説明

バイオマスの前処理方法

【課題】基質混合物の加熱を低コストで効率よく行うことができるバイオマスの前処理方法を提供する。
【解決手段】バイオマスの前処理方法は、アンモニア含有糖化前処理物から放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水として回収するときのアンモニアの凝縮熱と溶解熱とを熱源とし、ヒートポンプを用いて加熱された熱媒体を用いて基質混合物を加熱する。所定の温度より高温に加熱された熱媒体を、予め所定量貯留しておき、基質混合物が所定の温度に到達するまで、所定の温度より高温に加熱された熱媒体により基質混合物を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用燃料として、ガソリン−エタノール混合燃料を用いることが検討されている。前記エタノールとして、植物性物質の発酵、蒸留により得たバイオエタノールを用いると、土壌管理を厳密に行うことにより所謂カーボンニュートラル効果を得ることができ、二酸化炭素の排出量を低減して地球温暖化の防止に寄与できるものと考えられている。
【0003】
しかし、前記植物性物質として、例えばサトウキビ、トウモロコシ等の農作物を用いると、該農作物がエタノールの原料として大量に消費されることにより、食料又は飼料としての供給量が減少するという問題がある。そこで、前記植物性物質として、食用または飼料用とならないリグノセルロース系バイオマスを用いてエタノールを製造する技術が検討されている。
【0004】
前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロースを含んでおり、該セルロースを糖化酵素を用いて糖化処理することによりグルコースに分解し、得られたグルコースを発酵させてエタノールを得ることができる。
【0005】
ところが、前記リグノセルロース系バイオマスは、セルロースの他にヘミセルロース及びリグニンを主な構成成分としており、通常該セルロース及び該ヘミセルロースは、該リグニンに強固に結合しているため、そのままでは該セルロースに対する酵素糖化反応を行うことが難しい。従って、前記セルロースを酵素糖化反応させるに際しては、予め前記リグノセルロース系バイオマスを前処理して酵素糖化反応が可能な状態としておくことが望ましい。
【0006】
前記リグノセルロース系バイオマスを酵素糖化反応が可能な状態とするために、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物とし、該基質混合物を所定温度に所定時間保持する前処理方法が知られている。前記前処理方法によれば、前記基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させることにより、該基質としてのリグノセルロース系バイオマスを酵素糖化反応可能な状態とすることができる。
【0007】
尚、本願において、解離とは、セルロース等に結合しているリグニンの結合部位のうち、少なくとも一部の結合を切断することをいう。また、膨潤とは、液体の浸入により結晶性セルロースを構成するセルロース等に空隙が生じ、又は、セルロース繊維の内部に空隙が生じて膨張することをいう。
【0008】
また、前記アンモニア水は、前記前処理後、前記基質混合物から分離されたアンモニアガスを冷却して凝縮させると共に水に溶解させることにより回収することができる。
【0009】
そこで、前記前処理方法において、前記アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを熱源として、ヒートポンプを用いて熱媒体を加熱し、該熱媒体を用いて該基質混合物を加熱する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−142680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の前処理方法は回分(バッチ)式で行うときには、前記基質混合物を所定の温度に加熱するまでに大きな熱エネルギーを要し、ヒートポンプ始動時の低温かつ少量の熱媒体では該所定の温度まで速やかに加熱することが難しいという不都合がある。
【0012】
前記不都合を解決するために、ヒートポンプ自体を大型化したり、他の熱源を設けたりすることが考えられるが、このようにするときには設備コストの増大が避けられない。また、前記基質混合物は一旦所定の温度に加熱されれば、その後、該温度に維持する熱エネルギーは該所定の温度に加熱するまでに要する熱エネルギーより小さいので、加熱に要する設備を大型化すると運転コストが増大するという不都合もある。
【0013】
本発明は、かかる不都合を解消して、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかにかつ低コストで効率よく行うことができるバイオマスの前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明は、回分式で基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る工程と、該基質混合物を所定の温度に加熱すると共に該温度に所定の時間保持することにより該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水として回収する工程とを備え、該アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを熱源として、ヒートポンプを用いて熱媒体を加熱し、該熱媒体を用いて該基質混合物を加熱するバイオマスの前処理方法において、該熱媒体を該ヒートポンプと該基質混合物を加熱する部分とに循環させる循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を回避して該ヒートポンプに循環させるバイパス循環経路を設け、該熱媒体を該バイパス循環経路に循環させることにより、該所定の温度より高温に加熱し、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該基質混合物が該所定の温度に到達するまでの間、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体により該基質混合物を加熱することを特徴とする。
【0015】
本発明の前処理方法は、回分(バッチ)式であり、まず、基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る。
【0016】
次に、前記基質混合物を所定の温度に加熱すると共に該温度に所定の時間保持することにより該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る。前記アンモニア含有糖化前処理物は、前記基質としてのリグノセルロース系バイオマスが酵素糖化反応可能な状態に前処理されているが、アンモニアを含有しているためにpHが高く、そのままでは酵素糖化反応に供することができない。
【0017】
そこで、次に、アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させて分離する一方、放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水として回収する。この結果、アンモニアが分離されたアンモニア分離前処理物を得ることができ、該アンモニア分離前処理物を酵素糖化反応に供することができる。
【0018】
前記基質混合物の加熱は、前記アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを熱源として、ヒートポンプを用いて熱媒体を加熱し、該熱媒体を用いて行う。ところで、本発明の前処理方法は回分式であるので、前記基質混合物の加熱の初期には該基質混合物はもちろん、装置自体も加熱されていないため、該基質混合物を所定の温度に加熱するために大きな熱エネルギーが必要となる。
【0019】
そこで、本発明の前処理方法では、前記熱媒体を該ヒートポンプと該基質混合物を加熱する部分とに循環させる循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を回避して該ヒートポンプに循環させるバイパス循環経路を設け、該熱媒体を該バイパス循環経路に循環させる。このようにすると、前記熱媒体は、熱エネルギーが前記基質混合物の加熱により失われることがないので、次第に高温に昇温される。
【0020】
そこで、前記のようにして、前記熱媒体を前記該所定の温度より高温に加熱し、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体を予め所定量貯留しておく。そして、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの間、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体により該基質混合物を加熱する。
【0021】
本発明の前処理方法によれば、このようにすることにより、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかに、しかも該加熱を別途他の熱源を設けたり、ヒートポンプ自体を大型化することなく、低コストで効率よく行うことができる。
【0022】
本発明の前処理方法において、前記ヒートポンプは、単一の熱媒体を用いるものであってもよいが、2種類の熱媒体を備える2元系ヒートポンプを用いることにより、前記基質混合物の加熱をさらに効率よく行うことができる。
【0023】
また、本発明の前処理方法において、前記熱媒体の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間に行われることが好ましい。本発明の前処理方法は回分式であるので、前記基質混合物を得る工程の間は、該基質混合物の加熱は行われていない。従って、前記基質混合物を得る工程の間に前記ヒートポンプを稼働することにより、効率よく前記熱媒体の貯留を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の前処理方法を実施する装置構成を示すシステム構成図。
【図2】図1に示す2元系ヒートポンプのラインの一例を概略的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0026】
本実施形態の前処理方法は、図1に示す前処理装置1を用いて実施することができる。
【0027】
前処理装置1は、反応容器2と、アンモニア凝縮器3と、アンモニア吸収塔4と、アンモニアタンク5とを備えている。
【0028】
反応容器2は、上部に、基質供給導管6と、アンモニア水供給導管7とが配設されていると共に、アンモニアガスを排出しアンモニア凝縮器3に案内する第1排気導管8が排気弁9とバグフィルタ10とを介して配設されている。基質供給導管6は、基質としてのリグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁を反応容器2に供給し、アンモニア水供給導管7は、図示しないアンモニア水タンクからアンモニア水を反応容器2に供給する。
【0029】
また、反応容器2は、上部に配設されたモータ11と、モータ11から反応容器2内部に垂下される回転軸12と、回転軸12から水平方向に延出された攪拌翼13とを備えると共に、外側に熱媒体が流通されるジャケット14を備えている。ジャケット14には温水導管15が接続されている。
【0030】
温水導管15は、ジャケット14の上部から導出された熱媒体としての温水を温水1次タンク16、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20を介して、ジャケット14の底部に循環させるようになっている。
【0031】
第1切替弁20には温水バイパス導管21が接続されており、温水バイパス導管21は第2切替弁22を介して他端部が温水1次タンク16に接続されている。また、第2切替弁22には高温水導管24が接続されており、高温水導管24は他端部が温水2次タンク25に接続されている。第1切替弁20、第2切替弁22は、それぞれ2元系ヒートポンプ19に設けられた第1温度センサ23で検知される温度により温水の流路を切り替える。
【0032】
温水2次タンク25には高温水供給導管26が設けられており、高温水供給導管26は温水2次ポンプ27を介して、第1切替弁20の下流側で温水導管15に接続されている。尚、温水1次タンク16には第1補給水導管28が設けられており、第1補給水導管28は第1給水弁29を介して第1補給水タンク30に接続されている。
【0033】
アンモニア凝縮器3は、第1排気導管8から導入されたアンモニアガスの少なくとも一部を凝縮させて液体アンモニアとするものであり、凝縮したアンモニアを排出する第1排液導管31を備えている。第1排液導管31は、凝縮タンク32、第1排液ポンプ33を介してアンモニアタンク5に接続されている。
【0034】
また、アンモニア凝縮器3は、凝縮しなかったアンモニアガスを排出し、アンモニアタンク5に案内する第2排気導管34を備えており、第2排気導管34は開閉弁35を介してアンモニアタンク5に接続されている。第2排気導管34は開閉弁35の上流で第3排気導管36を分岐しており、第3排気導管36は途中に真空ポンプ37を備え、開閉弁35の下流で第2排気導管34に合流している。
【0035】
アンモニア吸収塔4は、底部でアンモニアタンク5の天面に連通しており、第2排気導管34によりアンモニアタンク5に案内されたアンモニアガスをアンモニア水に吸収(溶解)させる。このため、アンモニア吸収塔4は、アンモニア水循環導管38を介してアンモニアタンク5から供給されるアンモニア水をシャワリングするシャワリング装置39を上部に備えている。
【0036】
アンモニア水循環導管38は、アンモニアタンク5から循環ポンプ40、アンモニア水熱交換器41、アンモニア濃度センサ42を介してシャワリング装置39に接続されている。また、アンモニア吸収塔4には、第2補給水導管43が設けられており、第2補給水導管43は第2給水弁44を介して第2補給水タンク45に接続されている。
【0037】
アンモニアタンク5は、アンモニア水を排出する第2排液導管46を備えており、第2排液導管46は、第2排液ポンプ47を介して図示しないアンモニア水タンクに接続されている。
【0038】
また、アンモニア凝縮器3には、第1排気導管8から導入されたアンモニアガスを冷却する低温水導管48が接続されている。低温水導管48はアンモニア凝縮器3から導出された熱媒体としての低温水を低温水1次タンク49、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を介して、アンモニア凝縮器3に循環させるようになっている。
【0039】
第3切替弁51には低温水バイパス導管52が接続されており、低温水バイパス導管52は第4切替弁53を介して他端部が低温水1次タンク49に接続される。また、第4切替弁53には冷水導管55が接続されており、冷水導管55は他端部が低温水2次タンク56に接続されている。第3切替弁51、第4切替弁53は、それぞれ2元系ヒートポンプ19に設けられた第2温度センサ54で検知される温度により低温水の流路を切り替える。
【0040】
低温水2次タンク56には冷水供給導管57が設けられており、冷水供給導管57は低温水2次ポンプ58を介して、第3切替弁51の下流側で低温水導管48に接続されている。尚、低温水1次タンク49には第3補給水導管59が設けられており、第3補給水導管59は第3給水弁60を介して第3補給水タンク61に接続されている。
【0041】
次に、本実施形態の前処理装置1の作動について説明する。
【0042】
前処理装置1では、まず、前回の処理で得られたアンモニア分離糖化前処理物が反応容器2底部の排出口(図示せず)から排出され、次工程に移送される。その後、基質供給導管6から新たな基質としてのリグノセルロース系バイオマス、例えば稲藁が反応容器2に供給されると共に、アンモニア水供給導管7からアンモニア水が反応容器2に供給される。
【0043】
このとき、反応容器2では、モータ11により回転軸12が回転駆動され、攪拌翼13で前記稲藁とアンモニア水とが攪拌されることにより、基質混合液が調製される。
【0044】
本実施形態では、前回のアンモニア分離糖化前処理物が反応容器2から排出された後、新たな基質とアンモニア水とが反応容器2に供給され、混合されて基質混合物が得られるまでの間が、基質混合物を得る工程に相当する。
【0045】
前記基質混合液は、温水導管15からジャケット14に供給される温水により、反応容器2内で所定の温度、例えば80〜85℃の範囲の温度に加熱され、該温度に所定の時間保持される。この結果、前記基質からリグニンが解離され、又は該基質が膨潤されて、該基質としての稲藁が酵素糖化反応可能な状態とされたアンモニア含有糖化前処理物を得ることができる。本実施形態では、前記作動がアンモニア含有糖化前処理物を得る工程に相当する。
【0046】
前処理装置1では、次に、排気弁9を開弁することにより、前記アンモニア含有糖化前処理物に含まれるアンモニアをガスとして放散させ、バグフィルタ10を介して第1排気導管8からアンモニア凝縮器3に案内する。このとき、反応容器2内の圧力は前記加熱により大気圧より高くなっており、排気弁9を開弁することにより、前記アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアガスを容易に放散させることができる。
【0047】
前記アンモニアガスは、低温水導管48からアンモニア凝縮器3に供給される低温水により冷却され、その一部が凝縮し液化して液体アンモニアとなり、第1排液導管31を介して凝縮タンク32に排出される。前記液体アンモニアは、凝縮タンク32において低温水導管48から供給される低温水によりさらに冷却された上、第1排液ポンプ33を介してアンモニアタンク5に送られる。
【0048】
また、前記アンモニアガスの残部は、開閉弁35を開弁することにより第2排気導管34を介してアンモニアタンク5に導入される。前記アンモニアガスの圧力は、放散されるに従って低下し、大気圧に等しくなるとそれ以上の放散が難しくなる。そこで、前処理装置1では、前記アンモニアガスの圧力が大気圧に等しくなったならば、開閉弁35を閉弁すると共に真空ポンプ37を作動させて、反応容器2内のアンモニアを吸引し、第2排気導管34、第3排気導管36を介してアンモニアタンク5に導入する。
【0049】
反応容器2では、前記アンモニア含有糖化前処理物から前述のようにしてアンモニアが放散された結果、アンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得ることができる。本実施形態では、前記作動がアンモニア分離糖化前処理物を得る工程に相当する。
【0050】
前記アンモニア分離糖化前処理物は、前述のように反応容器2底部の排出口(図示せず)から排出され、次工程に移送される。そして、反応容器2では次回の処理が準備される。
【0051】
一方、アンモニアタンク5に導入された前記アンモニアガスは、次いでアンモニアタンク5に連通するアンモニア吸収塔4に導入される。アンモニア吸収塔4では、循環ポンプ40によりアンモニア水循環導管38を介して循環されるアンモニア水をシャワリング装置39によりシャワリングすることにより、前記アンモニアガスを該アンモニア水に吸収(溶解)させる。
【0052】
本実施形態では、前記アンモニアガスのアンモニア凝縮器3における凝縮と、アンモニア吸収塔4における吸収(溶解)とが、放散されたアンモニアをアンモニア水として回収する工程に相当する。
【0053】
このとき、アンモニア水循環導管38の途中にはアンモニア水熱交換器41が設けられており、前記アンモニアガスを前記アンモニア水に吸収(溶解)させる際に生成する溶解熱が、低温水導管48を流通する低温水により回収される。
【0054】
また、アンモニア水循環導管38にはアンモニア濃度センサ42が設けられており、アンモニア水循環導管38を介して循環されるアンモニア水のアンモニア濃度を検出する。そして、アンモニア濃度センサ42により検出されるアンモニア濃度が所定の値、例えば反応容器2に供給されるアンモニア水の濃度以上になったときには、第2給水弁44が開弁され、第2補給水タンク45から第2補給水導管43を介して、アンモニア吸収塔4に純水が補給される。この結果、アンモニアタンク5に貯留されるアンモニア水の濃度を所定の値、例えば反応容器2に供給されるアンモニア水の濃度に保持することができる。
【0055】
アンモニアタンク5に貯留されるアンモニア水は、アンモニア凝縮器3及び凝縮タンク32における凝縮及び冷却と、アンモニア吸収塔4におけるアンモニア水への溶解との結果、例えば15〜20℃の範囲の温度に冷却されている。前記範囲の温度に冷却されたアンモニア水は、第2排液導管46を介して第2排液ポンプ47により取出され図示しないアンモニア水タンクに送られ、反応容器2における前記基質混合液の調製に再利用される。
【0056】
次に、反応容器2における前記基質混合物の加熱について、さらに詳細に説明する。
【0057】
前処理装置1では、前記基質混合物を得る工程の間に、第1切替弁20が温水導管15と温水バイパス導管21とを接続するように切り替えられると共に、温水1次ポンプ17、空冷ファン18及び2元系ヒートポンプ19が作動される。温水バイパス導管21は、第2切替弁22により上流と下流とが接続されている。
【0058】
このようにすると、温水1次タンク16に貯留されている温水が、温水導管15により、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20、温水バイパス導管21を経て、温水1次タンク16に戻る経路で循環される。ここで、前記温水は、空冷ファン18で冷却された後、2元系ヒートポンプ19において2元系ヒートポンプ19の熱媒体と熱交換することにより加熱される。
【0059】
2元系ヒートポンプ19は2種類の熱媒体を用いるヒートポンプであり、図2に示すように、第1の循環導管71と、第2の循環導管72との2種類の熱媒体の循環系を備えている。前記2種類の熱媒体として、例えば、第1の循環導管71には二酸化炭素が循環され、第2の循環導管72にはトリフルオロエタノールが循環される。
【0060】
第1の循環導管71は、途中に膨張弁73、低温水導管48に循環される低温水と熱交換する第1熱交換器74、圧縮機75、第2の循環導管72に循環されるトリフルオロエタノールと熱交換する第2熱交換器76を備えている。また、第2の循環導管72は、途中に膨張弁77、第1の循環導管71に循環される二酸化炭素と熱交換する第2熱交換器76、圧縮機78、温水導管15に循環される温水と熱交換する第3熱交換器79を備えている。
【0061】
また、このとき、アンモニア凝縮器3、アンモニア吸収塔4では、前述のように前回の処理で生成したアンモニアの凝縮及び吸収が行われており、第3切替弁51により低温水導管48の上流と下流とが接続されると共に、低温水1次ポンプ50が作動されている。この結果、低温水1次タンク49に貯留されている低温水が、低温水導管48により、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32、アンモニア凝縮器3を経て、低温水1次タンク49に戻る経路で循環されている。
【0062】
ここで、前記低温水は、アンモニア水熱交換器41及び凝縮タンク32でアンモニア水と熱交換し、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスと熱交換することにより加熱されている。そして、前記低温水は、2元系ヒートポンプ19の第1熱交換器74において二酸化炭素と熱交換することによりアンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度に冷却される。
【0063】
また前記熱交換により、前記二酸化炭素は、2元系ヒートポンプ19の第1熱交換器74において前記低温水と熱交換することにより加熱される。前記二酸化炭素の加熱は、換言すれば、アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と、アンモニアを水に溶解させる際の溶解熱とを熱源とするものである。
【0064】
また、2元系ヒートポンプ19では、第2の循環導管72に循環されるトリフルオロエタノールが、第2熱交換器76で第1の循環導管71により供給される前記二酸化炭素と熱交換することにより加熱される。前記トリフルオロエタノールは、第3熱交換器79で温水導管15により供給される温水と熱交換して冷却される。この結果、温水導管15により第3熱交換器79に供給される前記温水は、反応容器2において前記基質混合物を加熱することができる温度に加熱される。
【0065】
2元系ヒートポンプ19によれば、前記2種類の熱媒体のそれぞれの圧縮比を小さくすることができ、単一の熱媒体を用いる場合に比較して、温水導管15に循環される前記温水の加熱を効率よく行うことができる。
【0066】
前処理装置1では、前述のようにして温水導管15に循環される前記温水の加熱を行うと、2元系ヒートポンプ19の始動直後には十分に加熱されることがないが、時間の経過と共に、該温水が反応容器2において前記基質混合物を加熱することができる温度に加熱されるようになる。そして、前記温水は、前述のように、温水1次タンク16から、温水導管15、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20、温水バイパス導管21を経て、温水1次タンク16に循環されることにより、次第に昇温される。
【0067】
そこで、前処理装置1では、2元系ヒートポンプ19の二次側の温水導管15に第1温度センサ23を設け、前記温水の温度を検出する。そして、第1温度センサ23により検出される前記温水の温度が反応容器2において前記基質混合物が加熱される所定の温度(例えば80〜85℃の範囲の温度)より高温の例えば90〜95℃の範囲の温度に加熱されたならば、第2切替弁22が温水バイパス導管21と高温水導管24とを接続するように切り替えられる。この結果、前記範囲の温度の温水(以下、高温水という)が温水2次タンク25に貯留される。
【0068】
前記高温水の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間を通じて行われる。この間に温水2次タンク25に貯留される前記高温水の水位が上限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたときは、第2切替弁22が温水バイパス導管21の上流と下流とを接続するように切り替えられ、該高温水は温水1次タンク16に循環される。
【0069】
また、温水2次タンク25に貯留される前記高温水が不足する場合には、第1給水弁29が開弁され、第1補給水タンク30から第1補給水導管28を介して、温水1次タンク16に純水が補給される。
【0070】
次に、前記基質混合物の調製が完了し、該基質混合物を所定の温度に加熱する段階に至ったならば、第2切替弁22により温水バイパス導管21と高温水導管24とが接続された状態で、温水2次ポンプ27を作動させる。このようにすると、温水2次タンク25に貯留されている前記高温水が高温水供給導管26及び温水導管15を介して、反応容器2のジャケット14に供給される。
【0071】
本実施形態の前処理方法は回分(バッチ)式であるので、前記記基質混合物を加熱する際に、その初期段階では、該基質混合物はもちろん、反応容器2自体も加熱されていない。このため、前記初期段階では、前記基質混合物を所定の温度に加熱するために大きな熱エネルギーが必要となる。しかし、本実施形態の前処理装置1によれば、温水2次タンク25に貯留されている前記高温水を反応容器2のジャケット14に供給することにより、前記基質混合物が前記所定の温度に到達するまでの加熱を速やかに行うことができる。
【0072】
このとき、温水2次ポンプ27の流量を温水1次ポンプ17の流量より大としておくことにより、通常の温水導管15のみを用いて温水を循環させる場合よりも、ジャケット14に供給される熱量を大きくすることができるので好ましい。
【0073】
ジャケット14に供給された前記高温水は、前記基質混合物の加熱に用いられた後、温水導管15を介して排出される。そして、温水1次ポンプ17から2元系ヒートポンプ19に供給されて再加熱された後、温水バイパス導管21及び高温水導管24を経て温水2次タンク25に戻される。
【0074】
しかし、温水2次ポンプ27の流量は温水1次ポンプ17の流量より大であるので、温水2次タンク25における前記高温水の貯留量は漸減する。そこで、温水2次タンク25に貯留される前記高温水の水位が下限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたならば、第1切替弁20が温水導管15の上流と下流とを接続するように切り替えられる。
【0075】
そして、ジャケット14の上部から導出された温水が温水導管15により、温水1次タンク16、温水1次ポンプ17、空冷ファン18、2元系ヒートポンプ19、第1切替弁20を介して、ジャケット14の底部に循環される通常の加熱状態に移行する。このときには、反応容器2及び前記基質混合物は既に十分に加熱されているので、前記通常の加熱状態の温水により供給される熱エネルギーだけでも、前記基質混合物を前記所定の温度に維持して加熱を継続することができる。
【0076】
従って、前記温水を温水導管15により循環させ、2元系ヒートポンプ19により加熱するだけで、十分な温度に加熱することができる。尚、前記基質混合物の加熱の後期には、2元系ヒートポンプ19により加熱が過剰になることがある。この場合には、2元系ヒートポンプ19の圧縮機75,78の回転数を低減させてもよく、このようにすることにより消費電力を節約することができる。
【0077】
次に、アンモニア凝縮器3によるアンモニアガスの凝縮について、さらに詳細に説明する。
【0078】
前処理装置1では、前記基質混合物を得る工程の間、第3切替弁51により低温水導管48の上流と下流とが接続されており、低温水1次ポンプ50が作動されている。この結果、低温水1次タンク49に貯留されている低温水が、低温水導管48により、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32、アンモニア凝縮器3を経て、低温水1次タンク49に戻る経路で循環される。ここで、前記低温水は、アンモニア水熱交換器41及び凝縮タンク32でアンモニア水と熱交換し、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスと熱交換することにより加熱され、2元系ヒートポンプ19の第1熱交換器74で前記二酸化炭素と熱交換することにより冷却されている。
【0079】
この間に、温水2次タンク25に貯留される前記高温水の水位が上限に達すると、前述のように、第2切替弁22が温水バイパス導管21の上流と下流とを接続するように切り替えられる。前処理装置1では、第2切替弁22の前記切替えに連動して、第3切替弁51が低温水導管48と低温水バイパス導管52とを接続するように切り替えられる。このとき、低温水バイパス導管52は、第4切替弁53により上流と下流とが接続されている。
【0080】
このようにすると、低温水1次タンク49に貯留されている低温水が、低温水導管48により、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、低温水バイパス導管52、第4切替弁53を経て、低温水1次タンク49に戻る経路で循環されるようになる。このとき、低温水導管48に循環される前記低温水は、前述のように、2元系ヒートポンプ19の第1熱交換器74で前記二酸化炭素と熱交換することにより、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度、例えば10〜15℃の範囲の温度に冷却される。
【0081】
前処理装置1では、前述のようにして低温水導管48に循環される前記低温水の冷却を行うと、2元系ヒートポンプ19の作動直後には十分に冷却されることがないが、時間の経過と共に、前記低温水が、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度に冷却されるようになる。そして、前記低温水は、前述のように、低温水1次タンク49から、低温水導管48により、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、低温水バイパス導管52を経て、低温水1次タンク49に循環されることにより、次第にさらに低温に冷却される。
【0082】
そこで、前処理装置1では、2元系ヒートポンプ19の二次側の低温水導管48に第2温度センサ54を設け、前記低温水の温度を検出する。そして、第2温度センサ54により検出される前記低温水の温度が、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度より低温に冷却されたならば、第4切替弁53が低温水バイパス導管52と冷水導管55とを接続するように切り替えられる。この結果、前記、アンモニア凝縮器3でアンモニアガスを凝縮させることができる温度より低温に冷却された低温水(以下、冷水という)が低温水2次タンク56に貯留される。
【0083】
前記冷水の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間に第3切替弁51が低温水導管48と低温水バイパス導管52とを接続するように切り替えられた後から、前記アンモニア含有糖化前処理物を得る工程の間を通じて行われる。この間に低温水2次タンク56に貯留される前記冷水の水位が上限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたときは、第4切替弁53が低温水バイパス導管52の上流と下流とを接続するように切り替えられ、該冷水は低温水1次タンク49に循環される。
【0084】
また、低温水2次タンク56に貯留される前記冷水が不足する場合には、第3給水弁60が開弁され、第3補給水タンク61から第3補給水導管59を介して、低温水1次タンク49に純水が補給される。
【0085】
次に、反応容器2において前記アンモニア含有糖化前処理物が得られ、排気弁9を開弁して該アンモニア含有糖化前処理物から放散されるアンモニアガスがアンモニア凝縮器3に導入される段階に至ったならば、第4切替弁53により低温水バイパス導管52と冷水導管55とが接続された状態で、低温水2次ポンプ58を作動させる。このようにすると、低温水2次タンク56に貯留されている前記冷水が冷水供給導管57及び冷水導管48を介し、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を経由して、アンモニア凝縮器3に供給される。
【0086】
本実施形態の前処理方法は回分(バッチ)式であるので、アンモニア凝縮器3において、アンモニアガスを凝縮させる際に、アンモニアガスの放散の初期段階では、高濃度のアンモニアガスが大量にアンモニア凝縮器3に導入される。このため、前記初期段階では、前記アンモニアガスを冷却するために大きな冷却熱エネルギーが必要となる。しかし、本実施形態の前処理装置1によれば、低温水2次タンク56に貯留されている前記冷水をアンモニア凝縮器3に供給することにより、前記高濃度かつ大量のアンモニアガスを効率よく冷却し、十分に凝縮させることができる。
【0087】
このとき、低温水2次ポンプ58の流量を低温水1次ポンプ50の流量より大としておくことにより、通常の低温水導管48のみを用いて低温水を循環させる場合よりも、アンモニア凝縮器3に供給される冷水の量を大きくすることができるので好ましい。
【0088】
アンモニア凝縮器3に供給された前記冷水は、前記アンモニアガスの冷却に用いられた後、低温水導管48を介して排出される。そして、低温水1次ポンプ50から2元系ヒートポンプ19に供給されて再冷却された後、低温水バイパス導管52及び冷水導管55を経て低温水2次タンク56に戻される。
【0089】
しかし、低温水2次ポンプ58の流量は低温水1次ポンプ50の流量より大であるので、低温水2次タンク56における前記冷水の貯留量は漸減する。そこで、低温水2次タンク56に貯留される前記冷水の水位が下限に達したことが水位センサ(図示せず)により検出されたならば、第3切替弁51が低温水導管48の上流と下流とを接続するように切り替えられる。
【0090】
そして、アンモニア凝縮器3から導出された低温水が低温水導管48により、低温水1次タンク49、低温水1次ポンプ50、2元系ヒートポンプ19、第3切替弁51、アンモニア水熱交換器41、凝縮タンク32を介して、アンモニア凝縮器3に循環される通常の冷却状態に移行する。このときには、放散されるアンモニアガスの濃度も量も既に低減しているので、前記通常の冷却状態の低温水により十分に前記アンモニアガスを冷却し、凝縮させることができる。
【符号の説明】
【0091】
1…前処理装置、 2…反応容器、 3…アンモニア凝縮器、 4…アンモニア吸収塔、 5…アンモニアタンク、 15…温水導管、 16…温水1次タンク、 19…2元系ヒートポンプ、 21…温水バイパス導管、 24…高温水導管、 25…温水2次タンク、 26…高温水供給導管、 48…低温水導管、 49…低温水1次タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回分式で基質としてのリグノセルロース系バイオマスとアンモニア水とを混合して基質混合物を得る工程と、該基質混合物を所定の温度に加熱すると共に該温度に所定の時間保持することにより該基質からリグニンを解離させ又は該基質を膨潤させてアンモニア含有糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物からアンモニアを放散させてアンモニアが分離されたアンモニア分離糖化前処理物を得る工程と、該アンモニア含有糖化前処理物から放散されたアンモニアを冷却して凝縮させると共に水に溶解させてアンモニア水として回収する工程とを備え、
該アンモニアを凝縮させる際の凝縮熱と水に溶解させる際の溶解熱とを熱源として、ヒートポンプを用いて熱媒体を加熱し、該熱媒体を用いて該基質混合物を加熱するバイオマスの前処理方法において、
該熱媒体を該ヒートポンプと該基質混合物を加熱する部分とに循環させる循環経路に、該基質混合物を加熱する部分を回避して該ヒートポンプに循環させるバイパス循環経路を設け、該熱媒体を該バイパス循環経路に循環させることにより、該所定の温度より高温に加熱し、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体を予め所定量貯留しておくと共に、該基質混合物が該所定の温度に到達するまでの間、該所定の温度より高温に加熱された熱媒体により該基質混合物を加熱することを特徴とするバイオマスの前処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のバイオマスの前処理方法において、前記ヒートポンプは2元系ヒートポンプであることを特徴とするバイオマスの前処理方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のバイオマスの前処理方法において、前記熱媒体の貯留は、前記基質混合物を得る工程の間に行われることを特徴とするバイオマスの前処理方法。

【図1】
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【図2】
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