説明

バッテリの充電状態推定装置

【課題】簡素な構成で高精度にバッテリの充電状態を推定する。
【解決手段】車両に搭載されたエンジン1を駆動源としバッテリ4及び電装品5,6に給電する発電機2と、バッテリ4の充電状態を判定する制御手段10とを備えたバッテリの充電状態推定装置において、制御手段10は、エンジン1の回転数Neに基づいて発電機2による発電量を推定する発電量推定手段11と、電装品5のオンオフ情報に基づいて電装品5の電力消費量を推定する電力消費量推定手段12と、発電量及び電力消費量に基づいてバッテリ4に蓄えられる電力収支量を算出する算出手段13と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるバッテリの充電状態を推定するバッテリの充電状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、例えばヘッドライトやワイパー等の様々な電装品が搭載されており、これらの電装品を作動させるための電力は、エンジンにより駆動される発電機(オルタネータ)から供給されている。エンジン回転数が高くオルタネータによる発電量が多い場合や、電装品による電力消費量が少ない場合には、オルタネータによる発電量が電装品による電力消費量を上回るため、余剰電力量が充放電可能なバッテリに充電される。一方、エンジン停止によりオルタネータが作動しない場合や、電装品の電力消費量がオルタネータによる発電量を上回る場合には、バッテリからの放電により電装品へ電力が供給されている。
【0003】
また、近年、燃費向上や二酸化炭素の排出削減を目的に、信号待ちなどの停車中にエンジンのアイドリングをストップさせるアイドルストップシステム(以下、ISSという)装置を有する車両が実用化されている。ISS装置を備えた車両では、所定のエンジン自動停止条件(例えば、アクセルオフ、車速ゼロ、バッテリ充電率が所定値以上等)が成立したときにエンジンを自動停止させ、発進時等のエンジン再始動条件が成立したときに、バッテリから給電されるスタータにより自動的にエンジンを再始動させるように構成されている。
【0004】
このような車両では、エンジンの自動停止時においてオルタネータによる発電が停止されるため、エンジンの再始動不能を防止するためにバッテリの充電状態を把握することは極めて重要である。また、ISS装置が装備されていない車両であっても、種々の電装品を正常に作動させるためには、バッテリの充電状態を適切に把握する必要があり、バッテリの充電状態を監視する装置が、例えば特許文献1及び2に提案されている。
【0005】
特許文献1に記載のエンジン制御装置は、発電機による発電量を検出する第1電流センサと、電装品による電力消費量を検出する第2電流センサとを備え、これら電流センサの出力値によりバッテリの充電状態を把握し、バッテリ上がりを確実に防止している。
また、特許文献2に記載のバッテリの充電状態監視装置は、ECUが検出したバッテリの電圧に基づいて、バッテリに発電機から電流が流入している状態か、又はバッテリから電装品へ電流が流出している状態かを判定し、判定結果を累積することによりバッテリの電流収支を算出して、バッテリの充電状態を監視している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−173480号公報
【特許文献2】特開2009−55709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1のように、発電機による発電量と、電装品による電力消費量とをそれぞれ電流センサにより検出するためには、センサを設ける必要があるためコストがかかる。
また、オルタネータによる発電量はエンジンの回転数により異なり、電装品による電力消費量は使用している電装品によって異なるが、上記の特許文献2に記載の装置は、エンジン回転数や使用されている電装品については考慮されていないため、算出されたバッテリの電力収支と実際のバッテリの充電状態との間に誤差が生じる場合がある。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成でコスト増を抑制し、高精度にバッテリの充電状態を推定することができるようにした、バッテリの充電状態推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のバッテリの充電状態推定装置は、車両に搭載されたエンジンを駆動源としバッテリ及び電装品に給電する発電機と、前記バッテリの充電状態を判定する制御手段とを備えたバッテリの充電状態推定装置において、前記制御手段は、前記エンジンの回転数に基づいて前記発電機による発電量を推定する発電量推定手段と、前記電装品のオンオフ情報に基づいて前記電装品の電力消費量を推定する電力消費量推定手段と、前記発電量及び前記電力消費量に基づいて前記バッテリに蓄えられる電力収支量を算出する算出手段と、を有することを特徴としている。
【0010】
ここで、発電量推定手段は、エンジンの回転数と発電機による発電量との関係を、例えばマップや数式等にして予め取得しておき、これを用いてエンジン回転数に基づいた発電量を推定することが好ましい。また、電力消費量推定手段は、車両に搭載される種々の電装品が電源オンの状態のときに消費する電力値を、電装品毎に予め取得しておき、これを用いて電装品のオンオフ情報に基づいた電力消費量を推定することが好ましい。
【0011】
また、前記制御手段は、前記電力収支量と予め設定された所定の閾値とを比較し、前記電力収支量が前記閾値よりも大きい場合は前記バッテリの充電状態が良いと判定し、前記電力収支量が前記閾値以下の場合は前記バッテリの充電状態が悪いと判定することが好ましい。
前記電力消費量推定手段は、予め設定された前記電装品とは異なる後付電装品の設定電力消費量を含む前記電力消費量を推定することが好ましい。
【0012】
また、前記バッテリの電圧を検出する電圧センサをさらに備え、前記制御手段は、前記電圧センサにより検出された前記バッテリの電圧が予め設定された所定電圧よりも低い場合に前記バッテリの充電系統に問題があると判定するバックアップ判定手段をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバッテリの充電状態推定装置によれば、エンジンの回転数に基づいて発電機による発電量を推定し、電装品のオンオフ情報に基づいて電力消費量を推定し、これら発電量及び電力消費量からバッテリに蓄えられる電力収支量を算出するため、電流や電圧を検出するセンサを用いることなく、簡素な構成でコスト増を抑制し、且つ高精度にバッテリの充電状態を把握することができる。すなわち、エンジン回転数に対応する発電量は実際のエンジンの回転数に基づいて推定され、電源がオンの際において消費される電装品の電力消費量は電装品の電源のオンオフ情報に基づいて推定されるため、電力収支量を実際の状態により近づけることができ、高精度にバッテリの充電状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかるバッテリの充電状態推定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】エンジン回転数と発電機による発電量との関係を示す模式的なグラフである。
【図3】本発明の一実施形態にかかるバッテリの充電状態推定装置による制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.構成]
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
本実施形態にかかるバッテリの充電状態推定装置は、アイドルストップシステム(以下、ISSという)装置を備えた車両に適用した例で説明する。
【0016】
図1に示すように、車両に搭載されたエンジン1には、図示しないベルトを介してオルタネータ(発電機)2が機械的に接続され、エンジン1の回転によりオルタネータ2が駆動されて発電する。オルタネータ2は、図2に示すように、エンジン1の回転数が高いほど、多くの電力を発電する。なお、図2に示す例では、エンジン1の回転数が高くなるほど発電量の増加率は小さくなる特性となっている。本実施形態では、図2に示す特性を、予め取得してマップ化したものを用いている。
【0017】
オルタネータ2には、後述する電装品5等や、図示しないISS装置等の車両制御装置や、電装品5等及び車両制御装置等を制御する、例えばボディコントロールECU10,エンジンECU(以下、ENG_ECUという)20,アイドルストップシステムECU(以下、ISS_ECUという)30及び自動マニュアルトランスミッションECU(以下、AMT_ECUという)40等が電気的に接続されている。これら電装品5等,車両制御装置及びECU10等を作動させるための電力は、オルタネータ2から供給されている。
【0018】
また、オルタネータ2には、充放電可能なバッテリ4が電気的に接続されており、オルタネータ2で発電された電力のうち、電装品5等で消費されなかった電力はバッテリ4に供給されて、バッテリ4が充電される。バッテリ4には、電装品5等,車両制御装置及びECU10等が電気的に接続されており、エンジン1の停止時でオルタネータ2による発電の停止時やオルタネータ2による発電では電力が不足する場合に、バッテリ4の放電により電装品5等へ電力が供給されるようになっている。
【0019】
また、バッテリ4には、エンジン1に設けられたスタータ3が電気的に接続され、エンジン1の始動条件成立時にバッテリ4からスタータ3へ電力が供給されることによりエンジン1が始動する。すなわち、エンジン1は、バッテリ4からスタータ3への給電がなければ始動することができず、エンジン1が始動しなければオルタネータ2による発電も行われない。エンジン1には、エンジン1の冷却水の温度Wtを検出する温度センサ7及びエンジン1の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ8等の各種センサが設けられており、これらの検出結果は、後述するボディコントロールECU(制御手段)10に送信される。
【0020】
ここで、電装品5には、例えば、ワイパー5a,ヘッドライト5b,エアコン(図示略)及びカーステレオ(図示略)等、車両製造の時点において車両に搭載される種々の電気機器が含まれる。これら電装品5は、自動的に又はドライバの意思により電源のオンオフの切替がなされ、電装品5のオンオフ情報は後述するボディコントロールECU10に送信される。なお、電装品5a,5bを特に区別しない場合は電装品5といい、図1中には便宜的に、ワイパー5a及びヘッドライト5bのみ示す。
【0021】
また、車両には、電装品5とは異なり後付けで装備される電装品(以下、後付電装品という)6が設けられている。後付電装品には、例えば冷凍車に架装される冷凍機、サイドマーカーランプ等の外装ランプ及び無線機等がある。後付電装品6は、電装品5と同様にオルタネータ2及びバッテリ4にそれぞれ電気的に接続されているが、後付電装品6のオンオフ情報はボディコントロールECU10へは送られず、後付電装品6がオン状態のときの最大消費電力(以下、設定電力消費量という)がボディコントロールECU10に予め設定されている。
【0022】
次に、ボディコントロールECU10の構成について説明する。ボディコントロールECU10は、車両に搭載された各種電装品5を統合制御するものであり、各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUでの演算結果等が一時的に記憶されるRAM、演算結果等が長期的に記憶されるEEPROM、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート、制御時間をカウントするタイマー等を備えて構成されている。なお、上記したENG_ECU20,ISS_ECU30及びAMT_ECU40等の各ECUも同様にCPU,ROM,RAM,入出力ポート等を備えて構成されている。
【0023】
ボディコントロールECU10には、温度センサ7,エンジン回転数センサ8等の各種センサによる検出結果及び電装品5のスイッチオンオフ情報が送信される。また、ボディコントロールECU10は、図示しないボディコントロールECU駆動用電源電圧からバッテリ4の電圧Vをモニタしている。ボディコントロールECU10は、電装品5のスイッチオンオフ情報から、スイッチがオンになった電装品5に対して、オルタネータ2及びバッテリ4から電力が供給されるように制御する。なお、図1において、実線の矢印は電力が供給される方向を示し、破線の矢印は指令や信号の送信を示す。
【0024】
ボディコントロールECU10は、エンジン1の回転数Neに基づいてオルタネータ2による発電量を推定する発電量推定手段11としての機能要素と、電装品5のスイッチオンオフ情報に基づいて電装品5の電力消費量を推定する電力消費量推定手段12としての機能要素と、オルタネータ2による発電量及び電装品5による電力消費量に基づいてバッテリ4に蓄えられる電力収支量を算出する算出手段13としての機能要素と、バッテリ4の電圧Vに基づいてバッテリ4の充電系統の状態を判定するバックアップ判定手段14としての機能要素とを有している。
【0025】
発電量推定手段11は、図2に示すエンジン1の回転数Neとオルタネータ2による発電量との関係を予め取得してマップ化したものをボディコントロールECU10に記憶させておき、このマップにエンジン回転数センサ8で検出されたエンジン回転数Neを適用することにより、発電量Count_plusを推定する。このとき、検出されるエンジン回転数Neのノイズを除去するために、エンジン回転数Neは、予め設定された所定時間tの平均値を使用する。すなわち、エンジン回転数センサ8による検出は常時実施されているため、所定時間tの間検出された結果の和を検出回数で除して平均値を算出し、この平均されたエンジン回転数Neに基づいて発電量Count_plusを推定する。なお、ここでは、発電量推定手段11は、予め取得したエンジン1の回転数Neとオルタネータ2による発電量との関係をマップ化してこのマップを用いているが、これに限られず、例えばエンジン回転数Neとオルタネータ2による発電量との関係を数式にして記憶させておいてもよい。
【0026】
電力消費量推定手段12は、ボディコントロールECU10に送信される各電装品5のスイッチオンオフ情報から、オン状態となっている電装品5の消費電力を合計して、消費している電力値を推定する。なお、ボディコントロールECU10には、車両に搭載される種々の電装品5がスイッチオンの状態のときに消費する電力値を、電装品5毎に予め取得しておき、オン状態の電装品5の電力値のみ合計されるようになっている。
【0027】
また、電力消費量推定手段12は、予めボディコントロールECU10に設定されている後付電装品6の設定電力消費量を含んだ電力消費量Count_minusを推定する。すなわち、後付電装品6はスイッチのオンオフ情報を取得することができないため、後付電装品6がオン状態のときに消費される電力量(設定電力消費量)を予め設定しておき、この設定電力消費量を電装品5のオン状態の電力消費量に加算して、電装品全体の電力消費量Count_minusを推定する。
【0028】
なお、ここでは、後付電装品6の設定電力消費量は、後付電装品6の作動頻度を考慮して設定されている。例えば、後付電装品6が冷凍機の場合であって、作動頻度が80%程度である場合には、冷凍機がオン状態のときの最大消費電力量に作動頻度80%を乗算した値を冷凍機の設定電力消費量とする。また、後付電装品6がサイドマーカーランプの場合であって夜のみ使用するのであれば、作動頻度を50%とし、サイドマーカーランプの設定電力消費量は最大消費電力量の半分に設定される。
【0029】
算出手段13は、発電量推定手段11で推定された発電量Count_plusと、電力消費量推定手段12で推定された電力消費量Count_minusとに基づいて、電力収支量Count_vを算出する。具体的には、電力収支量Count_vは、下記式(1)に示すように、前回の電力収支量Count_All(すなわち、現在バッテリ4に蓄えられていると推定される電力値)に発電量Count_plusを加え、そこから電力消費量Count_minusを引くことにより求められる。
Count_v=Count_All+Count_plus−Count_minus ・・・(1)
【0030】
なお、ボディコントロールECU10には、電力収支量Count_Allの初期値(例えば、Count_All=0)が入力されており、最初の制御時(すなわち、キーオンされプログラムが始動した時)であって水温センサ7により検出されるエンジン1の冷却水の水温Wtが予め設定された所定の閾値温度Wt0以下である場合は、予め設定されている初期値が用いられる。また、最初の制御時であっても水温Wtが閾値温度Wt0よりも高い場合は、キーオフ直後に再度エンジン1を始動したとみなし、初期値ではなくEEPROMメモリ値から前回の電力収支量Count_Allを読み出す。
【0031】
算出された電力収支量Count_vは、予めボディコントロールECU10に設定されたバッテリ4の電力値の最大値Count_maxよりも小さく最小値Count_minよりも大きい値であれば、この電力収支量Count_vが今回の電力収支量Count_Allであると推定される。また、算出された電力収支量Count_vが、最大値Count_max以上である場合は、最大値Count_maxが今回の電力収支量Count_Allであると推定され、最小値Count_min以下である場合は、最小値Count_minが今回の電力収支量Count_Allであると推定される。この推定された今回の電力収支量Count_Allが、現時点でのバッテリ4の充電状態を表す。また、推定された今回の電力収支量Count_Allは、ボディコントロールECU10のRAMに保存され、次回の電力収支量の算出に用いられる。
【0032】
ボディコントロールECU10は、上記の算出結果に基づいて、バッテリ4の充電状態を判定する。すなわち、今回の電力収支量Count_Allと予めボディコントロールECU10に設定された所定の閾値Count_thとを比較し、電力収支量Count_Allが閾値Count_thよりも大きい場合はバッテリ4の充電状態が良いと判定し、電力収支量Count_Allが閾値Count_th以下の場合は、バッテリ4の充電状態が悪いと判定する。
【0033】
バックアップ判定手段14は、電力収支量Count_Allが閾値Count_thよりも大きくバッテリ4の充電状態が良いと判定された場合であっても、ボディコントロールECU10によりモニタされて検出されるバッテリ4の電圧Vが予め設定された所定電圧V0よりも低い場合に、バッテリ4の充電系統に何らかの問題があると判定する。すなわち、算出された今回の電力収支量Count_Allが、閾値Count_thよりも大きい場合であっても、バッテリ4の電圧Vが所定電圧V0を下回ったときには、オルタネータ2の故障や図示しないベルトの断裂やバッテリ4の極度な劣化等、バッテリ4の充電系統に何らかの問題が生じていると考えられるため、このような場合はバッテリ4の充電系統に問題が生じていると判定する。
【0034】
ボディコントロールECU10において推定されたバッテリ4の充電状態の情報は、CAN通信にてENG_ECU20,ISS_ECU30及びAMT_ECU40等の各ECUに送信される。各ECUでは、この情報に基づき、例えば、エンジンアイドルアップ制御,ISS自動エンジン停止許可判定及びギヤ変速タイミング変更等の各制御を実施する。
【0035】
すなわち、ENG_ECU20では、バッテリ4の充電状態が悪いという情報が送信されると、バッテリ4の充電状態を改善するために、エンジン1のアイドル時の回転数Neをアップさせ、オルタネータ2による発電量Count_plusを多くする制御(エンジンアイドルアップ制御)が行われる。
また、ISS_ECU30では、バッテリ4の充電状態に応じて、ISS装置によるエンジン1の自動停止を許可するか否かを判定する(ISS自動エンジン停止許可判定)。すなわち、バッテリ4の充電状態が悪い場合に、エンジン1を自動停止(アイドルストップ)させてしまうと、バッテリ4が上がってしまうおそれがあるため、充電状態が悪いという情報が送信されると、ISS装置によるエンジン1の自動停止を禁止するよう制御が行われる。
【0036】
また、AMT_ECU40では、バッテリ4の充電状態が悪いと判定されると、トランスミッションの変速比をアップシフトに変更するタイミングを通常時から変更し、よりハイ側へ変速し易くすることにより、オルタネータ2による発電量Count_plusを多くする制御(ギヤ変速タイミング変更)が行われる。
なお、ここでは、バッテリ4の充電系統に何らかの問題があると判定された場合は、判定結果をドライバに対して警告をするよう構成されている。
【0037】
[2.作用,効果]
本実施形態にかかるバッテリの充電状態推定装置は上述のように構成されているので、充電状態の推定は、図3に示すフローチャートに従って実施される。なお、このフローチャートは一定の周期(周期をTとする)で動作するものとする。また、下記の各ステップは、コンピュータのハードウェアに割り当てられた各機能(手段)が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することによって実施される。
【0038】
本充電状態推定装置は、キーオン(電源ON)でスタートする。
図3に示すように、まず、ステップS10において、フラグF=1であるか否かを判定する。スタート時ではフラグF=0と設定されており、最初はNOルートとなるためステップS20へ進む。ステップS20において、EEPROMに保存されている電力収支量Count_AllをRAMに書き込む。ステップS30において、水温センサ7によりエンジン1の冷却水の温度Wtを検出する。そして、冷却水温Wtが予め設定された所定の閾値温度Wt0よりも高いか否かを判定する(ステップS40)。
【0039】
冷却水の温度Wtが閾値温度Wt0以下であると判定された場合はステップS60へ進み、EEPROMから電力収支量Count_Allの初期値を取得する。一方、冷却水の温度Wtが閾値温度Wt0を超えていると判定された場合は、RAMから前回の電力収支量Count_All(すなわち、現在バッテリ4に蓄えられていると推定される電力値)を取得する(ステップS50)。
【0040】
次に、ステップS70において、エンジン回転数センサ8によりエンジン1の回転数Neを検出する。そして、所定時間tの平均値であるエンジン回転数Neに基づいて、オルタネータ2による発電量Count_plusを推定する(ステップS80)。なお、ここでは、所定時間tと制御周期Tは同じ時間(例えば、1秒)とする。次に、電装品5のスイッチオンオフ情報を取得し(ステップS90)、電装品5のスイッチオンオフ情報に基づいて、電装品5の電力消費量を推定し、この電装品5の電力消費量に予め設定された後付電装品6の設定電力消費量を加算することにより電力消費量Count_minusを推定する(ステップS100)。
【0041】
ステップS110において、ステップS50及びS60のいずれか一方で取得した電力収支量Count_AllとステップS80で推定された発電量Count_plusとステップS100で推定された電力消費量Count_minusとに基づいて、電力収支量Count_vを算出する。次に、算出された電力収支量Count_vが予め設定されたバッテリ4の電力値の最大値Count_maxよりも小さいか否かを判定し(ステップS120)、小さい場合にはステップS130へ進み、バッテリ4の電力値の最小値Count_minよりも大きいか否かを判定する(ステップS130)。一方、ステップS120において、算出された電力収支量Count_vが最大値Count_max以上の場合は、ステップS160に進み、最大値Count_maxが今回の電力収支量Count_Allであると推定する(ステップS160)。
【0042】
ステップS130において、算出された電力収支量Count_vが最小値Count_minよりも大きい場合には、ステップS140へ進み、算出された電力収支量Count_vが今回の電力収支量Count_Allであると推定する(ステップS140)。一方、算出された電力収支量Count_vが最小値Count_min以下である場合は、ステップS150に進み、最小値Count_minが今回の電力収支量Count_Allであると推定する(ステップS150)。
【0043】
ステップS140,S150及びS160のいずれかにおいて推定された今回の電力収支量Count_Allは、RAMに保存する(ステップS170)。そして、ステップS180において、今回の電力収支量Count_Allが予め設定された所定の閾値Count_thよりも大きいか否かを判定する。推定された今回の電力収支量Count_Allが、閾値Count_th以下であると判定された場合は、ステップS230へ進み、バッテリ4の充電状態が悪いと判定する(ステップS230)。
【0044】
一方、ステップS180において、推定された今回の電力収支量Count_Allが、閾値Count_thよりも大きいと判定された場合は、ステップS190へ進む。ステップS190において、ボディコントロールECU10よりバッテリ4の電圧Vを検出し、ステップS200において、バッテリ4の電圧Vが予め設定された所定電圧V0よりも大きいか否かを判定する。バッテリ4の電圧Vが所定電圧V0よりも大きい場合は、ステップS210に進み、バッテリ4の充電状態が良いと判定する(ステップS210)。一方、ステップS200において、バッテリ4の電圧Vが所定電圧V0以下である場合は、ステップS220へ進み、バッテリ4の充電系統に何らかの問題が生じていると判定する(ステップS220)。
【0045】
ステップS210,S220及びS230のいずれかにおいてバッテリ4の充電状態及び充電系統の状態が判定されたら、ステップS240へ進み、判定結果をRAMに保存する(ステップS240)。保存された判定結果は、各ECUに送信され、様々な制御に用いられる。また、この判定結果は、制御が繰り返されることにより随時上書きされていく。
【0046】
判定結果が保存された後、キーオフ(電源OFF)とされたか否かを判定し(ステップS250)、キーオフされたと判定された場合は、ステップS260において推定された今回の電力収支量Count_AllをEEPROMに保存し、ステップS270においてフラグF=0と設定してフローチャートを終了する。一方、キーオフとされていない場合は、ステップS280においてフラグF=1と設定し、リターンする。リターンされた場合、再度フローチャートがスタートされ、ステップS10において、フラグF=1であるか否かを判定する。この場合、ステップS280においてフラグF=1と設定されているため、YesルートとなりステップS50へ進み、上記したステップが繰り返される。
【0047】
したがって、本実施形態にかかるバッテリの充電状態推定装置によれば、エンジン1の回転数Neに基づいてオルタネータ2による発電量Count_plusを推定し、電装品5のスイッチオンオフ情報に基づいて電力消費量Count_minusを推定し、これら発電量Count_plus及び電力消費量Count_minusからバッテリ4に蓄えられる電力収支量Count_Allを算出するため、簡素な構成でコスト増を抑制し、且つ高精度にバッテリ4の充電状態を把握することができる。
【0048】
すなわち、エンジン回転数Neに対応する発電量Count_plusは実際のエンジン1の回転数Neに基づいて推定され、電源がオンの際において消費される電装品5の電力消費量Count_minusは電装品5のスイッチオンオフ情報に基づいて推定されるため、電力収支量Count_Allを実際の状態により近づけることができ、高精度にバッテリ4の充電状態を把握することができる。これにより、バッテリ上がりを防ぐことができるとともに、例えばISS装置を備えた車両においては、ISS作動頻度を適切に制御することができるため燃費を向上させることもできる。
【0049】
また、ボディコントロールECU10において、推定された電力収支量Count_Allと予め設定された所定の閾値Count_thとを比較することにより、バッテリ4の充電状態が良いか悪いかを判定することができる。また、この判定結果、すなわち、バッテリ4の充電状態の情報を用いて、各ECUが適切な制御を行うことができる。
また、電力消費量Count_minusを推定するときに、スイッチオンオフ情報を取得することができない後付電装品6の電力消費量を予め設定しておくことにより、後付電装品6の電力消費量にも基づいて電装品の電力消費量Count_minusを推定することができるため、電力収支量Count_Allの推定が甘くなる、すなわち、電力収支量Count_Allが実際よりも多くなることを防ぎ、バッテリ上がりを確実に防ぐことができる。なお、このとき、後付電装品6の作動頻度を考慮して後付電装品6の設定電力消費量を設定するため、精度良く電力消費量Count_minusを推定することができる。
【0050】
また、ボディコントロールECU10によりモニタされて検出されるバッテリ4の電圧Vから、バッテリ4の充電系統に問題があることを判定することができるため、バッテリ4の充電状態が良いと判定された場合でも充電系統に問題が生じていることを把握することができる。
【0051】
[3.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0052】
上記実施形態では、予め各電装品5がオン状態のときに消費する電力値がボディコントロールECU10に記憶されており、電力消費量推定手段12は、ボディコントロールECU10に送信される各電装品5等のスイッチオンオフ情報から、オン状態となっている電装品5の消費電力を合計して、消費している電力値を推定しているが、電力消費量推定手段12はこれに限られない。
【0053】
例えば、電装品5のうち、強さや動作等によって消費される電力値が異なるもの(例えば、エアコンやワイパー等)の場合、作動状態に応じた電力値を予めボディコントロールECU10に記憶させ、その電装品5のスイッチオンオフ情報のみでなく、どのような作動状態であるかという情報を取得し、作動状態に応じた消費電力を合計して、電装品5が消費している電力値を推定するようにしてもよい。例をあげて説明すると、ワイパー5aの場合、間欠動作と連続動作と高速連続作動とでは消費される電力が異なるため、ボディコントロールECU10がワイパー5aがどのような作動状態であるかの情報を取得することにより、作動状態に応じてより精度良く電力消費量Count_minusを推定することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、発電量推定手段11において、エンジン回転数Neの平均値を求める所定時間tと、図3に示す制御フローを実施する周期Tとを同じ時間としたが、所定時間tと制御周期Tとは別であってもよい。
また、バックアップ判定手段14は設けられていなくてもよく、この場合、図3に示す制御フローにおいて、ステップS190,S200及びS220を省略することができる。
【0055】
また、エンジン1の冷却水の温度Wtが予め設定された閾値温度Wt0よりも高いか否かの判定(図3のステップS40)はなくてもよく、この場合、水温センサ7及び図3のステップS30も不要である。
また、後付電装品6を装備していない場合は、後付電装品6を考慮する必要がないため、電装品5のオンオフ情報に基づき電力消費量Count_minusを推定すればよい。また、後付電装品6の消費電力が他の電装品5に比べて微小の場合は、後付電装品6の設定電力消費量を省略してもよく、作動頻度を考慮せずに最大電力消費量を設定電力消費量として設定してもよい。
【0056】
また、各ECUの種類や機能は上記したものに限られず、バッテリ4の充電状態の情報は、上記した以外の制御にも用いることができる。
また、発電量推定手段11,電力消費量推定手段12,算出手段13及びバックアップ判定手段14は、ボディコントロールECU10ではなく、他のECU(例えば、ENG_ECU20、ISS_ECU30及びAMT_ECU40等のECU)にも適応可能である。
【0057】
また、上記実施形態は、ISS装置を備えた車両に適用した場合を例に説明したが、ISS装置を備えていない車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン
2 オルタネータ(発電機)
3 スタータ
4 バッテリ
5,5a,5b 電装品
6 後付電装品
7 温度センサ
8 エンジン回転数センサ
10 ボディコントロールECU(制御手段)
11 発電量推定手段
12 電力消費量推定手段
13 算出手段
14 バックアップ判定手段
20 エンジンECU(ENG_ECU)
30 アイドルストップシステムECU(ISS_ECU)
40 自動マニュアルトランスミッションECU(AMT_ECU)
Count_plus 発電量
Count_minus 電力消費量
Count_All 電力収支量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンを駆動源としバッテリ及び電装品に給電する発電機と、前記バッテリの充電状態を判定する制御手段とを備えたバッテリの充電状態推定装置において、
前記制御手段は、
前記エンジンの回転数に基づいて前記発電機による発電量を推定する発電量推定手段と、
前記電装品のオンオフ情報に基づいて前記電装品の電力消費量を推定する電力消費量推定手段と、
前記発電量及び前記電力消費量に基づいて前記バッテリに蓄えられる電力収支量を算出する算出手段と、を有する
ことを特徴とする、バッテリの充電状態推定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電力収支量と予め設定された所定の閾値とを比較し、前記電力収支量が前記閾値よりも大きい場合は前記バッテリの充電状態が良いと判定し、前記電力収支量が前記閾値以下の場合は前記バッテリの充電状態が悪いと判定する
ことを特徴とする、請求項1記載のバッテリの充電状態推定装置。
【請求項3】
前記電力消費量推定手段は、予め設定された前記電装品とは異なる後付電装品の設定電力消費量を含む前記電力消費量を推定する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のバッテリの充電状態推定装置。
【請求項4】
前記バッテリの電圧を検出する電圧センサをさらに備え、
前記制御手段は、前記電圧センサにより検出された前記バッテリの電圧が予め設定された所定電圧よりも低い場合に前記バッテリの充電系統に問題があると判定するバックアップ判定手段をさらに有する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバッテリの充電状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−161115(P2012−161115A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17122(P2011−17122)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】