記イオン液体が除去された前記析出バイオマスと、前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液と、に分離する第2の分離工程を備え、前記蒸留工程は、前記第2の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液を蒸留し、再生イオン液体および第1の再生貧溶媒を生成することが好ましい。
【0020】
第2の分離工程は、析出バイオマスと第2の貧溶媒とを接触させた後に行われる。析出バイオマスと第2の貧溶媒との接触により、析出バイオマスに包含されているイオン液体が第2の貧溶媒に溶出する。第2の分離工程では、析出バイオマスと、イオン液体および第2の貧溶媒の混合溶液とを分離する工程である。蒸留工程は、第2の分離工程により分離されたイオン液体および第2の貧溶媒の混合溶液を蒸留することにより、再生イオン液体と第1の再生貧溶媒とを生成する。そして、再生イオン液体を溶解析出工程のイオン液体として再利用する。
なお、蒸留工程は、上述した第1の分離工程により分離されたイオン液体および第1の貧溶媒の混合溶液とともに、イオン液体および第2の貧溶媒の混合溶液を蒸留させてもよいし、各混合溶液を別々の工程で蒸留させてもよい。
このように、一度析出した析出バイオマスに包含されたイオン液体をも回収するため、イオン液体の回収率を向上させることができる。したがって、回収したイオン液体を再利用することができるため、イオン液体にかかるコストを大幅に低減することができ、経済性に優れる。
【0021】
本発明のバイオマス処理方法において、前記第2の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液を分離膜に通して、前記イオン液体の含有量が増加した混合溶液と第2の再生貧溶媒とに分離する膜分離工程をさらに備え、前記イオン液体の含有量が増加した混合溶液を前記蒸留工程に供給し、前記第2の再生貧溶媒を前記第1の貧溶媒または前記第2の貧溶媒として再利用することが好ましい。
【0022】
この発明では、第2の分離工程で分離されたイオン液体および第2の貧溶媒の混合溶液を分離膜によりさらに分離することで、第2の再生貧溶媒と、イオン液体の含有量が増加した混合溶液と、が生成される。第2の再生貧溶媒は、第1の貧溶媒または第2の貧溶媒として再利用できる。また、イオン液体の含有量が増加した混合溶液は蒸留工程に供給されて、再生イオン液体と第1の再生貧溶媒とが生成される。このような膜分離工程を行うことにより、再生イオン液体および再生貧溶媒の回収率を向上させることができる。
【0023】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記溶解析出工程で使用されたイオン液体の回収率が90%以上であることが好ましい。
【0024】
この発明では、溶解析出工程で使用したイオン液体を90%以上の高回収率で回収することができるため、イオン液体の大部分を再利用することができる。また、イオン液体の回収率のより好ましい範囲は99%以上である。
したがって、イオン液体にかかるコストを大幅に低減することができ、経済性に優れる。また、材料自体の消費量を低減することができるため、環境保護の観点においても優れている。
【0025】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記イオン液体は、カルボン酸系またはリン酸系の親水性イオン液体であることが好ましい。
【0026】
この発明では、イオン液体としてカルボン酸系またはリン酸系の親水性イオン液体を用いる。これによれば、セルロース系バイオマスを容易に溶解させることができ、セルロース系バイオマスの結晶状態を簡単に変化させることができる。
【0027】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記溶解析出工程で使用する前記イオン液体に非プロトン性有機溶媒を添加することが好ましい。
【0028】
この発明では、イオン液体に非プロトン性有機溶媒を添加することにより、イオン液体に対するセルロース系バイオマスの溶解度が大きい場合でも溶液が高粘度化することを抑制できる。したがって、大量のセルロース系バイオマスを処理する場合でも、攪拌等の処理をスムーズに行うことができるため、十分に反応させることができ、量産にも対応することができる。
【0029】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記非プロトン性有機溶媒の添加量は、前記イオン液体に対して3倍重量未満であることが好ましい。
この発明では、イオン液体に対する非プロトン性有機溶媒の添加量が3倍重量以上になると、イオン液体によるバイオマス溶解性能が低下するおそれがある。
【0030】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記イオン液体に対する前記セルロース系バイオマスの溶解度は、50%未満であることが好ましい。
この発明では、セルロース系バイオマスの溶解度が50%以上となると、セルロース系バイオマスの結晶状態が変化しないおそれがあり、後の工程で処理しやすい原料を得ることができない可能性がある。
【0031】
本発明のバイオマスの処理方法において、前記第2のイオン液体回収工程の後に前記析出バイオマスを糖化する糖化処理工程を備えることが好ましい。
【0032】
この発明では、析出バイオマスに対して糖化処理工程を実施することでエタノールを製造することができる。すなわち、上述した構成により、セルロース系バイオマスの結晶状態が糖化しやすい結晶状態に変化しているため、糖化処理工程を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるバイオマスの前処理方法を示すフロー図。
【図2】前記実施形態における向流接触式溶出装置を示す概略断面図。
【図3】本発明の第2実施形態にかかるバイオマスの前処理方法を示すフロー図。
【図4】本発明の第3実施形態にかかるバイオマスの前処理方法を示すフロー図。
【図5】本発明の第4実施形態にかかる向流接触式溶出装置を示す概略断面図。
【図6】実施例におけるバイオマスのX線回折による分析結果を示すグラフ。
【図7】実施例における処理前と処理後のイオン液体[Cmim]OAcの組成を示すHNMRスペクトル。
【図8】実施例におけるバガスのX線回折による分析結果を示すグラフ。
【図9】実施例における処理前と処理後のイオン液体[Cmim]OAcの組成を示す13CNMRスペクトル。
【図10】実施例における処理前と処理後のイオン液体[Cmim]Clの組成を示すHNMRスペクトル。
【図11】実施例におけるバガスのX線回折による分析結果を示すグラフ。
【図12】実施例におけるバガスのX線回折による分析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態を説明する。
セルロース系バイオマスからエタノールを製造する工程では、セルロース系バイオマスに対して前処理工程を行った後に糖化処理工程を実施する。各工程について以下に詳述する。
[1.原料]
エタノールの原料として用いられるバイオマスは、ヘミセルロースとセルロースを含むセルロース系バイオマスであり、具体的には、紙資源や木質系および草本系バイオマス等である。これらの中でも草本系バイオマス(ソフトバイオマス)が好ましく、例えば、稲、麦などの藁類、籾殻、バガス(サトウキビの搾りかす)、おからなどの食料廃棄物、雑草類、エリアンサス等のエネルギー作物を例示できる。
【0035】
[2.前処理工程]
前処理工程では、後の糖化処理工程でセルロース系バイオマスを糖化しやすい結晶状態に変化させる。
前処理工程は、図1に示すように、溶解析出工程S1と、第1の分離工程S2と、粉砕工程S3と、向流接触式溶出工程S4と、第2の分離工程S5と、蒸留工程S6と、を備えている。なお、第1実施形態では、第1の分離工程S2が本発明の第1のイオン液体回収工程に相当し、粉砕工程S3、向流接触式溶出工程S4、および第2の分離工程S5が本発明の第2のイオン液体回収工程に相当する。
【0036】
[2−1.溶解析出工程]
溶解析出工程S1では、まず、セルロース系バイオマスA1をイオン液体B1に溶解させる。そして、第1の貧溶媒C1をさらに加えて、析出バイオマスA2を析出させる。析出バイオマスA2は、塊状の巨視的な形態で析出する。このとき、析出バイオマスA2の結晶形態は、セルロース系バイオマスA1とは異なる結晶形態に変化し、後に実施される糖化処理工程で糖化されやすい状態となっている。
【0037】
イオン液体B1としては、親水系イオン液体が用いられる。親水系イオン液体のカチオンとしては、ヘテロ環オニウム系カチオン、鎖状4級アンモニウム系カチオンが挙げられる。
ヘテロ環オニウム系カチオンの具体的な例は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムや、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムである。当該カチオンを含むイオン液体としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセタート(1-Ethyl-3-methylimidazolium acetate)等のカルボン酸系、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(1-Butyl-3-methylimidazolium chloride)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ジエチルホスフェート(1-Ethyl-3-methylimidazolium diethyl phosphate)等のリン酸系が挙げられる。
鎖状4級アンモニウム系カチオンの具体的な例は、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウム等がある。当該カチオンを含んだイオン液体として、例えば、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−メトキシエチルアンモニウムクロライド(N,N-Diethyl-N-methyl-N-2-methoxyethylammonium chloride)が挙げられる。
これらの中でも、カルボン酸系の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセタートを用いることが好ましい。
【0038】
また、イオン液体B1に共溶媒を添加してもよい。共溶媒としては、非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましく、例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
共溶媒の添加量はイオン液体に対して3倍重量未満、より好ましくは2.5倍重量以下とする。共溶媒の添加量がイオン液体に対して3倍重量以上になると、イオン液体によるバイオマス溶解性能が低下するおそれがある。
イオン液体B1を単独で用いた場合は、バイオマスの溶解度を20%以上にすると溶液が高粘度となり、攪拌が難しくなることがある。共溶媒を添加すると、溶液が高粘度化することを抑制することができ、バイオマスの溶解度が20%を超えていても溶液の低粘度化を図ることができる。なお、バイオマスの溶解度の範囲は50%未満とする。バイオマスの溶解度が50%以上になると、バイオマスの結晶構造が後の糖化工程で糖化しやすい結晶構造に変化しないため好ましくない。
第1の貧溶媒C1としては、水、メタノール、エタノール、水とアセトンの混合溶液が挙げられる。
【0039】
[2−2.第1の分離工程]
第1の分離工程S2では、溶解析出工程S1により得られた溶液を濾過することにより、析出バイオマスA2と、イオン液体B1および第1の貧溶媒C1からなる混合溶液M1と、に分離する。分離された析出バイオマスA2は粉砕工程S3へ供給され、混合溶液M1は蒸留工程S6へ供給される。
【0040】
[2−3.粉砕工程]
粉砕工程S3では、第1の分離工程S2で分離された析出バイオマスA2を粉砕する。析出バイオマスA2を粉砕することにより、析出バイオマスA2の表面積が大きくなり、後の向流接触式溶出工程S4において、より多くの第2の貧溶媒が析出バイオマスA2に接触する。特に、析出バイオマスA2の粉砕後の大きさは、最大径が2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下である。このように粉砕することにより、析出バイオマスA2に含まれるより多くのイオン液体が第2の貧溶媒に溶出し、イオン液体の回収率を向上させることができる。
粉砕方法としては、特に限定されない。例えば、第1の分離工程S2で得られた析出バイオマスA2を粉砕機に入れて微粉化する機械的粉砕の方法を用いることができる。
【0041】
[2−4.向流接触式溶出工程]
向流接触式溶出工程S4は、図2に示す向流接触式溶出装置50により実施される。
向流接触式溶出装置50は、図2に示すように、原料供給部51と、本体部52と、原料排出部53と、を備えている。
原料供給部51は、原料を投入するホッパー511と、投入された原料を本体部52に供給するポンプ部512と、原料流通管513と、流通弁514と、を有している。
ポンプ部512は、投入された原料を加圧した状態で本体部52に供給する。ポンプ部512としては、例えば、ピストンポンプやスラリーポンプを用いることができる。
ポンプ部512により押し出された原料は、原料流通管513を通って本体部52に供給される。流通弁514は、原料流通管513に取り付けられ、原料流通管513の開口を開閉することにより、原料の供給の調整を行うことができる。
【0042】
本体部52は、本体部52の全体を構成する円筒状の管状部521と、管状部521の内部に軸方向に沿って設けられたスクリュー522と、貧溶媒を供給する貧溶媒供給管523と、貧溶媒を排出する貧溶媒排出管524と、を有している。
スクリュー522は、管状部521の内部に軸方向に沿って設けられた軸と、この軸の周囲に取り付けられた羽部と、を有する。スクリュー522が回転することにより、管状部521内に供給された析出バイオマスA2および第2の貧溶媒D1を攪拌するとともに、析出バイオマスA2を管状部521の一方の端部521Aから他方の端部521Bにスクリュー移動させる。
【0043】
貧溶媒供給管523は、第2の貧溶媒D1を本体部52に供給する。貧溶媒供給管523には、供給弁523Aが取り付けられ、供給量を調節できるようになっている。
貧溶媒排出管524は、管状部521の一方の端部521Aに到達した第2の貧溶媒D1を排出する。貧溶媒排出管524には、排出弁524Aが取り付けられ、排出量を調節できるようになっている。
【0044】
原料排出部53は、本体部52の他方の端部521B側に設けられ、本体部52内のスラリー状の析出バイオマスA2を排出する。原料排出部53には、排出弁531が取り付けられ、排出量の調整を行うことができる。
【0045】
次に、上述の向流接触式溶出装置50による向流接触式溶出工程S4について説明する。
上述の粉砕工程S3で粉砕した析出バイオマスA2がホッパー511に投入されると、ポンプ部512により析出バイオマスA2が本体部52に供給される。
本体部52では、スクリュー522の回転に伴い、析出バイオマスA2を含むスラリーが管状部521の一方の端部521Aから他方の端部521Bにスクリュー移送される。一方、貧溶媒供給管523から供給された第2の貧溶媒D1は、管状部521の他方の端部521Bから一方の端部521Aに向かって供給される。これにより、析出バイオマスA2と第2の貧溶媒D1とが向流接触し、析出バイオマスA2に含まれるイオン液体B1が第2の貧溶媒D1に溶出する。そして、イオン液体B1を含有する第2の貧溶媒D1(イオン液体含有貧溶媒D2)は、貧溶媒排出管524から排出される。
【0046】
ここで使用される第2の貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、水とアセトンの混合溶液が挙げられるが、上述した第1の貧溶媒と同じものを用いることが好ましい。第1の貧溶媒と同じものを用いることにより、後の蒸留工程S6において混合溶液M1と混合溶液M2とを混合して一度に処理を行うことができる。
【0047】
また、析出バイオマスA2は、管状部521の他方の端部521Bに達すると、原料排出部53から排出される。ここで、イオン液体B1が除去された析出バイオマスA2を析出バイオマスA3とする。
一方、向流接触式溶出装置50の貧溶媒排出管524から排出されたイオン液体含有貧溶媒D2は、溶解析出工程S1の第1の貧溶媒C1として再利用される。なお、溶解析出工程S1では、第1の貧溶媒C1とイオン液体B1とを混合させるため、第2の貧溶媒D1にイオン液体B1が溶出していても問題ない。
【0048】
[2−5.第2の分離工程]
第2の分離工程S5では、向流接触式溶出装置50の原料排出部53から排出された析出バイオマスA3を含む溶液(スラリー)を濾過することにより、析出バイオマスA3と、イオン液体B1および第2の貧溶媒D1からなる混合溶液M2と、に分離する。
分離された析出バイオマスA3は、酵素糖化用原料として糖化処理工程へ供給される。
一方、分離された混合溶液M2は、蒸留工程S6へ供給される。
【0049】
[2−6.蒸留工程]
蒸留工程S6では、第1の分離工程S2で得られた混合溶液M1と第2の分離工程S5で得られた混合溶液M2とを混合し、この混合溶液を蒸留することにより、イオン液体と貧溶媒とに分離する。一般的に用いられている蒸留装置を用いることで簡単に分離することができる。なお、この混合溶液の蒸留は、イオン液体と貧溶媒を分離することができるのであれば、常圧蒸留、減圧蒸留のいずれでも行うことができるが、操作温度を低くできるという点で減圧蒸留を行うことが好ましい。
ここで生成したイオン液体を再生イオン液体B2、貧溶媒を第1の再生貧溶媒C2とする。再生イオン液体B2は、溶解析出工程S1においてイオン液体B1と混合され、再利用される。第1の再生貧溶媒C2は、向流接触式溶出工程S4において第2の貧溶媒D1と混合され、再利用される。
【0050】
ここで、再生イオン液体B2を再利用して上述の工程を実施する場合、上述の各工程で記載したイオン液体B1には、再生イオン液体B2も含まれている。したがって、以降の説明では、イオン液体B1と再生イオン液体B2とを含むイオン液体をイオン液体Bと表記することもある。また、第1の再生貧溶媒C2を再利用して上述の工程を実施する場合、上述の各工程で記載した第2の貧溶媒D1には、第1の再生貧溶媒C2も含まれている。さらに、向流接触式溶出工程S4で得られたイオン液体含有貧溶媒D2を再利用して上述の工程を実施する場合、上述の各工程で記載した第1の貧溶媒C1には、イオン液体含有貧溶媒D2も含まれている。
【0051】
[3.糖化処理工程]
第2の分離工程S5により得られた析出バイオマスA3に対して、酵素を用いた酵素糖化処理を実施して単糖に変換する。
この後、得られた単糖を微生物を用いて発酵させることによってエタノールを生産する。
【0052】
[4.第1実施形態の作用効果]
以上より、第1実施形態では以下の作用効果を奏することができる。
(1)上記実施形態では、溶解析出工程S1で析出した析出バイオマスA2を最大径2mm以下に粉砕し、粉砕した析出バイオマスA2を向流接触式溶出装置50に供給して第2の貧溶媒D1と向流接触させる。
析出バイオマスA2を最大径2mm以下に粉砕するため、向流接触式溶出装置50で第2の貧溶媒D1と向流接触させる際に、析出バイオマスA2に包含されたイオン液体Bが第2の貧溶媒D1に溶出しやすく、包含されるイオン液体量が少なくなる。したがって、イオン液体Bが大量に溶出した第2の貧溶媒D1から、イオン液体Bの回収率を向上させることができる。
【0053】
(2)また、向流接触式溶出装置50により、析出バイオマスA2と第2の貧溶媒D1とを向流接触させているため、析出バイオマスA2の表面全体が第2の貧溶媒D1とよく接触し、析出バイオマスA2に包含されたイオン液体Bが第2の貧溶媒D1に溶出しやすい。したがって、イオン液体Bの回収率を向上させることができる。
(3)また、向流接触により、第2の貧溶媒D1が少量であっても、析出バイオマスA2中のイオン液体Bを十分に溶出させることができる。したがって、第2の貧溶媒D1の使用量を低減させることができるとともに、後の蒸留工程S6では少量の溶液を蒸留すればよいため、エネルギー効率に優れている。
【0054】
(4)また、上記実施形態では、第1の分離工程S2で得られた混合溶液M1を、蒸留工程S6において再生イオン液体B2と第1の再生貧溶媒C2に分離し、再生イオン液体B2を溶解析出工程S1のイオン液体B1と混合して使用し、第1の再生貧溶媒C2を向流接触式溶出工程S4の第2の貧溶媒D1と混合して使用している。
この第1の分離工程S2より得られた混合溶液M1には、溶解析出工程S1で使用されたイオン液体B1の大部分が含まれている。したがって、この混合溶液M1を蒸留工程S6で蒸留することにより、大部分のイオン液体B1を再生イオン液体B2として回収し、再利用することができる。
【0055】
(5)さらに、上記実施形態では、第2の分離工程S5で得られた混合溶液M2を上述の混合溶液M1と混合し、蒸留工程S6によって再生イオン液体B2と第1の再生貧溶媒C2とを生成している。
このように、各工程で生成した混合溶液を混合し、まとめて蒸留工程S6を実施することができるので、別々の処理を行うなどの手間を省くことができ、回収効率に優れている。
【0056】
(6)また、向流接触式溶出装置50のスクリュー522により管状部521内を攪拌するため、析出バイオマスA2と第2の貧溶媒D1との接触が多くなり、溶出反応が促進される。すなわち、析出バイオマスA2に含まれるイオン液体B1が第2の貧溶媒D1により多く溶出するので、第2の分離工程において、イオン液体B1の回収率を向上させることができる。
【0057】
<第2実施形態>
第2実施形態では、セルロール系バイオマスに対する前処理工程の内容が第1実施形態とは異なる。
第2実施形態の前処理工程は、図3に示すように、溶解工程S21と、成型工程S22と、析出工程S23と、第1の分離工程S24と、向流接触式溶出工程S25と、第2の分離工程S26と、蒸留工程S27と、を備えている。なお、第2実施形態では、第1の分離工程S24が本発明の第1のイオン液体回収工程に相当し、向流接触式溶出工程S25および第2の分離工程S26が本発明の第2のイオン液体回収工程に相当する。
【0058】
溶解工程S21では、セルロース系バイオマスA1をイオン液体B1に溶解させる。このとき、セルロース系バイオマスA1の量が多いほど高粘度な溶解液となる。イオン液体B1は、第1実施形態で使用したものと同様のものを使用することができる。
成型工程S22では、セルロース系バイオマスA1の溶解液を、多孔板が設置された押出器に詰め、溶解液を押し出す際に所定の長さに切断しながら第1の貧溶媒C1の入った析出槽に押し出す。多孔板の孔径および粒子の長さは、セルロース系バイオマスA1の種類に応じて適宜調整すればよい。なお、セルロース系バイオマスA1の溶解液が高粘度であるため、押出成型が可能となっている。
析出工程S23は、上述したように、所定の長さに切断された粒子が第1の貧溶媒C1の入った析出槽に押し出された時点から始まっており、析出バイオマスA2を析出させる。
【0059】
この後、第1実施形態と同様に第1の分離工程S24では、溶液を濾過することで、析出バイオマスA2とイオン液体B1および第1の貧溶媒C1からなる混合溶液M1とに分離する。分離された析出バイオマスA2は向流接触式溶出工程S25へ供給され、混合溶液M1は蒸留工程S27へ供給される。
この後の向流接触式溶出工程S25、第2の分離工程S26、および蒸留工程S27は第1実施形態と同様である。
【0060】
以上の第2実施形態では、第1実施形態の作用効果(2)〜(6)と、以下の作用効果を奏することができる。
(7)上記第2実施形態では、成型工程S22によりセルロース系バイオマスA1が所定の長さの粒子状に成型され、析出工程S23では所定の長さの粒子状の状態で析出バイオマスA2が析出する。したがって、析出バイオマスA2の粒度が均一となるため、その後の工程で実施する濾過において目詰まりを防止することができ、濾過を容易に行うことができる。
(8)また、析出バイオマスA2の粒度が均一であるため、向流接触式溶出工程S25における洗浄操作の均一化を図ることができ、運転時間の管理を容易に行うことができる。
【0061】
(9)初期のバイオマス濃度(=(バイオマスの質量)/(バイオマスの質量+イオン液体の質量+共溶媒の質量)×100)が高濃度(例えば、15質量%以上)であると、溶解工程S21で得られる溶解液が高粘度になるため、上記第2実施形態は、このような場合に特に有効である。すなわち、成型工程での成型が容易となる。
【0062】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第2の分離工程S26で分離された混合溶液M2を処理する膜分離工程を備える点で、第1実施形態および第2実施形態とは異なる。なお、第3実施形態の膜分離工程は、第1実施形態および第2実施形態のいずれにも適用することができる。また、第3実施形態では、第1の分離工程S24が本発明の第1のイオン液体回収工程に相当し、向流接触式溶出工程S25、第2の分離工程S26、および膜分離工程S28が本発明の第2のイオン液体回収工程に相当する。
第3実施形態の前処理工程は、図4に示すように、溶解工程S21と、成型工程S22と、析出工程S23と、第1の分離工程S24と、向流接触式溶出工程S25と、第2の分離工程S26と、蒸留工程S27と、膜分離工程S28と、を備えている。膜分離工程S28以外の工程は、上述した第2実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0063】
膜分離工程S28では、第2の分離工程S26で分離された混合溶液M2を分離膜に通すことにより、イオン液体B1の含有量が増加した混合溶液M3と、第2の再生貧溶媒C3と、に分離する。
分離された第2の再生貧溶媒C3は再利用され、第2の貧溶媒D1とともに向流接触式溶出工程S25へ供給される。
一方、分離された混合溶液M3は、蒸留工程S27へ供給される。
以上の第3実施形態では、第2実施形態と同様の作用効果と、以下の作用効果を奏することができる。
(10)第2の分離工程S26で分離された混合溶液M2を分離膜でさらに分離した後に蒸留工程S27を行うことで、蒸留工程S27での再生イオン液体の回収率をより向上させることができる。同様に、再生貧溶媒の回収率も向上させることができる。
(11)混合溶液M2には、第2の貧溶媒D1が含まれているが、膜分離工程S28により第2の貧溶媒D1を第2の再生貧溶媒C3として分離することにより、混合溶液M2に含まれる第2の貧溶媒D1の含有量が減り、蒸留工程S27における蒸留操作において省エネルギー化を図ることができる。
【0064】
<第4実施形態>
第1実施形態および第2実施形態の向流接触式溶出装置が横型であるのに対し、第4実施形態では縦型の向流接触式溶出装置を用いる。第4実施形態の縦型の向流接触式溶出装置は、第1実施形態および第2実施形態のいずれにも適用することができる。
第4実施形態の向流接触式溶出装置60は、図5に示すように、原料供給部61と、本体部62と、原料排出部63と、を備えている。
原料供給部61は、析出バイオマスA2のスラリー液を本体部62に供給するポンプ部611と、原料流通管612と、流通弁613と、を有している。
ポンプ部611は、析出バイオマスA2のスラリー液を加圧した状態で本体部62に供給する。ポンプ部611としては、例えば、ピストンポンプやスラリーポンプを用いることができる。
ポンプ部611により押し出された析出バイオマスA2のスラリー液は、原料流通管612を通って本体部62に供給される。流通弁613は、原料流通管612に取り付けられ、原料流通管612の開口を開閉することにより、析出バイオマスA2のスラリー液の供給の調整を行うことができる。
【0065】
本体部62は、本体部62の全体を構成し、鉛直方向が軸方向となる円筒状の管状部621と、管状部621の内部に軸方向に沿って設けられたスクリュー622と、管状部621に第2の貧溶媒D1を供給する貧溶媒供給管623と、管状部621から貧溶媒を排出する貧溶媒排出管624と、管状部621の内部の下端側に設けられた目皿625と、を有している。
スクリュー622は、管状部621の内部に軸方向に沿って設けられた軸と、この軸の周囲に取り付けられた羽部と、を有する。スクリュー622が回転することにより、管状部621内に供給された析出バイオマスA2のスラリー液および第2の貧溶媒D1を攪拌するとともに、析出バイオマスA2を管状部621の下端部となる一方の端部621Aから上端部である他方の端部621Bにスクリュー移動させる。
【0066】
貧溶媒供給管623は、管状部621の他方の端部621B側に取り付けられ、第2の貧溶媒D1を管状部621に供給する。貧溶媒供給管623には、供給弁623Aが取り付けられ、供給量を調節できるようになっている。
貧溶媒排出管624は、管状部621の一方の端部621Aに取り付けられ、第2の貧溶媒D1を排出する。すなわち、貧溶媒供給管623から供給された第2の貧溶媒D1は、管状部621の内部を上端から下端方向へ移動し、貧溶媒排出管624から排出される。貧溶媒排出管624には、排出弁624Aが取り付けられ、排出量を調節できるようになっている。
【0067】
目皿625は、多孔板となっている。原料供給部61により管状部621内に供給された析出バイオマスA2は、スクリュー622により管状部621の他方の端部621Bまで移送されるが、中には移送されずに一方の端部621Aに落ちてくる物もある。目皿625は、このように一方の端部621Aに落ちてきた析出バイオマスA2が貧溶媒排出管624から排出されないように、析出バイオマスA2と第2の貧溶媒D1とを固液分離する。これにより、第2の貧溶媒から析出バイオマスA2を完全に除去することができ、向流接触式溶出工程S25で得られるイオン液体含有貧溶媒D2を再利用することができる。
【0068】
原料排出部63は、管状部621の他方の端部621B側に設けられ、管状部621内をスクリュー移送されてきたスラリー状の析出バイオマスA2を排出する。原料排出部63には、排出弁631が取り付けられ、排出量の調整を行うことができる。
【0069】
次に、上述の向流接触式溶出装置60による向流接触式溶出工程S25について説明する。
まず、前工程で析出した析出バイオマスA2がポンプ部611により本体部62に供給される。
本体部62では、スクリュー622の回転に伴い、析出バイオマスA2を含むスラリー液が管状部621の一方の端部621Aから他方の端部621Bにスクリュー移送される。一方、貧溶媒供給管623から供給された第2の貧溶媒D1は、管状部621の他方の端部621Bから一方の端部621Aに向かって供給される。これにより、析出バイオマスA2と第2の貧溶媒D1とが向流接触し、析出バイオマスA2に含まれるイオン液体B1が第2の貧溶媒D1に溶出する。そして、イオン液体B1を含有する第2の貧溶媒D2(イオン液体含有貧溶媒D2)は、貧溶媒排出管624から排出される。
【0070】
また、析出バイオマスA2は、管状部621の他方の端部621Bに達すると、原料排出部63から排出される。
以上の第4実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0071】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
上記第1実施形態では、析出バイオマスA2を粉砕する粉砕工程を第1の分離工程の後に実施する形態を示したが、粉砕工程は、第1の分離工程の前に実施してもよい。具体的には、溶解析出工程S1において析出した析出バイオマスA2と、溶媒であるイオン液体B1と第1の貧溶媒C1の混合溶液を攪拌槽に入れ、攪拌翼により所望の大きさになるまで粉砕する。粉砕後、第1の分離工程を実施する。これによれば、溶液中で析出バイオマスA2を粉砕することにより粉砕された析出バイオマスA2が飛び散ってしまうことがないため、後工程の第1の分離工程によって析出バイオマスA2を確実に回収することができる。
また、上記第1実施形態では、粉砕工程S3の後に向流接触式溶出工程S4を実施したが、粉砕工程S3を実施せずに向流接触式溶出工程S4を実施してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、向流接触式溶出工程S4(またはS25)において、向流接触式溶出装置50(または60)の貧溶媒排出管524(または624)から排出されたイオン液体B1を含有する第2の貧溶媒D2をそのまま溶解析出工程S1(または溶解工程S21)の第1の貧溶媒C1として再利用することとしたが、再利用の方法はこれに限られない。第2の分離工程S5(またはS26)で得られる混合溶液M2を溶解析出工程S1の第1の貧溶媒C1として再利用してもよいし、向流接触式溶出工程S4(またはS25)で得られるイオン液体B1を含有する第2の貧溶媒D2の全てを上述した混合溶液M1およびM2に混合し、蒸留工程S6(またはS27)で蒸留し、再生イオン液体B2および第1の再生貧溶媒C2を生成してもよい。
【0073】
さらに、上記実施形態では、向流接触式溶出工程S4(またはS25)により、析出バイオマスA2に包含されるイオン液体Bを第2の貧溶媒に溶出させることとしたが、第2の貧溶媒を向流させずに接触させることとしてもよい。
また、上記第4実施形態に示す向流接触式溶出装置60を上記第2実施形態に適用してもよい。
また、上記実施形態では、処理後の析出バイオマスA3を糖化処理することでエタノールを生成したが、析出バイオマスA3は化成品等の製造に用いられてもよい。
【実施例】
【0074】
次に、実施例および参考例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
<試験1>
まず、上述した第1実施形態の方法により、以下のようにイオン液体を回収した。
以下の実施例1〜4および比較例1,2では、下記の物質を用いた。
セルロース:市販の微結晶セルロース(Merck社製)
イオン液体[Cmim]OAc:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセタート(1-Ethyl-3-methylimidazolium acetate)(Sigma−Aldrich社製)
イオン液体[Cmim]Cl:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(1-Butyl-3-methylimidazolium chloride)(Sigma−Aldrich社製)
【0075】
また、以下の実施例および比較例において回収イオン液体の回収率、純度、および窒素濃度の測定は以下の方法で行った。
[イオン液体の回収率]
イオン液体の回収率は、以下の式(1)で求めた。なお、回収したイオン液体に含まれる不純物は、後述するNMR分析の結果から無視できるものとした。
回収率=(回収イオン液体の重量)/(処理前イオン液体の重量)×100 …(1)
【0076】
[イオン液体の純度の測定方法]
回収したイオン液体の純度は、HNMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルまたは13CNMRスペクトルを測定して不純物の有無を確認した。使用した機器は、日本電子製、GSX−400(1H共鳴周波数:400MHz)であり、溶媒として重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)を用いた。
【0077】
[析出バイオマスおよび留出水の窒素濃度の測定方法]
窒素濃度の測定は、その程度に応じて測定方法を変更して行った。
(A)窒素濃度1質量%以上の場合は、CHN分析を行った。機器は、CHNコーダー(ヤナコ製、「MT−6型」(製品名))を用いた。
(B)窒素濃度1質量%未満の場合は、化学発光によるN分析を行った。機器は、化学発光式微量窒素分析計(三菱化学アナリテック製、「TN−100型」(製品名))
具体的には、まず、上記(A)の方法で測定を行い、1質量%以上の窒素濃度が得られない場合は上記(B)の方法で測定を行った。
【0078】
[実施例1]
セルロース濃度が20質量%となるように、セルロース(図1におけるセルロース系バイオマスA1)1.25gとイオン液体[Cmim]OAc5gを50ccナスフラスコに入れ、ナスフラスコを120℃のオイルバス中に2時間放置した。このとき、セルロースは攪拌しないで処理を行った。
次に、イオン交換水25g(イオン液体の5倍の量)をナスフラスコに加えて、析出バイオマスA2を析出させた。(溶解析出工程)。
そして、析出バイオマスA2を含むイオン交換水を、濾紙(ADVANTEC製、「定量濾紙No.5C」(商品名))で濾過し、濾液(混合溶液)M1と析出バイオマスA2を得た(第1の分離工程)。このように、無攪拌により得られた析出バイオマスA2は、ナスフラスコ全体に広がる大きさで、約2cm以上の塊も形成されていた。
【0079】
次に、析出バイオマスA2を真空定温乾燥機(ヤマト科学製、「ADP200」(製品名))に入れ、105℃で2時間乾燥させた。
【0080】
そして、乾燥させた析出バイオマスA2を目開き2mmの篩(JIS Z 8801準拠品)にかけ、2mm以下の大きさまで粉砕し(粉砕工程)、粉砕した析出バイオマスA2を40gの水につけて一晩放置した(接触工程)。
その後、析出バイオマスA2を含む水を濾過し、濾液(混合溶液)M2と析出バイオマスA3を得た(第2の分離工程)。
ここで、析出バイオマスA3をX線回折した結果を図6に示す。図6に示すように、析出バイオマスA3は、イオン液体[Cmim]OAcで処理されることで、結晶形態が変化したことがわかる。
【0081】
次に、濾液(混合溶液)M1と濾液(混合溶液)M2とを混合して減圧蒸留装置(桐山製作所製、「AB25B−I」(製品名))に入れ、さらに同装置の受器部分を120℃のオイルバスに入れた。そして、アスピレータで減圧して濾液(混合溶液)M1と濾液(混合溶液)M2の混合液を精製し、再生イオン液体と再生貧溶媒(留出水)を得た(蒸留工程)。
【0082】
当該再生イオン液体は、4.55gであり、上記式(1)により、イオン液体回収率91%(4.55/5×100=91)が得られた。
ここで、再生イオン液体の純度をHNMR分析した結果を、図7に示す。図7(A)は処理前のスペクトル、図7(B)は処理後のスペクトルである。処理後の再生イオン液体[Cmim]OAcには、該イオン液体[Cmim]OAcの分解物やセルロース由来の不純物は見られなかった。
【0083】
[実施例2]
実施例1の粉砕工程において、析出バイオマスA2を粉砕する際に粉砕機(岩谷産業製、「IFM−800」(製品名))を用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。
粉砕機により、析出バイオマスA2は、最大径1mm以下の大きさに粉砕された。
再生イオン液体の回収率は91%であった。
【0084】
[実施例3]
実施例1の粉砕工程において実施例2で用いた粉砕機を用い、接触工程において粉砕した析出バイオマスA2をイオン交換水中で一晩放置する代わりに以下の向流接触式溶出工程に相当する操作を行ったこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。
なお、本実施例は実験室レベルで行ったため、上述した実施形態の向流接触式溶出工程に相当する処理として以下に示す多段洗浄の操作を行った。すなわち、析出バイオマスを新しいイオン交換水に複数回接触させることで、擬似的に向流式とするものである。この操作により、上述した実施形態の向流接触式溶出工程と同様の結果が得られる。
粉砕した析出バイオマスA2とイオン交換水20gを三角フラスコに入れ、三角フラスコの上部にリービッヒ冷却管を取り付けた装置を組み立てた。この三角フラスコを90℃の水中で2時間放置した後、1時間ごとに、上澄み液を抜き出し、新たに5gのイオン交換水を添加する操作を4回繰り返した(多段洗浄)。上澄み液を抜き出す際、若干の析出バイオマスも混入するが、上澄み液と合わせて保管した。そして、三角フラスコ中の残留物と抜き出した上澄み液を濾過し、濾液(混合溶液)M2と析出バイオマスA3を得た。
【0085】
この後、濾液(混合溶液)M2は実施例1と同様に精製し、再生イオン液体および再生貧溶媒(留出水)を得た。イオン液体の回収率は、99%以上であった。なお、この実施例3の処理を再度実施したところ、イオン液体の回収率は99%以上であった。これにより、イオン液体の高回収率の再現性を確認できた。
一方、析出バイオマスA3は、真空定温乾燥機(ヤマト科学製、「ADP200」(製品名))に入れ、105℃で2時間乾燥させた。乾燥させた析出バイオマスA3の窒素濃度を測定したところ、析出バイオマスA3の窒素濃度は、860ppmであった。
【0086】
[実施例4]
セルロース系バイオマスA1として、バガスを用いた。まず、バガスを粉砕機(岩谷産業製、「IFM−800」(製品名))で粉砕し、目開き2mmの篩を通り、目開き1mmの篩で捕集されたもののうち、目視で長軸が2cm以上のものを除去した。残ったものを50℃で3時間真空乾燥させたものをセルロース系バイオマスA1とした。乾燥後のバガスにおける窒素濃度は0.31質量%であった。
バガス1.25gとイオン液体[Cmim]OAcを50ccナスフラスコに入れ、ナスフラスコを130℃のオイルバス中に2時間放置した。このとき、バガスは攪拌しないで処理を行った。
【0087】
次に、イオン交換水25g(イオン液体の5倍の量)をナスフラスコに加えて、析出バイオマスA2を析出させた。(溶解析出工程)。
そして、析出バイオマスA2を含むイオン交換水を、濾紙(ADVANTEC製、「定量濾紙No.5C」(商品名))で濾過し、濾液(混合溶液)M1と析出バイオマスA2を得た(第1の分離工程)。
【0088】
次に、析出バイオマスA2に対して、実施例3の向流接触式溶出工程に相当する操作を行った。すなわち、析出バイオマスA2とイオン交換水15gを三角フラスコに入れ、三角フラスコの上部にリービッヒ冷却管を取り付けた装置を組み立てた。この三角フラスコを90℃の水中で2時間放置した後、1時間ごとに、上澄み液を抜き出し、新たに5gのイオン交換水を添加する操作を5回繰り返した(多段洗浄)。上澄み液を抜き出す際、若干の析出バイオマスも混入するが、上澄み液と合わせて保管した。そして、三角フラスコ中の残留物と抜き出した上澄み液を濾過し、濾液(混合溶液)M2と析出バイオマスA3を得た(第2の分離工程)。
ここで、析出バイオマスA3をX線回折した結果を図8に示す。図8に示すように、析出バイオマスA3は、イオン液体[Cmim]OAcで処理されることで、結晶形態が変化したことがわかる。
【0089】
この後、濾液(混合溶液)M2は実施例1と同様に精製し、再生イオン液体および再生貧溶媒(留出水)を得た。イオン液体の回収率は、97%であった。なお、この実施例4の処理を再度実施したところ、イオン液体の回収率は96%であった。これにより、イオン液体の高回収率の再現性を確認できた。
ここで、再生イオン液体の純度を13CNMR分析した結果を、図9に示す。図9(A)は処理前のスペクトル、図9(B)は処理後のスペクトルである。処理後の再生イオン液体[Cmim]OAcには、該イオン液体[Cmim]OAcの分解物やセルロース由来の不純物は見られなかった。
【0090】
[比較例1]
イオン液体[Cmim]OAcの代わりにイオン液体[Cmim]Clを用い、実施例1と同様の処理により濾液(混合溶液)M1と析出バイオマスA2を得た(溶解析出工程および第1の分離工程)。
次に、析出バイオマスA2を真空定温乾燥機(ヤマト科学製、「ADP200」(製品名))に入れ、105℃で2時間乾燥させた。
【0091】
そして、乾燥させた析出バイオマスA2を、乳棒を用いて1cm程度に粉砕し、粉砕した析出バイオマスA2を40gの水につけて一晩放置した(接触工程)。その後、析出バイオマスA2を含む水を濾過し、濾液(混合溶液)M2と析出バイオマスA3を得た(第2の分離工程)。
ここで、第2の分離工程により得られた析出バイオマスA3をX線回折した結果を図6に示す。図6に示すように、析出バイオマスA3は、イオン液体[Cmim]Clで処理されることで、結晶形態が変化したことがわかる。
【0092】
次に、濾液(混合溶液)M1と濾液(混合溶液)M2とを混合して減圧蒸留装置(桐山製作所製、「AB25B−I」(製品名))に入れ、さらに同装置の受器部分を120℃のオイルバスに入れた。そして、アスピレータで減圧して濾液(混合溶液)M1と濾液(混合溶液)M2の混合液を精製し、再生イオン液体と再生貧溶媒(留出水)を得た(蒸留工程)。
【0093】
当該再生イオン液体は、4.2gであり、上記式(1)により、イオン液体回収率84%(4.2/5×100=84)が得られた。
ここで、再生イオン液体[Cmim]Clの純度をHNMR分析した結果を、図10に示す。図10(A)は処理前のスペクトル、図10(B)は処理後のスペクトルである。処理後の再生イオン液体[Cmim]Clには、該イオン液体[Cmim]Clの分解物やセルロース由来の不純物は見られなかった。
【0094】
次に、セルロース濃度が20質量%となるように、セルロースと再生イオン液体とを50ccのナスフラスコに入れ、以下同様の処理を行った。2回目のイオン液体回収率は82質量%、3回目のイオン液体回収率は82質量%であった。
ここで、3回目の処理後、析出バイオマスA3を真空乾燥させ、窒素濃度を測定したところ、析出バイオマスA3の窒素濃度は、4.8質量%であった。また、3回目の処理で得られた再生貧溶媒(留出水)の窒素濃度を測定したところ、1ppm以下であった。これは、析出バイオマスA3の窒素濃度が4.8質量%と高濃度であることから、大部分のイオン液体[Cmim]Clは析出バイオマスA3に含有された状態であると考えられる。
【0095】
[比較例2]
イオン液体[Cmim]Clの代わりにイオン液体[Cmim]OAcを用いて、比較例1と同様の処理を行ったところ、回収イオン液体の回収率は86%であった。
また、析出バイオマスA3を真空乾燥させ、窒素濃度を測定したところ、析出バイオマスA3の窒素濃度は、5.4質量%であった。また、再生貧溶媒(留出水)の窒素濃度は2ppmであった。これは、析出バイオマスA3の窒素濃度が5.4質量%と高濃度であることから、大部分のイオン液体[Cmim]OAcは析出バイオマスA3に含有された状態であると考えられる。
【0096】
実施例および比較例の測定結果を以下の表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
実施例1および実施例2では、析出バイオマスA2を2mm以下の大きさに粉砕しているため、イオン液体を91%の回収率で回収することができた。
実施例3では、粉砕機で粉砕した析出バイオマスA2に対して多段洗浄を行っているため、得られた析出バイオマスA3の窒素濃度が860ppmとなっている。比較例2には溶解析出工程後の析出バイオマスA2の窒素濃度が5.4質量%ということから、実施例3の粉砕と多段洗浄により、窒素濃度が大幅に低下したことがわかる。これは、析出バイオマスA2に含有されていたイオン液体[Cmim]OAcが濾液(混合溶液)M2に溶出されたことを示す。また、実施例3のイオン液体[Cmim]OAcの回収率が99%以上となっていることから、析出バイオマスA2に含まれていたイオン液体[Cmim]OAcも回収でき、高回収率を得られたことがわかる。
実施例4では、原料としてバガスを用い、多段洗浄の処理を行っているため、イオン液体を97%の回収率で回収することができた。しかしながら、析出バイオマスの粉砕処理を行っていないために、回収率は実施例3より低い。
一方、比較例1および2では、析出バイオマスA2を細かく粉砕せず、多段洗浄も行っていないため、イオン液体の回収率が低い。
【0099】
また、比較例1および比較例2では、最終的に得られる析出バイオマスA3の窒素濃度が4.8質量%および5.4質量%となっているが、実施例3において、粉砕工程および向流接触式溶出工程により得られた析出バイオマスA3の窒素濃度は860ppmと大幅に減少している。これは、原料となるセルロースには窒素は含まれていないことから、析出バイオマスに包含されていたイオン液体が大幅に除去されたことを意味する。すなわち、析出バイオマスA2に包含されていたイオン液体のほとんどがイオン交換水中に溶出された。したがって、実施例3では、イオン液体が溶出したイオン交換水を蒸留することで、イオン液体の回収率が大幅に向上した。
【0100】
次に、上述した第2実施形態の方法を用いて、以下のようにイオン液体を回収した。
なお、以下の実施例5〜7において、イオン液体の損失の割合は以下の方法で求めた。以下の方法は、バガス中にはイオン液体に対して易溶解または分解する物質が含まれていることを考慮し、バガス中に蓄積されたイオン液体の量をロス分として評価するものである。
[イオン液体の損失割合の算出方法]
イオン液体の損失割合は、以下の式(2)(3)(4)(5)により求める。ここで、処理前のバガスの量と回収したバガスの量が等しいとする。
【0101】
濃度=(回収したバガスの量=1)×(回収したバガス中のN濃度)−(処理前のバガスの量=1)×(処理前のバガス中のN濃度) …(2)
【0102】
A1量=N濃度 …(3)
【0103】
IL量=NA1量/IL中のNA2含量×ILの分子量 …(4)
【0104】
ILの損失割合=IL量/(処理前のIL量/処理前のバガス量)…(5)
【0105】
ここで、Nは窒素を表し、ILはイオン液体を表す。NA1量は処理前と処理後のバガス中で増加した窒素の量であり、N濃度は回収したバガス中の窒素濃度NC1と処理前のバガス中の窒素濃度NC0との差である。
また、以下の実施例および比較例では、ILは[Cmim]OAcであり、NA2含量は、28g/mol、ILの分子量は170g/molである。
【0106】
[実施例5]
実施例5では、第2実施形態に示すセルロース系バイオマスA1としてバガスを用いた。
まず、上記実施例4に記載された方法でバガスを調整した。乾燥後のバガス中の窒素濃度は0.31質量%であった。
バガス8.8gとイオン液体[Cmim]OAc50gをガラス製の円筒容器に入れ、この円筒容器を130℃のオイルバスに浸けた。このとき(処理前)のイオン液体ILとバガスの比(イオン液体の質量[g]/バガスの質量[g])は5.68である。さらに、回転翼を用いてガラス製の円筒容器内で回転数200rpmで攪拌しながら3時間放置した(溶解工程)。
【0107】
次に、溶解バガスを孔径2mmの多孔板を有する押出器に詰め、150ccの水(第1の貧溶媒C1)を入れたビーカーに押し出した。そして、糸状に押し出されたバガスを濾過した(ここで、濾液は混合溶液M1)後、糸状のバガスを2cmごとに切断し、相当直径4.9mmの柱状の粒子に成型した(成型、析出、第1の分離工程)。なお、実装置を用いる場合は、溶解バガスを押出器に詰め、押し出しながら所定の大きさに切断し、水槽内で析出させる処理である。しかしながら、実験装置では、押出成型と切断の処理に時間がかかり、溶解バガスが冷却、硬化して押し出せなくなるため、上述したように析出させた後に切断して成型することとした。また、溶解工程で用いたガラス製の円筒容器、および押出器に付着した溶解バガスを100ccの水で洗浄し、濾過により回収した。この処理は第1の分離工程の一部であり、濾液は混合溶液M1である。
【0108】
次に、成型した析出バガス(析出バイオマスA2)と洗浄により回収した析出バガスとを三角フラスコに入れ、イオン交換水60mlを加えた。この三角フラスコを70℃の温水に浸し、三角フラスコの上部にリービッヒ冷却管を取り付けて30分間放置してイオン液体を溶出させた(溶出工程)。このとき、析出バガスを崩さないように攪拌は行わなかった。
【0109】
次に、析出バガスを含むイオン交換水を濾過し、濾液(混合溶液)M2とイオン液体が溶出された析出バガスを得た。得られた析出バガスについて、上述した溶出工程をさらに14回(全15回)行い、最終的な濾液(混合溶液)M2と析出バガス(析出バイオマスA3)を得た(第2の分離工程)。
【0110】
そして、各処理で得られた濾液(混合溶液M1とM2)を混合し、実施例1に記載の方法により精製して再生イオン液体と再生貧溶媒を得た(蒸留工程)。
当該再生イオン液体の回収率は、上記式(1)により、液体重量基準で101質量%であった。バガス中の易溶解物または分解物がイオン液体中に残留して、イオン液体としての回収率が100質量%を超えた。
また、析出バイオマスA3を真空乾燥させ、窒素濃度を測定したところ、析出バイオマスA3の窒素濃度は0.37質量%であった。
以上より、上記式(2)(3)を用いると、NA1量=1×(0.0037−0.0031)=0.0006となり、上記式(4)を用いると、IL量=0.0006/28×170=0.0036となる。そして、上記式(5)を用いると、ILの損失割合=0.0036/5.68=0.0006となる。イオン液体の損失割合は、1質量%以下、すなわちイオン液体の回収率は99質量%以上であった。
【0111】
[実施例6]
実施例5において、析出工程で三角フラスコを90℃の温水に浸し、この析出工程を15回繰り返し行った。析出バイオマスA3の窒素濃度は0.41質量%であった。
上記式(2)(3)(4)(5)を用いて計算すると、イオン液体の損失割合は、1質量%以下、すなわちイオン液体の回収率は99質量%以上であった。
【0112】
[実施例7]
実施例5において、析出工程で三角フラスコを50℃の温水に浸し、この析出工程を15回繰り返し行った。析出バイオマスA3の窒素濃度は0.41質量%であった。
上記式(2)(3)(4)(5)を用いて計算するとイオン液体の損失割合は、1質量%以下、すなわちイオン液体の回収率は99質量%以上であった。
【0113】
<試験2>
試験2では、イオン液体に共溶媒を添加して処理を行い、セルロース系バイオマスA1の結晶構造の変化を調べた。試験2では、下記の物質を用いた。
セルロース系バイオマスA1:バガス
イオン液体[Cmim]OAc:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセタート(1-Ethyl-3-methylimidazolium acetate)(Sigma−Aldrich社製)
共溶媒DMSO:ジメチルスルフォキシド(dimethyl sulfoxide)
共溶媒DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(1,3-dimethyl-2-imidazolidinone)
【0114】
[実施例8]
バガス1gと、イオン液体[Cmim]OAc2gとDMSO2gとを試験管に入れ、イオン液体に対するバガスの濃度が33質量%、イオン液体とDMSOの混合液に対するバガスの濃度が20質量%となるようにした。この試験管を130℃のオイルバスに3時間浸け、この間30分毎にスパチュラで攪拌し、目視でバガスの可溶化を確認した。
次に、水10ccを加えて析出バガス(析出バイオマスA3)を析出させ、実施例1に記載した方法で析出バガスを真空乾燥させ、X線回折を行った。その結果を図11に示す。図11に示すように、析出バガスは、結晶構造IからIIへ変化したことがわかる。
【0115】
[比較例3]
バガス1gと、イオン液体[Cmim]OAc1gとDMSO3gとを試験管に入れ、イオン液体に対するバガスの濃度が50質量%、イオン液体とDMSOの混合液に対するバガスの濃度が20質量%となるようにした。そして、実施例8と同様の方法で処理を行った後に、X線回折を行った。溶解処理後には、試験管の中にバガスの不溶分が確認できた。また、X線回折の結果を図11に示す。図11に示すように、析出バガスは、結晶構造の変化が見られなかった。
【0116】
[実施例9]
DMSOの代わりにDMIを用いた以外は実施例8と同様の処理を行った。溶解処理後には、バガスが可溶化したことを目視で確認した。また、X線回折の結果を図12に示す。図12に示すように、析出バガスは、結晶構造IからIIへ変化したことがわかる。
【0117】
[比較例4]
DMSOの代わりにDMIを用いた以外は比較例3と同様の処理を行った。溶解処理後には、試験管の中にバガスの不溶分が確認できた。また、X線回折の結果を図12に示す。図12に示すように、析出バガスは、結晶構造の変化が見られなかった。
【0118】
上述した実施例8,9および比較例3,4では、イオン液体に共溶媒を添加したことにより、スパチュラで攪拌する作業を容易に行うことができた。
また、実施例8,9では、溶解処理によりバガスを完全に溶解することができるとともに、処理の前後でバガスの結晶構造も変化していた。
一方、比較例3,4では、イオン液体に対する共溶媒の量が3倍重量と多かったため、イオン液体によるバイオマス溶解性能が低下して、溶解処理後に不溶分が確認できた。また、比較例3,4では、イオン液体に対するバガスの濃度が50質量%以上と大きいために、処理の前後でバガスの結晶構造が変化していなかった。
【0119】
<試験3>
次に、上記第二実施形態の方法により処理を行い、図3のフロー図に示すP1〜P9の各位置におけるバイオマス、イオン液体(共溶媒含む)、貧溶媒(本試験では水)のそれぞれの流量値を算出した。これにより、上記第二実施形態のフローを確認できた。イオン液体と同重量の共溶媒を用い、イオン液体に対するバガス溶解度33%で行った。なお、析出バガスの含水率を83%、濾過後のバガスの含水率を80%として算出した。以下の表2に結果を示す。表2中の流量は、バイオマス量を1重量としたときの比率で示す。
【0120】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、バイオマスを原料とした燃料、化学品、化成品用原料等の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0122】
50…向流接触式溶出装置
51…原料供給部
511…ホッパー
512…ポンプ部
52…本体部
521…管状部
522…スクリュー
523…貧溶媒供給管
524…貧溶媒排出管
53…原料排出部
S1…溶解析出工程
S2…第1の分離工程
S3…粉砕工程
S4…向流接触式溶出工程
S5…第2の分離工程
S6…蒸留工程
A1…セルロース系バイオマス
A2…析出バイオマス
A3…析出バイオマス
B1…イオン液体
B2…再生イオン液体
C1…第1の貧溶媒
C2…第1の再生貧溶媒
D1…第2の貧溶媒
D2…イオン液体含有貧溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマスをイオン液体に溶解させ、さらに第1の貧溶媒を混合してバイオマスを析出させる溶解析出工程と、
前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液から前記イオン液体を回収する第1のイオン液体回収工程と、
前記溶解析出工程で析出させた析出バイオマスに包含されている前記イオン液体を第2の貧溶媒に溶出させて前記イオン液体を回収する第2のイオン液体回収工程と、を備え、
前記第1のイオン液体回収工程および前記第2のイオン液体回収工程で回収した前記イオン液体を前記溶解析出工程で再利用することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第2のイオン液体回収工程は、前記析出バイオマスを前記第2の貧溶媒に向流接触させ、前記析出バイオマスに包含されている前記イオン液体を前記第2の貧溶媒に溶出させる向流接触式溶出工程を備えることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第2のイオン液体回収工程は、
前記析出バイオマスを粉砕する粉砕工程を備え、
前記粉砕工程の後に、粉砕された前記析出バイオマスを前記第2の貧溶媒に接触させて前記イオン液体を溶出させることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記溶解析出工程は、
前記セルロース系バイオマスを前記イオン液体に溶解させる溶解工程と、
前記溶解液を所定形状の複数の粒子に成型する成型工程と、
前記複数の粒子に前記第1の貧溶媒を添加してバイオマスを析出させる析出工程と、を有することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第1のイオン液体回収工程は、
前記溶解析出工程で得られる前記析出バイオマスと、前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液と、を分離する第1の分離工程と、
前記第1の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第1の貧溶媒の混合溶液を蒸留し、再生イオン液体および第1の再生貧溶媒を生成する蒸留工程と、を備え、
前記蒸留工程で生成された前記再生イオン液体を、前記溶解析出工程におけるイオン液体として再利用することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のバイオマスの処理方法において、
前記蒸留工程で生成された前記第1の再生貧溶媒を、前記第1の貧溶媒または前記第2の貧溶媒として再利用することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第2のイオン液体回収工程は、包含していた前記イオン液体が除去された前記析出バイオマスと、前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液と、に分離する第2の分離工程を備え、
前記蒸留工程は、前記第2の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液を蒸留し、再生イオン液体および第1の再生貧溶媒を生成することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第2の分離工程で分離された前記イオン液体および前記第2の貧溶媒の混合溶液を分離膜に通して、前記イオン液体の含有量が増加した混合溶液と第2の再生貧溶媒とに分離する膜分離工程をさらに備え、
前記イオン液体の含有量が増加した混合溶液を前記蒸留工程に供給し、
前記第2の再生貧溶媒を前記第1の貧溶媒または前記第2の貧溶媒として再利用することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記溶解析出工程で使用されたイオン液体の回収率が90%以上であることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記イオン液体は、カルボン酸系またはリン酸系の親水性イオン液体であることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記溶解析出工程で使用する前記イオン液体に非プロトン性有機溶媒を添加することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載のバイオマスの処理方法において、
前記非プロトン性有機溶媒の添加量は、前記イオン液体に対して3倍重量未満であることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載のバイオマスの処理方法において、
前記イオン液体に対する前記セルロース系バイオマスの溶解度は、50%未満であることを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法において、
前記第2のイオン液体回収工程の後に前記析出バイオマスを糖化する糖化処理工程を備えることを特徴とするバイオマスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−12568(P2012−12568A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60869(P2011−60869)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/疎水性イオン液体や耐塩性酵素を用いた前処理・糖化技術に関する研究開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】