説明

バイオ燃料電池

【課題】電極の表面積、物理的安定性及び液体透過性を低下させることなく、電極性能を向上させ、高出力のバイオ燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料タンク7と正極カバー8との間に、燃料極となるアノード(負極)1、アノード集電体4、セパレータ3、カソード集電体5、空気極となるカソード(正極)2、気液分離膜6を、この順に配設してバイオ燃料電池10とする。その際、少なくともアノード1には、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布によって形成され、表面に酸化還元酵素が存在する電極を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元酵素を用いたバイオ燃料電池に関する。より詳しくは、電極性能を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
反応触媒として酸化還元酵素を使用したバイオ燃料電池は、グルコース及びエタノールのように通常の工業触媒では利用できない燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い次世代の燃料電池として注目されている。図11は酵素を使用したバイオ燃料電池の反応スキームを示す図である。例えば、図11に示すように、グルコースを燃料とするバイオ燃料電池の場合、負極(アノード)ではグルコース(Glucose)の酸化反応が進行して電子が取り出され、正極(カソード)では大気中の酸素(O)の還元反応が進行する。
【0003】
一方、バイオ燃料電池は、電極の材質によって出力が大きく異なる。このため、高出力の電池を実現するためには、適切な電極材料を選択する必要がある。そこで、従来のバイオ燃料電池では、主にカーボン材料を使用した電極が使用されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。例えば、特許文献1に記載のバイオ燃料電池では、カーボンフェルトなどの多孔質カーボンからなる電極を使用している。
【0004】
また、特許文献2には、カーボンフェルトやカーボンクロスなどのカーボン基材に、多孔性カーボンと空孔形成材粉末とを含有するカーボンインクを塗布し、乾燥した後、空孔形成材粉末を除去することにより、多孔質カーボン電極を形成する方法が開示されている。更に、特許文献3〜5に記載のバイオ燃料電池用の酵素電極では、酵素を固定するシート状カーボン基材として、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−158466号公報
【特許文献2】特開2009−181889号公報
【特許文献3】特開2010−43978号公報
【特許文献4】特表2006−508519号公報
【特許文献5】特開2007−324005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来のバイオ燃料電池には、以下に示す問題点がある。即ち、現在、バイオ燃料電池で一般に使用されている多孔質カーボンからなる電極は、表面に酵素固定化膜を均一に形成することが難しく、電極としての反応性が十分でないという問題点がある。また、多孔質カーボン電極は、その空隙率を上げると、物理的安定性が低下するという問題点もある。
【0007】
一方、特許文献3〜5に記載されているカーボンクロスやカーボンペーパーなどのシート状カーボン材料を使用した電極は、表面積の大きい導電性炭素材料という観点から選択されたものであり、物理的安定性及び液体透過性については考慮されていない。このため、このようなシート状カーボン材料をバイオ燃料電池に使用した場合、高い電流密度を得ることが困難であるという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、電極の表面積、物理的安定性及び液体透過性を低下させることなく、電極性能を向上させ、高出力のバイオ燃料電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバイオ燃料電池は、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布によって形成され、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるものである。
ここで、電極の表面とは、電極の外面と電極内部の空隙の内面との全体を含み、以下の記載においても同様とする。
本発明においては、炭素繊維布で電極を形成しているため、高強度でかつ柔軟性がある薄型電極を実現できる。また、この炭素繊維布の電極は、表面積が大きいため、従来のバイオ燃料電池に比べて、優れた電極性能が得られる。
このバイオ燃料電池では、少なくとも負極が炭素繊維布で形成されていることが望ましい。
また、負極及び正極の両方が炭素繊維布で形成されていてもよい。
更に、前記電極に圧着される集電体も前記炭素繊維布で形成することができる。
更にまた、炭素繊維布には、例えば単繊維径が15μm以下のものを使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極を炭素繊維布で形成しているため、電極の表面積、物理的安定性及び液体透過性を低下させることなく電極性能を向上させ、高出力のバイオ燃料電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態のバイオ燃料電池の構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態形態に係るバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。
【図3】(a)〜(c)は実施例1の炭素繊維布のSEM写真である。
【図4】(a)〜(c)は実施例2の炭素繊維布のSEM写真である。
【図5】(a)〜(c)は実施例3の炭素繊維布のSEM写真である。
【図6】(a)〜(c)は比較例1の炭素繊維布のSEM写真である。
【図7】(a)〜(c)は比較例2の炭素繊維布のSEM写真である。
【図8】(a)及び(b)は定電位測定の結果を示すグラフ図である。
【図9】横軸に炭素繊維布の単繊維径をとり、縦軸に300秒後の電流密度をとって、単繊維径と電流密度との関係を示すグラフ図である。
【図10】(a)は実施例1の炭素繊維布電極に酵素を固定したときの状態を示すSEM写真であり、(b)は比較例3の多孔質カーボン電極に酵素を固定したときの状態を示すSEM写真である。
【図11】酵素を使用したバイオ燃料電池の反応スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[全体構成]
先ず、本発明の実施形態に係るバイオ燃料電池について説明する。図1は本発実施形態のバイオ燃料電池の構成を示す分解斜視図である。図1に示すように、本実施形態のバイオ燃料電池10は、燃料タンク7と正極カバー8との間に、燃料極となるアノード(負極)1、アノード集電体4、セパレータ3、カソード集電体5、空気極となるカソード(正極)2、気液分離膜6が、この順に配設されている。
【0014】
[アノード1,カソード2]
本実施形態のバイオ燃料電池10では、アノード1及び/又はカソード2が、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布によって形成されており、その表面には反応触媒として機能する酸化還元酵素が存在している。この炭素繊維布で形成された電極は、少なくともアノード1に適用されることが望ましく、アノード1及びカソード2の両方に適用されることがより望ましい。
【0015】
アノード1は燃料溶液が接触する燃料極であるため、その性能を向上させるためには、表面積を大きくするだけでなく、物理的安定性及び液体透過性を高める必要がある。特に、液体燃料は気体燃料に比べて透過速度(拡散速度)が遅いため、電極における透過性の優劣が電極性能に大きく影響する。このため、表面積が大きく、物理的安定性及び液体透過性に優れた炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布を、アノード1に使用すると、電極性能が大幅に向上し、電池全体の出力を効率的に高めることができる。
【0016】
また、当然ながら、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布をカソード2に使用した場合も、従来の電極材料で形成された電極を使用した場合に比べて、電極性能は向上し、電池全体の出力を高めることができる。更に、各電極を形成する炭素繊維布は、単繊維径が15μm以下であるものを使用することが好ましい。これにより、液体透過性に影響を及ぼす空隙率を低下させることなく、電池表面積を増加させることが可能となるため、電極性能、特にアノード1の性能をより向上させることができる。
【0017】
なお、アノード1の電極特性には燃料の浸透性が影響し、カソード2の電極特性には酸素の浸透性が影響するため、その要求に応じて、網目構造や単繊維径などを選択することができる。従って、本実施形態のバイオ燃料電池10では、アノード1とカソード2とで、網目構造や単繊維径が相互に異なる炭素繊維布を使用してもよい。
【0018】
一方、アノード1の表面に固定化される酵素としては、例えば燃料成分がグルコースである場合は、グルコースを分解するグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。更に、燃料成分にグルコースなどの単糖類を用いる場合には、アノード表面に、GDHのような単糖類の酸化を促進して分解する酸化酵素と共に、補酵素酸化酵素や電子メディエーターが固定化されていることが望ましい。
【0019】
補酵素酸化酵素は、酸化酵素によって還元される補酵素(例えば、NAD,NADPなど)と、補酵素の還元体(例えば、NADH,NADPHなど)を酸化するものであり、例えば、ジアホラーゼなどが挙げられる。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素が酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して電極に電子が渡される。
【0020】
また、電子メディエーターとしては、キノン骨格を有する化合物を使用することが好ましく、特に、ナフトキノン骨格を有する化合物が好適である。具体的には、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)などを用いることができる。また、キノン骨格を有する化合物としては、ナフトキノン骨格を有する化合物以外に、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。更に、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物と共に、電子メディエーターとして作用する1種又は2種以上の他の化合物を固定化してもよい。
【0021】
一方、燃料成分に多糖類を用いる場合には、前述した酸化酵素、補酵素酸化酵素、補酵素及び電子メディエーターに加えて、多糖類の加水分解などの分解を促進し、グルコースなどの単糖類を生成する分解酵素が固定化されていることが望ましい。なお、ここでいう「多糖類」は、広義の多糖類であり、加水分解によって2分子以上の単糖を生じる全ての炭水化物を指し、二糖、三糖及び四糖などのオリゴ糖を含む。具体的には、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、マルトース、スクロース及びラクトースなどが挙げられる。これらは2以上の単糖類が結合したものであり、いずれの多糖類においても結合単位の単糖類としてグルコースが含まれている。
【0022】
また、アミロースとアミロペクチンとはデンプンに含まれる成分であり、デンプンはアミロースとアミロペクチンとの混合物である。例えば、多糖類の分解酵素としてグルコアミラーゼを使用し、単糖類を分解する酸化酵素としてグルコースデヒドロゲナーゼを使用する場合には、燃料成分にはグルコアミラーゼによりグルコースにまで分解することができる多糖類を使用することができる。このような多糖類としては、例えばデンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン及びマルトースなどが挙げられる。ここで、グルコアミラーゼは、デンプンなどのα−グルカンを加水分解しグルコースを生成する分解酵素であり、グルコースデヒドロゲナーゼは、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化する酸化酵素である。
【0023】
一方、カソード2にも酸化還元酵素を固定化する場合は、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼなどを使用することができる。また、これらの酵素と共に固定化される電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、フェリシアン化カリウム及びオクタシアノタングステン酸カリウムなどが挙げられる。
【0024】
なお、アノード1及びカソード2は、表面に酸化還元酵素が固定化されているものに限定されるものではなく、電極表面に酸化還元酵素が存在していればよく、例えば、酸化還元酵素を有し反応触媒として作用する微生物が付着した電極などを使用することも可能である。
【0025】
[セパレータ3]
セパレータ3は、各電極(アノード1,カソード2)の短絡を防止するものであり、例えば、不織布、セロハン及びPTFE(PolyTetraFluoroEthylene:ポリテトラフルオロエチレン)などのプロトンを透過する材料により形成されている。また、その厚さや物性は、特に限定されるものではない。
【0026】
[集電体4,5]
集電体4,5の材質は、特に限定されるものではなく、外部と電気的に接続可能で、かつバイオ燃料電池内において電気化学反応を生じない材料であればよい。具体的には、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料などが挙げられる。
【0027】
また、集電体4,5として、前述したアノード1及びカソード2と同様に、炭素繊維布を使用することもできる。これにより、電極と集電体4,5とがより密着し、接続状態が良好となる。その結果、集電効率が向上するため、電池全体の出力も高めることができる。
【0028】
[気液分離膜6]
気液分離膜6は、液体は透過せず気体のみを透過するものであり、例えばPTFE膜などを使用することができる。また、その厚さや物性は、特に限定されるものではなく、燃料溶液の漏出を防止し、かつ、カソード2に反応に必要な酸素を供給できるものであればよい。
【0029】
[正極カバー8]
正極カバー8は、各部材を押圧するものであり、その材質などは特に限定されるものではなく、外部の空気を電池内に取り入れるための空気孔を備えていればよい。
【0030】
[燃料溶液]
燃料溶液は、糖、アルコール、アルデヒド、脂質及びタンパク質などの燃料成分又はこれら燃料成分のうち少なくとも1種を含有する溶液である。本実施形態のバイオ燃料電池10で使用される燃料成分としては、例えば、グルコース、フルクトース、ソルボースなどの糖類、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン、ポリビニルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、酢酸、蟻酸、ピルビン酸などの有機酸などが挙げられる。その他、脂肪類やタンパク質、これらの糖代謝の中間生成物である有機酸などを燃料成分として使用することも可能である。
【0031】
[動作]
次に、本実施形態のバイオ燃料電池10の動作について説明する。図2は本実施形態のバイオ燃料電池10の発電原理を模式的に示す図である。本実施形態のバイオ燃料電池10では、アノード1においては、表面に固定化された酵素により燃料を分解して、電子を取り出すと共にプロトン(H)を発生する。一方、カソード2においては、アノード1からプロトン伝導体を介して輸送されたプロトン(H)と、アノード1から外部回路を通って送られた電子(e)と、例えばカソード2の周辺に存在する酸素(O)とにより水(HO)を生成する。
【0032】
本実施形態のバイオ燃料電池10においては、電極を炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布で形成しているため、電極の表面積を大きくすることができる。また、この炭素繊維布は、網目構造となっており、規則性や方向性があるため、電極作製時及び発電時において、溶液を迅速に電極内部にまで浸透させることができる。
【0033】
このため、例えば、電極作製時においては、酵素やメディエーターなどを電極表面だけでなく、電極内部にも均一に塗布することができ、また発電時には、燃料溶液を電極内部にまで迅速に行き渡らせることができる。更に、電極表面を撥水処理することで、気体燃料である酸素も電極内部にまで迅速に行き渡らせることが可能となる。これにより、電極における反応量が増加するため、電極性能を向上させることができる。
【0034】
また、電極と集電体との通電を図る際、接触抵抗を低減するため、これらを強い圧力で押さえつけるが、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布は空隙率が高いにもかかわらず物理的強度が高いため、このような高い押圧力にも耐えることができる。更に、炭素繊維布は、物理的安定性にも優れている。
【0035】
更にまた、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布は、薄く、かつ、柔軟性にも優れているため、従来の多孔質カーボン電極に比べて、電池作製時における設計の自由度が増す。具体的には、薄膜型電極としたり、積層することで電極の厚さを調整したり、更には任意の形状に裁断することも可能である。この炭素繊維不織布の柔軟性を生かして、燃料溶液を交換する際に、圧力をかけることで、電極内部に残留している燃料溶液を排出させることも可能となる。
【0036】
このように、本実施形態のバイオ燃料電池では、電極の表面積、物理的安定性及び液体透過性を低下させることなく、電極性能を向上させることができるため、従来のバイオ燃料電池に比べて、電池全体の出力を高めることができる。
【0037】
なお、本実施形態の構成は、電池本体に電池部が1つ設けられた「単セル」構造のものだけでなく、複数の電池部が直列又は並列に接続されている構造のものにも適用することが可能である。また、前述した炭素繊維布で形成された電極は、アノードにのみ燃料溶液が接触する大気暴露系のバイオ燃料電池、アノード及びカソードの両方に燃料溶液が接触する構成の浸水系のバイオ燃料のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例により、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布(実施例1〜3)、単繊維糸がランダムに集積された炭素繊維布(比較例1,2)、及び多孔質カーボン(比較例3)を用いて負極(アノード)を作製し、その特性を評価した。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1,2の各炭素繊維布の単繊維径を下記表1に示す。なお、下記表1に示す単繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察により求めた値(平均値)である。また、図3〜7は実施例1〜3及び比較例1,2の炭素繊維布のSEM写真である。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜3及び比較例1,2の評価用電極は、1cm四方の炭素繊維布に、酵素(GDH)及びメディエーター(NADH)を固定化して作製した。また、同様の方法で、比較例3の多孔質カーボン電極を作製した。下記表2に実施例1〜3及び比較例1〜3の各電極の空隙率を示す。なお、下記表2に示す値は、質量と密度から求めたものであり、いずれも酵素などを固定化する前の状態で測定した値である。
【0042】
【表2】

【0043】
そして、実施例及び比較例の各電極を、電解液(0.6Mグルコースを含む2.0Mイミダゾール−HSO溶液:pH7.0)中で、定電位測定(−0.35V vs. Ag/AgCl)を行い、電流密度を比較した。図8(a)及び(b)は定電位測定の結果を示すグラフ図であり、図9は横軸に炭素繊維布の単繊維径をとり、縦軸に300秒後の電流密度をとって、単繊維径と電流密度との関係を示すグラフ図である。
【0044】
図8及び図9に示すように、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布を使用した実施例1〜3の電極は、単繊維糸がランダムに集積された炭素繊維布を使用した比較例1,2の電極及び比較例3の多孔質カーボン電極よりも、電流密度が高く、電極性能が優れていた。また、炭素繊維布の単繊維径が小さくなるほど、電流密度が高く、電極性能が向上することが確認された。
【0045】
更に、実施例1の炭素繊維布を使用した電極と、比較例3の多孔質カーボン電極につて、SEMにより酵素の固定化状態を観察した。図10(a)は実施例1の炭素繊維布電極に酵素を固定したときの状態を示すSEM写真であり、図10(b)は比較例3の多孔質カーボン電極に酵素を固定したときの状態を示すSEM写真である。図10(b)に示すように、比較例3の多孔質カーボン電極では、電極内部の空隙が酵素固定化膜で埋まっていた。
【0046】
一方、図10(a)に示すように、実施例1の炭素繊維布電極では、炭素繊維には酵素固定化膜が付着しているが、空隙はある程度維持されていた。このことから、炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布を電極材として使用することにより、電極表面に酵素固定化膜をより均一に形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
1 アノード(負極)
2 カソード(正極)
3 セパレータ
4,5 集電体
6 気液分離膜
7 燃料タンク
8 カバー
10 バイオ燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の単繊維束によって網目構造をなす炭素繊維布によって形成され、表面に酸化還元酵素が存在する電極を備えるバイオ燃料電池。
【請求項2】
少なくとも負極は前記炭素繊維布で形成されている請求項1に記載のバイオ燃料電池。
【請求項3】
負極及び正極の両方が前記炭素繊維布で形成されている請求項2に記載のバイオ燃料電池。
【請求項4】
更に、前記電極に圧着される集電体も前記炭素繊維布で形成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバイオ燃料電池。
【請求項5】
前記炭素繊維布を構成する単繊維径が15μm以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバイオ燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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