説明

バスバー、電気回路システム

【課題】バスバーをポッティングした場合には、バスバーの締結時にポッティング面に応力が集中する。
【解決手段】バスバー239は、板状バスバー220と、ベント構造バスバー240がボルト222によって接続されてなる。ベント構造バスバー240は、ベント部246をもつ薄い二枚の金属板242,244によって構成され、この金属板242,244は、コンデンサ200にポッティングされている。薄い二枚の金属板242,244は、根元部250への力を分散させ、また、そのベント部246は容易に変形するため、根元部250とポッティング面との間に作用する応力を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の伝達路をなすバスバー、特に、バスバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路においては、しばしば、銅やアルミなどの導体片からなり電力の伝達路をなすバスバーが用いられている。例えば、電気自動車においては、直流電源とインバータとの間、及び、インバータとモータとの間等の接続にバスバーが用いられ、大量の電力が伝達されている。バスバーは、通常その両端に端子部を備えており、各端子部が対応する外部端子に締結されることで、外部端子間を電気的に接続する。
【0003】
図11は、電気自動車の電源系統に対し、構造が単純な一般的なバスバーが用いられると仮定した場合の一例を説明する図である。この電気系統は、コンデンサ200、IPM(インテリジェントパワーモジュール)202、昇圧コンバータ204を含む電源システムに係るものである。コンデンサ200は直流電源として機能しており、IPM202は直流の電力を交流に変換するインバータ等を含んでいる。また、昇圧コンバータ204は、直流電源から送られる直流電力の電圧を上昇させる機能を果たしている。
【0004】
コンデンサ200には、バスバー270が取り付けられている。このバスバー270は、細長い板状の金属板により構成されており、一端はコンデンサ200に接続されるとともに、このコンデンサ200にポッティングされて樹脂により固定をされている。また、板状バスバー270の他端は、IPM202の端子224、及び、IPM202と昇圧コンバータ204を結ぶ板状バスバー226とともに重ねられてボルト228により締結されている。バスバー270は、この締結によって、先端付近をIPM202の側に強く押しつけられる。
【0005】
なお、下記特許文献1には、燃料電池の電流取り出し端子に接続するバスバーの一部に金属を曲げたバネ構造を備え、積層セルとバスバーの熱伸縮差を吸収させる技術が開示されている。
【0006】
下記特許文献2には、デバイスボードの変形を防止するための補強体を兼用するバスバーについての開示がなされている。このバスバーには、左右に繰り返し折り曲げられた構造または円弧状の構造が備えられており、これにより当該バスバーが熱膨張した場合に歪みが吸収される。
【0007】
下記特許文献3には、板状のバスバーと、網状導体とが結合された配線材についての記載がある。この技術は、網状導体の可撓性及び伸縮性を利用して、配線材が結合する機器同士の相対位置の自由度を確保するものである。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−193376号公報(特に明細書の6頁、第1図)
【特許文献2】特開平7−55877号公報(特に0008,0016段落、図1,4,5)
【特許文献3】特開2003−157722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図11に示したバスバー270は、ボルト228による締結時にIPM202の側に強く押しつけられる。しかし、バスバー270は、この大きな力を十分に吸収することができず、バスバー270の根元部272が接触するポッティング面には応力が集中する。このため、根元部272の周囲で樹脂割れが発生しやすくなるなど、樹脂に対して大きな負担がかかることになる。
【0010】
他方、上記特許文献1,2に示されたバスバーにおいては、単に湾曲させた伸縮領域を設けることで、応力を吸収している。しかし、これらの技術は、ポッティングされたバスバーの周囲の樹脂に対する負荷の低減を念頭に置いたものではなく、樹脂割れの防止や抑制などに対する効果も未知数である。また、特許文献3の技術では、製造コストが増加する懸念がある。
【0011】
本発明の目的は、応力を逃がす特性を向上させたバスバーを開発することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、バスバーに対し、応力を逃がす新しい構造を取り入れることにある。
【0013】
本発明の別の目的は、バスバーを樹脂によりポッティングした場合に作用するバスバーと樹脂との間の荷重を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のバスバーは、二つの端子部と、端子部間を接続する本体部と、を有する導体を用いて形成されたバスバーであって、本体部の一端側は周囲に充填される樹脂によって固定される固定域であり、本体部の非固定域には、曲げ変形容易に形成された可変形構造が設けられている、ことを特徴とする。
【0015】
バスバーは、一体的な部材を用いて作成されてもよいし、複数の部材の締結や溶接などを経て作成されてもよい。固定域は、ポッティングによって周囲が樹脂に覆われて、機器等に固定される部分をいう。この固定域の端(ポッティング面付近)では、バスバーの締結等に伴って、大きな応力が作用するため、樹脂割れ等の樹脂の劣化が生じやすい。これを防止し、あるいは低減するために、非固定域に可変形構造(以下において可変形部と呼ぶ場合もある)を設けることとした。なお、典型的には、本体部は端子部間にのびる長板形状に形成されるが、棒状や角状など他の形状に形成されてもよい。
【0016】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形構造は、ベント構造である。つまり、少なくとも一つの湾曲部(折れ曲がり部)が含まれ、この部分の曲がり易さによって応力を吸収する。
【0017】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形構造は、複数枚の導体が板面を対向配置されてなる構造である。すなわち、可変形構造は板状をなす導体を複数枚用いて形成されている。複数枚とは、典型的には2枚であるが、もちろん3枚以上であってもよい。一般に、複数の薄板からなる部分の方が、一枚の厚板(複数枚を固着して実質的に一枚とした場合も同様)からなる部分よりも、応力を吸収することができる。各板圧の程度は特に限定されるものではないが、応力吸収効果を高めるためには、非可変形構造部分の板圧よりも薄いことが望ましい。また、定常電流の電気抵抗を非可変形構造部分と同程度にする観点からは、各板圧の断面積の合計を非可変形構造部分と同程度にすることが望ましい。ただし、高周波の電力を流すときは、表示効果を考えれば、表面積を同程度にすればよい可能性がある。
【0018】
複数枚の導体の材質や厚さは様々に設定可能である。しかし、曲がりやすさを揃える観点からは、各導体の材質と厚さを揃え、また、各導体を略平行に設置する方が良いと言える。また、各導体は、互いに接触する距離に配置してもよいが、一般には、互いに接触しないように距離をあけた方が曲がりやすさが向上すると思われる。可変形構造がベント構造と複数枚の導体による構造の両構造を兼ね備える場合、典型的には、複数枚の導体の各々にベント構造が設けられる。このとき、各導体のベント構造の曲がりの大きさや位置は、同じでも互いに異なってもよい。また、曲がりの向きも同じでも互いに異なってもよい。これにより、屈曲と転伸のいずれの方向への曲げ応力も柔軟に吸収できる構造を設計できる余地が生じる。その一方で、上述のように、各導体の性質を揃える観点からは同形状かつ同方向に湾曲した構造とすることがよいであろう。
【0019】
なお、このバスバーは、独立した複数の薄いバスバーとは異なる。独立した複数のバスバーを設置する場合には、省スペース化や設置時の工数の点で必ずしも満足する結果が得られない。本発明においては、バスバーの少なくとも一部が、一枚の金属により形成されていること、または複数枚が固着されて一枚とみなせるように形成されていることを想定している。
【0020】
本発明のバスバーの一態様においては、前記複数枚の導体は固定域にまで延びている。 つまり、各小導体路の一端側は、周囲に充填された樹脂によって固定されることになる。これにより、樹脂(特にポッティング面)に作用する力の分散が図られる。複数枚の導体は、それぞれ固定域側の端子部までのびていてもよい。このようにして、複数枚の各導体が同じ外部端子に接続される場合には、各導体全体で一つの端子部を構成しているとみなすことができる。
【0021】
本発明のバスバーの一態様においては、非固定域側の端子部は、ボルトにより外部端子に締結される構造を有する。バスバーが使用される際は、通常、まず、固定域側の端子部が第1の機器の端子に電気的接続されるとともに、第1の機器へ樹脂固定され、その後に、第2の機器への電気的接続がなされる。ここに示したバスバーにおいては、第2の機器への電気的接続はボルト締めによって行われる。ボルト締めは簡易に行うことができる点で優れている。しかし、ボルト締めの際には、バスバーに曲げ応力が作用し、特に、ポッティング面に大きな応力が及ぶ。しかし、このバスバーは可変形構造を備えており、応力を開放してポッティング面への負荷を軽減する。ポッティング面への負荷の反作用としてボルト締結部に対しボルトを緩める方向に作用する力も軽減することができる。したがって、ボルトを小型化するとともに、第2の機器を小型化することも可能となる。
【0022】
本発明の電気回路システムは、第1の機器と、第2の機器と、前記バスバーと、を備え、前記バスバーは、固定域側の端子部を第1の機器の端子に電気的に接続され、固定域を周囲に充填された樹脂により第1の機器に固定され、非固定域側の端子部を第2の機器の端子に電気的に接続される。この電気回路システムは、例えば、電気自動車の電源システムとして採用することができ、この場合には、例えば、第1の機器をコンデンサとし、第2の機器はIPM(インバータ)とすることができる。
【0023】
なお、本発明のバスバーとして、以下に示すような様々な態様を採用することも可能であり、これらの態様の一つまたは複数を、上記態様と組み合わせることも有効である。
【0024】
本発明のバスバーの一態様においては、導体により形成された長形状をなすバスバーであって、外部回路と電気的に接続される少なくとも二つの端子部と、端子部に挟まれた本体部に設けられ、曲げ変形が容易に形成された可変形部と、を備える。
【0025】
バスバーの形状は、長形状であれば特に限定されず、板状の他、角柱や円柱状などであってもよい。また、内部が中空となったものであってもよい。端子部は、典型的にはバスバーの両端に設けられ、それぞれ外部回路に接続される。また、端子部の接続は、通常はボルトを用いて締結することで行われるが、溶接などの他の手段により行われてもよい。端子部に挟まれた本体部には、可変形部が設けられる。可変形部は、容易に変形されるように構成されている。その変形は、弾性変形であっても塑性変形であってもよい。可変形部が応力を逃がすことで、ボルトゆるみを防ぎ、端子部の接触面積の低下も回避することが可能となる。また、外部回路の端子付近に無理な力がかからなくなるため、この付近に破損を生じさせることもない。
【0026】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は、本体部の他の領域よりも断面積が小さい。例えば、板の側面をくびれさせるなどして板幅を細くしたり、板面に凹みを付けることで板圧を薄くしたりすることで断面積を小さくすることができる。断面積が小さい部分は変形が容易となり可変形部として機能する。
【0027】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は孔部を有し、これにより、可変形部は本体部の他の領域よりも断面積が小さい。表から裏に貫通する孔を設けることで、その箇所の断面積を小さくして強度を下げ変形を容易にした。
【0028】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は、本体部の他の領域に比べ曲げ変形が容易な素材を用いて形成される。曲げ変形が容易な素材とは、例えば、金属や合金の種類や結晶構造等が異なったり、周囲の素材とは製造工程が異なったりすることで曲げ変形が容易に構成された素材を指す。可変形部と本体の他の領域とを別々に製造して組み合わせる場合には、溶接などにより接合すればよい。なお、可変形部の電気抵抗が大きくなる場合には、可変形部の断面積を本体の他の領域の断面積よりも大きくして抵抗を減らすことも可能である。
【0029】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は、それぞれが本体部の他の領域よりも小さな断面積を有し長辺方向に延びる複数本の導体路からなる。複数本の導体路は、別々に作った導体路を結合して形成してもよいし、板に細長の孔をあけるなどして形成してもよい。
【0030】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は細い導体線の集合からなる。つまり、導体線を束にしたり編み上げたりして形成される。
【0031】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は、少なくとも一つの湾曲部を有する。湾曲部とは、通常は直線状に形成される部分ではあるが、「く」の字型や「U」の字型のように山状(見方を変えれば谷状である)に形成された部分を指す。すなわち、一端外側に曲げられた後に再び内側に曲げられて本来の位置に回帰した一連の形状を指す。
【0032】
本発明のバスバーの一態様においては、可変形部は、形状の異なる少なくとも二つの湾曲部を有する。形状が異なるとは、相似ではない形状や、相似だが大きさが異なる形状を指す。少なくとも二つの湾曲部は、山型及び谷型の連結であっても、山型と山型の連結であってもよく、また、両者の間に直線的な部分が設けられていてもよい。一般に形状の異なる湾曲部は、曲がり易さが異なる他、固有振動数も異なってくる。これらを組み合わせることで、様々な変位にともなう応力を吸収可能なバスバーが形成される。
【0033】
本発明の電源システムは、直流電源と、これから供給される電力を交流に変換するインバータとを備えた電気自動車の電源システムであって、直流電源からインバータへの電気供給路に前記バスバーが用いられる。特に、バスバーがボルト締めで締結されて大きく変形を受けるような場合に、本発明のバスバーを使用することが有効となる。なお、一般に電気自動車の電源においては、バスバーに大量の電力が流されて大きな熱膨張を起こしたり、自動車の振動を受けたりすることで作用する応力を除去することも望まれており、この観点からも本発明のバスバーが威力を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に第1の形態から第5の形態までを示す。これらは、互いに独立して実施される必要はなく、例えば、第4の形態や第5の形態に対し、第1の形態乃至第3の形態に示す一つまたは複数の技術を組み込むことも可能である。またここでは、電気自動車の電源系統に用いられるバスバーを例に挙げて説明を行うが、本発明はこれに限らず様々な電気回路に使用できることは言うまでもない。
【0035】
[第1の形態]
図1と図2を用いて、第1の形態について説明する。図1は、図11と対応する図であり、同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。
【0036】
ここでは、バスバー270の代わりに、バスバー10を用いてコンデンサ200をIPM202と昇圧コンバータ204に接続している。バスバー10は、ここでは全長が10cm程度、幅が1〜2cm、厚さが2,3mm程度であることを想定している。このバスバー10は、二つの湾曲部12,14が設けられ、これらは山と谷を構成するように組み合わされてS字形状を形成している。
【0037】
図2は、バスバー10の斜視図である。バスバー10は、金属平板を打ち抜いて形成された細長の板状であり、塑性変形により、図1に示したように湾曲部12,14が形成されている。このバスバー10の上端付近は、IPM202や昇圧コンバータ204と電気接続されるための端子部16となっており、端子部16の中央付近にはボルト228により締結されるためのボルト孔20が設けられている。また、バスバー10の下端付近は、コンデンサ200に取り付けられるための端子部18となっている。
【0038】
湾曲部12,14は、端子部16,18の間の本体部の大部分を占めている。そして、この湾曲部12,14には、細長孔22が設けられている。このため、細長孔22が設けられた箇所での断面積は、細長孔22が設けられていない部分である本体部の領域24付近の断面積に比べ小さくなっている。
【0039】
湾曲部12,14の湾曲及び細長孔22は、可変形部として機能する。すなわち、ここでは、湾曲していることによる曲げ変形が容易となる効果と、断面積が小さくなっていることにより曲げ変形が容易となる効果とが合わさって、曲げ変形が非常に容易になっている。そして、この可変形部が締結に伴う応力を逃がすことで、例えば、図1においてバスバー10がコンデンサ200に取り付けられている根元部30への応力集中を回避できている。さらに、端子部16は板状バスバー226と密着して取り付けられて十分な接触面積を確保しており、このためボルト228が緩むこともない。
【0040】
この態様の変形例としては、細長孔22の代わりに、複数の小孔を設けて断面積を小さくしたり、厚みや幅を小さくして断面積を小さくしたりして強度を弱める例を挙げることができる。なお、断面積が小さい箇所は、一般に、電気抵抗が大きくなるため、この断面積が小さい箇所で十分な電気伝導率を確保できるように設計することが望ましい。
【0041】
[第2の形態]
次に、図3を用いて第2の形態に係るバスバー40について説明する。図3は、図11に対応する図であり、図11と同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。バスバー40は、小さな湾曲部42と大きな湾曲部44を備えており、これらが山と谷を構成するように組み合わされて非対称なS字形状を形成している。
【0042】
小さな湾曲部42は、横方向への変位が小さく(山の高さが低い)、また、湾曲の長さも短い。これに対し、大きな湾曲部44は、横方向への変位が大きく、湾曲の長さも長い。このため、小さな湾曲部42と大きな湾曲部44は、曲がりやすさが異なっている。例えば、小さな湾曲部42においては、曲げ変形を引き起こそうとする応力が比較的集中するため、小さな応力が作用した場合にも速やかに応答して変形することが期待できるが、曲がる領域も小さいため変形量も小さいと考えられる。これに対し、大きな湾曲部44においては、曲がる領域が大きいため変形を引き起こそうとする応力に応じて大きく変形することが可能となる。
【0043】
このように、異なる形状をもつ湾曲部42,44が設けられることで、曲がりやすさが向上する。なお、曲がりやすさの度合いは曲率の大きさにも依存するため、最適な曲がりが得られるように曲率分布を設定することも有効となる。一般に、曲率が大きい(曲率半径が小さい)場合には、その付近へ曲げ変形を引き起こす応力が集中する傾向にあり、また、曲がりが大きいためその湾曲形状は小さくなる傾向にある。
【0044】
ここで示したバスバー40においては、異なる形状をもつ湾曲部を設けることで、既に十分な曲がり易さを確保することができている。しかし、さらに曲がりやすさを向上させるために、湾曲部42,44に細長孔を設けるなど、断面積を小さくする構成を組み込んでもよい。
【0045】
[第3の形態]
続いて、図4と図5を用いて、第3の形態に係るバスバー50を説明する。図4は図11に対応した図であり、図11と同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。また、図5は、図4に示したバスバー50の部分的な斜視図である。
【0046】
バスバー50は、平面的に形成された板状部分52,56と、その間に挟まれた金属線束部54とからなる。金属線束部54は、細い金属線(銅線)を編み上げて作られており、両端部において板状部分52,56と溶接されている。金属線束部54の長さは、ここでは1cm程度としているが、この長さは変形させたい度合いに応じて設定すればよい。
【0047】
このため、金属線束部54は応力を受けた場合に容易に変形(主として塑性変形)することになる。図4に示した例では、板状部分52,56が平面的な形状を維持しているのに対し、金属線束部54は曲げられて両者の間をつないでいる。
【0048】
このように、曲げやすい金属素材としての金属細線を編み上げたり束ねたりすることで周囲に比べて変形容易な可変形部を構成することが可能となる。なお、金属細線の集合においては、細線間に隙間が形成されるため金属板等に比べて実際の断面積が小さくなる。そこで、電気抵抗の増大が問題となるような場合には、周囲の金属板よりも見かけ上太くすることも有効である。
【0049】
[第4の形態]
図6と図7を用いて、第4の形態にかかるバスバ−209について説明する。図6と図7は、図11と対応する図であり、同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。図6は、バスバー209の接続が完了する直前の様子を表した図であり、図7はバスバー209の接続が完了した後の様子を示す図である。
【0050】
このバスバー209は、ベント構造バスバー210と板状バスバー220がボルト222によって結合されてなる。ベント構造バスバー210は、コンデンサ200に取り付けられている。このベント構造バスバー210は、平行に配置された二つの金属板212,214により構成されており、その中程には板を緩やかな弧状に折り曲げたベント部216を備えている。そして、ベント構造バスバー210の先端付近には、板状バスバー220が接続されている。接続は、二つの金属板212,214で板状バスバー220の一端を挟み、ボルト222により締結することで行われている。板状バスバー220の他端は、IPM202の端子224、及び、IPM202と昇圧コンバータ204を結ぶ板状バスバー226とともに重ねられてボルト228により締結される。端子224と板状バスバー226の間、及び、板状バスバー226と板状バスバー220の間には、若干の隙間が設けられ、取付前の各構成の配置が滑らかに行われるよう配慮されている。
【0051】
図7は、図6に示した電気系統において、バスバーの接続が完了した後の様子を表す図である。ここでは、ボルト228によって板状バスバー220,226と端子224が締結されて密着している。そして、ベント構造バスバー210及び板状バスバー220は、ボルト228によりIPM202の側に押しつけられている。ベント部216は、このときに柔軟に折れ曲がることにより、ベント構造バスバー210及び板状バスバー220に作用する応力を開放する役目を担っている。
【0052】
[第5の形態]
次に図8と図9を用いて、第5の形態にかかるバスバ−239について説明する。このバスバー239は、第4の形態にかかるバスバ−209の変形例に相当するものである。また、図8と図9は、図6と図7(そして図11)に対応する図であり、同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。図8は、バスバー239の接続が完了する直前の様子を表した図であり、図7はバスバー239の接続が完了した後の様子を示す図である。
【0053】
バスバー239は、ベント構造バスバー240と板状バスバー220がボルト222によって接続されてなる。バスバー239の主たる構造は、図6と図7に示したバスバー209と同様である。すなわち、ベント構造バスバー240は、ベント部246をもち平行に配置された二つの金属板242,244によって構成され、各金属板242,244はコンデンサ200にポッティングされている。ただし、ここでは、金属板242,244の厚さは、それぞれ板状バスバー220の厚さの半分程度である。これは、二枚の金属板242,244による電気抵抗を板状バスバー220と同程度に確保する一方で、ベント部246の曲げ変形の容易性を高めることを狙ったことによる。
【0054】
図8に示すように、バスバー239は、IPM202から遠ざかる方向に若干傾けられて、コンデンサ200に固定されている。傾きの設定は、板状バスバー220、板状バスバー226及び端子224が最終的に平行になって密着するようになされている。図9は、バスバー239がボルト228により締結されて板状バスバー226等と密着固定された状態を示す図である。この状態では、もし傾きの設定が行われていないとすると、ボルト228により固定される板状バスバー226等は互いに平行にならない。そこで、板状バスバー226等を互いに平行にして密着させるには、ボルト228の締結力を強め、板状バスバー226等を変形させることが必要になってしまう。しかし、ここでは図示したように傾きの設定がなされており、板状バスバー226等を変形させることなくこれらを互いに密着させることが可能となっている。これにより、これらの部分におけるボルトゆるみや、電気的な接続面の面積減少などを防ぐことができている。
【0055】
ここで、ある一枚のバスバーとその半分の厚さをもつ二枚のバスバーを同程度曲げるために必要な力を比較した場合に、後者が前者の1/4程度になりうることを説明する。材料力学における片持ちはりの理論によれば、弾性領域において、はりの変位をδ、荷重をP、はりの長さをl、ヤング率をE、断面2次モーメントをIとした場合に、
δ=Pl/(3EI)
の関係が成立する。この式は、δが同じであればPはIに比例することを述べている。また、断面2次モーメントIは、はりの幅をb、はりの厚さをhとすれば、
I=1/12×bh
である。つまり、厚さhが1/2になると、Iつまり曲げに必要となる力は1/8となる。本態様では半分の厚さをもつバスバーを2枚用意するため、バスバーを曲げるために必要な力は1/8を2倍した1/4となる。
【0056】
これからわかるように、バスバーの曲がり易さを向上させるためには、他よりも薄い複数枚の金属板によって構成された部分を設けることが有効となる。特に、ここで示したバスバー239のように、薄い複数の金属板の各々に対し、曲げ変形の力を受けやすいベント部246を設けた場合には、力の吸収効果を一層向上させられるものと期待できる。
【0057】
また、バスバー239においては、コンデンサ200に対し、距離をおいて配置された二枚の金属板242,244をポッティングすることで、その固定が行われている。これにより、単に一枚の金属板をポッティングする場合に比べ、根元の周囲の樹脂に及ぼす力が半分程度に低減できている。したがって、樹脂割れなどが起こりにくくなり、耐久性向上や長寿命化が図られることとなる。このように、バスバーの周囲に樹脂を充填してバスバーを固定する場合には、距離をあけて配置した複数の金属板へとバスバーを分岐させ、この金属板を樹脂固定することで、樹脂に作用する力を分散させることが可能となる。
【0058】
図10は、以上に示した利点を対比的に説明するための参考図である。図10に示したバスバー260は、ほぼ平坦な二つの金属板262,264が密着されて形成されている。そして、根元側の端子部がコンデンサ200の端子に電気的に接続され、さらに根元側がポッティングされてコンデンサ200に固定されている。しかし、この態様を採用した場合、公差などによって両金属板262,264の先端付近が若干開いてしまう虞がある。このため、組み付けを容易にするために、組み付け先の板状バスバー226との隙間をやや広くとる必要がある。この結果、ボルトによる締結を行った場合には、バスバー260の曲げ量が大きくなり、根元部266の樹脂に大きな力を及ぼすことになる。また、ボルトによる締結を行って両金属板262,264を密着させた場合には、根元部266の側には両金属板262,264を開く力も作用して、周囲の樹脂を圧迫することになる。こうして、金属板262,264の根元部266付近では、図11に示したバスバー270の根元部272付近と同様に、同一箇所の樹脂に大きな力が作用するため、樹脂割れが発生しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】電気自動車に使用するバスバーの第1の態様にかかる構成例を示す概略図である。
【図2】図1に示したバスバーの斜視図である。
【図3】第2の態様にかかるバスバーの構成例を示す概略図である。
【図4】第3の態様にかかるバスバーの構成例を示す概略図である。
【図5】図4に示したバスバーの部分的斜視図である。
【図6】第4の態様にかかるバスバーの構成例を示す概略図である。
【図7】図6においてボルト締めを行った後の状態を示す図である。
【図8】第5の態様にかかるバスバーの構成例を示す概略図である。
【図9】図8においてボルト締めを行った後の状態を示す図である。
【図10】参考例となるバスバーの構成を示す図である。
【図11】参考例となるバスバーの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10,40,50,209,239,260,270 バスバー、12,14,42,44 湾曲部、16,18 端子部、20 ボルト孔、22 細長孔、24 領域、30 根元部、52,56 板状部分、54 金属線束部、200 コンデンサ、204 昇圧コンバータ、210,240 ベント構造バスバー、212,214,242,244,262,264 金属板、216,246 ベント部、220,226 板状バスバー、222,228 ボルト、224 端子、230,266,272 根元部、232 接触部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの端子部と、端子部間を接続する本体部と、を有する導体を用いて形成されたバスバーであって、
本体部の一端側は周囲に充填される樹脂によって固定される固定域であり、
本体部の非固定域には、曲げ変形容易に形成された可変形構造が設けられている、ことを特徴とするバスバー。
【請求項2】
請求項1に記載のバスバーであって、
可変形構造は、ベント構造である、ことを特徴とするバスバー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバスバーであって、
可変形構造は、複数枚の導体が板面を対向配置されてなる構造である、ことを特徴とするバスバー。
【請求項4】
請求項3に記載のバスバーであって、
前記複数枚の導体は固定域にまで延びている、ことを特徴とするバスバー。
【請求項5】
請求項1に記載のバスバーであって、
非固定域側の端子部は、ボルトにより外部端子に締結される構造を有する、ことを特徴とするバスバー。
【請求項6】
第1の機器と、
第2の機器と、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のバスバーと、
を備え、
前記バスバーは、固定域側の端子部を第1の機器の端子に電気的に接続され、固定域を周囲に充填された樹脂により第1の機器に固定され、非固定域側の端子部を第2の機器の端子に電気的に接続される、ことを特徴とする電気回路システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−261100(P2006−261100A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18866(P2006−18866)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】