説明

バチルス属微生物を用いた高純度L−乳酸の製造方法

【課題】 バチルス属の特定種の微生物を用いてL−乳酸を高純度で且つ安価に製造する方法を提供する。さらに、殺虫性毒素を生産する能力を有するバチルス属の特定種の微生物を用いて、高純度L−乳酸と殺虫性毒素とを同時に生産させ、トータルコストがより下げられた高純度L−乳酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 資化可能な炭素源(グルコース)から光学純度70%以上のL−乳酸を生産する能力を有するバチルス属の微生物(バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシス)を培養する。この培養物から高変換率かつ高い光学純度でL−乳酸を採取する。バチルス・チューリンゲンシスを用いた場合は、殺虫性毒素を同時に生産する。培養は、嫌気的条件下で行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バチルス属の特定種微生物を用いた高純度L−乳酸の製造方法に関し、より詳しくは、高純度L−乳酸を安価に製造する方法に関する。また、本発明は、バチルス属の特定種微生物を用いて高純度L−乳酸と殺虫性毒素とを同時に製造する方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】L−乳酸は、生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料、食品、医薬品、醸造、皮なめし、光学材料等に用いられる。また、殺虫性毒素は、従来の農薬と異なり、人畜に無害な農薬として注目されているものである。
【0003】乳酸をポリ乳酸の原料として用いる場合、光学純度の高い乳酸を原料とする方が、結晶性の高いポリマーが得られる。このことは例えば、Kulkarni,R.K., Moore,E.G., Hegyeli,A.F., and Leonard,F. (1971) Biodegradable poly(lactic acid)polymers. J. Biomed. Mater. Res.(ジャーナル オブ バイオメディカルマテリアル リサーチ),5:169-181.や、Ohara,H. (1994) Poly-L-Lactic acid as biodegradable plastic. Biosci. Indust.(バイオサイエンスとインダストリー),52:642-644. に記載されている。そして、結晶性の高いポリ乳酸は、延伸フィルム、紡糸に適している。
【0004】また、高純度L−乳酸は液晶に使用可能であり、例えば、Sato,k., Eguchi,T., Toshida,y., Yoshinaga,K., and Takasu,Y. (1990) Properties of the ferroelectric polymer liquid crystals containing a chiral lactic acid derivative group. Polymer preprints, Japan,(高分子化学大会予稿集)39:1962-1964. や、Yoshinaga,K., Eguchi,T., Sato,K., Toshida,Y., and Takasu,Y. (1990)Properties of the ferroelectric polymer liquid crystals containing a chiral lactic acid derivative group(II). Polymer preprings, Japan,(高分子化学大会予稿集)39:1962-1964. に記載されている。
【0005】さらに、FAO (国連食糧農業機関)とWHO (世界保健機関)は、乳幼児に与える乳酸はL−乳酸であることが好ましいとしている。このことは、FAO and WHO(1974) Toxicological evaluation of certain food additives with a reviewof general principles and of specifications. World Health Organization,Geneva,p23. に記載されている。
【0006】このように、L−乳酸は有用であり、しかも高純度であることが要求されている。
【0007】従来より、発酵によりL−乳酸を製造する方法が知られている。例えば、(1) ストレプトコッカス フェカリス(Streptococcus faecalis)を用いたL−乳酸の製造が、Ohara,H., Hiyama,K., and Yoshida,T. (1993) Lactic acid production by a filter-bed-type reactor. J. Ferment. Bioeng. (ジャーナルオブ ファーメンテーション アンド バイオエンジニアリング)76:73-75. に記載され、(2) ラクトバチルス ヘルベティクス(Lactobacillus helvetics) を用いたL−乳酸の製造が、Aeschlimann,A., Di Stasei,L., and von Stockar,U. Continuous production of lactic acid from whey permeate by Lactobacillus helvetics in two chemostats in series. Enzyme Microbiol. Technol. (エンザイムマイクロバイオロジー アンド テクノロジー)12:926-932. に記載され、(3) ラクトバチルス アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)を用いたL−乳酸の製造が、Nakamura,L.K. and Crowell C.D. (1979) Lactobacillus amylovorus, a new starch-hydrolyzing species from swine waste-com fermentation. Div. Ind. Microbiol. 20:531-540.に記載され、(4) ラクトバチルス デルブルッキー(Lactobacillus delbruekii)を用いたL−乳酸の製造が、Stenroos,S.L., Linko,Y.Y., and Linko,P. (1982) Production of L-lactic acid with immobilized Lactobacillus delbruekii. Bacteriol.Lett.(バイオテクノロジーレター)4:159-164.に記載され、(5) ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)を用いたL−乳酸の製造が、Ishizaki,A. and Kobayashi,G. (1990) Computer simulation of L-lactate batch fermentation applying the enzyme inactivation scheme. J. Ferment. Bioeng. 70:139-140.に記載されている。
【0008】以上(1) 〜(5) は乳酸菌を用いたL−乳酸の製造である。しかし、これらの乳酸菌は栄養要求性が高く、培地がコスト高となる。乳酸菌を用いた乳酸製造の培地がコスト高になることは、Boer,J.P.de, Mattos,M.J.T.de, and Neijssel O.M. (1990) D(-)Lactic acid production by suspended and aggregated continuous cultures of Bacillus laevolacticus. Appl. Microbiol. Biotechnol. 34:149-153. に記載されている。培地がコスト高となれば、当然のことながら、製品としてのL−乳酸が高価なものとなる。
【0009】そこで、乳酸菌以外の菌を用いたL−乳酸の製造法も報告されている。例えば、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae) によるL−乳酸の製造が、Tamada,M.,Bagum,A.A., and Sadai,S. (1992) Production of L(+)-lactic acid by immobilized cells of Rhizopus oryzae with polymer supports prepared by γ rayinduced polymerization. J. Ferment. Bioeng. 74:379-383.に記載されている。しかし、この方法では、発酵時間が40〜50時間と長く、生産効率が良くない。
【0010】また、バチルス ラエボラクティス(Bacillus laevolactis)によるD−乳酸製造は、前述の Appl. Microbiol. Biotechnol. 34:149-153. に報告があるが、D−乳酸ではしかたない。
【0011】また、バチルス コアグランス(Bacillus coagulans)によるL−乳酸の製造が、特開昭58−40093号公報、特公昭60−6200号公報、米国特許US.5079164号明細書に記載されている。しかしながら、バチルス コアグランスは、本明細書の実施例で示すが本発明で用いる菌株に比べ栄養要求性が高く、生産されるL−乳酸の光学純度は70%未満のものである。また、殺虫性毒素を作るバチルス コアグランス株は知られていない。
【0012】また、特開平3−27291号公報には、バチルス コアグランスを用いた乳酸の製造法が記載されている。しかしながら、同号公報では、生産される乳酸がL−乳酸であることや、その光学純度については全く言及されていない。さらに、特開平2−76592号公報にも、その請求項9にバチルス属を用いた乳酸の製造法が記載されているが、実際にバチルス属を用いてL−乳酸を生産したことは開示されていない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決すべく、バチルス属の特定種の微生物を用いてL−乳酸を高純度で且つ安価に製造する方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、殺虫性毒素を生産する能力を有するバチルス属の特定種の微生物を用いて、高純度L−乳酸と殺虫性毒素とを同時に生産させ、トータルコストがより下げられた高純度L−乳酸の製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の高純度L−乳酸の製造方法は、資化可能な炭素源から光学純度70%以上のL−乳酸を生産する能力を有する、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus) 、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacilluspopilliae)およびバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) からなる群から選ばれる少なくとも一種のバチルス属(Bacillus)の微生物を培養し、この培養物から光学純度70%以上のL−乳酸を採取することを特徴とするものである。
【0015】また、本発明のL−乳酸と殺虫性毒素とを同時に製造する方法は、資化可能な炭素源から光学純度70%以上のL−乳酸および殺虫性毒素を生産する能力を有する、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacillus popilliae)およびバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) からなる群から選ばれる少なくとも一種のバチルス属(Bacillus)の微生物を培養し、この培養物から光学純度70%以上のL−乳酸と殺虫性毒素とを採取することを特徴とするものである。
【0016】以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】本発明において、バチルス属(Bacillus)の微生物として、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus) 、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacillus popilliae)またはバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) を用いる。これらバチルス属微生物を用いることにより、L−乳酸を光学純度70%以上の高純度で得ることができる。これら微生物のうち、バチルス・アントラシス、バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシスは、大変近縁であり同定上の区別が難しいものである。このことは、バージーズ マニュアル オブ システマティック バクテリオロジーの1113頁にも記載されている。また、これら3種株は、エッグヨークレシチナーゼ(Egg-yolk lecithinase)反応が陽性であることが特徴である。
【0018】また、本発明において、バチルス属の微生物として、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacillus popilliae)またはバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) を用いることにより、高純度L−乳酸と共に殺虫性毒素を得ることができる。
【0019】本発明において用いる炭素源としては、グルコース以外に、シュークロース、マルトース、フラクトース、ラクトース、マンニット、デンプンなど資化可能な糖であれば限定されることはない。これら糖質の培地中の濃度は、通常2〜15重量%程度である。
【0020】また、副原料として、ポリペプトン、チーズホエー、コーンスティープリカー、酵母エキスなど安価な原料を用いることができる。これら副原料の培地中の濃度は、通常0.1〜2重量%程度である。
【0021】また、培地中には、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、苛性ソーダ、塩酸、各種緩衝液等のpH調整剤、マグネシウム化合物、マンガン化合物等を含むことができる。
【0022】菌体の培養は、通常STR (Stirred Tank Reactor)で回分式に行なうが、これに限らず、CSTR(Continuous Tank Reactor)で連続的に行なうこともできる。また、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、光硬化性樹脂等への固定化や膜型リアクター、電解透析型リアクターにより生産しても良い。膜型リアクターは、例えば、Dialysis(透析型)のものが、Coulman らによる、Applied EnvironmentalMicrobiology, 1977年34巻、725-732 頁や、Stieber and Gerhardtによる、Biotechnology and Bioengineering, 1981年23巻、523-534 頁などに記載されている。また、Cross-Flow型の膜型リアクターは、Major and Bullによる、Biotechnology and Bioengineering, 1989年34巻592-599 頁などに記載されている。
【0023】培養のpHおよび温度は、用いる菌体にもよるが、通常pH6.0〜8.0、温度25〜40℃である。最適条件は、用いる菌体により定められる。
【0024】また、本発明において、培養は、好気的条件下で行うこともできるが、嫌気的条件下で行うことが好ましい。バチルス属は好気性または通性好気性の微生物であり、通常、通気等を行うことにより好気的に培養する。この様な好気的条件では、グルコース等の糖はピルビン酸からクレブス回路を経て代謝される。本発明ではバチルス属の微生物を嫌気的条件下で培養することにより、ピルビン酸からより高純度のL−乳酸を、より高変換率で得ることができる。
【0025】菌体の培地中への導入は、従来公知のいずれの方法により行なっても良く、また、生産されたL−乳酸および場合によっては得られる殺虫性毒素の分離精製も、従来公知のいずれの方法を用いても良い。
【0026】本発明によれば、資化可能な炭素源から光学純度70%以上のL−乳酸を生産する能力を有するバチルス属の微生物、すなわち、バチルス・アントラシス、バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシス、バチルス・ラルバエ、バチルス・レンチモルブス、バチルス・ポピラエまたはバチルス・スファエリカスを培養するので、光学純度70%以上の高純度でL−乳酸を製造することができる。また、これらバチルス属の微生物は、乳酸菌より栄養要求性が低く安価な培地で培養できるので、より安価にL−乳酸を製造することができる。
【0027】さらに、本発明において、殺虫性毒素をも生産する能力を有するバチルス属の微生物、すなわち、バチルス・チューリンゲンシス、バチルス・ラルバエ、バチルス・レンチモルブス、バチルス・ポピラエまたはバチルス・スファエリカスを培養する場合には、光学純度70%以上のL−乳酸と殺虫性毒素とを同時に製造することができ、トータルコストとしてL−乳酸をより安価に製造することができる。
【0028】
【実施例】次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0029】[実施例1]バチルス・セレウス(Bacillus cereus) JCM 2152 をブレインハートインフュージョン培地(Becton Dickinson社製)で34℃で10時間培養し、これを種菌とした。この0.1mlづつを2本の各試験管中の次の組成からなる液体培地10mlに植菌した。ポリペプトンS(日本製薬製)10g/l、グルコース20g/l、およびリン酸第2カリウム35g/l:なお、この培地は1MのHClによって、pH7.0に調整した。各試験管の口には通気可能な多孔質のシリコン栓をし、1本の試験管では嫌気的培養を行ない、他の1本の試験管では好気的培養を次のように行なった。
<嫌気的培養>試験管をBBK GasPak(Becton Dickinson社製)に入れ、34℃で10時間、静置培養した。ガスパック中で行なったので、次の振盪培養よりも嫌気度が高い。
<好気的培養>試験管をBBK GasPak(Becton Dickinson社製)に入れることなく、34℃で10時間、120rpmで振盪培養した。
【0030】培養後、乳酸生成量(g/l)、消費グルコース量(g/l)、変換率(%)および光学純度(%)を以下のようにして求めた。
【0031】<乳酸生成量および消費グルコース量>乳酸生成量および消費グルコース量は、それぞれ培養液中の乳酸濃度(g/l)および消費グルコース量(g/l)として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により次の条件で定量した。なお、乳酸生成量は、L−体及びD−体の合計量である。HPLC;(島津製作所製、LC−6A)、検出器;示差屈折率計(RID−6A、島津製作所製)、カラム;Shim-pack SCR-101H(島津製作所製)、カラム温度;60℃、溶離液;2.5mmolの過塩素酸水溶液、流速;0.9ml/min。
【0032】<変換率>変換率は、変換率(%)=(乳酸生成量(g/l) /消費グルコース量(g/l) )×100で計算される。ここで、乳酸生成量は、L−体及びD−体の合計量である。
【0033】<光学純度>L−乳酸の光学純度は次式で計算される:光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。培養液サンプルをUF膜(UFPI,ミリポア)で濾過して、分子量5000以上の分子をカットした。これを高速液体クロマトグラフィーにより測定し、培養液中のL−乳酸とD−乳酸の濃度を定量した。HPLC;(島津製作所製、LC−6A)、検出器;分光計(島津製作所製、SPD−6AV)、カラム;CRS10W(三菱化成製)、カラム温度;30℃、検出波長;254nm、溶離液;2mMのCuSO4 、流速;0.5ml/min。
【0034】[実施例2]実施例1のバチルス・セレウス(Bacillus cereus) JCM 2152に代えて、菌株としてバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis) subsp.kurustaki ATCC 33679を用いた以外は、実施例1と同様の操作で培養を行ない、乳酸生成量(g/l)、消費グルコース量(g/l)、変換率(%)および光学純度(%)を求めた。
【0035】[比較例1]実施例1のバチルス・セレウス(Bacillus cereus) JCM 2152に代えて、菌株としてバチルス・コアグランス(Bacillus coagulans) JCM 2257 を用いた以外は、実施例1と同様の操作で培養を行ない、乳酸生成量(g/l)、消費グルコース量(g/l)、変換率(%)および光学純度(%)を求めた。
【0036】[比較例2]実施例1のバチルス・セレウス(Bacillus cereus) JCM 2152に代えて、菌株としてバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis) JCM 1465を用いた以外は、実施例1と同様の操作で培養を行ない、乳酸生成量(g/l)、消費グルコース量(g/l)、変換率(%)および光学純度(%)を求めた。
【0037】実施例1〜2、比較例1〜2の結果を表1に示す。
【表1】


【0038】表1より、菌株としてバチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシスを用いた場合は、高変換率で、しかも高い光学純度でL−乳酸が生成した。また、好気的培養に比べ嫌気的培養の方が、高い変換率と高い光学純度が得られた。一方、菌株としてバチルス・コアグランスを用いた場合は、好気的培養した場合でも乳酸生成量は少なく、光学純度も70%に満たないものであった。嫌気的培養の場合は、乳酸生成が認められなかった。菌株としてバチルス・ズブチリスを用いた場合は、嫌気的及び好気的条件でいずれも乳酸を生成したが、その濃度及び変換率はそれぞれ、0.1g/l、25.0%、3.7g/l、49.3%と実用に耐えるものではなかった。
【0039】また、これらの結果で注目すべきは、グルコース以外の副原料としてポリペプトンSで良いということであり、このことは、乳酸菌ではまずあり得ない。つまり、これらバチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシスの菌株が乳酸菌やバチルス・コアグランスよりも栄養要求性が低く、培地を選ばないということであり、より安価な培地で高純度のL−乳酸を生産できることが明かとなった。
【0040】[実施例3]バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis) subsp.kurustakiATCC 33679を、培地はポリペプトンS;10g/l、リン酸アンモニウム;5g/l、およびグルコース100g/lからなる培地で培養した。培養は500mlの培養器(培養液量500ml)を用い、30℃、60rpmで攪拌を行い、6M苛性ソーダによりpHを7.0に保った。また、嫌気的条件を保つため30ml/minで窒素ガスを通気し、30℃で15時間培養した。培養液の乳酸濃度は98g/lであり、光学純度は99.5%であった。この培養液から遠心分離(20,000G、15分)により菌体を集菌したところ、湿重量にして30gの菌体が得られ、位相差顕微鏡で観察したところ、0.6×2μの紡錘形結晶が観察された。菌体を150wの超音波破砕機を用いて10分間で破砕し、これをアメリカシロヒトリの幼虫20匹に飼料として与えたところ、7匹が1時間以内に、10匹が1時間から2時間以内に、3匹が2時間から5時間以内に死んだ。このように、菌株としてバチルス・チューリンゲンシスを用いた場合は、高変換率で、しかも高い光学純度でL−乳酸が得られると共に、殺虫性毒素が同時に得られた。従って、トータルコストとしてL−乳酸をより安価に製造できることが明かとなった。
【0041】
【発明の効果】本発明の方法によれば、上述のように、非常に高い光学純度のL−乳酸を安価に製造することができる。さらに好ましい本発明の方法によれば、L−乳酸と共に殺虫性毒素を同時に製造することができ、トータルコストとして高い光学純度のL−乳酸をより安価に製造することができる。このように、本発明の方法は、従来の微生物を用いたL−乳酸製造法に比べ、非常に有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 資化可能な炭素源から光学純度70%以上のL−乳酸を生産する能力を有する、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus) 、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacillus popilliae)およびバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) からなる群から選ばれる少なくとも一種のバチルス属(Bacillus)の微生物を培養し、この培養物から光学純度70%以上のL−乳酸を採取することを特徴とする、L−乳酸の製造方法。
【請求項2】 資化可能な炭素源から光学純度70%以上のL−乳酸および殺虫性毒素を生産する能力を有する、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillusthuringiensis)、バチルス・ラルバエ(Bacillus larvae) 、バチルス・レンチモルブス(Bacillus lentimorbus)、バチルス・ポピラエ(Bacillus popilliae)およびバチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus) からなる群から選ばれる少なくとも一種のバチルス属(Bacillus)の微生物を培養し、この培養物から光学純度70%以上のL−乳酸と殺虫性毒素とを採取することを特徴とする、L−乳酸と殺虫性毒素とを同時に製造する方法。
【請求項3】 嫌気的条件下でバチルス属(Bacillus)の微生物を培養することを特徴とする、請求項1または2項に記載の方法。